特許第5861185号(P5861185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861185
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】熱伝導性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20160202BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20160202BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160202BHJP
   F21V 29/87 20150101ALI20160202BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/38
   C08K3/04
   F21V29/87
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-517228(P2013-517228)
(86)(22)【出願日】2011年6月27日
(65)【公表番号】特表2013-532219(P2013-532219A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】EP2011060714
(87)【国際公開番号】WO2012000935
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年6月13日
(31)【優先権主張番号】10167465.3
(32)【優先日】2010年6月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン, ロベルト ヘンドリック カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】デイク, ヴァン, ハンス クラース
(72)【発明者】
【氏名】ファイツ, パスカル ヨゼフ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ウェネケス, ヨハネス アルバトス
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/019186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
C08K 3/04
C08K 3/38
F21V 29/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリエーテルイミド、およびその混合物および/またはコポリマーからなる群から選択される熱可塑性ポリマーである、有機ポリマー、
b.窒化ホウ素15〜40重量%、
c.カーボンブラック0.01〜10重量%、
非熱伝導性充填剤および/または非熱伝導性補強剤10〜40重量%、
を含む熱伝導性ポリマー組成物であって、前記重量パーセンテージ(重量%)が、前記熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対するパーセンテージである、熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項2】
金属充填剤、または窒化ホウ素以外の無機熱伝導性成分、またはカーボンブラック以外の炭素質成分、またはそのいずれかの組み合わせを含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
範囲0.5〜2.5W/m・Kの厚さ方向熱伝導度を有する、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記ポリマー組成物の成形品を製造するプロセスにおける、請求項1からのいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のポリマー組成物で製造された成形品。
【請求項6】
電子部品または電気デバイス用の熱シンクまたはハウジングである、請求項に記載の成形品。
【請求項7】
熱源を含む組立品における、熱管理目的のための請求項5または6に記載の成形品の使用。
【請求項8】
請求項5または6に記載の成形品を含む組立品。
【請求項9】
