特許第5860139号(P5860139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860139
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】自動変速機装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/66 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   F16H3/66 Z
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-507556(P2014-507556)
(86)(22)【出願日】2013年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2013055054
(87)【国際公開番号】WO2013146028
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-71725(P2012-71725)
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 政弘
(72)【発明者】
【氏名】左右田 融
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】池 宣和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博
(72)【発明者】
【氏名】大板 慎司
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 勝
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0122626(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0041508(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0209389(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102008041213(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102008041198(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材に入力された動力を変速して出力部材に出力する自動変速機装置であって、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第1回転要素と第2回転要素と第3回転要素とを有する第1の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第4回転要素と第5回転要素と第6回転要素とを有する第2の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第7回転要素と第8回転要素と第9回転要素とを有する第3の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第10回転要素と第11回転要素と第12回転要素とを有する第4の遊星歯車機構と、
前記第1回転要素と前記第6回転要素と前記第11回転要素とを連結する第1連結要素と、
前記第2回転要素と前記第9回転要素とを連結する第2連結要素と、
前記第3回転要素と前記第8回転要素とを連結する第3連結要素と、
前記第2連結要素と前記第10回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第1クラッチと、
前記第5回転要素と前記第12回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第2クラッチと、
前記第4回転要素と前記第10回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第3クラッチと、
前記第5回転要素を自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第1ブレーキと、
前記第4回転要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第2ブレーキと、
前記第7回転要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第3ブレーキと、
を備え、
前記入力部材を前記第10回転要素に接続し、
前記出力部材を前記第3連結要素に接続してなる、
ことを特徴とする自動変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機装置であって、
前進1速段は、前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第2ブレーキとを解放することにより形成し、
前進2速段は、前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを解放することにより形成し、
前進3速段は、前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを解放することにより形成し、
前進4速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを解放することにより形成し、
前進5速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第3クラッチとを係合すると共に前記第1ブレーキと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成し、
前進6速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成し、
前進7速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成し、
前進8速段は、前記第1クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを解放することにより形成し、
前進9速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成し、
後進段は、前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する、
ことを特徴とする自動変速機装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動変速機装置であって、
前記第1の遊星歯車機構と前記第2の遊星歯車機構と前記第3の遊星歯車機構と前記第4の遊星歯車機構は、いずれもサンギヤとリングギヤとキャリアとを前記3つの回転要素とするシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されてなり、
