(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859984
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】試験構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 11/04 20060101AFI20160202BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20160202BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20160202BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20160202BHJP
C12Q 1/44 20060101ALI20160202BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
C12N11/04
C12M1/34 B
C12Q1/34
C12Q1/28
C12Q1/44
C12Q1/04
【請求項の数】28
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-552209(P2012-552209)
(86)(22)【出願日】2011年2月9日
(65)【公表番号】特表2013-518600(P2013-518600A)
(43)【公表日】2013年5月23日
(86)【国際出願番号】AT2011000074
(87)【国際公開番号】WO2011097664
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年1月21日
(31)【優先権主張番号】A184/2010
(32)【優先日】2010年2月10日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】512208512
【氏名又は名称】エファ シグル
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ギュービッツ
(72)【発明者】
【氏名】エファ シグル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア ハスマン
(72)【発明者】
【氏名】マルク シュレーダー
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ ロレット
(72)【発明者】
【氏名】フランツ カウフマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ハフナー
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−044052(JP,A)
【文献】
特表2005−528887(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/109739(WO,A1)
【文献】
特開平03−194457(JP,A)
【文献】
特表平08−509124(JP,A)
【文献】
特開平03−182246(JP,A)
【文献】
米国特許第05648252(US,A)
【文献】
ANALYTICA CHIMICA ACTA,2008年 1月,Vol. 609, No. 1,P. 59-65
【文献】
SEN'I GAKKAISHI(繊維と工業),1996年,Vol. 52, No. 5,P-209 - P215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00−11/18
C12Q 1/00− 1/66
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体担体、及び固体担体上に配置されたマトリックスを含み、少なくとも一つの酵素的に変換可能又は修飾可能な分子を含む構造体であって、前記マトリックスは、前記分子の変換又は修飾により放出され得る少なくとも一つの酵素を含み、前記酵素は、マトリックス中及び/又は固体担体上に位置する少なくとも一つの変色し得る基質を変換し得る、構造体。
【請求項2】
前記マトリックスが、層として、カプセルの形態で、又はヒドロゲルとして、固体担体上に配置される、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
酵素的に変換可能又は修飾可能な前記分子が、ポリマー又はオリゴマーである、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記ポリマーが、多糖、ポリペプチド、ポリエステル、ポリアミド、又はそれらの組み合わせである、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記多糖が、ペクチン、アミロース、アミロペクチン、アガロース、アルギネート、カラギーナン、キチン、キトサン、デキストラン、グリコーゲン、グアー、ローカストビーンガム粉、レバン(laevan)、プルラン(pollulan)、タマリンド種粉、キサンタン、及びキシランからなる群から選択される、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記ポリマーが、アラビア・ゴム、アガー、アガロース、マルトデキストリン、アルギン酸及びそれらの塩、リポソーム、脂質、セチルアルコール、コラーゲン、キトサン、ペプチドグリカン、レクチン(leithins)、ゼラチン、アルブミン、シェラック、多糖、及びワックスからなる群から選択される、請求項3に記載の構造体。
【請求項7】
前記アルギン酸の塩が、アルギン酸ナトリウム、又はアルギン酸カルシウムである、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記多糖が、デンプン、デキストラン、シクロデキストリン、ペクチン又はカラギーナンである、請求項6に記載の構造体。
