特許第5860894号(P5860894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860894
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】低血糖症を検出するための脳波信号解析
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0452 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   A61B5/04 312C
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-540349(P2013-540349)
(86)(22)【出願日】2011年11月23日
(65)【公表番号】特表2013-543778(P2013-543778A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011070843
(87)【国際公開番号】WO2012069549
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】1020086.3
(32)【優先日】2010年11月26日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508366835
【氏名又は名称】ヒポ−セイフ エイ/エス
【氏名又は名称原語表記】HYPO−SAFE A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】マドセン,ラスムス エルスボルク
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン,ラスムス スティーグ
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−500052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0476
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳波信号を入力として受信し、以下の工程を行うようプログラミングされたコンピュータであって、該コンピュータにおいて、
前記信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
前記コンポーネントの各々の変動する強度測定値を取得する工程、
前記強度測定値の各々の平均の長期的な概算値を取得する工程、
前記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
前記強度測定値から前記平均の長期的な概算値を引き、その結果を前記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって前記強度測定値を標準化する工程、
前記標準化された特徴の機械解析を用いて各時間領域の変動する費用関数を取得する工程、
前記費用関数の値を前記費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した前記確率を積算する工程、
および、
前記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを前記脳波信号が示していることを前記コンピュータ内で決定する工程、
を含む、コンピュータ。
【請求項2】
機械語命令のセットであって、互換性のあるコンピュータに脳波信号を入力として受信する工程を行わせる命令を含み、前記相互性のあるコンピュータにおいて、
前記脳波信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
前記コンポーネントの各々の変動する強度測定値を取得する工程、
前記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
前記強度測定値の長期的な各変動性の概算値を取得する工程、
前記強度測定値から前記平均の長期的な概算値を引き、その結果を前記長期的な変動性の概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって前記強度測定値を標準化する工程、
前記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
前記費用関数の値を前記費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した前記確率を積算する工程、
および、
前記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを前記脳波信号が示していることを前記コンピュータ内で決定する工程、
を行わせる命令を含む、機械語命令のセット。
【請求項3】
脳波解析によって低血糖症または低血糖症の兆候を検出する装置であって、脳波信号を集める1つ以上の脳波測定電極と、前記脳波信号を受信するコンピュータと、を含み、前記コンピュータは、
前記信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
前記コンポーネント各々の変動する強度測定値を取得する工程、
前記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
前記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
