特許第5860010号(P5860010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860010
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】電流測定装置及び電流測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/03 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   G01R19/03
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-177872(P2013-177872)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-45604(P2015-45604A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2014年4月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度経済産業省「航空機用先進システム基盤技術開発(耐雷・帯電特性解析技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】津端 裕之
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0197558(US,A1)
【文献】 特開2000−241463(JP,A)
【文献】 特開2008−039775(JP,A)
【文献】 特表2013−501216(JP,A)
【文献】 特表2008−536108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R19/00−22/10
G01R11/00−11/66
G01N27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の繊維を含む複合材料中に流れる電流を測定する電流測定装置であって、
前記複合材料中に電流が流れたときの当該複合材料表面の温度を計測する温度計測手段と、
予め行われた予備試験によって取得されたデータであって、前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する換算データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記換算データに基づいて、前記温度計測手段で計測された前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する電流算出手段と、
を備え
前記複合材料は、繊維方向が互いに異なるものを含む複数の繊維層を積層させた積層材であって、締結具のファスナーが貫通されており、
前記換算データは、前記予備試験において、前記複合材料と同じ材料の供試体に電流を印加したときの、電流を印加する電極を中心とした各繊維方向における温度と電流値を計測することで、当該各繊維方向について取得されたものであり、
前記温度計測手段は、前記ファスナーを中心とした各繊維方向における前記複合材料表面の温度を計測し、
前記電流算出手段は、前記温度計測手段で計測された各繊維方向における前記複合材料表面の温度を、対応する繊維方向における前記換算データを用いて電流値に換算することを特徴とする電流測定装置。
【請求項2】
前記温度計測手段がサーモグラフィーカメラであることを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置。
【請求項3】
導電性の繊維を含む複合材料中に流れる電流を測定する電流測定方法であって、
予め行われた予備試験によって取得されたデータであって、前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する換算データを記憶する記憶手段を用い、
前記複合材料中に電流が流れたときの当該複合材料表面の温度を計測する温度計測工程と、
前記記憶手段に記憶された前記換算データに基づいて、前記温度計測工程で計測された前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する電流算出工程と、
を備え、
前記複合材料として、繊維方向が互いに異なるものを含む複数の繊維層を積層させた積層材であって、締結具のファスナーが貫通されたものを用い、
前記予備試験では、前記複合材料と同じ材料の供試体に電流を印加したときの、電流を印加する電極を中心とした各繊維方向における温度と電流値を計測することで、当該各繊維方向における前記換算データを取得し、
前記温度計測工程では、前記ファスナーを中心とした各繊維方向における前記複合材料表面の温度を計測し、
前記電流算出工程では、前記温度計測工程で計測された各繊維方向における前記複合材料表面の温度を、対応する繊維方向における前記換算データを用いて電流値に換算することを特徴とする電流測定方法
【請求項4】
前記温度計測工程では、サーモグラフィーカメラを用いて前記複合材料表面の温度を計測することを特徴とする請求項3に記載の電流測定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の繊維を含む複合材料中に流れる電流を測定する電流測定装置及び電流測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体設計においては、雷撃によるスパーク発生に起因する燃料引火などを防止すべく、落雷対策が必要とされている。この落雷対策を講じるうえでは、雷撃時における機体中の電流分布を明らかにすることが重要であり、特に近年での機体への適用拡大が進む炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材料における電流分布の詳細な解明が望まれている。
