(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ性媒体中のヒアルロン酸ナトリウム、及び架橋剤としてのブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を用いる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I)方法
本発明の方法は、第一の工程において、架橋されていない形態の少なくとも1つの多糖を含む水性ゲルを、二官能性又は多官能性エポキシ架橋剤と一緒に提供する工程を含む。
【0020】
用語「架橋されていない」は、本発明の文脈において、架橋されていない又はわずかに架橋された水性多糖ゲル、すなわち、1Hzの動的なレオロジー条件下で測定される、1Paより大きい応力を受けた場合の40°より大きい位相シフト角(phase−shift angle)δを有するゲルを意味する。
【0021】
より正確には、工程a)において考えられる水性ゲルは、適切な容器内に、
(i)水性媒体;
(ii)架橋されていない形態の少なくとも1つの多糖、又はその塩のうちの1つ;及び
(iii)少なくとも1つの二官能性又は多官能性エポキシ架橋剤
を一緒に入れ、得られた混合物を均一化することによって事前に得られてもよく、化合物(i)、(ii)及び(iii)を容器に加える順番は問題としない。
【0022】
実施形態の第一の変形例によると、この水性ゲルは、容器に水性媒体と多糖を導入し、形成した混合物を同時に及び/又は続けて均一化し、その後均一化と同時に及び/又は続けて架橋剤を加えることによって形成されてもよい。
【0023】
実施形態の第二の変形例によると、この水性ゲルは、容器に水性媒体と多糖と架橋剤とを導入し、形成した混合物を同時に及び/又は続けて均一化することによって得られてもよい。
【0024】
この実施形態の第二の変形例は、1つの均一化工程を行う点で有利である。
【0025】
有利には、この水性ゲルを形成する工程は、35℃未満の温度、好ましくは15から25℃の範囲の温度、さらに好適には室温で行われてもよい。
【0026】
どの実施形態を問題としても、工程a)において考慮する水性ゲルの形成は、少なくとも1つの均一化操作を含む。
【0027】
この操作の目的は、架橋剤の存在下で行われても行われなくても、より詳しくは、水性媒体中の多糖、及び必要があれば架橋剤に対して、完全に水和させ均一化させ、これにより期待される架橋ゲルの特性を最適化することを助けることである。
【0028】
これらの理由から、架橋ゲルの均一性は、架橋する前のゲルの均一性に大きく依存する。
【0029】
均一化は、得られた溶液が均一に着色され、凝集物が存在せず、均一な粘度を有する場合に十分であると考えられる。均一化は、有利には、穏やかな操作条件下で行われて、多糖鎖の分解を防ぐ穏やかな操作条件下で行われてもよい。
【0030】
この工程は、多糖が高分子量を有する場合により重要であり、それはこのような化合物の水和が、凝集体の外観が一般的に観察される高粘度の溶液の形成をもたらす傾向があるからである。
【0031】
この均一化工程の時間は、多糖の性質、より詳しくはその分子量及びその濃度、水性媒体中の操作条件、及び使用する均一化装置に依存する。
【0032】
十分に均一な水性多糖ゲルを得るために好適な均一化時間を調整することは、当業者の一般的な知識の範囲内である。
【0033】
好ましくは、本発明による均一化工程は、200分未満、好ましくは150分未満、さらには15から100分の間の時間にわたって行われてもよい。
【0034】
前述のとおり、順々に2つの異なる架橋速度を工程a)の水性ゲルに適用し、これらはそれぞれ本発明の工程b)及びc)によって説明される。
【0035】
架橋の目的は、多糖鎖、特にヒアルロン酸鎖の間に橋かけを作ることであり、これにより粘性溶液から緻密な固体の3次元構造を得ることができる。
【0036】
i)工程b)を行う条件
工程b)は、工程a)の混合物を、35℃未満の温度で少なくとも1時間維持することを必要とする。
【0037】
したがって、工程b)は、それを行う環境条件下において、遅い架橋速度にのみ対応する。
【0038】
好ましくは、工程b)は、15から25℃の範囲の温度、さらに好適には室温で行われる。
【0039】
