【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0025】
(実施例1)
純度が99.9%(3N)、相対密度が99%のNd
2.4Fe
14Bターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着し、チャンバー内を真空に排気した。次に、10
−5Paの真空度に到達したことを確認した後、約6.5rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションして、Ta基板上に筋状のα−Fe結晶相とNd−Fe−B系アモルファス母相とからなるコンポジット膜を厚さ10μm以上とし成膜した。このときターゲットと基板との距離を10mm、レーザー強度を4Wとし、レーザービームを集光レンズを通してターゲット表面に集光させることで、ターゲット表面でのレーザー強度密度を10 J/cm
2程度とした。次に、出力8kW、約2秒間パルスアニーリング処理(熱処理温度500〜800 ℃程度)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。なお、膜厚評価にはマイクロメーターを使用し、組成分析にはEDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を用いた。
【0026】
このようにして作製した希土類薄膜磁石について、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いて、磁気特性を評価した。
図2に実施例1の希土類薄膜磁石のM−H特性を示す。
図1に示す通り、残留磁化は1.04T、保磁力は426kA/m、(BH)
maxは108kJ/m
3と良好な結果が得られた。次に、熱処理前後の希土類薄膜のX線回折図を
図3に示す。
図3に示すように、成膜後のα−Fe相は結晶化しているが、Nd
2Fe
14B相はアモルファス相となっている。また、熱処理によってNd
2Fe
14B相が結晶化しているのが確認された。次に、熱処理後の希土類薄膜についてTEMを用いて組織を観察した。その結果を
図4に示す。
図4右図において、白のコントラストと黒のコントラストを示す部分がα−Fe結晶粒、灰色のコントラストを示す母相部分がNd
2Fe
12B結晶粒である。このTEM画像から、α−Fe結晶粒とNd
2Fe
12B結晶粒とが島状に三次元的に交互配列したナノコンポジット構造を有することを確認した。
図5には、α-Fe結晶粒とNd
2Fe
12B結晶粒の分布を示す。前者はN数が1044個、後者はN数が339個の測定結果である。この図からα−Fe相の平均結晶粒径は約17nm、Nd
2Fe
12B相の平均結晶粒径が約14nmであった。
【0027】
(実施例2)
純度が99.9%(3N)、相対密度が99%のNd
1.8Fe
14Bターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着し、チャンバー内を真空に排気した。次に、10
−5Paの真空度に到達したことを確認した後、約6.5rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションして、Ta基板上にNd−Fe−B系アモルファス膜を厚さ10μm以上で成膜した。このときターゲットと基板との距離を10mm、レーザー強度を4Wとし、レーザービームを集光レンズを通してターゲット表面に集光させることで、ターゲット表面でのレーザー強度密度を10J/cm
2とした。次に、出力8kW、約2秒間パルスアニーリング処理(熱処理温度500〜800 ℃程度)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。なお、膜厚評価にはマイクロメーターを使用し、組成分析にはEDXを用いた。
このようにして作製した希土類薄膜磁石について、VSMを用いて、磁気特性を評価した。
図6に実施例2の希土類薄膜磁石のM−H特性を示す。
図6に示す通り、残留磁化は0.99T程度、保磁力は386kA/m、(BH)
maxは91 kJ/m
3と良好な結果が得られた。次に、熱処理後の希土類薄膜についてTEMを用いて組織を観察した。実施例1と同様の方法を用いて結晶粒径を測定した結果、α−Fe相の平均結晶粒径は約16nm、Nd
2Fe
14B相の平均結晶粒径は約14nmであった。
【0028】
(実施例3)
純度が99.9%(3N)、相対密度が99%のNd
2.6Fe
14Bターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着し、チャンバー内を真空に排気した。次に、10