【0003】
しかし、複合材料中に流れる電流は、金属材料中に流れるものと異なり、複数の繊維方向の影響を受けるなどして複雑に分布する。そのため、複合材料中の電流分布を明らかにするためには、この複合材料中の繊維に流れる電流をより正確に測定する技術が必要となる。
【0004】
一般に、電流の測定にあたっては、ロゴスキーコイルや磁気センサーが用いられる。
ロゴスキーコイルは、大電流を測定可能な環状のコイルであり、測定箇所を囲むように配置されることで、当該コイルの両端に誘起される電圧に基づいて電流を測定可能となっている。また、磁気センサーは、測定箇所表面の磁界を検出することで、この磁界に基づいて電流を測定可能となっている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoichiro Tsumura, Tatsufumi Aoi, Hideo Yamakoshi, Koji Satake, Kazuo Yamamoto, “Surface magnetic field measurements using ferrite-core sensors”, ICOLSE2009, 2009/9/15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロゴスキーコイルや磁気センサーを用いた電流測定は、下記の点において、複合材料中の繊維に流れる電流の測定には適していない。
ロゴスキーコイルを用いた測定では、複合材料中の繊維を囲むように当該コイルを配置しなければならないため、複合材料自体に穴をあけなければならず、この穴が電流分布に影響を及ぼすおそれがある。
また、磁気センサーを用いた測定では、複合材料に穴をあける必要は生じないものの、繊維周りの電流の流れが数mmオーダーで変化するものであるために、非常に小さな磁気センサーを用いなければ正確な電流分布を捉えることができない。このような小さな磁気センサーは、ノイズの影響を受けやすいうえに、そもそも製作が困難である。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、複合材料中に流れる電流を好適に測定することができる電流測定装置及び電流測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
導電性の繊維を含む複合材料中に流れる電流を測定する電流測定装置であって、
前記複合材料中に電流が流れたときの当該複合材料表面の温度を計測する温度計測手段と、
予め行われた予備試験によって取得されたデータであって、前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する換算データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記換算データに基づいて、前記温度計測手段で計測された前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する電流算出手段と、
を備え
前記複合材料は、繊維方向が互いに異なるものを含む複数の繊維層を積層させた積層材であって、締結具のファスナーが貫通されており、
前記換算データは、前記予備試験において、前記複合材料と同じ材料の供試体に電流を印加したときの、電流を印加する電極を中心とした各繊維方向における温度と電流値を計測することで、当該各繊維方向について取得されたものであり、
前記温度計測手段は、前記ファスナーを中心とした各繊維方向における前記複合材料表面の温度を計測し、
前記電流算出手段は、前記温度計測手段で計測された各繊維方向における前記複合材料表面の温度を、対応する繊維方向における前記換算データを用いて電流値に換算することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電流測定装置において、
前記温度計測手段がサーモグラフィーカメラであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
導電性の繊維を含む複合材料中に流れる電流を測定する電流測定方法であって、
予め行われた予備試験によって取得されたデータであって、前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する換算データを記憶する記憶手段を用い、
前記複合材料中に電流が流れたときの当該複合材料表面の温度を計測する温度計測工程と、
前記記憶手段に記憶された前記換算データに基づいて、前記温度計測工程で計測された前記複合材料表面の温度を当該複合材料中の繊維に流れる電流値に換算する電流算出工程と、
を備え
前記複合材料として、繊維方向が互いに異なるものを含む複数の繊維層を積層させた積層材であって、締結具のファスナーが貫通されたものを用い、
前記予備試験では、前記複合材料と同じ材料の供試体に電流を印加したときの、電流を印加する電極を中心とした各繊維方向における温度と電流値を計測することで、当該各繊維方向における前記換算データを取得し、
前記温度計測工程では、前記ファスナーを中心とした各繊維方向における前記複合材料表面の温度を計測し、
前記電流算出工程では、前記温度計測工程で計測された各繊維方向における前記複合材料表面の温度を、対応する繊維方向における前記換算データを用いて電流値に換算することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電流測定方法において、
