(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミン系化合物は、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(1-ナフチル)ベンジジン(NPB)、トリフェニルアミン誘導体(TPD、β−NPD、MeO−TPD、TAPC)、フェニルアミン4量体(TPTE)、スターバースト型トリフェニルアミン誘導体(m−MTDADA、NATA、1−TNATA、2−TNATA)、スピロ型トリフェニルアミン誘導体(Spiro−TPD、及びSpiro−NPD、Spiro−TAD)からなる群より選ばれる少なくとも一つである
請求項1または2に記載された有機EL素子。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の態様>
本発明の一態様である有機EL素子は、陽極、有機EL層及び陰極を備えた有機EL部と、前記陽極に電力供給を行うための配線部と、前記陽極と前記配線部との間に介在された有機層とを具備し、前記有機層は、前記配線部側から、第1の有機層、第2の有機層の順に積層されて構成され、前記第1の有機層は、アザトリフェニレン誘導体を含み、前記第2の有機層は、アミン系化合物を含むとした。
【0019】
本発明の一態様に係る有機EL素子では、前記陽極と前記配線部との間に有機層が介在されている。言い換えると、前記陽極と前記配線部とが直接コンタクトしていない。また、有機層は、酸化に対する耐性を備えている。このため、前記配線部の表面部分が酸化され、金属酸化物層が形成されていたとしても、当該金属酸化物層と前記陽極とが直接コンタクトせず、かつ酸化耐性を備えた有機層が介在しているので、陽極の酸化を防止することができる。
【0020】
また、有機層は、アザトリフェニレン誘導体を含む第1の有機層とアミン系化合物を含む第2の有機層とが積層されてなる。第1および第2の有機層は、電荷発生層として機能する(すなわちそれらの界面で電荷が発生する)と考えられる。このため、順バイアス印加時において陽極への供給電流が増大されるので、導電性を向上させることができる。
【0021】
加えて、この有機層は、ダイオード特性を有しているため、逆バイアス印加時のリーク電流を抑制することができる。
【0022】
ここで、本発明の別の態様として、前記アザトリフェニレン誘導体は、下記一般式で表される化合物であるとしてもよい。
【0023】
ただし、一般式中におけるR1〜R6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基を示す。そして隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。一般式中のX1〜X6は、それぞれ独立に炭素もしくは窒素(N)原子である。
【0024】
ここで、本発明の別の態様として、前記アミン系化合物は、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(1-ナフチル)ベンジジン(NPB)、トリフェニルアミン誘導体(TPD、β−NPD、MeO−TPD、TAPC)、フェニルアミン4量体(TPTE)、スターバースト型トリフェニルアミン誘導体(m−MTDADA、NATA、1−TNATA、2−TNATA)、スピロ型トリフェニルアミン誘導体(Spiro−TPD、Spiro−NPD、Spiro−TAD)、ルブレン、ペンタセン、銅フタロシアニン(CuPc)、チタニウムオキサイドフタロシアニン(TiOPc)及びアルファ−セキシチオフェン(α−6T)からなる群より選ばれる少なくとも一つであるとしてもよい。
【0025】
ここで、本発明の別の態様として、前記配線部のうち前記有機層に接する表面が酸化されており、前記酸化された表面は、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化モリブデンタングステン、酸化バナジウム及び酸化ルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つからなるとしてもよい。
【0026】
ここで、本発明の別の態様として、前記陽極は、アルミニウム、銀、クロム、ニッケル及びこれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されているとしてもよい。
【0027】
