(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの農作物(落花生、トウモロコシ、ニンジン、大根を始め各種野菜、花卉、果樹等)の栽培に、農業用マルチフィルムが用いられている。
【0003】
かかるマルチフィルムを用いたマルチ栽培によって、土中水分保持、土壌膨軟性の保持、肥料流亡防止、地温の上昇と抑制、初期成育の促進、初期収量の増加、生産の多収安定化等の諸効果が達成される。
【0004】
かかるマルチフィルムの一種として、従来、二酸化チタンやアルミ微粒子をフィルムに配合して太陽光線を反射させて、地温の上昇を防ぐ反射フィルムが知られている(特許文献1)。
【0005】
二酸化チタンを配合したフィルムは、地温の上昇は抑制できるが、害虫が飛来する欠点があり、またアルミ微粒子を配合したフィルムは害虫の飛来を防止できるが、地温の抑制は不十分であった。
【0006】
特許文献1では、三層構造で、黒層の上に、二酸化チタン層とアルミ微粒子層を順番に重ねたフィルムが提案されたが、構造が複雑になり、実用化困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地温の抑制と害虫の飛来防止のために、二酸化チタンとアルミ微粒子を混合して配合した層を黒層の上に重ねる手法が考えられるが、二酸化チタンとアルミ微粒子が互いに干渉して濁った灰色になり、太陽光線の反射率が低下する問題がある。反射率が低下すると、地温の抑制と害虫の飛来防止に効果が無くなる問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、太陽光線の反射を最適に制御して地温上昇抑制と害虫飛来防止に優れた農業用多層マルチフィルムを提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明の他の課題は以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の発明によって解決される。
【0012】
1.
一方の面がカーボンブラックを含有する光吸収層で、他方の面が二酸化チタンと金属微粒子を含有する光反射層である農業用マルチフィルムにおいて、
全層の厚みが10〜40μmの範囲にあり、
さらに前記光反射層の厚みが5〜30μmの範囲にあり、
前記二酸化チタンの含有濃度C
1は10〜25wt%の範囲であり、
該光反射層の反射率が波長360nmで10%以上、波長450nmで60〜80%であることを特徴とする農業用多層マルチフィルム。
【0013】
2.
金属微粒子の含有濃度C
2は0.05〜0.2wt%であることを特徴とする前記1記載の農業用多層マルチフィルム。
【0014】
3.
金属微粒子が、アルミ微粒子である前記1または2記載の農業用多層マルチフィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、太陽光線の反射を最適に制御して地温上昇抑制と害虫飛来防止に優れた農業用多層マルチフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は本発明の農業用多層マルチフィルムの一例を示す断面図である。
【0019】
同図において、1はベース樹脂としてポリオレフィン系樹脂を用いた軟質の多層マルチフィルムであり、10は光反射層(白銀層ともいう)、11は光吸収層(黒色層ともいう)である。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられ、その他軟質材料であればよい。
【0021】
軟質材料としては、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−デセン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー共重合体等が挙げられる。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂として好ましいのは、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)であり、より好ましいのは、強度、柔軟性、耐候性、あるいはある程度の耐熱性を発揮する観点から、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)である。
【0023】
フィルムの全層の厚みは、フィルムの反射性能と強度の観点から、10〜40μmの範囲であり、望ましくは15〜30μmの範囲である。
【0024】
光反射層10は、二酸化チタン(Ti0
2)と金属微粒子(たとえば、アルミ微粒子)を含有する層である。
【0025】
光反射層10の厚みは、5〜30μmの範囲であり、好ましくは10〜25μmの範囲である。厚みはフィルム断面の光学顕微鏡観察によって測定することができる。
【0026】
二酸化チタンの含有濃度C
1は10〜25wt%の範囲である。
【0027】
光反射層(白銀色層)に含有される二酸化チタンは、粉末として含有することが好ましい。粉末の粒径は、太陽光を効率よく乱反射させるため、可視光波長、即ち波長0.4〜0.8μの光を乱反射するべく、平均粒径は0.1〜1.0μmの範囲が好ましい。ここで平均粒径とは、電子顕微鏡写真に基づく算術的平均値である。
【0028】
光反射層の反射率は、波長360nmで10%以上、波長450nmで60〜80%である。かかる反射率であると、太陽光線の反射を最適に制御して地温上昇抑制と害虫飛来防止に優れた多層マルチフィルムを提供可能となる。
【0029】
また、金属微粒子の含有濃度C
2は0.05〜0.2wt%が好ましい。
【0030】
この範囲内であると、二酸化チタンと金属微粒子(アルミ微粒子)の互いの干渉により、本発明の目的である地温上昇抑制と害虫飛来防止の効果が発揮され易く、好ましい。
【0031】
本発明において、金属微粒子は、アルミ微粒子であることが好ましい。
【0032】
二酸化チタンの結晶型は、ルチルとアナタースの2型があるが、アナタースはフィルム耐候性を大きく低下させるので、通常はルチル型を用いる。
【0033】
二酸化チタンは、紫外線光を吸収し、活性酸素を発生する特性があり、このためフィルム耐候性を低下させるので、本発明で用いる二酸化チタンは、TiO
2粒子表面をAl、Siなどの金属酸化膜でコート処理することが好ましい。
【0034】
金属微粒子として含有されるアルミ微粒子は、鱗片状粉末として含有することが好ましい。粉末の粒径は、紫外線を効率よく乱反射させるため、アスペクト比は10〜10000の範囲が好ましい。
【0035】
更に光反射層(白銀色層)には、二酸化チタンやアルミ微粒子以外に本発明の目的を損なわない範囲で、耐候安定剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無滴剤等の農業用フィルムに使われる添加剤を含有することもできる。
【0036】
