【文献】
Journal of Photopolymer Science and Technology,1999年,Vol.12, No.2,p.231-236
【文献】
Vysokomolekulyarnye Soedieniya, Seriya A,1976年,Vol.18, No.11,p.2452-2460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[第1実施形態:イミド化合物]
本発明の第1実施形態に係るイミド化合物は、下記一般式(1)で示される構造を有する。つまり本発明のイミド化合物はイミド基を4つ有する化合物である。
【化6】
【0019】
Xは、芳香族テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基を除いた4価の残基である。芳香族テトラカルボン酸は、芳香族炭化水素又は複素環化合物、若しくはこれらの誘導体に4つのカルボキシル基が付加された化合物として定義される。Xなる構造の元となる芳香族テトラカルボン酸二無水物モノマーの中には次のもの又はそれらの混合物があるが、これらに限定されるものではない。
ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物。
【0020】
Xなる構造の元となる芳香族テトラカルボン酸としては、芳香族炭化水素基に4つのカルボン酸が結合した化合物が、特には(a)1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸又はその誘導体及び(b)3,4−ジカルボキシフェニル基を2つ有する化合物が好ましい。さらに、(b)3,4−ジカルボキシフェニル基を2つ有する化合物としては、(b−1)2つのジカルボキシフェニル基同士が直接結合した構造を有する化合物及び(b−2)2つのジカルボキシフェニル基同士が構成原子数1又は2の連結基を介して結合した構造を有する化合物が特に好ましい。
【0021】
Yは、脂肪族ジアミン又は芳香族ジアミンから2つのアミノ基を除いた2価の残基である。Yなる構造の元となるジアミンとして脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びそれらの混合物が例示されるが、これらに限定されるものではない。
脂肪族ジアミンとしては、例えば飽和及び又は不飽和の直鎖状、分岐鎖、又は脂環式の炭化水素基が挙げられ、具体的にはメチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4'−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、1,3−ジアミノアダマンタン、イソホロンジアミン、1,8−ジアミノ−p−メンタンなどを挙げることができる。
芳香族ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノアントラセン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(3−アミノフェニル)テトラメチルジシラン、ビス(4−アミノフェニル)テトラメチルジシラン、ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)テトラメチルジシラン、ビス(3−アミノフェノキシ)テトラメチルジシラン、ビス(4−アミノフェノキシ)テトラメチルジシラン、ビス(3−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等が例示できる。
【0022】
Yなる構造の元となるジアミンとしては、(c)直鎖脂肪族炭化水素の両端にアミノ基が結合した化合物、(d)アミノフェニル基を2つ有する化合物及び(e)フェニレンジアミン又はその誘導体が好ましい。さらに、(c)直鎖脂肪族炭化水素の両端にアミノ基が結合した化合物としては、炭素数2〜10の直鎖脂肪族炭化水素の両端にアミノ基が結合した化合物が特に好ましい。また、(d)アミノフェニル基を2つ有する化合物としては、(d−1)2つのアミノフェニル基同士が直接結合した構造を有する化合物及び(d−2)2つのアミノフェニル基同士が構成原子数1又は2の連結基を介して結合した構造を有する化合物が耐熱性に優れるため特に好ましい。
【0023】
Rは、Rは脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン又は芳香族モノアミンから1つのアミノ基を除いた残基である。Rなる構造の元となるモノアミンとしては以下に示すモノアミン又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
