特許第5860238号(P5860238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5860238-自動二輪車用空気入りタイヤ 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860238
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】自動二輪車用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   B60C11/00 C
   B60C11/00 D
   B60C11/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-163514(P2011-163514)
(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-28194(P2013-28194A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊辻 曜馨
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−189010(JP,A)
【文献】 特開2005−239067(JP,A)
【文献】 特開2009−067340(JP,A)
【文献】 特開2009−051313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスのタイヤ半径方向外側に配されるトレッドゴムは、トレッド面を形成するアウタートレッドゴムを含み、
このアウタートレッドゴムが、タイヤ赤道を中心として配され前記トレッド面の中央部を形成するアウタークラウンゴムと、その両側に配されるアウターショルダーゴムとからなり、
トレッド面に沿ってタイヤ軸方向に測ったとき、アウタークラウンゴムの幅が、トレッド面のトレッドエッジ間の幅の30〜80%である自動二輪車用空気入りタイヤであって、
アウタークラウンゴムのゴム硬度は、アウターショルダーゴムのゴム硬度より高く、その硬度差が3〜15度であり、
前記トレッドゴムは、各アウターショルダーゴムのタイヤ半径方向内側に位置する、インナーショルダーゴムを含み、
このインナーショルダーゴムのゴム硬度は、前記アウターショルダーゴムのゴム硬度より高く、かつ
インナーショルダーゴムは、トレッド溝の溝底に達しない厚さを有して、アウターショルダーゴムの実質的全幅に亘って延び
前記インナーショルダーゴムのゴム硬度は、アウタークラウンゴムのゴム硬度より低く、
前記インナーショルダーゴムは、該インナーショルダーゴムと同一のゴム組成物からなりかつ該インナーショルダーゴムの前記厚さより小なる厚さを有して前記アウタークラウンゴムのタイヤ半径方向内側を延びる中継ぎゴムによって接続されていることを特徴とする自動二輪車用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーショルダーゴムのゴム硬度と前記アウターショルダーゴムのゴム硬度とのゴム硬度差は、2〜8度である請求項1記載の自動二輪車用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記インナーショルダーゴムのゴム硬度は、56〜68度であり、
前記アウタークラウンゴムのゴム硬度は、59〜71度である請求項1又は2記載の自動二輪車用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記アウタークラウンゴムと前記アウターショルダーゴムとの境界は、タイヤ子午断面において、トレッド面に引いた法線に対して、トレッド面からタイヤ軸方向内方へ傾斜している請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記アウタークラウンゴムと前記アウターショルダーゴムとの境界は、タイヤ子午断面において、トレッド面に引いた法線に対して、10〜40度である請求項4記載の自動二輪車用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記中継ぎゴムのゴム厚さは、前記インナーショルダーゴムの厚さの15%〜35%である請求項1乃至5のいずれかに記載の自動二輪車用空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用空気入りタイヤに関し、特に、旋回時のグリップ性能を他の旋回時性能を犠牲にすることなく改善しうる分割多層トレッドゴムの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車は、旋回時、車体を傾けるため、それに伴ってタイヤの接地部はトレッドショルダー部に移動する。