特許第5861405号(P5861405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861405
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20160202BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20160202BHJP
   B41J 2/055 20060101ALI20160202BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B41J2/015 101
   B41J2/045
   B41J2/055
   B41J2/01 403
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-252567(P2011-252567)
(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公開番号】特開2013-107235(P2013-107235A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100077621
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100146075
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100092819
【弁理士】
【氏名又は名称】堀米 和春
(74)【代理人】
【識別番号】100141634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 善博
(74)【代理人】
【識別番号】100141461
【弁理士】
【氏名又は名称】傳田 正彦
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 昇太
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−031442(JP,A)
【文献】 特開2002−144560(JP,A)
【文献】 特開平09−052360(JP,A)
【文献】 特開2011−132536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容する圧力室及び該圧力室に連通し、インクを吐出させる開口部を有するノズルが設けられた記録ヘッドと、
前記圧力室の一部を構成する圧電素子と、
前記圧電素子に駆動信号を入力させて圧力室の容積を変化させる駆動信号発生部とを具備するインクジェットの記録装置において、
前記駆動信号発生部は、
前記圧力室を膨張させる第1膨張工程と、
該第1膨張工程の後、圧力室を収縮させてインクを吐出させる第1収縮工程と、
該第1収縮工程の後、吐出方向とは反対方向にメニスカスが引き込まれるタイミングで圧力室を収縮させる第2収縮工程と
前記第1膨張工程と前記第1収縮工程の間に、前記第1膨張工程によってメニスカスが吐出方向と反対方向に向かう力が加えられた後、最初にメニスカスが吐出方向へ移動するタイミングで前記第1収縮工程によるインクの吐出が開始できるように、前記第1膨張工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第1保持工程と、
前記第1収縮工程と前記第2収縮工程との間に、前記第1収縮工程によってインクが吐出された後、最初にメニスカスが吐出方向から反対方向へ引き込まれるタイミングで前記第2収縮工程による圧力室の収縮が開始できるように、第1収縮工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第2保持工程と、
前記第2収縮工程の後、前記圧力室を膨張させて前記第1膨張工程の始点と同じ電位に戻す第2膨張工程と、
前記第2収縮工程と前記第2膨張工程との間に、前記第2収縮工程によってメニスカスが吐出方向に向かう力が加えられた後、最初にメニスカスが吐出方向へ移動するタイミングで前記第2膨張工程による圧力室の膨張が開始できるように、前記第2収縮工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第3保持工程と、
