(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸と出力軸との間、及び前記第2入力軸と出力軸との間に、それぞれ奇数段と偶数段の歯車段を配置し、
動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機において、
前記第1入力軸又は前記第2入力軸のどちらか一方を中空軸で形成し、もう一方の挿設軸を前記中空軸の内の同軸上に挿設し、
前記発進段を前記第2入力軸に、及び前記第1入力軸に配置されて前記発進段と異なる歯車比を有する補助段を前記第1入力軸に同期係合させると共に、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを同時に結合状態にして、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記補助段を空転させる回転切断機構を前記補助段と前記第1入力軸との間に備え、
かつ、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達が開始するときに、前記中空軸と前記挿設軸とを一体回転する入力結合機構を備えることを特徴とするデュアルクラッチ式変速機。
前記回転切断機構を、前記第1入力軸の回転数が、前記補助段の歯車回転数より低い回転数のときに、前記補助段を空転させるワンウェイクラッチで構成することを特徴とする請求項1に記載のデュアルクラッチ式変速機。
少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸と出力軸との間、及び前記第2入力軸と出力軸との間に、それぞれ奇数段と偶数段の歯車段を配置し、
動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、
前記発進段を前記第2入力軸に、及び、前記発進段と異なる歯車比を有する補助段を前
記第1入力軸に同期係合すると共に、前記第1クラッチと前記第2クラッチとを同時に結合状態にして、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、
入力結合機構が前記第1入力軸と前記第2入力軸とを一体回転させると共に、回転切断機構が前記補助段を空転させるデュアルクラッチ式変速機の制御方法。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速マニュアルトランスミッション(以下、AMTという)の変速時間改善のため、クラッチを2系統もつデュアルクラッチトランスミッション(以下、DCTという)が存在する。DCTは通常、偶数段と奇数段それぞれにクラッチを持ち、両者を切り換えて変速していくため偶数段(奇数段)の使用中に奇数段(偶数段)の変速操作を行うことができる。このDCTは変速タイムラグの無い素早い変速を可能とすると共に、クラッチで動力を伝達するため、構造がシンプルで動力損失も少なく伝達効率に優れているため、燃費の向上にもつながる。
【0003】
ここで、従来のDCTについて
図8及び
図9を参照しながら説明する。
図8に示すように、DCT1Xは、第1入力軸11、第2入力軸12、第1クラッチC1、第2クラッチC2、カウンターシャフト13、歯車段G1〜G6、歯車段GR、カップリングスリーブS1〜S3、及びカップリングスリーブSRを備える。
【0004】
クランクシャフト2からエンジン(内燃機関)の動力を第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して受け取り、各ギア段で変速して出力軸3へとその動力を伝達している。
【0005】
第2入力軸12を中空状に形成し、第1入力軸11を第2入力軸12内の同軸上になるように挿通する。ギア段G1、G3、G5、及びGRを第1入力軸11に配置し、ギア段G2、G4、及びG6を第2入力軸に配置する。第1クラッチC1を第1入力軸11に、又は第2クラッチC2を第2入力軸に結合すると共に、カウンターシャフト13に設けた各カップリングスリーブS1〜SRが各ギア段G1〜GRと同期係合することで、動力を伝達することができる。
【0006】
クラッチC1は、フライホイールC1a、クラッチカバーC1b、レリーズベアリングC1c、ダイヤフラムスプリングC1d、プレッシャープレートC1e、及びライニング、トーションダンパー、スラストなどからなるクラッチディスクC1fを備える。クラッチC2も同様の構成になる。
【0007】
また、上記のDCT1Xは、
図8に示すように、ECU(制御装置)20、クラッチC1又はクラッチC2を動作させるクラッチ動作機構21、及びカップリングスリーブS1〜SRを動作させる同期係合機構22を備える。クラッチ動作機構21及び同期係合機構22には油圧ピストンなどを用いることができる。
