(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機装置としては、4つの遊星歯車機構と、3つのクラッチと3つのブレーキとにより前進9速段と後進段とを形成可能なものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置の構成を
図5に示す。背景技術としての従来例の自動変速機装置901は、図示するように、いずれも、外歯歯車としてのサンギヤ911,921,931,941と、内歯歯車としてのリングギヤ913,923,933,943と、複数のピニオンギヤ914,924,934,944を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア912,922,932,942からなるシングルピニオン式の第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940を備える。サンギヤ911とサンギヤ921は第1連結要素951により連結されており、リングギヤ913とキャリア912は第2連結要素952により連結されており、リングギヤ923とキャリア932とキャリア942は第3連結要素953により連結されている。第4の遊星歯車機構940は、第3の遊星歯車機構930の外周側に形成されており、リングギヤ933とサンギヤ941は第4連結要素954により連結されている。また、サンギヤ931は、クラッチC1を介して入力軸903に接続されると共にブレーキB1を介してケース902に接続されており、第2連結要素852はクラッチC2を介して入力軸903に接続されている。さらに、第3連結要素953は、ドグクラッチDCを介して入力軸903に接続されており、第1連結要素951はドグブレーキDBを介してケース902に接続されており、第4の遊星歯車機構940のリングギヤ943はブレーキB902を介してケース902に接続されている。そして、第1の遊星歯車機構910のリングギヤ913に出力ギヤ904が接続されている。
【0003】
この従来例の自動変速機装置901では、第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4(各遊星歯車機構におけるサンギヤの歯数/リングギヤの歯数)は、0.36,0.36,0.56,0.66に設定されており、
図6の作動表に示すように、前進1速段から前進9速段と後進段を形成し、前進1速段(最低速段)のギヤ比/前進9速段(最高速段)のギヤ比として計算されるギヤ比幅は10.02となっている。
【0004】
このうち最高速段である前進9速段では、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB2とが係合されており、ドグクラッチDCとドグブレーキDBとブレーキB1とが解放されているから、入力軸903から出力ギヤ904へのトルクの伝達には第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が歯車機構として作動する。また、最高速段の1つ前の前進8速段では、クラッチC2とブレーキB1とブレーキB2とが係合されており、クラッチC1とドグクラッチDCとドグブレーキDBとが解放されているから、入力軸903から出力ギヤ904へのトルクの伝達には第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが歯車機構として作動する。
【発明の概要】
【0006】
こうした自動変速機装置では、4つの遊星歯車機構と複数のクラッチやブレーキとによって自動変速機を構成する場合、4つの遊星歯車機構の各回転要素の接続や複数のクラッチやブレーキの取り付け方は多数存在し、接続や取り付け方によっては自動変速機装置として機能することができるものと機能することができないものとが存在する。また、同じ数の遊星歯車機構とクラッチやブレーキとを用いて自動変速機装置を構成する場合、前進側の変速段の段数が多い方が滑らかな加速感を与えることから運転者に与えるフィーリング(ドライバビリティ)が良好なものとなる。さらに、前進側の最高速段やその1つ前の変速段における入力側と出力側とにおけるトルクの伝達に歯車機構として作動する遊星歯車機構の数が少ない方がギヤの噛み合いによる損失が低下するため、トルクの伝達効率が高くなる。
【0007】
本発明の自動変速機装置は、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキによる新たな自動変速機装置を提案することを主目的とし、更に、ドライバビリティの向上とトルクの伝達効率の向上を図ることを更なる目的とする。
【0008】
本発明の自動変速機装置は、少なくとも上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の自動変速機装置は、
入力部材に入力された動力を変速して出力部材に出力する自動変速機装置であって、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第1回転要素と第2回転要素と第3回転要素とを有する第1の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第4回転要素と第5回転要素と第6回転要素とを有する第2の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第7回転要素と第8回転要素と第9回転要素とを有する第3の遊星歯車機構と、
速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第10回転要素と第11回転要素と第12回転要素とを有する第4の遊星歯車機構と、
前記第1回転要素と前記第9回転要素とを連結する第1連結要素と、
前記第2回転要素と前記第5回転要素とを連結する第2連結要素と、
前記第6回転要素と前記第8回転要素とを連結する第3連結要素と、
前記第7回転要素と前記第10回転要素とを連結する第4連結要素と、
前記第12回転要素と前記第2連結要素とを係合すると共に該係合を解放する第1クラッチと、
前記第11回転要素と前記第2連結要素とを係合すると共に該係合を解放する第2クラッチと、
前記第11回転要素と前記第1連結要素とを係合すると共に該係合を解放する第3クラッチと、
前記第3連結要素を自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第1ブレーキと、
前記第4回転要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第2ブレーキと、
前記第4連結要素を前記自動変速機装置ケースに固定可能に係合すると共に該係合を解放する第3ブレーキと、
を備え、
前記入力部材を前記第12回転要素に接続し、
前記出力部材を前記第3回転要素に接続してなる、
ことを特徴とする。
【0010】
