(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
急須を用い、高品質の茶葉から湯で丁寧に抽出した緑茶は、香りが深く、程良い苦味を有し美味しいことが知られている。また、急須で丁寧に抽出した緑茶は、茶葉の微粉末を含んでいるため少し濁りを有するが、その茶葉の微粉末が、緑茶の美味しさの一要因と言われている。
しかし、急須を用いて緑茶を抽出するには、抽出後の茶葉の廃棄処理や急須の洗浄等に手間を要するため、より簡易に緑茶を抽出できる製品として、天然繊維や合成繊維等の繊維フィルターを用いて製袋し茶葉を封入した、一般にティーバッグと呼ばれる抽出用バッグが知られている。
【0003】
ところが、従来の抽出用バッグによる抽出では、急須で抽出したような適度の濁りを呈する緑茶を製することが困難であった。
つまり、緑茶に濁りを付与するには、抽出用バッグを湯に浸漬して緑茶を抽出する際に、茶葉微粉末を適量漏出させて緑茶に含ませればよいため、抽出用バッグを構成する繊維フィルターとして、目の粗いものを採用する方法が考えられる。しかし、粗目の繊維フィルターを採用した場合、茶葉を封入した抽出用バッグを外装袋で包装する工程中、あるいは抽出用バッグの運搬中に、茶葉微粉末が粗目の繊維フィルターを通過して外部に漏出し、原料ロスになるとともに、抽出用バッグの包装装置を汚して故障の原因となり、また、抽出用バッグの外周面に茶葉微粉末が多く付着した、見栄えの良くないティーバッグ製品になってしまうという不都合が生ずる。
【0004】
したがって、一般に市販されている抽出用バッグの多くは、茶葉微粉末の漏出を防ぐために、目の細かい繊維フィルターを用いて製袋されているため、適度な濁りを有する緑茶を抽出することは困難である。
このような事情から、緑茶の抽出時には、茶葉微粉末を漏出させて緑茶に含ませることができ、かつ、包装時又は運搬時等の未抽出時には、茶葉微粉末の漏出を防ぐことができる抽出用バッグが望まれている。
【0005】
また、上記の緑茶と同様に、抽出用バッグが多用される飲料として紅茶やコーヒーがある。これら紅茶等を飲む際には、砂糖やクリーミングパウダー等の調味料を加えて風味を調整したり、シナモンや各種ハーブ等の香辛料を加えて特徴的な香味を付与したりする場合が多い。このように、紅茶等に調味料等を加える場合には、まず、抽出用バッグを湯に浸して紅茶等を抽出し、その後適量の調味料等を加えて攪拌し、溶解又は分散させる方法が一般的である。
【0006】
しかしながら、抽出用バッグから紅茶等を抽出する際に、同時に調味料等を溶解又は分散させることができれば便宜であり、そのためには、ティーバッグ内にあらかじめ紅茶の茶葉等と一緒に調味料等の微粉末を適量封入しておくという方法が考えられる。このような方法による場合には、抽出用バッグに紅茶等と一緒に封入する調味料等は、紅茶等の抽出時間中に短時間で溶解又は分散させる必要があるため、なるべく粒子径を小さくしておくことが望ましいが、そうすると、抽出用バッグの繊維フィルターの目を通過して外部に漏出し易くなるため、漏出した調味料等によって抽出用バッグの包装装置が汚れたり、抽出用バッグの外周面に調味料等が多く付着したりするという不都合が生じる。
したがって、紅茶等の抽出時には調味料等の微粉末を短時間で溶解させることができ、かつ、包装時や運搬時等の未抽出時には、調味料等の微粉末の漏出を防ぐことができる抽出用バッグがあれば便宜である。
【0007】
抽出用バッグに関する先行技術として、特開2006−143258号公報(特許文献1)には、不織布等からなるフィルターに、多糖類やゼラチン等の水溶性高分子化合物を付着させ、フィルターの繊維間隙を閉塞させたティーバッグ用フィルターが記載されている。このティーバッグ用フィルターは、使用前の乾燥状態では、繊維間隙が閉塞されているので、ティーバッグに封入された茶葉微粉末の漏出を防ぐことができ、また、使用時にティーバッグを湯に浸漬した場合には、フィルターの繊維間隙を塞いでいた水溶性高分子化合物が湯に溶解するため、フィルターの繊維間隙が開放され、茶葉微粉末を外部へ漏出させることができるものである。
しかしながら、このティーバッグ用フィルターでは、フィルターの繊維間隙に入り込んだ水溶性高分子化合物は溶解し難いうえに、溶解すると粘性を生ずるゼラチン等の水溶性高分子化合物によって、飲料の食感や風味が損なわれる恐れがある。
【0008】
また、特開2009−60826号公報(特許文献2)には、粒子径等を調節した茶葉微粉末を、特定の厚さの平型ティーバッグに充填密封し、その平型ティーバッグを複数個積み重ねて包装袋で包装することにより、運搬時にはティーバッグから茶葉微粉末が漏出し難く、抽出時にティーバッグを水に浸漬した場合には、茶葉微粉末を漏出させることができる、平型ティーバッグとその包装体が記載されている。
しかしながら、この特許文献2に記載の技術は、平型ティーバッグ同士を面接触させて押圧し、ティーバッグ内での茶葉微粉末の移動を抑制することにより、運搬時のティーバッグからの茶葉微粉末の漏出を低減するものであることから、例えば、ティーバッグの製造工程において、茶葉微粉末を封入したティーバッグを包装袋で包装する際には、茶葉微粉末の漏出を防ぐことができないという問題がある。
【0009】
また、米国特許第2157656号公報(特許文献3)には、表裏を貫通するスリットが付された紙層と、目の粗い布層とを重ね合せたフィルターで、茶葉やコーヒー豆を包み込み巾着状に成形されたティーバッグ又はコーヒーバッグが記載されている(
図1〜
図7)。このティーバッグ等は、湯を通し難い紙層の底部にスリットを設けることで、バッグ内へ湯が出入りし易くなるため、茶等の抽出時間を短縮できるというものである。
