特許第5861177号(P5861177)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5861177有機溶剤の脱着方法および有機溶剤の脱着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861177
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】有機溶剤の脱着方法および有機溶剤の脱着装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20160202BHJP
   B01D 53/44 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B01D53/04 230
   B01D53/44 110
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-228859(P2011-228859)
(22)【出願日】2011年10月18日
(65)【公開番号】特開2013-86024(P2013-86024A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】399031883
【氏名又は名称】株式会社モリカワ
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】高野 善一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 将博
(72)【発明者】
【氏名】杉森 博和
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−106450(JP,U)
【文献】 特公昭40−017441(JP,B1)
【文献】 米国特許第04021211(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02−53/12
B01D 53/34−53/85
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を吸着した吸着剤から前記有機溶剤を脱着するための脱着方法であって、該脱着方法は、前記吸着剤にドライガスを供給して脱着する第一脱着工程と、該第一脱着工程で脱着された吸着剤に過熱水蒸気を供給して更に脱着する第二脱着工程とを備えたものであり、前記第一脱着工程で供給されるドライガスは、加熱されたドライガスであり、該加熱されたドライガスは、第二脱着工程で供給される過熱水蒸気を熱媒として加熱されるものであることを特徴とする有機溶剤の脱着方法。
【請求項2】
有機溶剤を吸着した吸着剤から前記有機溶剤を脱着するための脱着装置であって、該脱着装置は、前記有機溶剤を吸着した吸着剤が充填される脱着槽と、該脱着槽にドライガスを供給するドライガス供給手段と、脱着槽に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気供給手段と、前記ドライガスを供給して脱着する第一脱着工程の後に過熱水蒸気を供給して脱着する第二脱着工程を行なうべく脱着槽へのドライガス、過熱水蒸気の供給を切換える切換え手段とを備えて構成されると共に、前記ドライガス供給手段は、脱着槽に供給されるドライガスを加熱する加熱器を含むと共に、該加熱器は、過熱水蒸気供給手段が発生する過熱水蒸気を熱媒としてドライガスを加熱する構成であることを特徴とする有機溶剤の脱着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭やゼオライト等の吸着剤に吸着された有機溶剤を脱着して回収するための有機溶剤の脱着方法および有機溶剤の脱着装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の揮発性の高い有機溶剤は、化学工場、塗装工場、印刷工場、薬品工場、半導体製造工場、精密機械製造工場等の各種施設において、反応、抽出、コーティング、脱脂洗浄等の各種工程で溶剤として広く用いられている。この様な揮発性の高い有機溶剤がガス化して大気中に排出されると、光化学オキシダントや浮遊粒子状物質の要因になり、そこで、ガス化した有機溶剤を回収(除去)するための回収システムが必要とされる。