熱源と、前記熱源と接触する、またはそのすぐ近くにある、請求項1からのいずれか一項に記載のポリマー組成物で製造された熱シンクまたはハウジングと、を含む電気デバイスまたは電子デバイス、エンジンまたは照明システムである、請求項に記載の組立品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、熱伝導性ポリマー組成物、およびさらに詳しくは電気絶縁性を有する熱伝導性ポリマー組成物に関する。
【0002】
熱伝導性ポリマー組成物は、電気および電子組立品における熱シンクおよび構成要素、ランプ、エンジンおよび熱源を含む他の製品など、優れた熱管理特性が必要な用途で使用される。かかる用途では、電気および電子部品またはエンジンの優れた機能を提供するために、熱源からの熱の散逸および優れた熱管理システムが必要である。熱は、材料特性も破壊し得る。長時間の熱によってポリマーは劣化する。熱膨張および収縮は、反り、歪み、部分的な破損さえ引き起こす。温度の変動を減じることによって、これらの問題が減少する。熱を減じることが寿命の延長を助け、さらに材料を冷やすと、材料の特性がより良く維持される。
【0003】
熱伝導性ポリマー組成物は通常、有機ポリマーおよびその中に分散された熱伝導性充填剤を含む。かかる熱管理用途の多くでは、高温に耐え得る熱可塑性ポリマー、例えばポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリエーテルイミドが使用される。
【0004】
高い熱伝導度を達成するために、一般には熱伝導性充填剤の高い充填が必要とされる。これによって、ポリマー組成物の加工における問題が引き起こされ得る。
【0005】
さらに、高い熱伝導度は、高い熱伝導度を有するが、高い電気伝導度も有する熱伝導性充填剤で達成される場合が多い。かかる成分が、組成物およびそれから製造された部品に対してさらに高い熱伝導度を達成するために、より高い量で使用される場合、得られる部品は導電性にもなる。熱伝導性ポリマー組成物が電気絶縁物でなければならない場合、固有熱伝導度が低いことから、組成物に対して同じレベルまたは同等レベルの熱伝導度を達成するために、導電性充填剤の使用は、制限されるか、または全く排除されなければならず、しばしばより多量の電気絶縁充填剤に置き換えなければならない。
【0006】
国際公開第A−2008/079438号パンフレットには、有機ポリマーと熱伝導性充填剤を含む、熱伝導性および電気抵抗性ポリマー組成物が記述されている。その熱伝導性充填剤は、窒化ホウ素とグラファイトの混合物からなる。グラファイトは高い熱伝導度を有するが、導電性でもある。比較的高い固有熱伝導度を有し、電気絶縁性であることから、窒化ホウ素は非常に好ましい熱伝導性充填剤である。しかしながら、かなり高価な材料である。電気絶縁性と併せて優れた熱的性質を有する組成物を達成するために、米国特許出願公開第2008/0153959号明細書における組成物は、充填剤含有率が非常に高く、そのいくつかは比較的多い量の窒化ホウ素を有し、高価であり、かつ/または流れが重要である。
【0007】
したがって、向上した熱管理性能および/または熱管理、加工、電気絶縁、機械的性質および流れに関して向上した性能バランスを有する、更なる熱伝導性ポリマー組成物を見出すことが望まれる。
【0008】
有機ポリマーおよび熱伝導性充填剤の次に、カーボンブラックを含む熱伝導性ポリマー組成物が本明細書に開示される。有機ポリマーは、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリエーテルイミド、およびその混合物および/またはコポリマーからなる群から選択される熱可塑性ポリマーである。組成物は、熱伝導性充填剤として、組成物の総重量に対して窒化ホウ素15〜40重量%を含む。カーボンブラックの量は、組成物の総重量に対して0.01〜10重量%の範囲である。
【0009】
本発明によるポリマー組成物におけるカーボンブラックの存在の効果は、ポリマー組成物が優れた加工性および流動性を持ちながら、窒化ホウ素を含有するがカーボンブラックを含有しない相当する熱伝導性組成物と比較して、優れている熱管理性能である。さらに、本発明による熱伝導性ポリマー組成物におけるカーボンブラックは、多量の熱伝導性充填剤の必要性を抑え、それによって、より良い電気絶縁性を有する熱伝導性ポリマー組成物が得られる。
【0010】