【請求項9】
前記マトリックスが、マトリックス中に位置する分子を同様に変換又は修飾し得る分子の変換又は修飾により放出され得る酵素を更に含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項10】
前記酵素が、ヒドロラーゼ及びオキシドレダクターゼからなる群から選択される、請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記オキシドレダクターゼが、プロテアーゼ、ラッカーゼ、又はぺルオキシダーゼである、請求項10に記載の構造体。
【請求項12】
分子の変換又は修飾により放出され得る前記酵素が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチド、又はペプチドと結合する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
分子の変換又は修飾により放出され得る前記酵素が、細菌性酵素又は免疫系の酵素により放出され得る、請求項12に記載の構造体。
【請求項14】
前記免疫系の酵素がエラスターゼである、請求項13に記載の構造体。
【請求項15】
前記の発色し得る基質が、フェノール化合物及びアゾ染料からなる群から選択される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項16】
前記の発色し得る基質が、細菌性酵素又は免疫系の酵素により直接変換され得る、請求項15に記載の構造体。
【請求項17】
前記細菌性酵素がラッカーゼ又はペルオキシダーゼであり、前記免疫系の酵素がミエロペルオキシダーゼである、請求項13又は16に記載の構造体。
【請求項18】
前記構造体が、固体担体に対向する半透膜を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項19】
前記半透膜が、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアクリルアミド、及びポリエステルからなる群から選択される、請求項18に記載の構造体。
【請求項20】
前記固体担体が、無機材料又は有機材料を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項21】
前記無機材料が、シリカゲル、アルミニウム、シリコン、又はガラスである、請求項20に記載の構造体。
【請求項22】
前記有機材料が、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、又はポリビニルアルコール、又はバイオポリマーである、請求項20に記載の構造体。
【請求項23】
前記ポリマー、前記の放出され得る酵素、及び前記の変色し得る基質が、表Aから選択される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項24】
サンプル中の細胞の存在及び/又は特性を測定するための、請求項1〜23のいずれか一項に記載の構造体の使用。
【請求項25】
サンプル中の微生物の存在及び/又は特性を測定するための、請求項1〜23のいずれか一項に記載の構造体の使用であって、該微生物が細菌及び真菌からなる群から選択される、使用。
【請求項26】
サンプル中の少なくとも一つの酵素の検出のための、請求項1〜23のいずれか一項に記載の構造体の使用。
【請求項27】
少なくとも一つの傷口に特異的な酵素の存在を測定することによる、傷口感染の検出のための、請求項1〜23のいずれか一項に記載の構造体の使用。
【請求項28】
少なくとも一つの前記酵素が、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、プロテアーゼ、リゾチーム、エラスターゼ、コラーゲナーゼ、カテプシン、ミエロペルオキシダーゼ、リパーゼ、及びエステラーゼからなるヒドロラーゼの群から選択される、請求項26又は27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にサンプル中の微生物を検出するのに適した構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に微生物の検出、及び検出されたサンプル中の微生物の同定は、多くの分野において大変重要である。例えば、微生物は、食料品の劣化、又は短い保存期間に関与し得る。さらに、微生物はまた、ヒト及び動物の多くの疾患(例えば、炎症)において重要な役割を果たす。それ故、適切な測定を開始するには、早期に微生物の存在を検出することが大変重要である。
【0003】
サンプル中の微生物を測定するのに適した多様なシステム及び方法の多くが、先行技術に記載されている。これらのシステムの一部は、サンプル中の特定の物質(例えばタンパク質、例えば酵素)の検出にも使用され得る。
【0004】
単純吸着を要求するシステムは、例えば、微生物のコンタミネーションを測定するために、用いられ得る。例えば、固定化された糖質又は対応する誘導体を有する金表面が、米国特許出願公開第2001/017270A1号明細書に記載されている。これによれば、タンパク質、ウイルス、又は細菌細胞の結合により、検出可能なシグナルが生成される。
【0005】
他のシステムでは、他の外的影響、例えばpH、イオン強度、極性等が用いられる。微生物の存在により引き起こされるこれらのパラメーターの変化によって、例えば発色や変色が生じる。
【0006】
国際公開第2006/065350A2号では、一又は複数の微生物の存在において可視的な変色を示す染色を用いて、微生物が検出される。この変色は、微生物とセンサとの相互作用により生じる、溶媒の極性の差異、又は酸−塩基反応、酸化還元反応に基づく。
【0007】
別の極めて単純なシステムは、微生物のコンタミネーションにおけるpHシフトの検出に基づく(IE20060034)。
