(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861170
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】撮影システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20160202BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
A61B5/00 101A
A61B5/10 300Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-275340(P2011-275340)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-123604(P2013-123604A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】511307144
【氏名又は名称】アドバンストヘルスケア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(72)【発明者】
【氏名】中口 俊哉
【審査官】
伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−167996(JP,A)
【文献】
特開2011−239926(JP,A)
【文献】
特開2011−209032(JP,A)
【文献】
特開2000−105557(JP,A)
【文献】
特開2010−259487(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0119860(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0131771(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 5/01
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影対象物との間に解放空間を確保しつつ、撮影対象物に対向して凹曲面を有するように設けられ、撮影対象物に光を照射する面発光シートと、
該撮影対象物からの反射光を撮影するカメラと
を備え、
該撮影対象物は、光沢を有する部位である
ことを特徴とする撮影システム。
【請求項2】
前記カメラにより撮影された画像データの少なくとも色を解析処理する情報処理装置
をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の撮影システム。
【請求項3】
前記面発光シートは、撮影対象物とカメラとを含む水平仮想面上にて該撮影対象物を中
心とする略円弧形状である
ことを特徴とする請求項1記載の撮影システム。
【請求項4】
前記面発光シートは、撮影対象物とカメラとを含む鉛直仮想面上にて該撮影対象物を中
心とする略円弧形状である
ことを特徴とする請求項1記載の撮影システム。
【請求項5】
前記面発光シートは、無機ELシートである
ことを特徴とする請求項1記載の撮影システム。
【請求項6】
前記面発光シートは、有機ELシートである
ことを特徴とする請求項1記載の撮影システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源とカメラとを備える撮影システムに関し、特に、光沢を有する撮影対象を撮影する撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
和漢診療学において、体の部位である舌の状態を観察することにより健康状態や病状を診断する診断手法(以下「舌診」という。)がある。
【0003】
舌全体を舌の肌肉脈絡からなる舌質と舌質上に付着した苔状の物質(舌苔)に分けて、その色と形態の観察から、症状の進行度、熱や冷え症の有無、精神的な因子や体調の程度、血液の状態,体液の状態等を判断する。新しい舌の特徴量として、舌を出し続けた状態における舌色の時間的変化が有効であるとの提案がある。一般に、人が舌を出し続けると舌の静脈血のうっ滞(血液が循環せずに滞っている状態)が発生し、時間と共に舌色が変化する。この舌色の変化は、血液の性質(粘性)や血管の状態、即ち健康状態に密接に関わっていると考えられている。従って、舌色の時間的変化をみることで舌診が可能であると提案されている。
【0004】
しかしながら、診断が医師の主観や経験、知識に依存するため定性的になるという欠点もある。したがって、医療現場で取得された医療画像に基づいた定量的な評価が望まれている。このような定量的評価により、誤診の軽減や医師らのトレーニングが期待できる。
【0005】