しかしながら、この特許文献3に記載のティーバッグ等は、矩形のフィルターの周縁を上方に持ち上げて一まとめに結縛することにより封止されているため、バッグを形成するフィルターには多数の縦皺が生じており、特に結縛部分の周囲は大きく変形している。したがって、重なり合ってフィルターを構成する紙層と布層の相互の密着性は大きく損なわれており、紙層に対し布層が外側から面接触して支持するという機能が十分に働かないため、紙層の変形によるスリットの拡開を防ぐことはできない。そのため、ティーバッグ等の包装時や運搬時等において、拡開したスリットから茶葉等やその微粉末が漏出してしまうという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、抽出用バッグの包装時や運搬時等の未抽出時には、被抽出物の微粉末や調味料の微粉末等の可食粉体の漏出を防ぐことができ、かつ、飲料等の抽出時には、可食粉体を飲料等に分散又は溶解させて、容易に漏出させることができる抽出用バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する本発明のうち、特許請求の範囲の請求項1に記載する発明は、抽出用フィルターにより形成されたバッグ本体に、被抽出物と可食粉体を封入してある抽出用バッグであって、該抽出用フィルターが、可食粉体を通し難い又は通さない素材からなり表裏を貫通する多数個の切り込みが分散して付された薄膜シートと、繊維間隙の最大開孔径が150〜1000μmであって被抽出物を通し難い又は通さないが可食粉体を通す素材からなり上記切り込みが付されていない粗目繊維シートとを重ね合わせてなる多重フィルターにより形成してあり、バッグ本体は、薄膜シートを内面側に粗目繊維シートを外面側にそれぞれ配置して、面状又は線状
のシール部によって封止してあり、該シール部の縁辺に実質的に折り皺が形成されていないことを特徴とする抽出用バッグである。
【0013】
かかる抽出用バッグのバッグ本体には、被抽出物と可食粉体が封入されている。ここで被抽出物とは、湯や水等の液体に浸漬することで、含有成分をその液体に溶出させて抽出液を得ることができるものである。例えば、抽出液が緑茶又は紅茶である場合には、被抽出物は緑茶用又は紅茶用の茶葉であり、抽出液がコーヒーである場合には、被抽出物は焙煎されたコーヒー豆である。
なお、抽出液としては、上記緑茶、紅茶、コーヒー等の飲料が一般的であるが、出汁、スープ等の食品や、漢方薬抽出液等の薬剤等も含むものである。
上記バッグ本体に封入される被抽出物は、少ない量の被抽出物からより多くの量の抽出液を得るために、また、抽出時間を短縮するために、数mmから十数mm程度の大きさに粉砕しておくことが好ましい。
【0014】
また、可食粉体とは、被抽出物から抽出される抽出液中に分散又は溶解させて、抽出液に多用な味や香りを付与することができるものである。例えば、抽出液が緑茶である場合に可食粉体を茶葉微粉末とすれば、緑茶に深い香りと程良い苦味を付与することができ、抽出液がコーヒーである場合に可食粉体を砂糖微粉末とすれば、コーヒーに甘味を付与することができる。
上記バッグ本体に封入される可食粉体は、短時間で抽出液中に分散又は溶解させるために、粒子径をなるべく小さくした微粉末であることが好ましく、また、かかる微粉末を集めて粒状に固めた顆粒であってもよい。
【0015】
本発明の抽出用バッグのバッグ本体は、透液性を有し各種の被抽出物から飲料等の抽出液を抽出することができる抽出用フィルターを備えており、その抽出用フィルターの少なくとも一部は、表裏を貫通する切り込みが付された薄膜シートと切り込みが付されていない粗目繊維シートを重ね合わせてなる多重構造の抽出用フィルター(多重フィルター)とされている。
したがって、抽出用バッグのバッグ本体は、その全体が多重フィルターによって形成されていてもよく、あるいは、多重フィルターと他の抽出用フィルターを組み合わせて形成されていてもよい。また、これらの抽出用フィルターの他に、抽出用フィルターではないシート部分を備えていてもよい。
【0016】
本発明において多重フィルターの薄膜シートとは、被抽出物の微粉末や調味料の微粉末等の可食粉体を通し難い、又は通さない素材からなる薄手のシートであり、例えば、織布、不織布、紙等の繊維素材からなるシートであって、繊維間隙が小さいため、透液性を有するが可食粉体は通し難い細目繊維シートであるか、又は、透液性が無く可食粉体も通さない合成樹脂フィルム等を素材とするフィルム状シートである。
また、粗目繊維シートとは、織布、不織布、紙等の繊維素材からなるシートであって、繊維間隙が比較的大きいため、透液性を有し、さらに可食粉体を通すことができるが、茶葉等の被抽出物は通し難いものである。
【0017】
上記薄膜シートにはその表裏を貫通する切り込みが付されている。薄膜シートを構成する素材は、上述のとおり可食粉体を通し難く、又は全く通さないため、切り込みが閉じた状態であれば、可食粉体は薄膜シートを通過することは困難であるが、切り込みが拡開した状態であれば、可食粉体はその拡開部を容易に通過することが可能である。
【0018】
また、上記多重フィルターは、薄膜シートと粗目繊維シートが、単に重ね合わされただけで相互に接着されていない態様である。そのため、切り込みが付されていない粗目繊維シートが、切り込みが付された薄膜シートに対して全体的又は部分的に面接触して支持する状態(以下、単に「面接触状態」ともいう。)になっている。
【0019】
上記多重フィルターが、かかる「面接触状態」を維持している場合には、薄膜シートに対して外部から加わる種々の物理的作用が、粗目繊維シートによって緩和されるため、薄膜シートに付されている切り込みは、ほぼ閉じた状態のまま維持される。