前記強度測定値から前記平均の長期的な概算値を引き、その結果を前記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって前記強度測定値の各々を標準化する工程、
前記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
前記費用関数の値を該費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した前記確率を積算する工程、
および、
前記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを前記脳波信号が示していることを前記コンピュータ内で決定する工程、
を行うようプログラミングされている、低血糖症または低血糖症の兆候を検出する装置。
【請求項4】
前記費用関数を、事前に定められた重み付け係数のセットを用いて、標準化された特徴を線形関数または非線形関数の合計として取得する、請求項に記載の装置
【請求項5】
前記費用関数の各々を、低血糖を示す事象、または低血糖を示す事象ではないものとして分類し、かつ、前記確率を積算する工程における該確率の積算が前記選択された期間中に検出された事象の数を積算することによって行われる、請求項またはに記載の装置
【請求項6】
さらに、
前記費用関数の長期的な平均を概算する工程、
前記費用関数の長期的な変動性を概算する工程、
および、
前記費用関数から前期長期的な平均の前記概算を引き、その結果を前記長期的な変動性の概算値で割ることにより標準化された費用関数を生成することと算術的に等価な処理によって、前記費用関数を標準化する工程、
を含み、
前記分類する工程で分類されるものが、前記標準化された費用関数である、請求項からのいずれかに記載の装置
【請求項7】
さらに、
低血糖症のパターンと混同しやすい信号汚染アーチファクトを含む前記脳波の時間領域を検出する工程、
および、
前記時間領域を前記積算に含まれることになる発生事象から排除する工程、
を含む、請求項からのいずれかに記載の装置
【請求項8】
変動するアーチファクト検出費用関数を取得するために事前に定められた重み付け係数のセットを用いて、前記標準化された特徴の線形関数または非線形関数の合計を取得し、前記アーチファクト検出費用関数の各々を該アーチファクト検出費用関数が前記アーチファクトを示す確率に準じて分類することにより、前記信号汚染アーチファクトを含む前記脳波の前記時間領域が特定される、請求項に記載の装置
【請求項9】
さらに、
前記アーチファクト検出費用関数の長期的な平均を概算する工程、
前記アーチファクト検出費用関数の長期的な変動性を概算する工程、
および、
前記アーチファクト検出費用関数から前期長期的な平均の概算を引き、その結果を前記アーチファクト検出費用関数の長期的な変動性の概算値で割ることにより標準化されたアーチファクト検出費用関数を生成することと算術的に等価な処理によって、前記アーチファクト検出費用関数を標準化する工程、
を含み、
前記分類する工程で分類されるものが、前記標準化されたアーチファクト検出費用関数である、請求項に記載の装置
【請求項10】
前記脳波信号が時間領域のシーケンスに分割され、各時間領域において前記コンポーネントの前記強度測定値が取得される、請求項からのいずれかに記載の装置
【請求項11】
分類される前記費用関数の前記値が、前記各時間領域の各費用関数の値である、請求項10に記載の装置
【請求項12】
前記積算が、前記選択された期間を共に構成する選択された先行する時間領域の数にわたり行われる、請求項11に記載の装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、これに限られないが、例えば糖尿病患者などの人々に低血糖発作を予測、および警告する方法に関する。また、本発明は、これには限られないが、例えば糖尿病患者などの人々に低血糖発作を予測、および警告する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低血糖発作は血糖濃度が低いことで起こり、主にインスリンまたは他の血糖調整医薬の治療を受ける糖尿病患者の問題である。それ以外の危険がある人としては、低血糖となる遺伝的素因を有する人が挙げられる。その発作は大変深刻となることがあり、意識消失を引き起こすこともある。そのため発作のリスクにより関係している人々の可能な活動が制限され、さらにはその人々の生活の質を低下させてしまう。発作は、例えば、グルコース値が臨界となるときに適切な食物を摂取するなどの簡単な方法で防ぐことができる。しかし問題は、リスク群にある人々の多くが、いつ自分の血糖濃度が発作の恐れのある臨界下限値に達するかを自分では察知できないことである。リスク群に含まれる人の数はおよそ一千万人である。
【0003】
低血糖を引き起こすに至る血中グルコースの値は、人それぞれであり、状況や理由によって異なることから、時折議論の的となっている。最も健康な成人は空腹時のグルコース値を70mg/dL(3.9mmol/L)より高く保ち、グルコース値が55mg/dL(3mmol/L)を下回ると低血糖の症状が現れる。
【0004】
神経低糖症は脳内のグルコースの欠乏(糖欠乏症)のことを言い、通常は低血糖が原因である。糖欠乏症はニューロンの機能に影響を与え、脳の働きや反応を変え、脳波を変化させる。神経低糖症を放置しておくと脳に生涯にわたる損傷を与えることがある。
【0005】
低血糖発作を予測するための方法と装置が知られている。
【0006】
