特許第5861440号(P5861440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5861440PtおよびAl拡散Ni基基材ならびにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861440
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】PtおよびAl拡散Ni基基材ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 30/00 20060101AFI20160202BHJP
   C23C 10/28 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   C23C30/00 B
   C23C10/28
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-276989(P2011-276989)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-127096(P2013-127096A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立野 晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】津田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】岩田 洋昭
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 廣喜
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−124688(JP,A)
【文献】 特開平09−291379(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/118663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−30/00
C25D 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基基材の表面にPt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程と、
前記Pt被膜に含まれるPtが前記Ni基基材の少なくとも表面に拡散する処理条件において前記Pt被膜付き基材を熱処理して、Pt拡散基材を得る工程と、
有機溶媒中にて電解アルミニウムめっき処理を施すことで、前記Pt拡散基材の表面に厚さが10〜40μmのAl被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程と、
前記Al被膜に含まれるAlが前記Pt拡散基材の少なくとも表面部に拡散する処理条件において前記Al被膜付き基材を熱処理して、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材を得る工程と
を備える、最表面から15〜50μmまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であり、さらにその部分におけるAlの平均濃度が15〜35質量%であり、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材が得られる、Pt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記Pt被膜は、PdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
【請求項3】
前記Ni基基材の表面に、厚さが3〜15μmの前記Pt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程である、請求項1または2に記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
【請求項4】
さらに、表面に熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を形成する工程を備える、請求項1〜のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
【請求項5】
最表面から15〜50μmまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であり、さらにその部分におけるAlの平均濃度が15〜35質量%である、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材。
【請求項6】
さらに、前記拡散層は、PdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項に記載のPt・Al拡散Ni基基材。
【請求項7】
さらに、熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を有する、請求項5または6に記載のPt・Al拡散Ni基基材。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材からなるタービン翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PtおよびAl拡散Ni基基材ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タービン翼や燃焼器等の材料として、耐熱酸化コーティング(場合によってはさらに熱遮蔽コーティング)が施されたNi基基材が用いられる。