ここで、本発明の別の態様として、前記配線部は、薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極の一方であるとしてもよい。
【0028】
ここで、本発明の一態様である有機EL素子の製造方法は、金属で配線部を形成する配線部形成工程と、前記配線部上に絶縁材料層を形成する絶縁材料層形成工程と、前記絶縁材料層の一部を除去することで、前記配線部の一部を、酸素を含む雰囲気に暴露させる暴露工程と、前記配線部の一部の上に、蒸着法によってアザトリフェニレン誘導体を含む第1の有機層を形成する第1有機層形成工程と、前記第1の有機層の上に、蒸着法によってアミン系化合物を含む第2の有機層を形成する第2有機層形成工程と、前記第2の有機層の上に、陽極、有機EL層、陰極を順次積層して、有機EL部を形成する有機EL部形成工程とを含むとした。
【0029】
ここで、本発明の別の態様として、前記暴露工程において、前記配線部の一部の金属表面が酸化されるとしてもよい。
【0030】
ここで、本発明の別の態様として、前記暴露工程は、少なくとも、前記絶縁材料層に、前記配線部の一部が露出するようにコンタクトホールを形成する工程と、前記配線部の一部を露出させた状態で前記絶縁材料層を加熱して絶縁層を形成する工程とを含むとしてもよい。
<実施の形態1>
−有機EL素子の断面図−
図1は、本実施の形態の有機EL素子100の要部を模式的に示す部分断面図である。
図1に示されるように、基板101上にゲート電極102が設けられ、このゲート電極102を覆うようにゲート絶縁膜103が設けられている。ゲート絶縁膜103上における、ゲート電極102の上方に当たる部分には、半導体層104が設けられている。ゲート絶縁膜103上には、後述する陽極に電力を供給するための配線部がさらに形成されている。具体的には、SD電極105、106が設けられており、これらSD電極105、106の各々は、一部が半導体層104に乗り上げ、当該半導体層104上で間隔を隔てて位置している。
【0031】
SD電極105、106上には当該SD電極105、106を覆うように層間絶縁膜107が形成されている。層間絶縁膜107は、例えば2層構造であり、パッシベーション膜108および平坦化膜109からなる。層間絶縁膜107には、コンタクトホール107chが形成されており、このコンタクトホール107chに沿って有機層111および陽極114がこの順に積層形成されている。つまり、有機層111を介してSD電極106と陽極114とがコンタクトしている。
【0032】
陽極114上におけるエッジ部分114aおよびコンタクトホール107chに対応する部分にはバンク115が形成され、バンク115で規定された領域内に、有機EL層として有機発光層116が積層されている。有機発光層116およびバンク115上に陰極117が形成され、陰極117上に封止膜118が形成されている。
【0033】
なお、ここでは、有機EL層として有機発光層116のみが形成されている構成を例示しているが、有機EL層は有機発光層を含む複数の層から構成されていてもよい。具体的には、陽極114と有機発光層116との間には、必要に応じて、ホール注入層、ホール輸送層またはホール注入兼輸送層が介挿されていてもよい。陰極117と有機発光層116との間には、必要に応じて、電子注入層、電子輸送層または電子注入兼輸送層が介挿されていてもよい。また、陽極114から陰極117までの層を纏めて有機EL部と記す。
−有機EL素子の各層の材料−
続いて、有機EL素子100における各層の材料について詳細に説明する。
【0034】
−基板101−
基板101は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料からなる。また、基板101は、有機樹脂フィルムであってもかまわない。
【0035】
−ゲート電極102−
ゲート電極102は、公知の電極材料で形成されている。公知の電極材料として例えば、銀とパラジウムと銅との合金、銀とルビジウムと金との合金、モリブデンとクロムの合金(MoCr)、ニッケルとクロムの合金(NiCr)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)等が挙げられる。
【0036】
−ゲート絶縁膜103−
ゲート絶縁膜103は、公知のゲート絶縁体材料(例えば酸化シリコン)で形成されている。公知のゲート絶縁体材料として、有機高分子材料、及び無機材料のいずれも使用可能である。
【0037】
−半導体層104−