モノアミンとしては、脂肪族アミン、脂環式アミン、又は芳香族アミンが例示でき、炭素数6〜20、好ましくは8〜18の炭化水素残基を有し、直鎖状又は分枝状のアルキルアミン、直鎖状又は分枝状のアルケニルアミン、シクロアルキルアミン、アルキルシクロアルキルアミン、アリールアミン、アルキルアリールアミン、アリールアルキルアミン等が挙げられる。具体例としてはヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン等の直鎖状又は分枝状のアルキルアミン;シクロヘキシルアミン;メチルシクロヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、エチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、プロピルシクロヘキシルアミン、イソプロピルシクロヘキシルアミン、1−メチル−3−プロピルシクロヘキシルアミン、ブチルシクロヘキシルアミン、アミルシクロヘキシルアミン、アミルメチルシクロヘキシルアミン、ヘキシルシクロヘキシルアミン、ヘプチルシクロヘキシルアミン、オクチルシクロヘキシルアミン、ノニルシクロヘキシルアミン、デシルシクロヘキシルアミン、ウンデシルシクロヘキシルアミン、ドデシルシクロヘキシルアミン、トリデシルシクロヘキシルアミン、テトラデシルシクロヘキシルアミン等のアルキルシクロアルキルアミン;フェニルアミン、ナフチルアミン等のアリールアミン;トルイルアミン、エチルフェニルアミン、キシリルアミン、プロピルフェニルアミン、クメニルアミン、メチルナフチルアミン、エチルナフチルアミン、ジメチルナフチルアミン、プロピルナフチルアミン等のアルキルアリールアミン;ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、エチルベンジルアミン等のアリールアルキルアミン等を挙げることができる。
【0024】
Rなる構造の元となるモノアミンのうち、潤滑性及びグリース性能の点からは、脂肪族アミンが好ましい。脂肪族アミンの炭素数は、好ましくは4〜20、より好ましくは8〜20である。また、脂肪族アミンは飽和脂肪族アミン又は不飽和脂肪族アミンのいずれであってもよいが、酸化安定性に優れることから、飽和脂肪族アミンが好ましい。
【0025】
また、耐熱性の点からは、脂環族アミンが好ましい。脂環族アミンの炭素数は、好ましくは4〜20、より好ましくは4〜10である。また、脂環族アミンは飽和脂環族アミン又は不飽和脂環族アミンのいずれであってもよいが、酸化安定性に優れることから、飽和脂環族アミンが好ましい。
【0026】
また、耐熱性の点からは、芳香族アミンが好ましい。芳香族アミンの炭素数は、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜18である。
【0027】
[第2実施形態:イミド化合物の製造方法]
本発明の第2実施形態に係るイミド化合物の製造方法は、下記一般式(2)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と下記一般式(3)で表されるジアミンとを反応させて下記一般式(4)で表される反応中間体を得る第1の工程と、
前記反応中間体と下記一般式(5)で表されるモノアミンとを反応させて上記一般式(1)で表されるイミド化合物を得る第2の工程と
を備える。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
[式中、Xは芳香族テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基を除いた4価の残基を示し、Yは脂肪族ジアミン又は芳香族ジアミンから2つのアミノ基を除いた2価の残基を示し、Rは脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン又は芳香族モノアミンから1つのアミノ基を除いた残基を示す。]
【0028】
本実施形態に係るイミド化合物の製造方法の好適な一例について、以下に示す反応スキームを参酌しつつ説明する。
【化12】
【0029】
第1の工程において、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物と一般式(3)で表されるジアミンとの仕込み比は、一般式(3)で表されるジアミン1モルに対して、一般式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物1.6〜2.4モル、特には1.9〜2.1モルとすることが好ましい。また、反応温度は100℃〜350℃、特には130℃〜260℃とすることが好ましい。このような温度で反応させることで、脱水環化により一般式(4)で示される反応中間体を高い収率で得ることができる。反応は、当初0℃〜100℃で反応させた後、100℃〜350℃、特には130℃〜260℃とすることが好ましい。好ましい反応時間は0.5〜6時間、特には1〜4時間である。
【0030】
第1の工程における一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物と一般式(3)で表されるジアミンとの反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン等の有機溶媒、あるいはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0031】
なお、溶媒を用いる場合、第1の工程の後、一般式(4)で表される反応中間体及び溶媒を含む反応混合物をそのまま後述する第2の工程に供することができる。換言すれば、第1の工程の後の反応混合物に一般式(5)で表されるモノアミンを添加し、一般式(4)で表される反応中間体と一般式(5)で表されるモノアミンとを反応させることができる。
【0032】