前記温度計測工程では、サーモグラフィーカメラを用いて前記複合材料表面の温度を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複合材料中に電流が流れたときの当該複合材料表面の温度を計測し、この複合材料表面の温度を、予め行われた予備試験によって取得された換算データに基づいて電流値に換算することによって、複合材料中に流れる電流が測定される。したがって、従来と異なり、複合材料に穴をあけたり製作が困難なセンサーを用いたりする必要なく、複合材料中に流れる電流を好適に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電流測定装置の構成を概念的に示した図である。
図2】複合材料表面の温度を複合材料中の電流値に換算する換算データを示す図である。
図3】換算データ取得試験における装置レイアウトの概略図である。
図4】換算データ取得試験の配線図である。
図5】複合材料の断面図である。
図6】代表的な雷電流波形(SAE ARP 5412 Component A波形)を示す図である。
図7】複合材料表面を撮影したサーモグラフィー画像例である。
図8】電流測定方法の流れを示すフローチャートである。
図9】電流測定方法の測定結果の画像表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本実施形態における電流測定装置1の構成を概念的に示した図である。
この図に示すように、電流測定装置1は、複合材料M中に流れる電流を測定するものであり、特に、航空機の機体構造材としての複合材料Mにおける雷撃時の電流分布を明らかにしようとするものである。
【0020】
測定対象の複合材料Mは、樹脂を導電性の繊維で強化した繊維強化プラスチックであり、本実施形態においては、炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。この複合材料Mは、繊維方向が互いに45°異なる4層の繊維層を2セット(すなわち合計8層)積層させた略平板状の擬似等方積層材である(図5参照)。また、複合材料Mには、実際の航空機を模して、締結具である金属製の複数のファスナーF,…が所定の配列でそれぞれ貫通されている。
なお、実際の航空機での雷撃時に、ファスナーFの一部に過剰な電流集中が発生すると、ファスナーF周辺でアーク放電が生じて燃料引火などの不具合を引き起こし得るため、以下の説明では、特にファスナーF周辺における電流分布の把握に主眼を置くものとする。
【0021】
具体的には、電流測定装置1は、電源2と、サーモグラフィーカメラ3と、コンピュータ4とを備えている。
このうち、電源2は、雷電流波形を模した電流を印加可能なインパルスジェネレータであり、複合材料Mの一端に電気的に接続されている。また、電源2の筺体は接地されており、この筺体に複合材料Mの他端が電気的に接続されている。
【0022】
サーモグラフィーカメラ3は、物体から放射される赤外線を捉えてその温度を計測可能なカメラであり、複合材料M表面の温度(温度分布)を計測するように設置されている。
【0023】
コンピュータ4は、サーモグラフィーカメラ3と接続されており、後述するように、このサーモグラフィーカメラ3で計測された複合材料M表面の温度から、複合材料M中に流れる電流を算出する。具体的には、コンピュータ4は、複合材料M表面の温度を電流値に換算する換算データDをメモリ41に記憶しており、この換算データDを用いることで、複合材料M表面の温度から当該複合材料M中に流れる電流を算出する。換算データDは、図2に示すように、複合材料M表面の温度と、複合材料M中に流れる電流との関係を示す曲線であり、後述する8つの繊維方向それぞれについて存在する。この換算データDは、後述する換算データ取得試験によって予め取得されて、メモリ41に記憶されている。また、コンピュータ4は、ディスプレイ5と接続されており、複合材料Mの温度(温度分布)や電流(電流分布)などをディスプレイ5に表示可能となっている。
【0024】
続いて、換算データDを取得する換算データ取得試験について説明する。
図3は、換算データ取得試験における装置レイアウトの概略図であり、図4は、換算データ取得試験の配線図であり、図5は、換算データ取得試験用の供試体である複合材料MTの断面図である。
【0025】
図3及び図4に示すように、換算データ取得試験では、供試体である複合材料MTに疑似雷電流を通電させて、このときの複合材料MT表面の温度と、複合材料MT中の各繊維方向に沿った電流値とを計測する。
【0026】
供試体である複合材料MTは、上述した本試験用の複合材料Mと同様の材料であることは勿論のこと、電流を印加する電極Eを中心として複数の繊維方向へ均等に電流が流れるように設けられる。これは、繊維方向に沿った電流の流れが顕著に現れるのは電極E周辺のみであるためと、複数の繊維方向へ不均等に電流が流れてしまうと、各繊維層から温度計測表面までの距離(つまり熱伝搬の時間差)と電流値とが温度の計測値に複雑に影響し合ってしまうためである。
【0027】
具体的には、図4及び図5に示すように、複合材料MTを、各繊維方向に角部を対応させた正八角形状に形成し、その中央と8つの角部にそれぞれ電極Eを貫通させる。そして、中央から周囲8箇所に向かって電流が流れるように、中央の電極Eに電源2を接続するとともに、周囲8箇所の電極EはGNDラインに接続する。本実施形態では、周囲8箇所の電極Eは、複合材料MTの周囲を囲みつつ接地させたシールド板に接続させている。また、周囲8箇所の電極Eには、各電流値を測定するためのCT(Current Transformer)をそれぞれ取り付ける。なお、電極Eとしては、複合材料MTとの均質な電気的接触特性が得られるもの、例えば導電性のスリーブ付きのファスナーなどを用いることが好ましい。また、電源2からの配線の取り回しは、複合材料MTに均等に電流が流れるように、対象なレイアウトとすることが好ましい。