半導体層104は、有機半導体材料または無機半導体材料で構成されている。具体的には、有機半導体材料として、塗布型低分子材料(アセン系誘導体やポルフィリン、フタロシアニン誘導体)オリゴマーや高分子材料(チオフェン系やフルオレン系等)等が挙げられ、無機半導体材料として、酸化物半導体等が挙げられる。
【0038】
−SD電極105,106−
SD電極105,106は、モリブデン、タングステン、モリブデンタングステン、酸化バナジウム及び酸化ルテニウムの何れかから構成される。
【0039】
SD電極106のうち有機層111に接する表面は酸化されている。酸化された表面(以下、「金属酸化物層」とも記す。)106aは、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化モリブデンタングステン、酸化バナジウム及び酸化ルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つからなる。
【0040】
−層間絶縁膜107−
パッシベーション膜108は、ポリイミド系樹脂またはシリコーン系樹脂等の絶縁材料からなる。
【0041】
平坦化膜109は、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等の絶縁材料からなる。
【0042】
−有機層111−
有機層111は、第1の有機層112および第2の有機層113がこの順に積層されてなる。
【0043】
第1の有機層112は、アザトリフェニレン誘導体を含んでなり、アザトリフェニレン誘導体の含有量は、例えば50〜100重量%としてもよい。
【0044】
アザトリフェニレン誘導体は、下記一般式で表される化合物である。
【0045】
ただし、一般式中におけるR1〜R6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基を示す。そして隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。一般式中のX1〜X6は、それぞれ独立に炭素もしくは窒素(N)原子である。
【0046】
アザトリフェニレン誘導体は、
図1の第1の有機層112の一部拡大図で示されるように、好ましくは、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT−CN)である。
【0047】
第2の有機層113は、アミン系化合物を含んでなり、アミン系化合物の含有量は、例えば50〜100重量%としてもよい。
【0048】
アミン系化合物は、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(1-ナフチル)ベンジジン(NPB)、トリフェニルアミン誘導体(TPD、β−NPD、MeO−TPD、TAPC)、フェニルアミン4量体(TPTE)、スターバースト型トリフェニルアミン誘導体(m−MTDADA、NATA、1−TNATA、2−TNATA)、スピロ型トリフェニルアミン誘導体(Spiro−TPD、Spiro−NPD、Spiro−TAD)、ルブレン、ペンタセン、銅フタロシアニン(CuPc)、チタニウムオキサイドフタロシアニン(TiOPc)及びアルファ−セキシチオフェン(α−6T)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【0049】
アミン系化合物は、
図1の第2の有機層113の一部拡大図で示されるように、好ましくは、NPBである。
【0050】
第1の有機層112のLUMOエネルギーレベルと第2の有機層113のHOMOエネルギーレベルの差は、1.5eV以下であるのが好ましく、1.0eV以下であるのがより好ましい。
【0051】
−陽極114−
陽極114は、アルミニウム、銀、クロム、ニッケル及びこれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている。
【0052】
なお、陽極114の表面には公知の透明導電膜を設けてもよい。透明導電膜の材料としては、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)を用いることができる。
【0053】
−バンク115−
バンク115は、樹脂等の有機材料で形成されており絶縁性を有する。有機材料の例として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。バンク115は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。さらに、バンク115はエッチング処理、ベーク処理等がなされるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
