(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860770
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】たて管更新方法
(51)【国際特許分類】
F16L 1/00 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
F16L1/00 C
F16L1/00 T
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-128014(P2012-128014)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-253618(P2013-253618A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−67847(JP,A)
【文献】
特開2010−203508(JP,A)
【文献】
特開2011−256998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブの貫通孔に固定された管継手と、前記管継手に接続された既設たて管とを更新するたて管更新方法であって、
前記既設たて管を前記管継手の上下で切断して撤去する工程と、
前記管継手と前記貫通孔との間を充填するモルタル部に複数のアンカー用下孔を穿孔する工程と、
各アンカー用下孔に、雄ねじ部を有するアンカー材を固定する工程と、
複数の取付穴を備えた連結プレートに、前記アンカー材の上部を挿通させ、ナット締結する工程とを含み、
前記連結プレートを持ち上げて前記管継手をモルタル部とともに床スラブから引抜き除去することを特徴とするたて管更新方法。
【請求項2】
請求項1に記載のたて管更新方法において、
前記アンカー材は前記管継手よりも上方に突出する長さを有し、前記連結プレートを前記管継手の上部に配設して前記アンカー材と緊結することを特徴とするたて管更新方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のたて管更新方法において、
前記床スラブと連結プレートとの間にジャッキを設置し、該ジャッキを作動させて前記連結プレートを引き上げることを特徴とするたて管更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床スラブを貫通して設けられているたて管の更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複層からなる建築物において、給排水管や配電管等の配管設備は、床埋め込み配管、天井内配管、又はパイプシャフト等のたて穴配管により設けられることが多いが、床スラブや壁などの構造躯体に貫通させて設けられることもある。
【0003】
例えば、床スラブに貫通させて設けるたて管の場合、予めコンクリートの床スラブに形成された貫通孔にたて管が挿通され、たて管と貫通孔との間隙がモルタルで埋められて固定されている。
【0004】
集合住宅や高層ホテル等における排水設備配管の場合には、上階と下階との間のコンクリートスラブに貫通して排水継手が設置される。排水継手は、排水たて管と横枝管との合流管継手であり、例えば特許文献1に開示されるように、各設備機器からの排水を合流させて下階の排水たて管に流入させる。この種の管継手は、コンクリートスラブの貫通孔に通され、支持架台等により支持されて固定されている。また、コンクリートスラブの貫通孔には、管継手の胴部が通されて、ロックウールやモルタル等の不燃材料が充填されている。
【0005】
このような床スラブを貫通する配管設備を更新する際には、既設のたて管等を撤去して新規の管に取り替えることが行われる。例えば前記特許文献1では、排水継手に接続する排水たて管を上方へ移動させ、かつ傾斜させて排水継手から取り外し、新たな排水たて管を接続して更新する方法が開示されている。
【0006】
また、床スラブに直接固定されているたて管部分の更新は、特許文献2に開示されるように、床スラブの上下で既設のたて管を切断し、ダイヤモンドカッター等を用いて、たて管周囲のコンクリートスラブやモルタル等を破壊して、たて管を取り除く方法によりなされている。また、特許文献3に開示されるように、配管抜き取り工具を使用して、床スラブに固定されているたて管部分を除去する方法もある。この配管抜き取り工具は、既設管の外周面を保持するコマと、既設管とコマとを保持する管ホルダと、管ホルダに連結されたシリンダ用シャフトと、油圧によりシリンダ用シャフトを上方向に持ち上げるシリンダと、シリンダを保持するシリンダホルダとを備えて構成されている。
【0007】
床スラブからたて管を除去した後には、床スラブに露出した貫通孔の周囲のコンクリート又はモルタルを、ノミ及びハンマー等の工具を使用して破壊し、新規の管を取り付けるための拡径処理を行う。次いで、貫通孔に新規の管を配設し、管周囲と貫通孔との間隙にモルタルを埋め戻して固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−174306号公報
【特許文献2】特開2007−138428号公報
【特許文献3】特開2010−203508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