例えば、本発明の抽出用バッグの包装時や運搬時等に、多重フィルターが抽出用バッグに封入された被抽出物等に押し付けられて変形したような場合等でも、粗目繊維シートが薄膜シートに面接触して支えるため、薄膜シートの変形の程度は緩和されて、切り込みは拡開し難く、ほぼ閉じた状態のまま維持される。そのため、バッグ本体に封入された可食粉体の漏出を抑制することができる。
特に、本発明の抽出用バッグのバック本体は、バッグ本体内に封入された被抽出物等と接触する内面側に、切り込みが付された薄膜シートが配置され、外面側に切り込みが付されていない粗目繊維シートが配置されていることから、粗目繊維シートが薄膜シートに対し、外側から覆うように全体的又は部分的に面接触して支持する状態になっている。
したがって、上記抽出用バッグによって飲料等を抽出する際に、例えば、バッグ本体を湯又は水に浸漬すると、湯又は水がバッグ本体内に流入するが、内面側の薄膜シートは、外面側の粗目繊維シートよりも湯又は水の流入方向に対して下流側に位置するため、粗目繊維シートによる支持作用を受け難い。そのため、薄膜シートの切り込みは、流入する湯又は水によって容易に押し拡げられるため、可食粉体が外部へ漏出し易くなる。
【0020】
したがって、本発明の抽出用バッグの未抽出時において、バッグ本体に封入されている可食粉体の漏出を防ぐには、多重フィルターを「面接触状態」にすればよく、そのためには、多重フィルターの薄膜シートと粗目繊維シートを、両方とも折り皺のない状態に拡げて重ね合わせる必要がある。両シートのいずれか一方又は両方に折り皺があると、その折り皺の部分において両シートが離隔してしまい、面接触状態が損なわれる恐れがあるからである。
【0021】
特に、本発明の抽出用バッグのバッグ本体を、面状又は線状のシール部によって封止して製袋する場合に、シール部の縁辺に折り皺が形成されてしまうと、その折り皺はシール部によって固定化されるため、折り皺の周辺部分では、多重フィルターの薄膜シートと粗目繊維シートが、恒久的に離隔した状態になってしまう場合がある。
したがって、バッグ本体を製袋する際には、面状又は線状のシール部の縁辺に折り皺を形成しないように封止作業を行う必要がある。
【0022】
ここで、面状のシール部による封止方法としては、例えば、2枚の多重フィルターを重ね合わせた後、熱シールバーで挟圧して面状のシール部を形成し溶着する方法や、接着剤又は接着テープを用いて面状のシール部を形成し接着する方法等がある。
また、線状のシール部による封止方法としては、例えば、2枚の多重フィルターを重ね合せた後、超音波又はレーザー光等を当てて、溶断しつつ線状のシール部を形成し溶着する方法等がある。
【0023】
なお、本発明ではシール部の縁辺に「実質的に折り皺が形成されていない」ことが必要である。例えば、シール部を形成する際の加熱によって多重フィルターの材質が少し収縮又は変形し、シール部の縁辺に微小な皺が生成することがあるが、そのような微小な皺は、上記多重フィルターの面接触状態に悪影響を及ぼさないので、本発明にいう「折り皺」には該当せず、かかる微小な皺のみが存在するシール部の縁辺の状態は、「実質的に折り皺が形成されていない」状態であると言い得る。
【0024】
本発明の抽出用バッグによって飲料等を抽出するには、例えば、被抽出物と可食粉体を封入してあるバッグ本体を湯や水に浸漬すればよい。そうすると、湯や水がバッグ本体内に流入するが、その際、湯や水は比重が大きく抵抗を生じるため、それらが薄膜シートの切り込みを押し拡げつつ通過することによって、切り込みが拡開する。したがって、バッグ本体内の可食粉体は、流入してきた湯や水の中に分散あるいは溶解し、その湯や水が対流によって拡開した切り込みを通過してバッグ本体外に流出する際に、一緒に漏出することになる。
なお、比較的大きな被抽出物は、粗目繊維シートを通過できないため、薄膜シートの切り込みの開閉にかかわらず、バッグ本体から漏出することはない。
【0025】
次に、請求の範囲の請求項2に記載する発明は、バッグ本体に封入してある可食粉体が被抽出物の微粉末であることを特徴とする請求項1に記載の抽出用バッグである。
【0026】
例えば、かかる抽出用バッグで抽出される飲料等が緑茶である場合に、可食粉体を被抽出物である茶葉の微粉末とすれば、かかる茶葉微粉末を緑茶に分散させて、深い香りと程良い苦味を付与することができる。その際、茶葉等の被抽出物の微粉末の粒子径が500μm以下であれば、素早く分散させることができるので好ましい。
【0027】
次に、請求の範囲の請求項3に記載する発明は、バッグ本体に封入してある可食粉体が調味料又は香辛料の微粉末又は顆粒であることを特徴とする請求項1に記載の抽出用バッグである。
【0028】
例えば、抽出用バッグで抽出される飲料等がコーヒーである場合に、可食粉体を調味料である砂糖の微粉末とすれば、かかる砂糖微粉末をコーヒーに溶解させて甘味を付与することができる。その際、砂糖等の調味料の微粉末の粒子径が1000μm以下であれば、素早く溶解させることができるので好ましい。
さらに、上記砂糖等の調味料の微粉末を集めて粒状に固めた顆粒であってもよい。顆粒は上記微粉末の粒子の集合物であって多孔質なので、顆粒自体の大きさにかかわらず、上記微粉末と同様に飲料等に素早く溶解させることができるからである。例えば、砂糖の顆粒(フロストシュガー)であれば、砂糖微粉末を一般的な造粒機で粒状に固めることで製造することができ、原料の砂糖微粉末と同様に、飲料等に素早く溶解させることができるものである。
また、可食粉体を香辛料であるシナモンの微粉末とすれば、かかるシナモン微粉末をコーヒーに分散させて特徴的な風味を付与することができる。その際、シナモン等の香辛料の微粉末の粒子径が500μm以下であれば、素早く分散させることができるので好ましい。
【0029】
次に、請求の範囲の請求項4に記載する発明は、多重フィルターは薄膜シートと粗目繊維シートを重ね合わせて部分接着してあること特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の抽出用バッグである。