前記第1回転要素と前記第4回転要素と前記第7回転要素と前記第10回転要素は、いずれもサンギヤであり、
前記第2回転要素と前記第5回転要素と前記第8回転要素と前記第11回転要素は、いずれもキャリアであり、
前記第3回転要素と前記第6回転要素と前記第9回転要素と前記第12回転要素は、いずれもリングギヤである、
ことを特徴とする自動変速機装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか1つの請求項に記載の自動変速機装置であって、
前記第1の遊星歯車機構は前記第2の遊星歯車機構の外周側に構成されてなる、
ことを特徴とする自動変速機装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれか1つの請求項に記載の自動変速機装置であって、
前記第4の遊星歯車機構,前記第1の遊星歯車機構および第2の遊星歯車機構,前記第3の遊星歯車機構の順に配置されてなる、
ことを特徴とする自動変速機装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれか1つの請求項に記載の自動変速機装置であって、
前記第3ブレーキはドグブレーキとして構成されてなる、
ことを特徴とする自動変速機装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材に入力された動力を変速して出力部材に出力する自動変速機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機装置としては、4つの遊星歯車機構と、3つのクラッチと3つのブレーキとにより前進9速段と後進段とを形成可能なものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置の構成を図5に示す。背景技術としての従来例の自動変速機装置901は、図示するように、いずれも、外歯歯車としてのサンギヤ911,921,931,941と、内歯歯車としてのリングギヤ913,923,933,943と、複数のピニオンギヤ914,924,934,944を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア912,922,932,942からなるシングルピニオン式の第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940を備える。サンギヤ911とサンギヤ921は第1連結要素951により連結されており、リングギヤ913とキャリア912は第2連結要素952により連結されており、リングギヤ923とキャリア932とキャリア942は第3連結要素953により連結されている。第4の遊星歯車機構940は、第3の遊星歯車機構930の外周側に形成されており、リングギヤ933とサンギヤ941は第4連結要素954により連結されている。また、サンギヤ931は、クラッチC1を介して入力軸903に接続されると共にブレーキB1を介してケース902に接続されており、第2連結要素852はクラッチC2を介して入力軸903に接続されている。さらに、第3連結要素953は、ドグクラッチDCを介して入力軸903に接続されており、第1連結要素951はドグブレーキDBを介してケース902に接続されており、第4の遊星歯車機構940のリングギヤ943はブレーキB902を介してケース902に接続されている。そして、第1の遊星歯車機構910のリングギヤ913に出力ギヤ904が接続されている。
【0003】
この従来例の自動変速機装置901では、第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4(各遊星歯車機構におけるサンギヤの歯数/リングギヤの歯数)は、0.36,0.36,0.56,0.66に設定されており、図6の作動表に示すように、前進1速段から前進9速段と後進段を形成し、前進1速段(最低速段)のギヤ比/前進9速段(最高速段)のギヤ比として計算されるギヤ比幅は10.02となっている。
【0004】
また、従来例の自動変速機装置901では、最高速段である前進9速段は、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB2とが係合されており、ドグクラッチDCとドグブレーキDBとブレーキB1とが解放されているから、入力軸903から出力ギヤ904へのトルクの伝達には第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が歯車機構として作動する。また、最高速段の1つ前の前進8速段では、クラッチC2とブレーキB1とブレーキB2とが係合されており、クラッチC1とドグクラッチDCとドグブレーキDBとが解放されているから、入力軸903から出力ギヤ904へのトルクの伝達には第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが歯車機構として作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−513662号公報
【発明の概要】
【0006】
こうした自動変速機装置では、4つの遊星歯車機構と複数のクラッチやブレーキとによって自動変速機を構成する場合、4つの遊星歯車機構の各回転要素の接続や複数のクラッチやブレーキの取り付け方は多数存在し、接続や取り付け方によっては自動変速機装置として機能することができるものと機能することができないものとが存在する。また、前進側の最高速段やその1つ前の変速段における入力側から出力側へのトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数が少ない方がギヤの噛み合いによる損失が低下するため、トルクの伝達効率が高くなる。
【0007】
本発明の自動変速機装置は、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキによる新たな自動変速機装置を提案することを主目的とし、更に、トルクの伝達効率の向上を図ることを更なる目的とする。
【0008】
本発明の自動変速機装置は、少なくとも上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の自動変速機装置は、
入力部材に入力された動力を変速して出力部材に出力する自動変速機装置であって、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第1回転要素と第2回転要素と第3回転要素とを有する第1の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第4回転要素と第5回転要素と第6回転要素とを有する第2の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第7回転要素と第8回転要素と第9回転要素とを有する第3の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第10回転要素と第11回転要素と第12回転要素とを有する第4の遊星歯車機構と、
前記第1回転要素と前記第6回転要素と前記第11回転要素とを連結する第1連結要素と、