前記回収システムとしては、従来から、ガス化した有機溶剤を活性炭やゼオライト等の吸着剤に吸着させる一方、該有機溶剤が吸着された吸着剤から有機溶剤を脱着することで、吸着剤を繰り返して利用できるようにしたものが知られている。さらにこの様な回収システムにおいて、吸着剤から有機溶剤を脱着するにあたり、加熱した空気や窒素ガス等のドライガスをキャリアガスとして吸着剤に供給して脱着する方法が知られているが、この様なドライガスを用いた脱着は、脱着率、つまり、吸着剤からの有機溶剤の除去率があまり高くないという問題を有している。このため、ドライガスを用いた脱着では、未脱着有機溶剤が吸着剤に残存してしまうことになって、脱着後の吸着剤を用いて再度吸着しようとしたときに、吸着量が低下するという問題がある。
そこで従来、吸着剤から有機溶剤を脱着するにあたり、ドライガスに換えて過熱水蒸気をキャリアガスとして脱着槽に供給して脱着する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この過熱水蒸気を用いた脱着は、過熱水蒸気の温度や圧力、流量等を適切に設定することで高い脱着率が得られことが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−125800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記過熱水蒸気を用いた脱着では、脱着された有機溶剤ガスと、キャリアとして用いた多量の水蒸気とが混合ガスとなって脱着槽から排出される。そして、この有機溶剤ガスと水蒸気との混合ガスを凝縮し、比重分離等により有機溶剤と凝縮水とに分離して回収した場合に、該回収した凝縮水中には多少なりとも有機溶剤が混入しており、このため、回収した凝縮水からさらに混入している有機溶剤を分離して除去するための除去処理を行なわないと、回収した凝縮水をそのまま外部に排出できないことになる。この凝縮水から有機溶剤を除去するための除去処理は、凝縮水量が多いほど、つまり、脱着に用いた過熱水蒸気の量が多いほど大規模な除去処理が必要であって困難であるという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、有機溶剤を吸着した吸着剤から前記有機溶剤を脱着するための脱着方法であって、該脱着方法は、前記吸着剤にドライガスを供給して脱着する第一脱着工程と、該第一脱着工程で脱着された吸着剤に過熱水蒸気を供給して更に脱着する第二脱着工程とを備えたものであり、前記第一脱着工程で供給されるドライガスは、加熱されたドライガスであり、該加熱されたドライガスは、第二脱着工程で供給される過熱水蒸気を熱媒として加熱されるものであることを特徴とする有機溶剤の脱着方法である。
請求項2の発明は、有機溶剤を吸着した吸着剤から前記有機溶剤を脱着するための脱着装置であって、該脱着装置は、前記有機溶剤を吸着した吸着剤が充填される脱着槽と、該脱着槽にドライガスを供給するドライガス供給手段と、脱着槽に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気供給手段と、前記ドライガスを供給して脱着する第一脱着工程の後に過熱水蒸気を供給して脱着する第二脱着工程を行なうべく脱着槽へのドライガス、過熱水蒸気の供給を切換える切換え手段とを備えて構成されると共に、前記ドライガス供給手段は、脱着槽に供給されるドライガスを加熱する加熱器を含むと共に、該加熱器は、過熱水蒸気供給手段が発生する過熱水蒸気を熱媒としてドライガスを加熱する構成であることを特徴とする有機溶剤の脱着装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1または2の発明とすることにより、ドライガスを用いた第一脱着工程では脱着されずに吸着剤に残存している有機溶剤を、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程によって確実に脱着できることになって、高い脱着率を確保できる。しかも、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程は、ドライガスを用いて脱着された後の活性炭に対して行なわれるため、過熱水蒸気の使用量を大幅に低減することができる。この結果、脱着後の有機溶剤ガスと水蒸気との混合ガスを凝縮したときに生じる凝縮水が大幅に少なくなり、該凝縮水に混入する有機溶剤を除去するための除去処理を小規模にできることになって、除去処理の容易化、コスト低減に大きく貢献できる。