工程b)において考えられる遅い架橋速度は、特に、工程a)の後に得られる混合物中のエポキシ架橋剤の消失速度によって特徴付けられ得る。
【0040】
したがって、工程b)の間のエポキシ架橋剤の平均消失速度は、20mg/gのヒアルロン酸濃度に対して、5ppm/分未満、好ましくは2ppm/分未満である。
【0041】
好ましくは、工程b)は、1時間より長い時間、好ましくは2時間より長い時間行われる。
【0042】
好ましくは、工程b)は、1から2時間30分、さらには1時間30分から2時間の間の時間にわたって行われてもよい。
【0043】
ii)工程c)を行う条件
しかし、工程c)は、架橋反応を促進することを必要とする。
【0044】
したがって、用語「促進する」は、本発明の文脈において、架橋反応の速度を十分に増加させることを意味する。
【0045】
架橋反応を促進するために適した特定の条件は、多糖の性質、その分子量、水性媒体、及び架橋剤の性質に依存し得る。
【0046】
一般的に、この促進は、工程b)の後に得られた混合物を、誘発要因又は促進剤と接触させることによって、例えば加熱又はUVへの曝露、或いは前記混合物を触媒タイプの物質と接触させることによって達成されてもよい。
【0047】
このような誘発要因の選択は、当業者の一般的な知識の範囲内である。
【0048】
したがって、誘発要因は、
−工程b)の後に得られた混合物を含む容器を、熱い流体を含有する槽の中に浸漬すること;
−前記混合物を、特定の波長の放射、例えばUV、マイクロ波又は赤外放射に曝露すること;
−米国特許出願公開第2008/0139796号に記載された方法により、電離線により照射すること;及び
−酵素による架橋
によって適用されてもよい。
【0049】
本発明の文脈において、この誘発要因は、有利には、工程b)の後に得られた混合物の温度の上昇によって表される。
【0050】
工程c)に対する特に好適な温度は、問題となる多糖の性質に依存する。
【0051】
多糖がヒアルロン酸である場合、工程c)に対する特に好適な温度は、35℃から60℃の間、好ましくは45から55℃の間、さらに好適には48から52℃の間である。
【0052】
上記の工程b)の場合、工程c)において考えられる速い架橋速度は、特に、工程b)の後に得られる混合物中のエポキシ架橋剤の消失速度によって特徴付けられ得る。
【0053】
したがって、工程c)の間の架橋剤の平均消失速度は、20mg/gのヒアルロン酸濃度に対して、5ppm/分より大きく、好ましくは7ppm/分より大きい。
【0054】
架橋の程度は、工程b)の後に得られた混合物の架橋時間にも依存する。時間が長くなるほど、架橋の程度は高くなるが、最適化は、多糖の分解のリスクを負うことなしには超えない。
【0055】
したがって、工程c)は、30から300分、好ましくは100から200分、さらには150から190分の範囲の時間にわたって行われてもよい。
【0056】
有利には、架橋条件を調整して、架橋効率を最大化する、すなわち、使用された最小量の架橋剤に対して、最大の効率の架橋度を得る。
【0057】
特定の好ましい一実施形態によると、架橋する工程b)及びc)は塩基性媒体中で行われ、工程a)の後に得られる混合物を含む容器は、室温で1時間維持され、その後約50から55℃の温度に加熱された恒温槽中に、少なくとも1時間、好ましくは1時間半から3時間半の間入れられる。
【0058】
上で説明したとおり、架橋を停止する工程(工程e))は、ゲルを回収する工程d)の前、間又は後に行われてもよい。
【0059】
本発明による方法におけるこのような工程は、架橋したゲルを、又は架橋する間に、さらにはそれを含む容器を、架橋を停止するために都合の良い条件、或いは様々な多糖鎖の間の結合の形成を停止することができる条件に曝すことを必要とする。
【0060】
好ましい実施形態の変形例によると、工程e)は、工程d)の前に行われる。
【0061】
例えば、架橋プロセスを促進するために適用される熱的条件について、架橋は、
−恒温槽から容器を単純に取り出し、それを室温に戻るまで冷却することによって;
−容器を室温に近い温度になるまで、好ましくは室温より低い温度の冷水槽に入れることによって;又は
−容器からゲルを抽出することによって
停止されてもよい。
【0062】
放射による架橋の場合、これはゲルの放射への曝露を停止することによって停止される。
【0063】