床スラブに固定された管継手においても、既設たて管と同様に老朽化が進み、更新の必要な場合がある。このような場合、管継手とたて管との接続部分も、腐食等により劣化していることが多い。すなわち、通常、管継手とたて管とは、管継手内周面の雌ねじ部と、たて管外周面の雄ねじ部とのねじ接合、シールゴムを介したラバージョイント接合、又はフランジ接合等により接続されおり、これらの接続部分が経年劣化により脆くなっている。そのため、例えば前記特許文献3に開示される方法によってたて管を引抜いたとしても、その引抜き力によって、接続部分が破損してしまい、管継手からたて管だけが離脱してしまったり、管継手が破損してしまったりして、床スラブに管継手の胴部が残存することとなる。床スラブに残存した管継手を除去するには、管継手周囲のコンクリートやモルタル等の破壊作業が必要となり、その結果、粉塵が飛散し、大きな騒音や振動を発生させてしまうといった問題点があった。
【0010】
本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、床スラブを貫通する既設たて管及び管継手を、粉塵の飛散、騒音、及び振動等の各種の問題点を生じることなく、効率よく安全な作業により除去し、これらを更新することを可能するたて管更新方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、床スラブの貫通孔に固定された管継手と、前記管継手に接続された既設たて管とを更新するたて管更新方法を前提とする。このたて管の更新方法に対し、前記既設たて管を前記管継手の上下で切断して撤去する工程と、前記管継手と前記貫通孔との間を充填するモルタル部に複数のアンカー用下孔を穿孔する工程と、各アンカー用下孔に、雄ねじ部を有するアンカー材を固定する工程と、複数の取付穴を備えた連結プレートに、前記アンカー材の上部を挿通させ、ナット締結する工程とを具備させ、前記連結プレートを持ち上げて前記管継手をモルタル部とともに床スラブから引抜き除去する構成としている。
【0012】
この特定事項により、床スラブに固定された管継手をモルタル部とともに引抜き、管継手を床スラブに残存させることなく除去することができる。このとき、老朽化した管継手やたて管自体には、引抜き力を作用させないので、両者の接続部分が離脱してしまったり管継手が破損したりするのを回避することができる。したがって、床スラブのコンクリートやモルタルを破壊する作業は一切不要であり、粉塵の飛散、騒音、及び振動のいずれの問題も生じることなく、たて管の更新作業を進めることができる。
【0013】
より具体的には、前記アンカー材は前記管継手よりも上方に突出する長さを有し、前記連結プレートを前記管継手の上部に配設して前記アンカー材と緊結することが好ましい。
【0014】
これにより、効率よく前記連結プレートを引き上げて、床スラブから管継手及びたて管を一時に引抜き除去することができる。
【0015】
また、前記たて管更新方法において、前記連結プレートを、前記床スラブとの間に設置したジャッキを作動させて引き上げ、床スラブから引抜くことが好ましい。
【0016】
これにより、床スラブからモルタル部と管継手とを同時に引抜くことができ、効率よく安全な作業によりたて管を更新することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、前記既設たて管を前記管継手の上下で切断して撤去する工程と、前記管継手と前記貫通孔との間を充填するモルタル部に複数のアンカー用下孔を穿孔する工程と、雄ねじ部を有するアンカー材を各アンカー用下孔に設ける工程と、複数の取付穴を備えた連結プレートに、前記アンカー材の上部を挿通させ、ナット締結する工程とを具備させて、前記連結プレートを持ち上げて前記管継手をモルタル部とともに床スラブから引抜き除去する構成としている。このため、床スラブのコンクリートやモルタルを破壊する作業が不要であり、粉塵の飛散、騒音、及び振動のいずれの問題も生じることなく、たて管の更新作業を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るたて管更新方法の開始時を示す側面図である。
【
図2】前記たて管更新方法の一工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るたて管更新方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1〜
図6は、本発明の一実施形態に係るたて管更新方法を示すものである。
【0021】
図1は、複層建築物の階床を構成する床スラブ1を貫通して設けられた、既設のたて管4を示す側面図である。たて管4は、例えば、屋内配管とされた排水たて管であり、管継手6を介して横枝管5が接続されている。コンクリートの床スラブ1にはあらかじめ貫通孔2が設けられており、この貫通孔2に管継手6の胴部が配設されている。また、床スラブ1の貫通孔2と管継手6との隙間は、防火区画とするためにモルタルで埋められ、このモルタル部3により管継手6が床スラブ1と一体に固定されている。
【0022】
なお、床スラブ1のように防火区画に該当する床は、主要構造部における耐火構造の種類や階数等に応じて、特定防火設備で区画しなければならないことが規定されており、特に、給水管、排水管その他の配管設備が当該防火区画の床を貫通する場合には、床との隙間をモルタルその他の不燃材料で埋めなければならないとされている。
