(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、建物の窓ガラスや壁面の清掃は、建物の屋上から吊り下げられたゴンドラなどに作業者が乗って、ゴンドラ内から作業者がブラシなどを使って行われていた。
しかし、ゴンドラは、通常、ワイヤーなどによって吊り下げられているだけであり、安定性が低く風が吹いたりすると揺れるので、清掃作業には危険が伴っていた。
かかる事情もあり、壁面や窓ガラスなどの清掃作業を自動で行う機械が求められていた。
【0003】
窓ガラスや壁面の清掃を行う機械として、吸盤などによって窓ガラスや壁面などに張り付いて移動することができるものが研究開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、洗浄機構を装備することにより高層ビル等の壁面を洗浄する壁面移動ロボットが開示されている。この壁面移動ロボットは、ケース本体の壁面対向側の外周縁に沿って略L字状の軟質のゴムシートを装備しており、このゴムシートを壁面に密着させた状態でケース本体内部の空気を排出することによって、本体全体を吸盤として機能させることができるものである。そして、この壁面移動ロボットは、ケース本体内部に駆動輪を備えているので、この駆動輪を作動させることによって、壁面移動ロボットを壁面に取り付けたままで壁面移動ロボットを壁面に沿って移動させることができる。すると、壁面移動ロボットが洗浄機構を備えているので、壁面移動ロボットが壁面に沿って移動すれば、洗浄機構によって壁面を清掃することができる。
【0005】
しかるに、外壁などの表面には埃や液体(水、油等)などが付着しており、これらの埃や液体(水、油等)などが特許文献1の技術では、ケース本体内部の空気とともに排出されることになる。すると、ケース本体内部の空気を真空ポンプなどによって吸引して排出している場合には、埃や液体(水、油等)などが真空ポンプ内に吸引されて真空ポンプを破損させてしまったり、ケース本体内部と真空ポンプとを接続する経路が詰まったりする可能性がある。
【0006】
かかる問題を防ぐ方法として、ケース本体内部の空気を排出する経路にフィルタを設けてフィルタによって埃や液体(水、油等)が真空ポンプまで流れることを防ぐ方法が考えられる。
しかし、フィルタが目詰まりしてしまうと、吸引力の喪失や低下により吸盤が壁面に張り付く力を喪失したり張り付く力が小さくなってしまったりするため、フィルタが詰まってしまう前にフィルタの交換を行わなければならない。
とくに、埃や液体(水、油等)が多い環境では、フィルタが短時間で目詰まりしてしまう恐れがあり、頻繁に行わなければならず、作業効率も低下してしまう。
このような吸着力の喪失や低下が、壁面などに張り付いて移動するロボットにおいて生じると、ロボットが壁面などから落下する事故を引き起こす危険性がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸盤機構は、吸盤を建物の外壁や内壁、天井、窓ガラス、傾斜した面、水平面などの表面(以下、壁面という)に張り付けるために使用される機構であり、壁面に埃や水、油などが付着している場合であっても安定して張り付け力を発生させることができるようにしたことに特徴を有している。
【0013】
本発明の吸盤機構の用途はとくに限定されないが、例えば、壁面に沿って移動する作業用ロボットにおいて、壁面などへの張り付け力を生じさせる吸盤機構として使用することができる。壁面に沿って移動する作業用ロボットは、壁面を掃除する窓ふきロボットや砂漠地域などを含む砂塵の多い環境にあるプラントの壁面や傾斜面、天井面などについて、塗装や検査、清掃などの作業を行うロボットを挙げることができるが、これらに限定されない。また,車輪の代わりにクローラ(無限軌道機構)を用いてもよく、壁面移動機械1を壁面に沿って移動させることのできるものであれば、とくに限定されない。
【0014】
(壁面移動機械)
まず、本発明の吸盤機構を説明する前に、本発明の吸盤機構が採用される壁面移動機械を説明する。
【0015】
図4において、符号2は、本実施形態の壁面移動機械1は、壁面移動機械1の各装置が取り付けられるフレームとなるベース部を示している。
【0016】
このベース部2には、移動手段5が取り付けられている。