光吸収層(黒色層)11は、厚みが2〜28μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、5〜20μmの範囲である。厚みはフィルム断面の光学顕微鏡観察によって測定することができる。なお、白色層の厚みも同様にして測定することができる。
【0037】
黒色層には、カーボンブラックが含有される。かかるカーボンブラックの添加量は、特に限定されないが、1〜15wt%の範囲が好ましい。
【0038】
本発明の農業用多層マルチフィルムに含有できる添加剤としては、耐侯安定剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無滴剤等農業用多層マルチフィルムに使われる各種添加剤を使用することができる。
【0039】
次に、本発明の多層マルチフィルム、具体的には、二層マルチフィルムを製造する方法について以下に説明する。
【0040】
本発明の二層マルチフィルムを製造するには、インフレーション成形法又はTダイ成形法が好ましく採用される。
【0041】
例えば、光反射層(白銀色層)と光吸収層(黒色層)の2層構造を形成するダイラミ成形で成膜する。
【0042】
前述した各層の条件を満たすように配合された熱可塑性樹脂配合物を、それぞれ別々の押出機で溶融混合して同一の多層ダイに供給して、ダイ内またはダイ外で各層を溶融状態で積層して、次いで冷却して成形する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明するが、かかる実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0044】
(フィルム試料の作成)
1)本発明のフィルム1
<光反射層の配合>
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(MI:1.0、密度0.920)に、アルミ微粉末(アスペクト比:50)を0.1wt%、二酸化チタン粉末(平均粒径:0.3μm)を15wt%配合した。
【0045】
<光吸収層の配合>
光吸収層は光反射層と同じ直鎖状低密度ポリエチレンに、カーボンブラックを5wt%配合した。
【0046】
<フィルム成形>
上記の配合条件のもと、ダイラミ成形法で、光反射層を15μm、光吸収層を10μmの厚さに成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム1を得た。
【0047】
2)本発明のフィルム2
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を0.05wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム2を得た。
【0048】
3)本発明のフィルム3
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を0.15wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム3を得た。
【0049】
4)本発明のフィルム4
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を0.2wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム4を得た。
【0050】
5)本発明のフィルム5
上記本発明のフィルム1の製造において、二酸化チタン粉末を10wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム5を得た。
【0051】
6)本発明のフィルム6
上記本発明のフィルム1の製造において、二酸化チタン粉末を20wt%に、アルミ微粉末を0.05wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム6を得た。
【0052】
7)本発明のフィルム7
上記本発明のフィルム1の製造において、二酸化チタン粉末を20wt%に、アルミ微粉末を0.2wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム7を得た。
【0053】
8)本発明のフィルム8
上記本発明のフィルム1の製造において、二酸化チタン粉末を25wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの本発明のフィルム8を得た。
【0054】
9)比較フィルム1
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を0.4wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの比較フィルム1を得た。
【0055】
10)比較フィルム2
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を0.01wt%にした他は同様に成形し、厚さ25μmの比較フィルム2を得た。
【0056】
11)比較フィルム3
上記本発明のフィルム1の製造において、アルミ微粉末を加えずに同様に成形し、厚さ25μmの比較フィルム3を得た。
【0057】
12)比較フィルム4
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(MI:1.0、密度0.920)にアルミ微粉末を0.5wt%配合し、これを単層成形法で成形して、厚さ25μmの比較フィルム4を得た。
【0058】
(実験)
それぞれのフィルムを、巾lm長さ2mの畝に展張して、畝の中央に黄色水盤を置き、飛来して来る有翅アブラムシの数を測定し、各フィルムの害虫忌避効果を調べ、その結果を表1に示した。
【0059】
また測定期間中の畝頂部10cm地点の地温をTandD社製「おんどとり」を用いて測定した。測定開始から5日間測定した測定値の平均値を表1に示した。
【0060】
さらに、各フィルム試料について、波長360nm、450nmの反射率を、日立分光光度計を用いて測定・算出した。その結果を表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
(評価)
以上の試験より、一方の面がカーボンブラックを含有する光吸収層で、他方の面が二酸化チタンと金属微粒子を含有する光反射層である農業用マルチフィルムにおいて、二酸化チタンの含有濃度C
1が10〜25wt%の範囲であり、光反射層の反射率が波長360nmで10%以上、波長450nmで60〜80%であるときに、飛来して来る有翅アブラムシの数は10匹未満となり、害虫飛来防止に優れていることが立証された。
【0063】
また、実施例1〜8と比較フィルム1、4を比較すると、光反射層の反射率が波長450nmで60〜80%の範囲内であるときに、地温上昇が抑制されていることがわかった。
【0064】
さらに、金属微粒子の含有濃度C
2が0.05〜0.2wt%である際に、二酸化チタンと金属微粒子(アルミ微粒子)の互いの干渉により、本発明の目的である地温上昇抑制と害虫飛来防止の効果が発揮され易いことが確認できた。