【0030】
かかる多重フィルターの薄膜シートと粗目繊維シートの部分接着は、重ね合わせた両シートの対向する面同士を、点着け又は線着け等により部分的に接着すればよいが、その接着箇所は、薄膜シートに付された切り込みの、飲料等の抽出時における拡開動作を阻害しないような位置や大きさに配設することが望ましい。接着箇所の位置や大きさによっては、薄膜シートの切り込みの周辺部について動作の自由度が阻害され、拡開動作が困難になる場合があるからである。
また、薄膜シートと粗目繊維シートの部分接着の方法は、特に限定されず、例えば、両シートが熱可塑性樹脂素材からなる場合には、重ね合せた両シートを熱エンボス加工により部分溶着することができる。また、両シートの間に部分的に接着剤を塗布して押圧することにより部分接着することも可能である。
【発明の効果】
【0034】
請求項1に記載する抽出用バッグによれば、被抽出物と可食粉体を封入してある抽出用バッグの外装材による包装時、又は抽出用バッグの運搬時等の飲料等の未抽出時には、
粗目繊維シートが薄膜シートを外側から全体的又は部分的に面接触して支持するため、薄膜シートの切り込みは拡開し難く、可食粉体の漏出を抑制することができる。したがって、可食粉体の漏出による原料ロスがなく、また、抽出用バッグの包装装置を汚したり、抽出用バッグの外周面を汚したりし難いものである。
さらに、かかる抽出用バッグによれば、飲料等の抽出時には、
上述のとおり薄膜シートは粗目繊維シートによる支持作用を受け難いため、薄膜シートの切り込みは容易に拡開し、飲料等に可食粉体を容易に分散又は溶解させて漏出させることができる。したがって、例えば、茶葉微粉末を分散させて風味を向上させた緑茶や、砂糖を溶解させて甘味を付与したコーヒー等を容易に素早く作ることができる。
さらに、かかる抽出用バッグは、外面側の粗目繊維シートが内面側の薄膜シートを覆った状態となっているので、外部から薄膜シートの切り込みを見え難くすることができ、見栄えの良い製品とすることができる。
【0035】
請求項2に記載する抽出用バッグによれば、例えば、抽出用バッグで緑茶を抽出する場合に、そのバッグ本体を湯又は水に浸漬するだけで、茶葉微粉末を緑茶に容易に素早く分散させて、緑茶の風味を向上させることができる。
【0036】
請求項3に記載する抽出用バッグによれば、例えば、抽出用バッグでコーヒーを抽出する場合に、そのバッグ本体を湯又は水に浸漬するだけで、砂糖等の調味料をコーヒーに容易に素早く溶解させて風味を調整することができる。また、シナモン等の香辛料の微粉末をコーヒーに容易に素早く分散させて特徴的な風味を付与することができる。
【0037】
請求項4に記載する抽出用バッグによれば、多重フィルターの薄膜シートと粗目繊維シートを部分接着することにより一体化してあるため、両シートを単に重ね合せただけの場合に比べ、多重フィルターの強度が向上し、さらに、抽出用バッグの製袋時等における取り扱いが容易である。また、上述の粗目繊維シートが薄膜シートに全体的又は部分的に面接触して支える面接触状態を、より確実に作出して維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、添付の図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0041】
まず、本発明の抽出用バッグに用いる多重フィルター1の一実施形態を、
図1に基づき説明する。
多重フィルター1は、飲料等の抽出に好適な抽出用フィルターであり、薄膜シート2と粗目繊維シート3とが重ね合わされ長尺の帯状に形成されている。なお、
図1では、多重フィルター1の構成を理解し易く表現するために、薄膜シート2及び粗目繊維シート3を長方形とし、さらに左斜め方向にずらした態様として描写してある。
【0042】
上記薄膜シート2は、可食粉体を通し難い、又は通さない素材からなる薄手のシートであり、細目繊維シートあるいはフィルム状シート等により構成されている。
また、薄膜シート2には、その表裏を貫通する切り込み4が形成されている。
図1に示す本実施形態の切り込み4は、一辺10mmの枡目に入る程度の大きさのX字形であり、多数個がほぼ等間隔かつ規則的に配設されている。
【0043】
上記薄膜シート2を構成する細目繊維シートとは、合成繊維又は天然繊維が織り合わされ、あるいは絡み合わされ、全体として薄いシート状に成形された織布、不織布、紙等の繊維素材からなるシートであり、その繊維間隙の最大開孔径は200μm以下であることが好ましい。このような比較的小さな繊維間隙であれば、可食粉体の通過を効果的に抑制できるからである。
【0044】
例えば、細目繊維シートが不織布である場合には、可食粉体の通過抑制機能と、コスト低減の観点から、繊度は4.0デニール以下であることが好ましく、目付は3〜50g/m
2であることが好ましい。
かかる不織布の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系繊維、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、脂肪族ポリエステル系又は芳香族ポリエステル系の生分解性繊維等の短繊維又は長繊維が使用でき、さらに、鞘がポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステル等で、芯がポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等からなる芯鞘構造の複合繊維等を使用することができる。
また、かかる不織布の製造方法としては、特に限定されず、公知のスパンボンド法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンレース法、エアレイド法、カーディング法等が適用できる。