このようなNi基基材に関して、従来、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、白金アルミ化物の拡散コーティング中の珪素とハフニウムの含有濃度が特定範囲内である、ニッケルまたはコバルト系超合金下地上に施したことを特徴とする白金アルミ化物の拡散コーティングが記載されている。そして、このようなコーティングによって、白金アルミ化物の高温度における耐酸化性能が向上し得ると記載されている。
【0004】
特許文献2には、下地を水酸化物溶液ベースの苛性電鍍水溶液からの白金層で電気めっきし、この下地をアルミニウム被膜処理して該層上に白金改質によるアルミ化物拡散コーティングを形成させる構成の、下地上の白金改質によるアルミ化物拡散コーティングの耐酸化性改善方法が記載されている。また、アルミニウム被膜処理としてはパックセメテーション処理およびCVDのみが記載されている。そして、このような方法によって、コーティングの耐酸化性が高められると記載されている。
【0005】
特許文献3には、超合金基材をコーティング用チャンバーの中に装入し、該超合金基材の上に、外方に向けて成長するアルミナイド拡散コーティングを形成する方法であって、基材を特定の温度に加熱し、アルミニウムトリクロライドとキャリヤガスを含むコーティングガスを特定の流量でチャンバーの中に流し、チャンバー内のアルミニウムトリクロライドを特定の濃度とし、特定条件でコーティングを行なう、コーティングの形成方法が記載されている。そして、このような方法によれば、耐酸化性等のコーティング特性を良好にできると記載されている。
【0006】
特許文献4には、Ni基材の表面にPt層、酸化物層、セラミック層を形成した後、加熱すると、Ni基材の表面に、Pt拡散層、Al層、セラミック層が形成される旨が記載されている。そして、安定した熱障壁層を超合金に形成できると記載されている。
【0007】
特許文献5には、基材の表面にPt層、MCrAlY層などを形成した後、1100℃で1時間保持することが記載されている。そして、熱バリヤーコーティングと超合金の接着が改良されると記載されている。
【0008】
このように耐酸化コーティング層の形成技術では、Ni基部材にPt層を形成した後、表層におけるアルミニウムを富化(含有量を増加)させることによって、耐酸化性を高めたPtおよびAl拡散Ni基材を形成させている。
部材の表層におけるアルミニウムを富化させる具体的な方法としては、部材の表層にアルミニウムを拡散させる方法、アルミニウムを多く含んだ合金を溶射する方法、スパッタリングを用いてアルミニウムを多く含んだ合金の被膜を形成する方法、または、溶融塩あるいは溶融アルミニウムを用いためっき処理等が用いられている。
【0009】
部材の表層にアルミニウムを拡散させる方法によれば(パックセメンテーション法、CVD法等)、アルミニウムハロゲン化物の気相反応によって部材の表層にアルミニウムを拡散させて、アルミニウムが富化された耐酸化層が形成される。
アルミニウムを多く含んだ合金を溶射する方法によれば、アルミニウムを多く含んだ合金を部材の表面に対して溶射して上記アルミニウムを多く含んだ合金を部材の表面に付着させることによって、アルミニウムが富化された耐酸化層が形成される。
スパッタリングを用いてアルミニウムを多く含んだ合金の被膜を形成する方法によれば、アルミニウムを多く含んだ合金からなるターゲットを用いてアルミニウムを多く含んだ合金を部材の表面に物理蒸着させることによって、アルミニウムが富化された耐酸化層が形成される。
溶融塩あるいは溶融アルミニウムを用いためっき処理によれば、溶融したアルミニウムに部材を浸漬して、アルミニウムが富化された耐酸化層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−68062号公報
【特許文献2】特開平10−81979号公報
【特許文献3】特開2005−120474号公報
【特許文献4】米国特許第5667663号明細書
【特許文献5】米国特許第5981091号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜5に記載のNi基基材はその表面にPtおよびAlを拡散させることで耐酸化性を高めたものであるが、その耐酸化性には、改善に余地があった。
【0012】
また、アルミニウムを拡散させる方法においては、気相の塩化物やフッ化物の取り扱いが難しい。また、高温の気相反応を制御するために大量の副資材を必要(パックセメンテーション法)とする場合や、大規模な装置を必要(CVD法)とする場合がある。また、アルミニウムを拡散させる方法においては、一般的にバッチ式が用いられるため、工程を連続的に行うことが難しい。
【0013】
アルミニウムを多く含んだ合金を溶射する方法においては、予めアルミニウムを多く含んだ合金の粉末を準備する必要があるため、プロセスが煩雑化する。また、部材が複雑な形状を有する場合には、部材の姿勢を複雑に制御する必要があるためにプロセスが煩雑化する可能性や、部材の表面に上記合金を溶射できない部分が生じる可能性がある。さらに、耐酸化層が厚くなりやすく、部材に求められる機械的特性に悪影響を与える可能性がある。