【0028】
試験装置をセッティングした後、複合材料MTに対して電源2から擬似雷電流を印加して、このときの複合材料MT表面をサーモグラフィーカメラ3で撮影するとともに、繊維方向に沿って流れる電流をCTで測定する。このとき、電源2から印加する擬似雷電流は、代表的な雷電流波形を模したものであり、本実施形態では、図6に示すように、SAE ARP 5412 Component A波形のものとした。この図に示すように、雷電流は、数μ秒で立ち上がった後に数十μ秒で減衰してしまうという、熱の伝搬速度に比べて瞬間的なものであるため、サーモグラフィーカメラ3による撮影は、この電流によって複合材料MTに加えられた総熱量をみることとなる。
【0029】
図7は、複合材料MT表面を撮影したサーモグラフィー画像例である。
この図に示すように、電極Eから0°(図7の右方向),45°(右斜め上方向),−45°(右斜め下方向)の各繊維方向に沿って、複合材料MT表面の温度が上昇している。このことから、電極E周辺では、繊維に主要な電流が流れていることが分かる。
【0030】
換算データDを得るための測定では、印加電流値を振ってCTで複数の電流値(ピーク値)を取得し、このときの電極Eから所定距離の位置における温度もそれぞれ計測する。そして、図2に示すように、計測された複数の温度及び電流値の補間曲線として、換算データDを求める。この操作を8つの繊維方向それぞれについて行うことで、8つの繊維方向についての8つの換算データDを取得する。なお、この測定時には、8箇所のCTでの電流値がほぼ等しいことを電流印加の都度確認する。また、換算データDを求めるときの電流値は、ピーク値に代えて作用積分値を用いてもよい。
【0031】
続いて、電流測定装置1による複合材料M中の電流測定方法について説明する。
図8は、電流測定方法の流れを示すフローチャートであり、図9は、電流測定方法の測定結果の画像表示例を示す図である。
【0032】
図8に示すように、まず、図1に示す装置セッティング状態において、複合材料Mに対して電源2から擬似雷電流を印加して、複合材料Mの一端から他端に向けて電流を流す(ステップS1)。このとき、電源2から印加する擬似雷電流は、上述した換算データ取得試験時のものと同じ電流波形とする。
【0033】
そして、この通電時における複合材料M表面をサーモグラフィーカメラ3で撮影することにより、複合材料M表面の温度を計測する(ステップS2)。ここでは、所定のファスナーF周辺の温度を計測する。計測された温度データ(サーモグラフィー画像)は、コンピュータ4へ出力されてメモリ41に格納される。
【0034】
次に、サーモグラフィーカメラ3で計測された複合材料M表面の温度を、換算データDに基づいて、複合材料M中に流れる電流値に換算する(ステップS3)。ここでは、コンピュータ4が、ファスナーFから所定の繊維方向上であって且つ所定距離の位置での温度を、計測された複合材料M表面の温度データから抽出し、この温度を、対応する繊維方向における換算データDを用いて電流値に換算する。コンピュータ4は、この温度−電流換算を8つの繊維方向それぞれについて行い、この8つの繊維方向それぞれに流れる電流値を算出する。
【0035】
こうして、ファスナーFを中心として8つの繊維方向それぞれに流れる電流値が算出され、算出された電流値は、例えば図9に示すような画像として、ディスプレイ5に表示される(ステップS4)。
【0036】
以上のように、本実施形態によれば、複合材料M中に電流が流れたときの当該複合材料M表面の温度を計測し、この複合材料M表面の温度を、予め行われた換算データ取得試験によって取得された換算データDに基づいて電流値に換算することによって、複合材料M中に流れる電流が測定される。したがって、従来と異なり、複合材料に穴をあけたり製作が困難なセンサーを用いたりする必要なく、複合材料M中に流れる電流を好適に測定することができる。
【0037】
また、換算データ取得試験において、電流を印加する電極を中心とした各繊維方向における換算データDを予め取得したうえで、ファスナーFを中心とした各繊維方向における複合材料M表面の温度を計測して、この各繊維方向における複合材料M表面の温度を、対応する繊維方向における換算データDを用いて電流値に換算するので、ファスナーF周辺における複数の繊維方向への電流分布を捉えることができる。
【0038】
また、複合材料M中に電流が流れたときの当該複合材料M表面の温度をサーモグラフィーカメラ3によって計測するので、複合材料M中の繊維に電流が流れる様子をサーモグラフィー画像として視覚化することができる。
【0039】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態では、複合材料M(MT)として、繊維方向が互いに45°異なる4層の繊維層を2セット(すなわち合計8層)積層させた擬似等方積層材を用いることとしたが、複合材料M(MT)は、このような擬似等方積層材に限定されない。
【0041】
また、電流測定装置1は、コンピュータ4に電源2やサーモグラフィーカメラ3の動作を中央制御させて、所定の情報(例えば、測定対象とするファスナーFの位置情報)が入力されるだけで自動的に電流が測定されるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 電流測定装置
2 電源
3 サーモグラフィーカメラ(温度計測手段)
4 コンピュータ(電流算出手段)
41 メモリ(記憶手段)
D 換算データ
M 複合材料(供試体)
F ファスナー
T 複合材料(換算データ取得試験用の供試体)
E 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9