そのうえ第二脱着工程に用いられる過熱水蒸気を有効利用して第一脱着工程に用いられるドライガスを加熱できることになって、ドライガス加熱用の熱源を別途必要とせず、装置の兼用化、省エネルギー化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】脱着装置のフローを示す図である。
図2】予備実験例の実験結果を示す表図である。
図3】実施例の実験結果を示す表図である。
図4】比較例の実験結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、脱着装置のフローを示す図であるが、該図1において、1は脱着槽であって、該脱着槽1には、有機溶剤が吸着された活性炭(本発明の吸着剤に相当する)が充填されている。
【0009】
また、2は前記脱着槽1の上流側に設けられるブロアであって、該ブロア2から圧送されたドライガス(本実施の形態では空気)は、加熱器3によって加熱されてから前記脱着槽1に供給される。この場合に、加熱器3から脱着槽1に至る配管4には第一開閉弁5が配されており、該第一開閉弁5によって、脱着槽1へのドライガスの供給の開閉を行なえるようになっている。尚、脱着槽1に供給されるドライガスの温度及び流量は、活性炭に吸着された有機溶剤の特性や吸着量等に応じて適宜設定される。また、前記ブロア2及び加熱器3は、本発明のドライガス供給手段を構成する。さらに、本発明のドライガスとは、空気、或いは水分を除去した空気、或いは窒素等の不活性ガス、或いは空気と不活性ガスとの混合ガス等の低水分状態のガスをいう。
【0010】
さらに、6は前記ブロア2と並列する状態で脱着槽1の上流側に設けられる過熱水蒸気発生装置(本発明の過熱水蒸気供給手段に相当する)であって、該過熱水蒸気発生装置6は、100℃を越える過熱水蒸気(例えば、200℃〜350℃の水蒸気)を発生して前記脱着槽1に供給する。この場合に、過熱水蒸気発生装置6から脱着槽1に至る配管7には開度量調整可能な第二開閉弁8が配設されており、該第二開閉弁8によって、過熱水蒸気発生装置6から脱着槽1への過熱水蒸気の供給の開閉、及び供給される過熱水蒸気の圧力の調整を行なえるようになっている。尚、脱着槽1に供給される過熱水蒸気の温度及び流量は、活性炭に吸着された有機溶剤の特性や吸着量等に応じて適宜設定される。
【0011】
ここで、前記加熱器3は、過熱水蒸気発生装置6で発生した過熱水蒸気を熱媒として、ブロア2から圧送されたドライガスを加熱する構成になっている。この場合に、過熱水蒸気発生装置6から加熱器3に至る配管9には開度量調整可能な第三開閉弁10が配設されており、該第三開閉弁10によって、過熱水蒸気発生装置6から加熱器3への過熱水蒸気の供給の開閉、及び供給される加熱水蒸気の圧力の調整を行なえるようになっている。
【0012】
そして、前記脱着槽1に充填された活性炭を脱着するにあたり、まず、第一脱着工程として、ブロア2から圧送されて加熱器3により加熱されたドライガスをキャリアガスとして脱着槽1に供給して、活性炭に吸着された有機溶剤を脱着する。このドライガスを用いた第一脱着工程は、脱着槽1の出口側に接続された濃度センサ11(例えば、ガスクロマトグラフィー)により測定される有機溶剤濃度が、予め設定される設定濃度以下まで低下した時点で終了させる。或いは、予め設定される設定時間経過後に終了させる。該第一脱着工程を終了させる設定時間、或いは設定濃度は、活性炭に吸着された有機溶剤の特性や吸着量等に応じて設定されるが、本実施の形態では、脱着前の吸着量に対して第一脱着工程で70%〜90%程度の脱着が行なわれるように、設定時間或いは設定濃度が設定されている。
【0013】