とりわけ、特許文献1には、低血糖発作の警告を目的とする方法と装置が開示されている。これは、個人の血中グルコース値を示す脳波測定と、血糖濃度の変化率を示す個人の心電図信号との組み合わせを人工の神経ネットワーク学習プロセッサに入力し、そこから得られる信号を用いて使用者への警告や治療用物質の投与の制御を行うものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1には脳波信号の取得や解析を行う具体的な方法が記載されておらず、また、その記載された方法を実践した結果の記載もない。
【0008】
非特許文献1においてGade J., Rosenfalck A.およびBendtson I.は、患者に低血糖症の警告を提供することの可能性を詳細に調べ、そして夜間低血糖症に関連した脳波パターンの検出について記載している。双極脳波界面電極(bipolar EEG surface electrodes)C4−A1とC3−A2からの脳波信号はオフラインでデジタル化され、2秒の時間領域(2 second time segments)に分けられる。それらからの振幅とスペクトルの内容は教師なし学習プロセス(unsupervised learning process)に従って訓練された未公表タイプ(undisclosed type)のベイズ確率的分類器(Bayes probabilistic classifier)に入力される。低血糖症の兆候として分類された事象の発生率が観測される。患者間の可変性により全ての患者に対して共通の学習セット(learning set)を構築することができず、そして全ての患者に対して個人的な学習セットの構築が必要という結論となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許6572542号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/144307号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Methods of Information in Medicine,33巻、1号、1994年、p.153−156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
我々は特許文献2において、低血糖症の発症を示す脳波の変化の検出に十分な特異性と検出感度を得るためには、脳波の変化の発生や変化率だけを考慮することは十分ではないという知見を考慮した、低血糖症の事象を示す患者の脳波パターンを検出するアプリケーション用のアルゴリズムを提供した。上記を考慮しなければ、低血糖症と一致する散発的な脳波事象や、そうした脳波事象の一時的な乱れが、警報の誤作動を引き起こす恐れがある。そこで本発明は、そうした脳波解析のためのより向上した方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、コンピュータを用いた、脳波解析による低血糖症または低血糖症の兆候を検出するため(または、観察された脳波が低血糖症または低血糖症の兆候の状態によるものかどうかを決定するため)の方法が提供され、その方法は、
コンピュータに脳波信号を入力する工程、
該コンピュータ内で上記脳波信号からそれぞれ異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネントの各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を該費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることをコンピュータ内で決定する工程、
を含む。
【0013】
本発明によれば、低血糖症または低血糖症の兆候の検出は血中グルコース値が閾値以下になると生じる脳波信号のパターンを検出することにより行うことができる。その閾値としては、例えば3.5mmol/lである。血中グルコース値が閾値以下になると生じる脳波信号の強度や大きさの測定値は、脳波信号の絶対値であることが好ましい。すなわち、下記式(1)で表わされる1−ノルムである。
【0014】
【数1】
【0015】
また一方で、その他の強度測定値は下記式(2)で表わされる2−ノルムのように用いられる。
【0016】
【数2】
【0017】
これは単位時間ごとに二乗された信号の曲線より下の領域として示されてもよい。通常は抽出された信号におけるどの長さの測定値でもよく、絶対値、二乗された値、あるいは他の距離の測定値である。
【0018】
測定値の変動性の概算値は、ここでは測定値の分散の概算値でもよい。パラメータの分散の概算値は、そのパラメータが強度測定値か、費用関数かにかかわらず、パラメータの上位パーセンタイル、例えば75から85パーセンタイルの逆数に基づいてもよい。
【0019】
パラメータの「平均の長期的な概算値」(パラメータが強度測定値であっても費用関数であっても)は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは9時間以上、特に好ましくは12時間以上の長期にわたり随時測定されたパラメータ測定の平均の概算値である。測定の頻度は好ましくは平均で1分間に1回以上、より好ましくは1分間に30回以上、さらに好ましくは毎秒1回である。
【0020】