【0054】
−有機発光層116−
有機発光層116は、例えば、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリパラフェニレンエチレン、ポリ3−ヘキシルチオフェンやこれらの誘導体などの高分子材料や、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0055】
−陰極117−
陰極117は、例えば、ITOやIZO等で形成される。
【0056】
−封止膜118−
封止膜118は、有機発光層116が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、炭化ケイ素(SiC)、炭素含有酸化シリコン(SiOC)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等の材料で形成される。
−実験−
−実験概要−
SD電極と陽極とのコンタクト特性を評価するために5つのケルビンパターンを作製し、半導体パラメータアナライザ装置を用いてそれぞれを評価した。具体的には、第1の実験では、SD電極と陽極との間に有機層を介在させない構成(以下、「構成1」と記す。)、SD電極と陽極との間に第1および第2の有機層を積層してなる有機層を介在させた構成(以下、「構成2」と記す。)、SD電極と陽極との間に第1および第2の有機層の材料を混合した混合層1を介在させた構成(以下、「構成3」と記す。)、および混合層1の混合比を変えた混合層2をSD電極と陽極との間に介在させた構成(以下、「構成4」と記す。)のそれぞれについて、電圧と電流密度の関係を評価した。第2の実験では、SD電極と陽極との間に第1の有機層のみを介在させた構成(以下、「構成5」と記す。)および構成2のそれぞれについて、電界強度と電流密度の関係を評価した。
【0057】
−実験用デバイス−
構成1のケルビンパターンとして、ガラス基板上にSD電極および陽極を積層形成した。SD電極としてMoを用い、その膜厚を75nmとした。陽極は2層構造とし、下層としてACLを用い、上層としてIZOを用い、ACLの膜厚を200nm、IZOの膜厚を16nmとした。ただし、実際には、Moの表面は大気中で酸化されるため、MoとACLの界面には、それぞれの酸化物が存在していると考えられる。
【0058】
図2は、構成2,3,4,5のケルビンパターンの構成を模式的に示す部分断面図である。
図2中の矢印は、ケルビンパターンにおける電流パスを示す。
図2に示されるように、ケルビンパターンとして、ガラス基板(不図示)上にSD電極201、層間絶縁膜202、有機層203、および陽極204を形成した。有機層203を除く他の構成は、構成2〜5で共通している。SD電極201としてMoを用い、その膜厚を75nmとした。なお、SD電極201のパターニングには、レジスト材料としてポジ型フォトレジスト材料であるTFR(TFTアレイ用フォトレジストの代表的な市販品:東京応化工業(株)製)を用い、その膜厚を1.0μmとした。層間絶縁膜202としてアクリル樹脂を用い、その膜厚を2.5μmとした。陽極204は2層構造とし、下層としてACLを用い、上層としてIZOを用い、ACLの膜厚を200nm、IZOの膜厚を16nmとした。なお、陽極204のパターニングには、レジスト材料としてTFRを用い、その膜厚を1.0μmとした。有機層203は、構成2〜5でそれぞれ異なる。構成2では、有機層203は2層構造とし、下層としてHAT−CNを、上層としてNPBを用い、HAT−CNの膜厚を10nm、NPBの膜厚を30nmとした。構成3および構成4では、有機層203はHAT−CNとNPBの混合層(すなわち1層構造)とし、膜厚を40nmとした。構成3では、体積比でNPBとHAT−CNとを9:1で混合したものを用い、構成4では、体積比でNPBとHAT−CNとを6:4で混合したものを用いた。構成5では、有機層203をHAT−CNの単層とし、膜厚を10nmとした。
【0059】
−実験結果−
図3は、Voltage(電圧)とCurrent density(電流密度)との関係を示す。横軸がVoltage(V)を示し、縦軸がCurrent density(mA/cm
2)を示す。また、
