【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<実施例1>
先ず、
図1に示すように、基板11上に絶縁体膜12を形成した。具体的には、厚さ500μmのSi基板を酸化性ガスの乾燥した雰囲気下、熱処理することにより、厚さ500nmのSiO
2膜を形成した。次に、上記SiO
2膜上に、スパッタリング法により金属Ti膜を成膜し、700℃の温度で1分間熱処理することにより、厚さ30nmの密着層13を形成した。
【0039】
次に、Ptを貴金属材料として用い、スパッタリング法により、上記密着層13上に厚さ100nmの下部電極14を形成した。下部電極14における結晶配向性は(111)面に優先配向するように形成した。また、下部電極14の平均結晶粒径は40nmとなるように調整した。これにより、基板11と、基板11上に形成された絶縁体膜12と、絶縁体膜12上に密着層13を介して形成された下部電極14とから構成される支持体20を得た。
【0040】
続いて、有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンアルコキシドを、Ba、Sr、Tiのモル比が70:30:100となるように有機溶媒中に溶解して薄膜形成用組成物を調製した。この薄膜形成用組成物を、上記得られた支持体20、即ち下部電極14上に、アニール処理を行わずに、スピンコーティング法により塗布し、350℃で5分間維持して乾燥し塗膜を形成した。更に、塗膜が形成された基板11を、昇温速度60℃/分で700℃まで昇温させ、この温度(焼成温度)で5分間維持することにより、誘電体薄膜16を形成した。なお、上記薄膜形成用組成物の塗布から焼成までの工程は初回を含めて計3回繰り返し行い、初回の焼成後の厚さは50nmとし、2回目以降の各回の焼成後の厚さはそれぞれ125nmとし、総厚は300nmとした。
【0041】
次いで、形成した誘電体薄膜16上に、メタルマスクを用いて厚さ100nm、約250×250μm角のPt上部電極17をスパッタリング法にて形成することにより、薄膜キャパシタ10を得た。この薄膜キャパシタを実施例1とした。
【0042】
<実施例2>
厚さが200nmであり、残留応力が次の表1に示す値の下部電極上に誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例2とした。
【0043】
<実施例3>
厚さが300nmであり、平均結晶粒径及び残留応力が次の表1に示す値の下部電極上に、誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例3とした。
【0044】
<実施例4>
厚さが500nmであり、平均結晶粒径及び残留応力が次の表1に示す値の下部電極上に、誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例4とした。
【0045】
<実施例5>
残留応力が、次の表1に示す値であり、結晶配向性が(001)面に優先配向する下部電極上に、誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例5とした。
【0046】
<実施例6>
平均結晶粒径及び残留応力が次の表1に示す値であり、結晶配向性が(110)面に優先配向する下部電極上に、誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例6とした。
【0047】
<実施例7>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを30nmとし、総厚を280nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例7とした。
【0048】
<実施例8>
薄膜形成用組成物の塗布から焼成までの工程を1回で行い、初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さ、即ち総厚を360nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例8とした。
【0049】
<実施例9>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを20nmとし、総厚を395nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例9とした。
【0050】
<実施例10>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを100nmとし、総厚を350nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例10とした。
【0051】
<実施例11>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを200nmとし、総厚を325nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例11とした。
【0052】
<実施例12>
薄膜形成用組成物の塗布から焼成までの工程を1回で行い、初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さ、即ち総厚を600nmとしたこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例12とした。
【0053】
<比較例1>
下部電極を形成した後、薄膜形成用組成物を塗布する前に700℃で1分間アニール処理を行ったこと、また、平均結晶粒径及び残留応力が次の表1に示す値の下部電極上に、誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例1とした。
【0054】
<比較例2>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを10nm、2回目以降の各回の焼成後の厚さをそれぞれ100nm、総厚を310nmとし、薄膜形成用組成物の塗布から焼成までの工程を初回を含めて計4回繰り返し行ったこと以外は実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例2とした。
【0055】
<比較例3>
初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを6nm、2回目以降の各回の焼成後の厚さをそれぞれ100nm、総厚を306nmとし、薄膜形成用組成物の塗布から焼成までの工程を初回を含めて計4回繰り返し行ったこと以外は実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例3とした。
【0056】
<比較試験及び評価>
実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた支持体又は薄膜キャパシタについて、次の項目における評価を行った。これらの結果を以下の表1に示す。
【0057】
(1) 膜厚及び膜厚比:下部電極及び初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さを走査型顕微鏡(SEM)により計測し、これらの値から、下部電極の厚さと初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さの比(下部電極の厚さ/誘電体薄膜の厚さ)を算出した。
【0058】
(2) 平均結晶粒径:下部電極を走査型顕微鏡(SEM)により観察し、その顕微鏡写真を用い、個々の結晶子で重心を通る最も長い径をその結晶子の粒径とし、それぞれ100個の結晶子においてこの値を得、その平均値を平均結晶粒径とした。
【0059】
(3) 結晶配向性:下部電極について、X線回折装置によりX線パターンを得て、結晶配向性を評価した。
【0060】
(4) 残留応力:X線回折装置を用いた並傾法により、薄膜形成用組成物を塗布する前の下部電極について、その残留応力を算出した。このとき、Ptの物性値としてヤング率168000MPa、ポアソン比0.38を用いた。
【0061】
(5) ヒロック数:薄膜キャパシタの上部電極及び誘電体薄膜をエッチングによって除去した下部電極の表面について、光学顕微鏡により任意の100μm×100μm角の範囲に観察されたヒロックの個数を測定し、1平方ミリメートル当りの個数に換算した。
【0062】
(6) リーク電流密度及び絶縁耐圧:薄膜キャパシタの下部電極と上部電極間に、直流電圧を印加し、I−V特性を評価した。具体的には、電流電圧測定装置(ケースレー社製 型式名:236 SMU)を用い、温度23℃にて印加電圧を5Vとしたときのリーク電流密度を測定した。また、同装置を用い、温度23℃にて0.5V単位で上昇させ、リーク電流密度が1A/cm
2超える1つ手前の電圧の値を、薄膜キャパシタの絶縁耐圧とした。
【0063】
【表1】
表1から明らかなように、実施例1〜6と比較例1〜3を比較すると、下部電極を形成した後にアニール処理を行わずに、組成物を塗布し、初回の焼成後に形成される誘電体薄膜の厚さを50nmとした、実施例1〜6では、下部電極に発生するヒロックの数が極めて少なく、リーク電流密度、絶縁耐圧の評価において十分に優れた結果が得られた。
【0064】
一方、比較例1では、組成物を塗布する前に既に下部電極にはある程度ヒロックが存在していたため、リーク電流密度、絶縁耐圧の評価が大きく低下した。
【0065】
また、初回の焼成後に形成される誘電体薄膜の厚さが20nmに満たず、下部電極の厚さと初回の焼成後の誘電体薄膜の厚さの比(下部電極の厚さ/誘電体薄膜の厚さ)が、15.0を超える比較例2,3では、実施例1〜12と比べて、誘電体薄膜によるヒロック抑制効果が不十分となり、ヒロックが多く発生し、リーク電流密度、絶縁耐圧の評価ともに大きく低下した。