【0008】
次に、このDCT1Xの発進動作を説明する。このDCT1Xはギア段G1を発進段DG1とする。車両が止まり、エンジンが停止すると、ECU20は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の結合を解除すると共に、カップリングスリーブS1を発進段DG1に同期係合する。車両を発進するときには、第1クラッチC1を第1入力軸11と結合する。
図9の矢印がこのときの動力の伝達を示している。
【0009】
次に、加速を円滑に行うために、カップリングスリーブS2をギア段G2に同期係合しておく。これにより、発進段DG1からギア段G2へ変更する場合は、第1クラッチC1の結合を解除(以下、完断という)し、第2クラッチC2を第2入力軸12と結合(以下、完接という)する。このように、交互に切り換えることができるため、変速操作を円滑にすることができる。
【0010】
しかし、上記のように、DCTにおいては、通常、発進は1速もしくは2速といった、決まったギア段が使用されるため、発進に用いられるクラッチは奇数段用か偶数段用のどちらか一方となる。発進時の係合はクラッチにとって負荷が高く摩耗が進む状況である。従って奇数段又は偶数段のどちらか一方のクラッチのみ摩耗が進行してしまう。
【0011】
このクラッチの摩耗を防ぐために、十分な容量のクラッチを用いればよいが、狭いスペースに2組のクラッチを収めているDCTでは、十分な容量をとることが難しい。また、クラッチの摩耗状況や発進条件などにより発進段を使い分ける方法を採用した装置がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これらの装置はクラッチの摩耗状況により発進段を適宜選択することで摩耗を均等化できる。しかし、一方で発進フィーリングの変化により運転しづらい車両となるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の発進時に、発進フィーリングを変化させずに、一方のクラッチにかかる負担を低減して、一方のクラッチのみの摩耗を抑制することができ、クラッチの交換時期を長くすることができるデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両を提供することである。加えて、両方のクラッチを用いることで、発生する二重噛み合いを防ぐと共に、出力軸へのトルクを低減させないデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するためのデュアルクラッチ式変速機は、少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸と出力軸との間、及び前記第2入力軸と出力軸との間に、それぞれ奇数段と偶数段の歯車段を配置し、動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機において、前記第1入力軸に配置され、前記発進段と異なる歯車比を有する補助段を備え、前記発進段を前記第2入力軸に、及び前記補助段を前記第1入力軸に同期係合させると共に、前記前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを同時に結合状態にして、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記補助段を空転させる回転切断機構を前記補助段と前記第1入力軸との間に備えて構成される。
【0015】
車両の発進の瞬間に両クラッチを用いると、発進段のクラッチの摩耗を抑制することができるので、クラッチの交換期間を長くすることができる。一方、両クラッチを用いることで、2重噛み合いを引き起こす可能性がある。そこで、上記の構成によれば、補助段の
歯車回転数よりも低い回転数のときは、入力軸から補助段へ回転を伝達しないように、補
助段を空転させる回転切断機構を設ける。これにより、両クラッチを同時に結合させても、補助段が空転しトルクを伝達しないため、2重噛み合いを防ぐことができる。そのため、安全に両クラッチの負担を低減して、摩耗を抑制することができる。
【0016】
また、上記のデュアルクラッチ式変速機において、前記第1入力軸又は前記第2入力軸のどちらか一方を中空軸で形成し、もう一方の挿設軸を前記中空軸の内の同軸上に挿設し、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達が開始するときに、前記中空軸と前記挿設軸とを一体回転する入力結合機構を備える。
【0017】
