特許第5861261号(P5861261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861261
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】マイクロレンズ装飾体
(51)【国際特許分類】
   B44F 1/04 20060101AFI20160202BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B44F1/04
   G02B3/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-65947(P2011-65947)
(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公開番号】特開2012-200940(P2012-200940A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉本 尚志
【審査官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−005685(JP,A)
【文献】 特開2011−020403(JP,A)
【文献】 特開2002−127698(JP,A)
【文献】 特開2008−254406(JP,A)
【文献】 特開2005−193501(JP,A)
【文献】 特開2010−179518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44F 1/04
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にピッチAでドットパターン状に同一平面上に設けた反射柄層と、該反射柄層上に撥液性を有するニスを用いてピッチBで抜き文字状に設けた撥液パターンと、該撥液パターン上に透明ニスを塗布して前記抜き文字部分に形成したマイクロレンズとを有し、前記ピッチAとピッチBを異なるピッチにすることによって、反射柄層のドットパターンが拡大された模様が等ピッチで現出して立体的に視覚させる装飾体であって、前記反射柄層の上または下に網点から構成される絵柄層を設けたことを特徴とするマイクロレンズ装飾体。
【請求項2】
前記反射柄層と前記撥液パターンの間に、透明層を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロレンズ装飾体。
【請求項3】
前記反射柄層は金属蒸着層であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロレンズ装飾体。
【請求項4】
前記反射柄層は、光輝性粒子を含むインキ層であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロレンズ装飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズを利用した、特殊な視覚効果を有する装飾体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からモアレを利用した模様が建装材や、装飾材として用いられている。最も初歩的なモアレ模様は、同じ網点スクリーンを2枚重ねて、1枚のスクリーンを回転させることによって得られるものであり、この原理を応用して、模様の単位となる絵柄の形状や角度をさまざまに変えることにより、無限とも言える種類の模様を生み出すことができる。
【0003】
一方、透明な合成樹脂板の表面に、微細な凸レンズであるマイクロレンズを規則正しく配列したマイクロレンズシートを利用して、特殊な視覚効果を発揮するようにした装飾材料が知られている。マイクロレンズシートは、精密な金型を用いて熱可塑性樹脂シートの表面に微細な凹凸を賦型して製造するシートであるため、高価なものである。特許文献1に記載された装飾シートは、透明性シートの表面に複数の凸レンズ形状の突起を連続した任意のパターンで設けると共に、該シートの裏面に表面と同じ連続パターンをもつ模様を表面の連続パターンに対して変位させて印刷したことを特徴とする装飾シートである。
【0004】