前記第2回転要素と前記第9回転要素とを連結する第2連結要素と、
前記第3回転要素と前記第8回転要素とを連結する第3連結要素と、
前記第2連結要素と前記第10回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第1クラッチと、
前記第5回転要素と前記第12回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第2クラッチと、
前記第4回転要素と前記第10回転要素とを係合すると共に該係合を解放する第3クラッチと、
前記第5回転要素を自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第1ブレーキと、
前記第4回転要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第2ブレーキと、
前記第7回転要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第3ブレーキと、
を備え、
前記入力部材を前記第10回転要素に接続し、
前記出力部材を前記第3連結要素に接続してなる、
ことを特徴とする。
【0010】
この本発明の自動変速機装置では、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第1回転要素と第2回転要素と第3回転要素とを有する第1の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第4回転要素と第5回転要素と第6回転要素とを有する第2の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第7回転要素と第8回転要素と第9回転要素とを有する第3の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第10回転要素と第11回転要素と第12回転要素とを有する第4の遊星歯車機構とを備え、第1回転要素と第6回転要素と第11回転要素とを第1連結要素により連結し、第2回転要素と第9回転要素とを第2連結要素により連結し、第3回転要素と第8回転要素とを第3連結要素により連結する。そして、第1クラッチを介して第2連結要素と第10回転要素とを接続し、第2クラッチを介して第5回転要素と第12回転要素とを接続し、第3クラッチを介して第4回転要素と第10回転要素とを接続し、第1ブレーキを第5回転要素に接続し、第2ブレーキを第4回転要素に接続し、第3ブレーキを第7回転要素に接続し、入力部材を第10回転要素に接続し、出力部材を第3連結要素に接続する。これにより、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキとにより機能可能な自動変速装置を構成することができる。
【0011】
こうした本発明の自動変速機装置において、前進1速段から前進9速段および後進段を以下のように構成することができる。
(1)前進1速段は、前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
(2)前進2速段は、前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを解放することにより形成する。
(3)前進3速段は、前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
(4)前進4速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
(5)前進5速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第3クラッチとを係合すると共に前記第1ブレーキと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(6)前進6速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(7)前進7速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(8)前進8速段は、前記第1クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(9)前進9速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(10)後進段は、前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
こうすれば、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキにより前進1速段から前進9速段および後進段の変速が可能な装置とすることができる。
【0012】
上述したように、最高速段の前進9速段では、第1クラッチと第3クラッチと第1ブレーキとを係合すると共に第2クラッチと第2ブレーキと第3ブレーキとを解放する。第3の遊星歯車機構は、第3ブレーキの解放により第7回転要素が解放されるから、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。第4の遊星歯車機構は、第2クラッチの解放により第12回転要素が解放されるから、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、前進9速段では、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構と第2の遊星歯車機構の2つが歯車機構として作動することになる。また、最高速段の1つ前の前進8速段では、第1クラッチと第1ブレーキと第2ブレーキとを係合すると共に第2クラッチと第3クラッチと第3ブレーキとを解放する。第3の遊星歯車機構は、第3ブレーキの解放により第7回転要素が解放されるから、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。第2の遊星歯車機構は、第1ブレーキと第2ブレーキの係合により第5回転要素と第4回転要素とがケースに回転不能に固定されるから、いずれの回転要素も回転することができず、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には歯車機構として作動しない。第4の遊星歯車機構は、第2クラッチの解放により第12回転要素が解放されるから、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、前進8速段では、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構の1つだけが歯車機構として作動することになる。以上の説明から、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達に歯車機構として作動する遊星歯車機構の数は、最高速段の前進9速段では2つで最高速段の1つ前の前進8速段では1つであるから、最高速段の前進9速段で4つで最高速段の1つ前の前進8速段で2つである従来例の自動変速機装置に比して、トルク伝達に歯車機構として作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。即ち、従来例の自動変速機装置に比して、トルクの伝達効率を向上させることができる。