が実行されるように駆動信号を発生してインク吐出後のノズルの前記圧電素子に印加し、
前記駆動信号発生部が出力する駆動信号は、前記第2収縮工程の終点の電位が、前記第1膨張工程の始点の電位に対して、前記第1膨張工程の終点の電位とは反対側の範囲に位置するように設定され、且つ第1膨張工程の始点の電位と、前記第2収縮工程の始点の電位とが略同一となるように設定され
前記第1膨張工程、前記第1保持工程、前記第1収縮工程、前記第2保持工程、前記第2収縮工程、前記第3保持工程及び前記第2膨張工程の各工程時間は同一時間であり、且つ各前記工程時間は、ヘルムホルツ振動周期Tcに対し、Tc/4であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2収縮工程は、メニスカスの吐出方向と反対方向へ引き込まれる移動速度が最大の時点で開始されることを特徴とする請求項記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1収縮工程は、メニスカスの吐出方向への移動速度が最大の時点で開始されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第2膨張工程は、メニスカスの吐出方向への移動速度が最大の時点で開始されることを特徴とする請求項1〜請求項3記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1膨張工程を実行させる駆動信号の始点と終点の電位差は、前記第2膨張工程を実行させる駆動信号の始点と終点の電位差よりも大であることを特徴とする請求項1〜請求項4記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出させる際に、ノズルと連通する圧力室の一部を変形させてインクを吐出させる記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドからインクをメディアに吐出させるインクジェット記録装置においては、記録ヘッドに、微少な開口部が複数形成されたノズルと、ノズルと連通する圧力室とを設けている。
圧力室は一部の壁面が圧電素子で形成されており、圧電素子への印加電圧によって圧力室内の容積を変化させることができるように、圧電素子は振動する。
【0003】
一般的な、圧電素子への印加電圧の例を図5に示す。
これによると、まず圧電素子への印加電圧を、圧力室内は収縮状態となる電圧VHから、圧力室内が膨張状態となる電圧VLに下げる。続いて、この電圧VLを維持してインクの吐出タイミングを計る。
そして、圧電素子への印加電圧を、VHまで上昇させて圧力室内を収縮状態とするように駆動する。このとき、圧力室内は収縮するので、インクがノズルより吐出される。
【0004】
また、特許文献1に開示されているインクジェット記録装置では、まず圧力室を収縮させて記録ヘッドのノズル開口部のインクのメニスカスの中央領域をメディア方向に盛り上げ、インクを吐出させ始める。吐出され始めたインクの後端部のノズル開口部の速度が0になるまでに、圧力室を膨張させて収縮工程によって中央領域が盛り上げられたメニスカスの外縁部を引き込ませる膨張工程を実施している。
このような方法によれば、吐出されかけたインク滴のみが吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3275965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、インク吐出後、インク自身が圧電素子の振動方向と同一方向に振動してしまう、いわゆる残留振動という問題が従来より知られている。
本発明者が、比較的粘度の低いインクで残留振動を抑えるべく検討し、このようなインクを用いて特許文献1に示すような駆動方法を実行すると、残留振動を効果的に抑えることができず、インクの連続吐出が安定しない、またノズルの開口部からインクが滲んでしまうという問題があった。