特定の一実施形態によると、本発明の方法は、工程a)の後に得られた混合物、又は工程b)の後に得られた混合物を、100ミクロンより大きい直径を有するあらゆる粒子を保持することができる少なくとも1つの装置を通すことからなる、少なくとも1つの工程を含む。
【0064】
この特定の工程は、以下で「押出工程」とも呼ばれ、工程a)の後且つ工程b)の前、及び/又は工程b)の後且つ工程c)の前に行われる。
【0065】
以下の実施例から浮かび上がるとおり、この押出工程と関連する有利な効果は、さらに改善された粘弾性を有する架橋ゲルが得られることである。
【0066】
押出装置の種類の選択は、当業者の一般的な知識の範囲内である。
【0067】
有利には、押出工程は、少なくとも1つのフィルターを含む少なくとも1つの装置を使用して行われる。
【0068】
当業者は、このようなフィルターの空隙率、形状、強度及び保持力の点における好適な特徴を定めることができ、100ミクロンより大きい直径を有するあらゆる粒子を保持しながら、工程a)の後、又は工程b)の後に得られる混合物を通すことができる。
【0069】
本明細書の残りにおいて、押出工程を行うために使用される少なくとも1つのフィルターを含む装置が、「押出装置」の表現によって記載されてもよい。
【0070】
有利には、押出工程は、2から100ミクロンの範囲、好ましくは5から50ミクロンの範囲、さらに好適には8から30ミクロンの範囲、より詳しくは10ミクロンの空隙を有する少なくとも1つのフィルターを含む少なくとも1つの装置によって行われる。
【0071】
有利には、押出装置を通した工程a)及び/又はb)の後に得られる混合物の押出の線形速度は遅く、その通過の間に多糖鎖は分解しない。
【0072】
したがって、押出装置を通した工程a)及び/又は工程b)の後に得られる混合物の押出の線形速度は、1から100cm/分、好ましくは1から4cm/分の間である。
【0073】
さらに別の特定の実施形態によると、本発明の方法は、変形可能な壁面を有する特定の容器、例えばポーチの中で、少なくとも部分的に行われてもよい。
【0074】
これは、このような容器の変形性及びその密閉性により、本発明の方法の様々な工程、特には均一化工程及び架橋工程を、より優れた架橋ゲル、すなわちポット又はタンクタイプの従来の容器を用いる方法によって得られるゲルによって示されるものよりも優れた注入性を有するものが得られる最適な条件下で行うことができるからである。
【0075】
上記の本発明の方法の後に得られた架橋ゲルは、一般的に、特にその高い多糖濃度及び/又は場合により架橋剤残留物の存在により、或いは上で想定される用途の分野における使用と適合しないその生理学的及び/又はpHの条件により、直接注入することができない。
【0076】
さらに、本発明の方法の後に得られたゲルは、特に、それ自体を患者に注入するには剛性が高すぎる。
【0077】
それゆえ、当業者に知られている様々な追加の工程を行って、注入可能なヒドロゲルを得ることができる。
【0078】
より詳しくは、このゲルを中性化し、膨張させる工程が、その埋め込み品質を付与するために必要である。その後、多糖ネットワークの鎖が伸びて水和し、一方pHは真皮のものとなる。
【0079】
ゲルを保護し、再び密度を高くする工程が、当業者のノウハウによって、埋め込みの品質をさらに改善するために行われ得る。ゲルは、注入される媒体のものと等価の量の塩の存在により、生理学的に処方されなければならない。
【0080】
高い純度のために、さらなる精製工程を行ってもよい。
【0081】
最後に、こうして得られたヒドロゲルを使用して、制御された雰囲気条件下でシリンジを満たしてもよく、前記シリンジは、その後場合によって殺菌工程、好ましくは熱的殺菌工程を受けてもよい。
【0082】
II)多糖
用語「多糖」は、グリコシド結合によって一緒に結合される様々な単糖からなり、一般式:−[C
x(H
2O)
y]
n−を有する、あらゆるポリマーを意味するものと理解される。
【0083】
本発明による多糖は、より詳しくは、本発明により得られる架橋ゲルが示すことが望まれる特性の点で選択される。より詳しくは、このような多糖は、優れた生体適合性を有しなければならない。
【0084】
したがって、生理学的に許容可能な多糖又は多糖の塩は、天然由来又は合成由来のものであってもよい。
【0085】