熱伝導性ポリマー組成物は驚くべきことに、高温での熱管理用途における熱管理特性と加工時の流動性のより良い全体的性能バランスを示す。この結果は、室温でのポリマー組成物の熱伝導度が、たとえ少しでも向上したとしても、ほとんど向上せず、場合によっては、ある程度まで劣化さえし得るという事実にもかかわらず、カーボンブラックの存在により達成される。さらに、特に熱伝導性を高めるのに一般に必要な比較的多量の熱伝導性充填剤と比較した場合に、効果を達成するのに必要なカーボンブラックの量が少ないことを考慮すると、確認できる効果は目覚ましく、絶大である。
【0011】
一般的な例において、窒化ホウ素とカーボンブラックの両方を含むポリマー組成物は、同量の窒化ホウ素のみ含む相当するポリマー組成物の効果と比較して、およそ2倍大きな温度低下を示した。それと対照的に、同量のカーボンブラックのみを含む相当するポリマー組成物の効果は、上記の2つの組成物の両方と比較してごくわずかであった。
【0012】
上記の国際公開第第A−2008/079438号パンフレットには、ポリマー組成物がポリアミド(有機ポリマー)、窒化ホウ素(熱伝導性充填剤)45重量%、カーボンブラック10.3重量%を含む比較例が記述されている。国際公開第第A−2008/079438号パンフレットにおいて、他の成分の中でカーボンブラックは、向上した熱伝導度を示さなかったことが言及されている。カーボンブラックの使用によって実際には、熱伝導度が下がった。さらに、その組成物は、メルトフローインデックスを決定するには粘性が高すぎた。国際公開第第A−2008/079438号パンフレットには、本発明で観察されたように、カーボンブラックが熱伝導性ポリマー組成物の熱管理に対してかかる正の効果を有し得ることは指摘されていない。
【0013】
本発明を説明する文脈(特に、特許請求の範囲の文脈)で使用される「1つ(a)、(an)」および「その(the)」および同様な言及の使用は、本明細書において別段の指定がない限り、またはテキストと明らかに矛盾がない限り、単数と複数の両方を含むと解釈される。
【0014】
本発明の開示内容において、ある範囲が、最小数または最大数、またはその両方で、たとえば範囲20〜90重量%で定義される場合、その範囲は、指定の値(1つまたは複数)を含み、文脈によって指示される意味を有し、例えば、特定の値の測定に伴う誤差の程度を含む。本明細書で開示されるすべての範囲は終点を含み、その終点は独立して、互いに組み合わせ可能である。
【0015】
本発明による熱伝導性ポリマー組成物で使用される有機ポリマーは、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリエーテルイミド、およびその混合物およびコポリマーからなる群から選択される熱可塑性ポリマーである。適切なポリアミドは、非晶質と半結晶質ポリアミドの両方を含む。適切な熱可塑性ポリアミドは、半結晶質および非晶質ポリアミドを含む、溶融加工性である当業者に公知のすべてのポリアミドである。
【0016】
有機ポリマーは一般に、熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対して範囲20〜90重量%の量で使用される。有機ポリマーはさらに詳しくは、熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対して、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、または少なくとも40重量%など、より高い量で使用される。特に、熱管理性能の向上したレベルを達成するのに必要な熱伝導性充填剤が少なく、加工が容易になることから、このように多い量が可能である。有機ポリマーはさらに詳しくは、熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対して、最大で80重量%、最大で70重量%、または最大で60重量%などの量でも使用される。特に、熱伝導性ポリマー組成物が、熱伝導性充填剤およびカーボンブラックの次に繊維補強剤を含む場合、このように低い最大量が用いられるだろう。特に、熱管理性能の向上によって、より少ない熱伝導性充填剤を使用することが可能となる場合、より多い量の繊維補強剤を使用することができ、その結果、良好な加工性を維持しながら機械的性質が高められる。
【0017】
熱伝導性ポリマー組成物中の熱伝導性充填剤には、少なくとも窒化ホウ素が使用される。窒化ホウ素は、熱可塑性ポリマーに分散されるのに適している粒子の任意の形状であることができる。窒化ホウ素は、立方晶窒化ホウ素、六方晶窒化ホウ素、非晶質窒化ホウ素、菱面体晶窒化ホウ素、または他の同素体であり得る。それは、粉末、凝集物または繊維として使用され得る。例えば、アスペクト比l/dが約4:1である窒化ホウ素顆粒状粒子を使用することができる。しかしながら、それより小さな、好ましくは大きなl/d比を有する窒化ホウ素顆粒状粒子も使用される。例示的な窒化ホウ素は、General Electrics Advanced materialsから市販されている、PT350、PT360およびPT370である。