マイクロレンズを賦型法ではなく、印刷法によって形成しようとする試みもなされている。特許文献2に記載された点描画模様の装飾体は、透明基板の表面に透明性を有する印刷インキにより透明性を有する多数の独立した凸状集光素が一定の微細なピッチにて規則正しい配列状態に印刷され、透明基板の裏面に表面の凸状集光素と同形状で同配列状態又は異形状で同配列状態の多数の着色画素が印刷され、かつ、交差角度により、着色画素の視認サイズが大幅に変化するように表面の凸状集光素に対し交差角をずらせた位置関係となっており、着色画素が表面から見て立体感を有する拡大画像として現出し、視点を移動させると拡大画像が揺らぎ感を呈することを特徴とする点描画模様の装飾体である。
【0005】
この装飾体は、網点のように規則的なパターンを重ねて交差角をずらすと振幅が大きくなったり小さくなったりして網点が揺らいで見える現象を利用して、立体的な点描画模様を現出せしめた装飾体である。
【0006】
特許文献3に記載された立体模様装飾体は、透明又は不透明な装飾体の表面に、所望の色に着色したドット状の模様を連続して所定のパターンに複数層または単一層付設し、上記装飾体及び各模様の表面に、略半球形状断面を有する透明なドット状の凸レンズを連続して上記模様と略同一のパターンに付設し、上記各模様及び凸レンズの各パターンをモアレ模様が現出する角度に変位させて、上記各模様及び凸レンズを、上記装飾体表面に設定した密領域に向けて徐々に密状態となるように配列し、該密領域から遠くなる部分に設定した粗領域に向けて徐々に粗状態となるようなグラデーションに配列した立体模様装飾体である。この装飾体は、密領域及び粗領域を有するグラデーションのモアレ模様を立体的に現出することができる。
【0007】
特許文献4に記載された装飾体は、反射層上に複数の画素を整列してなる画素層と、複数の平凸レンズを整列してなる平凸レンズ層とを備え、平凸レンズの配列に対して画素の配列をさまざまに変化させることにより、画像が現出する装飾体である。
【0008】
特許文献5に記載された装飾体は、基材上にピッチAでドットパターン状に設けた視覚表現絵柄と、該視覚表現絵柄面に撥液性を有するニスを用いてピッチBで抜き文字状に設けた撥液パターンと、該撥液パターン上に透明ニスを塗布して前記抜き文字部分に形成し
たマイクロレンズとを有し、前記ピッチAとピッチBを異なるピッチにすることによって、視覚表現絵柄のドットパターンが拡大された模様が等ピッチで現出して立体的に視覚させる装飾体であって、前記基材と視覚表現絵柄の間に反射層を設けたことを特徴とする装飾体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2761861号公報
【特許文献2】特許第3338860号公報
【特許文献3】特開2005-193501号公報
【特許文献4】特開2009-262374号公報
【特許文献5】特開2011-005685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された装飾シートは、金型によるレンズシートを用いるためにどうしても高価なものとならざるを得ない。また金型によるレンズシートを用いる限り、レンズによる効果を部分的に配置するようなデザインを実現することは、不可能ではないが、コスト面でさらに困難なものとなる。
【0011】
特許文献2に記載された点描画模様の装飾体、および特許文献3に記載された立体模様装飾体は、いずれも印刷手段によってレンズを形成するものであるから、高価な金型を用いることはないが、レンズを形成する手段として比較的インキの厚盛りが容易なスクリーン印刷法を用いているため、大面積にわたって微細なレンズを精度よく形成し、精度よく配列することには限界がある。またスクリーン印刷法は印刷スピードが遅く、大量生産には不向きである。
【0012】
また上記いずれの装飾体もモアレパターンの発生を、一方のパターンの角度を変化させる方法によって実現しているため、発生するモアレパターン自体も何らかの角度を伴っており、制御されたきちっとした印象を与えるものとは言えないものである。
【0013】
特許文献4に記載された装飾体においては、平凸レンズの配列に対して画素の配列を変化させる方法として、角度を変化させず、配列ピッチのみを変化させる方法が記載されており、この方法によれば、前記のような問題は発生せず、モアレパターンも制御された印象を与えるものとなる。しかしながら、特許文献4に記載された装飾体は、各平凸レンズに対して、必ず反射層を対応させる必要があるため、反射層は全面にわたる金属反射層であるか、あるいは各凸レンズの下に位置合せをして設ける必要がある。また、レンズの形成手段として、スクリーン印刷法による厚盛印刷を用いているので、前記特許文献2および3と同様の問題点を有している。
【0014】