【0014】
スパッタリングを用いてアルミニウムを多く含んだ合金の被膜を形成する方法においては、被膜の形成速度が遅い。また、部材が複雑な形状を有する場合には、部材の姿勢を複雑に制御する必要があるためにプロセスが煩雑化する可能性や、部材の表面に上記合金の被膜を形成できない部分が生じる可能性がある。
【0015】
溶融塩あるいは溶融アルミニウムを用いためっき処理においては、600℃以上の高温槽を必要とし、設備が大規模になる。特に、溶融塩を用いる場合には、耐腐食処理を施した高温槽が必要となり、設備コストが増大する。また、上記めっき処理においては、めっき厚さの制御が難しい。
【0016】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、従来とは異なる新たな耐酸化コーティング層を備えたPtおよびAl拡散Ni基基材ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記の課題を解決することを目的に鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(11)である。
(1)Ni基基材の表面にPt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程と、
前記Pt被膜に含まれるPtが前記Ni基基材の少なくとも表面に拡散する処理条件において前記Pt被膜付き基材を熱処理して、Pt拡散基材を得る工程と、
前記Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程と、
前記Al被膜に含まれるAlが前記Pt拡散基材の少なくとも表面部に拡散する処理条件において前記Al被膜付き基材を熱処理して、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材を得る工程と
を備える、Pt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(2)前記Pt被膜は、Ptの他に、さらにPdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、上記(1)に記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(3)前記Ni基基材の表面に、厚さが3〜15μmの前記Pt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程である、上記(1)または(2)に記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(4)前記Pt拡散基材の表面に、厚さが10〜40μmの前記Al被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(5)有機溶媒中にて電解アルミニウムめっき処理を施すことで、前記Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(6)さらに、表面に熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を形成する工程を備える、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法によって得られる、Pt・Al拡散Ni基基材。
(8)最表面から15〜50μmまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であり、さらにその部分におけるAlの平均濃度が15〜35質量%である、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材。
(9)前記拡散層は、PtおよびAlの他に、さらにPdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、上記(8)に記載のPt・Al拡散Ni基基材。
(10)さらに、熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を有する、上記(8)または(9)に記載のPt・Al拡散Ni基基材。
(11)上記(8)〜(10)のいずれかに記載のPt・Al拡散Ni基基材からなるタービン翼。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のもの比較して、耐酸化性がより優れるPtおよびAl拡散Ni基基材ならびにその製造方法を提供することができる。また、熱遮蔽性を備えるセラミック被膜をさらに備える本発明の好ましい態様であれば、耐酸化性に加え、熱遮断性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は実施例1におけるPt・Al拡散Ni基基材の断面拡大写真であり、(b)は実施例1におけるPt・Al拡散Ni基基材の断面における各成分の濃度分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について説明する。