第2の工程における一般式(5)で表されるモノアミンの使用量は特に制限されないが、一般式(3)で表されるジアミン1モルに対して一般式(5)で表されるモノアミン1.2〜2.8モル、特には1.6〜2.4モル、さらには1.8〜2.2モルを用いることが好ましい。また、なお、ここでいうX、Y及びRは、前記一般式(1)のX、Y及びRと同一であり、用いられる溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン等の有機溶媒、あるいはこれらの併用である。
【0033】
なお、モノアミンとの反応は、当初0℃〜100℃で反応させた後に、100℃〜350℃、特には130℃〜260℃とすることが好ましい。このような温度で反応させることで、脱水環化により一般式(1)で表されるイミド化合物の純度を高めることができる。好ましい反応時間は0.5〜10時間、特には2〜8時間である。
【0034】
[第3実施形態:グリース用増ちょう剤]
本発明の第3実施形態に係るグリース用増ちょう剤は、少なくとも1種のイミド化合物を含有し、該イミド化合物の全質量に占める上記一般式(1)で表されるイミド化合物の割合が30質量%以上のものである。さらに、上記一般式(1)で表されるイミド化合物以外のイミド化合物を含有してもよい。
【0035】
本実施形態に係るグリース用増ちょう剤は、上記一般式(1)で表されるイミド化合物以外のイミド化合物を含有してもよいが、グリース用増ちょう剤に含まれる全イミド化合物の合計に占める上記一般式(1)で表されるイミド化合物の割合は、上記のとおり30質量%以上であり、好ましくは50質量%以上である。一般式(1)で表される化合物の割合を30質量%以上とすることによって、耐熱性の高いグリースを得ることができる。
【0036】
第1実施形態に係るイミド化合物及び第3実施形態に係るグリース用増ちょう剤は、耐熱性に優れることから、高温下で使用される等速ギヤ用、変速ギヤ用、製鉄設備用、玉軸受、ころ軸受等のグリースの増ちょう剤として特に好ましく使用される。これらの用途における使用温度は、好ましくは−40℃〜300℃、より好ましくは−40℃〜250℃である。
【0037】
[第4実施形態:グリース組成物]
本発明の第4実施形態に係るグリース組成物は、潤滑油基油と、上記一般式(1)で表されるイミド化合物とを含有し、該イミド化合物の含有量がグリース組成物全量基準で2〜50質量%のものである。
【0038】
本実施形態に係るグリース組成物において、上記イミド化合物の含有量は、グリース組成物全量を基準として2質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、また、50質量%以下、好ましくは40質量%以下である。イミド化合物の含有量が2質量%に満たない場合は増ちょう剤としての効果が少ないため十分なグリース状とはならず、また50質量%を越えるとグリースとして硬くなりすぎて十分な潤滑性能を発揮することができないため、それぞれ好ましくない。
【0039】
本発明のグリース組成物の潤滑油基油としては、鉱油及び/又は合成油を挙げられる。
【0040】
かかる鉱油としては、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られる、たとえば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。
【0041】
また、合成油の具体例としてはポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はこれらの水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ3−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル;アルキルナフタレン;アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル;シリコーン油;又はこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
高温での耐久性の観点から、合成油が好ましく、ポリオールエステル、ポリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルがより好ましい。
【0043】
これらの潤滑油基油の100℃での動粘度は2〜40mm
2/s、好ましくは3〜20mm
2/sであることが望ましい。また、基油の粘度指数は90以上、好ましくは100以上であることが望ましい。
【0044】
なお、本実施形態に係るグリ−ス組成物は、その性質を損ねることがない限り、さらに性能を向上させるために必要に応じて、上記一般式(1)で表されるイミド化合物以外の増ちょう剤、固体潤滑剤、極圧剤、酸化防止剤、油性剤、さび止め剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤などを含有することができる。
【0045】