この構成によれば、入力結合機構が両入力軸を結合して、一体に回転させることができる。これにより、両方のクラッチを同時につないだときに、補助段は入力回転数がギア回転数より低いため空転して、トルクを伝達しないと共に、両方のクラッチにより両入力軸に伝達されたトルクは、入力結合機構によって両入力軸が一体回転しているため、全て発進段に伝えることができる。そのため、両クラッチを用いても、出力軸へのトルクを低減させることがない。
【0018】
加えて、上記のデュアルクラッチ式変速機において、前記回転切断機構を、前記第1入力軸の回転数が、前記補助段の歯車回転数より低い回転数のときに、前記補助段を空転させるワンウェイクラッチで構成する。この構成によれば、ワンウェイクラッチにより、入力軸の回転数が補助段よりも低回転数の場合はトルク伝達しないため、2重噛み合いを防ぐことができる。
【0019】
上記の目的を達成するための車両は、上記に記載のデュアルクラッチ式変速機を搭載して構成される。この構成によれば、クラッチの摩耗を均等化すると共に、発進フィーリングが変化しないため、運転し易い車両を提供することができる。
【0020】
上記の目的を達成するためのデュアルクラッチ式変速機の制御方法は、少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸と出力軸との間、及び前記第2入力軸と出力軸との間に、それぞれ奇数段と偶数段の歯車段を配置し、動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、前記発進段を前記第2入力軸に、及び、前記発進段と異なる歯車比を有する補助段を前記第1入力軸に同期係合すると共に、前記第1クラッチと前記第2クラッチとを同時に結合状態にして、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、入力結合機構が前記第1入力軸と前記第2入力軸とを一体回転させると共に、回転切断機構が前記補助段を空転させることを特徴とする方法である。
【0021】
この方法によれば、クラッチの負荷を低減して、摩耗を抑制するために、両クラッチを用いて車両を発進させても、2重噛み合いを防ぐと共に、両クラッチに伝達されたトルクを無駄なく発進段に伝達することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車両の発進時に、発進フィーリングを変化させずに、一方のクラッチにかかる負担を低減して、一方のクラッチのみの摩耗を抑制することができ、クラッチの交換時期を長くすることができる。加えて、両方のクラッチを用いることで、発生する二重噛み合いを防ぐと共に、出力軸へのトルクを低減させない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る第1、第2及び第3の実施の形態のデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両について、図面を参照しながら説明する。なお、
図8及び
図9に示した従来のデュアルクラッチトランスミッション(DCT)1Xと同一の構成及び動作については同一の符号を用いて、その説明を省略する。また、本発明に係る第1、第2及び第3の実施の形態では6速のDCTを例にして説明するが、本発明のDCTは、例えば8速などでもよく、変速段の段数には限定しない。
【0025】
本発明に係る第1の実施の形態のデュアルクラッチトランスミッション(デュアルクラッチ式変速機、以下DCTという)1は、
図1に示すように、DCT1は、第1入力軸11、第2入力軸12、第1クラッチC1、第2クラッチC2、カウンターシャフト13、ギア段G1〜G6、ギア段GR、カップリングスリーブS1〜S3、カップリングスリーブSR、ECU(制御装置)20、クラッチ動作機構21、及び同期係合機構22を備え、
図8に示す従来のDCT1Xと同様の構成を用いている。そして、
図1に示すように、ギア段G2を発進段DG2、ギア段G1を補助段SG1とすること、クラッチ動作機構21が両クラッチC1及びC2を同時に動作させることができる構成にすること、及びワンウェイクラッチ(回転切断機構)30と第3クラッチ(入力結合機構)40とを追加することが、従来のDCT1Xと相違する構成である。
【0026】
このDCT1は、自動変速マニュアルトランスミッションであれば、上記の構成に限らず、両入力軸の配置や、入力軸とクラッチの搭載数、及びギア段の数などを限定しない。例えば、両入力軸を同軸上に配置せずに、平行に配置し、両入力軸の間にカウンターシャフトを配置する構成や、また、クラッチを3つ備えたトリプルクラッチトランスミッションにも適用することができる。
【0027】
上記の構成のギア段G2を発進段DG2とし、発進段DG2よりも一段低いギア比(歯車比)で、第1入力軸11と同期係合するギア段G1を補助段SG1とする。また、発進段DG2よりも一段高いギア比で、第1入力軸11と同期係合するギア段G3を加速段AG3とする。この発進段は、どのギア段に設定してもよい。例えば、ギア段G3を発進段とする場合は、補助段をギア段G2に設定し、加速段をギア段G4に設定する。