本発明は、Ni基基材の表面にPt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程と、 前記Pt被膜に含まれるPtが前記Ni基基材の少なくとも表面に拡散する処理条件において前記Pt被膜付き基材を熱処理して、Pt拡散基材を得る工程と、前記Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程と、前記Al被膜に含まれるAlが前記Pt拡散基材の少なくとも表面に拡散する処理条件において前記Al被膜付き基材を熱処理して、PtおよびAlが少なくとも表面に拡散したPt・Al拡散Ni基基材を得る工程とを備える、Pt・Al拡散Ni基基材の製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0021】
また、本発明は、最表面から15〜50μmまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であり、さらのその部分におけるAlの平均濃度が15〜35質量%である、Pt・Al拡散Ni基基材である。
このようなPt・Al拡散Ni基基材を、以下では「本発明の基材」ともいう。
【0022】
本発明の基材は、本発明の製造方法によって得ることが好ましい。
【0023】
初めに、本発明の製造方法について説明する。
【0024】
<Pt被膜形成工程>
本発明の製造方法は、Ni基基材の表面にPt被膜を形成し、Pt被膜付き基材を得る工程を備える。
このような工程を以下では、Pt被膜形成工程ともいう。
【0025】
Pt被膜形成工程における処理対象であるNi基基材は、Niをベースとし、AlあるいはTiを添加し、加えてCr、W、Taなどの高融点金属を添加した上で、所定の温度で溶体化処理を行い、さらに時効処理を行って得られるものであり、Niの母相(γ相)中にNi3Al型あるいはNi3Ti型の析出相(γ´相)、が分散析出して強化された合金基材である。
【0026】
また、Ni基基材は、Ni基単結晶合金であることが好ましい。
Ni基単結晶合金は、Niをベースとし、AlあるいはTiを添加し、加えてCr、W、Taなどの高融点金属を添加した上で、所定の温度で溶体化処理を行い、さらに時効処理を行って得られるものであり、Niの母相(γ相)中にNi3Al型あるいはNi3Ti型の析出相(γ´相)が分散析出して強化された単結晶型の超合金である。
【0027】
本発明においてNi基単結晶合金は、次の態様1〜態様5のいずれかの組成を有し、溶体化処理および時効処理を行って得られたものを意味するものとする。
ここで溶体化処理としては、例えば1230〜1290℃から多段のステップにより1300〜1340℃まで昇温した後、1〜10時間保持する処理が挙げられる。
また、時効処理としては、例えば1000〜1150℃で3〜5時間保持する処理が挙げられる。
【0028】
本発明におけるNi基単結晶合金の態様1の組成は、質量比で、Co:15.0質量%以下、Cr:4.1質量%以上8.0質量%以下、Mo:2.1質量%以上6.5質量%以下、W:3.9質量%以下、Ta:4.0質量%以上10.0質量%以下、Al:4.5質量%以上6.5質量%以下、Ti:1.0質量%以下、Hf:0.5質量%以下、Nb:3.0質量%以下、Re:3.0質量%以上8.0質量%以下、Ru:0.5質量%以上6.5質量%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成である。
【0029】
本発明におけるNi基単結晶合金の態様2の組成は、質量比で、Co:15.0質量%以下、Cr:5.1質量%以上8.0質量%以下、Mo:2.1質量%以上6.5質量%以下、W:3.9質量%以下、Ta:4.0質量%以上10.0質量%以下、Al:4.5質量%以上6.5質量%以下、Ti:1.0質量%以下、Hf:0.5質量%以下、Nb:3.0質量%以下、Re:3.0質量%以上8.0質量%以下、Ru:0.5質量%以上6.5質量%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成である。
【0030】
本発明におけるNi基単結晶合金の態様3の組成は、質量比で、Co:4.0質量%以上9.5質量%以下、Cr:4.1質量%以上8.0質量%以下、Mo:2.1質量%以上6.5質量%以下、W:3.9質量%以下、Ta:4.0質量%以上10.0質量%以下、Al:4.5質量%以上6.5質量%以下、Ti:1.0質量%以下、Hf:0.5質量%以下、Nb:3.0質量%以下、Re:3.0質量%以上8.0質量%以下、Ru:0.5質量%以上6.5質量%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成である。
【0031】
本発明におけるNi基単結晶合金の態様4の組成は、質量比で、Co:4.0質量%以上9.5質量%以下、Cr:5.1質量%以上8.0質量%以下、Mo:2.1質量%以上6.5質量%以下、W:3.9質量%以下、Ta:4.0質量%以上10.0質量%以下、Al:4.5質量%以上6.5質量%以下、Ti:1.0質量%以下、Hf:0.5質量%以下、Nb:3.0質量%以下、Re:3.0質量%以上8.0質量%以下、Ru:0.5質量%以上6.5質量%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成である。
【0032】
本発明におけるNi基単結晶合金の態様5の組成は、質量比で、Co:5.0質量%以上8.0質量%以下、Cr:5.1質量%以上8.0質量%以下、Mo:2.2質量%以上4.8質量%以下、W:1.9質量%以下、Ta:5.5質量%以上8.0質量%以下、Al:5.4質量%以上6.0質量%以下、Ti:0.5質量%以下、Hf:0.08質量%以上0.5質量%以下、Nb:1.0質量%以下、Re:4.0質量%以上7.5質量%以下、Ru:1.0質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成である。