従って、旋回時に接地するトレッドショルダー部のグリップ性能を高めると同時に、直進走行時に接地するトレッドセンター部の例えば耐摩耗性能を高めるために、トレッド面を形成するトレッドゴムを、タイヤ軸方向で分割して、中央部分とその両側のトレッドショルダー部分とを異なるゴム組成物で形成することが提案されている。(例えば、下記特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特関平8‐169208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイヤ軸方向に分割されたトレッドゴムにおいて、そのトレッドショルダー部分で使用されるゴム組成物は、一般的にグリップ性能の良いもの程、複素弾性率が低く、正接損失が高い傾向にあり、ゴム硬度は低くなる。
従って、そのようなゴム組成物をショルダー部分に用い、グリップ性能を追求した場合、ゴム硬度の低下によって、以下の問題が生じる。
(1)旋回時の腰感の低下
自動二輪車は特に旋回時にトレッドショルダー部にかかる荷重が大きいが、その部分の剛性が低下することにより、旋回時の腰感が低下し、操縦安定性が低下する。
(2)旋回力の低下
自動二輪車の旋回性能を左右する力の要素として、キャンバースラストとコーナリングフォースがあり、これら旋回力は、ゴムの復元力が大きくなるほど増加するので、複素弾性率が高く、正接損失が低く、ゴム硬度の高いゴムの方が有利である。つまり、要求特性が逆であり、旋回力が低下する。
(3)過渡特性の悪化
旋回時、車体を傾け徐々にキャンバー角が増す際、異なるゴム組成物の境界部分では、ゴム硬度等の特性が変化し、過渡特性が悪化する。
従って、旋回時のグリップ性能をさらに改善する場合、これら不利益が障害となる。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、旋回時の腰感の低下や旋回力の低下、さらには過渡特性の悪化を抑えつつ、タイヤ軸方向に分割されたトレッドゴムにおける、旋回時の優れたグリップ性能をさらに改善し得る自動二輪車用空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、カーカスのタイヤ半径方向外側に配されるトレッドゴムは、トレッド面を形成するアウタートレッドゴムを含み、このアウタートレッドゴムが、タイヤ赤道を中心として配され前記トレッド面の中央部を形成するアウタークラウンゴムと、その両側に配されるアウターショルダーゴムとからなり、トレッド面に沿ってタイヤ軸方向に測ったとき、アウタークラウンゴムの幅が、トレッド面のトレッドエッジ間の幅の30〜80%である自動二輪車用空気入りタイヤであって、アウタークラウンゴムのゴム硬度は、アウターショルダーゴムのゴム硬度より高く、その硬度差が3〜15度であり、前記トレッドゴムは、各アウターショルダーゴムのタイヤ半径方向内側に位置する、インナーショルダーゴムを含み、このインナーショルダーゴムのゴム硬度は、前記アウターショルダーゴムのゴム硬度より高く、かつインナーショルダーゴムは、トレッド溝の溝底に達しない厚さを有して、アウターショルダーゴムの実質的全幅に亘って延び、前記インナーショルダーゴムのゴム硬度は、アウタークラウンゴムのゴム硬度より低く、前記インナーショルダーゴムは、該インナーショルダーゴムと同一のゴム組成物からなりかつ該インナーショルダーゴムの前記厚さより小なる厚さを有して前記アウタークラウンゴムのタイヤ半径方向内側を延びる中継ぎゴムによって接続されていることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記インナーショルダーゴムのゴム硬度と前記アウターショルダーゴムのゴム硬度とのゴム硬度差は、2〜8度である請求項1記載の自動二輪車用空気入りタイヤである。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記インナーショルダーゴムのゴム硬度は、56〜68度であり、 前記アウタークラウンゴムのゴム硬度は、59〜71度である請求項1又は2記載の自動二輪車用空気入りタイヤである。
【0009】
また請求項4記載の発明は、前記アウタークラウンゴムと前記アウターショルダーゴムとの境界は、トレッド面に引いた法線に対して、トレッド面からタイヤ軸方向内方へ傾斜している請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用空気入りタイヤである。
【0010】
また請求項5記載の発明は、前記アウタークラウンゴムと前記アウターショルダーゴムとの境界は、トレッド面に引いた法線に対して、10〜40度である請求項4記載の自動二輪車用空気入りタイヤである。
【0011】