特に、粘度が低いインクの場合に、残留振動を効果的に抑えられず、インクの滲み発生してしまう現象が発生しやすい。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、どのようなインクであっても、インクの残留振動を防止することで、開口部のインクの滲みを防ぎ、またインクを安定して連続吐出させることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるインクジェット記録装置によれば、インクを収容する圧力室及び該圧力室に連通し、インクを吐出させる開口部を有するノズルが設けられた記録ヘッドと、前記圧力室の一部を構成する圧電素子と、前記圧電素子に駆動信号を入力させて圧力室の容積を変化させる駆動信号発生部とを具備するインクジェットの記録装置において、前記駆動信号発生部は、前記圧力室を膨張させる第1膨張工程と、該第1膨張工程の後、圧力室を収縮させてインクを吐出させる第1収縮工程と、該第1収縮工程の後、吐出方向とは反対方向にメニスカスが引き込まれるタイミングで圧力室を収縮させる第2収縮工程と、前記第1膨張工程と前記第1収縮工程の間に、前記第1膨張工程によってメニスカスが吐出方向と反対方向に向かう力が加えられた後、最初にメニスカスが吐出方向へ移動するタイミングで前記第1収縮工程によるインクの吐出が開始できるように、前記第1膨張工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第1保持工程と、前記第1収縮工程と前記第2収縮工程との間に、前記第1収縮工程によってインクが吐出された後、最初にメニスカスが吐出方向から反対方向へ引き込まれるタイミングで前記第2収縮工程による圧力室の収縮が開始できるように、第1収縮工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第2保持工程と、前記第2収縮工程の後、前記圧力室を膨張させて前記第1膨張工程の始点と同じ電位に戻す第2膨張工程と、前記第2収縮工程と前記第2膨張工程との間に、前記第2収縮工程によってメニスカスが吐出方向に向かう力が加えられた後、最初にメニスカスが吐出方向へ移動するタイミングで前記第2膨張工程による圧力室の膨張が開始できるように、前記第2収縮工程終了後の圧力室の容積をそのまま保持する第3保持工程と、が実行されるように駆動信号を発生してインク吐出後のノズルの前記圧電素子に印加し、前記駆動信号発生部が出力する駆動信号は、前記第2収縮工程の終点の電位が、前記第1膨張工程の始点の電位に対して、前記第1膨張工程の終点の電位とは反対側の範囲に位置するように設定され、且つ第1膨張工程の始点の電位と、前記第2収縮工程の始点の電位とが略同一となるように設定され、前記第1膨張工程、前記第1保持工程、前記第1収縮工程、前記第2保持工程、前記第2収縮工程、前記第3保持工程及び前記第2膨張工程の各工程時間は同一時間であり、且つ各前記工程時間は、ヘルムホルツ振動周期Tcに対し、Tc/4であることを特徴としている。
上記構成を採用する本願発明によれば、低粘度のインクであってもインクの残留振動を防止することができる。したがって、ノズル開口部のインクの滲みを防ぎ、また高速吐出(インク吐出周波数が高周波領域)の場合においてもインクを安定して連続吐出できる。
具体的には、まず第1膨張工程によって圧力室内を膨張させ、吐出方向とは反対方向にメニスカスを引き込み、第1収縮工程では圧力室を収縮させてインクを吐出させる。インク吐出後、メニスカスは、吐出方向と反対方向に向かうような動きとなる。このときに、さらに、第2収縮工程の終点の電位が、第1膨張工程の始点の電位に対して、第1膨張工程の終点の電位とは反対側の範囲に位置する第2収縮工程によってメニスカスを吐出方向に向かうように圧力室を収縮させることで、残留振動を抑えることができる。しかも、第1膨張工程の始点の電位と第2収縮工程の始点の電位とが略同一となるように設定されている。このため、第1膨張工程と第2膨張工程の始点の電位が異なっている場合よりも、インクの吐出及びその後のメニスカスの残留振動を短時間で抑制するための駆動信号等の最適化作業を行う上で、設定するパラメータを減少させることができ、最適化作業を効率良く行うことができる。
また、第1膨張工程によってメニスカスが吐出方向と反対方向に引き込まれた後、最初にメニスカスが吐出方向に移動するタイミングでインク滴の吐出工程である第1収縮工程を実行できるので、インク滴の吐出を確実に行うことができる。すなわち、このように第1保持工程を設けることにより、一旦第1膨張工程によって、吐出方向とは反対方向にメニスカスを吐出方向と反対方向に引き込んでおき、第1保持工程ではメニスカスの吐出方向とは反対方向への移動が停止して反転するまで待機し、その後メニスカスが吐出方向に移動するところで第1収縮工程を実行することができ、インクの吐出をスムーズに安定して行うことができる。