【0018】
本発明で使用されるカーボンブラックは、有機ポリマーに微粒子として分散することができる任意のカーボンブラックである。平面縮合環構造における六方配置炭素原子の平行層からなり、2500℃を超える温度まで非グラファイト炭素を熱処理することによって製造することができる、例えばクリスタリット長さ(Lc)>100nmを有するミクロスケール構造の層状微結晶質構造を有するグラファイトとは対照的に、例えば油の酸化によって製造することができる、例えば5nm未満のLcを有するナノスケールのクリスタリットを別にして、カーボンブラックは非晶質粒状炭素材料であるかまたは本質的にそうである。
【0019】
本発明による組成物におけるカーボンブラックの量は、組成物の総重量に対して好ましくは少なくとも0.1重量%、さらに良くは少なくとも1重量%であり、さらに好ましくは組成物の総重量に対して最大で7.5重量%である。最低量を高くすると、熱管理特性が良くなるのに対して、最大量を低くすると、流動性および加工性が良くなる。
【0020】
窒化ホウ素およびカーボンブラックの次に、有機ポリマーに分散することができ、ポリマー組成物の熱伝導度を向上させるいずれかの材料を使用することができる。一般に、かかる材料は、少なくとも2.5W/m・Kの固有熱伝導度を有する。固有熱伝導度が高いほど良く、適切には、熱伝導度は少なくとも5W/m・K、またはさらに良くは少なくとも10W/m・Kである。
【0021】
熱伝導性充填剤は、顆粒状粉末、粒子、ウィスカ、短繊維、または他の適切な形状をとり得る。粒子は、様々な構造を有することができる。例えば、粒子は、フレーク、プレート、米粒、ストランド、六角形、または球形の形を有することができる。熱伝導性充填剤は適切には、顆粒状、プレート状または繊維状材料、またはその組み合わせである。顆粒状材料は本明細書において、10:1未満のアスペクト比l/d(長さ/直径)を有する粒子からなる材料であると理解される。適切には、顆粒状材料は、約5:1以下のアスペクト比を有する。繊維は本明細書において、少なくとも10:1のアスペクト比を有する粒子からなる材料であると理解される。さらに好ましくは、熱伝導性繊維は、少なくとも15:1、さらに好ましくは少なくとも25:1のアスペクト比を有する繊維からなる。プレート状材料は本明細書において、その直径に対して相対的に小さな厚さを有する材料と理解される。適切には、小板は0.5未満のアスペクト比t/dを有するが、これは、それよりかなり小さくてもよく、例えば0.2未満、さらには0.1未満であってもよい。
【0022】
熱伝導性ポリマー組成物における熱伝導性繊維については、ポリマー組成物の熱伝導度を向上させるいずれかの繊維を使用することができる。
【0023】
適切な他の熱伝導性充填剤としては、例えば、アルミニウム、アルミナ、銅、マグネシウム、黄銅、炭素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、マイカ、グラファイト、セラミック繊維等が挙げられる。かかる熱伝導性充填剤の混合物も適している。
【0024】
適切には、熱伝導性繊維は、金属繊維および/または炭素繊維を含む。グラファイト繊維としても知られる適切な炭素繊維としては、PITCHベースの炭素繊維およびPANベースの炭素繊維が挙げられる。例えば、アスペクト比約50:1を有するPITCHベースの炭素繊維を使用することができる。PITCHベースの炭素繊維は熱伝導度に著しく寄与する。一方、PANベースの炭素繊維は機械的強度に大きく寄与する。
【0025】
適切な熱伝導性充填のグループは一般に、金属充填剤、無機熱伝導性成分および/または炭素質成分からなることが留意される。炭素質成分の場合には、これがグラファイトタイプの材料、または炭素繊維、またはそのいずれかの組み合わせであり得るが、カーボンブラック以外のいずれかでなければならないことが明確に留意される。
【0026】
熱伝導性充填剤の選択は、ポリマー組成物の更なる要求およびその用途に応じて異なるだろう。使用しなければならない量もまた、熱伝導性充填剤の種類、ならびに必要とされる、かつ窒化ホウ素およびカーボンブラックと併せて達成可能な熱管理特性のレベルに応じて異なる。