反射層を全面に設けた場合、たとえば透明な基材を利用した内部が透視可能な装飾体を実現することはできない。一方各凸レンズに反射層を位置合せすることができれば、この問題は解決するが、反射層と画素層と平凸レンズ層の3層を正確に位置合わせしながら基材上に設けることは、実際上非常に困難であるし、またもし可能であったとしても、レンズ層の下に画素以外の一般絵柄を挿入した場合、絵柄に含まれる網点柄がレンズと干渉して、意図しないモアレや干渉柄を発生するため、レンズ層の下には専用画素以外の絵柄を配置することはできなかった。
【0015】
本出願人の出願になる特許文献5に記載された装飾体は、視覚表現絵柄とマイクロレンズの配列において、角度は変化させず、ピッチのみを変化させているので、視認される拡
大模様は視覚表現絵柄やマイクロレンズのパターンと共通の同一の方向性を保っており、きちっと制御された印象を与えるものである。しかし特許文献5に記載された装飾体は、基材上の全面に亘って反射層を設けたものであるため、透明な基材に適用することができず、また一般絵柄を設けた場合、その網点がマイクロレンズと干渉して意図しないモアレや干渉縞を発生することがあった。
【0016】
本発明の解決しようとする課題は、マイクロレンズと画素の配列柄との間で干渉模様を出現させる立体的な視覚効果を有する装飾体において、これに一般絵柄を組合わせても、意図しない干渉柄を発現することのない、マイクロレンズ装飾体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材上にピッチAでドットパターン状に同一平面上に設けた反射柄層と、該反射柄層上に撥液性を有するニスを用いてピッチBで抜き文字状に設けた撥液パターンと、該撥液パターン上に透明ニスを塗布して前記抜き文字部分に形成したマイクロレンズとを有し、前記ピッチAとピッチBを異なるピッチにすることによって、反射柄層のドットパターンが拡大された模様が等ピッチで現出して立体的に視覚させる装飾体であって、前記反射柄層の上または下に網点から構成される絵柄層を設けたことを特徴とするマイクロレンズ装飾体である。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、前記反射柄層と前記撥液パターンの間に、透明層を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロレンズ装飾体である。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、前記反射柄層は金属蒸着層であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロレンズ装飾体である。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、前記反射柄層は、光輝性粒子を含むインキ層であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロレンズ装飾体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るマイクロレンズ装飾体は、基材上にドットパターン状に設けた反射柄層とマイクロレンズのピッチを変えることによって反射柄層のドットパターンが拡大された模様(以下拡大模様と略す)を発生させるものであるから、拡大模様は反射柄やマイクロレンズのパターンと共通の同一の方向性を保っており、きちっと制御された印象を与えるものである。また発生した拡大模様は視点の移動により動いて見えるため、立体感が表現される。
【0023】
また本発明に係るマイクロレンズ装飾体は、従来の反射層を全面に設けた構成とは異なり、反射層がドットパターン状に設けられているため、基材として透明な材料を選択することにより、透視可能な装飾体とすることができる。
【0024】
また本発明に係るマイクロレンズ装飾体は、基材上にピッチAでドットパターン状に設けた反射柄層と、ピッチBで形成したマイクロレンズとを有し、ピッチAとピッチBを異なるピッチにすることによって、反射柄層のドットパターンが拡大された模様が等ピッチで現出して立体的に視覚させる装飾体であるから、網点から構成される任意の絵柄層を併
用しても、絵柄層と反射柄層あるいは、絵柄層とマイクロレンズとが意図しない干渉柄を生じることがなく、安定した品質の製品が得られる。
【0025】
網点から構成される一般的な絵柄を併用することができるため、さまざまな用途に幅広く使用することができる装飾体となる。
【0026】