【0033】
Pt被膜形成工程では、前記Ni基基材の表面にPt被膜を形成する。
Pt被膜は、Ptの他に、さらにPdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
Pt被膜の形成方法は特に限定されず、Ni基基材の表面にPt被膜を均一な厚さで形成できる方法で形成することが好ましい。具体的には、スパッタリング、蒸着、イオンプレーティングなどのPVD、熱、光、プラズマ等を利用したCVD、化成処理、無電解めっき、電解めっき、溶融めっき、陽極酸化、イオンビームスパッタリング、溶射などによってPt被膜をNi基基材の表面に形成することができる。これらの中でも電解めっきによってPt被膜を形成することが好ましい。Pt被膜を所望の厚さに調整しやすいからである。また、後述するように、Al被膜は電解めっきによって形成することが好ましいので、Pt被膜も同様にめっき処理法によって形成することで、設備を簡略化できるからである。
【0034】
Pt被膜を電解めっき処理によって形成する場合、例えば、Ptの水酸化物塩を水に溶解して、pHを10〜13程度、温度を80〜90℃程度に調整したPtめっき浴に、陽極としての白金板、陰極としてNi基基材を浸漬し、陰極電流密度を0.5A/dm2程度に保持することで、Ni基基材の表面にPt被膜を形成することができる。Pt被膜は、陰極電流密度と処理時間を調整することで所望の厚さとすることができる。なお、めっき処理中はめっき浴を常に攪拌することが好ましい。
【0035】
Pt被膜の厚さは特に限定されないが、3〜15μmであることが好ましく、5〜12μmであることがより好ましく、7〜10μmであることがさらに好ましい。このような厚さとすることで、本発明の製造方法によって得られるPt・Al拡散Ni基基材における表面のPtの濃度および結晶形態を最適化することができ、より耐酸化性に優れるものが得られるからである。
【0036】
なお、Pt被膜の厚さは、断面を光学顕微鏡(例えば500倍の倍率)を用いて観察し、ほぼ均一の厚さとなっていることを確認した上で、Ni基基材の表面にPt被膜を形成する前後の質量変化量から算出して求めた値を意味するものとする。
【0037】
<Pt拡散工程>
本発明の製造方法は、前記Pt被膜に含まれるPtが前記Ni基基材の少なくとも表面に拡散する処理条件において前記Pt被膜付き基材を熱処理して、Pt拡散基材を得る工程を備える。
このような工程を、以下ではPt拡散工程ともいう。
【0038】
Pt拡散工程では、前記Pt被膜形成工程によって形成されたPt被膜付き基材を熱処理する。そして、Pt被膜に含まれるPtをNi基基材の少なくとも表面に拡散させる。
ここで熱処理は、PtをNi基材の内部へ拡散させることができる条件で行えばよい。例えば真空中または不活性ガス(H2、Arなど)中にて、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは1000℃以上1100℃未満でPt被膜付き基材を熱処理する。
【0039】
Pt被膜付き基材にこのような熱処理を施すと、PtがNi基基材の最表面から内部へ拡散し、少なくとも10μm程度の深さまで拡散する。
【0040】
前記Ni基単結晶合金を用いて本発明の製造方法を実施する場合、Pt拡散工程における熱処理は、1100℃未満の熱処理であることが好ましい。本発明者は、前記Ni基単結晶合金を用いて本発明の製造方法を実施する場合、1100℃未満の熱処理を施すと、クリープ強度が高位に維持されたPt・Al拡散Ni基基材が得られることを見出した。
【0041】
<Al被膜形成工程>
本発明の製造方法は、前記Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成して、Al被膜付き基材を得る工程を備える。
このような工程を、以下ではAl被膜形成工程ともいう。
【0042】
Al被膜形成工程では、前記Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成する。
Al被膜の形成方法は特に限定されず、Pt拡散基材の表面にAl被膜を均一な厚さで形成できる方法で形成することが好ましい。具体的には、スパッタリング、蒸着、イオンプレーティングなどのPVD、熱、光、プラズマ等を利用したCVD、化成処理、無電解めっき、電解めっき、溶融めっき、陽極酸化、イオンビームスパッタリング、溶射などによってAl被膜をPt拡散基材の表面に形成することができる。これらの中でも電解めっきによってAl被膜を形成することが好ましい。Al被膜を所望の厚さに調整しやすいからである。また、Al被膜を均一な厚さとしやすいからである。さらに、前述したように、Pt被膜は電解めっき処理によって形成することが好ましいので、Al被膜も同様に電解めっき処理を施して形成することで、設備を簡略化できるからである。
【0043】
Al被膜を電解めっき処理によって形成する場合、前記Pt拡散基材に、有機溶媒中にて電解アルミニウムめっき処理を施すことが好ましい。
具体的には、有機溶媒は、ジメチルスルホンを好ましく用いることができる。その他にも、either1−ethyl−3−methyl imidazolium chllride(EMIC)やn−butyl pyridinium chloride(BPC)を用いることができる。
また、アルミニウム塩は、無水塩化アルミニウムを好ましく用いることができる。その他にも、AlBr3などのハロゲン化物を用いることができる。
