【実施例】
【0037】
以下、合成例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0038】
合成例1
硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)0.5gを100mLの蒸留水に溶かして硝酸鉄の水溶液を得た。得られた水溶液に粉状のカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製、型番:039−01335、以下CMC・Naと略すことがある)1.0gを投入して撹拌し、ゲル状の沈殿物を得た。そして、得られたゲル状の沈殿物の水分が無くなるまで、恒温乾燥炉を用いて60℃、約5日間乾燥した。その後、乾燥した沈殿物を三口フラスコに移し、当該三口フラスコ中において、窒素雰囲気下で、200℃、1時間加熱して炭化処理し、炭素質複合体を得た。
【0039】
合成例2
容量が20Lの容器に硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)120gと水道水16Lとを入れ、ポータブルミキサーを用いて撹拌した。得られた水溶液に粉体計量供給機を用いて粉状のCMC・Na(和光純薬工業株式会社製、型番:039−01335)240gを投入してさらに撹拌し、ゲル状の混合物を得た。得られたゲル状の混合物の水分が無くなるまで、送風式乾燥炉を用いて65℃で3日間乾燥して、300gの乾燥した混合物を得た。そして、乾燥した混合物を粉砕機を用いて微粉砕した後、サイクロン式の集塵装置が接続された加熱容器に入れ、窒素雰囲気下で、250℃、1時間加熱して炭化処理した。得られた炭化物をソックスレー抽出器を用いて蒸留水で6時間洗浄した後、恒温乾燥炉を用いて105℃、約24時間乾燥し、炭素質複合体を得た。以下の測定では、ふるい分けをして得た、粒径が150μm以下の炭素質複合体を用いた。
【0040】
[示差走査熱分析]
合成例1で得られた炭素質複合体3.554mgについて、示差熱・熱重量測定装置(TG/DTA)を用いて、空気雰囲気下で10℃/minの昇温条件で示差走査熱分析を行った。結果を
図1に示す。
図1に示すように、合成例1で得られた炭素質複合体では、330℃及び420℃付近に酸化分解に起因すると考えられる発熱ピークが確認された。示差熱・熱重量測定装置は、株式会社リガク社製のTG8120を用いた。
【0041】
[SEM観察]
走査型電子顕微鏡装置(SEM)を用いて、合成例1で得られた炭素質複合体について電子顕微鏡写真(SEM像)の撮影を行った。結果を
図2に示す。得られた写真から、数nm〜数十nmの孔が多数確認された。走査型電子顕微鏡装置は、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のS−3000Nを用いた。
【0042】
[TEM観察]
透過型電子顕微鏡装置(TEM)を用いて、合成例1及び2で得られた炭素質複合体それぞれについて電子顕微鏡写真(TEM像)の撮影を行った。合成例1で得られた炭素質複合体のTEM像を
図3及び4に、合成例2で得られた炭素質複合体のTEM像を
図5に示す。得られた写真から、いずれも炭素質複合体中に5〜50nm程度の粒子が存在することがわかった。ここで、粒子が円形でない場合には、円相当径を直径とした。透過型電子顕微鏡装置は、株式会社トプコンテクノハウス社製のEM002BFを用いた。
【0043】
[比表面積、細孔容積、細孔直径の測定]
比表面積・細孔分布測定装置を用いて、窒素吸着法(BET法)により、合成例1及び2で得られた炭素質複合体それぞれの吸着等温線を測定した。その結果、合成例1及び2で得られた炭素質複合体のBET比表面積は、それぞれ100.6m
2/g及び244.6m
2/gであった。また、合成例1及び2で得られた炭素質複合体について、BJH(Barrett,Joyner,and Halenda)法による解析を行い、炭素質複合体の平均細孔直径及び全細孔容積をそれぞれ算出した。その結果、合成例1で得られた炭素質複合体の平均細孔直径は4.98nm、全細孔容積は0.125cm
3/gであった。合成例2で得られた炭素質複合体の平均細孔直径は3.57nm、全細孔容積は0.218cm
3/gであった。合成例1で得られた炭素質複合体についてBJH法により解析した細孔分布曲線を
図6に示す。
【0044】
合成例1で得られた炭素質複合体について、HK(Horvath−Kawazoe Method)法による解析から、炭素質複合体の孔幅を算出したところ、孔幅が約0.8nmであった。合成例1で得られた炭素質複合体についてHK法により解析した細孔分布曲線を
図7に示す。比表面積・細孔分布測定装置は、Quantachrome Instruments社製のNOVE 4200eを用いた。
【0045】
[粉末X線回折法による分析]
X線回折装置を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折法により、合成例1で得られた炭素質複合体について定性分析を行った。その結果を
図8に示す。
図8に示すように、半値幅(2θ)が10〜30°付近にブロードなピークが確認され、炭素質複合体はグラフェンシートが乱雑に集合した無定形炭素を含むことがわかった。
図8において、半値幅(2θ)が45〜50°付近のピークは炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)由来であることがわかり、合成例1の炭素質複合体は炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を含むことがわかった。また、合成例1で得られた炭素質複合体において、半値幅(2θ)が30°、35°、43°、53°、57°、63°付近にそれぞれピークが確認され、炭素質複合体はマグネタイト(Fe