図3のグラフにおいて、実線は構成1(ACL/Mo)、破線は構成2(ACL/NPB/HAT−CN/Mo)、一点鎖線は構成3(ACL/NPB+10%HAT−CN/Mo)、二点鎖線は構成4(ACL/NPB+40%HAT−CN/Mo)を表している。
【0060】
まず、順バイアス印加時の電流密度に着目する。構成1と構成2を比較すると、構成2の電流密度は、約0.6Vから約1.2Vの範囲で、構成1より低くなっているものの、他の範囲では構成1より高くなっている。したがって、全体的な評価としては、順バイアス印加時の構成2の電流密度は、構成1よりも高いといえる。構成1と構成3を比較すると、構成3の電流密度は、どの範囲においても構成1より高くなっている。一方、構成1と構成4を比較すると、構成4の電流密度は、0Vから約0.4Vの範囲で、構成1より高くなっているものの、電圧が約0.4Vより大きくなると、構成1より低くなっている。したがって、全体的な評価としては、順バイアス印加時の構成4の電流密度は、構成1よりも低いといえる。構成2と構成3を比較すると、0V〜約1.5Vの範囲で、構成3の電流密度が構成2より高くなっているものの、電圧が約1.5Vより大きくなると、構成2の電流密度が構成3より高くなっている。一般的に、駆動時に印加される電圧は1.5Vより大きいので、順バイアス印加時の導電性については構成2が最も優れているといえる。
【0061】
また、構成3と構成4の比較から、ACLとMoの間に混合層を介在させた構成という点では共通していても、混合層におけるHAT−CNの濃度が高くなると、電流密度が低下することがわかる。
【0062】
続いて、逆バイアス印加時の電流密度に着目すると、構成3および構成4では、どの範囲においても構成1より電流密度が高くなっている。一方、構成2の電流密度は、0Vから約−0.5Vの範囲で、構成1より低くなっているものの、電圧が約−0.5Vを境に構成1より低くなっている。一般的に、逆バイアス時に印加される電圧は、約−0.5Vより小さいため、構成2が最も優れているといえる。
【0063】
以上を纏めると、構成2では、順バイアス印加時の電流密度が他の構成と比較し最も高く、逆に、逆バイアス印加時の電流密度が最も低い。これは、ダイオード特性を有していることを意味する。構成2によれば、順バイアス印加時においてSD電極と陽極とのコンタクト部分の導電性を向上させるだけでなく、逆バイアス印加時においてリーク電流を抑制することができる。
【0064】
構成3では、順バイアス印加時の電流密度が構成1より高くなっているものの、逆バイアス印加時の電流密度も構成1より高くなっている。つまり、ダイオード特性を有しておらず、逆バイアス印加時のリーク電流が増加してしまう。
【0065】
構成4では、順バイアス印加時の電流密度が構成1より低くなっており、逆に、逆バイアス印加時の電流密度が構成1より高くなっている。つまり、順バイアス印加時の導電性が低下するだけでなく、逆バイアス印加時のリーク電流が増加してしまう。
【0066】
図4は、Electric field(電界)とCurrent density(電流密度)との関係を示す。横軸がElectric field(V/cm)を示し、縦軸がCurrent density(mA/cm
2)を示す。また、
図4のグラフにおいて、実線は構成2(ACL/NPB/HAT−CN/Mo)、破線は構成5(ACL/HAT−CN/Mo)を表している。なお、ここでは、構成2と構成5で有機層の膜厚が異なるため、電圧の替わりに電界強度を用いて評価している。
【0067】
まず、順バイアス印加時の電流密度に着目すると、構成2の電流密度は、0.E+00から約0.5E+06の範囲で、構成5より低くなっているものの、約0.5E+06以上の範囲では構成5より高くなっている。
【0068】
続いて、逆バイアス印加時の電流密度に着目すると、構成5では、どの範囲においても構成2より電流密度が高くなっている。
【0069】
以上を纏めると、HAT−CNの単層(構成5)であっても酸化耐性があることから電流が流れる。ただし、構成2に比べ、順バイアス印加時(約0.5E+06以上の範囲)の電流密度が低下し、逆バイアス印加時の電流密度が上昇している。したがって、構成5における逆バイアス印加時のリーク電流を抑制する効果は、構成2に比べて低いといえる。
−導電性向上メカニズム−
続いて、MoOxとAlの間にHAT−CNとNPBの積層体を介在させることで、どのように導電性が向上されるのか、そのメカニズムについて説明する。
【0070】
図5(a)は、順バイアス印加時の電荷の移動を模式的に示す図である。