続いて、第二脱着工程として、過熱水蒸気発生装置6で発生された過熱水蒸気を脱着槽1に供給して、前記第一脱着工程でドライガスにより脱着された活性炭から更に有機溶剤を脱着する。この過熱水蒸気を用いた第二脱着工程は、脱着槽1の出口側に接続された温度センサ12により測定されるガス温度が、予め設定される設定温度を越えた時点で終了させる。該第二脱着工程を終了させる設定温度は、活性炭に吸着された有機溶剤の沸点に応じて、該沸点よりも高い温度(例えば、有機溶剤の沸点よりも10℃高い温度)が設定される。これは、脱着中においては、脱着槽1の出口側温度が有機溶剤の沸点近傍に保持される(脱着中は、有機溶剤の気化熱により過熱水蒸気の温度が低下してバランスするためと推論される)一方、脱着終了後は、脱着槽1の出口側温度が過熱水蒸気の供給温度近くまで急激に上昇することが実験により確認されているためである。
【0014】
而して、活性炭から有機溶剤を脱着する脱着工程として、まず、ドライガスを用いた第一脱着工程が行なわれ、続けて、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程が行なわれる。そして、ドライガスを用いた第一脱着工程によって、活性炭から大部分(例えば、吸着量の70%〜90%)の有機溶剤が脱着され、続けて行なわれる過熱水蒸気を用いた第二脱着工程によって、第一脱着工程で脱着されずに活性炭に残存している有機溶剤の殆ど(例えば、第一脱着工程での脱着分も含めて吸着量の99%〜略100%)が確実に脱着されるようになっている。尚、第一脱着工程中は、加熱器3から脱着槽1に至る配管4に配設の第一開閉弁5が開き、過熱水蒸気発生装置6から脱着槽1に至る配管7に配設の第二開閉弁8が閉じるように制御され、また、第二脱着工程中は、第一開閉弁5が閉じ第二開閉弁8が開くように制御され、これにより、第一脱着工程ではドライガスが脱着槽1に供給され、また、第二脱着工程では過熱水蒸気が脱着槽1に供給されることになるが、これら第一開閉弁5および第二開閉弁8は、本発明の脱着槽へのドライガス、過熱水蒸気の供給を切換える切換え手段に相当する。また、前記脱着槽1、ブロア2及び加熱器3(ドライガス供給手段)、過熱水蒸気発生装置6(過熱水蒸気供給手段)、第一開閉弁5及び第二開閉弁8(切換え手段)は、本発明の脱着装置を構成する。
【0015】
一方、13は前記脱着槽1の下流側に設けられる予冷凝縮器であって、該予冷凝縮器13は、工業用水を冷媒として、脱着槽1から排出された混合ガスを冷却する。該脱着槽1から排出される混合ガスは、第一脱着工程においては活性炭から脱着された有機溶剤ガスとドライガスとの混合ガスであり、また、第二脱着工程においては活性炭から脱着された有機溶剤ガスと水蒸気との混合ガスであるが、これら混合ガスが予冷凝縮器13によって冷却されることによって、有機溶剤ガスおよび水蒸気の一部が液化する。そして、該液化された有機溶剤および凝縮水は凝縮液タンク14にトラップされた後、比重分離器、蒸留分離器等の分離器15により有機溶剤と凝縮水とに分離されて、それぞれ有機溶剤回収タンク16、凝縮水回収タンク17に回収される。
【0016】
さらに、18は前記凝縮液タンク14の下流側に設けられる低温凝縮器であって、該低温凝縮器18は、前記予冷凝縮器13によって液化されなかった混合ガスを、冷却器19によって冷却された低温(例えば、−5℃〜5℃)の冷媒を用いて冷却して液化する。そして、該低温凝縮器18によって液化された凝縮液は、有機溶剤と凝縮水と分離されて、それぞれ有機溶剤回収タンク20、凝縮水回収タンク21に回収される。尚、凝縮器としては、前記低温凝縮器18に代えて、加圧深冷型の凝縮器等を用いることもできる。
【0017】
ここで、前記凝縮水回収タンク17、21に回収された凝縮水は、若干の有機溶剤を含有している。該有機溶剤を含有している凝縮水は、有機溶剤を除去する除去処理を行なった後に排水される。また、低温凝縮器18から排出されるガスは、必要に応じて活性炭等の吸着剤に吸着させて有機溶剤を除去処理してから、外部に排気される。
【0018】