この本発明の自動変速機装置では、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第1回転要素と第2回転要素と第3回転要素とを有する第1の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第4回転要素と第5回転要素と第6回転要素とを有する第2の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第7回転要素と第8回転要素と第9回転要素とを有する第3の遊星歯車機構と、3つの回転要素として速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に第10回転要素と第11回転要素と第12回転要素とを有する第4の遊星歯車機構とを備え、第1回転要素と第9回転要素とを第1連結要素により連結し、第2回転要素と第5回転要素とを第2連結要素により連結し、第6回転要素と第8回転要素とを第3連結要素により連結し、第7回転要素と第10回転要素とを第4連結要素により連結する。そして、第1クラッチを介して第12回転要素と第2連結要素とを接続し、第2クラッチを介して第11回転要素と第2連結要素とを接続し、第3クラッチを介して第11回転要素と第1連結要素とを接続し、第1ブレーキを第3連結要素に接続し、第2ブレーキを第4回転要素に接続し、第3ブレーキを第4連結要素に接続し、入力部材を第12回転要素に接続し、出力部材を第3回転要素に接続する。これにより、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキとにより機能可能な自動変速装置を構成することができる。
【0011】
こうした本発明の自動変速機装置において、前進1速段から前進10速段および後進段を以下のように構成することができる。
(1)前進1速段は、前記第3クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第1ブレーキとを解放することにより形成する。
(2)前進2速段は、前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを解放することにより形成する。
(3)前進3速段は、前記第1クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを解放することにより形成する。
(4)前進4速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(5)前進5速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(6)前進6速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第3クラッチとを係合すると共に前記第1ブレーキと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(7)前進7速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
(8)前進8速段は、前記第1クラッチと前記第3クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(9)前進9速段は、前記第1クラッチと前記第1ブレーキと前記第3ブレーキとを係合すると共に前記第2クラッチと前記第3クラッチと前記第2ブレーキとを解放することにより形成する。
(10)前進10速段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第1ブレーキとを係合すると共に前記第3クラッチと前記第2ブレーキと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
(11)後進段は、前記第3クラッチと前記第1ブレーキと前記第2ブレーキとを係合すると共に前記第1クラッチと前記第2クラッチと前記第3ブレーキとを解放することにより形成する。
こうすれば、4つの遊星歯車機構と3つのクラッチと3つのブレーキにより前進1速段から前進10速段および後進段の変速が可能な装置とすることができ、前進1速段から前進9速段および後進段のもの(従来例の自動変速機装置)に比して、前進側の変速段の段数を多くして滑らかな加速感を運転者に与えることができ、ドライバビリティを良好なものにすることができる。
【0012】
上述したように、最高速段の前進10速段は、第1クラッチと第2クラッチと第1ブレーキとを係合すると共に第3クラッチと第2ブレーキと第3ブレーキとを解放する。第2ブレーキの解放により第2の遊星歯車機構の第4回転要素は解放されるから、第2の遊星歯車機構は入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。また、第1クラッチと第2クラッチとの係合により第4の遊星歯車機構の第11回転要素と第12回転要素とを連結して第4の遊星歯車機構を一体のものとするから、第4の遊星歯車機構は入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。したがって、前進10速段では、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構と第3の遊星歯車機構の2つが歯車機構として作動することになる。また、最高速段の1つ前の前進9速段は、第1クラッチと第1ブレーキと第3ブレーキとを係合すると共に第2クラッチと第3クラッチと第2ブレーキとを解放する。第2ブレーキの解放により第2の遊星歯車機構は入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。第1ブレーキと第3ブレーキの係合により第3の遊星歯車機構の第7回転要素と第8回転要素は回転不能とされるから、第3の遊星歯車機構は回転不能に固定される。第2クラッチと第3クラッチの解放により第4の遊星歯車機構の第11回転要素は解放されるから、第4の遊星歯車機構は入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、前進9速段では、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構の1つだけが歯車機構として作動することになる。以上の説明から、入力部材と出力部材とにおけるトルク伝達に歯車機構として作動する遊星歯車機構の数は、最高速段の前進10速段では2つで最高速段の1つ前の前進9速段では1つであるから、最高速段の前進9速段で4つでその1つ前の前進8速段で1つの従来例の自動変速機装置に比して、トルク伝達に歯車機構として作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。即ち、従来例の自動変速機装置に比して、トルクの伝達効率を向上させることができる。
【0013】
上述の本発明の自動変速機装置において、前記第1の遊星歯車機構と前記第2の遊星歯車機構と前記第3の遊星歯車機構と前記第4の遊星歯車機構は、いずれもサンギヤとリングギヤとキャリアとを前記3つの回転要素とするシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されてなり、前記第1回転要素と前記第4回転要素と前記第7回転要素と前記第10回転要素はいずれもサンギヤであり、前記第2回転要素と前記第5回転要素と前記第8回転要素と前記第11回転要素はいずれもキャリアであり、前記第3回転要素と前記第6回転要素と前記第9回転要素と前記第12回転要素はいずれもリングギヤである、ものとすることもできる。