【0013】
上述の本発明の自動変速機装置において、前記第1の遊星歯車機構と前記第2の遊星歯車機構と前記第3の遊星歯車機構と前記第4の遊星歯車機構は、いずれもサンギヤとリングギヤとキャリアとを前記3つの回転要素とするシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されてなり、前記第1回転要素と前記第4回転要素と前記第7回転要素と前記第10回転要素は、いずれもサンギヤであり、前記第2回転要素と前記第5回転要素と前記第8回転要素と前記第11回転要素は、いずれもキャリアであり、前記第3回転要素と前記第6回転要素と前記第9回転要素と前記第12回転要素は、いずれもリングギヤである、ことを特徴とするものとすることもできる。
【0014】
さらに、本発明の自動変速機装置において、前記第1の遊星歯車機構は前記第2の遊星歯車機構の外周側に構成されてなる、ものとすることもできる。こうすれば、径方向については大きくなるものの、軸方向については短くすることことができる。即ち、3つの遊星歯車機構による自動変速機装置の軸方向の長さと同様にすることができる。
【0015】
あるいは、本発明の自動変速機装置において、前記第4の遊星歯車機構,前記第1の遊星歯車機構および前記第2の遊星歯車機構,前記第3の遊星歯車機構の順に配置されてなる、ものとすることもできる。
【0016】
また、本発明の自動変速機装置において、前記第3ブレーキはドグブレーキとして構成されてなる、ものとすることもできる。ドグブレーキは係合時にショックが生じやすく、回転を同期させる同期制御が必要となるが、第3ブレーキは前進1速段から前進4速段まで係合が連続していると共に前進5速段から前進9速段まで解放が連続しているから、係合と解放が頻繁に繰り返されることがなく、同期制御が発生する頻度が少ない。このため、ドグブレーキを採用しても変速フィーリングの悪化は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例の自動変速機装置1の構成の概略を示す構成図である。
図2】自動変速機装置1の作動表である。
図3】自動変速機装置1の速度線図である。
図4】変形例の自動変速機装置1Bの構成の概略を示す構成図である。
図5】変形例の自動変速機装置101の構成の概略を示す構成図である。
図6】従来例の自動変速機装置901の構成の概略を示す構成図である。
図7】従来例の自動変速機装置901の作動表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施例としての自動変速機装置1の構成の概略を示す構成図である。実施例の自動変速機装置1は、4つのシングルピニオン式の遊星歯車機構10,20,30,40と、3つのクラッチC1〜C3と、3つのブレーキB1〜B3とを備え、図示しない内燃機関としてのエンジンが横置き(車両の左右方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンフロントドライブ式)の車両に搭載されており、エンジンからの動力を図示しないトルクコンバータなどの発進装置を介して入力軸(インプットシャフト)3から入力すると共に入力した動力を変速して出力ギヤ4に出力する有段変速機構として構成されている。出力ギヤ4に出力された動力は、ギヤ機構5とデファレンシャルギヤ6とを介して左右の駆動輪7a,7bに出力される。ギヤ機構5は、回転軸が出力ギヤ4の回転軸と平行に配置されたカウンタシャフト5aと、カウンタシャフト5aに取り付けられ出力ギヤ4と噛合するカウンタドリブンギヤ5bと、同じくカウンタシャフト5aに取り付けられデファレンシャルギヤ6のリングギヤと噛合するデファレンシャルドライブギヤ5cとにより構成されている。なお、図1では、図中の入力軸3の下側については自動変速機装置1の構成のうち出力ギヤ4とギヤ機構5との接続関係を中心に示し、他は省略した。
【0020】
実施例の自動変速装置1では、図1に示すように、入力軸3側から第4の遊星歯車機構40,第1の遊星歯車機構10および第2の遊星歯車機構20,第3の遊星歯車機構30の順に配置されている。また、第1の遊星歯車機構10は、第2の遊星歯車機構20の外周側に配置されている。
【0021】
第1の遊星歯車機構10は、外歯歯車としてのサンギヤ11と、このサンギヤ11と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ13と、サンギヤ11に噛合すると共にリングギヤ13に噛合する複数のピニオンギヤ14と、複数のピニオンギヤ14を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア12とを備える。第1の遊星歯車機構10は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ11,リングギヤ13,キャリア12は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ11,キャリア12,リングギヤ13となる。第1の遊星歯車機構10のギヤ比λ1(サンギヤ11の歯数/リングギヤ13の歯数)は、例えば0.60に設定されている。
【0022】
第2の遊星歯車機構20は、外歯歯車としてのサンギヤ21と、このサンギヤ21と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ23と、サンギヤ21に噛合すると共にリングギヤ23に噛合する複数のピニオンギヤ24と、複数のピニオンギヤ24を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア22とを備える。第2の遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ21,リングギヤ23,キャリア22は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ21,キャリア22,リングギヤ23となる。第2の遊星歯車機構20のギヤ比λ2(サンギヤ21の歯数/リングギヤ23の歯数)は、例えば0.45に設定されている。
【0023】
第3の遊星歯車機構30は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ33と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ33に噛合する複数のピニオンギヤ34と、複数のピニオンギヤ34を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア32とを備える。第3の遊星歯車機構30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ31,リングギヤ33,キャリア32は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ31,キャリア32,リングギヤ33となる。第3の遊星歯車機構30のギヤ比λ3(サンギヤ31の歯数/リングギヤ33の歯数)は、例えば0.35に設定されている。