この移動手段5は、ベース部2に回転可能に取り付けられた車輪6と、この車輪6に駆動力を供給する駆動部7とを備えている。駆動部7は、例えば、電動モータとこの電動モータの駆動力を減速して車輪6に供給する減速機とを備えたものを挙げることができるが、車輪6に駆動力を供給できるものであれば、とくに限定されない。
【0017】
また、ベース部2には、その一方の面に、前述した吸盤10が複数設けられている。
図6に示すように、吸盤10の本体部11は、一方の面11aから凹んだ凹部11hを備えた略皿状に形成された部材である。この本体部11は、略平板状に形成された基板部12と、この基板部12の外周端縁に設けられた側壁部13と、を有しており、基板部12と側壁部13とによって囲まれた空間に凹部11hが形成されている。そして、本体部11には、基板部12を貫通し、凹部11h内と外部との間を連通する吸引通路11rが設けられており、この吸引通路11rが、後述する本発明の吸盤機構30の空気通路35に連通されている。つまり、吸引通路11rを介して、凹部11h内の空間が空気通路35に連通されているのである。
【0018】
以上のごとき構成であるから、吸盤10が壁面に接するようにベース部2を配置した状態で、吸引手段32によって吸盤10の本体部11の凹部11h内の空気を吸引すれば、凹部11h内が負圧になるから、吸盤10が壁面に張り付く。したがって、吸盤10が壁面に張り付く力によって、ベース部2、つまり、壁面移動機械1を壁面に張り付けることができる。
【0019】
しかも、吸盤10が壁面に張り付く力によって、移動手段5の車輪6が壁面に接触し押しつけられるので、移動手段5の駆動部7を作動させれば、車輪6の回転によって壁面移動機械1を壁面に沿って移動させることができる。つまり、吸盤10によって壁面移動機械1を壁面に張り付けた状態のまま、車輪6によって壁面移動機械1を壁面に沿ってスムースに移動させることができる。
【0020】
すると、壁面移動機械1が壁面や窓ガラスなどを清掃するブラシなどを備えていれば、壁面移動機械1が自走することによって、壁面や窓ガラスなどを自動で清掃することができるのである。
【0021】
壁面移動機械1に設けられる吸盤10の数はとくに限定されず、1つでもよいし、2つ以上でもよい。しかし、吸盤10が1つの場合には、その吸盤10の損傷などが原因で張り付け力が失われた場合、壁面移動機械1が落下してしまうなどの問題が生じる可能性がある。したがって、壁面移動機械1を安全に作動させる上では、複数の吸盤10を備えていることが好ましい。
【0022】
つぎに、本発明の吸盤機構30について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明の吸盤機構30は、吸盤内の空気を吸引する空気吸引機構31を備えている。
例えば、吸盤が、
図6に示すような吸盤10である場合には、空気吸引機構31は、吸盤10の本体部11に設けられている吸引通路11rを介して、吸盤10の凹部11h内の空気を吸引できるように構成される。
すると、空気吸引機構31を作動させることによって、凹部11h内の気圧を外部よりも低くすることができ、凹部11h内と外部との圧力差によって吸盤10を壁面に張り付けることができる。
【0023】
本発明の吸盤機構30に使用される吸盤は、
図6に示すような構造を有する吸盤10に限られず、一般的な吸盤(つまり、吸盤の空間(外部との差圧を発生させるための空間)を有するもの)であればよく、形状や構造はとくに限定されない。
以下では、本発明の吸盤機構30によって
図6の吸盤10を制御する場合を説明する。
【0024】
図1に示すように、空気吸引機構31は、吸引手段32と、吸引手段32と吸盤10との間を連通する空気流路35と、空気流路35に介装されたシリンダ40とを備えている。
【0025】
まず、空気流路35は、管状部材やチューブなどのように内部に気体を流すことができる部材によって形成されたものである。この空気流路35は、その一端が吸盤10の吸引通路11rの外部端部に気密に接続されており、その他端は吸引手段32に気密に接続されている。
【0026】
図1に示すように、空気流路35には、吸盤10と吸引手段32の間に隔離容器としてのシリンダ40が介装されている。
このシリンダ40は、筒状の中空な空間42hを内部に有するシリンダボディ41を備えている。