【0027】
本発明によるポリマー組成物は適切には、ポリマー組成物の総重量に対して範囲5〜70重量%の量で熱伝導性充填剤を含む。
【0028】
窒化ホウ素などの熱伝導性充填剤はさらに詳しくは、熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対して少なくとも20重量%、または少なくとも25重量%など、より多い量で使用される。特に、このように最低量が高いと、より高い熱伝導性、より良い熱管理性能を達成するのに有利である。窒化ホウ素などの熱伝導性充填剤はさらに詳しくは、熱伝導性ポリマー組成物の総重量に対して最大で60重量%、最大で50重量%、または最大で40重量%など、制限された最大量でも使用される。特に、組成物におけるカーボンブラックによって良好な熱管理特性を維持しながら、このようにより低い最大量を使用することができる。量が少ないと、カーボンブラックが存在するために良好な熱管理特性を維持しながら、加工も容易になる。その代わりとして、より低い量の熱伝導性充填剤の使用をより高い量の繊維補強剤と組み合わせて、その結果、カーボンブラックによる良好な熱管理性能を維持しながら機械的性質を高めることができる。
【0029】
この点から、本発明によるポリマー組成物で使用される熱伝導性充填剤は好ましくは、少なくとも5W/m・K、さらに好ましくは少なくとも10W/m・K、さらに良くは少なくとも20W/m・Kの固有熱伝導度を有する。このように固有熱伝導度が高い場合、PC用の特別な熱伝導性を達成するために、より低い量の熱伝導性充填剤が必要とされる。一般的な例は、アルミナ、化学式Al2O3を有する固有熱伝導度約30W/m・Kのアルミニウムの両性酸化物、および固有熱伝導度約100W/m・Kを有する窒化ホウ素である。
【0030】
ポリマー組成物の熱伝導度は本明細書において、配向依存性であることができ、かつ組成物の履歴に応じても異なる、材料特性であると理解される。ポリマー組成物の熱伝導度の決定については、熱伝導度測定を行うのに適した形状に、その材料を形成しなければならない。ポリマー組成物の組成、測定に使用される形状の種類、形成プロセスならびに形成プロセスで適用される条件に応じて、ポリマー組成物は、等方性熱伝導度または異方性、つまり配向依存性の熱伝導度を示し得る。ポリマー組成物が平らな長方形の形状に形成される場合には、配向依存性熱伝導度は一般に、3つのパラメーター:Λ、Λ//およびΛ±(Λは厚さ方向熱伝導度であり、A//は、本明細書において平行または縦方向熱伝導度とも示される最大面内方向熱伝導度方向の面内方向熱伝導度であり、Λ±は、最小面内熱伝導度方向の面内熱伝導度である)で説明することができる。厚さ方向熱伝導度は、他の箇所で「横断方向」熱伝導度とも示されることを留意されたい。
【0031】
板の平面配向と同一面内で、板状粒子の主要な平行配向を有するポリマー組成物の場合には、ポリマー組成物は、等方性面内方向熱伝導度を示し得る。つまり、Λ//はおよそΛ±に等しい。
【0032】
本発明によるポリマー組成物の厚さ方向熱伝導度ならびに平行および面内方向熱伝導度は広範囲にわたって変化し得る。ポリマー組成物が等方性熱伝導度を有する場合、配向で平均化された熱伝導度は、厚さ方向熱伝導度に等しく、適切には少なくとも0.5W/m・Kであるのに対して、可塑性組成物が異方性熱伝導度を有する場合、配向で平均化された熱伝導度は、厚さ方向熱伝導度よりもかなり高くなり得る。好ましくは、配向で平均化された熱伝導度は、少なくとも1W/m・K、さらに好ましくは少なくとも2W/m・K、またさらに好ましくは少なくとも2.5W/m・Kである。
【0033】
適切には、熱加工可能な熱伝導性ポリマー組成物は、少なくとも1W/m・Kの面内方向または平行方向熱伝導度を有する。好ましくは、可塑性組成物は、範囲2〜50W/m・K、好ましくは3〜40W/m・K、さらに好ましくは4〜25W/m・Kの面内方向または平行方向熱伝導度を有する。さらに適切には、本発明による熱加工可能な熱伝導性ポリマー組成物は、少なくとも0.5W/m・Kの厚さ方向熱伝導度を有する。好ましくは、可塑性組成物は、少なくとも0.75W/m・K、さらに好ましくは少なくとも1W/m・Kまたはさらに少なくとも1.5W/m・Kの厚さ方向熱伝導度を有する。2W/m・Kあたりの値またはそれに近い値が非常に適していると考えられる。厚さ方向熱伝導度は、3W/m・Kと高い、またはそれ以上であり得るが、これによって、多くの用途では熱管理性能はほとんど向上しない。
【0034】