叙述の如く構成された本実施の形態において、脱着装置は、有機溶剤を吸着した活性炭が充填される脱着槽1と、該脱着槽1に加熱されたドライガスを供給するブロア2および加熱器3と、脱着槽1に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置6と、脱着槽1へのドライガス、過熱水蒸気の供給を切換えるための第一、第二開閉弁5、8とを備えている。そして、脱着槽1に充填された活性炭を脱着する場合には、まず、活性炭に加熱されたドライガスを供給して脱着する第一脱着工程が行なわれ、その後に、前記第一工程で脱着された活性炭に過熱水蒸気を供給して更に脱着する第二脱着工程が行なわれることになる。
【0019】
而して、ドライガスを用いた第一脱着工程の後に、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程が行なわれることになり、これにより、ドライガスを用いた第一脱着工程では脱着されずに活性炭に残存している有機溶剤を、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程によって確実に脱着できることになって、高い脱着率を確保できる。しかも、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程は、ドライガスを用いて脱着された後の活性炭に対して行なわれるため、ドライガスを用いた脱着を行なわずに過熱水蒸気を用いた脱着のみを行なう場合と比して、過熱水蒸気の使用量を大幅に低減することができる。この結果、脱着後の有機溶剤ガスと水蒸気との混合ガスを凝縮したときに生じる凝縮水を大幅に少なくすることができ、よって、凝縮水から有機溶剤を除去するための除去処理を小規模にすることができて、除去処理の容易化、コスト低減に大きく貢献できる。
【0020】
しかもこのものにおいて、第一脱着工程に用いられるドライガスを加熱するための加熱器3は、過熱水蒸気発生装置6が発生する過熱水蒸気を熱媒としているから、第二脱着工程に用いられる過熱水蒸気を有効利用して第一脱着工程に用いられるドライガスを加熱できることになって、ドライガス加熱用の熱源を別途必要とせず、装置の兼用化、省エネルギー化が図れる。
【0021】
次に、本発明の有用性を確認するための予備実験例、実施例、比較例の各実験について、以下に具体的に記載する。これら予備実験例、実施例、比較例の各実験に用いた装置は、前述した脱着装置を実用化レベルよりも小型化したものであって、同一の符号を附すと共に、各装置の説明は省略する。また、これらの実験において、脱着槽1に充填される吸着剤としては活性炭を用い、該活性炭の13.8kgに有機溶剤としてトルエン(CCH)2.90kgを吸着させ、該トルエンを吸着した活性炭からトルエンを脱着させる実験を行った。
【0022】
<予備実験例>
予備実験として、本発明の第一脱着工程の脱着率が高くなる条件を検討するために、ドライガスの温度、風量をパラメータとして、ドライガスのみによる脱着を行なった。この場合に、ブロア2および加熱器3は、図2の実験No1−1〜No1−6に示す温度、風量の加熱空気を脱着槽1に供給するように設定した。この加熱空気による脱着は、脱着時間1時間で終了させた。その結果を図2に示すが、この予備実験で脱着率が最も高いのは実験No1−3(脱着量2.66kg、脱着率91%)であり、そこで、該実験No1−3の条件(加熱空気の温度207℃、風量800L/分)を、後述する実施例の第一脱着工程の条件として採用することにした。尚、実験No1−3の条件で脱着時期を1時間以上しても、トルエンの脱着量は殆ど増加しないことを実験により確認した。
【0023】
<実施例>
本発明の実施例として、ドライガスを用いた第一脱着工程の後に、過熱水蒸気を用いた第二工程を行なった。この場合に、第一脱着工程において、ブロア2および加熱器3は、207℃、800L/分(予備実験の実験No1−3の条件)の加熱空気を脱着槽1に供給するように設定すると共に、第一脱着工程は、脱着時間1時間で終了させた。前述した予備実験の結果から、第一脱着工程が終了した時点でのトルエンの脱着量は2.66kgであり、脱着率は91%である。また、第二脱着工程において、過熱水蒸気発生装置6は、図3の実験No2−1〜No2−3に示す温度、蒸気量の過熱水蒸気を脱着槽1に供給するように設定すると共に、第二脱着工程は、脱着槽1の出口側温度が120℃(トルエンの沸点110℃よりも10℃高い温度)を越えた時点で終了させた。その結果を図3に示すが、第二脱着工程で要した脱着時間は、実験No2−1は35分、実験No2−2は31分、実験No2−3は25分である。また、実験No2−1〜No2−3の何れにおいても、第二脱着工程が終了した時点でのトルエンの脱着量(第一脱着工程で脱着された分を含む)は2.90kgであり、脱着率は100%であった。