【0008】
国際公開第98/010556A1号は、特に、ゲル滴内の結合部位への分子の結合を促進する方法を開示する。この場合、ゲル滴内に位置する細胞により分泌される分子は、ゲル滴の遊離状態の結合部位と結合する。
【0009】
国際公開第03/033691A1号は、抗生物質の抗微生物活性の測定を補助するマイクロチップを開示する。かかるチップの製造時には、ゲルのポリマー化により、原核生物及び真核生物の細胞がゲル内に固定化される。
【0010】
米国特許第5,366,881A号明細書は、活性物質、酵素、蛍光物質等を内部に導入可能な重合性脂質及びそれらの混合物を開示する。カプセル化された物質は、外部からの刺激物、例えば、pH変化又はイオンにより放出される。
【0011】
米国特許出願公開第2006/0233854A号明細書は、エチレングリコールで架橋されるタンパク質骨格からなるマトリックスを開示する。このマトリックスは、特に組織再生に適している。マトリックスは、標的位置におけるマトリックス分解の結果として周囲組織に放出される、生物学的に活性な物質をさらに含んでいてもよい。このマトリックスによって、内包される生物学的に活性な物質がどの程度放出されるかを試験するために、着色されたフィブリノーゲンフラグメントがマトリックス中に組み込まれた。
【0012】
Yan et al.(Biosens Bioelectron.24(8)(2009):2604-2610)は、サンプル中の過酸化水素を測定するのに適したバイオセンサを記述する。これらのバイオセンサは、西洋ワサビペルオキシダーゼとさらに混合されるポリエチレングリコール型ヒドロゲルを含む。バイオセンサにおいてサンプル中の過酸化水素の存在を最終的に直接測定するために、西洋ワサビペルオキシダーゼに対してさらに基質、即ちAmplex Redが添加された。
【0013】
Ulijn et al.(Material Today 10(4)(2007):40-48)は、生体反応性ヒドロゲルに関連する。本文献中で論じられる多様なヒドロゲルの多くは、その接触をもたらす手法に応じた様々な特性を有する。
【0014】
米国特許出願公開第2008/0057534A1号明細書は、微生物感受性染料からなるカバー層の分解による微生物コンタミネーションの視覚的検出を記載する。これらの微生物感受性染料は、退色又は変色が起こるように、サンプル中の微生物の存在下で変色する。染料は、任意の基質に適用され得る。染料の種類ゆえに、多少の選択性は得られるものの、その選択性には大きな制限がある。
【0015】
ごく周囲における変化に加えて、分泌される分子、例えば代謝物や酵素等も、微生物の検出に用いることができる。即ち、例えば欧州特許第0347771号明細書は、血液及び他の体液中に頻繁に生じる様々な細菌の酵素の特徴付けのための方法を記載する。46の様々な異なる蛍光基質が、かかる試験に用いられ得る。この方法によれば、様々な蛍光基質及び酵素反応プロファイルの多様性を用いることにより、様々な微生物を同定することができる。
【0016】
かかるシステムは、例えば、米国特許出願公開第2004/0018641A1号明細書に記載されるようなシステムにおいて用いることができる。食品部門において存在するコンタミネーションは、コンピューター読み取り可能なバーコードの出現又は消失により表示され得る。表示は、ガス、温度、及びpHの差異、並びに細菌からの毒素又は他の代謝物の検出に基づく。
【0017】
視覚的に明らかな染料に加えて、蛍光を用いることも可能である。ここでは、極めて多くの場合、PCRに基づくシステムが用いられる。例えば、米国特許出願公開第2007/0122831A1号明細書に記載されるシステムは、微生物コンタミネーションの検出のため、及び水性サンプル中のその起源の同定のために、様々な微生物の様々なDNA配列を使用する。
【0018】
米国特許第6,297,059B1号明細書は、液体二重層膜上に生じる蛍光を用いた微生物コンタミネーションの測定のための方法を記載する。複数価(multivalent)又は多価(polyvalent)の標的分子の応答を通して、1分子あたり二つ以上の蛍光消光剤、又は蛍光受容体に対する消光エネルギーの伝達が生じることにより、シグナル増幅が達成される。
【0019】
上述の種類の構造体及びデバイスは、多数の欠点を有する。上述のシステムの多くが有する最も重大な欠点の1つは、その検出感度が惰性的且つ低い点にある。これは、上記デバイスにおいて様々な物質(「トリガー」)により引き起こされる反応が増幅されず、結果として緩慢なシグナル伝達しか生じないためである。
【0020】
さらに、多くの場合は保護層が設けられないため、システムの安定性が極めて制限されてしまう。吸着又はpHのシフトに基づく単純なディスプレイシステムは、選択性が極めて低く、外的影響に対する感度が高い。これに対する代替法として、抗体に基づくシステムが用いられ得る。しかしながら、斯かるシステムはコスト方か高く、また、適切な装置が必要になるという欠点がある。
【0021】
それ故、本発明の目的は、先行技術の前述の欠点を克服するデバイス又は構造体を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、少なくとも一つの酵素的に変換可能又は修飾可能な分子、好ましくは、ポリマー又はオリゴマーを含む、固体担体及び固体担体上に配置されたマトリックスを含む構造体に関し、そのマトリックスは、分子、好ましくはポリマー又はオリゴマーの変換又は修飾により放出され得る少なくとも一つの酵素を含み、その酵素は、マトリックス中及び/又は固体担体上に位置する少なくとも一つの発色/変色する物質を変換し得る。
【0023】
本発明の構造体は、サンプル中に存在する物質、特に酵素、を用いた堅牢なシステムを提供し、それは、例えば、微生物により分泌され、又は他の起源に由来し、例えば、免疫系は確実に検出され得る。
【0024】