本発明に好適な多糖は、特に、以下から選択されてもよい:コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、キサンタン、カラギーナン、ヒアルロン酸、キトサン、セルロース及びその誘導体、アルギネート、デンプン、デキストラン、プルラン、ガラクトマンナン、並びにこれらの生物学的に許容可能な塩。
【0086】
本発明による多糖の塩は、より詳しくは、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銀塩及びこれらの混合物などの生理学的に許容可能な塩、好ましくはナトリウム塩から選択される。
【0087】
好ましくは、本発明による多糖又は多糖の塩は、問題となる用途に応じて、高分子量、好ましくは100000Da以上、さらに好適には1MDa(つまり1×10
6Da)以上、さらには3MDa(つまり3×10
6Da)より高い分子量を有する。
【0088】
特定の好ましい多糖は、ヒアルロン酸又はその塩のうちの1つ、好ましくはヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)である。
【0089】
有利には、多糖は、水性ゲルの全質量に対して、5から15質量%の範囲の含有量で、好ましくは10質量%より高い含有量で、架橋されていない形態で多糖の水性ゲルの中に存在してもよい。
【0090】
上記のとおり、本発明による方法の工程a)の混合により、少なくとも1つのエポキシ架橋剤と組み合わされた、架橋されていない形態の少なくとも1つの水性多糖ゲル、又はその塩のうちの1つが得られる。
【0091】
ここで、前記水性多糖ゲルは、前記多糖、又はその塩のうちの1つを前もって水性媒体と接触させることによって得られてもよい。
【0092】
用語「水性媒体」は、本発明の文脈において、水を含み、多糖又はその塩のうちの1つを溶解する特性を有するあらゆる液体媒体を意味するものと理解される。
【0093】
水性媒体の性質は、より詳しくは、想定される架橋の種類だけでなく、使用するポリマーの種類にも依存する。
【0094】
この点について、好適な水性媒体は、酸性又は塩基性のどちらであってもよい。
【0095】
特に好ましい水性媒体は、アルカリ性の媒体、好ましくは水酸化ナトリウム(NaOH)、より詳しくは12より高いpHを有する水酸化ナトリウム溶液である。
【0096】
III)エポキシ架橋剤
用語「架橋剤」は、様々な多糖の鎖の間に架橋を導入することができるあらゆる化合物を意味するものと理解される。
【0097】
架橋される多糖のためのこの架橋剤の選択は、明らかに当業者の能力の範囲内である。
【0098】
本発明による架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジエポキシオクタン又は1,2−ビス(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エチレンなどの二官能性又は多官能性エポキシ架橋剤、及びこれらの混合物から選択される。
【0099】
好ましくは、本発明による架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテルである。
【0100】
架橋反応を行うための架橋剤の量の調整も、当業者の能力の範囲内である。
【0101】
特に好ましい一実施形態によると、本発明の方法は、アルカリ性媒体中のヒアルロン酸ナトリウムを、架橋剤としてのブタンジオールジグリシジルエーテルとともに用いる。
【0102】
特許請求の範囲も含む記載を通じて、語句「を含む(comprising a)」は、他で特に記載されていない限り、「を少なくとも1つ含む(comprising at least one)」と同義であるものと理解されるべきである。
【0103】
語句「間の(between … and …)」及び「範囲(ranging from … to …)」は、他で特に記載されていない限り、境界値を包含することを意味するものとして理解されるべきである。
【0104】
以下の実施例及び図面は、本発明の非限定的な例示として提示される。
【実施例】
【0105】
(実施例1)
以下に記載する架橋ゲルのそれぞれについて、10gのヒアルロン酸(1.5MDa)、73gの1%水酸化ナトリウム及び1.2gのブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を用いた。