ところで、舌の表面には唾液等の水分があり、点光源の場合、舌の表面で強く反射する光沢を含んだ色を計測することとなるため、舌の純粋な色彩変化を計測することができない。定量的な評価を行うには、舌の光沢成分を十分に除去した、舌そのものの色を再現した画像が必要となる。
【0006】
また、舌の表面には細かい凹凸があり、点光源の場合、照度ムラや陰影が多く発生するため、鮮明な画像が得られない。
【0007】
このような課題に対し、特許文献1では、舌の光沢成分を十分に除去できる撮影システムが提案されている。従来技術に係る撮影システムは、積分球と、積分球の開口部から積分球に光を照射する光源装置と、積分球の別の開口部から放出される光を撮影するカメラ装置を有している。積分球内部は球状にくりぬかれ、内壁には、高反射、高拡散の塗料が塗られている。この構成により、光源装置から照射された光は積分球の内部で何度も繰り返し反射され、十分に拡散された光が舌に照射される。
【0008】
点光源における表面反射は局所的な光沢になるのに対し、拡散光における表面反射は散乱するため、舌の光沢成分を十分に除去することができる。
【0009】
また、拡散光は凹凸に対し均等に照射されるため、照度ムラや陰影の発生を抑制し、鮮明な画像が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−259487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の撮影システムは、積分球を必須の構成としており、以下のような課題がある。
【0012】
積分球内部は光の拡散をするための領域を確保する必要があるため、積分球はある程度の大きさになる。その結果、撮影システムが大型化する。一般に、医療現場では、他の医療機器もあるため、撮影システムを設置する十分なスペースを確保できない。すなわち、サイズに係る課題がある。
【0013】
また、積分球は他に有効な用途もなく、市販されるものではない。したがって、撮影システムのためだけに特注せざるを得ず、コストを下げることができない。すなわち、コストに係る課題がある。
【0014】
一方、撮影時には、積分球が被撮影者の顔の前に位置し、被撮影者が不快に感じる恐れもある。すなわち、被撮影者の心理的負担に係る課題がある。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、撮影対象の光沢成分を十分に除去でき、撮影対象の凹凸に起因する照度ムラや陰影の発生を抑制できるとともに、従来技術に比べ、より小型で、低コストで、被撮影者の心理的負担のない撮影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、撮影対象物に光を照射する面発光シートと、該撮影対象物からの反射光を撮影するカメラとを備えることを特徴とする撮影システムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、撮影対象の光沢成分を十分に除去でき、撮影対象の凹凸に起因する照度ムラや陰影の発生を抑制できるとともに、従来技術に比べ、より小型で、低コストで、被撮影者の心理的負担を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】撮影システムの概略構成図である(第1実施形態)。
【
図3】撮影システムの概略構成図である(変形例)。
【
図4】撮影システムの概略構成図である(変形例)。
【
図5】撮影システムの概略構成図である(第2実施形態)。
【
図6】撮影システムの概略構成図である(第3実施形態)。
【
図7】撮影システムの概略構成図である(第4実施形態)。
【
図8】撮影システムの概略構成図である(変形例)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
〜構成・動作〜
第1実施形態の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る撮影システムの概略構成図である。
図1Aは平面図であり、
図1Bは側面図であり、
図1Cは正面図である。
【0020】
撮影システムは、2枚のELシート2a,2bと、カメラ3と、情報処理装置4と、撮影対象担持装置5とを備えている。
【0021】
ELシート2a,2bは電圧を付加することにより面発光する。ELシート2a,2bは無機ELシートでも、有機ELシートでもよい。一般に、無機ELシートは、コスト面で利点があり、有機ELシートは輝度の点で利点がある。ELシートは、長方形(たとえばA4サイズ)のシートとして市販されている。舌診に適用する場合、被撮影者の顔のサイズと同程度のサイズであることが好ましい。また、シートの特性として可撓性を有しており、曲面成形が容易である。
【0022】