本発明の構造体は、固体担体及び任意で向かい合う半透膜に加えて、固体担体又は任意で固体担体と半透膜の間に配置されるマトリックスを含む。マトリックスは、サンプル中に存在する物質(例えば酵素)により分解され、又は変換され、又は修飾され得る少なくとも一つの分子、好ましくはポリマーを含む。マトリックス中のかかる分子又はポリマーの分解、変換、又は修飾の結果として、それらの特性は変化する。特に、分子又はポリマー又はオリゴマーの変換又は修飾は、それらの構造的特性を変える結果を有し得、それは、架橋の程度又は粘性の減少、ポリマー中の細孔の変化、又はポリマー側鎖の分解を導く。これらの修飾の結果として、マトリックス中に位置する放出可能な酵素がより動きやすくなり、マトリックス内、特に固体担体と半透膜との間の中間領域中をより自由に動き、又は拡散し得る。構造体内の酵素の増加した移動性の結果として、これが、マトリックス中、及び/又は固体担体上に位置する色を生成する基質を変換する又は放出すること、及び/又はマトリックス中に位置する分子又はポリマーを分解することは可能である。
【0025】
マトリックス中の分子又はポリマーを変換、分解、又は修飾する、本発明のマトリックス中の酵素を提供することにより、マトリックス中の酵素の移動性は、分子又はポリマーがサンプルからの外部要因により分解されるとすぐに増加する。マトリックス中の分子又はポリマーを修飾又は変換する酵素の放出が、存在する場合、分子又はポリマーの分解を増幅、及び加速するので、これは、それ故、色反応、あるいは、検出反応の増幅をもたらす。それにより、最初に、サンプル中の可能な限り低い濃度のかかる物質又は微生物を検出することが可能である。
【0026】
色を生成する基質を変換する酵素に加えて、マトリックス又はポリマーはまた、ポリマーの修飾、変換、又は分解を助ける酵素を含む。これらの酵素は、ポリマー中に組み込まれ、又は共有結合を介してポリマーに結合される。ポリマーの分解の過程では、これらの酵素は、修飾され、それらの基質と反応し得、それは、固体担体と結合され、又はポリマー中に位置し、色反応(例えば、色の形成、又は色の変化)を引き起こす。
【0027】
かかるシステムは、例えば、サンプル中の少量の微生物、例えば細菌又は真菌を検出するのに適している。酵素的増幅システムは、放出を加速し、及び/又は最初に微生物コンタミネーションの検出を可能にするので、コンタミネーションした細菌又は真菌により分泌される酵素は、保護的な半透膜を保護し、担体材料(例えば、架橋を有する又は有しない、多糖、酵素又はそれらの組み合わせ)に適用されるマトリックスを分解し、それにより、酵素の放出は開始する。
【0028】
例えば、化学的に、物理的に、及び生化学的に、マトリックス中のポリマーを分解する多数の可能性は存在する。化学的分解、例えば、pH、イオン強度、又は化学試薬の変化では、互いのポリマー鎖、又は分子レベル上で溶媒とのその鎖の間の相互作用は、変化する。物理的刺激(例えば、温度、電磁場、及び機械的ストレス)では、分子間相互作用の変化は行なわれる。一般的には、生体感受性ポリマー及びマイクロカプセルは、様々な環境におけるpH変化に単純に応答し得る(Khayat,Int.J.Pharma 2006 317:175-186;Li and Szoka,Pharmaceutical Res.2007 24:438-449;Nagareskar,J.Biomed.Mater.Res.2002 62:195-203)。
【0029】
生体感受性挙動は、細胞外酵素により分解され得る生体材料でコートすることにより、構成要素に与えられる。細胞外の細菌の酵素は、いわゆるトリガーとして機能し得、従って、ポリマー中に含まれる、及び/又は結合している活性な酵素の放出を開始する。この場合、ポリマー(ポリペプチド、多糖、合成ポリマー等)の種類は、要求されるトリガー酵素の種類を定義する。微生物は、多くの他の機能、例えば、食品成分を柔らかくすること、と共に細胞にそれらを組み込むことを可能にするために、それらが環境に放出する多数の細胞外酵素を生成する。細胞外酵素は、それ故、大きな分子及びポリマーの分解のために、特に用いられる。多数のバイオポリマーの加水分解は、基質に従って、特に、リパーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼ、グリコシダーゼに分類され得るヒドロラーゼにより触媒される。
【0030】
本明細書で用いられる用語「ポリペプチド」とは、50アミノ酸の最小サイズを有するポリペプチドを含み、従って、タンパク質を含む。
【0031】
「ポリマーの分解により放出され得る酵素」(ポリペプチド)とは、マトリックスのポリマーに組み込まれ、ポリマーの架橋の結果として拡散し得ない、又は共有結合及び/又は非共有結合により、ポリマーと結合する酵素である。双方の場合において、酵素は、ポリマーの分解の前に、実質的にポリマーに固定化される、又は限定的にのみ移動可能である。ポリマーの分解、修飾又は変換のために、その長鎖、又は架橋された鎖は、酵素が放出され、即ち、マトリックス中でより移動可能になり、それらの周囲で拡散し得るように、短くされ、又は切断される。
【0032】
本明細書で用いられる「半透膜」とは、トリガー又は酵素の外部から本発明の構造体へのアクセスを可能にするが、外部に向かうマトリックス及び他のマトリックス構成物に位置する酵素の拡散を防ぐ膜に関する。
【0033】
本発明の構造体の製造の間、双方の物質が接触した場合、基質が変換され、それにより色形成が生じるように、ポリマー中に位置する酵素、及び色を生成する基質は選択される。
【0034】
色を生成する基質は、ポリマー中に位置する酵素により変換され、色形成、又は変色をもたらす。従って、色形成は、例えば、基質分子からの化学基の切断により、又は酸化還元状態の変化により行なわれ得る。色形成、又は変化はまた、周囲のマトリックスの酵素的切断により(例えば、消光剤の切断、エステル交換によるpHの変化により)行なわれ得る。
【0035】
さらに、インサイチュ染料合成、又は染料変色はまた、一又は複数の基質の酵素的変換、例えばオキシドレダクターゼを用いたフェノールのポリマー化、又は脱ポリマー化より行なわれ得る。