【0106】
それぞれのゲルに適用した具体的な条件は、以下のとおりであった。
【0107】
生成物A(対照)
製造手順は以下の通りであった。
1.ヒアルロン酸/1%水酸化ナトリウムの混合物を、室温で約1時間30分均一化して、完全に均一な粘性溶液を得た;
2.架橋剤(BDDE)を加え、室温で約20分間さらに均一化した;
3.ヒアルロン酸/1%水酸化ナトリウムの混合物/BDDEの粘性溶液を、52℃で3時間保温した;及び
4.酸性化リン酸塩緩衝溶液中(架橋ヒアルロン酸溶液)で得られた固体を中性化し、膨潤させ、均一化して、中性に近いpHを有する、20mg/gのヒアルロン酸を含有するヒドロゲルを得た。
【0108】
生成物B(本発明による)
生成物Aに対して記載した手順と同じであるが、工程2と3の間に、工程2の後に得られた混合物を室温で2時間維持する中間工程を行った。
【0109】
中間工程は、本明細書の残りにおいて、語句「休止工程」と記されてもよい。
【0110】
したがって、52℃の保温前の合計の「ヒアルロン酸/BDDE」接触時間は、約2時間20分であった。
【0111】
生成物C(本発明による)
生成物Aに対して記載した手順と同じであるが、工程2の後に、BDDEを加えて15分間均一化し、押出す工程、続けて生成物Bを室温で2時間維持する中間工程、その後52℃での3時間の保温工程3を行った。
【0112】
押出工程は、10ミクロンのメッシュサイズを有する押出機のスクリーンパック型の円形スクリーンによって行われた。
【0113】
52℃での保温前の合計のヒアルロン酸/BDDE接触時間は、約2時間20分であった。
【0114】
シリンジを、生成物A、B及びCで全て満たした。これらの3つの生成物の粘弾性を、コーン/プレート形状(1°のコーン角度/35mm直径のプレート)を有するレオメーター(Haake RS6000)を使用して測定した。歪み走査(strain scan)を行い、弾性係数G’(Pa)及び位相シフト角δ(°)を、5Paの応力に対して測定した。
【0115】
結果
以下の
図1は、測定された弾性係数G’値(Pa)を示す。表示について、位相シフト角δの値(°)をそれぞれの棒の上のG’値の右に示す。
【0116】
測定された位相シフトは非常に小さく、これはこれらのゲルが主に弾性の特徴を示すことを意味している。
【0117】
図1の結果、特に生成物Bの結果は、架橋反応が本発明の方法を介して行われた場合、すなわち架橋反応を行うために、順々の2つの異なる速度を用いた場合、G’が大きく増加することを示している。
【0118】
この効果は、10ミクロンの空隙のフィルターを含む装置を用いて押出工程を行った場合、さらに顕著である。
【0119】
(実施例2)本発明による方法を受けたヒアルロン酸ゲル中の架橋剤の量の、様々な段階での評価
様々な架橋ヒドロゲルを、特定の容器、すなわち上で定めた変形可能なポーチを用いて、本発明の方法を使用して同時に製造した。
【0120】
1%NaOH中の12%ヒアルロン酸溶液を製造した。ヒアルロン酸が水和した後、1%NaOHで5倍に希釈したBDDE溶液を加えた。
【0121】
それゆえ、使用したBDDEの合計量は、20mg/gのヒアルロン酸ヒドロゲル中で1.8mg/gに等価な理論的含有量に対応する。
【0122】
その後、様々な画分A、B及びCを、上で得られた混合物から製造した。
【0123】
画分Aは、以下に記載する保温工程の前に、室温(RT)で1時間維持したヒアルロン酸ゲルに対応する。
【0124】
画分Bは、以下に記載する保温工程の前に、室温で2時間維持したヒアルロン酸ゲルに対応する。
【0125】
最後に、画分Cは、以下に記載する保温工程の前に、室温で1時間維持したヒアルロン酸ゲルに対応し、この休止工程は、10μmのメッシュサイズのスクリーンを通した押出工程とさらに組み合わされた。
【0126】
上記の様々な処理の後、画分A、B及びCを、52℃で3時間保温した。
【0127】
その後、この保温工程の後に得られたそれぞれの固形分(架橋ヒアルロン酸溶液)を中性化し、膨潤させ、7.3のpHのリン酸塩緩衝溶液中で均一化して、20mg/gのヒアルロン酸ヒドロゲルを得た。
【0128】
本発明の方法の様々な工程で消費された架橋剤の量をモニターするために、BDDEの分析を様々な工程において行った。
【0129】