このシリンダボディ41の中空な空間42hの内部には、隔離部材としてのピストン部材42が設けられている。このピストン部材42は、中空な空間42h内を2つの空間40a,40bに分割するものである。しかも、ピストン部材42は、2つの空間40a,40bの間を気密に隔離でき、かつ、2つの空間40a,40bの間を気密に隔離したまま空間42hの軸方向に沿って移動できるように設けられている。
【0027】
そして、分割された2つの空間40a,40bのうち、一方の空間40aは、空気流路35の吸盤側空気流路36によって吸盤10の凹部11h内と連通されており、他方の空間40bは、空気流路35の吸引手段側空気流路37によって吸引手段32と連通されている。
具体的にいえば、空気流路35の吸盤側空気流路36が、シリンダボディ41の一方の軸端(
図1では下端)に接続されており、この空気流路35の吸盤側空気流路36によって、一方の空間40a(
図1では下側の空間、以下、吸盤側室40aという)が吸盤10の凹部11h内と連通されている。空気流路35の吸引手段側空気流路37が、シリンダボディ41の他方の軸端(
図1では上端)に接続されており、他方の空間40b(
図1では上側の空間、以下、吸引手段側室40bという)が吸引手段32における空気を吸引する吸引口と連通されているのである。
【0028】
(本発明の吸盤機構30の作動)
以上のごとき構成であるので、本発明の吸盤機構30は以下のように作動させることができる。
【0029】
まず、吸盤10の凹部11hの開口を壁面に向けて、側壁部13の先端縁が壁面に接触するように、吸盤10を配置する。すると、吸盤10における凹部11を、壁面と本体部11によって外部から遮断された空間とすることができる。
【0030】
この状態において、吸引手段32を作動させて、吸引手段側室40b内の空気を吸引すると、吸引手段側室40b内の圧力が低下し、吸引手段側室40b内の圧力が吸盤側室40a内の圧力よりも低くなる。この圧力差によってピストン部材42は吸盤側室40aから吸引手段側室40bに向かって移動する。
ピストン部材42の移動によって吸盤側室40aの容積が大きくなるよう機能するが、吸盤側室40aは吸盤10における凹部11hと連通されており、この凹部11hは外部から遮断された空間となっているので、吸盤側室40aおよび凹部11h内の圧力は低下する。
すると、凹部11h内と外部の気圧の差によって、吸盤10の本体部11(具体的には側壁部13)を内方に押す力が発生する。この張り付け力によって、側壁部13は内方に凹むように変形し、側壁部13の先端縁が壁面に押し付けられるから、本体部11を壁面に張り付けることができる。
【0031】
ここで、吸引手段32によって吸引手段側室40b内の空気は吸引されているが、ピストン部材42によって吸引手段側室40bと吸盤側室40aとが気密に隔離されているので、吸盤10の凹部11h内の空気が吸引手段32に入ることはない。
このため、埃や液体(水、油等)などが付着している壁面に吸盤10を取り付けても、埃や液体(水、油等)などが吸引手段32に吸引されないので、埃や液体(水、油等)などに起因する吸引手段32の故障を防ぐことができる。すると、本発明の吸盤機構30を採用すれば、劣悪な環境で使用されても、吸盤10の張り付け効果を維持することができる。
【0032】
(張り付け力を増加する方法)
また、吸盤10に発生させることができる張り付け力は、吸盤側室40aの容積の増加割合によって決定される。つまり、シリンダボディ41の中空な空間42hの容積(つまり、吸盤側室40aの容積と吸引手段側室40bの容積を合わせた容積)によって決定される。
ここで、
図1(B)に示すような構成とすれば、シリンダボディ41の中空な空間42hの容積に係わらず、張り付け力を大きくすることができる。
【0033】
図1(B)において、符号51は、シリンダボディ41の一方の軸端に接続された排出流路を示している。この排出流路51は、シリンダボディ41の吸盤側室40aと外部との間を連通するものである。この排出流路51には、吸盤側室40aから外部への空気の流れのみを許容する逆止弁52が介装されている。
また、吸盤側空気流路36には、吸盤10の凹部11hから吸盤側室40aへの空気の流れのみを許容する逆止弁36aが介装されている。
【0034】
一方、シリンダボディ41の他方の軸端には、加圧機構55の供給流路56の一端が接続されている。この供給流路56の他端には、ポンプなどのように、供給流路56を通して空気をシリンダボディ41の吸盤側室40aに供給しうる空気供給手段57が接続されている。つまり、供給流路56によって、シリンダボディ41の吸盤側室40aと空気供給手段57とが連通されているのである。
