【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、コンピュータを用いた、脳波解析による低血糖症または低血糖症の兆候を検出するため(または、観察された脳波が低血糖症または低血糖症の兆候の状態によるものかどうかを決定するため)の方法が提供され、その方法は、
コンピュータに脳波信号を入力する工程、
該コンピュータ内で上記脳波信号からそれぞれ異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネントの各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を該費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることをコンピュータ内で決定する工程、
を含む。
【0013】
本発明によれば、低血糖症または低血糖症の兆候の検出は血中グルコース値が閾値以下になると生じる脳波信号のパターンを検出することにより行うことができる。その閾値としては、例えば3.5mmol/lである。血中グルコース値が閾値以下になると生じる脳波信号の強度や大きさの測定値は、脳波信号の絶対値であることが好ましい。すなわち、下記式(1)で表わされる1−ノルムである。
【0014】
【数1】
【0015】
また一方で、その他の強度測定値は下記式(2)で表わされる2−ノルムのように用いられる。
【0016】
【数2】
【0017】
これは単位時間ごとに二乗された信号の曲線より下の領域として示されてもよい。通常は抽出された信号におけるどの長さの測定値でもよく、絶対値、二乗された値、あるいは他の距離の測定値である。
【0018】
測定値の変動性の概算値は、ここでは測定値の分散の概算値でもよい。パラメータの分散の概算値は、そのパラメータが強度測定値か、費用関数かにかかわらず、パラメータの上位パーセンタイル、例えば75から85パーセンタイルの逆数に基づいてもよい。
【0019】
パラメータの「平均の長期的な概算値」(パラメータが強度測定値であっても費用関数であっても)は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは9時間以上、特に好ましくは12時間以上の長期にわたり随時測定されたパラメータ測定の平均の概算値である。測定の頻度は好ましくは平均で1分間に1回以上、より好ましくは1分間に30回以上、さらに好ましくは毎秒1回である。
【0020】
パラメータの「変動性の長期的な概算値」(パラメータが強度測定値であっても費用関数であっても)は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは9時間以上、特に好ましくは12時間以上の長期にわたり随時測定されたパラメータ測定の変動性の概算値である。測定の頻度は好ましくは平均で1分間に1回以上、より好ましくは1分間に30回以上、さらに好ましくは毎秒1回である。本発明の方法、または装置の使用が開始されてすぐにデータとして利用価値のある長期的な概算値が得られるように、過去のセッション時に得られた必要とされる各値に対応する長期的な概算値をメモリに記憶する手段が備えられ、過去のセッションにおける概算値は、現セッションの開始時に用いられ、現セッションが進むにつれ徐々にアップデートされることが好ましい。また、脳波モニタリングのセッションが終わるごとに、もしくは下記に示すように、1つのアルゴリズムを、使用していたものから別のものへ切り替える時に、用いられた全ての長期的な概算値を記憶する手段を備えておくことが好ましい。
【0021】
パラメータの分散の概算値は、上記上位パーセンタイル値の平均の長期的な概算値pからパラメータの平均の長期的な概算値mを引いて得られた値、すなわち、(p−m)もしくはそれと算術的に等価なものとして算出されてもよい。未加工の信号xの標準値Xは、このとき、X=(x−m)/(p−m)として得られる。
【0022】
標準化された特徴の機械解析は解析パラメータを用いて導くのが好ましい。解析パラメータは、例えば、重み付け係数であり、該重み付け係数は解析下の脳波を持つ人だけではなく個々人の集団に一般的に適用できる。
【0023】
本発明に記載の方法において、上記費用関数は、事前に定められた重み付け係数のセットを用いて、標準化された特徴の線形関数または非線形関数の合計として取得してよい。
【0024】
上記時間領域の費用関数は各々、低血糖を示す事象として、または低血糖を示す事象ではないとして分類することができ、上記確率の積算は、上記選択された期間中に検出された事象の数を積算することにより行われる。
【0025】
本発明に記載の方法は、さらに、費用関数の長期的な平均を概算する工程、費用関数の長期的な変動性を概算する工程、および、費用関数から該費用関数の平均の長期的な概算値を引き、その結果を費用関数の変動性の長期的な概算値で割ることにより標準化された費用関数を生成することと、算術的に等価な処理によって費用関数を標準化する工程を含んでもよく、上記分類の工程で分類されたものは上記標準化された費用関数である。
【0026】