【0014】
さらに、本発明の自動変速機装置において、前記第1の遊星歯車機構は前記第3の遊星歯車機構の外周側に構成されてなり、前記第1連結要素は、前記第3の遊星歯車機構の外周側で径方向に連結する要素である、ものとすることもできる。こうすれば、径方向については大きくなるものの、軸方向については短くすること、即ち3つの遊星歯車機構による自動変速機装置の軸方向の長さと同様にすることができる。
【0015】
あるいは、本発明の自動変速機装置において、前記入力部材から前記第4の遊星歯車機構,前記第3の遊星歯車機構,前記第1の遊星歯車機構,前記第2の遊星歯車機構の順に配置されてなる、ものとすることもできる。
【0016】
また、本発明の自動変速機装置において、前記第2ブレーキはドグブレーキとして構成されてなる、ものとすることもできる。ドグブレーキは係合時にショックが生じやすく、回転を同期させる同期制御が必要となるが、第2ブレーキは前進1速段から前進5速段まで係合が連続していると共に前進6速段から前進10速段まで解放が連続しているから、係合と解放が頻繁に繰り返されることがなく、同期制御が発生する頻度が少ない。このため、ドグブレーキを採用しても変速フィーリングの悪化は抑制される。一方、ドグブレーキは、係合時に油圧を保持する必要がないため、油圧の保持が必要となる油圧駆動のブレーキに比して、エネルギ損失を抑制することができる。この結果、装置のエネルギ効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施例としての自動変速機装置1の構成の概略を示す構成図であり、
図2は実施例の自動変速機装置1の4つの遊星歯車機構を横並びに配置した自動変速機装置1Bの構成の概略を示す構成図である。実施例の自動変速機装置1,1Bは、4つのシングルピニオン式の遊星歯車機構10,20,30,40と、3つのクラッチC1〜C3と、3つのブレーキB1〜B3とを備え、図示しない内燃機関としてのエンジンが横置き(車両の左右方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンフロントドライブ式)の車両に搭載されており、エンジンからの動力を図示しないトルクコンバータなどの発進装置を介して入力軸(インプットシャフト)3から入力すると共に入力した動力を変速して出力ギヤ4に出力する有段変速機構として構成されている。出力ギヤ4に出力された動力は、ギヤ機構5とデファレンシャルギヤ6とを介して左右の駆動輪7a,7bに出力される。ギヤ機構5は、回転軸が出力ギヤ4の回転軸と平行に配置されたカウンタシャフト5aと、カウンタシャフト5aに取り付けられ出力ギヤ4と噛合するカウンタドリブンギヤ5bと、同じくカウンタシャフト5aに取り付けられデファレンシャルギヤ6のリングギヤと噛合するデファレンシャルドライブギヤ5cとにより構成されている。なお、
図1,2では、図中の入力軸3の下側については自動変速機装置1の構成のうち出力ギヤ4とギヤ機構5との接続関係を中心に示し、他は省略した。
【0020】
実施例の自動変速装置1は、
図1に示すように、第1の遊星歯車機構10が第3の遊星歯車機構30が外周側に配置されているが、第1の遊星歯車機構10と第3の遊星歯車機構30とが横並びに配置されている
図2に示す自動変速機装置1Bと同一の接続関係を有する。説明の容易のために、
図2の自動変速機装置1Bの構成について説明し、その後、
図1の自動変速機装置1の構成について説明する。
【0021】
自動変速機装置1Bは、
図2に示すように、4つの遊星歯車機構10,20,30,40が、エンジン側に接続された入力軸3側(
図1中右側)から順に第4の遊星歯車機構40,第3の遊星歯車機構30,第1の遊星歯車機構10,第2の遊星歯車機構20となるよう配置されている。
【0022】
第1の遊星歯車機構10は、外歯歯車としてのサンギヤ11と、このサンギヤ11と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ13と、サンギヤ11に噛合すると共にリングギヤ13に噛合する複数のピニオンギヤ14と、複数のピニオンギヤ14を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア12とを備える。第1の遊星歯車機構10は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ11,リングギヤ13,キャリア12は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ11,キャリア12,リングギヤ13となる。第1の遊星歯車機構10のギヤ比λ1(サンギヤ11の歯数/リングギヤ13の歯数)は、例えば0.60に設定されている。
【0023】
第2の遊星歯車機構20は、外歯歯車としてのサンギヤ21と、このサンギヤ21と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ23と、サンギヤ21に噛合すると共にリングギヤ23に噛合する複数のピニオンギヤ24と、複数のピニオンギヤ24を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア22とを備える。第2の遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ21,リングギヤ23,キャリア22は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ21,キャリア22,リングギヤ23となる。第2の遊星歯車機構20のギヤ比λ2(サンギヤ21の歯数/リングギヤ23の歯数)は、例えば0.30に設定されている。
【0024】
第3の遊星歯車機構30は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ33と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ33に噛合する複数のピニオンギヤ34と、複数のピニオンギヤ34を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア32とを備える。第3の遊星歯車機構30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ31,リングギヤ33,キャリア32は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ31,キャリア32,リングギヤ33となる。第3の遊星歯車機構30のギヤ比λ3(サンギヤ31の歯数/リングギヤ33の歯数)は、例えば0.35に設定されている。
【0025】