【0028】
ECU20は、電気回路によってトランスミッションを含むパワープラント全体の制御を担当している。またエンジンもコントロールしており、電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU20にあらゆる運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。
【0029】
このECU20は、第1クラッチC1を第1入力軸11に、また、第2クラッチC2を第2入力軸12に係合させる制御を、独立、且つ同時に行う。また、ECU20は、各ギア段G1〜GRをそれぞれ第1入力軸11又は第2入力軸12に各カップリングスリーブS1〜SRを介して同期係合させる制御も行う。この制御は、円滑な変速動作となるように、例えば、偶数段G2、G4、及びG6の使用中に奇数段G1、G3、及びG5の同期係合を行うことができる。
【0030】
クラッチ動作機構21は、各クラッチC1、C2及び40を動作させ、それぞれを第1入力軸11と第2入力軸12とに結合することができ、且つ同時に動作させることができればよく、例えば油圧ピストンや電磁アクチュエータなどで構成する。同期係合機構22は、各カップリングスリーブS1〜SRを揺動させるシフトフォークを含み、そのシフトフォークを動作させることができればよく、例えば油圧ピストンや電磁アクチュエータなどで構成する。クラッチ動作機構21と同期係合機構22は上記の構成に限らず、クラッチ動作機構21は各クラッチC1及びC2を、同期係合機構22はカップリングスリーブS3をそれぞれ動作することができればよい。
【0031】
ワンウェイクラッチ30は、第1入力軸と補助段SG1との間に設け、第1入力軸11の回転数が、補助段SG1のギア回転数よりも低い場合に、補助段SG1を空転させることができる。このワンウェイクラッチ30について、
図2を参照しながら説明する。
図2の(a)に示すように、ワンウェイクラッチ30は、外輪31、内輪32、間隙部33、ローラー34、及びバネ35を備える。また、間隙部33には、噛み合い部33aと空転部33bを設ける。
【0032】
図2の(a)に第1入力軸11の回転数が、補助段SG1のギア回転数よりも小さい場合を示し、
図2の(b)に第1入力軸11の回転数が、補助段SG1のギア回転数以上の場合を示す。
図2の(a)に示すように、第1入力軸11の回転数が小さい場合は、ローラー34と内輪32との摩擦力が、バネ35がローラー34を付勢する付勢力よりも大きくなるため、ローラー34は空転部33bに位置する。すると外輪31に第1入力軸11の回転が伝達されず、外輪31は回転しない。そのため、補助段SG1は空転する。
図2の(b)に示すように、第1入力軸11の回転数が大きい場合は、ローラー34はバネ35に付勢されて、噛み合い部33aに位置する。そのため、ローラー34を介して外輪31と内輪32とが一体に回転する。よって、補助段SG1も回転する。
【0033】
このワンウェイクラッチ30は、第1入力軸11の回転数が補助段SG1のギア回転数よりも小さいときに、補助段SG1を空転させることができれば、上記の構成に限定しない。例えば、内輪にカム面を設けてもよい。また、ローラー34に換えて、可動式の歯であるスプラグを設けてもよい。
【0034】
このワンウェイクラッチ30を、第1入力軸11と補助段SG1との間に介すと、エンジンブレーキが利かなくなる。発進段はどのギア段に設定してもよいが、好ましくは補助段をギア段のなかでもギア比が低い段に設定し、より好ましくは発進段をギア段G2(2速段)、及び補助段をギア段G1(1速段)に設定する。
【0035】
この構成によれば、補助段SG1は自身のギア回転数よりも第1入力軸11の回転数が
小さいときに、ワンウェイクラッチ30により空転する。これにより、両クラッチC1及びC2を用いて、車両を発進させても、2重噛み合いを抑制することができる。
【0036】
第3クラッチ40は、第1入力軸11と第2入力軸12との間に設け、第1入力軸11と第2入力軸12とを一体に回転させることができる。この第3クラッチ40について、
図3を参照しながら説明する。第3クラッチ40は、湿式多板クラッチであり、複数のアウターディスク41、複数のインナーディスク42、レリーズバネ43、ピストン44、コイルバネ45、油圧室46、シリンダ47、及びオイル管48を備える。また、第2入力軸12にスラストプレート12aも備える。
【0037】