また請求項6記載の発明は、前記中継ぎゴムのゴム厚さは、前記インナーショルダーゴムの厚さの15%〜35%である請求項1乃至5のいずれかに記載の自動二輪車用空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動二輪車用空気入りタイヤは、アウタークラウンゴムの幅が、トレッド面のトレッドエッジ間の幅の30〜80%である。また、アウタークラウンゴムが、アウターショルダーゴムよりゴム硬度が高く、その硬度差が3〜15度である。また、トレッドゴムは、各アウターショルダーゴムのタイヤ半径方向内側に位置する、インナーショルダーゴムを含み、このインナーショルダーゴムのゴム硬度は、前記アウターショルダーゴムのゴム硬度より高く、かつインナーショルダーゴムは、トレッド溝の溝底に達しない厚さを有して、アウターショルダーゴムの実質的全幅に亘って延びている。
【0013】
従って、トレッドショルダー部分では、アウターショルダーゴムのゴム硬度が低くても、ゴム硬度の高いインナーショルダーゴムによって、全体としては、必要な剛性を確保でき、旋回時の腰感の低下、旋回力の低下を抑えることができる。また、そのような全体としての剛性を確保しつつ、アウタークラウンゴムとアウターショルダーゴムとの硬度差を特定範囲に設定したことにより、アウタークラウンゴムとアウターショルダーゴムとの境界部分におけるトレッドゴムの剛性変化が減少し、過渡特性の悪化を防ぎ得る。その結果、旋回時の腰感の低下、旋回力の低下、過渡特性の悪化等の不利益に制限されることなく、グリップ性能の良いゴム組成物をアウターショルダーゴムとして用いることができ、旋回時のグリップ性能をさらに改善し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の自動二輪車用空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明の自動二輪車用空気入りタイヤの他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る自動二輪車用空気入りタイヤを、2つの実施形態とともに、図面に基づき説明する。
【0016】
<全体構成>
本発明の自動二輪車用空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2のタイヤ軸方向端からタイヤ半径方向内方にのびるサイドウォール部3と、サイドウオール部3のタイヤ半径方向内端に位置するビード部4とを具える。また、各ビード部4はその内部にビードコア5が配され、カーカス6がトレッド部2とサイドウォール部3とを通ってビード部4間をのび、ベルト7がカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2に配され、トレッドゴム8がベルト7の半径方向外側に配されている。
【0017】
トレッド部2は、自動二輪車用空気入りタイヤの一特徴として、例えば乗用車用タイヤのような他のカテゴリーのタイヤに比べて、大きく湾曲し、その結果トレッドエッジTE間に、タイヤ最大断面幅がある。このトレッドエッジTE間をトレッド面に沿って測った距離をトレッド部2の幅Wとする。また、タイヤ子午断面において、トレッドエッジTE間のトレッド面は、略単一の曲率半径の円弧で形成することができる。
【0018】
<カーカス6>
カーカス6は、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aからなり、このカーカスプライ6Aは、トレッド部2とサイドウオール部3とを通ってビード部4間を延びかつ、各ビード部4でビードコア5の廻りを折返されている。そして、その折返し部6bは、ビードエィペックスBaのタイヤ軸方向外面に沿ってタイヤ半径方向外方へ延びている。
なおビードエィペックスBaは、ビードコア5のタイヤ半径方向外側に配され、ビード部4からサイドウォール部3下部までテーパー状に延び、この領域を補強する硬質ゴム部材である。
カーカスプライ6Aは、トッピングゴムでゴム引きされたカーカスコードからなり、カーカスコードはタイヤ赤道Cに対して75〜90度の角度で配されている。カーカス6コードとしては、芳香族ポリアミド、ナイロン、レーヨン、ポリエステルなどの有機繊維コードを用いることができる。なお、軽量化のため、カーカスプライ6Aの枚数を1枚とするのが好ましく、その場合、カーカスコードはタイヤ赤道Cに対して実質的に90度の角度で配する。
【0019】
<ベルト7>
ベルト7は、少なくとも1枚のベルトプライからなる。このベルトプライとしては、ゴム引きされた平行配列の補強コードからなるストリップを、補強コードがタイヤ周方向に対して例えば0〜60度の範囲のある所定角度で、所定形状にカットしてなるいわゆるカットプライと、ゴム被覆された1本の補強コードまたは複数本の平行配列された補強コードがタイヤ周方向に対して5度以下の角度で螺旋に巻かれてなるいわゆるジョイントレスプライとが挙げられ、要求特性に応じて、それらの一方または両方を組み合わせて使用する。補強コードとしては、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、芳香族ポリアミド等の有機繊維コードが好適であるが、必要に応じてスチールコードも使用しうる。