第4の遊星歯車機構40は、外歯歯車としてのサンギヤ41と、このサンギヤ41と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ43と、サンギヤ41に噛合すると共にリングギヤ43に噛合する複数のピニオンギヤ44と、複数のピニオンギヤ44を連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア42とを備える。第4の遊星歯車機構40は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されているから、3つの回転要素であるサンギヤ41,リングギヤ43,キャリア42は、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に示すと、サンギヤ41,キャリア42,リングギヤ43となる。第4の遊星歯車機構40のギヤ比λ4(サンギヤ41の歯数/リングギヤ43の歯数)は、例えば0.50に設定されている。
【0026】
第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11は第1連結要素51により第3の遊星歯車機構30のリングギヤ33に連結されており、第1の遊星歯車機構10のキャリア12は第2連結要素52により第2の遊星歯車機構20のキャリア22に連結されている。また、第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23は第3連結要素53により第3の遊星歯車機構30のキャリア32に連結されており、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31は第4連結要素54により第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に連結されている。
【0027】
第2連結要素52(キャリア12,キャリア22)は、クラッチC1を介して第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43に接続されていると共に、クラッチC2を介して第4の遊星歯車機構40のキャリア42に接続されている。また、第1連結要素51(サンギヤ11,リングギヤ33)は、クラッチC3を介して第4の遊星歯車機構40のキャリア42に接続されている。第3連結要素53(リングギヤ23,キャリア32)は、ブレーキB1を介して固定可能にケース(自動変速機装置ケース)2に接続されており、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は、ブレーキB2を介してケース2に接続されている。また、第4連結要素54(サンギヤ31,サンギヤ41)は、ブレーキB3を介してケース2に接続されている。そして、第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43には入力軸3が接続されており、第1の遊星歯車機構10のリングギヤ13には出力ギヤ4が接続されている。ここで、3つのクラッチC1〜C3と3つのブレーキB1〜B3は、実施例では、いずれも摩擦プレートをピストンで押圧することにより係合する油圧駆動の摩擦クラッチや摩擦ブレーキとして構成されている。
【0028】
上述したように、
図1の自動変速機装置1は、
図2の自動変速機装置1Bの接続関係をそのままに、第1の遊星歯車機構10を第3の遊星歯車機構30の外周側に配置したものとなる。即ち、第3の遊星歯車機構30のリングギヤ33の外周側に外歯歯車を形成して第1の遊星歯車機構のサンギヤ11とし、リングギヤ33と第1連結要素51とサンギヤ11とを一体のものとして形成しているのである。従って、第1連結要素51は、第3の遊星歯車機構30の最外周に位置するリングギヤ33の外周側で径方向にリングギヤ33と第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11とを連結する要素と考えることができる。
【0029】
こうして構成された実施例の自動変速機装置1,1Bは、3つのクラッチC1〜C3の係合と解放および3つのブレーキB1〜B3の係合と解放の組み合わせにより前進1速段〜前進10速段と後進段とを切り替えることができる。
図3に自動変速機装置1,1Bの作動表を示し、
図4に自動変速機装置1,1Bの第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40の速度線図を示す。
図4には、左から順に、第1の遊星歯車機構10の速度線図,第2の遊星歯車機構20の速度線図,第3の遊星歯車機構30の速度線図,第4の遊星歯車機構40の速度線図を示し、いずれの速度線図も左からサンギヤ,キャリア,リングギヤの順に並んでいる。また、
図4中、「1st」は前進1速段を示し、「2nd」は前進2速段を示し、「3rd」は前進3速段を示し、「4th」〜「10th」は前進4速段〜前進10速段を示し、「Rev」は後進段を示している。「λ1」〜「λ4」は各遊星歯車機構のギヤ比を示し、「B1」,「B2」,「B3」はブレーキB1〜B3を示している。「入力」は入力軸3の接続位置を示し、「出力」は出力ギヤ4の接続位置を示している。
【0030】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、
図3に示するように、以下のように前進1速段〜前進10速段と後進段とを形成する。なお、ギヤ比(入力軸3の回転数/出力ギヤ4の回転数)は、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.30,0.35,0.50を用いた場合を示した。
【0031】
(1)前進1速段は、クラッチC3とブレーキB2とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC2とブレーキB1とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は4.813となる。この前進1速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40の全てが歯車機構として作動する。
(2)前進2速段は、クラッチC2とブレーキB2とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC3とブレーキB1とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は2.742となる。この前進2速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40の全てが歯車機構として作動する。
(3)前進3速段は、クラッチC1とブレーキB2とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC2とクラッチC3とブレーキB1とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.828となる。この前進3速段では、クラッチC2とクラッチC3とが解放されるから、第4の遊星歯車機構40のキャリア42は解放される。このため、第4の遊星歯車機構40は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第3の遊星歯車機構10,20,30の3つが歯車機構として作動する。