この第3クラッチ40は、油圧を上げ、作動油を油圧室46へ送ると、ピストン44が動作し、アウターディスク41を押す。これにより、アウターディスク41とインナーディスク42とが圧着して、第3クラッチ40を結合することができる。一方、油圧を下げ、作動油を戻すと、コイルバネ45がピストン44を押し戻す。これにより、アウターディスク41とインナーディスク42とが、レリーズバネ43により分離して、第3クラッチ40を切り離すことができる。
【0038】
この第3クラッチ40は、第1入力軸11と第2入力軸12とを結合及び分離することができれば、上記の構成に限定しない。例えば、乾式クラッチ、電磁式クラッチ、及びパウダークラッチなどを用いることができる。しかし、第1入力軸11と第2入力軸12との間が狭く、充分なクラッチ容量をとることができないため、ディスクを複数枚使用する多板式のクラッチや、電磁式クラッチなどが好ましい。
【0039】
この構成によれば、ワンウェイクラッチ30を設けることにより、補助段SG1が空転し、トルクを出力軸3に伝えない。一方、第3クラッチ40により、第1入力軸11と第2入力軸12とが結合し、一体に回転することができる。これにより、両クラッチC1及びC2により、伝達されるトルクを全て発進段DG2に伝えることができる。
【0040】
次にDCT1の動作について、
図4を参照しながら説明する。
図4の(a)に示すように、車両の発進時には、ECU20が、発進段DG2を第2入力軸12に、補助段SG1を第1入力軸11に、それぞれ同期係合する。また、第3クラッチ40により、第1入力軸11と第2入力軸とを結合して、一体回転できる状態にする。なお、図中の左から右に向かう矢印が各クラッチの結合を示し、右から左に向かう矢印が各クラッチの切断を示す。その他の矢印は各入力軸と各ギア段の回転を示す。
【0041】
そして
図4の(b)に示すように、車両を発進するときに、第1クラッチC1を第1入力軸11に、及び第2クラッチC2を第2入力軸12に、結合していく。第1入力軸11の回転数は発進時には、補助段SG1のギア回転数より低いため、ワンウェイクラッチ30によって空転しトルクを伝達しない。
【0042】
次に、
図4の(c)に示すように、第2クラッチC2が完接し、伝達中のトルクを十分に伝えられる状態となったら、補助段SG1側の第1クラッチC1を切断すると共に、第3クラッチ40も切断する。また、補助段SG1の同期係合を解除して、加速段AG3の同期係合を行う。発進段DG2から、加速段AG3へ変速するときは、
図4の(d)に示すように、第2クラッチC2を切断し、第1クラッチC1を結合する。
【0043】
この動作によれば、発進時に両クラッチC1、C2を用いるため、発進段DG2側の第2クラッチC2の摩耗を抑制することができので、両クラッチC1及びC2の交換期間を長くすることができる。
【0044】
また、ワンウェイクラッチ30によって、補助段SG1を空転させて、補助段SG1へトルクを伝達しないため、両クラッチC1及びC2を用いることで発生する可能性がある2重噛み合いを抑制することができる。
【0045】
加えて、第3クラッチ40により、第1入力軸11と第2入力軸12とを結合して、一体に回転させることができる。これにより、伝達される全てのトルクを発進段DG2に伝達することができる。さらに、第2クラッチC2が完接し、伝達中のトルクを十分に伝えられる状態となったら、加速段AG3を同期係合することで、発進段DG2から変速して、加速するときに、各クラッチC1及びC2の切り換えだけでスムースに加速することができる。
【0046】
次に本発明の第2の実施の形態のデュアルクラッチ式変速機について、
図5を参照しながら説明する。前述した
図1と同じ構成に、
図5に示すように、第2クラッチ入力回転数センサ23と第2クラッチ出力回転数センサ24を追加する。
【0047】
第2クラッチ入力回転数センサ23は、第2クラッチC2の入力回転数Ninを検出することができるセンサであり、第2クラッチ出力回転数センサ24は、第2クラッチC2の出力回転数Noutを検出することができるセンサである。入力回転数Ninは、クランクシャフト2の回転数のことであり、既存のクランク角センサを用いることができる。また、出力回転数Noutは、第2クラッチC2を介すことで、入力回転数Ninより回転数が小さくなる第2入力軸12の回転数であり、既存の速度センサなどを用いることができる。この第2クラッチ出力回転数センサ24は、第2入力軸12に設ける以外に、発進段DG2のギア比を考慮すれば、出力軸3に設けることもできる。
【0048】
次に、DCT1の制御方法について、
図6を参照しながら説明する。まず、車両を停止するか否かを判断するステップS1を行う。車両が停止していると判断すると、発進段DG2と補助段SG1とをそれぞれ第2入力軸12又は第1入力軸11に同期係合するステップS2を行う。このステップS2ではECU20はシフト動作機構22を動作させて、カップリングスリーブS2とカップリングスリーブS1とを揺動して、発進段DG2と補助段SG1を同期係合する。