【0036】
指示システムはまた、増幅用酵素が覆うポリマー層を加水分解的に分解することが可能であること、従って、覆われた色層を見えるようにすることに存する。
【0037】
以下の表は、ポリマー(及びその分解酵素)、色が変化する酵素、及びその基質の特に好ましい組み合わせを与える:
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
オキシドレダクターゼ、例えばラッカーゼ、又はペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ等は、表示の増幅のための増幅用酵素として用いられ得る。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、マトリックスは、層として、カプセルの形態において、又は固体担体上でヒドロゲルとして、配置される。
【0047】
固体担体と半透膜の間のマトリックスは、様々な形態を有し得る。マトリックスは、例えば、層又はカプセルとして適用され得る。カプセル又はいくつかの層(少なくとも二つ、三つ、又四つ)の使用は、カプセル及び層が異なる組成物を有し得る利点を有する。それ故、マトリックスのポリマーを分解し得る酵素を含むカプセル又は層の種類を提供することは、可能である。他方では、他のカプセル又は層は、色を生成する基質を変換し得る酵素を含み得る。様々なカプセル又は層のポリマー組成物はまた、変更し得る。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、マトリックスは、酵素により分解され得、又は修飾され得る、分解可能な、修飾可能な分子又はポリマーを含み得る。しかし当然ながら、pH変化の過程において又はイオン強度の変化により、分解され得る分子又はポリマーを使用することはまた、可能である。
【0049】
酵素的に分解可能な(decomposable)、変換可能な、又は修飾可能な、又は分解可能な(degradable)ポリマーは、好ましくは、多糖、ポリペプチド、ポリエステル、ポリアミド、又はそれらの組み合わせである。
【0050】
分解可能な又は修飾可能なポリマーは、例えば、サンプル中に存在する酵素による分解又は修飾を制御するために、エステル化され得る。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、多糖は、ペクチン、アミロース、アミロペクチン、アガロース、アルギネート、カラギーナン、キチン、キトサン、デキストラン、グリコーゲン、グアー、ローカストビーンガム粉、レバン(laevan)、ペクチン、プルラン(pollulan)、タマリンド種粉、キサンタン、及びキシランからなる群から選択される。
【0052】
バリエーションについてさらなる可能性を有するために、機能性側鎖でポリマーを修飾することはまた、可能である。これらの側鎖は、共有結合的架橋により自己加水分解に安定的であるポリマーネットワークを形成し得る。既述のトリガー酵素による分解性は、それらにより影響を受けない。かかる側鎖についての可能性は、モノマー、例えば、アクリレート又はメタクリレートをラジカル的にポリマー化する。
【0053】
本発明に従って用いられ得るタンパク質型ポリマーは、シルク、及びエラスチン様タンパク質ポリマーであり得る。
【0054】
ポリマーの改良された特異性を達成するために、ポリマーは、特異的な酵素の切断部位を形成する特異的な配列(例えば、アミノ酸配列、又はオリゴ糖配列)を提供され得る。検出される物質(例えば、酵素)と接触して切断されるポリマーを製造することは、それ故可能である。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、分解可能なポリマーは、アラビア・ゴム、アガー、アガロース、マルトデキストリン、アルギン酸及びそれらの塩、特にアルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カルシウム、リポソーム、脂質、セチルアルコール、コラーゲン、キトサン、ペプチドグリカン、レクチン(leithins)、ゼラチン、アルブミン、シェラック、多糖、特にデンプン又はデキストラン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン(carragenan)、及びワックスからなる群から選択される。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマーを分解する化合物は、酵素である。
【0057】
マトリックスに含まれる酵素は、好ましくは、ヒドロラーゼ及びオキシドレダクターゼ、例えばプロテアーゼ、ラッカーゼ、又はペルオキシダーゼからなる群から選択される。
【0058】
それの分解の前に、ポリマー中の酵素の移動性を制限するために、ポリマーの早過ぎる時期の分解を妨げる又は防ぐために、及び早過ぎる時期に色を生成する基質を変換されることを防ぐために、分子又はポリマーの変換、又は修飾、又は分解により放出され得る酵素は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、又はペプチドと化学的に又は吸着的に結合され得、又はその分子量は、例えば、エラスチン、又は他のペプチド、又はタンパク質との融合により一般的に増加され得る。ポリペプチドとそれらの高分子群との結合の結果として、ポリマー中の拡散は、実質的に妨げられる。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、色を生成する基質は、フェノール化合物、及びアゾ染料、例えば、フェルラ酸、コーヒー酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、Reactive Blue、Indigo Carmine、ABTS又はGuaiacolからなる群から選択される。
【0060】