【0024】
第4の遊星歯車機構40は、外歯歯車としてのサンギヤ41と、このサンギヤ41と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ43と、サンギヤ41に噛合すると共にリングギヤ43に噛合する複数のピニオンギヤ44と、複数のピニオンギヤ44を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア42とを備える。第4の遊星歯車機構40は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ41,リングギヤ43,キャリア42は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ41,キャリア42,リングギヤ43となる。第4の遊星歯車機構40のギヤ比λ4(サンギヤ41の歯数/リングギヤ43の歯数)は、例えば0.50に設定されている。
【0025】
第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11は、第1連結要素51により第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23と第4の遊星歯車機構40のキャリア42に連結されており、第1の遊星歯車機構10のキャリア22は、第2連結要素52により第3の遊星歯車機構30のリングギヤ33に連結されている。また、第1の遊星歯車機構10のリングギヤ13は、第3連結要素53により第3の遊星歯車機構30のキャリア32に連結されている。上述したように、実施例の自動変速機装置1は、第1の遊星歯車機構10を第2の遊星歯車機構20の外周側に配置している。即ち、第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23の外周側に外歯歯車を形成して第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11とし、リングギヤ23と第1連結要素51とサンギヤ11とを一体のものとして形成しているのである。従って、第1連結要素51は、第2の遊星歯車機構20の最外周に位置するリングギヤ23の外周側で径方向にリングギヤ23と第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11とを連結する要素であると共にこれらと第4の遊星歯車機構40のキャリア42とを連結する要素でもある。
【0026】
また、実施例の自動変速機装置1の第2連結要素52(キャリア12,リングギヤ33)は、クラッチC1を介して第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に接続されており、第2の遊星歯車機構20のキャリア22は、クラッチC2を介して第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43に接続されている。また、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は、クラッチC3を介して第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に接続されている。第2の遊星歯車機構20のキャリア22は、ブレーキB1を介してケース(自動変速機装置ケース)2に接続されており、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は、ブレーキB2を介してケース2に接続されている。また、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31は、ブレーキB3を介してケース2に接続されている。そして、第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に入力軸3が接続されており、第3連結要素53(リングギヤ13,キャリア32)に出力ギヤ4が接続されている。ここで、3つのクラッチC1〜C3と3つのブレーキB1〜B3は、実施例では、いずれも摩擦プレートをピストンで押圧することにより係合する油圧駆動の摩擦クラッチや摩擦ブレーキとして構成されている。
【0027】
こうして構成された実施例の自動変速機装置1は、3つのクラッチC1〜C3の係合と解放および3つのブレーキB1〜B3の係合と解放の組み合わせにより前進1速段から前進9速段と後進段とを切り替えることができる。図2に自動変速機装置1の作動表を示し、図3に自動変速機装置1の第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40の速度線図を示す。図3には、左から順に、第1の遊星歯車機構10の速度線図,第2の遊星歯車機構20の速度線図,第3の遊星歯車機構30の速度線図,第4の遊星歯車機構40の速度線図を示し、いずれの速度線図も左からサンギヤ,キャリア,リングギヤの順に並んでいる。また、図3中、「1st」は前進1速段を示し、「2nd」は前進2速段を示し、「3rd」は前進3速段を示し、「4th」〜「9th」は前進4速段〜前進9速段を示し、「Rev」は後進段を示している。「λ1」〜「λ4」は各遊星歯車機構のギヤ比を示し、「B1」,「B2」,「B3」はブレーキB1〜B3を示している。「入力」は入力軸3の接続位置を示し、「出力」は出力ギヤ4の接続位置を示している。
【0028】
実施例の自動変速機装置1では、図2に示するように、以下のように前進1速段から前進9速段と後進段とを形成する。なお、ギヤ比(入力軸3の回転数/出力ギヤ4の回転数)は、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.45,0.35,0.50を用いた場合を示した。
【0029】
(1)前進1速段は、クラッチC2とブレーキB1とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC3とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は5.800となる。
(2)前進2速段は、クラッチC2とブレーキB2とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC3とブレーキB1とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は3.133となる。
(3)前進3速段は、クラッチC2とクラッチC3とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とブレーキB1とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.933となる。
(4)前進4速段は、クラッチC1とクラッチC3とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB1とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.350となる。