また、有機溶媒としてジメチルスルホンを使用する場合、アルミニウム塩の有機溶媒に対する混合比(アルミニウム塩/有機溶媒)は、モル比で、0.05〜3.0であることが好ましく、0.2〜0.8であることがより好ましく、0.4〜0.6であることがさらに好ましい。
また、浴温度は、60〜200℃が好ましく、90〜150℃がより好ましく、100〜120℃がより好ましく、110℃程度であることがさらに好ましい。
また、陰極電流密度は、10〜150mA/cm2が好ましく、20〜80mA/cm2がより好ましい。
【0044】
Al被膜は、陰極電流密度と処理時間を調整することで所望の厚さとすることができる。なお、電解めっき処理中はめっき浴を常に攪拌することが好ましい。
【0045】
このような電解アルミニウムめっき処理によってAl被膜を形成すると、より均一な厚さのAl被膜を形成することができるので好ましい。Al被膜がより均一な厚さであると、Pt・Al拡散Ni基基材を用いてなる部材(タービン翼など)の全表面における耐酸化性を均一にすることができる。仮にAl被膜の厚さが均一でなかった場合、その厚さが厚い部分あるいは薄い部分における耐酸化性が低くなるので好ましくない。
また、電解アルミニウムめっき処理によってAl被膜を形成すると、Al被膜の厚さを所望値に制御し易いという点でも好ましい。
【0046】
Al被膜の厚さは特に限定されないが、10〜40μmであることが好ましく、13〜30μmであることがより好ましい。このような厚さとすることで、本発明の製造方法によって得られるPt・Al拡散Ni基基材における表面のAlの濃度および存在形態を最適化することができ、より耐酸化性に優れるものが得られるからである。具体的には、最表面から15〜50μmの垂直深さまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であって(すなわち、その部分におけるβ−NiAl型の結晶の存在比率(質量比率)が50質量%以上であって)、さらにその部分におけるAlの平均濃度を好ましくは15〜35質量%とすることができるからである。このようなPt・Al拡散Ni基基材は、従来のもの比較して、耐酸化性がより優れるので好ましい。なお、ここでいうPt・Al拡散Ni基基材は、後述する本発明の基材と同様のものであってよい。
【0047】
なお、Al被膜の厚さは、断面を光学顕微鏡(例えば500倍の倍率)を用いて観察し、ほぼ均一の厚さとなっていることを確認した上で、Pt拡散基材の表面にAl被膜を形成する前後の質量変化量から算出して求めた値を意味するものとする。
【0048】
<Al拡散工程>
本発明の製造方法は、前記Al被膜に含まれるAlが前記Pt拡散基材の少なくとも表面部に拡散する処理条件において前記Al被膜付き基材を熱処理して、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するPt・Al拡散Ni基基材を得る工程を備える。
このような工程を、以下ではAl拡散工程ともいう。
【0049】
Al拡散工程では、前記Al被膜形成工程によって形成されたAl被膜付き基材を熱処理する。そして、Al被膜に含まれるAlを前記Pt拡散基材の少なくとも表面部に拡散させる。
ここで、表面部とは、最表面から15〜50μm程度の深さまで部分をいうものとする。
【0050】
また、熱処理は、AlをPt拡散基材の内部へ拡散させることができる条件で行えばよい。例えば真空中または不活性ガス(H2、Arなど)中にて、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは1000℃以上1100℃未満、でAl被膜付き基材を熱処理する。
【0051】
前記Al被膜付き基材にこのような熱処理を施すと、PtおよびAlが、前記Pt拡散基材の最表面から内部へ拡散し、少なくとも15〜50μm程度の深さにまで拡散する。通常、30〜60μm程度の深さにまで拡散する。そして、PtおよびAlが拡散した拡散層が形成される。この拡散層は耐酸化性の向上に寄与する。
【0052】
前記Ni基単結晶合金を用いて本発明の製造方法を実施する場合、Al拡散工程における熱処理は、1100℃未満の熱処理であることが好ましい。本発明者は、前記Ni基単結晶合金を用いて本発明の製造方法を実施する場合、1100℃未満の熱処理を施すと、クリープ強度が高位に維持されたPt・Al拡散Ni基基材が得られることを見出した。
【0053】
<セラミック被膜形成工程>
本発明の製造方法は、さらに、表面に熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を形成する工程を備えることが好ましい。
このような工程を、以下ではセラミック被膜形成工程ともいう。
【0054】
熱遮蔽性を備えるセラミック被膜は特に限定されず、タービン翼の熱遮蔽コーティング(TBC)として従来用いられている公知のものを用いることができる。例えば、6〜8質量%でY23を含む部分安定化ZrO2からなるセラミックコーティングや、さらに、ここへLa23を1~3重量%程度微量添加した部分安定化ZrO2からなるセラミックコーティングが挙げられる。
【0055】
このようなセラミック被膜の形成方法も特に限定されず、例えば溶射やPVDなどという方法で形成することができる。
【0056】
本発明の製造方法がセラミック被膜形成工程をさらに備えると、本発明の製造方法によって得られるPt・Al拡散Ni基基材は、さらに、熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を有するものとなるので好ましい。