図5(b)は、逆バイアス印加時の電荷の移動を模式的に示す図である。これらの図において、横軸が距離を示し、縦軸がエネルギーを示す。また、MoOxの仕事関数は5.5eVであり、ALの仕事関数は4.2eVである。HAT−CNのLUMO(最低空分子軌道)エネルギーレベルは、5.4〜5.7eVであり、HOMO(最高被占分子軌道)エネルギーレベルは、9.5eVである。NPBのLUMOエネルギーレベルは、2.4eVであり、HOMOエネルギーレベルは、5.5eVである。ここで、NPBのHOMOエネルギーレベルとHAT−CNのLUMOエネルギーレベルが同一または非常に近い値になっている。このため、
図5(a)に示されるように、NPBのHOMOの電子は、電圧を印加せずとも、HAT−CNのLUMOに移動すると考えられる。つまり、NPBとHAT−CNが電荷発生層として機能すると考えられる。そうすると、NPBとHAT−CNで発生した電荷分だけ陽極に供給される電荷が増加するため、導電性が向上する。
【0071】
一方、
図5(b)に示されるように、逆バイアス印加時には、NPBのエネルギーギャップが障壁となり、電子のAlへの移動が抑制され、同様に、HAT−CNのエネルギーギャップが障壁となり、正孔のMoOxへの移動が抑制される。したがって、電荷の移動が抑制される。
−効果−
本実施の形態の有機EL素子100は、陽極114、有機EL層として有機発光層116、および陰極117を備えた有機EL部と、陽極114に対向し、かつ、当該陽極114に対して間隔を空けて配置された、陽極114に電力供給を行うための配線部を構成するSD電極106と、陽極114とSD電極106との間に、陽極114およびSD電極106のそれぞれに接するよう介在された有機層111とを具備し、有機層111は、SD電極106側から、第1の有機層112、第2の有機層113の順に積層されて構成され、第1の有機層112は、アザトリフェニレン誘導体を含み、第2の有機層113は、アミン系化合物を含む構成である。
【0072】
本実施の形態の有機EL素子100では、陽極114とSD電極106との間に、陽極114およびSD電極106のそれぞれに接するように有機層111が介在されている。言い換えると、陽極114とSD電極106とが直接コンタクトしていない。また、有機層111は、酸化に対する耐性を備えている。このため、SD電極106の表面部分が酸化され、金属酸化物層106aが形成されたとしても、当該金属酸化物層106aと陽極114とが直接コンタクトせず、かつ、酸化耐性を備えた有機層111が介在しているので、陽極114の酸化を防止することができる。
【0073】
また、有機層111は、アザトリフェニレン誘導体を含む第1の有機層112とアミン系化合物を含む第2の有機層113とが積層されてなる。上述したように、第1および第2の有機層は、電荷発生層として機能する(すなわちそれらの界面で電荷が発生する)と考えられる。このため、陽極114への供給電流が増大されるので、導電性を向上させることができる。
【0074】
加えて、この有機層111は、ダイオード特性を有しているため、逆バイアス印加時のリーク電流を抑制することができる。
−有機EL素子の製造方法−
続いて、有機EL素子100の製造工程を例示する。
図6,7は、有機EL素子100の製造工程の一例を示す図である。なお、
図6,7では、有機EL素子100の一部を抜き出して模式的に示している。
【0075】
まず、金属で配線部を形成する配線部形成工程を行う。具体的には、基板101上にゲート電極102を形成し、当該ゲート電極102を覆うようにゲート絶縁膜103を形成する。次に、ゲート絶縁膜103上における、ゲート電極102の上方に当たる部分に半導体層104を形成する。半導体層104の形成後、半導体層104を覆うようにSD電極材料層を形成する。続いて、SD電極材料層上に、レジスト層を形成した後、レジスト層上に所定形状の開口部を持つマスクを重ね、マスクの上から感光させる。その後、余分なレジストを現像液(例えばTMAH(Tetra methyl ammonium hydroxide)水溶液)で洗い出すことで、レジスト層のパターニングが完了する。その後、SD電極材料層をウェットエッチング液でウェットエッチングし、レジスト層を例えば有機系剥離液で除去する。これにより、各々の一部が半導体層104に乗り上げ、当該半導体層104上で間隔を隔てて位置するようにSD電極105,106を形成することができる。以上の工程を経ることで
図6(a)に示す状態となる。
【0076】
次に、配線部上に絶縁材料層107aを形成する絶縁材料層形成工程を行う。具体的には、