本発明に係るマイクロレンズ装飾体は、マイクロレンズを形成する手段として、ピッチBで抜き文字状に設けた撥液パターンの上に透明ニスを塗布して弾かせることによって形成する方法を用いたものであるから、撥液パターンの印刷方法として、オフセット印刷法やグラビア印刷法を用いることが可能であり、このためスクリーン印刷法では実現が困難な、高精細できめ細かい精緻な表現が可能である。
【0027】
反射柄層と撥液パターンの間に、透明層を設けた場合には、反射柄層とマイクロレンズによる拡大模様がより立体的に強調されたものとなる。
【0028】
反射柄層が、金属の部分蒸着層であるか、あるいは金属蒸着転写箔を転写することによって形成したものである場合、強い鏡面反射性をもった反射柄層が得られるため、拡大模様の現出が強調されたものとなる。一方反射柄層が、光輝性粒子を含むインキを印刷することによって形成したものである場合は、金属蒸着転写箔を用いた場合に比較して、拡大模様の現出は弱くなるが、全ての工程を通常の印刷機中で完了することができるので、低コストの製品を能率良く生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の一実施態様の断面構造を示した断面模式図である。
図2図2は、図1に示したマイクロレンズ装飾体の平面構造を示した平面模式図である。
図3図3は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体において拡大模様の発生する機序を示した拡大平面説明図である。
図4図4は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体において拡大模様の発生する機序を示した拡大平面説明図であり、図3よりも拡大倍率を下げたものである。
図5図5は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模式図である。
図6図6は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模式図である。
図7図7は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下図面を参照しながら、本発明に係るマイクロレンズ装飾体について詳細に説明する。図1は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の一実施態様の断面構造を示した断面模式図である。また図2は、図1に示したマイクロレンズ装飾体の平面構造を示した平面模式図である。
【0031】
本発明に係るマイクロレンズ装飾体は、基材(1)上にピッチAでドットパターン状に設けた反射柄層(2)と、反射柄層上に撥液性を有するニスを用いてピッチBで抜き文字状に設けた撥液パターン(3)と、撥液パターン上に透明ニスを塗布して前記抜き文字部分に形成したマイクロレンズ(5)とを有し、前記ピッチAとピッチBを異なるピッチにすることによって、反射柄層(2)のドットパターンが拡大された模様が等ピッチで現出して立体的に視覚させる装飾体であって、反射柄層(2)の上または下に網点から構成される任意の絵柄層(4)を設けたことを特徴とするマイクロレンズ装飾体である
【0032】
図1において、(7)は、反射柄のピッチ(A)を示し、(8)は、マイクロレンズピッチ(B)を示す。なお撥液パターンの抜き文字ピッチは、すなわちマイクロレンズのピッチと等しい。この例では、ピッチAよりもピッチBの方が大きくなっているが、逆にピッチBよりもピッチAの方が大きくてもよい。また図1に示した実施態様においては、絵柄層(4)は、反射柄層(2)の下にある。なお図1では、絵柄層(4)を便宜的に1枚の層として描いているが、実際には、図2で示されたように、絵柄層(4)は網点で構成されているので、必ずしも連続した1枚の層にはなっていない。
【0033】
図3は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体において拡大模様の発生する機序を示した拡大平面説明図である。また図4は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体において拡大模様の発生する機序を示した拡大平面説明図であり、図3よりも拡大倍率を下げたものである。この実施態様においては、反射柄(2)が円形のドットであり、一定の反射柄ピッチ(A)(7)で正三角形状に配列されている。この上から撥液性のインキを用いて形成した撥液パターン(3)が設けられている。撥液パターン(3)は、一定のマイクロレンズピッチ(B)(8)で正三角形状に配列した円形のドットのネガパターンすなわち抜き文字状となっており、撥液パターン(3)の上に塗布された透明ニスが弾かれて抜き文字である円形のドット部に集まってマイクロレンズ(5)を形成する。マイクロレンズ(5)の大きさとしては、直径0.05mm〜0.5mm程度が適当である。