したがって、サンプルT1及びT2は、52℃で3時間保温する工程の前に、ヒアルロン酸/BDDE混合物を室温でそれぞれ1時間及び2時間維持した後のゲルのサンプルに対応する。
【0130】
その後、サンプルT1及びT2を、画分A、B及びCに対して上で記載されたものと同じ中性化、膨潤及び均一化工程にかけ、20mg/gのヒアルロン酸のヒドロゲルを得た。
【0131】
サンプルA、B及びCは、52℃で3時間保温され、20mg/gのヒドロゲルに転換された後の対応する画分からのゲルのサンプルに対応する。
【0132】
結果
表1は、測定された架橋剤の量及び得られたヒドロゲルの弾性係数(G’、Pa)の値を示す。
【0133】
表示について、複素粘度η
*及び位相シフト角δが示されている。
【0134】
【表1】
【0135】
測定された残留物のBDDE含有量は、殺菌されておらず、精製されていないゲルに対応することに注意すべきである。
【0136】
サンプルT1及びT2中の測定された架橋剤(BDDE)の含有量は、同じ桁である。上で示された理論的な含有量と比較した、測定されたBDDEの含有量の小さな減少は、遅い速度の架橋反応によって説明され、これはエポキシ官能基の不安定性によるBDDEの分解と関連し得る。
【0137】
対照的に、BDDE含有量の減少は、52℃での3時間の保温工程の後に大きく加速され、このBDDEの実質的な消費は、速い速度の架橋反応に対応する。
【0138】
得られたゲル(画分A、B及びC)の機械的性質について、(i)測定された位相シフトは非常に小さく、これはこれらのゲルが主に弾性の特徴を有することを意味し、(ii)最も高い弾性係数G’は、画分Bから得られたゲル、すなわち52℃での保温前に室温で2時間維持する工程を有するものに対して得られ、(iii)架橋の前に押し出された画分Cは、押し出されていない同じヒドロゲル(画分A)と比較して、十分に大きい弾性係数G’を有する、という点を指摘する価値がある。
【0139】
上記の(ii)及び(iii)の点は、本発明による架橋ゲルを製造するための方法において、架橋反応についての順次の2つの異なる架橋速度を用いることだけでなく、押出工程による有利な影響を裏付けるものである。
【0140】
(実施例3)
実施例2で記載したものと同一の水性多糖ゲル/架橋剤の混合物を製造した。
【0141】
その後、2つの試験を行った。
−第一の場合、上記の混合物から様々な画分A、B、C及びDを製造した。架橋反応を、前記画分を2時間室温にし、その後様々な時間52℃にすることによって行った。
−第二の場合、様々な画分A’、B’、C’及びD’も製造した。画分A、B、C及びDとは異なり、これらは52℃で様々な時間直接保温した。
【0142】
様々な画分に対する52℃での保温時間は以下のとおりであった。
・画分A及びA’:2時間40分
・画分B及びB’:2時間50分
・画分C及びC’:3時間
・画分D及びD’:3時間10分
【0143】
その後、保温工程の後に得られた架橋ヒアルロン酸ゲルを中性化し、その後膨潤させ、7.3のpHのリン酸塩緩衝液(PB)中で均一化して20mg/gのヒアルロン酸ヒドロゲルを得た。以下の特性評価及び分析を、得られたヒドロゲルに対して行った。
【0144】
結果
以下の表2は、得られたヒドロゲルの弾性係数G’(Pa)の値を示す。表示について、複素粘度η
*及び位相シフト角δが示されている。
【0145】
【表2】
【0146】
以下の
図2及び
図3は、上の表2で示した結果を示す。
【0147】
架橋の52℃の保温工程の最適な効果は、室温で水性多糖ゲル/架橋剤の混合物を維持する前工程を有していても有していなくても、約3時間で発生する。
【0148】
52℃の保温工程の前に室温で2時間維持する工程を用いる方法によって得られたヒドロゲルは、室温で維持する工程を有しない手順で得られたヒドロゲルに対して測定された最大値よりも、十分に優れた粘弾性を有している。
【0149】
これらの結果は、水性多糖ゲル/架橋剤の混合物を周囲温度で長時間維持する工程の架橋反応を行うことの存在による有益な効果が、52℃での架橋時間を延長することによっては単純に再現され得ないことを実証している。
【0150】
これは、本発明の架橋方法によって得られたヒドロゲルに対して測定された最適なG’が、52℃での保温工程の時間に関わらず、従来の架橋方法によって得られたヒドロゲルによっては達成されなかったからである。