パラメータの「変動性の長期的な概算値」(パラメータが強度測定値であっても費用関数であっても)は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは9時間以上、特に好ましくは12時間以上の長期にわたり随時測定されたパラメータ測定の変動性の概算値である。測定の頻度は好ましくは平均で1分間に1回以上、より好ましくは1分間に30回以上、さらに好ましくは毎秒1回である。本発明の方法、または装置の使用が開始されてすぐにデータとして利用価値のある長期的な概算値が得られるように、過去のセッション時に得られた必要とされる各値に対応する長期的な概算値をメモリに記憶する手段が備えられ、過去のセッションにおける概算値は、現セッションの開始時に用いられ、現セッションが進むにつれ徐々にアップデートされることが好ましい。また、脳波モニタリングのセッションが終わるごとに、もしくは下記に示すように、1つのアルゴリズムを、使用していたものから別のものへ切り替える時に、用いられた全ての長期的な概算値を記憶する手段を備えておくことが好ましい。
【0021】
パラメータの分散の概算値は、上記上位パーセンタイル値の平均の長期的な概算値pからパラメータの平均の長期的な概算値mを引いて得られた値、すなわち、(p−m)もしくはそれと算術的に等価なものとして算出されてもよい。未加工の信号xの標準値Xは、このとき、X=(x−m)/(p−m)として得られる。
【0022】
標準化された特徴の機械解析は解析パラメータを用いて導くのが好ましい。解析パラメータは、例えば、重み付け係数であり、該重み付け係数は解析下の脳波を持つ人だけではなく個々人の集団に一般的に適用できる。
【0023】
本発明に記載の方法において、上記費用関数は、事前に定められた重み付け係数のセットを用いて、標準化された特徴の線形関数または非線形関数の合計として取得してよい。
【0024】
上記時間領域の費用関数は各々、低血糖を示す事象として、または低血糖を示す事象ではないとして分類することができ、上記確率の積算は、上記選択された期間中に検出された事象の数を積算することにより行われる。
【0025】
本発明に記載の方法は、さらに、費用関数の長期的な平均を概算する工程、費用関数の長期的な変動性を概算する工程、および、費用関数から該費用関数の平均の長期的な概算値を引き、その結果を費用関数の変動性の長期的な概算値で割ることにより標準化された費用関数を生成することと、算術的に等価な処理によって費用関数を標準化する工程を含んでもよく、上記分類の工程で分類されたものは上記標準化された費用関数である。
【0026】
本発明に記載の方法は、さらに、低血糖のパターンと混同しやすい信号汚染アーチファクトを含む上記脳波の時間領域を検出する工程、および、上記時間領域を上記積算に含まれることになる発生事象から排除する工程を含んでもよい。
【0027】
上記信号汚染アーチファクトを含む脳波の上記時間領域は、変動するアーチファクト検出費用関数を得るために、事前に定められた重み付け係数のセットを用い、標準化された特徴の線形関数または非線形関数の合計を取得し、上記アーチファクトを示すアーチファクト費用関数の確率に準じ、上記アーチファクト検出費用関数それぞれを分類することで特定してもよい。
【0028】
アーチファクト費用関数の分類は、該費用関数がアーチファクトを示すものか、そうではないかに分類されるよう二元的であってもよい。
【0029】
本発明に記載の方法は、さらに、
上記アーチファクト検出費用関数の長期的な平均を概算する工程、
上記アーチファクト検出費用関数の長期的な変動性を概算する工程、
および、
上記アーチファクト検出費用関数から上記アーチファクト検出費用関数の平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記アーチファクト検出費用関数の変動性の長期的な概算値で割ることにより標準化されたアーチファクト検出費用関数を生成することと算術的に等価な処理によって、上記アーチファクト検出費用関数を標準化する工程、
を含んでもよく、
上記分類の工程で分類されたものは、上記標準化されたアーチファクト検出費用関数である。
【0030】
アーチファクト費用関数の分類は、機械解析処理によって行われるのが好ましく、標準化された特徴の機械解析は、解析下の脳波を持つ人だけではなく個々人の集団に一般的に適用できる解析パラメータを用いて行われるのが好ましい。
【0031】
任意で、上記脳波信号は時間領域のシーケンスに分割され、各時間領域において上記コンポーネントの強度測定値が取得される。さらに、分類された上記費用関数の値は、各時間領域における費用関数の値でもよい。上記積算は、上述した選択された期間を共に構成する、選択された先行する時間領域の数にわたって任意で行われる。
【0032】
通常、脳波信号は最初にデジタル化され、サンプリングされてから以後の処理が続く。
【0033】
脳波信号は上記コンポーネントを得るために、デジタルフィルタを用いて抽出されてもよい。また、例えば、FIRフィルタを用いて抽出が行われるなど、その脳波信号がどのように抽出されるかに応じて、分割された信号を時間領域に取り込んでもよいが、信号は時間領域に分割しない方が好ましいと考えられている。
【0034】
上記脳波信号を時間領域のシーケンスに分割し、その信号から異なった周波数帯域を持つ複数のコンポーネントを得る工程は、上記複数のコンポーネントを取得する前に時間領域への分割のタスクを実行することに限定されることを意味してはいないということに留意されたい。用いられる技術に応じて、周波数帯域への分割は、時間領域への分割の前に行われてもよい。どちらにしても、上記脳波信号は異なった周波数帯域と、時間領域の両方において分割される。
【0035】
本発明は、さらに、脳波信号をインプットとして受信し、以下の工程を行うようプログラミングされたコンピュータを提供する。以下の工程とは、