この供給流路56には、シリンダボディ41の吸引手段側室40bと空気供給手段57との間に、電磁バルブなどの流路切換弁58が介装されている。この流路切換弁58は、吸引手段側室40bと空気供給手段57との間を連通する連通位置と、吸引手段側室40bと空気供給手段57との間を遮断する遮断位置とを備えており、連通位置と遮断位置との間で切り換え可能なものである。
【0035】
そして、排出流路51には、吸盤側室40aと逆止弁52との間の位置における圧力を測定する圧力計Sが設けられており、その測定値が制御手段100に入力されるようになっている。
この制御手段100は、吸引手段32、空気供給手段57および流路切換弁58の作動を制御するものである。
【0036】
以上の構成であるので、吸盤10を張り付けるときに、吸引手段32、空気供給手段57および流路切換弁58を以下のように作動させれば、シリンダボディ41の中空な空間42hの容積から得られる張り付け力以上の張り付け力を吸盤10に発揮させることができる。
【0037】
まず、吸盤10が、その凹部11hの開口を壁面に向けて側壁部13の先端縁が壁面に接触するように吸盤10を配置されると、制御手段100によって吸引手段32が作動される。すると、ピストン部材42が他端に向かって移動し、吸盤側室40a内の気圧が低下する。このとき、吸盤10の凹部11hから吸盤側室40a内に空気が吸引されるので、凹部11h内の気圧も低下する。
なお、この状態では、空気供給手段57は作動されておらず、流路切換弁58は、遮断位置となっている。
また、排出流路51には、逆止弁52が介装されているので、排出流路51から吸盤側室40a内に外気が吸入されることはない。
【0038】
やがて、吸引手段側室40b内の全ての空気が吸引されると、ピストン部材42は、シリンダボディ41の他端(
図1(B)では上端)まで移動する。すると、吸盤側室40aの容積がこれ以上大きくなれないので、吸盤側室40a内の圧力が低下しなくなる。
圧力計Sの値に基づいて、吸盤側室40a内の圧力が低下しない状態になったことを制御手段100が認識すると、制御手段100によって吸引手段32の作動が停止される。このとき、吸盤側空気流路36には、吸盤10の凹部11hから吸盤側室40aへの空気の流れのみを許容する逆止弁36aが介装されているので、吸盤10の凹部11h内は吸引手段32の作動を停止する前の圧力に維持される。
【0039】
吸引手段32の作動を停止すると、制御手段100によって空気供給手段57が作動されるとともに、流路切換弁58が連通位置に切り換えられる。すると、空気供給手段57から吸引手段側室40b内に空気が供給され、吸引手段側室40b内の圧力が高くなる。
吸引手段側室40b内の圧力が高くなると、吸盤側室40a内は、外気よりも低い圧力になっているので、ピストン部材42はシリンダボディ41の一端(
図1(B)では下端)に向かって押されて移動し、やがて、ピストン部材42はシリンダボディ41の一端に到達する。なお、この間も、吸盤10の凹部11h内は吸引手段32の作動を停止する前の圧力に維持される。
ピストン部材42はシリンダボディ41の一端に到達したことを、制御手段100が認識すると、空気供給手段57の作動が停止されるとともに、流路切換弁58が連通位置から遮断位置に切り換えられる。
なお、ピストン部材42はシリンダボディ41の一端に到達したことを制御手段100が認識する方法はとくに限定されず、上述したような圧力によって検出してもよいし、シリンダ40にリミットスイッチや、光学式センサなどの検出手段を設けておき、その検出手段からの信号によってピストン部材42の位置を検出するようにしてもよい。ピストン部材42の位置を検出できるシリンダをシリンダ40として用いれば、特別な検出手段を使用しなくても、ピストン部材42がシリンダボディ41の一端に到達したことを制御手段100に認識させることができる。
【0040】
そして、再度吸引手段32が作動されると、ピストン部材42が再び他端に向かって移動し、吸盤側室40a内の容積が大きくなり、吸盤側室40a内の気圧が低下する。このように再度吸引手段32が再作動されたときには、吸盤側室40a内の気圧は、吸盤10の凹部11h内の気圧よりも低くなる。