例えば、圧力室を膨張させることによってメニスカスの残留振動を抑える構成を採用する場合には、第1収縮工程によってインクが吐出された後に吐出方向と反対方向に引き込まれたメニスカスが、その後さらに吐出方向へ向かうタイミングで圧力室を膨張させる必要がある。しかし、本構成を採用することにより、第1収縮工程によってインクが吐出された後、最初にメニスカスが吐出方向から反対方向へ引き込まれるタイミングで第2収縮工程による圧力室の収縮を行い、残留振動の抑制ができるので、圧力室を膨張させることによってメニスカスの残留振動を抑える構成と比較して、残留振動の抑制の時間短縮を図ることができる。
第2収縮工程で残留振動の抑制を行った後、メニスカスが吐出方向に移動するタイミングで、吐出方向と反対方向への力を加える第2膨張工程を開始させるようにできるので、さらに残留振動の抑制を図ることができる。
また、次の吐出動作を前の吐出動作と同じ条件とするには、次の吐出動作の第1膨張工程の始点の圧力室の容積を、前の吐出動作の第1膨張工程の始点の容積と一致させる必要がある。この構成によれば、第2膨張工程を実行した後に、圧力室の容積を第1膨張工程の始点の容積に戻すので、次の吐出工程における第1膨張工程をスムーズに開始させることができる。
さらに、メニスカスの振動に対して好ましいタイミングで各工程を実行することができ、残留振動の抑制を効果的に行え、インクの種類によって最適な工程時間とすることができる。
【0012】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記第2収縮工程は、メニスカスの吐出方向と反対方向へ引き込まれる移動速度が最大の時点で開始されることが好ましい。
これによれば、第2収縮工程による残留振動の抑制を、最も効率の良いタイミングで行うことができる。
【0014】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記第1収縮工程は、メニスカスの吐出方向への移動速度が最大の時点で開始されることが好ましい。
これによれば、第1収縮工程によるインク滴の吐出を、最も効率の良いタイミングで行うことができる。
【0015】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記第2膨張工程は、メニスカスの吐出方向への移動速度が最大の時点で開始されることが好ましい。
これによれば、第2膨張工程による残留振動の抑制を、最も効率の良いタイミングで行うことができる。
【0018】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記第1膨張工程を実行させる駆動信号の始点と終点の電位差は、前記第2膨張工程を実行させる駆動信号の始点と終点の電位差よりも大であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインクジェット記録装置によれば、比較的粘度の低いインクであっても残留振動を防止することで、開口部のインクの滲みを防ぎ、またインクを安定して連続吐出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明にかかるインクジェット記録装置の概略図である。
図2】本実施形態の圧電素子への印加電圧の波形及びメニスカスの振動波形を合わせて示す説明図である。
図3】残留振動を抑制しなかった場合のインク吐出速度の周波数特性を示すグラフである。
図4】残留振動を抑制した場合のインク吐出速度の周波数特性を示すグラフである。
図5】従来の圧電素子での印加電圧の波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1に、インクジェット記録装置の概略図を示す。
インクジェット記録装置30は、メディア31にインクジェットにより印刷を施す装置であって、インクをメディア31に吐出する記録ヘッド32と、記録ヘッド32に供給するインクを貯留しているインクタンク(図示せず)とを備えている。