上記一般式(1)で表されるイミド化合物以外の増ちょう剤としては、金属石けん、複合金属石けん等の石けん系増ちょう剤、;ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん系増ちょう剤等、あらゆる増ちょう剤が使用可能である。前記石けん系増ちょう剤としては、例えばナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が挙げられる。また前記ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えばジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、その他のポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。さらに、上記一般式(1)で表されるイミド化合物以外のイミド化合物を含有してもよい。
【0046】
固体潤滑剤としては具体的には例えば、黒鉛、カーボンブラック、フッ化黒鉛、ポリテトラフロロエチレン、二硫化モリブデン、硫化アンチモン、アルカリ(土類)金属ほう酸塩などが挙げられる。
【0047】
極圧剤としては具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物等の硫黄含有化合物;ホスフェート、ホスファイト類などが挙げられる。
【0048】
酸化防止剤としては具体的には、2、6−ジ−t−ブチルフェノール、2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのフエノール系化合物;ジアルキルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、p−アルキルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系化合物;硫黄系化合物;フェノチアジン系化合物などが挙げられる。
【0049】
油性剤としては具体的には、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどのアミン類;ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類;ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチルなどの脂肪酸エステル類;ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミチルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミドなどのアミド類;油脂などが挙げられる。
【0050】
さび止め剤としては具体的には、金属石けん類;ソルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコール部分エステル類;アミン類;リン酸;リン酸塩などが挙げられる。
【0051】
粘度指数向上剤としては具体的には、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0052】
清浄分散剤としては具体的には、スルフォネート、サリシレート、フェネート等が例示される。
【0053】
本実施形態に係るグリース組成物を調製するには、例えば基油に、前記イミド化合物とさらに必要に応じてその他の添加剤を混合撹拌し、ロールミル等を通すことにより得ることができる。また基油に増ちょう剤のイミド化合物の原料成分を予め添加、溶融し、撹拌混合させて、イミド化合物を調製した後に、さらに必要に応じてその他の添加剤を混合撹拌し、ロールミル等を通すことにより製造することもできる。
【0054】
第4実施形態に係るグリース組成物は、耐熱性に優れることから、高温下で使用される等速ギヤ用、変速ギヤ用、自動車用、製鉄設備用、産業機械用、精密機械用、玉軸受、ころ軸受等のグリースとして特に好ましく使用される。これらの用途における使用温度は、好ましくは−40℃〜300℃、より好ましくは−40℃〜250℃である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
[
参考例1]
NMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶媒150mL中にて、下記式(6)で表されるピロメリット酸二無水物32.7gと下記式(7)で表されるジアミノジフェニルエーテル15.0gとを室温で1時間反応させた。続いて、トルエン30mLを加えて180℃で1時間加熱した後、室温にて式(8)で表されるラウリルアミン27.8gを加えて1時間撹拌後、さらにトルエン30mLを加えて180℃で4時間加熱したところ、沈殿物を得た。得られた沈殿物をトルエン170mL、アセトン230mLでろ過洗浄及び乾燥し、下記式(9)で表されるイミド化合物を含むイミド化合物−1を固形物として得た(収量:58.8g)。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0057】
イミド化合物−1の赤外吸収スペクトル(日本分光株式会社製、FT/IR−410)をKBr法にて測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示したとおり、環状イミド基に由来する約1720cm
−1及び、約1780cm
−1の吸収が確認され、反応原料に帰属される吸収や、反応中間体のアミド基に由来する約1650cm
−1の吸収は確認されなかった。この結果から、得られた固形物がイミド化合物であり、ほぼ100%イミド化が進行していること確認された。