したがって、吸盤10の凹部11hから再び吸盤側室40a内に空気が吸引されるので、吸盤10の凹部11h内の気圧はさらに低下する。すると、外気と吸盤10の凹部11h内との差圧がさらに大きくなるので、吸盤10を壁面に張り付ける力がさらに大きくなる。
【0041】
上述した作動を繰り返せば、吸盤10の凹部11h内の気圧を大幅に低くすることができるので、吸盤10を壁面に張り付ける力を大幅に大きくすることができる。
【0042】
以上のごとく、
図1(B)に示すような構成を採用すれば、シリンダボディ41の中空な空間42hの容積から得られる張り付け力以上の張り付け力を吸盤10に発揮させることができる。
また、吸盤側空気流路36に、排出流路51の圧力計Sとは別の圧力計を設けてもよい。この場合、吸盤10の凹部11h内の気圧を直接把握することができるので、吸盤10の凹部11h内の気圧を所望の圧力に調整することできる。つまり、圧力計から把握される吸盤10の凹部11h内の気圧に基づいて、制御手段100が、吸引手段32、空気供給手段57および流路切換弁58を制御することが可能となるので、吸盤10の凹部11h内が所望の圧力となるように正確に調整することができる。
とくに、凹部11h内の圧力を測定する圧力計として、凹部11h内の圧力をゲージ圧として計測できるものを使用することが好ましい。この場合、凹部11h内の気圧と周囲の気圧の差に基づいて張り付け力を算出することができるので、かかる張り付け力算出機能を制御手段100に設けておくようにすれば、所望の張り付け力で吸盤10を壁面に張り付けることも可能となる。
【0043】
なお、上記例における、供給流路56、空気供給手段57および流路切換弁58からなる加圧機構55が特許請求の範囲にいう付勢手段に相当するが、付勢手段の構成は上記のごとき構成に限定されず、ピストン部材42を吸引手段側室側40bから吸盤側室側40aに向かって付勢することができるのであれば、どのような構成を採用してもよい。
【0044】
例えば、
図2(A)に示すように、シリンダボディ41の中空な空間42hの吸引手段側室40b内に、ピストン部材42を吸引手段側室側40bから吸盤側室側40aに向かって付勢するバネ45を設けてもよい。この場合には、吸引手段32を作動(吸引)から停止(吸引停止)に切り換えるだけで、吸盤側室40aから空気を排出することができるので、迅速に張り付け力を増加させることができる。
【0045】
吸引手段側室40b内に設けるバネ45は、ピストン部材42をスムースに作動させる上ではコイルバネが好ましいが、ピストン部材42をシリンダボディ41の一方の端部まで移動させる程度の長さがあればよく、その構造などはとくに限定されない。
また、ピストン部材42をシリンダボディ41の一方の端部まで完全に移動させる必要がないのであれば、吸盤側室40a側に、ピストン部材42をシリンダボディ41の一方の端部に向かって引っ張るバネを設けてもよい。
【0046】
また、上記のごとき付勢手段を設けた場合、吸盤10による張り付け力を強くしたり、所望の張り付け力を得たりするという効果が得られるが、他にも以下のごとき効果を得ることができる。
【0047】
例えば、吸引手段32が作動しているときに、吸盤10が壁面から離れた場合、ピストン部材42はシリンダボディ41の他方の端部に移動してしまう。すると、吸引手段32の作動を停止して、吸盤10が再度壁面に接触させたとしても、張り付け力を回復させることは困難である。
しかし、付勢手段を設けておけば、吸盤10が壁面から離れたときに、吸引手段32の作動を停止して、付勢手段によってピストン部材42をシリンダボディ41の一方の端部に移動させておけば、吸盤10が再度壁面に接触したときに、迅速に張り付け力を回復させることができる。
【0048】
なお、かかる機能を発揮させる場合には、吸引手段32が作動している状態において、圧力計Sの値が増加し外気の気圧と同じになったら、または、あらかじめ定めた値以下の気圧になったら、吸引手段32の作動を停止するようにすればよい。また、吸盤10が壁面に再接触したことは、接触式スイッチ(リミットスイッチ)、光学的スイッチ、距離計(例えば、光学式距離計など)などによって検出することができる。
【0049】
(吸引力発生機構の他の例)