本発明の製造方法によって得られるPt・Al拡散Ni基基材の表面に、熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を形成すると、その被膜は剥がれ難いことを本発明者は見出した。剥がれ難いため、このような被膜を備えるPt・Al拡散Ni基基材は、さらに熱遮蔽性が高くなることを、本発明者は見出した。
【0057】
上記のようなPt被膜形成工程、Pt拡散工程、Al被膜形成工程およびAl拡散工程を備える本発明の製造方法によって、本発明の基材を製造することができる。
【0058】
次に本発明の基材について説明する。
本発明の基材は、最表面から垂直深さで15〜50μmまでの部分における結晶構造が主としてβ−NiAl型であって(すなわち、その部分におけるβ−NiAl型の結晶の存在比率(断面における面積比率)が50%以上であって)、さらにその部分におけるAlの平均濃度が好ましくは15−35質量%、より好ましくは20−35質量%であるPt・Al拡散Ni基基材である。
このような本発明の基材は、PtおよびAlが拡散してなる拡散層を有するものであり、従来のもの比較して、耐酸化性がより優れるので好ましい。
拡散層は、PtおよびAlの他に、さらにPdおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
ここで、β−NiAl型の結晶とは、NiAlにおけるNiやAlの少なくとも一部が他の原子と置換したものであり、主なものとしてNiの一部がPtを置換した(Ni、Pt)Alが挙げられる。
【0059】
本発明の基材は、さらに、熱遮蔽性を備える前記セラミック被膜を有するものであることが好ましい。
本発明の基材の表面に形成された熱遮蔽性を備えるセラミック被膜は、剥がれ難いことを本発明者は見出した。剥がれ難いため、このような被膜を備える本発明の基材は、さらに熱遮蔽性が高くなることを、本発明者は見出した。
【0060】
熱遮蔽性を備えるセラミック被膜を備える本発明の基材は、前述の本発明の製造方法の好ましい態様によって製造することができる。セラミック被膜の種類等は、前述と同様であってよく、例えば、6〜8質量%でY23を含む部分安定化ZrO2であってよい。
【0061】
本発明の基材および/または本発明の製造方法によって得られるPt・Al拡散Ni基基材は、航空機エンジンや産業用ガスタービンなどに使用される(高圧)タービン翼(静・動翼)に好ましく用いることができる。また、燃焼器等にも好ましく用いることができる。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
Ptめっき液)を用いためっき浴を用意し、ここへ陽極としての白金板と、陰極としてのニッケル基単結晶超合金(CMSX−4〔Ni−9.6Co−6.4Cr−0.6Mo−6.4W−5.6Al−6.5Ta−0.1Hf−3.0Re〕、質量%)とを浸漬させた。
そして、Ptめっき液のpHをアンモニアを用いて13に調整し、Ptめっき液の温度を85℃に調整した後、陰極電流密度を0.5A/dm2に保持し、めっき液をマグネットスラーターで常に攪拌して、ニッケル基単結晶超合金をめっき処理した。そして、40分後に、厚さが7μmのPt被膜が付いたニッケル基単結晶超合金(Pt被膜付き基材)を得た。なお、Pt被膜の厚さは、Pt被膜形成前後の質量変化量からの算出、および光学顕微鏡を用いた断面観察(倍率:500倍)によって求めた。
【0063】
次に、Pt被膜付き基材を真空炉へ入れ、真空炉内を真空にした後、1100℃で1hの熱処理を施して、Pt拡散基材を得た。
【0064】
次に、Alめっき液を用いためっき浴を用意し、ここへ上記のPt拡散基材を陰極として浸漬させた。また、陽極としてアルミニウム板を浸漬させた。
ここでAlめっき液は、ジメチルスルホン酸と無水塩化アルミニウムとを5:2(モル比)で混合したものである。
そして、Alめっき液の温度を110℃に調整した後、陰極電流密度を40mA/cm2に保持し、めっき液をマグネットスターラーで常に攪拌して、Pt拡散基材に電解アルミニウムめっき処理を施した。そして、20分後に、厚さが15μmのAl被膜が付いたAl被膜付き基材を得た。なお、Al被膜の厚さは、Al被膜形成前後の質量変化量からの算出、および光学顕微鏡を用いた断面観察(倍率:500倍)によって求めた。
【0065】
次に、Al被膜付き基材を真空炉へ入れ、真空炉内を真空にした後、1100℃で1hの熱処理を施して、PtおよびAlが少なくとも表面に拡散したNi基基材(Pt・Al拡散Ni基基材)を得た。
【0066】
次に、得られたPt・Al拡散Ni基基材の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。断面写真を図1(a)に示す。
その結果、Ni基基材の表面に、Pt・Al拡散層が形成されていることを確認できた。
【0067】
また、断面における最表面から深さ方向へのAl、Pt、Niの濃度勾配を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定した。結果を図1(b)に示す。
図1(b)に示すように、最表面から垂直深さが38μmまでの部分にAlの平均濃度は約23質量%であった。また、β−NiAl相中にPtが30〜40質量%含有されていることがわかり、Ni基基材の表面に、β(Ni、Pt)Al相が形成されていることを確認できた。
図1