【0023】
このような防火区画を貫通するたて管4及び管継手6を更新する際には、先ず、
図2に示すように、管継手6の上下に接続するたて管4(41、42)を、切断して撤去する。また、管継手6の側部に横枝管5が接続されている場合には、横枝管5も切断して撤去する。切断箇所は、管継手6の直近あってもよく、また更新作業の邪魔にならない長さが残る位置であってもよい。
【0024】
次に、
図3に示すように、管継手6と貫通孔2との間を充填するモルタル部3に、複数のアンカー用下孔31を穿孔する。アンカー用下孔31は、静音ドリル等の削孔工具により形成する。このとき、複数のアンカー用下孔31の配置が、管継手6の周囲にほぼ均等な配置となるように穿孔する。アンカー用下孔31は、モルタル部3に対して垂直に形成されることが好ましく、穿孔後、孔内の切粉を吸塵機又はブロワ等を用いて除去する。
【0025】
次に、
図4に示すように、アンカー材7を前記のアンカー用下孔31に取り付ける。アンカー材7には、例えば先端拡張部を有する打込みスリーブ71と該スリーブ71に下端が結合されるアンカーロッド72とからなる金属拡張アンカーを用いることができる。スリーブ71の打込みには、油圧方式の打設治具を用いることにより、騒音や振動を生じることなく設けることができる。また、アンカー材7としては、接着硬化剤が封入されたカプセルをアンカー用下孔31に挿入し、アンカーロッド72を固定する接着系アンカーを用いてもよい。アンカーロッド72は、少なくとも上部に雄ねじが形成されており、モルタル部3に設置されたとき、上部たて管41よりも上方に突出する長さを有することが好ましい。かかるアンカーロッド72としては、寸切りボルトと呼ばれる全ねじボルトを好適に用いることができる。
【0026】
アンカー材7の打込み本数は、たて管4及び管継手6の大きさに応じて設定される。すなわち、たて管4の口径や管継手6の重量等に応じて、必要な引抜き荷重を想定し、アンカー材7の本数及び配置間隔を決定することが好ましい。
【0027】
例示の形態では、かかるアンカー材7を、管継手6の上側まで突出させて設けている。また、アンカー材7のアンカーロッド72に十分な長さを確保し、上部たて管41よりも上方へ突出させている。
【0028】
次に、
図5に示すように、複数本のアンカー材7の上端に、一枚の連結プレート8を取り付ける。連結プレート8は、アンカー材7のアンカーロッド72に挿通可能な複数の取付穴を備えた鋼板であり、管継手6の上部を広く覆う大きさを有する。この連結プレート8を管継手6の上部に配置するとともに、図示しない取付穴にアンカーロッド72の上部をそれぞれ挿通する。そして、アンカーロッド72の上部雄ねじにナット81を螺合し、連結プレート8とアンカーロッド72とを緊結する。
【0029】
次に、
図6に示すように、床スラブ1と連結プレート8との間にジャッキ9を設置する。ジャッキ9には、油圧によりシリンダシャフトを上方向に持ち上げる油圧式ジャッキを好適に用いることができ、このほか、空気圧式ジャッキ又は水圧式ジャッキ等の適宜のジャッキも用いることができる。ジャッキ9は、少なくとも管継手6の側部2箇所に配置する。そして、これらのジャッキ9を作動させて連結プレート8を上方へ持ち上げる。これにより、モルタル部3が床スラブ1から離脱して引き上げられる。その結果、管継手6、上部たて管41、及び下部たて管42を、一時に床スラブ1から抜取ることができる。
【0030】
上記のとおり、床スラブ1には、あらかじめ貫通孔2が設けられており、この貫通孔2にモルタルが充填されて管継手6が固定されていたものである。そのため、連結プレート8を持ち上げることにより、アンカー材7を介してモルタル部3に引抜き力が作用し、モルタル部3を床スラブ1から引抜くことができる。また、この引抜き力は、モルタル部3に作用して、管継手6、上部たて管41、及び下部たて管42には直接作用しない。これにより、管継手6と上部たて管41との接続部分を破損したり、管継手6から上部たて管41だけが離脱してしまったりするという従来の問題点が解消される。したがって、老朽化した管継手6を破損することなく、モルタル部3及びたて管4とともに、一度の引抜き作業で効率よく撤去することができる。
【0031】
なお、連結プレート8に管継手6又は上部たて管41を挿通しうる開口を設け、
図5に示す連結プレート8よりも下位置にてアンカー材7と緊結する構成であってもよい。
【0032】
モルタル部3及び管継手6が除去された床スラブ1には、貫通孔2が露出することとなる。床スラブ1に露出した貫通孔2には、熱膨張性耐火材を外装した新規のたて管及び管継手を挿通して固定し、防火区画を維持した状態に更新することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、防火区画を貫通して設けられたたて管の更新に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 床スラブ
2 貫通孔
3 モルタル部
31 アンカー用下孔
4 たて管
41 上部たて管
42 下部たて管
5 横枝管
6 管継手
7 アンカー材
71 スリーブ
72 アンカーロッド
8 連結プレート
81 ナット
9 ジャッキ