図1図2に示されるように、本実施形態のベルト7は、カーカス6に隣接するタイヤ半径方向の内側のベルトプライ7Aとそれより幅広のタイヤ半径方向の外側のベルトプライ7Bとからなる。
【0020】
<トレッドゴム8>
トレッドゴム8は、トレッドエッジTE間のトレッド面2aを形成するアウタートレッドゴム9と、該アウタートレッドゴム9のタイヤ半径方向内側に形成されるインナーショルダーゴム10とからなる。
【0021】
アウタートレッドゴム9は、タイヤ軸方向に3分割され、タイヤ赤道Cを中心として配され前記トレッド面2aの中央部分を形成するアウタークラウンゴム9cと、その両側に配されアウタークラウンゴム9cより厚さが薄いアウターショルダーゴム9sとからなる。
トレッド面2aに沿ってタイヤ軸方向に測ったとき、アウタークラウンゴム9cの幅w1は、トレッド面のトレッドエッジTE間の前記幅Wの30〜80%に形成される必要がある。アウタークラウンゴム9cの幅w1は、前記幅Wの30%未満であると直進走行性能に関与するアウタークラウンゴム9cの配設領域が小さくなり過ぎ、逆に80%を超えると旋回力等に関与するアウターショルダーゴム9sの配設領域が小さくなり過ぎる。このような観点より、前記幅w1は、幅Wの好ましくは40%以上が望ましく、また好ましくは70%以下が望ましい。
アウターショルダーゴム9sは、前記トレッド面2aのうち、アウタークラウンゴム9cが形成する中央部分を除く残部を形成するので、トレッド面2aに沿ってタイヤ軸方向に測ったとき、各アウターショルダーゴム9sの幅w2は、前記幅Wの10〜35%である。
【0022】
アウタークラウンゴム9cのゴム硬度Hcは、好ましくは59度以上、より好ましくは63度以上が望ましく、好ましくは71度以下、より好ましくは69度以下が望ましい。前記ゴム硬度Hcが小さくなると、直進走行時の耐摩耗性能が悪化し易くなり好ましくない。逆にゴム硬度Hcが大きくなると、アウターショルダーゴム9sとの境界部分でゴム硬度の特性変化が大きくなり、過渡特性が悪化し易くなり好ましくない。
なお、前記「ゴム硬度H」は、JIS−K6253に基づきデュロメータータイプAにより測定したデュロメータA硬さである。
【0023】
また、アウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsは、好ましくは50度以上、より好ましくは53度以上が望ましく、また好ましくは64度以下、より好ましくは61度以下が望ましい。前記ゴム硬度Hsが小さくなると、上述のように、前記境界部分で過渡特性が悪化し易くなる他、旋回時の腰感や旋回力が悪下するおそれがあり好ましくない。逆にゴム硬度Hsが大きくなると、旋回時のグリップ性能が低下するおそれがあり好ましくない。
【0024】
アウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsは、グリップ性を増すために、アウタークラウンゴム9cのゴム硬度Hcよりも低い。しかし、ゴム硬度の硬度差D1が15度を超えると、インナーショルダーゴム10の配置によってトレッドゴム全体としての硬度差を減少し得たとしても、硬度差D1の増大に伴う他のゴム特性の変化が大きくなり、その結果、接地性や操縦性等の特性変化が大きくなり好ましくない。しかしながら、ゴム硬度の硬度差D1が3度未満になると、硬度差D1を設けた効果が発揮されず、旋回力や旋回時の腰感を向上させることができない。従って、アウターショルダーゴム9sとアウタークラウンゴム9cとの硬度差D1は、3〜15度に設定される必要があり、好ましくは5度以上、また好ましくは12度以下が望ましい。
【0025】
アウタークラウンゴム9cとアウターショルダーゴム9sとの境界は、トレッド面2aからタイヤ軸方向内方(タイヤ赤道側)へ傾斜している。タイヤ子午断面において、その傾斜角度θ1は、トレッド面に引いた法線nに対して10〜40度程度に設定されるのが、接合面積を確保し、剥離を防ぐ点で好ましい。
またアウターショルダーゴム9sのトレッドエッジ側の端面9seも、タイヤ軸方向内方へ傾斜している。
【0026】
インナーショルダーゴム10は、各アウターショルダーゴム9sのタイヤ半径方向内側に配される。
【0027】
インナーショルダーゴム10のゴム硬度Hiは、好ましくは56度以上、より好ましくは60度以上が望ましく、また好ましくは68度以下、より好ましくは65度以下が望ましい。前記ゴム硬度Hiが小さくなると、アウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsを小さくしたことと相まって、旋回時の腰感や旋回力を向上させる効果を発揮できず好ましくない。逆に、ゴム硬度Hiが大きくなると、旋回時のグリップ性能が悪化し易くなり好ましくない。
【0028】
アウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsを小さくしたことに伴いトレッドショルダー部の剛性低下を補うため、インナーショルダーゴム10のゴム硬度Hiは、アウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsより高くする。しかし、インナーショルダーゴム10のゴム硬度Hiとアウターショルダーゴム9sのゴム硬度Hsとのゴム硬度差D2が8度を超えるとインナーショルダーゴム10がつぶれてしまい、旋回力や旋回時の腰感がかえって悪化し易くなり好ましくない。しかしながら、逆にゴム硬度差D2が小さくなると、トレッドショルダー部の剛性低下を補うことができない。従って、前記ゴム硬度差D2は、2〜8度が望ましい。
【0029】
インナーショルダーゴム10は、トレッド溝(図示せず)の溝底に達しない厚さt2を有して、アウターショルダーゴム9sの実質的全幅に亘って延びている。換言すれば、インナーショルダーゴム10が配される領域のタイヤ半径方向外側にトレッド溝が設けられる場合は、そのトレッド溝の溝深さは、アウターショルダーゴム9s厚さt3の範囲に設定される。インナーショルダーゴム10がトレッド溝に達すると、トレッドショルダー部の剛性が高くなりすぎて路面への追随性が低下するおそれがある。また、軟らかいアウターショルダーゴム9sが硬いインナーショルダーゴム10に乗っているので、アウターショルダーゴム9sが溝底を起点として剥離するおそれが大きくなるため、好ましくない。
【0030】
インナーショルダーゴム10のトレッドエッジ側の端面10eを、アウターショルダーゴム9sのトレッドエッジ側の前記端面9seと整一させ、両端面10e、9seを、エッジカバーゴム14で覆うのが好ましい。
エッジカバーゴム14は、前記両端面10e、9seと接合するタイヤ軸方向内面14iと、トレッドエッジTEからタイヤ半径方向内方へ延びサイドウォール部3外面のタイヤ半径方向外端部分を形成するタイヤ軸方向外面14oと、それら内面と外面との間を延びるタイヤ半径方向内面14sとからなる略三角形の断面形状を有する。
【0031】
<実施形態1>
本発明では、前述のようにインナーショルダーゴム10は、各アウターショルダーゴム9sのタイヤ半径方向内側に位置するが、図1に示すように、該インナーショルダーゴム10と同一のゴム組成物からなりかつ該インナーショルダーゴム10の前記厚さt2より小なる厚さt1を有して前記アウタークラウンゴム9cのタイヤ半径方向内側をタイヤ軸方向に延びる中継ぎゴム11によって両側のインナーショルダーゴム10を接続し、全体としてトレッド部2の実質的全幅をカバーするように構成することができる。このような中継ぎゴム11のゴム厚さt1としては、直進走行と旋回走行とをバランス良く確保する観点よりインナーショルダーゴム10の厚さt2の好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上が望ましく、また好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下が望ましい。
【0032】
この場合、インナーショルダーゴム10のゴム硬度Hiをアウタークラウンゴム9cのゴム硬度Hcより低くして、中継ぎゴム11による、トレッドゴム8全体としての中央部分の剛性の増加を抑え、境界部分のタイヤ軸方向内外での剛性変化を小さくすることができる。具体的には、ゴム硬度が
アウタークラウンゴム>インナーショルダーゴム>アウターショルダーゴム
の関係を満たすように設定する。これは直進走行から旋回またはその逆の移行時における過渡特性の改善に役立つ。なお、前記「実質的全幅」とは、トレッド面2aに沿ってタイヤ軸方向に沿って測った前記インナーショルダーゴム10の幅w3が、前記トレッド部2の幅Wの100%の幅を有す場合のみならず、前記幅Wの90%以上の幅を有する場合も含む。
【0033】
また、トレッドショルダー部の剛性とグリップ性能とを確保する観点より、インナーショルダーゴム10の厚さt2は、該インナーショルダーゴム10の厚さt2とアウターショルダーゴム9s厚さt3とを合わせたトレッドゴム8の全厚さ(t2+t3)の好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上が望ましく、また好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下が望ましい。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2では、前述の実施形態1とは異なって前記中継ぎゴム11が無く、図2に示すように、インナーショルダーゴム10は、タイヤ軸方向に分離している。そして、各インナーショルダーゴム10は、そのタイヤ軸方向内端面が、前記アウタークラウンゴム9cのタイヤ軸方向外端面に接している。