上記信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネント各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各々の平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を上記費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることを上記コンピュータ内で決定する工程、
である。
【0036】
上記コンピュータはプログラミングの受信が可能であってもよいし、完全にまたは一部において、必要なプログラミングがハードウェアに組み込まれているファームウェアで構成されていてもよい。
【0037】
本発明はさらに、互換性のあるコンピュータに脳波信号をインプットとして受信し、下記の工程を行わせる命令を含む機械語命令セットを提供する。下記の工程とは、
上記脳波信号からそれぞれが異なる周波数帯域を含む複数のコンポーネントを取得する工程、
上記コンポーネント各々の変動する強度測定値を取得する工程、
上記強度測定値の各平均の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値の各変動性の長期的な概算値を取得する工程、
上記強度測定値から上記平均の長期的な概算値を引き、その結果を上記変動性の長期的な概算値で割ることにより各周波数帯域から標準化された特徴を生成することと算術的に等価な処理によって上記強度測定値を標準化する工程、
上記標準化された特徴の機械解析を用いて変動する費用関数を取得する工程、
上記費用関数の値を該費用関数が低血糖を示す確率に準じて分類する工程、
選択された期間中に取得した上記確率を積算する工程、
および、
上記積算に基づき、低血糖症が発症している、または低血糖症の兆候があることを上記脳波信号が示していることを上記コンピュータ内で決定する工程、
である。
【0038】
本発明はさらに、脳波収集電極と、本発明の実施に適するようプログラミングされたコンピュータとを含む、低血糖症や低血糖症の兆候を警告するために用いられる装置を提供する。
【0039】
本発明の方法に関して記載された発明の全ての特徴、特色は、プログラミングされたコンピュータや、本発明の命令セット、命令プログラムに用いられてもよく、それらは機械読み取りが可能なキャリアやメモリにエンコードされていてもよい。
本発明を、以下の対応する図面を参照してさらに説明し、記載する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明に関する装置と、その装置内で用いられる脳波信号処理アルゴリズムを概略的に示す図である。
図2図1の「特徴」ブロックの詳細を示す図である。
図3図1の「事象検出」ブロックの詳細を示す図である。
図4図3の各「検出器」ブロックにおける本発明に準じ、任意に用いられる費用関数標準化の詳細を示す図である。
図5図3のアウトプットである事象に適用される積算の詳細を示す図である。
図6図3の「加重・加算」ブロックで用いられる分類器の訓練に使用するための脳波の生成に用いられる、血中グルコース値の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、一つのチャネル脳波信号が、低血糖症の検出のために本発明において処理される、本発明の好ましい実施形態を説明する。ただし、下記に記載の構成は容易に修正され、脳波信号を収集するために多数の電極を用いてよい。多数の電極を用いる際には、より確証を得るために、集めた信号を平均化してもよい。あるいは、信号における不整合を用いて、独立成分分析(ICA)やその他の機械訓練方法により、EMGアーチファクトのようなアーチファクトの存在を特定してもよい。このような一つのチャネル脳波信号は、一つの脳波測定電極と、一つの接地電極または参照電極から得ることができ、それを図1にブロック10として概略的に示している。これらは患者の頭皮上に設置してもよいし、より好ましくは頭皮下、頭蓋骨の外側に埋め込んでもよい。皮下への埋め込みの別の例としては、頭蓋骨の下に埋め込んでもよい。少なくとも頭蓋骨の外側に埋め込む場合は、好ましい電極の配置場所は、例えば、標準脳波10−20システム(the standard EEG 10-20 system,WO2007/144307参照)における(P4−T6)、(P4−T4)、(P3−T5)、または(P3−T3)等である。あるいは、もしくは上記に加えて、電極は外耳道に据えられてもよい。
【0042】
直線または曲線に沿って間隔を開けた多数の電極の位置を用いる場合は、電極に接続する導線を全て共通の経路に沿って同じ方向に出すことができるため、埋め込み電極を用いることが容易になる。
【0043】
上記電極、もしくは複数の電極10は、患者の脳波信号に基づき、その患者が低血糖症の状態にあるかないかを示す信号を出力する信号処理ユニットを供給する、コンピュータ12への入力として用いられる継続的な信号の流れを生み出す。
【0044】
上記信号処理ユニットは、物理的に二つ以上のユニットに分かれていてもよく、具体的には、初期の信号処理のいくつかが、埋め込まれたユニットで行われ、その信号処理が、埋め込まれたユニットから外部ユニットに送信され、その脳波信号に基づいて患者が低血糖症の状態にあるかないかを示す信号の出力の最終的な生成を促すさらなる処理が行われるように、(身体の)内部に埋め込まれたユニットと、外部ユニットとに分かれていてもよい。
【0045】
処理の第一段階では、脳波信号はデジタル化され、12ビットの信号ダイナミックレンジで、最下位ビット(LSB,least significant bit)が1μVに設定された状態で毎秒64のサンプルを生成するようサンプリングされる。