【0049】
次に、車両の発進操作が行われたか否かを判断するステップS3を行う。車両の発進操作が行われたと判断すると、次に第1クラッチC1を第1入力軸11に、及び第2クラッチC2を第2入力軸12にそれぞれ半クラッチ(半結合)するステップS4を行う。このステップS4により、車両を発進する瞬間に、クランク軸2からの動力を両クラッチC1及びC2で伝達して、出力軸3へと伝達することができる。
【0050】
次に、第1入力軸11の回転数は補助段SG1のギア比回転数よりも低いため、ワンウェイクラッチ30が
図2の(b)の状態に動作して、補助段SG1が空転するステップS5を行う。次に、
図5に示すように、第3クラッチを完接するステップS6を行う。これにより、第1入力軸11と第2入力軸12とが、結合して一体に回転する。
【0051】
次に、第2クラッチC2が第2入力軸12と完接しているか否かを判断するステップS7を行う。ステップS4で第2クラッチC2は、半クラッチのため、次の第1クラッチC1が第1入力軸11と完断しているか否かを判断するステップS
8を行う。ここでもステップS
4で第1クラッチC1は半クラッチになっているため、次のステップへと進む。
【0052】
次に、第2クラッチC2の入力回転数Ninと、出力回転数Noutとの回転数差ΔNを算出するステップS9を行う。次に、回転数差ΔNが予め定めた閾値である設定値Nlimよりも小さいか否かを判断するステップS10を行う。この回転数差ΔNの値が0に
なると第2クラッチ12を第2入力軸へと完接することができる。そこで、設定値Nlimを、好ましくは「設定値Nlim=回転数差ΔN>0」となるような値に、より好ましくは 〜 に設定する。このステップS10で回転数差ΔNが設定値Nlim以上の場合は、再度ステップS7に戻って、ステップS7からステップS10までを行う。
【0053】
次に、回転数差ΔNが設定値Nlimよりも小さいと判断されると第1クラッチC1を第1入力軸11から完断するステップS11を行う。ステップS11が完了すると次に、ステップS7に戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は半クラッチ、発進段DG2は同期係合、及び補助段SG1は同期係合の状態である。
【0054】
よって、ステップS7は否であり、ステップS8に進む。ステップS8で、第1クラッチC1が完断していると判断されると、次に、補助段SG1の同期係合が外れているか否かを判断するステップS12を行う。補助段SG1の同期係合は外れていないため、次の補助段SG1の同期係合を外すステップS13を行う。ステップS13が完了するとステップS7に戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は半クラッチ、発進段DG2は同期係合、補助段SG1は同期係合が解除の状態である。
【0055】
次に、ステップS7、ステップS8、そしてステップS12へと進み、補助段SG1の同期係合が外れていると判断されると、次に、加速段AG3を同期係合するステップS14を行う。ステップ14が完了すると第2クラッチC2を第2入力軸12に完接するステップS15を行う。ステップS15が完了するとステップS7へと戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は完接、発進段DG2は同期係合、補助段SG1は同期係合が解除、加速段AG2は同期係合の状態である。
【0056】
ステップS7で第2クラッチC2が完接していると判断されると、次に第3クラッチを完断するステップS16を行って、この制御方法は終了する。
【0057】
この方法によれば、上記と同じ作用効果を得ることができる。また、第2クラッチC2の完接のタイミングを第2クラッチC2の回転数差ΔNから判断して、制御するため、スムースな発進制御をおこなうことができる。上記の制御方法は、第2クラッチ入力回転数センサ23と第2クラッチ出力回転数センサ24を追加するだけで行うことができる。
【0058】
次に、本発明に係る第3の実施の形態のデュアルクラッチ式変速機について、
図7を参照しながら説明する。第
3の実施の形態のデュアルクラッチ式変速機1は、前述の
図1の第3クラッチ40を外した構成である。この構成の場合は、発進時に補助段SG1の同期係合を解除した状態、つまりニュートラルとすることで前述と同様に、2重噛み合いを抑制することができる。
【0059】
上記に記載のDCT1を搭載する車両は、両クラッチC1及びC2の摩耗を均等化して、両クラッチC1及びC2の交換期間を従来よりも長くすることができる。また、発進フィーリングが変化させずに上記の作用効果を得ることができるため、運転し易い車両を提供することができる。