撮影システムにおいて、2枚のELシート2a,2bは、その発光面が撮影対象1(たとえば、被撮影者の舌)に対向するように、撮影対象物1とカメラ3とを結ぶ仮想線に対し左右対称に設置され、曲げられることにより、撮影対象物1とカメラ3とを含む水平仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する。ELシート2a,2bにより多方向から撮影対象物1に拡散光が照射される。2枚のELシート2a,2bの間にはスリットが形成されている。ELシート2a,2bは支持フレーム10(
図2参照)により支持され、上記配置および上記形状を維持している。その結果、2枚のELシート2a,2bは、被撮影者の顔を水平方向に覆う。
【0023】
フレーム10の内枠寸法は、シート曲げ方向にはシート寸法より短く、他方向にはシート寸法と同等かやや長くなるように設計されている。
【0024】
カメラ3は、撮影対象1の正面かつ2枚のELシート2a,2bの背面に設置される。撮影対象物1からの反射光は、ELシート2a,2b間のスリットを通過してカメラ3に入射され、カメラ3は撮影対象1を撮影する。
【0025】
カメラ3の具体的な構成は特に限定されないが、時系列的に舌色を撮影することで健康状態を判断する場合には、時系列の画像データとして取り込めるビデオカメラであると好ましい。
【0026】
情報処理装置4はいわゆるパーソナルコンピュータを用いてもよい。情報処理装置4はカメラ3に接続され、カメラ3が撮影した画像データを解析処理するプログラムを記憶している。カメラ3より画像データを入力し、プログラムを実行することで、この画像データに関する種々の解析処理をおこなう。
【0027】
撮影対象担持装置5は撮影対象1を撮影位置に担持する。撮影位置は、2枚のELシート2a,2bからの拡散光が均等に撮影対象1に当たり、かつ、カメラ3の焦点と一致するように定められる。
【0028】
このような撮影システムにおいて、ELシート2a,2bが拡散光を撮影対象1に照射し、カメラ3は舌の光沢成分を十分に除去した、鮮明な画像データを撮影する。情報処理装置4は、舌そのものの色を再現しながら、舌色の時間的変化を定量的に計測する。医師は、この計測データを指標として、健康状態と密接に関わっているとされる血液や血管の状態を診断する。
【0029】
〜効果〜
本実施形態の撮影システムは、積分球を用いた従来技術と同様に、舌の光沢成分を十分に除去することができる。また、照度ムラや陰影の発生を抑制し、鮮明な画像が得られる。
【0030】
一方、従来技術ではサイズに係る課題があった。従来技術は、積分球内部で反射した拡散光を照射するのに対し、本実施形態は、ELシート2a,2bから直接に拡散光を照射する。従来技術は球形状が必須であるのに対し、本実施形態は凹曲面(球形状の一部)のみ形成できればよい。これにより、撮影システムを小型化できる。
【0031】
また、積分球は折り畳みが難しく、不使用時であっても小型化できない。本実施形態のELシート2a,2bは、フラットなシートを曲げたものであり、支持フレーム10から外すことで、フラットなシートとして保管できる。すなわち、不使用時には、さらに小型化できる。
【0032】
従来技術ではコストに係る課題があった。すなわち、積分球は他に有効な用途もなく、市販されるものではない。一方、ELシートは大量に廉価で市販されており、ELシートを用いることにより、コストを低減できる。
【0033】
従来技術では被撮影者の心理的負担に係る課題があった。すなわち、撮影時には、積分球が被撮影者の顔の前に位置し、被撮影者が不快に感じる恐れがある。本実施形態では、ELシート2a,2bと被撮影者との間に空間が確保できるので、被撮影者の心理的負担を低減できる。
【0034】
〜変形例〜
第1実施形態の変形例について説明する。
図3は、変形例に係る撮影システムの概略構成図である。
図3Aは平面図であり、
図3Bは側面図であり、
図3Cは正面図である。
【0035】
ELシートが、撮影対象物1とカメラ3とを含む水平仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する点では、第1実施形態と共通する。
【0036】
第1実施形態では、2枚のELシート2a,2bを用い、ELシート2a,2b間のスリットからカメラ3により撮影したが、1枚のELシート2を用い、ELシート2の中央に設けられた撮影孔から撮影してもよい。ELシートは一般に加工が容易であり、撮影孔を施工することも容易にできる。
【0037】
別の変形例(第2変形例)について説明する。
図4は、第2変形例に係る撮影システムの概略構成図である。
図4Aは平面図であり、
図4Bは側面図であり、
図4Cは正面図である。
【0038】
第2変形例は第1変形例をさらに変形したものである。撮影孔を施工するかわりに、カメラ3をELシート2の前面に設置してもよい。第1実施形態および第1変形例では、十分な輝度を確保するため、カメラ3をELシート2の背面に設置している。一方、第2変形例では、小型カメラを用いることにより照射の障害にならず、十分な輝度を確保できる。