【0046】
図1で示されているように4つのブロックで構成されている信号処理アルゴリズムが適用される。最初のブロックでは、64Hzのサンプル脳波データストリームが送信され、このストリームを1Hzの特徴ベクトルの流れに変換する。
【0047】
特徴ベクトルは、各々事象検出器(分類器)に送られ、該検出器(分類器)がそのベクトルが低血糖症の兆候に付随するパターンを持っているかどうかを決定する。事象検出器は特徴ベクトルを二進値で1(低血糖)か0(正常)のどちらかに分類する。二進値で分類された事象ストリームは積算ブロックで過去X秒の間に起こった事象の数を反映する数へ積算される。積算器の出力が一定の閾値を越えると、低血糖検出ブロックがアラームを発する。低血糖検出ブロックから発せられたアラームは、アラーム信号生成器を起動して、装置の使用者によって知覚される、音やバイブレーション、軽い電気ショックのような物理的に感知できるアラーム信号を出力してもよい。あるいは、またそれに加えて、そのアラーム信号が遠隔モニタリング基地へ伝達されてもよい。
【0048】
下記に、より詳細にこれらのアルゴリズムのコンポーネントブロックを説明する。
【0049】
(特徴抽出と標準化)
図2に特徴抽出と標準化の機能性が示されている。各特徴標準化ブロック(1〜N、図1参照)は脳波ストリーム全体を受信する。各特徴ブロックには脳波の特定の特徴を抽出するフィルタがある。抽出は、例えば、異なった順番をもつFIRフィルタやIIRフィルタ構造などの様々なフィルタの形態で行われてもよい。本発明の実施形態では、N=9の特徴ブロックがあり、用いられているフィルタは3dBの通過帯域(1.0Hz−2.5Hz;2.5Hz−4.0Hz;4.0Hz−5.0Hz;5.0Hz−6.0Hz;6.0Hz−7.0Hz;7.0Hz−8.0Hz;8.0Hz−10.0Hz;10.0Hz−12.0Hz;12.0Hz−20.0Hz)をもつパスバンドフィルタである。それゆえ各特徴ブロックのフィルタ係数は他のブロックとは異なっている。
【0050】
特徴概算の構造と各特徴に適用する標準化が図2に示されている。
【0051】
|X|と表示されたブロックでは、抽出された信号の絶対値(1−ノルム)が算出され、短時AVGブロックに1秒にわたり任意に蓄積される。あるいは、短時AVGブロックは省略されてもよい。短時AVGブロックがある場合、データ率も1Hzに減縮される。絶対値、または短時AVGブロックから出力されたものは未加工フィーチャー(raw-feature)と名付けられる。
【0052】
1−ノルムのかわりに、上述したように他の強度測定値を用いることもできる。
強度測定値の平均の長期的な概算値は未加工フィーチャーの50パーセンタイルとして算出され、「長時AVG」ブロックで次第に平均化される。分散の長期的な概算値は各「長時AVG」ブロックにおいて、未加工フィーチャーの80パーセンタイル(上位パーセンタイル)を平均して算出される。平均の概算値は上位パーセンタイルの長期的な概算値から引かれ、分散‘x’の逆数の概算値が算出される。未加工フィーチャーははじめに平均の概算値(長期的な概算値)を引き、次に分散の概算値で割ることにより標準化される。
【0053】
各特徴において同じようにしてN個の標準化された特徴が生成される。
【0054】
あるいは、FFTや似たような変換を用いることができ、その場合は時間の区分け(あれば)が異なる頻度のコンポーネントに信号を分割するより前に、すなわち、上で詳述されている方法に含まれている順番とは逆の順番で行われる。
【0055】
(事象分類とアーチファクト除去)
図3は、2つの任意のアーチファクト検出器とともに低血糖事象分類器を示している。低血糖事象分類器とアーチファクト分類器はすべて同じ構造であり、各構造の入力であるN個の標準化された特徴をその都度入力として受信する。
【0056】
事象分類器では、標準化された特徴ははじめに第一係数セットにより重み付けされ、「加重・加算」と表示されたモジュールから「事象検出器」と表示されたモジュールへの出力である費用係数を与えつつ加算される。第一係数セットの微分は後に説明する。
【0057】
各アーチファクト検出器は同じように構成され、同じ標準化された特徴を入力として受信し、各自の第二、第三重み付け係数セット(後述する)を適用し、重み付けされた標準化された特徴を加算して各アーチファクト検出モジュールへと渡される各自個別の費用関数を生成する。そのため、事象検出器には1つの費用関数があり、アーチファクト信号の検出には2つの別々の費用関数があるが、それより多くある場合もある。費用関数は図3の検出器ブロックに入力を供給する。これらはそれぞれ図4に示される構造を持つ。
【0058】
事象分類器またはアーチファクト検出器のこの形態は、分類器が線形分類器として機能するにもかかわらず、固定小数点のフォーマットが限定されたダイナミックレンジのみを持つという事実から非線形性が算出されることもある、すなわち、信号が上界に達すると、それを超えないということから、人工の神経ネットワーク(ANN)と類似したものと考えることもできる。この効果はいくつかのANNの起動に用いられるシグモイド関数や双極正接関数の非線形性と類似している。ANNのこれらの形態ももちろん用いることができる。
【0059】
各検出ブロックははじめに費用関数を標準化し、次にその費用関数に基づいて事象出力を(図4の検出ボックスの働きにより)決定する。基本の実施においては、検出ボックスは二進法で出力するが、別の事象検出器の実施では出力がより多くのビットで表現されることもある。
【0060】