【0045】
上記細目繊維シートが織布である場合、その織糸の材質として、一般的な織布用の長繊維を用いることができるが、多重フィルター1を抽出用バッグ5に製袋する際の、熱シール、溶断シール特性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル系又は芳香族ポリエステル系の生分解性繊維等が好適に使用できる。
また、織糸の形態として、モノフィラメント、マルチフィラメント、2種類の樹脂を組み合わせた芯鞘構造の複合繊維、紡績糸等を使用することができる。
【0046】
次に、薄膜シート2を構成するフィルム状シートとは、加熱溶融した合成樹脂を薄く延展してフィルム状とした合成樹脂フィルム、あるいは、不織布等の合成繊維シートを、熱プレス加工して繊維間隙をほぼ閉塞させてフィルム状とした合成樹脂フィルム等からなるシートであり、一般に透孔を有しないため、液体も可食粉体も通さないものである。
かかるフィルム状シートの材質としては、耐熱水性に優れたものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、脂肪族ポリエステル系又は芳香族ポリエステル系の生分解性樹脂等が使用できる。
【0047】
なお、
図1に示す多重フィルター1の薄膜シート2は、メルトブロー不織布からなる細目繊維シートであり、材質はポリエチレンテレフタレート、繊度は0.6デニール、目付は5g/m
2、繊維間隙の最大開孔径は120μmである。
【0048】
また、本発明における繊維間隙の最大開孔径は、バブルポイント法(JIS K 3832)による測定値である。具体的には、試料を2−プロパノール中に浸漬して、毛細管現象により試料の全細孔に2−プロパノールが入っている状態にし、次いで、試料の下面側から次第に空気圧をかけていき、気体圧力が細孔内の液体表面張力に勝り、気泡が生ずる時の気体圧力を測定する。最初に気泡が生ずるのは最大開孔径部分からなので、その時の気体圧力を測定することにより、最大開孔径を算出することができる。
【0049】
次に、多重フィルター1の粗目繊維シート3は、合成繊維又は天然繊維が織り合わされ、あるいは絡み合わされ、全体として薄いシート状に成形された織布、不織布、紙等の繊維素材からなるシートであり、繊維間隙が比較的大きいため、透液性を有すると共に、可食粉体を通すことができるものである。
かかる粗目繊維シートの繊維間隙の最大開孔径は、通過させるべき可食粉体の大きさによるが、上記細目繊維シートの繊維間隙の最大開孔径(200μm以下)よりも大きく、かつ150〜1000μmであることが好ましい。
【0050】
また、粗目繊維シート3は、抽出用バッグを製袋するために必要な破断強度を有することと、コストを低減する観点から、粗目繊維シート3が織布の紗である場合は、繊度15〜40デニール、目付10〜40g/m
2であることが好ましく、粗目繊維シート3が不織布である場合は、繊度1.2〜8デニール、目付10〜40g/m
2であることが好ましい。
かかる紗又は不織布の材質としては、上記薄膜シート2を構成する細目繊維シートと、ほぼ同様の合成繊維等を用いることができるが、抽出用バッグを製袋する際に高い熱シール強度を得るために、薄膜シート2との溶着相性が良い材質を採用することが好ましい。
また、薄膜シート2と粗目繊維シート3の材質として、相互に融点が異なるものを採用すれば、熱シール加工時に、低い融点のシートのみを溶解させて接着材として機能させることにより、熱シール加工を容易かつ確実に行うことができるため好ましい。
【0051】
なお、
図1に示す多重フィルターの粗目繊維シート3は、紗であり、織糸の材質はポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステル、繊度は25デニール、目付は21g/m
2、繊維間隙の最大開孔径は220μmである。
【0052】
図1に示す多重フィルター1は、薄膜シート2と粗目繊維シート3とを、単に重ね合わせただけで相互に接着されていない態様である。そのため、切り込みが付されていない粗目繊維シート3が、切り込み4が付された薄膜シート2に全体的又は部分的に面接触して支持する状態(面接触状態)になっている。
このような面接触状態であれば、薄膜シート2に対して外部から加わる種々の物理的作用が、粗目繊維シート3により緩和されるため、薄膜シートに付されている切り込み4は、ほぼ閉じた状態のまま維持される。例えば、多重フィルター1を用いて製袋した抽出用バッグ5の包装時や運搬時等に、抽出用バッグ5の壁面(多重フィルター1)が、外部からの押圧力等を受けて変形したような場合でも、粗目繊維シート3が薄膜シート2に面接触して支えるため、薄膜シート2の変形の程度は緩和されて、切り込み4は拡開し難く、ほぼ閉じた状態のまま維持される。そのため、抽出用バッグ5に封入された可食粉体の漏出を抑制することができる。
【0053】
次に、上記多重フィルター1を用いて製造した本発明の抽出用バッグ5の一実施形態を、
図2に基づき説明する。
抽出用バッグ5は、
図1に示す多重フィルター1を用いて高さ50mmのテトラ形(4面体形)に製袋されたバッグ本体6と、抽出用バッグ5を使用する際に、指先で摘まみ上げるためのタグ8と、一端がバッグ本体6の一頂点部に接着され、他端がタグ8に接着された吊糸7とからなる。
バッグ本体6は、多重フィルター1の薄膜シート2を内面側に配置し、粗目繊維シート3を外面側に配置して製袋され、バッグ本体6内には、被抽出物として数mm程度の大きさに粉砕された緑茶用茶葉(1.8g)と、可食粉体として粒子径約150μmの大きさに磨砕された茶葉微粉末(0.2g)が封入されている。
【0054】
なお、抽出用バッグ5の形態は、