好ましくは、ポリマー組成物は、範囲0.5〜2.5W/m・K、さらに好ましくは1.0〜2.0W/m・Kの厚さ方向熱伝導度を有する。
【0035】
本明細書において、熱伝導度は、厚さ方向および面内方向それぞれで80×80×2mmの射出成形試料でASTM E1461−01に準拠してレーザーフラッシュ技術によって測定される温度拡散率(D)、20℃にてASTM E1461−01にも記載の方法を使用したかさ密度(ρ)および比熱(Cp)から誘導される。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、熱伝導性充填剤は、電気絶縁熱伝導性充填剤のみを含む。上記のカーボンブラックを含むこの好ましい実施形態の効果は、熱伝導性および導電性の両方である充填剤の含有量が、非常に優れた熱管理性能を依然として維持しながら、組成物が電気絶縁性を維持するように閾値未満で維持され得る、または除外され得ることである。これによって、熱伝導性ポリマー組成物の電気絶縁性を維持しながら、熱伝導性充填剤のより多い量を使用することも可能になる。
【0037】
カーボンブラックと併せて窒化ホウ素を用いて、高い熱伝導性、非常に優れた熱管理特性および優れた電気絶縁性を有する熱伝導性ポリマー組成物を製造することができる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、ポリマー組成物は熱伝導性電気絶縁性組成物である。
【0039】
本明細書において、電気絶縁性組成物とは、ASTM D257に準拠した方法によって測定された、少なくとも10Ohm.mの体積抵抗率を有する組成物と理解される。体積電気抵抗率試験には、80×80×2mmの試験片を使用する。試験前に、23℃および相対湿度50%にて試験片を40時間コンディショニングする。
【0040】
好ましくは、本発明の好ましい実施形による熱伝導性電気絶縁性組成物は、少なくとも10Ohm.mの体積抵抗率を有する。適切には、体積抵抗率は、10〜1016Ohm.mの範囲である。
【0041】
窒化ホウ素の次に、本発明による組成物において使用することができる熱伝導性電気絶縁性充填剤の適切な例は、例えば、被覆金属球体、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(ALN)、炭化ケイ素(SiC)およびダイヤモンドである。電気絶縁性組成物は、熱伝導性電気絶縁性充填剤の次に、その量が組成物の電気絶縁性を維持するのに十分に少ないことを条件として、つまり、体積抵抗率が少なくとも10Ohm.mを維持することを条件として、熱伝導性導電性充填剤も含み得る。許容可能な熱伝導性導電性充填剤の最大量は、慣例の試験により当業者によって決定することができる。好ましくは、本発明で使用される熱伝導性充填剤は、窒化ホウ素からなる。
【0042】
本発明の特定の実施形態において、熱伝導性充填剤は、金属充填剤、または無機熱伝導性成分、またはカーボンブラック以外の炭素質成分、またはそのいずれかの組み合わせを含み、熱伝導性充填剤は、ポリマー組成物の総重量に対して少なくとも15重量%、さらに好ましくは少なくとも20重量%、それぞれ最大で60重量%、またはさらに良くは最大で40重量%の量で存在するのに対して、カーボンブラックは、ポリマー組成物の総重量に対して少なくとも0.1重量%またはさらに良くは少なくとも1.重量%、それぞれ最大で7.5重量%の量で存在する。本明細書において、熱伝導性充填剤は、窒化ホウ素を15〜40重量%含み、その重量%はポリマー組成物の総重量に対する%である。
【0043】
本発明による熱伝導性ポリマー組成物は、有機ポリマーの次に、熱伝導性充填剤およびカーボンブラック、1種または複数種の更なる添加剤を含み得る。本明細書で使用することができる添加剤は、ポリマー組成物で使用される任意の補助添加剤であることができる。本発明による熱伝導性ポリマー組成物は、特に、熱伝導性ではない充填剤および補強剤、より詳細には無機充填剤および/または繊維補強剤、および補助添加剤を含む他の添加剤、例えば離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤など、潤滑剤、可塑剤、帯電防止剤、非赤外線吸収顔料、染料および着色剤、発泡剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、ならびに上記の添加剤のうちの少なくとも1種類を含む組み合わせなどの添加剤を含有し得る。
【0044】