【0030】
(5)前進5速段は、クラッチC1とクラッチC2とクラッチC3とを係合すると共にブレーキB1とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.000となる。
(6)前進6速段は、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC3とブレーキB1とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.813となる。
(7)前進7速段は、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC3とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.714となる。
【0031】
(8)前進8速段は、クラッチC1とブレーキB1とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC2とクラッチC3とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.625となる。この前進8速段では、第3の遊星歯車機構30は、ブレーキB3の解放によりサンギヤ31が解放されるから、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。第4の遊星歯車機構40は、クラッチC2の解放によりリングギヤ43が解放されるから、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。第2の遊星歯車機構20は、ブレーキB1とブレーキB2の係合によりキャリア22とサンギヤ21とがケースに回転不能に固定されるから、いずれの回転要素も回転することができず、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には歯車機構として作動しない。したがって、前進8速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構10の1つだけが歯車機構として作動する。
(9)前進9速段は、クラッチC1とクラッチC3とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.535となる。この前進9速段では、第3の遊星歯車機構30は、ブレーキB3の解放によりサンギヤ31が解放されるから、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。第4の遊星歯車機構40は、クラッチC2の解放によりリングギヤ43が解放されるから、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、前進9速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構10と第2の遊星歯車機構20の2つが歯車機構として作動する。
(10)後進段は、クラッチC3とブレーキB1とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC2とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は−4.296となる。
【0032】
実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.45,0.35,0.50を用いた場合、前進1速段(最低速段)のギヤ比/前進9速段(最高速段)のギヤ比として計算されるギヤ比幅は、10.84(=5.800/0.535)となり、図6に示した従来例の自動変速機装置901のギヤ比幅の10.02より大きい。したがって、実施例の自動変速機装置1は、従来例の自動変速機装置901に比して、車両の加速性能を向上させることができると共に車両の燃費を向上させることができる。
【0033】
また、実施例の自動変速機装置1では、最高速段の前進9速段は、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構10と第2の遊星歯車機構20の2つが歯車機構として作動する。一方、図6に示した従来例の自動変速機装置901の最高速段の前進9速段では、入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達には第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が作動する。したがって、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくしている。この結果、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。また、実施例の自動変速機装置1の最高速段の1つ前の前進8速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10の1つだけが歯車機構として作動する。一方、図6に示した従来例の自動変速機装置901の最高速段の1つ前の前進8速段では、入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが作動する。したがって、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくしている。この結果、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。このように、最高速段やその1つ前の変速段は、自動変速機装置1が車両に搭載された場合、比較的高速走行、例えば高速道路の巡航走行の際に用いられるから、比較的高速走行におけるトルクの伝達効率を高くすることができ、車両の燃費の向上を図ることができる。
【0034】
実施例の自動変速機装置1で第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.45,0.35,0.50を用いた場合と図6に示した従来例の自動変速機装置901とにおける各遊星歯車機構を構成する各回転要素の回転数に対して考察すると、以下のようになる。
【0035】
(1)実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を構成するそれぞれの3つの回転要素(サンギヤ11,21,31,41,キャリア12,22,32,42,リングギヤ13,23,33,43)における最大回転数は入力軸3の回転数の約4.4倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、最大回転数は入力軸903の回転数の約5.5倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、最大回転数となる回転要素の回転数を低くすることができる。この結果、実施例の自動変速機装置1は、従来例の自動変速機装置901に比して、装置の耐久性を向上させることができると共に、耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。