半透膜は、好ましくは、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアクリルアミド、及びポリエステルからなる群から選択される。
【0061】
半透性の特徴は、例えば、親水性又は疎水性にされた一面の表面の修飾により達成される。これは、例えば、化学的、物理的(プラズマ)、又は酵素的処理により達成される(例えば、Guebitz,G.M.,Cavaco-Paulo,A.,2008.Trends in Biotechnology 26,32-38)。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、固体担体は、無機材料、好ましくは、シリカゲル、アルミニウム、シリコン、又はガラス、有機材料、好ましくは、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、又はポリビニルアルコール、又はバイオポリマー、好ましくは、紙からなる群から選択される材料を含む。
【0063】
担体材料とマトリックスとの結合を改善するために、担体材料は化学的に修飾され得る。修飾の過程では、官能基は、マトリックスの成分と共有結合的に架橋され得る表面に適用される。例としては、トリメチルシリルメタクリレートは、現在のところ言及されてもよい。他で記述されるように、ヒドロキシ基を含むトリメチルシリル基は、例えば、ガラス、及び他のポリマーに生じる、表面上に共有結合的エーテル架橋を形成し得る。メタクリル基は、その結果、マトリックスのメタクリル基と架橋し得る。
【0064】
本発明のさらなる態様は、サンプル中の細胞、好ましくは、微生物の存在及び/又は特徴を決定するための本発明の構造体の使用に関する。
【0065】
決定され及び/又は特徴付けられる微生物は、細菌及び真菌からなる群から選択される。
【0066】
更なる態様では、構造体は、サンプル中の少なくとも一つの酵素の検出のために用いられ得る。本発明のなおさらなる態様は、少なくとも一つの傷口に特異的な酵素の存在を測定することによる、傷口感染の検出のための本発明の構造体の使用に関する。
【0067】
本発明では、「傷口に特異的な酵素」は、傷口感染において通常生じる酵素である。酵素の例としては、感染を引き起こす微生物により分泌されるそれらの酵素、又は感染に対する応答として身体により放出されるそれらの酵素である。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも一つの酵素は、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、プロテアーゼ、リゾチーム、リパーゼ、及びエステラーゼ、オキシダーゼからなるヒドロラーゼの群から選択される。
【0069】
特定の発明は、添付の図面及び下記の実施例に関連して、更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1は、72時間インキュベーション後の、様々な微生物を用いたアリザリン染料の放出を示す(実施例3)。
【0071】
【
図2】
図2は、ペクチナーゼの作用によるバイオポリマーからのプロテアーゼの放出の時間挙動を示す(実施例7)。
【0072】
【
図3】
図3は、トリガー酵素(ペクチナーゼ)の作用によるバイオポリマーからの増幅用酵素ラッカーゼの放出の時間挙動を示す(実施例7)。
【0073】
【
図4】
図4は、市販のプロテアーゼを用いた固定化された基質のp−ニトロアニリドの放出を示す(実施例8)。
【0074】
【
図5】
図5は、固定化されたフェルラ酸の変色を示す。トリガー酵素(ペクチナーゼ)の作用の結果として、増幅用酵素(ラッカーゼ)は、バイオポリマーから放出され、色反応を誘導する(固定化されたフェルラ酸の酸化による呈色)(実施例10)。
【0075】
【
図6】
図6は、様々な時点後、リゾチーム(5000U/mL)又はバッファ(対照)とインキュベートに続く、ペプチドグリカンマトリックスからのその放出の結果としての、ラッカーゼによるABTS(二アンモニウム−2,2’−アジノビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸))の変換を示す。
【0076】
【
図7】
図7は、制御された放出及びセンサのための酵素的増幅反応を伴う、本発明の生体反応性システムを示す。
【実施例】
【0077】
実施例1:
バイオポリマーAの製造
50〜60%のエステル化の程度を有する柑橘類の皮から得られるペクチンの5%溶液を、水中で、50℃で一晩可溶化することにより、調製した。あるいは、70〜75%のエステル化の程度を有するリンゴの皮からのペクチンを用いてもよい。
【0078】
多糖を様々な染料、例えば、アリザリン、チバクローム、レマゾール、ビクトリアブルー等で事前に着色した。この目的を果たすために、10gのペクチンを、5mMの染料を含むアセトン中に懸濁し、還流下で一晩加熱し、その後アセトンで数回洗浄した。ペクチン溶液を、200mM CaCl
2溶液に滴下してポリマー化し、得られたペクチン球を水で洗浄した。
【0079】
バイオポリマーAの酵素的分解
1g(湿重量)のバイオポリマーAを、アリザリンで着色し、10mLバッファ(50mM、pH6.0)中で、室温で24時間、様々な市販のペクチナーゼを用いて穏やかに撹拌しながら、インキュベートした。上清を、1M NaOHを用いてその後pH14に調整し、吸着は、UV/VIS光度計を用いて550nmで測定した。
【0080】
バイオポリマーAの微生物的分解
様々な潜在的に汚染する微生物を、前培養を用いて培養した。いずれの場合でも、アリザリンで着色された1gの湿重量のバイオポリマーAを、100mlの本培地に添加し、100μlの前培養を用いて植菌した。インキュベーションは、33℃で72時間行った。バイオマスを、その後遠心分離し、上清の吸光度は好適な波長で測定した(
図1)。
【0081】
実施例2:
増幅用酵素の基質のシロキサン固定化
方法A