非熱伝導性充填剤および補強剤は、広範囲にわたって様々な量で存在し得る。適切には、熱伝導性ポリマー組成物は、組成物の総重量に対して範囲0〜50重量%、好ましくは10〜40重量%にて組み合わせた量で非熱伝導性充填剤および/または非熱伝導性補強剤を含む。ガラス繊維は本明細書において、非熱伝導性補強剤であるとみなされる。
【0045】
他の添加剤もまた、広範囲にわたって様々な量で存在し得る。適切には、熱伝導性ポリマー組成物は、組成物の総重量に対して範囲0〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1.0〜5重量%の量で他のかかる添加剤を含む。
【0046】
特定の実施形態において、本発明によるポリマー組成物は、
a.有機ポリマー20〜84.99重量%、
b.窒化ホウ素15〜40重量%を含む、熱伝導性充填剤15〜60重量%、
c.カーボンブラック0.01〜10重量%、
d.非熱伝導性充填剤および/または非熱伝導性補強剤0〜40重量%、
e.難燃剤0〜30重量%、および
f.少なくとも1種類の他の添加剤0〜10重量%、
からなり、その重量%は組成物の総重量に対する%である。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明によるポリマー組成物は、
a.有機ポリマー20〜84.9重量%、
b.窒化ホウ素15〜40重量%を含む、熱伝導性充填剤15〜60重量%、
c.カーボンブラック0.1〜7.5重量%、
d.非熱伝導性充填剤および/または非熱伝導性補強剤0〜40重量%、
e.難燃剤0〜30重量%、および
f.少なくとも1種類の他の添加剤0〜10重量%、
からなり、その重量%は組成物の総重量に対する%である。
【0048】
さらに好ましい実施形態において、ポリマー組成物は、
a.有機ポリマー20〜84重量%、
b.窒化ホウ素15〜40重量%、
c.カーボンブラック1〜7.5重量%、
d.非熱伝導性無機充填剤および/または非熱伝導性繊維補強剤0〜40重量%、
e.難燃剤0〜30重量%、および
f.少なくとも1種類の他の添加剤0〜5重量%、
からなり、その重量%は組成物の総重量に対する%である。
【0049】
本発明による熱伝導性ポリマー組成物は、ポリマー組成物を製造するのに適切であり、かつ熱管理用途のポリマーを製造するための当業者に公知の従来のプロセスを含むいずれかのプロセスによって製造することができる。
【0050】
熱伝導性ポリマー組成物は適切には、熱伝導性充填剤とカーボンブラックがポリマーマトリックスと均質に混合されて、熱伝導性組成物が形成されるプロセスによって製造される。所望の場合には、その混合物は1種または複数種の他の添加剤を含有してもよい。当技術分野で公知の技術を用いて、混合物を調製することができる。好ましくは、熱伝導性充填剤材料の構造が損傷を受けるのを防ぐために、低せん断条件下で成分を混合する。熱伝導性ポリマー組成物は、いずれかの適切な形状に、例えば粉末、ペレット、シート、フィルム等に製造することができる。
【0051】
本発明は、ポリマー組成物の成形品を製造するプロセスにおける本発明によるポリマー組成物の使用にも関する。
【0052】
熱伝導性可塑性組成物は、可塑性成形品を製造するのに適しており、かつ可塑性成形組成物を製造するための当業者に公知の従来のプロセスを含むいずれかのプロセスによって処理されることができる。溶融押出し成形、射出成形、流し込み成形、または他の適切なプロセスを用いて、ポリマー組成物を成形することができる。好ましくは、成形品は、射出成形プロセスによって製造される。
【0053】
射出成形プロセスは、熱可塑性ポリマーを含む組成物に特に好ましい。このプロセスは一般に、組成物のペレットのホッパーへの充填を含む。ホッパーが、ペレットを押出機へと注ぎ込み、そこでペレットは加熱され、溶融組成物が形成される。押出機によって、溶融組成物が射出ピストンを含むチャンバへと供給される。ピストンによって溶融組成物が金型へと押し進められる。通常、金型は、成形チャンバまたはキャビティがそのセクションの間に位置するように互いに位置合わせされている2つの成形セクションを含む。材料は、それが冷たくなるまで高圧下で金型内に残される。
【0054】
本発明は、本発明によるポリマー組成物で製造された成形品、またはその修正形態もしくは好ましい実施形態にも関する。適切には、成形品は、電子部品、電気デバイス、またはエンジン用の熱シンクまたはハウジングである。
【0055】