インナーショルダーゴム10が薄すぎると補強効果が無いので、その厚さt2は、前記トレッドゴム8の全厚さ(t2+t3)の10%以上、より好ましくは20%以上とするのが望ましい。なお、インナーショルダーゴム10の厚さt2が大きくなると、グリップ性が発揮され難くなるため、前記厚さt2は、全厚さ(t2+t3)の40%以下、より好ましくは35%以下とするのが望ましい。
本実施形態2の場合、中継ぎゴム11による中央部分での剛性の低下が無いので、過渡特性改善の観点からは、実施形態1とは異なり、ゴム硬度が
インナーショルダーゴム>アウタークラウンゴム>アウターショルダーゴム
の関係を満たすように設定することもできるが、直進走行時の耐摩耗性や操縦安定性などの特性改善に重点を置き、ゴム硬度の関係を
アウタークラウンゴム>インナーショルダーゴム>アウターショルダーゴム
の関係を満たすように設定することもできる。
【0035】
<製造方法>
トレッドゴム8の製造方法の一例として、各ゴム組成物を例えばゴム押し出し機及び/又はカレンダーロールで所定断面形状を有するゴムストリップに成形して、それをドラム上で貼り合わせることで形成することができる。
また、形成する目的ゴム部材に比してサイズ、特に幅の小なるゴムテープを多数回重ね巻きすることで形成するいわゆるテープワインド法あるいはストリップワインド法を採用して、各ゴム組成物からなるゴムテープを順次、例えばトロイド状に成形されたカーカスプライ6Aとベルト7とからなる構造体の周囲に直接、巻き重ねることで形成することもできる。なお、過渡特性を小さくするため、中継ぎゴム11においてもゴムテープを隙間なく巻くことが望ましい。
【0036】
以上、本発明の好ましい一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、種々の実施形態を採り得る。
例えば、前記トレッドゴム8のタイヤ半径方向内側で、いわゆるキャップ/ベーストレッド構造におけるベーストレッドゴム8、即ち、キャップトレッドゴム8とカーカス6−ベルト7構造体との間の接着性改善や低内部損失による燃費改善を目的とする比較的低弾性率かつ低正接損失のゴム層を併用することもできる。
【実施例】
【0037】
本発明の効果を確認するために、タイヤサイズが185/55R17M/Cのツーリングカテゴリーのテストタイヤを試作し、下記テストが実施された。表1及び表2に示すパラメータ以外は実質的に共通である。主な共通仕様は、次の通りである。
【0038】
カーカスプライ数:1枚
カーカスコード材料:ポリエステル
カーカスコード角:90°(対タイヤ赤道)
ベルトプライ数:2枚
ベルトコード材料:スチール
ベルトコード角:+20°、−20゜(対タイヤ赤道)
内圧:290kPa
乗員:ライダー1名のみ
【0039】
<旋回時の腰感、過渡特性及び旋回グリップ性>
下記仕様にて、リムにリム組みしかつ内圧を充填した上記タイヤを装着した排気量600ccの自動2輪車にて、乾燥アスファルト路タイヤテストコースを走行させ、旋回時の腰感、過渡特性及び旋回グリップ力が、旋回時のふらつき感、キャンバー角を滑らかに変化させ得るか、グリップレベルや限界レベルを基にドライバーの官能により評価された。結果は、旋回時の腰感及び旋回力については、比較例1及び5を100、また旋回グリップ性及び過渡特性については、実施例3及び24を100とする指数で表示された。数値が大きいほど良好である。
リムサイズ:17×MT3.50
内圧:230kPa
【0040】
<旋回力>
室内用のタイヤコーナリング試験機を用い、縦荷重(1.3kN)における上記タイヤのコーナリングパワーが測定され、比較例1を100とする指数で表示された。数値が大きいほどコーナリングパワーの値が高く、旋回力が大きいことを示す。
【0041】
表1は、図1の構造を基本としてゴム硬度、厚さ、幅を変化させたテストタイヤの評価結果を示している。テストの結果が表1に示される。
【0042】
【表1】
【0043】
表2は、図2の構造を基本としてゴム硬度、厚さ、幅を変化させたテストタイヤの評価結果を示している。アウタークラウンゴム9cのゴム硬度Hcは、67度、アウタークラウンゴム9cの幅w1は、トレッドエッジTE間の幅Wの60%である。テストの結果が表2に示される。
【0044】
【表2】
【0045】
何れの構造においても、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して旋回時の腰感、旋回力、過渡特性及び旋回グリップ性を最も良好に保つことが出来た。
【符号の説明】
【0046】
1 自動二輪車用空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
7 ベルト
8 トレッドゴム
9 アウタートレッドゴム
9c アウタークラウンゴム
9s アウターショルダーゴム
10 インナーショルダーゴム
11 中継ぎゴム
14 エッジカバーゴム
TE トレッドエッジ
図1
図2