(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860213
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの結晶多形
(51)【国際特許分類】
C07D 491/22 20060101AFI20160202BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20160202BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20160202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
C07D491/22CSP
A61K31/4745
A61P31/12
A61P35/00
【請求項の数】8
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-514776(P2010-514776)
(86)(22)【出願日】2008年6月24日
(65)【公表番号】特表2010-531356(P2010-531356A)
(43)【公表日】2010年9月24日
(86)【国際出願番号】US2008007834
(87)【国際公開番号】WO2009002489
(87)【国際公開日】20081231
【審査請求日】2011年6月9日
【審判番号】不服2014-8403(P2014-8403/J1)
【審判請求日】2014年5月7日
(31)【優先権主張番号】60/937,098
(32)【優先日】2007年6月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507397364
【氏名又は名称】シノファーム タイワン,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCINOPHARM TAIWAN,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シュ−ピン
(72)【発明者】
【氏名】ハーン,ピン−ジー
【合議体】
【審判長】
井上 雅博
【審判官】
中田 とし子
【審判官】
瀬良 聡機
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/015259(WO,A2)
【文献】
国際公開第2006/082279(WO,A1)
【文献】
特開昭58−39684(JP,A)
【文献】
特開昭58−39683(JP,A)
【文献】
特表2000−516933(JP,A)
【文献】
Chemical & Pharmaceutical Bulletin,1991年,39(6),p.1446−1454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 201/00-521/00
A61K 6/00-49/04
CAPLUS/STN
REGISTRY/STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10.4±0.2、10.9±0.2、12.9±0.2、13.2±0.2、16.2±0.2、16.8±0.2、17.6±0.2、17.7±0.2、20.9±0.2、22.3±0.2、23.9±0.2、24.6±0.2、26.1±0.2、26.7±0.2および33.3±0.2にピークを有するX線回折パターン(2シータ度)を示す、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの結晶多形。
【請求項2】
3584±2cm-1、3253±2cm-1、1736±2cm-1、1653±2cm-1、1514±2cm-1および1173±2cm-1にバンドを有する赤外スペクトルを示す、請求項1に記載の結晶多形。
【請求項3】
請求項1に記載の結晶性の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンを製造する方法であって、
(1)酢酸で粗7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンを溶解して、溶液を調製する工程、
(2)アセトン、酢酸エチルおよびエタノールからなる群から選択されるアンチ溶媒を、工程1)の溶液に加えることにより、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの結晶を形成させてスラリーを得る工程、および
(3)工程(2)のスラリーを濾過して、結晶性の固形7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンを得る工程
を含む方法。
【請求項4】
溶解が80℃以上の温度で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程2)が0〜30℃の温度で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記の溶媒が酢酸であり、前記のアンチ溶媒がエタノールであり、前記の工程(2)が20〜30℃の温度で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記の溶媒が酢酸であり、前記のアンチ溶媒が酢酸エチルおよびアセトンからなる群から選択され、かつ前記の工程2)が0〜10℃の温度で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
有効量の請求項1に記載の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの結晶多形、および少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7−エチル−10ヒドロキシカンプトテシンの新規な結晶形、対応する医薬組成物、製造方法および/または抗ウイルスおよび/または癌関連疾患を治療するためのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イリノテカンは、ある種の癌の治療で投与される化学療法剤である。それは最も一般的に腸癌を治療するために使用される。患者に投与されると、イリノテカンは代謝してより強い活性代謝物、SN38として知られる7−エチル−10ヒドロキシカンプトテシンへと変化する。SN38それ自体は、現在、化学療法剤として研究が行われ、次の化学構造を有する。
【0003】
【化1】
医薬用途により適した、SN38の改善された形態を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
我々は、SN38の新規な結晶形、およびそれを製造する方法を見出した。
本発明の一実施形態によると、SN38の結晶多形は、10.9±0.2、13.2±0.2、23.9±0.2、および26.1±0.2にピークを有するX線回折パターン(2シータ度)を示す。
X線回折パターン(2シータ度)は、さらに10.4±0.2、16.8±0.2、17.7±0.2、24.6±0.2、および26.7±0.2のピークを有することが好ましい。
X線回折パターン(2シータ度)は、さらに12.9±0.2、16.2±0.2、17.6±0.2、20.9±0.2、22.3±0.2、および33.3±0.2にピークを有することがより好ましい。
【0005】
本発明のもう一つの実施形態によると、上記の結晶多形は、
図1に示されるX線回折パターンを示す。
本発明のさらに別の実施形態によると、上記の結晶多形は、3584±2cm
-1、3253±2cm
-1、および1736±2cm