【0036】
(2)実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数は入力軸3の回転数の約4.4倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、ピニオンギヤの最大回転数は入力軸903の回転数の約4.8倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、ピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数を低くすることができる。特に、入力軸3の回転数が大きくなる前進1速段では、実施例の自動変速機装置1における第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数は入力軸3の約1.3倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、ピニオンギヤの最大回転数は入力軸903の回転数の約2.7倍となる。この結果、実施例の自動変速機装置1は、従来例の自動変速機装置901に比して、ベアリングやピニオンサイドワッシャなどの部品の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。
【0037】
(3)実施例の自動変速機装置1では、係合要素(クラッチC1〜C3,ブレーキB1〜B3)の相対回転数の最大値は入力軸3の回転数の4.4倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、相対回転数の最大値は入力軸903の回転数の5.5倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1では、従来例の自動変速機装置901に比して、係合要素の相対回転数の最大値を小さくすることができる。この結果、実施例の自動変速機装置1では、係合要素として通常用いられる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキを用いることができ、ドグクラッチやドグブレーキを用いる従来例の自動変速機装置901に比して、変速時の制御性を良好なものとすることができると共に、変速時のショックを低減することができる。
【0038】
以上説明した実施例の自動変速機装置1によれば、シングルピニオン式の第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40と、3つのクラッチC1〜C3と、3つのブレーキB1〜B3とを備え、第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11を第1連結要素51により第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23と第4の遊星歯車機構40のキャリア42に連結し、第1の遊星歯車機構10のキャリア22を第2連結要素52により第3の遊星歯車機構30のリングギヤ33に連結し、第1の遊星歯車機構10のリングギヤ13を第3連結要素53により第3の遊星歯車機構30のキャリア32に連結し、第2連結要素52(キャリア12,リングギヤ33)をクラッチC1を介して第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に接続し、第2の遊星歯車機構20のキャリア22をクラッチC2を介して第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43に接続し、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21をクラッチC3を介して第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に接続し、第2の遊星歯車機構20のキャリア22をブレーキB1を介してケース2に接続し、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21をブレーキB2を介してケース2に接続し、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31をブレーキB3を介してケース2に接続し、第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41を入力軸3に接続し、第3連結要素53(リングギヤ13,キャリア32)を出力ギヤ4に接続することにより、前進1速段から前進9速段および後進段に変速可能な自動変速機装置を構成することができる。
【0039】
実施例の自動変速機装置1では、最高速段としての前進9速段をクラッチC1とクラッチC3とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することにより、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に歯車として作動する遊星歯車機構を第1の遊星歯車機構10と第2の遊星歯車機構20の2つとし、最高速段の前進9速段では入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達に第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が作動する従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。また、実施例の自動変速機装置1では、最高速段の1つ前の前進8速段をクラッチC1とブレーキB1とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC2とクラッチC3とブレーキB3とを解放することにより形成することにより、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に歯車として作動する遊星歯車機構を第1の遊星歯車機構10の1つだけとし、最高速段の1つ前の前進8速段では入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達に第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが作動する従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段の1つ前の変速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。これらの結果、自動変速機装置におけるトルクの伝達効率を向上させることができる。
【0040】
実施例の自動変速機装置1では、第1の遊星歯車機構10を第2の遊星歯車機構20の外周側に配置しているから、4つの遊星歯車機構を横並びに配置したものに比して、径方向については大きくなるものの、軸方向については短くすることができる。即ち、3つの遊星歯車機構を横並びに配置した自動変速機装置の軸方向の長さと同様にすることができる。
【0041】