【0034】
反射柄ピッチ(A)(7)とマイクロレンズピッチ(B)(8)を、異なる値に設定すると、反射柄層(2)のドットとマイクロレンズ(5)の位置は徐々にずれていき、1ピッチずれた位置で再び一致しようとする。両者が一致した部分では、反射柄層(2)のドットの中央部がマイクロレンズ(5)で拡大され、両者が一致しない部分では、反射柄層(2)のドットの中間部がマイクロレンズ(5)で拡大される。このように、拡大される反射柄層(2)のドットの部分が徐々にずれて移動して行き、1ピッチずれた位置で、元に戻る。このピッチの一致、不一致が繰返す結果、肉眼で見ると、あたかも反射柄層(2)のドットが拡大されたかのように認識されるのである。反射柄ピッチ(7)およびマイクロレンズピッチ(8)の値としては、0.05mm〜1.0mm程度が好ましい。
【0035】
図4は、本発明に係る装飾体において拡大模様の発生する機序を示した拡大平面説明図であり、図3よりも拡大倍率を下げたものである。図から分かるように、反射柄層(2)のドットの中央部が拡大される領域(9)と、反射柄層(2)のドットの中間部が拡大される領域(10)とが周期的に一定の間隔で現れる。これが拡大模様となって現出し、肉眼によって認識されるのである。
【0036】
基材(1)としては、紙、合成樹脂フィルム、合成樹脂板など任意の材質の基材が使用できるが、大面積の基材であっても微細なマイクロレンズを精度よく形成できるという本発明の特徴を生かすためには、オフセット印刷法やグラビア輪転印刷法が適用できる紙や板紙、合成樹脂フィルム、合成樹脂シート、PET貼合紙(フィルム貼合紙)などが望ましい。なお厚板紙や合成樹脂板などの板材を基材として、スクリーン印刷法による印刷を適用してもよい。また本発明の特徴として、透明な基材を用いて、透視可能な装飾体とすることもできる。
【0037】
反射柄層(2)は、光を反射する性質を持った層をドットパターン状に一定のピッチ(A)で形成したものであり、ドットパターンの形状は、任意である。図2の例では、ドットパターンの形状は、正方形であり、図3の例では、円形である。
【0038】
反射柄層(2)を形成する方法としては、いくつかの方法がある。その1は、部分蒸着法を用いる方法であり、PETフィルムなどの耐水性プラスチックフィルムに必要に応じて蒸着アンカーコートなどの下地処理を施した後、全面にアルミニウムを蒸着し、次にこのアルミニウム蒸着面に反射柄層(2)となるべきパターンで、保護ニスを印刷する。次いで稀アルカリ液で処理して、不要な蒸着膜を溶解除去することにより、保護ニスが存在した部分の蒸着層が残り、反射柄層(2)が得られる。耐水性プラスチックフィルムはそのまま基材(1)としてもよいし、他の基材、例えば板紙などと貼り合せて基材(1)としてもよい。
【0039】
反射柄層(2)を形成する他の方法としては、同様に耐水性のプラスチックフィルムに必要に応じて蒸着アンカーコートなどの下地処理を施した後、水溶性のニスを用いて反射柄層(2)のネガ柄を印刷し、次いで全面にアルミニウムを蒸着した後、水洗処理を行って、水溶性ニス部分の蒸着層を除去すると、目的とする反射柄層(2)が得られる。この方法も一般的に部分蒸着法に分類される方法である。耐水性プラスチックフィルムは同様にして、そのまま基材(1)としてもよいし、他の基材、例えば板紙などと貼り合せて基材(1)としてもよい。
【0040】
反射柄層(2)を形成する他の方法として、金属蒸着転写箔を用いる方法がある。
予めPETフィルム等の基材フィルムに例えば、剥離ニス/金属蒸着層/接着ニスなどの層構成の蒸着転写層を設けておき、この蒸着転写層を、基材(1)の反射柄層(2)の部分だけに転移させることによって、反射柄層(2)を得る方法である。
【0041】
金属蒸着転写箔の蒸着転写層を基材に部分的に転移させる方法にもいくつかの方法がある。最も単純な方法は、表面に目的とする反射柄層(2)のパターンを凸部として形成した熱盤ないしは熱ロールで加熱して転写するものである。この方法は、箔押しと呼ばれる方法であり、従来より加飾の方法として一般的に行われているが、反射柄層(2)と絵柄層(4)とを同調させるためには、印刷機に特殊な転写装置を印刷版と同期するように設置する必要がある。