3O
4)を含むこともわかった。半値幅(2θ)が33°、35°、40°、63°付近にそれぞれピークが確認され、炭素質複合体はマグヘマイト(γ−Fe
2O
3)を含むこともわかった。
【0046】
X線光電子分光装置を用いて、X線光電子分光法により、合成例1で得られた炭素質複合体についてワイドスキャン測定を行った。合成例1で得られた炭素質複合体についての結果を
図9に示す。得られた結果より、ワイドスキャン測定により検出される元素が、C
1s(炭素)、N
1s(窒素)、O
1s(酸素)、Fe
2p(鉄)、及びNa
1s(ナトリウム)であった。
【0047】
また、ナロースキャンによる測定を行ったところ、
図10に示すように、O
1sスペクトルより、マグヘマイト(γ−Fe
2O
3)に由来するピークと、有機化合物に由来するピークがそれぞれ確認された。また、合成例1で得られた炭素質複合体についてはNa
2CO
3に由来するピークが確認されたが、合成例2で得られた炭素質複合体については確認されなかった。
【0048】
図11に示すように、C
1sスペクトルより、C−C(H)に由来するピークがそれぞれ確認された。また、合成例1で得られた炭素質複合体についてはNa
2CO
3の−CO
3に由来するピークが確認されたが、合成例2で得られた炭素質複合体については確認されなかった。
【0049】
図12に示すように、Fe
2pスペクトルのメインピークの結合エネルギーの値から、合成例1及び2で得られた炭素質複合体について、マグヘマイト(γ−Fe
2O
3)の存在が確認できた。X線光電子分光装置は、アルバック・ファイ株式会社製のQuantera SXMを用いた。
【0050】
[メスバウアー分光法による分析]
メスバウアー分光装置を用いて、メスバウアー分光法により、合成例1で得られた炭素質複合体についてメスバウアースペクトルを測定した。結果を
図13に示す。
図13に示すように、室温(293K)で測定を行った結果、スペクトル中央付近に主要なピークとしてブロードな見かけ上のシングレットピークが観測された。また、ブロードな磁気分裂ピークも観測された。合成例1で得られた炭素質複合体において、粉末X線回折法による測定結果から含有が予想される成分(γ−Fe
2O
3又はFe
3O
4)から大きく異なっており、常磁性成分が多くを占めていることがわかった。透過型電子顕微鏡写真から考察すると、超常磁性体(粒径10nm以下)がいずれの炭素質複合体にも存在していることがわかった。また、磁気分裂ピークを観察するため、液体窒素温度(78K)で測定を行った。その結果、合成例1で得られた炭素質複合体においては、磁気分裂ピークが主要成分となった。
【0051】
また、合成例1で得られた炭素質複合体についてのピークの裾が全て磁気分裂によるものと仮定して解析を行った。その結果、合成例1で得られた炭素質複合体のスペクトルは、ほぼ単一の磁性成分(γ−Fe
2O
3)と解釈できた。
【0052】
[元素分析]
合成例1及び2でそれぞれ得られた炭素質複合体について、燃焼法による元素分析を行った(分析A)。また、合成例1で得られた炭素質複合体については、上記X線光電子分光装置を用いて、ナロースキャン測定による定量分析も行った(分析B)。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[赤外分光法による分析]
フーリエ変換赤外分光装置(FT−IR)を用いて、KBr法により、合成例1で得られた炭素質複合体について赤外分光測定を行った。結果を
図14に示す。
図14に示すように、1595〜1603cm
−1にOHのベンディングによるピークが確認された。また、1448および880cm
−1に炭酸ナトリウムに起因するピークが確認された。フーリエ変換赤外分光装置は、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のNicolet 6700 FT−IRを用いた。
【0055】
[ラマン分光法による分析]
ラマン分光測定装置を用いて、合成例1で得られた炭素質複合体についてラマン測定を行った。結果を
図15に示す。
図15に示すように、1580cm
−1付近にGバンドと呼ばれるピークが、1350cm
−1付近にDバンドと呼ばれるピークがそれぞれ確認された。Gバンドは炭素原子の六角格子内振動に起因するピークであり、Dバンドは無定形炭素等のダングリングボンドを持つ炭素原子に起因するピークである。そのため、Dバンド/Gバンドの強度比が大きければ大きいほど炭素質複合体に含まれるグラフェンシートのサイズが大きくなる。Gバンドのピーク強度に対するDバンドの比が約0.8であり、これを根拠に、合成例1で得られた炭素質複合体に含まれるグラフィンシートの平均的なサイズがいずれも約1nmであることがわかった。ラマン分光測定装置は、Jobin Yvon社製のT−64000を用いた。
【0056】
[磁気特性の測定]
試料振動式磁力計を用いて、合成例1得られた炭素質複合体11.00mg及び合成例2で得られた炭素質複合体27.22mgをそれぞれアクリル製ホルダーに詰めて磁気特性を測定した。その結果を
図16に示す。合成例1で得られた炭素質複合体の保磁力は約100Oeであった。合成例2で得られた炭素質複合体の保磁力は約50Oeであった。そして、いずれの磁気曲線にもヒステリシスがほとんど見られず、軟磁性であることがわかった。合成例1で得られた炭素質複合体の飽和磁化は約12emu/gであり、合成例2で得られた炭素質複合体についての飽和磁化は約15emu/gであった。振動試料型磁力計は、東英工業株式会社製のVSM−15を用いた。
【0057】
【表2】