本発明は、熱源を含む組立品における熱管理目的のための本発明による成形品の使用、ならびに本発明による成形品を含む組立品にも関する。その実施形態は、本発明によるポリマー組成物で製造された、電子部品または電気部品を含む電子デバイスまたは電気デバイス、エンジンまたは照明要素、および熱シンクまたはハウジングである。さらに詳細には、組立品は、電子部品、電気部品、エンジンまたは照明要素と接触する、またはそのすぐ近くにある、前記熱シンクまたはハウジングを含み得る。その利点は、熱シンクまたはハウジングがより良い熱管理性能に寄与するだけでなく、電子部品、電気部品、エンジンまたは照明要素の効率および/または寿命にも寄与することである。
【0056】
本発明はさらに、以下の非制限的な例および比較実験でさらに説明される。
【0057】
[成形材料および成形品の製造]
80重量%マスターバッチ状で添加された、ポリアミド46ポリマー(PA46)、ガラス繊維、そして任意選択的に、熱伝導性充填剤としての窒化ホウ素および/またはカーボンブラックを含む成形材料を調製し、標準的配合およびPA46成形材料の成形条件を用いて射出成形した。成形品は、本体といくつかの内部突出要素を含むハウジングであった。組成物および更なる試験結果を表1に示す。
【0058】
[熱伝導度の測定]
ΛおよびΛ//を測定するために、適切な寸法を有する正方形金型および正方形の1つの面に位置付けられた幅80mm、高さ2mmのフィルムゲートを備えた射出成形機を使用して、射出成形によって試験される材料から、寸法80×80×2mmの試料を作製した。厚さ2mmの射出成形プラークで、温度拡散率D、密度(ρ)および熱容量(Cp)を決定した。金型充填時のポリマー流れの方向に対して面内および平行方向(D//)、ならびに厚さ方向(D)で、ASTM E1461−01に準拠してNetzsch LFA447レーザーフラッシュ装置を使用して、温度拡散率を決定した。面内方向温度拡散率D//は、幅約2mmの同一幅を有する小さなストリップまたは板を、最初にプラークから切断することによって決定された。板の長さは、金型充填時のポリマー流れに対して垂直な方向であった。これらの板のいくつかを切断面を外向きにして重ね、非常に密に互いに押し付けた。切断面の配列によって形成されるスタック一方の面から、切断面を有するスタックのもう一方の面まで、スタックを貫通して、温度拡散率を測定した。
【0059】
同じNetzsch LFA447レーザーフラッシュ装置を使用し、ASTM E1461−01にも記載の手順を用いて、既知の熱容量を有する参照試料(Pyroceram9606)と比較することによって、プレートの熱容量(Cp)を決定した。温度拡散率(D)、密度(ρ)および熱容量(Cp)から、金型充填時のポリマー流れの方向に対して平行方向(Λ//)、ならびにプラークの面に対して垂直な方向(Δ)で、次式:
Λ=DρCp
(式中、x=それぞれ//および⊥である)
に従って、成形プラークの熱伝導度を決定した。
【0060】
[成形品の熱管理性能の試験]
加熱要素と接触している状態の内部要素を有する加熱要素の上にハウジングが位置付けられるように、加熱要素と併せてハウジングを試験した。加熱要素のスイッチをオンにし、内部要素と、空気と接触しているハウジングの本体の外部部品の温度発生を測定した。平衡状態に達した後に、加熱要素のスイッチをオンに維持することによって、長時間、測定を続けた。平衡後に達した、内部要素と本体の温度は、前記の長時間の間にわたって変化しなかった。
【0061】
調製され、試験された組成物および試験結果を表1に報告する。
【0062】
【表1】

【0063】
この結果から、熱伝導性充填剤の添加は、組成物の熱伝導度に対して有意な効果を有するのに対して、カーボンブラックを含む顔料マスターバッチの添加は、熱伝導度に対してほとんど効果を持たないことが分かる。
【0064】
この結果からさらに、熱伝導性充填剤を全く含まない比較実験Aについては、内部要素が著しく加熱されるのに対して、本体の温度はむしろ抑えられ、ポリマー組成物の熱絶縁を表すことが分かる。比較実験Bとして熱伝導性充填剤30重量%を添加することによって、比較実験Aと比較して、内部要素では低い温度、本体では高い温度を示し、加熱要素からハウジングへの熱の散逸が優れていることを表している。本発明による実施例Iにおいて顔料マスターバッチを4重量%のみ添加することによって、比較実験Bと比較して、内部要素の温度がさらに降下しており、本体の温度もまた降下していることが分かる。
【0065】
カーボンブラックからの熱伝導度に対する効果が何もなく、かつ組成物において窒化ホウ素の次に使用される量が少ないという点から見て、この効果は驚くべきことである。