10gのシリカゲルを、30mLのエタノール(95%)中3〜9%アミノプロピルトリエトキシシラン中で、40℃で4時間撹拌した。アミノ化されたシリカゲルを、その後移し、70%エタノールで3回洗浄し、乾燥器中で一定重量まで乾燥した。
【0082】
50mgのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチルカルボジイミド塩酸塩、5mgの(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物)、及び50mgのフェルラ酸を、20mLの無水エタノールに溶解した。その後、5gのアミノ化されたシリカゲルを、添加し、30分間撹拌した。遠心分離後、結合したフェルラ酸を含むシリカゲルを、70%エタノールで洗浄し、フェルラ酸の代わりに、コーヒー酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸又はFast Blue RR等は用いられてもよい。プロテアーゼ基質、例えば、スクシニル−ala−ala−pro−leu−p−ニトロアニリド、N−スクシニル−ala−ala−pro−val−p−ニトロアニリド、又はL−leucin−p−ニトロアニリドを、同じ方法において固定化してもよい。
【0083】
方法B
10gのシリカゲルを、30mLのエタノール(95%)中3〜9%メルカプロピルトリエトキシシラン中で、40℃で4時間撹拌し、2−プロパノールで3回洗浄し、乾燥器中で一定重量まで乾燥した。155mgのフェルラ酸及び38mgのジメチルアミノピリジンを5gの前処理された20mLのジクロロメタン中に懸濁されたシリカゲルに添加した。165mgのDCCを、反応混合物に添加し、氷で0℃まで冷却し、3時間撹拌した。温度は、室温(約20℃)に戻した。固体修飾されたシリカゲルを、その後濾過し、ジクロロメタンで3回洗浄し、乾燥器で一晩乾燥した。
【0084】
実施例3:
バイオポリマーBの製造
50〜60%のエステル化の程度を有する柑橘類の皮から得られるペクチンを、わずかに加熱しながら、一晩水中に溶解した。様々な濃度(1〜20%)のアルギネートを、生体応答マトリックスの主成分として、ペクチンに添加した。
【0085】
好ましくは、100mLの水中、4.5gのペクチン及び0.5gのアルギン酸ナトリウムからなる混合物を用いた。ゲルを、調製された200mM CaCl
2溶液にペクチンアルギネート溶液を滴下することにより、製造した。得られたペクチン球を水で洗浄した。
【0086】
実施例4:
バイオポリマーB中への酵素及びタンパク質の組み込み
5mlの市販されているアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)のプロテアーゼを、100mLの水中4.5gのペクチン、及び0.5gのアルギン酸ナトリウムからなる混合物に添加した。
【0087】
酵素を含む多糖溶液を混合後、ポリマーを、200mM CaCl
2溶液中に滴下し、ゲル化した。このように得られたポリマー球を、ふるいに掛け、50mM tris−HClバッファpH7.5で3回洗浄し、5mLの50mM tris−HClバッファpH7.5を含む反応ベッセル中にそれぞれ1gの湿重量に分割した。
【0088】
従って、他の酵素、例えば異なるホウロクタケ(trametes)属のラッカーゼを固定化してもよい。タンパク質、例えばカゼイン、コラーゲン等は、さらに適宜組み込まれ得る。
【0089】
実施例5:
ペクチナーゼを用いた酵素の放出
試験ポリマーとして、バイオポリマーB(実施例4)を、アスペルギルス・オリザエのプロテアーゼで装填し得る。このように得られたポリマー球を、ふるいに掛け、50mM tris−HClバッファpH7.5で3回洗浄し、5mLの50mM tris−HClバッファpH7.5を含む反応ベッセル中にそれぞれ1gの湿重量に分割した。酵素的分解は、市販のペクチナーゼを添加することにより開始した。撹拌しながらの室温でインキュベーションの間、サンプルは、一定時間間隔で上清から回収した。これらのサンプルについて、タンパク質活性は、アゾカゼインアッセイを用いて測定し、タンパク質含量を測定した(
図2)。
【0090】
あるいは、バイオポリマーは、例えばオキシドレダクターゼの群からの任意の他の酵素で装填してもよい。ここでは、放出されたタッカーゼの活性は、その後、ABTSを用いて適宜測定した(
図3)。
【0091】
実施例6:
プロテアーゼを用いたそれらの酵素的シグナル伝達及び増幅
プロテアーゼ基質として固定化されたN−スクシニル−ala−ala−pro−leu−p−ニトロアニリド又はL−leucin−p−ニトロアニリド又はN−スクシニル−ala−ala−pro−val−p−ニトロアニリド(実施例2)を含む10mgのシリカゲルを、1300μLの50mM tris−HClバッファpH8.3に懸濁し、市販のアスペルギルス・オリザエのプロテアーゼ、又は傷口液体と、室温でインキュベートした。活性は、375nm又は405nmにおいて、上清中の開裂したp−ニトロアニリドのUV吸収を用いて測定した(
図4)。
【0092】
実施例7:
ラッカーゼを用いたそれらの酵素的シグナル伝達及び増幅
ラッカーゼ基質として固定化されたフェルラ酸(実施例2)、又は固定化されたFast Blue RRを含む10mgのシリカゲルを、1300μLの50mMコハク酸バッファpH4.5に懸濁し、アラゲカワラタケ(trametes hirsuta)のラッカーゼ、又は傷口液体と、室温でインキュベートした。活性は、分光光度計を用いた色測定(黄色〜橙色)によって測定した。
【0093】
実施例8:
ペクチナーゼを用いたラッカーゼの放出による、それらの酵素的シグナル伝達及び増幅
様々なホウロクタケ属のラッカーゼで装填された実施例4からのバイオポリマーを、試験ポリマーとして用いた。
【0094】