本発明に記載の方法は、さらに、低血糖のパターンと混同しやすい信号汚染アーチファクトを含む上記脳波の時間領域を検出する工程、および、上記時間領域を上記積算に含まれることになる発生事象から排除する工程を含んでもよい。
【0027】
上記信号汚染アーチファクトを含む脳波の上記時間領域は、変動するアーチファクト検出費用関数を得るために、事前に定められた重み付け係数のセットを用い、標準化された特徴の線形関数または非線形関数の合計を取得し、上記アーチファクトを示すアーチファクト費用関数の確率に準じ、上記アーチファクト検出費用関数それぞれを分類することで特定してもよい。
【0028】
アーチファクト費用関数の分類は、該費用関数がアーチファクトを示すものか、そうではないかに分類されるよう二元的であってもよい。
【0029】
本発明に記載の方法は、さらに、
上記アーチファクト検出費用関数の長期的な平均を概算する工程、
上記アーチファクト検出費用関数の長期的な変動性を概算する工程、
および、
上記アーチファクト検出費用関数から上記アーチファクト検出費用関数の平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記アーチファクト検出費用関数の変動性の長期的な概算値で割ることにより標準化されたアーチファクト検出費用関数を生成することと算術的に等価な処理によって、上記アーチファクト検出費用関数を標準化する工程、
を含んでもよく、
上記分類の工程で分類されたものは、上記標準化されたアーチファクト検出費用関数である。
【0030】
アーチファクト費用関数の分類は、機械解析処理によって行われるのが好ましく、標準化された特徴の機械解析は、解析下の脳波を持つ人だけではなく個々人の集団に一般的に適用できる解析パラメータを用いて行われるのが好ましい。
【0031】
任意で、上記脳波信号は時間領域のシーケンスに分割され、各時間領域において上記コンポーネントの強度測定値が取得される。さらに、分類された上記費用関数の値は、各時間領域における費用関数の値でもよい。上記積算は、上述した選択された期間を共に構成する、選択された先行する時間領域の数にわたって任意で行われる。
【0032】
通常、脳波信号は最初にデジタル化され、サンプリングされてから以後の処理が続く。
【0033】
脳波信号は上記コンポーネントを得るために、デジタルフィルタを用いて抽出されてもよい。また、例えば、FIRフィルタを用いて抽出が行われるなど、その脳波信号がどのように抽出されるかに応じて、分割された信号を時間領域に取り込んでもよいが、信号は時間領域に分割しない方が好ましいと考えられている。
【0034】
上記脳波信号を時間領域のシーケンスに分割し、その信号から異なった周波数帯域を持つ複数のコンポーネントを得る工程は、上記複数のコンポーネントを取得する前に時間領域への分割のタスクを実行することに限定されることを意味してはいないということに留意されたい。用いられる技術に応じて、周波数帯域への分割は、時間領域への分割の前に行われてもよい。どちらにしても、上記脳波信号は異なった周波数帯域と、時間領域の両方において分割される。
【0035】
本発明は、さらに、脳波信号をインプットとして受信し、以下の工程を行うようプログラミングされたコンピュータを提供する。以下の工程とは、
上記信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネント各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各々の平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を上記費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることを上記コンピュータ内で決定する工程、
である。
【0036】
上記コンピュータはプログラミングの受信が可能であってもよいし、完全にまたは一部において、必要なプログラミングがハードウェアに組み込まれているファームウェアで構成されていてもよい。
【0037】
本発明はさらに、互換性のあるコンピュータに脳波信号をインプットとして受信し、下記の工程を行わせる命令を含む機械語命令セットを提供する。下記の工程とは、
上記脳波信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネント各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を該費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることを上記コンピュータ内で決定する工程、
である。
【0038】
本発明はさらに、脳波収集電極と、本発明の実施に適するようプログラミングされたコンピュータとを含む、低血糖症や低血糖症の兆候を警告するために用いられる装置を提供する。
【0039】
本発明の方法に関して記載された発明の全ての特徴、特色は、プログラミングされたコンピュータや、本発明の命令セット、命令プログラムに用いられてもよく、それらは機械読み取りが可能なキャリアやメモリにエンコードされていてもよい。
本発明を、以下の対応する図面を参照してさらに説明し、記載する。