図2に示すものに限らず、例えば、バッグ本体6の形状をピラミッド形状又は矩形平袋状(
図8参照)にしてもよい。また、抽出用バッグ5の形態を、コーヒーを高圧の湯で抽出するコーヒー高圧抽出装置に用いる円形平袋状のカフェポッド(
図9参照)にすることも可能である。
【0055】
また、バッグ本体6に封入される被抽出物は、上記の緑茶用茶葉に限らず、例えば、紅茶、ほうじ茶、烏龍茶、杜仲茶等の茶葉、麦茶用の焙煎大麦、焙煎コーヒー豆、鰹節、鯖節等の削り節、だし昆布、煮干、漢方薬等を採用することができる。
さらに、バッグ本体6に封入される可食粉体は上記の茶葉微粉末に限らず、砂糖、低カロリー甘味料、クリーミングパウダー、低カロリークリーミングパウダー、ココア、カラメル、食塩、旨味調味料等の調味料の微粉末又は顆粒、あるいは、シナモン、バニラビーンズ、コショウ、唐辛子、各種ハーブ等の香辛料の微粉末等を採用することができる。
【0056】
また、バッグ本体6に封入される被抽出物と可食粉体の組み合わせとしては、本実施形態の緑茶用茶葉と茶葉微粉末の他に、紅茶用茶葉又は焙煎コーヒー豆と砂糖微粉末又はクリーミングパウダー微粉末の組み合わせ、焙煎コーヒー豆とココア微粉末又はシナモン微粉末の組み合わせ、麦茶用の焙煎大麦とカラメル顆粒の組み合わせ、出汁用の鰹節と食塩微粉末又は旨味調味料微粉末の組み合わせ等が挙げられる。
【0057】
バッグ本体6の製袋方法は、例えば、連続した長尺の薄膜シート2と粗目繊維シート3を折り皺のない状態に拡げて重ね合わせた多重フィルター1を原反とし、これを所定形状に切断及び成形して茶葉及び茶葉微粉末を充填した後、開口部分(図示せず)に超音波を当てて線状のシール部(溶着部)Sを形成し封止すればよい。また、連続した長尺の薄膜シート2と粗目繊維シート3を、同時に製袋充填装置にセットし、両シートに折り皺が付かないように重ね合わせながら製袋することもできる。
【0058】
なお、バッグ本体6の製袋時に開口部分を封止する方法として、上記の超音波シールによる方法の他、例えば、開口部分を熱シールバーで挟圧して面状のシール部を形成し溶着する方法、開口部分に接着剤又は接着テープを塗布又は貼着して面状のシール部を形成し接着する方法、さらに、開口部分にレーザー光等を照射して線状のシール部を形成し溶着する方法等を採用することができる。
【0059】
上記バッグ本体6の線状シール部Sを形成する際には、線状シール部Sの縁辺Saに折り皺が形成されないように注意する必要がある。線状シール部Sの縁辺Saに折り皺が形成されると、その折り皺は線状シール部Sによって固定化されるため、その折り皺の周辺部分において、多重フィルター1の薄膜シート2と粗目繊維シート3が恒久的に離隔した状態となり、上述の薄膜シート2と粗目繊維シート3の面接触状態が損なわれる恐れがあるからである。
【0060】
次に、抽出用バッグ5の機能を、
図2及び
図3に基づき説明する。
図2に示すように、抽出用バッグ5のバッグ本体6は、その外面側に粗目繊維シート3が配置され、内面側に薄膜シート2が配置されていることから、いわば、切り込みが付されていない粗目繊維シート3が、切り込み4が付された薄膜シート2を、外側から覆うように全体的又は部分的に面接触して支持する状態となっている。
【0061】
したがって、抽出用バッグ5の未使用時、すなわち緑茶の未抽出時においては、例えば、運搬時等にバッグ本体6に何らかの外力が加わり、その内面側の薄膜シート2が、封入されている茶葉等に押し付けられて変形したような場合でも、薄膜シート2を粗目繊維シート3が外面側から支持するため、薄膜シート2の変形の程度は緩和され、切り込み4は拡開し難くほぼ閉じた状態のまま維持される。したがって、バッグ本体6からの茶葉微粉末の漏出を抑制できる。
また、抽出用バッグ5は、バッグ本体6の外面側の粗目繊維シート3が、内面側の薄膜シート2を覆っているので、薄膜シート2の切り込み4は外部から見え難くなっており、外観上美しいものである。
【0062】
抽出用バッグ5を使用して緑茶を抽出するには、例えば、指先でタグ8を持ち、湯の入ったカップにバッグ本体6を数秒から数分間浸漬し、バッグ本体6内の茶葉から飲料成分を抽出させればよく、抽出後には、タグ8を持ち上げてバッグ本体6をカップから引き上げればよい。
このように、バッグ本体6を湯に浸漬すると、湯がバッグ本体6内に流入して茶葉に吸収されるが、その際、湯は比重が大きく抵抗を生じるため、湯が薄膜シート2の切り込み4を押し拡げつつ通過することにより、
図3に示すような拡開部9が形成される。したがって、茶葉微粉末は、バッグ本体6内に流入した湯の中に分散し、その湯が対流して拡開部9を通過してバッグ本体6外に流出する際に、一緒に漏出することになる。
また、タグ8を持つ指先を上下させて、バッグ本体6を湯中で揺り動かし、バッグ本体6内外の湯に乱流を生じさせれば、さらに多くの茶葉微粉末を漏出させることができる。その際、茶葉微粉末よりも大きな茶葉は、粗目繊維シート3を通過し難いため、薄膜シート2の切り込み4の開閉にかかわらず、バッグ本体6からほとんど漏出することはない。
【0063】
なお、抽出用バッグ5のバッグ本体6内に、茶葉等に代えて、例えば、被抽出物として麦茶用の焙煎大麦と可食粉体としてカラメル顆粒を封入する場合や、被抽出物として出汁用の昆布と可食粉体として粉末しょうゆを封入する場合等には、バッグ本体6を沸騰させた熱湯に浸漬して、麦茶や出汁を煮出すように抽出することもできる。
【0064】
次に、本発明の抽出用バッグに用いる多重フィルターの他の実施形態を、
図4〜6に基づき説明する。
図4に示す多重フィルター1は、上記の
図1に示す実施形態と同様に、薄膜シート2と粗目繊維シート3とが重ね合わされ長尺の帯状に形成されている。
薄膜シート2は、