記録ヘッド32は、インクを吐出する開口部36が形成されたノズル38と、インクを収容している圧力室40とを備えている。また、圧力室40を構成する壁面の一部が圧電素子42で形成されている。圧電素子42は、所定の電圧を印加することで変形するが、この圧電素子42の変形により圧力室40内の容積が変化し、圧力室40内に収容されているインクをノズル38から吐出させることができる。
【0022】
圧電素子42の動作制御は、駆動信号発生部44から発生させるパルス電圧によって行われる。
駆動信号発生部44は、予め設定したタイミングでパルス電圧を出力可能な構成であればどのようなものであってもよい。駆動信号発生部44としては、例えばROM及びRAMを内蔵したマイクロプロセッサを使用することができる。ROM内には、予め所定のタイミングで所定のパルス電圧を発生させるような制御プログラムを記憶させておく。
【0023】
図2には、本実施形態における駆動信号と、メニスカスの位置状態を概念的に表した波形とを示す。メニスカスの位置については、下方が吐出方向、上方が吐出方向とは反対方向に引き込まれる方向を示している。また、駆動信号については、横軸に時間(t)を縦軸に駆動信号の電圧値(V)をとっている。
駆動信号発生部44は、まず電圧値VMから、圧力室40内が膨張する(容積が大きくなる方向)ように圧電素子42へ印加する電圧値をVLへ下げる。ここで、電圧値をVMからVLまで下げる時間は、T1である。すなわち、時間T1の間に圧力室40の容積は所定量だけ膨張することとなる。これが、特許請求の範囲でいう第1膨張工程に該当する。
第1膨張工程の終点では、メニスカスが最も吐出方向と反対方向に引き込まれた位置となる。
【0024】
次に、駆動信号発生部44は、圧電素子42への印加電圧を電圧値VLのまま保持する。このため、圧力室40は膨張したまま保持され、次の吐出タイミングを計るようにしている。この電圧がVLのまま保持される保持時間は、T2である。これが特許請求の範囲でいう第1保持工程に該当する。この第1保持工程では、第1膨張工程により、一旦吐出方向と反対方向に引き込まれたメニスカスが、吐出方向に反転し、吐出方向に向けて最大速度になるまで待機している。
すなわち、この第1保持工程では、次の第1収縮工程においてメニスカスが吐出方向に向けて最大速度の時に吐出が開始できるようにタイミングを計るようにしている。
【0025】
電圧VLが所定時間保持されたのち、駆動信号発生部44は、圧電素子42への印加電圧をVLからVMへ上昇させる。すると、この印加電圧の上昇によって圧電素子42は圧力室40内を収縮させる方向に動作する。
すると、圧力室40の収縮により圧力室40内のインクがノズル38から吐出される。ここで、電圧値をVLからVMまで上げる時間は、T3である。すなわち、時間T3の間に圧力室40の容積は所定量だけ収縮することとなる。これが特許請求の範囲でいう第1収縮工程に該当する。
なお、本実施形態では、反転したメニスカスが吐出方向へ向かう最大速度の時に第1収縮工程を開始し、吐出方向へ最も突出した位置において第1収縮工程を終了している。
【0026】
次に、駆動信号発生部44は、圧電素子42への印加電圧を電圧VMのまま保持する。したがって、圧力室40内の容積は、収縮したままの状態である。これが、特許請求の範囲でいう第2保持工程である。
先の第1収縮工程において圧力室40の収縮によってインクが吐出され、メニスカスが吐出方向に最も移動した位置が第2保持工程の始点である。メニスカスは、その後吐出方向とは反対方向に反転し、吐出方向とは反対方向へ向かう。メニスカスが吐出方向とは反対方向へ向かう最大速度のときが第2保持工程の終点である。すなわち、この第2保持工程では、次の第2収縮工程においてメニスカスが吐出方向とは反対方向に向けて最大速度の時に、吐出方向に押圧が開始できるようにタイミングを計るようにしている。
なお、電圧VMをそのまま保持する第2保持工程の時間は、T4である。
【0027】
駆動信号発生部44は、第2保持工程の後、圧力室40をさらに収縮させるように、圧電素子42への印加電圧を、初期状態の印加電圧VMよりも上昇させた電圧VHとなるように、駆動信号を出力する。これが第2収縮工程である。
ただし、この第2収縮工程で圧電素子42に印加される電圧VHは、圧力室40が収縮してもインクが吐出されない程度の収縮となるような値である。
第2収縮工程の始点は、メニスカスが吐出方向とは反対方向へ向かう最大速度のときである。すなわち、第2収縮工程によって、メニスカスが吐出方向と反対方向に向かう最大速度の際に、メニスカスが吐出方向に押圧されるように作用する。第2収縮工程の終点は、メニスカスが吐出方向と反対方向に最も引き込まれた位置である。