実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を構成するそれぞれの3つの回転要素における最大回転数は従来例の自動変速機装置901に比して低いから、従来例の自動変速機装置901に比して、装置の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。また、実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数は、従来例の自動変速機装置901に比して低いから、装置の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。さらに、実施例の自動変速機装置1では、係合要素の相対回転数の最大値は、従来例の自動変速機装置901に比して低いから、係合要素として通常用いられる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキを用いたときには、従来例の自動変速機装置901に比して、変速時の制御性を良好なものとすることができると共に、変速時のショックを低減することができる。
【0042】
実施例の自動変速機装置1では、3つのクラッチC1〜C3のすべてを摩擦クラッチとして構成すると共に3つのブレーキB1〜B3のすべてを摩擦ブレーキとして構成するものとしたが、一部のクラッチやブレーキを摩擦クラッチや摩擦ブレーキに代えてドグクラッチやドグブレーキによって構成するものとしてもよい。ブレーキB3をドグブレーキとして構成した自動変速機装置1に対する変形例の自動変速機装置1Bを図4に示す。変形例の自動変速機装置1Bの作動表および速度線図は図2図3と同一である。ドグブレーキは係合時にショックが生じやすく、回転を同期させる同期制御が必要となるが、ブレーキB3は前進1速段から前進4速段まで係合が連続していると共に前進5速段から前進9速段まで解放が連続しているから、係合と解放が頻繁に繰り返されることがなく、同期制御が発生する頻度が少ない。このため、ドグブレーキを採用しても変速フィーリングの悪化は抑制される。
【0043】
実施例の自動変速機装置1では、エンジンが横置き(車両の左右方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンフロントドライブ式)の車両に搭載されるものとしたが、エンジンが縦置き(車両の前後方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンリヤドライブ式)の車両に搭載されるものとしてもよい。この場合、図5に例示する変形例の自動変速機装置101のように、図1の自動変速機装置1の第1の遊星歯車機構10,第2の遊星歯車機構20,第3の遊星歯車機構30,第4の遊星歯車機構40,クラッチC1〜C3,ブレーキB1〜B3の配置や接続はそのままに、入力軸3を軸中心を貫いて反対側(図1,5中の左側)に延出すると共に、第1の遊星歯車機構10のリングギヤ13にその回転を入力軸3とは反対側(図1,5中の右側)の出力軸4bに伝達する中空の回転シャフト4aを接続するものとすればよい。
【0044】
実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.45,0.35,0.50を用いたが、ギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4はこの値に限定されるものではない。
【0045】
実施例の自動変速機装置1では、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を、いずれもシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成するものとしたが、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のうち一部或いは全部をダブルピニオン式の遊星歯車機構として構成するものとしても構わない。
【0046】
実施例の自動変速機装置1では、3つのクラッチC1〜C3と3つのブレーキB1〜B3とのうち3つを係合すると共に他の3つを解放することにより、前進1速段から前進9速段と後進段が可能な自動変速機装置として構成したが、前進1速段から前進9速段の9速変速のうちのいずれか1つの変速段を除いた8速変速または複数の変速段を除いた7速変速以下の変速と後進段が可能な自動変速機装置としても構わない。
【0047】
ここで、実施例の主要な要素と発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、入力軸(インプットシャフト)3が「入力部材」に相当し、出力ギヤ4が「出力部材」に相当し、第1の遊星歯車機構10が「第1の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ11が「第1回転要素」に相当し、キャリア12が「第2回転要素」に相当し、リングギヤ13が「第3回転要素」に相当し、第2の遊星歯車機構20が「第2の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ21が「第4回転要素」に相当し、キャリア22が「第5回転要素」に相当し、リングギヤ23が「第6回転要素」に相当し、第3の遊星歯車機構30が「第3の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ31が「第7回転要素」に相当し、キャリア32が「第8回転要素」に相当し、リングギヤ33が「第9回転要素」に相当し、第4の遊星歯車機構40が「第4の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ41が「第10回転要素」に相当し、キャリア42が「第11回転要素」に相当し、リングギヤ43が「第12回転要素」に相当し、第1連結要素51が「第1連結要素」に相当し、第2連結要素52が「第2連結要素」に相当し、第3連結要素53が「第3連結要素」に相当し、クラッチC1が「第1クラッチ」に相当し、クラッチC2が「第2クラッチ」に相当し、クラッチC3が「第3クラッチ」に相当し、ブレーキB1が「第1ブレーキ」に相当し、ブレーキB2が「第2ブレーキ」に相当し、ブレーキB3が「第3ブレーキ」に相当する。なお、実施例の主要な要素と発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が発明の概要の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、発明の概要の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、発明の概要の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は発明の概要の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0048】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、自動変速機装置の製造産業などに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7