(4)前進4速段は、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC3とブレーキB1とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.321となる。この前進4速段では、クラッチC1とクラッチC2とが係合されるから、第4の遊星歯車機構40のキャリア42とリングギヤ43は連結されることになる。このため、第4の遊星歯車機構40は一体として回転するものとなり、第4の遊星歯車機構40は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第3の遊星歯車機構10,20,30の3つが歯車機構として作動する。
【0032】
(5)前進5速段は、クラッチC1とクラッチC3とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB1とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.134となる。この前進5速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40の全てが歯車機構として作動する。
(6)前進6速段は、クラッチC1とクラッチC2とクラッチC3とを係合すると共にブレーキB1とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は1.000となる。この前進6速段では、クラッチC1とクラッチC2とが係合されるから、第4の遊星歯車機構40のキャリア42とリングギヤ43は連結されることになる。このため、第4の遊星歯車機構40は一体として回転するものとなり、第4の遊星歯車機構40は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。また、クラッチC2とクラッチC3とが係合されるから、第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11とキャリア12は連結されることになる。このため、第1の遊星歯車機構10も一体として回転するものとなり、第1の遊星歯車機構10は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。クラッチC3が係合されており且つ第4の遊星歯車機構40が一体のものとして回転するから、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31とリングギヤ33は同一の回転を行なうことになる。このため、第3の遊星歯車機構30も一体として回転するものとなり、第3の遊星歯車機構30は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。このように、第1ないし第3の遊星歯車機構10,20,30が一体として回転するときには、同様に第4の遊星歯車機構40も一体として回転するものとなる。即ち、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40が一体として回転する。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のいずれも歯車機構として作動しない。
(7)前進7速段は、クラッチC1とクラッチC3とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB1とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.833となる。この前進7速段では、ブレーキB2が解放されるから、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は解放される。このため、第2の遊星歯車機構20は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。第3の遊星歯車機構30のキャリア32はサンギヤ21が解放された第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23に接続されているから、第3の遊星歯車機構30のキャリア32も解放される。このため、第3の遊星歯車機構30は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10と第4の遊星歯車機構40の2つが歯車機構として作動する。
(8)前進8速段は、クラッチC1とクラッチC3とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC2とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.717となる。この前進8速段では、ブレーキB2が解放されるから、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は解放される。このため、第2の遊星歯車機構20は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10と第3,第4の遊星歯車機構30,40の3つが歯車機構として作動する。
【0033】
(9)前進9速段は、クラッチC1とブレーキB1とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC2とクラッチC3とブレーキB2とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.625となる。ここで、ブレーキB2が解放されるから、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は解放される。このため、第2の遊星歯車機構20は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。ブレーキB1とブレーキB3が係合されるから、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31とキャリア32がケースに連結され回転不能とされる。このため、第3の遊星歯車機構30は回転不能に固定される。クラッチC2とクラッチC3とが解放されるから、第4の遊星歯車機構40のキャリア42は解放される。このため、第4の遊星歯車機構40は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10の1つだけが歯車機構として作動する。
(10)前進10速段は、クラッチC1とクラッチC2とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC3とブレーキB2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は0.552となる。ここで、ブレーキB2が解放されるから、このブレーキB2に接続された第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21は解放される。このため、第2の遊星歯車機構20は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には関与しない。また、クラッチC1とクラッチC2とが係合されるから、第4の遊星歯車機構40のキャリア42とリングギヤ43は連結されることになる。このため、第4の遊星歯車機構40は一体として回転するものとなり、第4の遊星歯車機構40は入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に対して歯車機構として作動しない。したがって、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構10と第3の遊星歯車機構30の2つだけが歯車機構として作動する。