【0042】
金属蒸着転写箔の蒸着転写層を基材に部分的に転移させる他の方法として、基材(1)の表面に反射柄層(2)に相当するパターンで接着剤を印刷し、接着剤が未硬化の状態で金属蒸着転写箔を貼り合せ、転写箔を剥離後に接着剤上に貼り付いた箔と共に接着剤を硬化させる方法がある。
【0043】
この方法は、反射柄層(2)のパターンを印刷によって形成できるので、精度の点においても、また他の印刷柄である絵柄層(4)や撥液パターン(3)との同調が比較的容易に可能である点においても、有利な方法である。
【0044】
反射柄層(2)のパターンを接着剤を用いて形成する場合に、他の印刷柄とインライン印刷によって同調させるためには、接着剤がある程度急速に硬化するものである必要がある。このような接着剤の例としては、ドライラミネートタイプの接着剤やホットメルトタイプの接着剤、あるいは電離放射線硬化型の接着剤などが挙げられる。
【0045】
電離放射線硬化型接着剤のうち、電子線硬化型接着剤を用いた場合には、転写箔の金属蒸着層が少々厚くてもあまり影響を受けないが、紫外線硬化型接着剤の場合には、金属蒸
着層が厚すぎると、紫外線が透過しないため、硬化不良を生じる恐れがある。
【0046】
金属蒸着転写箔の金属蒸着層を紫外線が透過する程度に薄くした転写箔を使用し、紫外線硬化型の接着剤を印刷形成した後に転写箔を重ね合せ、転写箔を剥離後に接着剤上に貼り付いた箔の上から紫外線を照射して転写させる方法は、電子線を用いる場合に比較して設備費も安価で済むため、好適に使用できる。
【0047】
反射柄層(2)を形成する他の方法として、光輝性粒子を含むインキを印刷することによって形成する方法がある。光輝性粒子を含むインキとしては、高輝性アルミニウム薄片を含むメタリックインキや、高輝性パール顔料を含むパールインキを用いることができる。印刷方法としては、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等の一般的な印刷方法を用いることができる。
【0048】
反射柄層(2)を、光輝性粒子を含むインキを印刷することによって形成する方法によれば、他の印刷柄である絵柄層(4)や撥液パターン(3)などを同時に1台の印刷機により、インラインで印刷形成することが容易に可能となるので、生産性や生産コストの面においては、有利である。
【0049】
撥液パターン(3)は、撥液性を有するインキを用いて、抜き文字状に形成する。撥液性のインキとしては、通常使用するインキやニスにシリコーンオイルやシリコーン樹脂を少量添加したインキや、シリコーン樹脂やフッ素系樹脂をバインダーとするインキを使用することができる。通常撥液パターンは無色透明とするのが一般的であるが、デザイン上の効果を求めて、適宜着色することもできる。撥液パターン(3)の形状は、図3に示したような正三角形状に配列した水玉模様のネガや、正方形状に配列した水玉模様のネガ、あるいは、碁盤目、ハニカム形状など任意である。
【0050】
撥液パターン(3)の表面に透明ニスを塗布して撥液パターンに沿ってはじかせると、透明ニスは、撥液パターンの抜き文字部に集まり、凸状に盛り上がってマイクロレンズ(5)を形成する。透明ニスとしては、マット剤などの充填剤を含まない透明性のよい樹脂組成物で、固形分の多いものが好ましい。紫外線硬化型の固形分100%の透明グロスニスは、好ましく使用できるものである。
【0051】
図5は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模式図である。この実施態様においては、反射柄層(2)の上に絵柄層(4)が存在する。絵柄層(4)は、網点で構成されているので、網点面積率が高く、しかも隠蔽性の高いインキを用いた絵柄でない限り、反射柄層(2)の上に絵柄層(4)が乗っても問題とはならない。
【0052】
図6は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模式図である。この実施態様においては、基材(1)の上に絵柄層(4)、反射柄層(2)が順に積層されており、この上に全面に亘って透明層(6)が設けられている。
透明層(6)が存在することにより、マイクロレンズ(5)から入射した光が反射柄層(2)で反射して、再度マイクロレンズ(5)を経由して射出する際の光路長が長くなるため、干渉柄である反射柄の拡大絵柄がより強調されて現出する。
【0053】
透明層(6)は、透明なニス層でもよいし、透明なフィルムを貼り合せて形成してもよい。反射柄層(2)として、既に説明したような部分蒸着フィルムを用いた場合には、この蒸着フィルムの基材フィルムを透明層(6)として利用することもできる。