上記例では、空気吸引機構31における吸引力の発生機構がシリンダ機構の場合を説明したが、吸引力の発生機構は、上記のごとき構成でなくてもよい。つまり、吸引力の発生機構は、内部に中空な空間を有する隔離容器と、この隔離容器内の空間を吸盤側室と吸引手段側室とに隔離する隔離部材と、を備えており、吸引手段によって吸引手段側室内の空気を吸引すると、該隔離容器の吸盤側室の容積が大きくなるように設けられていればよい。
【0050】
例えば、隔離部材として、ピストン部材に代えて、隔離容器内の空間を分割する可撓性や弾性を有する膜を採用することができる。この場合でも、吸引手段によって吸引手段側室内の空気を吸引すれば、吸引手段側室内の圧力が吸盤側室内の圧力よりも低くなるから、膜は吸引手段側室側に膨らむように変形する。言い換えれば、膜は、吸盤側室から吸引手段側室に凹むように変形するから、膜が凹んだ分だけ吸盤側室の容積が大きくなり、その容積の変化量に応じた張り付け力を吸盤10に生じさせることができる。
【0051】
なお、膜を用いた場合には、ピストン部材を設ける場合に比べて吸盤側室の容積を変化させることができる量が小さくなる。このため、隔離容器の大きさが同じであれば、隔離部材がピストン部材であるシリンダ機構を採用した場合に比べて、吸盤10に発生させることができる張り付け力の限界も小さくなる。隔離部材が膜であるシリンダ機構を採用した場合でも、隔離容器を大型化すれば、張り付け力の限界を大きくできるが、吸盤機構自体が大型化し重くなるという問題が生じる。
したがって、壁面移動機械のように軽量小型であることが要求される機械などに本発明の吸盤機構を採用する場合、また、小型かつ強い張り付け力の両方を満たさなければならない用途で使用する場合には、吸引力発生機構として、隔離部材がピストン部材であるシリンダ機構を採用することが好ましい。
【0052】
(複数の吸盤10を設けた場合)
また、壁面移動機械1では、吸盤が一つの場合もあるが、落下防止のためなどに、通常は複数の吸盤が設けられる。
複数の吸盤を有する場合には、各吸盤にそれぞれに真空ポンプなどの吸引手段を設けてもよいし、一つの吸引手段で複数の吸盤を作動させてもよい。
【0053】
しかし、一つの吸引手段で複数の吸盤を作動させる場合において、本発明の吸盤機構を採用すれば、以下のごとき効果を得ることができる。
【0054】
例えば、
図2(B)に示すように、吸引手段32に接続された主配管37aと、この主配管37aと複数の吸盤10との間を連通する副配管37bを設け、この副配管37bにそれぞれ上述したような吸引力発生機構40を設ける。すると、同じ主配管37aに接続されている吸盤10のうち、一つの吸盤10が壁面から離れた場合でも、その吸盤10と接続されている吸盤10については張り付け力を維持することができる。
なぜなら、吸引力発生機構40は、隔離部材42によって吸盤10と連通する吸盤側室40aと、吸引手段32と連通する吸引手段側室40bとが、気密に分離されており、吸引手段32は、吸引手段側室40b内に存在する空気以上を吸引できないからである。すると、壁面から離れた吸盤10における吸引手段側室40bでも、ある程度時間が経過すると、他の吸盤10に連通されている吸引力発生機構40の吸引手段側室40b内と同程度の気圧になるから、他の吸盤10は張り付け力を維持することができるのである。
【0055】
(グループ制御)
また、壁面移動機械において、複数の吸盤を有している場合には、以下のように吸盤をグループに分けて制御してもよい。
【0056】
図3に示すように、複数の吸盤10を、複数のグループ(
図3では2グル―プ)に分けて、各グループの吸盤10に接続されているシリンダ機構40を直列に接続し、一のシリンダ機構40には上述した加圧機構55を接続する。
そして、各グループの空気流路35と、吸引手段32との接続を切り換える流路切換弁38を設ける。具体的には、一のグループの空気流路35を吸引手段32の吸引口に接続したときには、他のグループの空気流路35を吸引手段32の排出口に接続することができるような回路を有する流路切換弁38を設ける。
【0057】
上記のごとき構成とすれば、一のグループの空気流路35が吸引手段32に接続されているときには、このグループの吸盤10によって壁面移動機械は壁面に張り付けておくことができる。一方、他のグループは吸盤10が張り付け力を発揮しない状態なので、シリンダ機構40の隔離部材42(ピストン部材42)を元の位置、つまり、吸引手段32が吸引を行う前の状態に復帰させることができる。
【0058】