図1の実施形態と同じメルトブロー不織布であるが、その表裏を貫通して形成された切り込み4は、多重フィルター1の長手方向に沿って形成された、長さ約12mmの直線形であって、多数個が、ほぼ等間隔かつ規則的に配設されている。
また、粗目繊維シート3も
図1の実施形態と同じ紗であり、薄膜シート2と粗目繊維シート3とは、熱エンボス加工により形成された、多数の点溶着部である接着部10により部分接着されている。かかる接着部10は、
図4及びそのA−A矢視断面図である
図5に示すように、切り込み4と交互に配設されている。
【0065】
かかる実施形態の多重フィルター1は、薄膜シート2と粗目繊維シート3とが部分接着され、一体化されているため、強度が高く、また、抽出用バッグ5の製袋工程等における機械適性に優れ扱い易いものである。
さらに、薄膜シート2の切り込み4が、多重フィルター1の長手方向に沿った直線形に形成されているので、例えば、抽出用バッグ5の製袋工程等において、多重フィルター1がその長手方向に搬送される際に、搬送路との摩擦や引っ掛かりによって、あるいは、多重フィルター1の長手方向に付加される引張力によって、切り込み4が拡開してしまうといった不都合が生じ難い。
【0066】
図4に示す多重フィルター1により製袋された抽出用バッグを使用して、飲料等を抽出する場合には、上記の
図1の実施形態と同様に、バッグ本体6を湯に浸漬することにより、湯が薄膜シート2の切り込み4を押し拡げつつ通過するため、
図6に示すような拡開部9が形成される。したがって、可食粉体はバッグ本体6内に流入した湯中に分散又は溶解し、その湯が対流して拡開部9を通過しバッグ本体6外に流出する際に一緒に漏出する。
なお、薄膜シート2と粗目繊維シート3とを部分接着する各々の接着部10は、各々の切り込み4から十分に離れて配設されているため、切り込み4の拡開動作による拡開部9の形成を阻害することはない。また、接着部10の位置、大きさ、形状等は、切り込み4の拡開動作を阻害しない範囲において、適宜に変更することができる。
【0067】
次に、多重フィルター1の薄膜シート2に付する切り込み4の形態例を説明する。
切り込み4の最もシンプルな形態としては、上記のとおり、
図1に示すX字形、又は
図4に示す直線形を挙げることができるが、これらに限られるものではない。例えば、飲料等の抽出時に分散又は溶解させて漏出させる可食粉体の量を調節するために、あるいは、抽出用バッグの意匠性を高めるために、適宜に形態を選択することができる。
【0068】
かかる形態例を
図7(a)〜(e)に示す。
(a)に示す切り込み4は、3本の直線形の切り込みを、放射形に組み合わせた形態である。
(b)に示す切り込み4は、3本の直線形の切り込みを、H字形に組み合わせた形態である。
(c)に示す切り込み4は、曲線で表された波形の形態である。
(d)に示す切り込み4は、直線で表された波形の形態である。
(e)に示す切り込み4は、長短5本の直線形の切り込みを、平行に配置した形態である。
【0069】
次に、本発明の抽出用バッグの他の実施形態を、
図8及び
図9に基づき説明する。
図8に示す抽出用バッグ15は、
図1に示す多重フィルター1を用いて縦55mm×横45mmの矩形平袋状に製袋されたバッグ本体16と、抽出用バッグ15を使用する際に、指先で摘まみ上げるためのタグ18と、一端がバッグ本体16の上辺中央部に接着され、他端がタグ18に接着された吊糸17とからなる。
バッグ本体16は、2枚の多重フィルター1を、それらの薄膜シート2を内面側に、粗目繊維シート3を外面側に配して対向させ、周縁に面状シール部S1が形成されることにより封止されている。かかる面状シール部S1は、熱シールバーで多重フィルター1が挟圧されることで形成され、面状シール部S1の縁辺S1aは、ごく微細な皺以外の折り皺が形成されていない状態、つまり、実質的に折り皺が形成されていない状態とされている。
【0070】
バッグ本体16内には、被抽出物として数mm程度の大きさに粉砕された焙煎コーヒー豆(7g)と、可食粉体として粒子径約200μmの大きさに調製された砂糖微粉末(3g)及びクリーミングパウダー微粉末(3g)が封入されている。
この抽出用バッグ15は、運搬時等の未抽出時には、多重フィルター1の薄膜シート2の切り込み14がほぼ閉じた状態であるため、砂糖及びクリーミングパウダーの微粉末がバッグ本体16から漏出し難いものである。
【0071】
抽出用バッグ15を使用してコーヒーを抽出するには、前述の
図2に示す抽出用バッグ5の場合と同様に、バッグ本体16を湯に浸漬すればよい。そうすると、バッグ本体16内に湯が流入することで薄膜シート2の切り込み14が拡開し、焙煎コーヒー豆からコーヒーが抽出されると共に砂糖及びクリーミングパウダーがコーヒーに溶解し、「甘味が付与されたクリーム入りコーヒー」の状態となってバッグ本体6外に流出する。
しかし、焙煎コーヒー豆の粉砕物の粒子は、粗目繊維シート3の繊維間隙(最大開孔径220μm)よりも大きく通過し難いため、ほとんど漏出することはない。
【0072】
次に、
図9に示す抽出用バッグ25は、コーヒーを高圧の湯で抽出するコーヒー高圧抽出装置に用いる直径60mmの円形平袋状のカフェポッド(カートリッジ式バッグ)である。
この抽出用バッグ25のバッグ本体26は、2枚の多重フィルター1を、それらの薄膜シート2を内面側に、粗目繊維シート3を外面側に配して対向させ、周縁にフランジ状の面状シール部S2が形成されることにより封止されている。かかる面状シール部S2は、熱シールバーで多重フィルター1が挟圧されることで形成され、面状シール部S2の縁辺S2aは、ごく微細な皺以外の折り皺が形成されていない状態、つまり、実質的に折り皺が形成されていない状態とされている。
【0073】