【0054】
図7は、本発明に係るマイクロレンズ装飾体の他の実施態様の断面構造を示した断面模
式図である。この実施態様においては、基材(1)の表面上に設けた絵柄層(4)の上に透明層(6)付きの反射柄層(2)を配置したものである。このような構成は、既に説明した反射柄層(2)の形成方法において、剥離ニス層を有する金属蒸着転写箔を用いた部分転写法によって形成することができる。この場合には転写箔の剥離ニス層が透明層(6)の働きをすることになる。この場合、透明層(6)を着色透明とすれば、例えば金色やその他任意のカラーメタリック表現を実現することが容易にできる。
【0055】
図7に示したような構造のマイクロレンズ装飾体を実現する他の方法として、部分的に設けた反射柄層(2)の上に、印刷法によって位置合わせをしながら透明層(6)を設ける方法もある。
【0056】
図7に示したような構造は、透明層(6)が着色透明であるために、全面に設けた場合には、デザイン上、絵柄層(4)に悪影響を及して、好ましくないような場合に特に好適に使用できる。
以下実施例に基づき、本発明に係るマイクロレンズ装飾体について、さらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0057】
坪量310gのカード紙を基材として使用し、この表面にオフセット印刷法により絵柄層と反射柄層、撥液パターンをこの順に印刷した。絵柄層は、175線の平網100%の墨柄とした。反射柄層は、ドット径0.2mmの円形ドットで、反射柄ピッチは0.31mmとした。
【0058】
反射柄層は、オフセット印刷機に設置したインライン箔押し装置を用いて形成した。紫外線硬化型の接着剤を反射柄層のドットパターンに印刷し、この上からインライン箔押し用のコールド箔を貼り合せて、転写箔を剥離した後にUVランプにより、転写した箔を通して紫外線を照射し、接着剤を硬化させて反射柄層とした。
【0059】
撥液パターンは、インキメジュームにシリコーンオイルを添加したはじきインキを用いて印刷した。マイクロレンズとなるべき水玉の直径は、0.3mm、ピッチは0.33mmとした。この上から、紫外線硬化型の透明グロスニスを全面に塗布し、撥液パターン部分を弾かせた後、紫外線を照射してマイクロレンズを形成し、目的とするマイクロレンズ装飾体を得た。
【実施例2】
【0060】
絵柄層の仕様を、175線の平網60%の墨柄とした以外は、実施例1と同様にしてマイクロレンズ装飾体を作製した。
【実施例3】
【0061】
絵柄層の仕様を、175線の平網60%の赤柄とし、反射柄層の上のみに透明層として、厚さ0.005mm以下の透明青ニス層を設けた以外は、実施例1と同様にしてマイクロレンズ装飾体を作製した。
【実施例4】
【0062】
絵柄層の仕様を、175線の平網100%の墨柄とし、反射柄層の上に透明層として、厚さ0.3mmの透明ニス層を全面に設けた以外は、実施例1と同様にしてマイクロレンズ装飾体を作製した。
【0063】
<比較例1>
基材として、全面にアルミ箔をラミネートした板紙を使用し、絵柄層、画素層、マイク
ロレンズの層構成からなるマイクロレンズ装飾体を作製した。絵柄層は、175線平網100%の白、画素層は、ドット径0.2mm、ドットピッチ0.31mmの墨ドット柄とした。マイクロレンズの仕様は、実施例1〜4と共通である。
【0064】
<比較例2>
絵柄層の仕様を175線平網60%の赤とした以外は、比較例1と同様にしてマイクロレンズ装飾体を作製した。
実施例1〜4および比較例1、2の外観を目視にて評価した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
このように、本願発明に係るマイクロレンズ装飾体は、マイクロレンズと反射柄とによって発現する拡大柄のエリア内に意図しないモアレ等を発生することがなく、通常の網掛けの絵柄を挿入することが可能となった。このため、さまざまな物品を収納する箱や容器の表面装飾材料として、広範囲に使用することができるものとなった。
【符号の説明】
【0067】
1・・・基材
2・・・反射柄層
3・・・撥液パターン
4・・・絵柄層
5・・・マイクロレンズ
6・・・透明層
7・・・反射柄ピッチ(A)
8・・・マイクロレンズピッチ(B)
9・・・反射柄の中央部が拡大される領域
10・・・反射柄の中間部が拡大される領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7