また、吸引手段32と接続される空気流路35を切り換えれば、他のグループの吸盤10によって壁面移動機械は壁面に張り付けておくことができる一方、一のグループについては、シリンダ機構40の隔離部材42(ピストン部材42)を元の位置、つまり、吸引手段32が吸引を行う前の状態に復帰させることができる。
【0059】
このような構成とした場合には、以下の利点を得ることができる。
【0060】
例えば、壁面移動機械は壁面に沿って移動していくと、壁面の凹凸などの影響により、ある吸盤10の本体部11が壁面から離間して両者の間に隙間ができて、その吸盤10が張り付け力を失ってしまう場合がある。この場合、その吸盤10と接続されているシリンダ機構40では、吸盤側室40aが最大の大きさまで大きくなってしまう。すると、吸盤10の本体部11が壁面と接触できる状況に復帰しても、吸盤10は張り付け力を回復できない。張り付け力を回復させるためには、隔離部材42(ピストン部材42)を移動させて、吸盤側室40aを小さくしなければならない(逆にいえば、吸引手段側室40bを大きくしなければならない)。このためには、一旦、吸引手段32による空気の吸引を停止しなければならないが、この場合、他の吸盤10の吸引力もなくなってしまう。
【0061】
しかし、
図3に示すような構成としておけば、吸引手段32の吸引口に接続されているグループの吸盤10では、各吸盤10に張り付け力を発揮させることができる。
一方、吸引手段32の排出口に接続されているグループの吸盤10では、そのグループに張り付け力を喪失した吸盤10が存在していても、吸引手段32からの排気が吸引手段側室40bに供給されるので、張り付け力を喪失していた吸盤10の張り付け力を回復することができる。
つまり、流路切換弁38を適宜切り換える、または、定期的に切り換えることによって、壁面移動機械を吸盤10によって張り付けた状態のまま、張り付け力を喪失した吸盤10の張り付け力を回復することができる。
【0062】
また、上記構成とすれば、張り付け力を喪失していた吸盤10の張り付け力を回復するグループは他の吸盤10について、吸引力を発揮させなくてもよくなる。この場合、張り付け力を回復する際に、吸盤側室40aから排出される空気は、吸盤10から排出してもよくなる。すると、
図3に示すように、吸盤10と吸引力発生機構40との間の逆止弁や、吸盤側室40aから空気を排出するための特別の通路を設けなくても良くなるので、装置の構造をより簡単にすることができる。また、逆止弁のメンテナンスの必要性がなくなるので、メンテナンス性を向上することができる。さらに、吸盤側室40aから空気を排出する際に、空気の流れによって、吸盤10と吸引力発生機構40との間の配管を洗浄する効果も得ることができる。
【0063】
なお、張り付け力を発揮させるグループと張り付け力を回復するグループとを、適宜切り換える場合には、吸盤側室40aの圧力を測定する圧力計を設けておくことが好ましい。張り付け力を喪失している吸盤10が属するグループでは、他に比べて張り付け力を喪失しているとみなせる程度まで吸盤側室40aの圧力が高くなる。すると、張り付け力を喪失している吸盤10が属するグループを適切に検出することができるので、かかる吸盤10の張り付け力を早期に復帰させることができる。
【0064】
また、上記例では、一のグループの空気流路35が吸引手段32に接続されているときに、他のグループに対して吸引手段32の排気を供給する場合を説明した。この場合、吸盤10の張り付け力を回復するために、吸引手段側室40bに空気を供給する手段(例えば、
図1(B)の加圧機構55など)を設けなくてもよいので、壁面移動機械をコンパクトかつ軽量にすることができる。
【0065】
一方、吸引手段32とは別に、吸引手段側室40bに空気を供給する空気供給手段を設けてもよく、一のグループの空気流路35が吸引手段32に接続されているときに、他のグループの空気流路35が空気供給手段と接続されるようにしてもよい。
【0066】
さらに、吸引手段32および空気供給手段を各グループにそれぞれ設けてもよい。その場合には、吸盤10により張り付け力を発揮させるグループと、吸盤10の張り付け力を発揮させるグループを自由に設定できるという利点が得られる。
【0067】
なお、上記例では、複数の吸盤を2グループに分類した場合を説明したが、グループの数はとくに限定されず、3グループ以上でもよく、とくに限定されない。