−5Paの真空度に到達したことを確認した後、約6.5rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションして、Ta基板上にNd−Fe−B系アモルファス膜を厚さ10μm以上で成膜した。このときターゲットと基板との距離を10mm、レーザー強度を4Wとし、レーザービームを集光レンズを通してターゲット表面に集光させることで、ターゲット表面でのレーザー強度密度を10J/cm
2とした。次に、出力8kW、約2秒間パルスアニーリング処理(熱処理温度500〜800 ℃程度)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。なお、膜厚評価にはマイクロメーターを使用し、組成分析にはEDXを用いた。
このようにして作製した希土類薄膜磁石について、VSMを用いて、磁気特性を評価した。
図7に実施例3の希土類薄膜磁石のM−H特性を示す。
図7に示す通り、残留磁化は1.05T程度、保磁力は446kA/m、(BH)
maxは128 kJ/m
3と良好な結果が得られた。次に、熱処理後の希土類薄膜についてTEMを用いて組織を観察した。実施例1と同様の方法を用いて結晶粒径を測定した結果、α−Fe相の平均結晶粒径は約18nm、Nd
2Fe
14B相の平均結晶粒径は約15nmであった。
【0029】
(比較例1)
純度が99.9%(3N)、相対密度が99%のNd
1.4Fe
14Bターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着し、チャンバー内を真空に排気した。次に、10
−5Paの真空度に到達したことを確認した後、約6.5rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションして、Ta基板上にNd−Fe−B系アモルファス膜を厚さ10μm以上で成膜した。このときターゲットと基板との距離を10mm、レーザー強度を4Wとし、レーザービームを集光レンズを通してターゲット表面に集光させることで、ターゲット表面でのレーザー強度密度を1J/cm
2とした。次に、出力8kW、約2秒間パルスアニーリング処理(熱処理温度500〜800 ℃程度)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。なお、膜厚評価にはマイクロメーターを使用し、組成分析にはEDXを用いた。
このようにして作製した希土類薄膜磁石について、VSMを用いて、磁気特性を評価した。その結果、残留磁化は0.8T程度、保磁力は300kA/m、(BH)
maxは最大60 kJ/m
3と実施例と比べて劣る結果となった。次に、熱処理後の希土類薄膜についてTEMを用いて組織を観察した。その結果、α−Fe相とNd
2Fe
14B相が数10 nm〜100nmを超える範囲で分散した状態で存在する事を確認した。加えて、実施例1に比べ、ターゲットより放出されるドロプレットが著しく多く、表面平滑性ならびに密度の劣化などが生じる事も確認された。
【0030】
(比較例2)
純度が99.9%(3N)、相対密度が99%のNd
2.6Fe
14Bとα−Feを組み合わせた1枚のターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着し、チャンバー内を真空に排気した。次に、10
−5Paの真空度に到達したことを確認した後、約6.5rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションして、Ta基板上にα−Fe相とNd−Fe−B系アモルファス相とからなるコンポジット膜を厚さ10μm以上で成膜した。このときターゲットと基板との距離を10mm、レーザー強度を4Wとし、レーザービームを集光レンズを通してターゲット表面に集光させることで、ターゲット表面でのレーザー強度密度を1J/cm
2程度とした。次に、出力8kW、約2秒間パルスアニーリング処理(熱処理温度500〜800 ℃程度)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。なお、膜厚評価にはマイクロメーターを使用し、組成分析にはEDXを用いた。
このようにして作製した希土類薄膜磁石について、VSMを用いて、磁気特性を評価した。その結果、残留磁化は0.9T、保磁力は400kA/m、(BH)
maxは100kJ/m
3と実施例1と比べ同程度であるものの、その角型性は実施例1に比べ著しく劣る事を確認した。加えて、実施例に比べ、ターゲットより放出されるドロプレットが著しく多く、表面平滑性ならびに密度の劣化などが生じる事も確認された。
【0031】
本発明のパルスレーザーデポジション法で作製されるα−Fe相とNd
2Fe
14B相が三次元的に交互配列したナノコンポジット構造の希土類薄膜磁石は、良好な磁気特性を有することから、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、エナジーハーベスト(環境発電)などのエネルギー分野や医療機器分野などに応用される磁気デバイスに有用である。