バッグ本体26内には、被抽出物として数mm程度の大きさに粉砕された焙煎コーヒー豆(7g)と、可食粉体として粒子径約200μmの大きさに調製されたクリーミングパウダー微粉末(3g)、及び 粒子径約150μmの大きさに粉砕されたシナモン微粉末(2g)が封入されている。
この抽出用バッグ25は、運搬時等の未抽出時には、多重フィルター1の薄膜シート2の切り込み24がほぼ閉じた状態であるため、クリーミングパウダー及びシナモンの微粉末がバッグ本体26から漏出し難いものである。
【0074】
抽出用バッグ25を使用してコーヒーを抽出するには、抽出用バッグ25をコーヒー高圧抽出装置の所定箇所(図示せず)にセットして、抽出装置を操作すればよい。そうすると、バッグ本体26の一面側から高圧の湯が流入することで薄膜シート2の切り込み24が拡開し、焙煎コーヒー豆からコーヒーが抽出されると共に、クリーミングパウダーが溶解してシナモン微粉末が分散し、「カフェ・カプチーノ」(シナモン風味のクリーム入りコーヒー)の状態となり、バッグ本体26の他方の面からバッグ本体26外に流出する。
しかし、焙煎コーヒー豆の粉砕物の粒子は、粗目繊維シート3の繊維間隙(最大開孔径220μm)よりも大きく通過し難いため、ほとんど漏出することはない。
【実施例】
【0075】
<実施例サンプルの製作>
図1に示す多重フィルター1を用いて2種類の抽出用バッグ5の実施例サンプルA及びBを製作した。
ここで、多重フィルター1は、上述のとおり、薄膜シート2と粗目繊維シート3を接着することなく重ね合せたものである。かかる薄膜シート2は、メルトブロー不織布からなる細目繊維シートであり、材質はポリエチレンテレフタレート、繊度は0.6デニール、目付は5g/m
2、繊維間隙の最大開孔径は120μmであって、その表裏を貫通する一辺10mmの枡目に入る程度の大きさのX字形の切り込みが、多数個規則的に配設されている。また、粗目繊維シート3は紗であり、織糸の材質はポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステル、繊度は25デニール、目付は21g/m
2、繊維間隙の最大開孔径は220μmである。
【0076】
サンプルA及びBは、ともに高さ50mmのテトラ形のバッグ本体6と、バッグ本体6の一頂点部に一端が接着された吊糸7と、吊糸7の他端に接着されたタグ8とからなり、バッグ本体6内には、ともに被抽出物として数mm程度の大きさの緑茶用の茶葉(1.8g)と、可食粉体として粒子径約150μmの茶葉微粉末(0.2g)が封入されている。
サンプルAとBの相違点は、バッグ本体6の壁面の構成であり、サンプルAのバッグ本体6は、多重フィルター1の切り込み4が付された薄膜シート2を内面側に配置し、切り込みが付されていない粗目繊維シート3を外面側に配置して製袋されており、他方、サンプルBのバッグ本体6は、切り込みが付されていない粗目繊維シート3を内面側に配置し、切り込み4が付された薄膜シート2を外面側に配置して製袋されている。
【0077】
<比較例サンプルの製作>
上記の抽出用バッグの実施例サンプルAにおける多重フィルター1に替えて、X字形の切り込み4が配設された薄膜シート2のみを用い、その他はサンプルAと同じように抽出用バッグの比較例サンプルCを製作した。
また、上記比較例サンプルCにおけるX字形の切り込み4が配設された薄膜シート2に替えて、切り込みを設けていないこと以外は同じ薄膜シートを用い、その他はサンプルCと同じようにして抽出用バッグの比較例サンプルDを製作した。
さらに、上記実施例サンプルAにおける抽出用フィルター1に替えて、粗目繊維シート3のみを用い、その他はサンプルAと同じようにして抽出用バッグの比較例サンプルEを製作した。
【0078】
<試験例>
第1試験として、上記2種類の実施例サンプルA及びBと、3種類の比較例サンプルC、D及びEを用い、未抽出時におけるバッグ本体6からの茶葉微粉末の漏出量を調べる試験を行った。
試験方法は、ふるい試験機(IKA Labortechnik社製、型式HS501)の振動部に、各サンプルの吊糸7を固定して吊るし、一定方向に125Hzの振動を3分間加え、バッグ本体6から漏出して落下した茶葉微粉末の質量を測定した。試験結果を表1に示す。
【0079】
次に、第2試験として、上記第1試験と同じ2種類の実施例サンプルと3種類の比較例サンプルを用い、緑茶の抽出時における、バッグ本体6からの茶葉微粉末の漏出量を調べる試験を行った。
試験方法は、まず
図10に示すとおり、温度90℃の湯12を200ml入れた水槽(ビーカー)11内に、各サンプルのバッグ本体6を浸漬し、バッグ本体6を右回りに3回転させ、次いで左回りに3回転させ、さらに上下に10往復振とうした後、バッグ本体6を湯12から取り出した。次に、得られた緑茶を肉眼で観察し、さらに、得られた緑茶を濾過して、緑茶に含まれる茶葉及び茶葉微粉末を分離採取し、乾燥させた後に質量を測定した。試験結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1から明らかなとおり、実施例サンプルAでは、未抽出時には茶葉微粉末の漏出が見られず、抽出時には適度な濁りを呈する緑茶が得られており、全てのサンプル中で最も良好な結果であった。
また、実施例サンプルBでは、未抽出時においてわずかに茶葉微粉末の漏出が認められるが、抽出時には適度な濁りを呈する緑茶が得られており、実用上問題のない結果であった。
【0081】
他方、比較例サンプルCでは、未抽出時と抽出時の両方において、多量の茶葉微粉末と茶葉の混合物が漏出してしまい、好ましくない結果であった。
また、比較例サンプルDでは、未抽出時には、茶葉微粉末が漏出せず良好であるが、抽出時にも茶葉微粉末がわずかしか漏出せず、得られた緑茶は、ほぼ透明で濁りがほとんど無く、好ましくない結果であった。
さらに、比較例サンプルEでは、未抽出時の茶葉微粉末の漏出量が多く、好ましくない結果であった。