図3のアーチファクト検出器ブロックは各々0か1の二進法による出力を行う。出力された0か1は、アーチファクト検出器のどれかがアーチファクト信号を検出した場合、「1」を出力する論理OR関数に通される。論理OR関数の出力は「事象検出器」の出力を伴うAND‘edであり、この論理関数の出力は「事象検出器」出力から引かれる。これらの演算は、アーチファクト検出器のどれかがアーチファクトを検出した時に、低血糖の事象の検出を示す信号の出力を単にブロックするための機能である。それゆえ、低血糖の事象は(アーチファクト検出器で加重・加算スキームにより定義され)脳波にアーチファクト信号が含まれていない時にのみ検出される。
【0061】
図3の各事象検出モジュールは図4に示されている通りである。図3の加重・加算モジュールから受信した費用関数は以下のように標準化される。はじめに、モジュールは費用関数の平均値の長期的に平均化された概算値を算出し、それを50パーセンタイルで計算する(「平均」と表示されたボックス)。次に、フィルター(長時AVG)により平均化される。分散の概算値は80パーセンタイルとして算出され、長期にわたって同じく平均化され、続いて概算された平均から引かれる。概算された平均は費用関数から引かれ、その結果は概算された分散で割られ、「標準化された費用関数」が求められる。「検出器」の基本的な実施は二進法であり、入力が一定の閾値を下回る時は「0」を出力し、それ以外は「1」を出力する。
【0062】
検出器をより高度に実装し、出力を変数(1ビットよりも大きい)とすることもできる。その場合、入力が一定の閾値を下回る時、出力は「0」であり、それ以外は入力の関数が出力される。好ましい関数としては、
出力=(入力―定数1)×定数2+定数3
である。低血糖事象の検出器としてより高度な実装が用いられる場合は、「AND」と「−」(図3参照)は、アーチファクト事象が検出された時、事象検出の出力を「0」とする機能に置き換えられるべきである。
【0063】
(事象の積算)
1つの低血糖事象を考慮するのみでは、低血糖症の証拠としては十分ではない。脳波の雑音やアーチファクトは低血糖症の脳波パターンと類似することもあるため、「事象分類器」により検出される偽の低血糖事象が存在することとなる。低血糖症のパターンは、低血糖症の兆候がある場合、高い繰り返し頻度で何度も現れる。そのため、分類器からの証拠は、過去5分の事象証拠が考慮され、(デジタルIIRフィルタにより)積算される。積算された証拠によって、低血糖症の可能性の強固な評価が下される。上記抽出方法では、通常過去5分間の証拠を合計する。
【0064】
積算機能の通常の実装は過去5分間の証拠が循環メモリバッファに保存されるメモリブロックの使用により行われ、サンプルがアップデートされるたびに合計される。この積算機能がIIRフィルタにより実装される時は、メモリ要求は小さく、コンピュータ的により単純でありながら、同時に、統合機能の変更が必要な時はより高い柔軟性を可能にする。IIRフィルタは概して同じ機能性を持つのであれば様々な方法で構築されてよい。図5に公知のタイプの好ましい実装を示している。
【0065】
図5におけるP0,P1,P2,P3,そしてP4は係数である。「事象」は、積算器に入り「P0」を掛け、最初に遅れた信号からのフィードバックが加算された新しい事象(0または1)であり、「Z−1」が遅れを示す。データ処理はそれに続くブロックで類似している。保存された全ての値(「Z−1」ブロックの後)は最終的に全て加算され、「積算された事象」となる。
【0066】
(アラーム検出)
アラーム検出器は継続して統合ブロックからの出力を監視する。積算された証拠が一定の閾値を越えると、低血糖症の兆候の証拠が十分であるとされ、低血糖アラーム信号が出される。
【0067】
低血糖症の脳波パターンは脳が再び十分なグルコースを得るまで出現し続けるため、積算器内の証拠は使用者が自身のグルコース値を元に戻すまで数分間現れ続けると考えられる。この問題の解決策としては、積算の証拠がアラームの閾値を下回るレベルへ減少するまでアラームを無視するか、アラームが発せられた後、アラームを一定時間無視することである。後の方の解決策が現時点では好ましい。
【0068】
(分類器の訓練)
上述において、標準化された特徴は、図3の「加重・加算」ブロックにて、どの程度まで各標準化された特徴が事象検出器とアーチファクト検出器の結果に影響を及ぼすべきかを決定する各自のパラメータのセットを用いて、重み付けと加算とが行われることが示された。これら一度得られた係数のセットは、すべての患者に対し一般的に用いることができる。係数は機械訓練処理の訓練信号処理ユニットにて獲得される。訓練は図3の事象検出器における任意に選ばれた係数の最初のセットから始まる。
【0069】
低血糖症に晒されている複数の患者からの脳波を含むデータセットの使用に際し、該データセットは低血糖症の状況と同じく正常血糖の状況にある患者からの脳波記録も含む。両方の状況が、患者が起床しているときと同じく睡眠中も記録された。記録中に血液サンプルが採取され、患者が低血糖症かどうかを立証するため血漿グルコース値が決定された。
【0070】
脳波の記録は神経生理学者によって分析され、同様に睡眠の専門家も低血糖症に関連する脳波の変化と睡眠相との分類をして記録の分析を行った。
【0071】
これらの脳波の記録は上述のアルゴリズムを用いて解析される。専門家の合意の元、パラメータの最初のセットは修正され、アルゴリズムが各脳波における低血糖事象を特定する程度を向上させる。
【0072】