(11)後進段は、クラッチC3とブレーキB1とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC1とクラッチC2とブレーキB3とを解放することにより形成することができ、ギヤ比は−4.881となる。
【0034】
上述したように、実施例の自動変速機装置1,1Bの最高速段の前進10速段では、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10と第3の遊星歯車機構30の2つだけが歯車機構として作動する。一方、
図9に示した従来例の自動変速機装置901の最高速段の前進9速段では、入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達には第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が作動する。したがって、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくしている。この結果、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。また、実施例の自動変速機装置1,1Bの最高速段の1つ前の前進9速段では、、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達には、第1の遊星歯車機構10の1つだけが歯車機構として作動する。一方、
図9に示した従来例の自動変速機装置901の最高速段の1つ前の前進8速段では、入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達には第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが作動する。したがって、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段の1つ前におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくしている。この結果、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。このように、最高速段やその1つ前の変速段は、自動変速機装置1,1Bが車両に搭載された場合、比較的高速走行、例えば高速道路の巡航走行の際に用いられるから、比較的高速走行におけるトルクの伝達効率を高くすることができ、車両の燃費の向上を図ることができる。
【0035】
こうして構成された実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.30,0.35,0.50を用いた場合には、最低速段である前進1速段のギヤ比が4.813であり、最高速段である前進10速段のギヤ比が0.552であるから、両者のギヤ比幅は8.719となる。このように、最低速段をよりローギヤ側に最高速段をよりハイギヤ側に設定することにより、加速性能と燃費性能とを両立させることができる。
【0036】
実施例の自動変速機装置1,1Bで第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.30,0.35,0.50を用いた場合と
図9に示した従来例の自動変速機装置901とにおける各遊星歯車機構を構成する各回転要素の回転数に対して考察すると、以下のようになる。
【0037】
(1)実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を構成するそれぞれの3つの回転要素(サンギヤ11,21,31,41,キャリア12,22,32,42,リングギヤ13,23,33,43)における最大回転数は入力軸3の回転数の約4.4倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、最大回転数は入力軸903の回転数の約5.5倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、最大回転数となる回転要素の回転数を低くすることができる。この結果、実施例の自動変速機装置1,1Bは、従来例の自動変速機装置901に比して、装置の耐久性を向上させることができると共に、耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。
【0038】
(2)実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数は、前進1速段で入力軸3の回転数の約1.4倍、最高速段である前進10速段で入力軸3の回転数の約4.1倍、後進段で入力軸3の回転数の約2.7倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、ピニオンギヤの最大回転数は、前進1速段で入力軸903の回転数の約2.7倍、最高速段である前進9速段で入力軸903の回転数の約4.8倍、後進段で入力軸903の回転数の約4.0倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、最低速段,最高速段,後進段のいずれでも最大の回転数となるピニオンギヤの回転数を低くすることができる。この結果、実施例の自動変速機装置1,1Bは、従来例の自動変速機装置901に比して、装置の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。
【0039】
(3)実施例の自動変速機装置1,1Bでは、最高速段である前進10速段における係合要素(クラッチC1〜C3,ブレーキB1〜B3)の相対回転数における最大回転数は入力軸3の回転数の約4.4倍となるが、従来例の自動変速機装置901では、最大回転数は入力軸903の回転数の約5.5倍となる。したがって、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段における係合要素の相対回転数における最大回転数を低くすることができる。この結果、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、係合要素として通常用いられる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキを用いることができ、ドグクラッチやドグブレーキを用いる従来例の自動変速機装置901に比して、変速時の制御性を良好なものとすることができると共に、変速時のショックを低減することができる。
【0040】