ポリマー球を、ふるいに掛け、50mMコハク酸バッファpH4.5で3回洗浄し、実施例2からのラッカーゼ基質として固定化されたフェルラ酸を含む10mgのシリカゲルの存在下で、5mLの50mMコハク酸バッファpH4.5を含む反応ベッセル中にそれぞれ1gの湿重量に分割した。酵素的分解は、撹拌しながら、室温で市販のペクチナーゼを添加することにより開始した。インキュベーション後、黄色〜橙色の変色は、分光光度計を用いた色測定(黄色〜橙色)によって測定した(
図5)。
【0095】
あるいは、バイオポリマーを、アスペルギルス・オリザエのプロテアーゼで装填してもよい。ここでは、放出されたプロテアーゼの活性は、その後、375nmにおいて、上清中の開裂したp−ニトロアニリドのUV吸収を用いて適宜測定する。
【0096】
実施例9:
ペクチナーゼを用いた修飾されたプロテアーゼの放出による、それらの酵素的シグナル伝達及び増幅
生体応答性ポリマーの応答挙動は、トリガー及び増幅用酵素の双方の拡散挙動を用いて調整され得る。増幅用酵素の化学的又は遺伝子的修飾(例えば、増大(enlargement))を用いて、バイオポリマーの架橋の相応に低い程度は、増幅用酵素の同時の外方拡散を用いて設定され得る。
【0097】
水溶性ポリマーを用いた増幅用酵素の化学修飾のために、1gのメトキシポリエチレングリコール及び0.4gの塩化シアヌルを、100mLの乾燥トルエンに溶解し、40℃で40時間撹拌した。活性化されたポリマーを、その後、ヘキサン中に沈殿し、濾過し、真空下で乾燥した。様々な分子量(350、550、1100、2000、5000等)を用いることにより、複合体の拡散挙動は、ポリマーの長さにより調整され得る。ポリマーを、弱塩基性媒体ホウ酸バッファpH9.3中で酵素と結合させた。反応後、未結合のポリマーを超遠心により除去し、複合体は更に精製することなく用いられた。
【0098】
実施例6に従って、バイオポリマーを、修飾されたプロテアーゼで装填した。このように得られたポリマー球を、ふるいに掛け、50mMコハク酸バッファpH4.5で3回洗浄し、実施例2からのラッカーゼ基質として固定化されたフェルラ酸を含む10mgのシリカゲルの存在下で、5mLの50mMコハク酸バッファpH4.5を含む反応ベッセル中にそれぞれ1gの湿重量に分割した。酵素的分解は、撹拌しながら、室温で市販のペクチナーゼを添加することにより開始した。インキュベーション後、黄色〜橙色の変色は、分光光度計を用いた色測定によって測定した(
図5)。あるいは、トリガー酵素の分子量を、遺伝子的に増加させてもよい。
【0099】
実施例10:
リゾチームを用いた修飾されたラッカーゼの放出による、それらの酵素的シグナル伝達及び増幅
医療分野に用いられ得るシステムは、トリガー酵素として酵素リゾチームを用いる。身体自身の天然の免疫応答のこの酵素は、感染の場合に形成され、分泌される。酵素の主な任務は、細菌の細胞壁の成分であるペプチドグリカンの分解による細菌の破壊である。酵素の増加した量は、傷口感染の場合に存在することは示されている。以下のシステムでは、Sigma製の3.12mgのミクロコッカス・リソディクティカス(micrococcus lysodeicticus)細胞壁を、リン酸バッファpH7.00中で1mLの1%アガロースと懸濁した。100μlのこの懸濁液を、マイクロタイタープレート中で50μLのPEG修飾されたラッカーゼと混合した。治癒後、ポリマーをバッファで洗浄し、100μlのリゾチーム溶液(200〜5000U/mL)を添加した。インキュベーションは37℃で行なった。25μlの上清を、30分毎に移した。ラッカーゼ活性は、ABTSアッセイ(1400μLサッカロースバッファ+45μL 1%H
2O
2+30μL ABTS40mM):25μL上清+75μL ABTS溶液)により測定した。放出されたラッカーゼによるABTS変換により、リゾチームとの数分のインキュベーション後、緑色の呈色は生じた(
図6)。
【0100】
実施例11:
架橋されたバイオポリマー、及びペクチナーゼ又はセルラーゼを用いた酵素の放出
5gのペクチン及び/又はセルロース誘導体を、100mLの水に溶解し、0.5mLの6M HClの存在下で、33mLの97%グリシジルメタクリレート溶液と結合させる。
【0101】
PES組織を、トリメチルシリルメタクリレートで修飾し、グリシジルメタクリレートで修飾されたマトリックスでコートし、ラジカル的にポリマー化し、その後共有結合的に架橋する。
【0102】
細胞外酵素、例えばペクチナーゼ又はセルラーゼは、拡散によりPES組織を直ちに制圧し得、マトリックスの分解を通して、それらの中に含まれる機能性分子、例えば、それらの部分が色反応を引き起こす酵素を放出し得る。
【0103】
実施例12:
架橋されたバイオポリマー、及びエラスターゼを用いた修飾された酵素の放出
医療分野に用いられ得る別のシステムは、トリガー酵素として酵素エラスターゼを用いる。この酵素は、ほぼ全ての種類のタンパク質が切断され得る感染の場合において、いくつかの種類の細菌により、また身体自身の免疫応答によっても形成、又は分泌される。傷口感染の場合では、著しく増加した量の酵素が傷口分泌物において検出され得る。この酵素は、従って、初期の傷口感染のためのマーカー酵素として用いられてもよい。以下のシステムでは、3.12mgのキトサンを、リン酸バッファpH7.0中で1mLの1%アガロースに懸濁した。キトサンは、システインのSH基、及びペプチド配列ala−ala−pro−valを介した双方上でそれを架橋するために、予めGMBsで活性化された。100μlのこの上清を、マイクロタイタープレート中で50μLのPEG修飾されたラッカーゼと混合した。治癒後、ポリマーをバッファ溶液で洗浄し、100μlのエラスターゼ溶液(2〜5U/mL)、又は傷口分泌物を添加した。インキュベーションは37℃で行なった。25μlの上清を、10分毎に移した。ラッカーゼ活性は、ABTSアッセイ(1400μLのサッカロースバッファ+45μLの1%H
2O
2+30μLのABTS40mM):25μLの上清+75μLのABTS溶液)を用いて測定した。放出されたラッカーゼによるABTS変換により、エラスターゼとの数分のインキュベーション後、緑色の呈色は生じた。変色しないことは、エラスターゼを含まないことを決定する。