図6は、ゾーンA、B、C、DとEに分割したこの種の典型的な脳波記録の経時変化を示している。ゾーンAでは、グルコース値はβ=3.5mmol/lを超えている。それゆえ、脳波のこのゾーンではアルゴリズムは事象を検出しないはずである。ゾーンBでは、グルコース値が下降するに従い、適切に機能するアルゴリズムによっていくつかの事象が発見されると考えられるが、アラーム信号を発するまでには積算されない。ゾーンC(T、つまり実験プロトコルによってグルコース値が低血糖まで下降した瞬間からさかのぼること10分間の期間として定められる)では、より多くの低血糖事象が検出されることとなり、アラームを発生させるレベルまで積算される。ゾーンDでは、グルコースが投与されるが、低血糖の事象は検出され、アーチファクトによって品質が落とされすぎているため値を測定できなくなる。ゾーンEでは、グルコース値が高すぎるため低血糖の事象は正確に検出されない。
【0073】
事象検出器の出力のための費用関数は下記式(3)のように規定される。
【0074】
【数3】
【0075】
事象の重み付けはこの式に示されるほど精密である必要は必ずしもなく、限定するというよりは指標となるくらいである。
【0076】
パラメータの最初のセットはこの費用関数を最適化するように調整され、費用関数を専門家による脳波記録の分析で予想される値のラインへ移動させる。
【0077】
この種の費用関数を最適化する方法は多くあるが、好ましい方法としては、全てのパラメータの傾きを計算し、直線探索(ラインサーチ)により傾きを降下させることである。
【0078】
得られたパラメータのセットはもちろん個々人の集団に一般的に適用可能であり、パラメータは解析した脳波の元となる人物に限定されない。
【0079】
図3のアーチファクト検出器のパラメータの各セットは訓練によって同様に取得される。例えば、脳波を手動でマークアップして、咀嚼行動に関連する特徴を示すようにしてもよい。そのようなマークアップ特徴と直面したときは、アーチファクト検出分類器はアーチファクト検出信号を出力するよう上記のように訓練される。同様に、取得された解析パラメータは個々人の集団に一般的に適用可能であり、解析した脳波の元となる人物に限定されない。
【0080】
そのほかのアーチファクト検出器も低血糖を混同しやすい信号を喚起する他の活動形態を認識するよう訓練することができる。これらには、その他の筋肉やEMG雑音源と同様に、睡眠アーチファクトも含んでよい。
【0081】
(昼夜アルゴリズム)
夜間と日中の低血糖の状況は異なるため(脳波は夜間大きく変化する)、事象検出器を上述のように、日中の脳波を事象検出器特徴重み付けパラメータの最初のセットを構築するための訓練セットとして用いて訓練し、その訓練を繰り返すために、夜間の脳波記録を用いてパラメータの二番目のセットを構築するのが好ましい。これにより、患者の日中の使用と夜間の使用のための個別のアルゴリズムが備えられる。
【0082】
ある程度は、この二つのアルゴリズムは「間違った」種類のデータ(夜と昼が逆)と共に用いられても機能するが、性能は低下する。
【0083】
図2および図4において、特徴を標準化する標準化の機能性と事象分類器費用関数は、過去に記録されたデータに基づいている。データの統計は日中と夜間のデータで異なるため、標準化の機能性は日中と夜間では異なる効果を持つ。それゆえ、日中のアルゴリズムは日中のデータ統計により標準化され、夜間のアルゴリズムは夜間のデータ統計により標準化されることが重要なのである。任意で、日中用いる装置を1つ所持し、夜間に用いる装置を別に所持してもよい。あるいは、1つの装置で夜間と日中のパラメータセットを切り替えることができ、夜間モード、日中モードの各々で使用する標準化パラメータの適切な初期セットを備えている装置を用いてもよい。
【0084】
好ましくは、夜間アルゴリズムまたは日中アルゴリズムのどちらかを他方に切り替えるときに、アルゴリズムの先のセッションから関連する長期的な概算値がロードされ用いられるのがよい。
【0085】
(装置の物理的構造)
脳波の分析と、どのような形態であれアラーム信号の生成は、WO2006/066577やWO2009/090110に開示されているように、タスクとして、脳波電極につながれた埋め込み式の内部モジュールと、該内部モジュールと連絡している外部モジュールとの間で分割されていてもよい。内部モジュールが内外の誘導コイルを経由して継続的な供給から十分な電力を得ることができるように、現時点では内部モジュールが脳波を受信し、アナログからデジタルへの変換を行い、サンプル率を減少させ、不要な高頻度のコンポーネントを除去し、結果として出てきた信号を残りのステップが行われる外部モジュールへ伝達するのが好ましい。しかしながら、十分な電力を持つ充電可能な電池などの、埋め込み式の電源が用いられる場合、より多くの、もしくは全ての機能が埋め込みモジュールにて行われてもよい。
【0086】
本明細書において、明示的に別段の定めをした場合を除き、「または」は記載の条件の一方または両方が満たされている時、真の値を返す演算子(operator)の意味で使用され、条件の1つが満たされればよい演算子「排他的または」とは対照的である。「含む(comprising)」は「から成る(consisting of)」の意味よりも「含む(including)」の意味で用いている。上記に認められる全ての先行技術は、参照することにより本明細書に含まれる。本明細書におけるいかなる先行出版物の認識も、オーストラリアやその他の場所において一般的な知識であることの承認もしくは表明として受け取られるべきではない。
【符号の説明】
【0087】
10 電極(ブロック)
12 コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6