以上説明した実施例の自動変速機装置1,1Bによれば、シングルピニオン式の第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40と、3つのクラッチC1〜C3と、3つのブレーキB1〜B3とを備え、第1の遊星歯車機構10のサンギヤ11を第1連結要素51により第3の遊星歯車機構30のリングギヤ33に連結し、第1の遊星歯車機構10のキャリア12を第2連結要素52により第2の遊星歯車機構20のキャリア22に連結し、第2の遊星歯車機構20のリングギヤ23を第3連結要素53により第3の遊星歯車機構30のキャリア32に連結し、第3の遊星歯車機構30のサンギヤ31を第4連結要素54により第4の遊星歯車機構40のサンギヤ41に連結し、第2連結要素52(キャリア12,キャリア22)をクラッチC1を介して第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43に接続すると共にクラッチC2を介して第4の遊星歯車機構40のキャリア42に接続し、第1連結要素51(サンギヤ11,リングギヤ33)をクラッチC3を介して第4の遊星歯車機構40のキャリア42に接続し、第3連結要素53(リングギヤ23,キャリア32)をブレーキB1を介してケース2に接続し、第2の遊星歯車機構20のサンギヤ21をブレーキB2を介してケース2に接続し、第4連結要素54(サンギヤ31,サンギヤ41)をブレーキB3を介してケース2に接続し、第4の遊星歯車機構40のリングギヤ43を入力軸3に接続し、第1の遊星歯車機構10のリングギヤ13を出力ギヤ4に接続することにより、前進1速段から前進10速段および後進段に変速可能な自動変速機装置を構成することができる。この結果、前進1速段から前進9速段および後進段の従来例の自動変速機装置901に比して、前進側の変速段の段数を多くして滑らかな加速感を運転者に与えることができ、ドライバビリティを良好なものにすることができる。
【0041】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、最高速段としての前進10速段をクラッチC1とクラッチC2とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC3とブレーキB2とブレーキB3とを解放することによって形成することにより、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に歯車として作動する遊星歯車機構を第1の遊星歯車機構10と第3の遊星歯車機構30の2つだけとし、最高速段の前進9速段では入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達に第1ないし第4の遊星歯車機構910,920,930,940の全て(4つ)が作動する従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。また、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、最高速段の1つ前の前進9速段をクラッチC1とブレーキB1とブレーキB3とを係合すると共にクラッチC2とクラッチC3とブレーキB2とを解放することにより形成することにより、入力軸3と出力ギヤ4とにおけるトルク伝達に歯車として作動する遊星歯車機構を第1の遊星歯車機構10の1つだけとし、最高速段の1つ前の前進8速段では入力軸903と出力ギヤ904とにおけるトルク伝達に第1の遊星歯車機構910と第2の遊星歯車機構920の2つが作動する従来例の自動変速機装置901に比して、最高速段の1つ前の変速段におけるトルク伝達に作動する遊星歯車機構の数を少なくすることができ、ギヤの噛み合いによる損失を低下させ、トルクの伝達効率を高くすることができる。これらの結果、自動変速機装置におけるトルクの伝達効率を向上させることができる。
【0042】
実施例の自動変速機装置1では、第1の遊星歯車機構10を第3の遊星歯車機構30の外周側に配置しているから、4つの遊星歯車機構を横並びに配置したものに比して、径方向については大きくなるものの、軸方向については短くすることができる。即ち、3つの遊星歯車機構を横並びに配置した自動変速機装置の軸方向の長さと同様にすることができる。
【0043】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を構成するそれぞれの3つの回転要素における最大回転数は従来例の自動変速機装置901に比して低いから、従来例の自動変速機装置901に比して、装置の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。また、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のピニオンギヤ14,24,34,44の最大回転数は、従来例の自動変速機装置901に比して、最低速段,最高速段,後進段のいずれでも低いから、装置の耐久性を向上させることができると共に耐久性確保のための熱処理や表面処理などに必要なコストを抑制することができる。さらに、実施例の自動変速機装置1,1Bでは、最高速段である前進10速段における係合要素の相対回転数における最大回転数は、従来例の自動変速機装置901に比して低いから、係合要素として通常用いられる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキを用いたときには、従来例の自動変速機装置901に比して、変速時の制御性を良好なものとすることができると共に、変速時のショックを低減することができる。
【0044】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、3つのクラッチC1〜C3のすべてを摩擦クラッチとして構成すると共に3つのブレーキB1〜B3のすべてを摩擦ブレーキとして構成するものとしたが、一部のクラッチやブレーキを摩擦クラッチや摩擦ブレーキに代えてドグクラッチやドグブレーキによって構成するものとしてもよい。ブレーキB2をドグブレーキとして構成した自動変速機装置1,1Bに対する変形例の自動変速機装置1C,1Dを
図5,
図6に示す。変形例の自動変速機装置1C,1Dの作動表および速度線図は
図3,
図4と同一である。ドグブレーキは係合時にショックが生じやすく、回転を同期させる同期制御が必要となるが、ブレーキB2は前進1速段から前進5速段まで係合が連続していると共に前進6速段から前進10速段まで解放が連続しているから、係合と解放が頻繁に繰り返されることがなく、同期制御が発生する頻度が少ない。このため、ドグブレーキを採用しても変速フィーリングの悪化は抑制される。一方、ドグブレーキは、係合時に油圧を保持する必要がないため、油圧の保持が必要となる油圧駆動のブレーキに比して、エネルギ損失を抑制することができる。この結果、装置のエネルギ効率を向上させることができる。
【0045】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、エンジンが横置き(車両の左右方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンフロントドライブ式)の車両に搭載されるものとしたが、エンジンが縦置き(車両の前後方向に)配置されたタイプ(例えば、フロントエンジンリヤドライブ式)の車両に搭載されるものとしてもよい。この場合の変形例の自動変速機装置101の構成の概略を