これにより、加熱空気(ドライガス)を用いた第一脱着工程の後に、過熱水蒸気を用いた第二脱着工程を行なうことによって、高い脱着率(実施例では100%)で脱着できることが確認された。この実施例で用いた過熱水蒸気の総量は、計算上、実験No2−1では25kg((43kg/時間)×35分=25kg)、実験No2−2では22kg((43kg/時間)×31分=22kg)、実験No2−3では20kg((47kg/時間)×25分=20kg)である。
【0024】
<比較例>
比較例として、ドライガスによる脱着を行なわずに、過熱水蒸気による脱着のみを行なった。この場合に、過熱水蒸気発生装置6は、図4の実験No3−1〜No3−3に示す温度、蒸気量の過熱水蒸気を脱着槽1に供給するように設定したが、該実験No3−1〜No3−3で設定した過熱水蒸気の温度、蒸気量は、前記実施例の実験No2−1〜No2−3で設定した過熱水蒸気の温度、蒸気量とそれぞれ同一である。また、この過熱水蒸気による脱着は、実施例と同様に、脱着槽1の出口側温度が120℃(トルエンの沸点110℃よりも10℃高い温度)を越えた時点で終了させた。その結果を図4に示すが、比較例で要した脱着時間は、実験No3−1は91分、実験No3−2は80分、実験No3−3は65分である。また、実験No3−1〜No3−3の何れにおいても、トルエンの脱着量(第一脱着工程で脱着された分を含む)は2.9kgであり、脱着率は100%であった。また、この比較例で用いた過熱水蒸気の総量は、計算上、実験No3−1では65kg((43kg/時間)×91分=65kg)、実験No3−2では57kg((43kg/時間)×57分=57kg)、実験No3−3では51kg((47kg/時間)×65分=51kg)である。
このことから、過熱水蒸気による脱着のみを行なう比較例では、前記実施例と同様に、高い脱着率で脱着することはできるものの、実施例と比して、多量(約2.6倍)の過熱水蒸気を必要とすることが確認され、これにより、本発明が実施された実施例では、比較例と比して過熱水蒸気の使用量を大幅に低減できることが確認された。
【0025】
尚、前記実施例では、第一脱着工程で、該第一脱着工程で脱着できる最大量まで脱着し、第二脱着工程で残りの分を脱着するように設定した。この様にした場合には、第二脱着工程で脱着する残りの脱着量が最小となるため、過熱水蒸気の使用量を最大限低減できることになるが、これに限定されることなく、第一、第二の各工程で脱着する脱着量の割合は、第一、第二の各脱着工程で使用するエネルギーや水処理にかかるコスト等を総合的に考慮して適宜設定することができる。
【0026】
例えば、ドライガスによる第一脱着工程を、脱着効率の比較的高い時点で終了させるように設定することもできる。つまり、第一脱着工程の脱着効率(時間あたりの脱着量)は、脱着開始直後は高いが、脱着時間が経過するにつれて低下する。このため、第一脱着工程で脱着できる最大量まで脱着すると、脱着効率の低い状態での脱着時間が長くなって、省エネルギー化に反してしまう惧れがある。そこで、第一脱着工程は、脱着効率の比較的高い時点(例えば、吸着量の70%まで脱着した時点)で終了させ、残りを第二脱着工程で脱着するように設定しても良い。この場合においても、ドライガスを用いた脱着を行なわずに過熱水蒸気を用いた脱着のみを行なう場合と比して、過熱水蒸気の使用量を大幅に低減することができるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、活性炭やゼオライト等の吸着剤に吸着された有機溶剤を脱着する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 脱着槽
2 ブロア
3 加熱器
5 第一開閉弁
6 過熱水蒸気発生装置
8 第二開閉弁
図1
図2
図3
図4