この第2収縮工程により、吐出方向と反対方向に向かうメニスカスが最大速度のときに、吐出方向に向かう力を加えることとなるので、メニスカスの残留振動を抑えることができる。第2収縮工程の始点における印加電圧はVMであり、第1膨張工程の始点における印加電圧VMと同一の値である。
なお、印加電圧をVMからVHへ上げる第2収縮工程の時間は、T5である。
【0028】
ここで、駆動信号発生部44の発生する駆動信号について、第2収縮工程の終点の電位VHが第1膨張工程の始点VMの電位に対して、第1膨張工程の終点の電位VLと反対側の範囲に位置するように設定されるというのは、第1膨張工程の始点の電位VMを基準として第1膨張工程の終点の電位が高ければ、第2収縮工程の終点の電位が低いこと、又はその逆ということである。
本実施形態では、圧力室を膨張させる場合には印加電圧が高電位から低電位となるように設定され、収縮させる場合には印加電圧が低電位から高電位となるように設定されている。このため、第1膨張工程の始点の電位VMに対して、第1膨張工程の終点の電位VLは低圧側であり、第2収縮工程の終点の電位VHは高圧側である。ただし、本実施形態とは反対に、圧力室を膨張させる場合に印加電圧を低電位から高電位となるように設定され、収縮させる場合に印加電圧を高電位から低電位となるように設定してもよい。
【0029】
次に、駆動信号発生部44は、圧電素子42への印加電圧を電圧VHのまま保持する。したがって、圧力室40内の容積は、印加電圧VHの状態で収縮したままの状態である。これが、これが特許請求の範囲でいう第3保持工程である。
先の第2収縮工程において圧力室40の収縮によって、吐出方向と反対方向に移動するメニスカスが吐出方向に最も移動した位置が、この第3保持工程の始点である。メニスカスは、その後吐出方向に反転し、吐出方向へ向かう。メニスカスが吐出方向へ向かう最大速度のときが第3保持工程の終点である。すなわち、この第3保持工程では、次の第2膨張工程においてメニスカスが吐出方向に向けて最大速度の時に、吐出方向と反対方向へ引き込むことが開始できるようにタイミングを計るようにしている。
なお、電圧VHをそのまま保持する第3保持工程の時間は、T6である。
【0030】
次に、駆動信号発生部44は、圧電素子42への印加電圧を電圧VHから初期状態の電圧VMに下がるように駆動信号を出力する。
これにより圧力室40は、ここで、電圧値をVHからVMまで下げる時間は、T7である。すなわち、時間T6の間に圧力室40の容積は所定量だけ膨張することとなる。これが、特許請求の範囲でいう第2膨張工程に該当する。
第2膨張工程の始点は、メニスカスが吐出方向へ向かう最大速度のときである。すなわち、第2膨張工程によって、メニスカスが吐出方向へ向かう最大速度の際に、メニスカスが吐出方向に押圧されるように作用する。第2収縮工程の終点は、メニスカスが吐出方向に最も突出した位置である。
これにより、メニスカスが吐出方向に向けて最大速度の時に、吐出方向と反対方向へ引き込むことができ、先のインク吐出後の残留振動がほぼ無くなり、次の吐出工程に進むことができる。
【0031】
第2膨張工程の終了後は、駆動信号発生部44による圧電素子42への印加電圧はVMのまま維持され、次のインク吐出における膨張工程に移行する。
この圧電素子42への印加電圧がVMのまま維持される時間は、本発明のように残留振動を抑えることによって短縮化させることができる。すなわち、従来であれば、残留振動が残っている状態で次のインク吐出を行おうとしても安定した吐出ができないので、残留振動が収まるまで次のインク吐出を保留する必要があったが、本発明の構成であれば、次のインク吐出までの時間を短縮化できるため、インク吐出のタイミング速度を上げ、高速印刷に資することができる。
【0032】
なお、上述した各工程時間については、次のような式を成立させることが好ましい。
Tc/4<T1+T2<Tc・・・(1)
Tc/4<T3+T4<Tc・・・(2)
Tc/4<T5+T6<Tc・・・(3)
ここでTcとは、ヘルムホルツ振動周期であって、インクの種類及び圧力室の構造によって異なり、そのインク及び圧力室40を含めた振動系全体の固有の振動周期である。
【0033】