図7に示す。自動変速機装置101は、サンギヤ111,121,131,141とリングギヤ113,123,133,143と複数のピニオンギヤ114,124,134,144とキャリア112,122,132,142とを各々有するシングルピニオン式の4つの遊星歯車機構110,120,130,140を備える。第1の遊星歯車機構110のサンギヤ111は第1連結要素151により第3の遊星歯車機構130のリングギヤ133に連結されており、第1の遊星歯車機構110のキャリア112は第2連結要素152により第2の遊星歯車機構120のキャリア122に連結されている。また、第2の遊星歯車機構120のリングギヤ123は第3連結要素153により第3の遊星歯車機構130のキャリア132に連結されており、第3の遊星歯車機構130のサンギヤ131は第4連結要素154により第4の遊星歯車機構140のサンギヤ141に連結されている。第2連結要素152(キャリア112,キャリア122)は、クラッチC1を介して第4の遊星歯車機構140のリングギヤ143に接続されていると共に、クラッチC2を介して第4の遊星歯車機構140のキャリア142に接続されている。また、第1連結要素151(サンギヤ111,リングギヤ133)は、クラッチC3を介して第4の遊星歯車機構140のキャリア142に接続されている。第3連結要素153(リングギヤ123,キャリア132)は、ブレーキB1を介してケース102に接続されており、第2の遊星歯車機構120のサンギヤ121は、ブレーキB2を介してケース102に接続されている。また、第4連結要素154(サンギヤ131,サンギヤ141)は、ブレーキB3を介してケース102に接続されている。そして、第4の遊星歯車機構140のリングギヤ143には入力軸103が接続されており、第1の遊星歯車機構110のリングギヤ113には出力軸104が接続されている。こうした接続関係は、実施例の自動変速機装置1,1Bと同一である。即ち、変形例の自動変速機装置101と実施例の自動変速機装置1,1Bとでは、第1ないし第4の遊星歯車機構110,120,130,140がそれぞれ第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40に相当し、第1ないし第4連結要素151,152,153,154がそれぞれ第1ないし第4連結要素51,52,53,54に相当し、クラッチC101〜クラッチC103がそれぞれクラッチC1〜C3に相当し、ブレーキB101〜B103がブレーキB1〜B103に相当する。したがって、こうした変形例の自動変速機装置101でも第1ないし第4の遊星歯車機構110,120,130,140のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.30,0.35,0.50を用いれば、
図3の作動表および
図4の速度線図に示す前進1速段ないし前進10速段および後進段の変速を実現することができ、変形例の自動変速機装置101も実施例の自動変速機装置1,1Bと同様に機能し、同様の効果を奏することができる。この変形例の自動変速機装置101でも、
図8の変形例の自動変速機装置101Cに例示するように、ブレーキB102をドグブレーキとして構成することができるし、クラッチC101をドグクラッチとして構成することもできる。
【0046】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4として0.60,0.30,0.35,0.50を用いたが、ギヤ比λ1,λ2,λ3,λ4はこの値に限定されるものではない。
【0047】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40を、いずれもシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成するものとしたが、第1ないし第4の遊星歯車機構10,20,30,40のうち一部或いは全部をダブルピニオン式の遊星歯車機構として構成するものとしても構わない。
【0048】
実施例の自動変速機装置1,1Bでは、3つのクラッチC1〜C3と3つのブレーキB1〜B3とのうち3つを係合すると共に他の3つを解放することにより、前進1速段から前進10速段と後進段が可能な自動変速機装置として構成したが、前進1速段から前進10速段の10速変速のうちのいずれか1つの変速段を除いた9速変速または複数の変速段を除いた8速変速以下の変速と後進段が可能な自動変速機装置としても構わない。
【0049】
ここで、実施例の主要な要素と発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、入力軸(インプットシャフト)3が「入力部材」に相当し、出力ギヤ4が「出力部材」に相当し、第1の遊星歯車機構10が「第1の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ11が「第1回転要素」に相当し、キャリア12が「第2回転要素」に相当し、リングギヤ13が「第3回転要素」に相当し、第2の遊星歯車機構20が「第2の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ21が「第4回転要素」に相当し、キャリア22が「第5回転要素」に相当し、リングギヤ23が「第6回転要素」に相当し、第3の遊星歯車機構30が「第3の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ31が「第7回転要素」に相当し、キャリア32が「第8回転要素」に相当し、リングギヤ33が「第9回転要素」に相当し、第4の遊星歯車機構34が「第4の遊星歯車機構」に相当し、サンギヤ41が「第10回転要素」に相当し、キャリア42が「第11回転要素」に相当し、リングギヤ43が「第12回転要素」に相当し、第1連結要素51が「第1連結要素」に相当し、第2連結要素52が「第2連結要素」に相当し、第3連結要素53が「第3連結要素」に相当し、第4連結要素54が「第4連結要素」に相当し、クラッチC1が「第1クラッチ」に相当し、クラッチC2が「第2クラッチ」に相当し、クラッチC3が「第3クラッチ」に相当し、ブレーキB1が「第1ブレーキ」に相当し、ブレーキB2が「第2ブレーキ」に相当し、ブレーキB3が「第3ブレーキ」に相当する。なお、実施例の主要な要素と発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が発明の概要の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、発明の概要の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、発明の概要の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は発明の概要の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0050】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。