-1にバンドを有する赤外スペクトルを示す。
該赤外スペクトルは、さらに1653±2cm
-1、1514±2cm
-1、および1173±2cm
-1にバンドを有することが好ましい。該結晶多形は、
図2に示される赤外スペクトルを有することがより好ましい。
【0006】
有効な量の上記の結晶性SN38は、少なくとも1つの医薬的に許容される担体に組み込まれて、医薬組成物を形成することができる。
【0007】
本発明のさらに別の実施形態によると、我々は、結晶性SN38を製造する方法を開発した。
該方法は、次の工程を含む:
(1)酢酸、ジメチルスルホキシド、N,N‐ジメチルアセトアミド、およびこれらの混合物からなる群から選択される溶媒に粗SN38を溶解し、溶液を調整する工程;
(2)1,2‐ジクロロエタン、アセトン、酢酸エチル、エタノール、およびこれらの混合物からなる群から選択されるアンチ溶媒を、工程1)の溶液に添加してSN38の結晶を形成させて、スラリーを得る工程;
(3)工程(2)のスラリーを濾過して、結晶性の固形SN38を得る工程。
上記の溶解工程(1)は、少なくとも80℃の温度で行うことが好ましい。工程2)は0〜30℃の温度で行われる。
【0008】
本発明を特徴づける種々の新規な特徴は、特に、本明細書に添付されてその一部を構成する特許請求の範囲に示されている。
本発明、その操作上の利点、およびその使用によって達成される特定の目的をより良く理解するために、本発明の好適な実施形態を例示および説明する図面および詳細な説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態による結晶性SN38により示されるX線粉末回折パターンを示す。
【
図2】本発明の一実施形態による結晶性SN38により示される赤外スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するためのものではない。
【0011】
実施例1
SN38(10.53g)および酢酸(158mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。混合物が澄明な溶液になったとき、1,2‐ジクロロエタン(474mL)を75℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を20〜30℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、1,2‐ジクロロエタン(53mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、6.51gのSN38を得る。
【0012】
実施例2
SN38(39.3g)および酢酸(585mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。混合物が澄明な溶液になったとき、酢酸エチル(1250mL)を75℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を0〜10℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、酢酸エチル(160mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、34.95gのSN38を得る。
【0013】
実施例3
SN38(0.5g)およびジメチルスルホキシド(5mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。混合物が澄明な溶液になったとき、1,2‐ジクロロエタン(30mL)を75℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を0〜10℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、1,2‐ジクロロエタン(15mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、0.15gのSN38を得る。
【0014】
実施例4
SN38(0.5g)および酢酸(7.5mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。その溶液を50℃に冷却し、アセトン(10mL)を50℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を0〜10℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、アセトン(10mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、0.44gのSN38を得る。
【0015】
実施例5
SN38(0.5g)およびN,N‐ジメチルアセトアミド(4mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。その溶液を35℃に冷却し、ジクロロメタン(15mL)を35℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を0〜10℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、ジクロロメタン(10mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、0.46gのSN38を得る。
【0016】
実施例6
SN38(0.5g)および酢酸(7.5mL)を適当な反応器に充填する。生じたスラリーを80℃以上に加熱し、SN38の固体がすべて溶解するまで80℃以上で撹拌する。混合物が澄明な溶液になったとき、エタノール(22.5mL)を70℃以上でゆっくりと加える。加え終わった後、混合物を20〜30℃に冷却し、この温度で1時間撹拌する。固体を濾取し、エタノール(10mL)で洗浄する。その固体を真空下に50℃で乾燥して、0.40gのSN38を得る。
【0017】
上記の各実施例で得られたSN38は、
図1に示されるX線回折パターンおよび
図2に示される赤外スペクトルを示す。
【0018】
図1を得るのに使用されたX線回折(XRD)試験の手順は次の通りである。
試験試料を粉末状にし、X線装置、Scintag X2 Advance Diffractionのトレイ上に均一に置き、連続走査速度2.00Deg./分、5.00〜40.00(Deg.)の範囲および1.540562の波長で試験した。
【0019】
図2を得るのに用いられたIR試験の手順は次の通りである。
試料を約3mg秤り、その試料を300mgの乾燥臭化カリウム中に均一に分散させ、次いで拡散反射により400〜4000cm
-1の間のスペクトルを直ちに記録した。その試料について、試験を1回行った。IR装置は、Nicolet, Magna-IR 560 Spectrometerであった。試料の走査数は32であった。バックグラウンド走査数は32であった。解像度は4であった。試料のゲインは8であった。反射速度は0.6329であった。口径は100であった。
【0020】
われわれの研究は、上記の実施例により調製された結晶性SN38の物質が、25℃および相対湿度70%の条件下で、1年間安定であるということも示した。
【0021】
本発明は、単に一例として示された上記の実施形態によって限定されるものではなく、特許請求の範囲によって定義された保護範囲内で、種々変更することができる。
【0022】
関連出願
本出願は、2007年6月25日に出願された米国仮出願第60/937,098号の優先権を主張する。米国仮出願第60/937,098号のすべての内容は、本明細書中に参照として組み込まれる。