上記の(1)式は、インクを吐出させるタイミングを規定するものであり、第1膨張工程と第1保持工程とを経て、メニスカスが吐出方向と反対方向に引き込まれてから、吐出方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに吐出を開始させることが好ましいことを意味する。
上記の(2)式は、吐出後のメニスカスの振動を抑えるための第2収縮工程の開始タイミングを規定するものであり、第1収縮工程と第2保持工程を経てメニスカスが吐出方向に突出してから、吐出方向と反対方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに、第2収縮工程を開始してメニスカスの吐出方向と反対方向への移動を押さえ込むことが好ましいことを意味する。
上記の(3)式は、さらにメニスカスの振動を抑えるための第2膨張工程の開始タイミングを規定するものであり、第2収縮工程と第3保持工程を経てメニスカスが吐出方向と反対方向に引き込まれてから、吐出方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに、第2膨張工程を開始してメニスカスの吐出方向への移動を押さえ込むことが好ましいことを意味する。
【0034】
さらに、本実施形態では、上述した各工程時間T1からT7までは、全て同じ時間であって、且つ各工程時間は、ヘルムホルツ振動周期Tcに対し、Tc/4である。
各工程時間はTc/4であるので、1回のインク吐出工程(第1膨張工程T1+第1保持工程T2+第1圧縮工程T3+第2保持工程T4)は、Tcとなる。また、残留振動を抑えるための工程(第2圧縮行程T5+第3保持工程T6)はTc/2となる。
このように、1回のインク吐出をヘルムホルツ振動周期と一致させ、また次のインク吐出までの間に残留振動を抑えるための工程をヘルムホルツ振動周期の半周期とすることにより、残留振動の抑制がより効果的に行うことができるようになった。
【0035】
なお、初期状態の印加電圧VMと圧力室40の圧縮時の印加電圧VLとの差をV1とし、残留振動抑制時の印加電圧VHと=初期状態の印加電圧VMとの差をV2とすると、V1とV2の値はインクの粘度によって適宜決定される。
すなわち、インク粘度が高い場合には、圧力室40の膨張及び収縮を大きくしなければ十分な吐出ができないため、インク吐出の際の印加電圧V1の値を大きくする必要がある。一方で、インク粘度が高い場合には、残留振動はあまり大きくならないので、残留振動抑制時の印加電圧V2の値は小さい値でよい。
インク粘度が低い場合には、圧力室40の膨張及び収縮を大きくしなくても十分な吐出が行える。一方で、インク粘度が低い場合には、残留振動が大きくなるので、残留振動を抑制する際の印加電圧V2は大きい値とする必要がある。
【0036】
続いて、図3にはインク吐出の後に残留振動を抑制するための電圧を印加しない場合の、インク吐出の周波数特性を示す。この図では、横軸にインク吐出周波数(吐出周期)を表し、縦軸にはインク吐出速度を表している。
図3を見ると、周波数が約ckHzまでは、吐出速度はほぼ一定で安定しているが、周波数がckHzを超えると、吐出速度が次第に速くなったり遅くなったりしており、その振れ幅は徐々に大きくなっている。これは、残留振動を抑えないとインク吐出タイミングが高速化した場合に、安定した速度でのインク吐出ができないということを示している。ちなみに、図3に示すグラフでは、最大44%の速度差が生じている。図3では、ckHzまでは、残留振動の影響が無いが、ckHzを超えると周期的な変化をしているため残留振動の周期がわかる。
【0037】
図4には、本実施形態のように、インク吐出の工程の後に、残留振動を抑制する工程を実行した場合の、インク吐出の周波数特性を示す。この図4も、図3と同様に、横軸にインク吐出周波数(吐出周期)を表し、縦軸にはインク吐出速度を表している。
図4に示すように、上述してきた実施形態のように残留振動の抑制を実行する工程を実行することで、インク吐出周波数が大きく(すなわち、インク吐出の周期が短く)なった場合でも、インク吐出速度はほぼ一定となっている。
すなわち、本実施形態の構成を採用することにより、残留振動を抑制することができるので、インク吐出のタイミングを高速化することができ、印刷を高速化することができる。ちなみに図4のグラフにおいては、最大10%の速度差が生じているが、図3の場合と比較して吐出速度は非常に安定していると言える。