図6(b)に示されるように、SD電極105,106を覆うように絶縁材料層107aを形成する。絶縁材料層107aは、パッシベーション材料層108aと平坦化材料層109aとからなる。
【0077】
次に、絶縁材料層107aの一部を除去することで、配線部の一部を、酸素を含む雰囲気に暴露させる暴露工程を行う。暴露工程は、少なくとも、絶縁材料層107a
に、配線部の一部が露出するようにコンタクトホール107chを形成する工程と、配線部の一部を露出させた状態で絶縁材料層107aを加熱して層間絶縁膜107を形成する工程を含む。具体的には、絶縁材料層107a上に所定形状の開口部を持つマスクを重ね、マスクの上から感光させ、余分な絶縁材料層107aを現像液で洗い出す(ウェットプロセス)。これにより、コンタクトホール107chが形成され、SD電極106の一部が大気中に暴露される。その後、SD電極106の一部が暴露された状態でベーク処理を行うことで、層間絶縁膜107を形成する。以上の工程を経ることで
図6(c)に示す状態となる。ただし、SD電極106の一部が暴露された状態でベーク処理が行われるので、
図6(c)の拡大部分に示されるように、暴露された部分の表面106aが酸化される。
【0078】
次に、
図7(a)に示されるように、層間絶縁膜107および当該層間絶縁膜107から露出したSD電極106上に、アザトリフェニレン誘導体を含む第1の有機層112を形成する第1有機層形成工程を行う。第1の有機層112の形成は、例えば蒸着法によりなされる。
【0079】
次に、
図7(c)に示されるように、第1の有機層112上に、アミン系化合物を含む第2の有機層113を形成する第2有機層形成工程を行う。第2の有機層113の形成は、例えば蒸着法によりなされる。
【0080】
次に、第2の有機層113上に、陽極114、有機発光層116、陰極117を順次積層して、有機EL部を形成する有機EL部形成工程を行う。具体的には、第2の有機層113上に陽極114を形成する。陽極114の形成後、陽極114におけるエッジ部分114aおよびコンタクトホール107chに対応する部分上にバンク115を形成する。その後、バンク115で規定された領域内に有機発光層116を積層し、有機発光層116およびバンク115上に陰極117を形成する。最後に、陰極117上に封止膜118を形成する。これにより、
図7(c)に示す状態となる。
以上、本発明に係る有機EL素子について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限られないことは勿論である。例えば、以下のような変形例が考えられる。
(1)第1の有機層は、アザトリフェニレン誘導体を含んでなるとしたが、アザトリフェニレン誘導体以外に、LUMOエネルギーレベルが3.4eV以上の有機材料である、CuPc (3.5eV)、C60 (4.5eV)などを混合して用いることができる。
(2)第2の有機層は、アミン系化合物を含んでなるとしたが、アミン系化合物以外に、HOMOエネルギーレベルが7.5eV以下の有機材料である、キノリノール錯体(Alq3,BAlq,Liqなど)、フェナントロリン誘導体(BCP、BPhenなど)、リンオキサイド誘導体(POPy2など), オキサジアゾール誘導体(PBDなど)、オキサジアゾール二量体(OXD-7など)、スターバーストオキサジアゾール(TPOBなど)、スピロ型キサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体(TAZなど)、トジアジン誘導体(TRZ、DPT,MPTなど)、シロール誘導体(PyPySPyPyなど)、ジメシチルボロン誘導体(BMBなど)、トリアリールボロン誘導体(TPhBなど)、カルバゾール誘導体(MCP、CBP、TCTAなど)、トリフェニルシリル誘導体(UGH2、UGH3など)、イリジウム錯体(Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、FIrPic、Fir6、Ir(piq)3、Ir(btp)2(acac) など)、ルブレン、クマリン誘導体(Coumarin6、C545Tなど)、キナクリドン誘導体(DMQAなど)、ピラン誘導体(DCJTBなど)、ユーロピウム錯体(Eu(dbm)3(phen)など)などを混合して用いることができる。
(3)有機層111は、必ずしも層間絶縁膜107上の全体に亘って形成されている必要はなく、少なくとも陽極114とSD電極106のコンタクト部分に介在されていればよい。