【0058】
また、イミド化合物−1についてFD−MS測定(日本電子株式会社製JMS−T100GC、イオン化方法:FD+、溶媒:o−n−プロピルフェノール)を実施したところ、式(9)で表されるイミド化合物に帰属されるピークは、全イオン強度に対して47%であった。
【0059】
[実施例
1〜3、参考例2〜12]
実施例
1〜3、参考例2〜12においてはそれぞれ、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物、一般式(3)で表されるジアミン及び一般式(5)で表されるモノアミンとして、上記式(6)〜(8)又は下記式(10)〜(17)で表される化合物を表1〜5に示す組合せで用いたこと以外は
参考例1と同様にして、イミド化合物−2〜15を固形物として得た。得られたイミド化合物−2〜15の収率を表1〜5に示す。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0060】
実施例1〜3、及び参考例2〜12で得られたイミド化合物−2〜15について、実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルを測定したところ、いずれのイミド化合物においても環状イミド基に由来する約1720cm
−1及び、約1780cm
−1の吸収が確認され、反応原料に帰属される吸収や、反応中間体のアミド基に由来する約1650cm
−1の吸収は確認されなかった。これらの結果から、
実施例1〜3、及び参考例2〜12で得られた固形物がイミド化合物であり、ほぼ100%イミド化が進行していることが確かめられた。
【0061】
また、
実施例1〜3、及び参考例2〜12で得られたイミド化合物−2〜15について、実施例1と同様にしてFD−MS測定を行ったところ、それぞれ含有イミド化合物として表1〜5に示すイミド化合物(式(9)、(18)〜(29)のいずれか)に帰属されるピークが観測された。各実施例において観測された、含有イミド化合物の全イオン強度に対する強度比を表1〜5に示す。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【0062】
[比較例1]
ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート55.8gに対し、シクロヘキシルアミン4.2gを100℃動粘度が13mm
2/sのジフェニルエーテル基油300g中にて反応させグリース状物質を得た。グリース状物質からヘキサンにてジフェニルエーテル基油を除去し、式(30)で表されるウレア化合物−1を得た。得られたウレア化合物の収量を表6に示す。
【化37】
【0063】
[比較例2]
ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート31.7gに対し、オクタデシルアミン68.3gを100℃動粘度が13mm
2/sのジフェニルエーテル基油300g中にて反応させグリース状物質を得た。グリース状物質からヘキサンにてジフェニルエーテル基油を除去し、式(31)で表されるウレア化合物−2を得た。得られたウレア化合物の収量を表6に示す。
【化38】
【0064】
[比較例3]
ピロメリット酸二無水物30.9gに対し、p−ドデシルアニリン74.2gを100℃動粘度が13mm
2/sのジフェニルエーテル基油315.3g中にて150℃で反応させグリース状物質を得た。なお、グリース状物質中における反応生成物濃度が25重量%になるよう合成した。グリース状物質からヘキサンにてジフェニルエーテル基油を除去し、一般式(32)で表されるイミド化合物−16を得た。得られたイミド化合物の収量を表6に示す。
【化39】
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
実施例1〜3、及び参考例1〜12で得られたイミド化合物−1〜15及び比較例3で得られたイミド化合物−16並びに比較例1、2で得られたウレア化合物−1、2を、それぞれスクリュー瓶に約0.2g秤量し、200℃の空気恒温槽に300時間加熱放置した。300時間後の重量を測定した。得られた結果を表7〜12に示す。表中、重量の減少が小さいほど、耐熱性に優れることを意味する。
【0072】
[増ちょう能評価]
実施例1〜3、及び参考例1〜12で得られたイミド化合物−1〜15及び比較例3で得られたイミド化合物−16並びに比較例1、2で得られたウレア化合物−1、2を、それぞれ25重量%になるよう100℃動粘度が13mm
2/sのジフェニルエーテル基油に混合し、ロールミルを通し基油中に均一に分散し得られた物質を、JIS2220のちょう度測定法により60混和(60W)後のちょう度、及び滴点の測定をした。得られた結果を表7〜12に示す。なお、比較例1、2のウレア化合物に関しては、ヘキサンにてジフェニルエーテル基油を除去する前にちょう度を測定した。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
表7〜12に示した結果から、
実施例1〜3、及び参考例1〜12で得られたイミド化合物−1〜15は、比較例1、2で得られたウレア化合物−1、2及び比較例3で得られたイミド化合物と比較して、耐熱性に優れること、また、グリースの増ちょう剤として使用可能なことがわかる。