【0038】
なお、上述してきた実施形態における記録ヘッド32は、圧力室を膨張させる膨張工程は、駆動信号の電圧を降下させることによって実行し、圧力室を収縮させる収縮工程は、駆動信号の電圧を上げることにより実行するものであった。
しかし、本発明としては、駆動信号の電圧変動が上述した場合と逆のものであってもよい。すなわち、圧力室を膨張させる膨張工程は、駆動信号の電圧を上げることによって実行し、圧力室を収縮させる収縮工程は、駆動信号の電圧を降下させることにより実行するものであってもよい。
【0039】
なお、駆動信号発生部44は、第2収縮工程の後、圧力室40を膨張させて膨張工程の始点と同じ容積に戻す第2膨張工程が実行されるように駆動信号を発生することによって、先の第2収縮工程によって吐出方向に移動したメニスカスが、吐出方向と反対方向にメニスカスが向かうように圧力室40を膨張させるので、確実に残留振動を抑えることができる。
【0040】
また、駆動信号発生部44は、第1膨張工程の後であって、第1収縮工程の前に、一定時間圧力室40の容積を第1膨張工程終了時のまま保持する第1保持工程が実行されるように駆動信号を発生することより、一旦吐出方向とは反対方向にメニスカスを引き込み、一旦吐出方向と反対方向に引き込まれたメニスカスが、吐出方向に反転し、吐出方向に向けて最大速度になるまで待機している。この第1保持工程では、次の第1収縮工程においてメニスカスが吐出方向に向けて最大速度の時に第1収縮工程によるインク吐出が開始できるようにタイミングを計るようにしているので、インクの吐出をスムーズに安定して行うことができる。
【0041】
また、第1収縮工程の後であって、第2収縮工程の前に、一定時間圧力室40の容積を収縮工程終了時のまま保持する第2保持工程が実行されるように駆動信号を発生することによって、メニスカスが吐出方向に最も移動した位置から、その後吐出方向とは反対方向に反転して吐出方向とは反対方向へ向かい、次の第2収縮工程においてメニスカスが吐出方向とは反対方向に向けて最大速度の時に、吐出方向に押圧が開始できるようにタイミングを計るようにしている。このため、残留振動をより有効に抑えることができる。
【0042】
また、第2収縮工程の後であって、第2膨張工程の前に、一定時間圧力室40の容積を第2収縮工程終了時のまま保持する第3保持工程が実行されるように駆動信号を発生することによって、吐出方向と反対方向に移動してきたメニスカスが、吐出方向に反転し、吐出方向に向けて最大速度になるまで待機している。この第3保持工程では、次の第3膨張工程においてメニスカスが吐出方向に向けて最大速度の時にメニスカスを引き込む方向に膨張させるようにタイミングを計るようにしている。このため、残留振動をより有効に抑えることができる。
【0043】
また、Tc/4<T1+T2<Tcを満たすようにすることで、インクを吐出させるタイミングを、吐出方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに吐出を開始させることを規定することができる。
Tc/4<T3+T4<Tcを満たすようにすることで、吐出後のメニスカスの振動を抑えるための第2収縮工程の開始タイミングを、吐出方向と反対方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに開始させることを規定することができる。
Tc/4<T5+T6<Tcを満たすようにすることで、メニスカスの振動を抑えるための第2膨張工程の開始タイミングを、吐出方向に最大速度(メニスカスの位置がフラットとなっている)時までに開始させることを規定することができる。
【0044】
また、第1膨張工程、第1保持工程、第1収縮工程、第2保持工程、第2収縮工程、第3保持工程及び第2膨張工程の各工程時間は同一時間であって、この各工程時間は、ヘルムホルツ振動周期Tcに対し、Tc/4であることとすることで、インクの種類によって最適な工程時間とすることができ、残留振動の抑制がより効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
30 インクジェット記録装置
31 メディア
32 記録ヘッド
36 開口部
38 ノズル
40 圧力室
42 圧電素子
44 駆動信号発生部
図1
図2
図3
図4
図5