【0039】
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。
図5は、第2実施形態に係る撮影システムの概略構成図である。
図5Aは平面図であり、
図5Bは側面図であり、
図5Cは正面図である。
【0040】
第1実施形態では、ELシートが、撮影対象物1とカメラ3とを含む水平仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成するのに対し、第2実施形態では、ELシート2a,2bが、撮影対象物1とカメラ3とを含む鉛直仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する。
【0041】
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。
図6は、第3実施形態に係る撮影システムの概略構成図である。
図6Aは平面図であり、
図6Bは側面図であり、
図6Cは正面図である。
【0042】
第3実施形態は、第1実施形態の特徴と第2実施形態の特徴を併せ持つ。すなわち、2枚のELシート2a,2bは、撮影対象物1とカメラ3とを含む水平仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成し、2枚のELシート2c,2dは、撮影対象物1とカメラ3とを含む鉛直仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する。
【0043】
これにより、積分球による照射により近い拡散光を照射できる。
【0044】
<第4実施形態>
第4実施形態について説明する。
図7は、第4実施形態に係る撮影システムの概略構成図である。
図7Aは平面図であり、
図7Bは側面図であり、
図7Cは正面図である。
【0045】
第4実施形態は、第3実施形態の変形例である。本実施形態の撮影システムは、支持フレーム10の代わりに、球面状の支持皿6を備えている。支持皿6の凹曲面側には、多角形(たとえば、八角形)に加工された複数のELシート7が張り付けられており、シート全体で球面を形成する。すなわち、ELシート7は、撮影対象物1とカメラ3とを含む水平仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成するとともに、撮影対象物1とカメラ3とを含む鉛直仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する。なお、ELシートは一般に加工が容易であり、八角形にすることも容易にできる。
【0046】
これにより、積分球による照射により近い拡散光を照射できる。
【0047】
第4実施形態の変形例について説明する。
図8は、変形例に係る撮影システムの概略構成図である。
図8Aは平面図であり、
図8Bは側面図であり、
図8Cは正面図である。
【0048】
第4実施形態では、支持皿6上に八角形に加工された複数のELシート7を張り付けることにより、シート全体で球面を形成するが、複数種類の多角形、例えば、五角形に加工された複数のELシート8aと六角形8bとを組み合わせて配置し、シート全体で球面を形成してもよい。
【0049】
<その他の実施形態・適用例>
上記実施形態では、面発光シートとしてELシートを例に説明したが、面発光や可撓性といった特徴を有すれば、ELシートに限定されない。
【0050】
上記実施形態では、ELシート2が、撮影対象物1とカメラ3とを含む仮想面上にて撮影対象物1を中心とする略円弧形状を形成する構成について説明したが、ELシート2が撮影対象物1に対向しているだけでも良い。また、撮影対象物1に対向して凹曲面を形成すれば、略円弧形状でなくともよい。
【0051】
上記実施形態では、撮影システムの撮影対象を舌として説明したが、光沢除去の必要がある撮影対象であれば、各分野に適用できる。
【0052】
医療分野の適用例として、歯や歯茎、唇等を撮影対象とすることもできる。医師は、光沢除去された画像データに基づいて健康状態を診断する。
【0053】
美容分野の適用として、口紅が塗られた唇や美白施術された肌を撮影対象とすることもできる。美容関係者は、光沢除去された画像データに基づいて美容施術の効果を確認したり、被施術者に効果を説明したりする。
【0054】
農業分野の適用例として、野菜や果物の断面を撮影対象とすることもできる。農業関係者は、光沢除去された画像データに基づいて野菜や果物の成長具合を推定し、収穫時期を判断する。
【0055】
また、細かい凹凸に起因して照度ムラや陰影が発生するおそれのある撮影対象であれば、各分野に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 撮影対象
2,2a,2b,2c,2d,7,8a,8b
3 カメラ
4 情報処理装置
5 撮影対象担持装置
6 支持フレーム
10 支持皿