特許第5861511号(P5861511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861511
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20160202BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20160202BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   F02D41/14 320C
   F02D45/00 320A
   F02D45/00 366E
   F02D11/10 F
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-57095(P2012-57095)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189928(P2013-189928A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃史
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−070701(JP,A)
【文献】 特開2011−256780(JP,A)
【文献】 特開2003−021004(JP,A)
【文献】 特開2001−304023(JP,A)
【文献】 特開2011−117410(JP,A)
【文献】 特開2011−252425(JP,A)
【文献】 特開2000−97073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00−29/06
F02D 41/00−45/00
F01L 1/34
F01L 9/00− 9/04
F01L 13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変動弁機構を備えたエンジンのスロットルバルブを制御する制御装置であって、
前記エンジンのインテークマニホールド内の目標圧力に対応する目標値を設定する設定手段と、
前記スロットルバルブを通る吸気の目標流量を前記エンジンの目標トルクに応じて演算する演算手段と、
前記設定手段で設定された前記目標値の変化に基づき、前記演算手段で演算される前記目標流量を補正する補正手段とを備え、
前記設定手段が、前記エンジンの最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比、又は、前記エンジンの最大充填効率に対する目標充填効率の比を前記目標値として設定し、
前記最大トルク相当値又は前記最大充填効率は、前記可変動弁機構の制御状態に基づき演算される
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記補正手段が、前記目標値の変化が大きいほど前記目標流量の補正量を増大させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記補正手段が、前記目標値と前記目標値に時間遅れのフィルター処理を施したフィルター値との差又は比率に基づき、前記目標流量を補正する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記演算手段が、前記スロットルバルブから前記エンジンに導入される空気の吸気遅れを模擬した吸気遅れ演算の逆演算である吸気進み補償演算を用いて前記目標流量を演算するとともに、
前記補正手段が、前記演算手段による前記吸気進み補償演算で加減算される前記目標流量の補償分に乗じられるゲインを補正する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記補正手段で補正された前記目標流量に基づき、前記スロットルバルブの開度を制御する制御手段を備える
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変動弁機構を備えたエンジンのスロットルバルブを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気系にスロットルバルブを備えたエンジンでは、エンジンに対する要求出力に応じてスロットル開度が制御されている。車載エンジンの場合は、アクセルペダルの踏み込み操作や補機類の作動状態に応じたエンジン出力の目標値が設定され、その目標値に見合った量の空気がエンジンのシリンダー内に導入されるように、スロットル開度が制御される。
【0003】
一方、シリンダー内に実際に吸入される空気量は、スロットルバルブ部を通過する空気量よりもやや遅れて変化する。つまり、ある時刻に制御されたスロットル開度が所定のエンジン出力に対応する空気量を通過させる開度であるとき、その所定のエンジン出力がエンジンで実際に生じる時刻は、スロットル開度の制御時刻よりも遅い時刻となる。このような吸気遅れの影響を縮小させるべく、さまざまなスロットル開度の演算手法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、吸気系の検出空気量から筒内空気量を求める空気量演算モデルと、その逆モデルとを用いたエンジンの制御装置が記載されている。ここでいう空気量演算モデルとは、検出空気量に一次遅れ処理を施して筒内空気量を出力するモデルである。また、逆モデルとは、一次遅れ処理の逆処理である一次進み処理を筒内への目標吸気流量に施して、目標スロットル開度を求める演算である。これらの演算モデルを使用してスロットル開度を制御することで、エンジンの要求出力に対する実際のエンジン出力の応答性を向上させることができる。
【0005】
ところで、上記の一次進み処理は、吸気応答遅れの時定数をそのまま使用した場合、入力値の変化に対して出力値が大きく変化する特性を持つ。したがって、要求出力が変動する過渡的な運転状態では目標スロットル開度の変化量が大きくなり、吸気遅れの影響を縮小させることができる。一方、定常運転時に要求出力がわずかに変化した場合であっても、その変化に対して目標スロットル開度が大きく変化するため、エンジン出力の安定性が低下する。そこで、一次進み処理の強度を設定するゲインを調整することで、応答性と安定性との均衡を保っている。
【0006】
例えば、特許文献1には、目標トルク(目標Pi)とその目標トルクのフィルター値(目標Piを一次遅れ処理した補正目標Pi)との差に基づいて補正係数を演算し、この補正係数を用いて一次進み処理の強度を制御することが記載されている。このような手法により、制御応答性を確保しつつノイズや外乱に対する安定性を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−256780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、目標トルクの変化に応じて一次進み処理の強度を設定する従来の手法では、目標トルク以外の要因による一次進み処理の強度設定ができない。例えば、可変動弁機構を備えたエンジンでは、燃費やエネルギー効率の改善を目的として、吸排気弁のバルブリフト量やバルブタイミングが変更されることがあり、これに応じてスロットル開度も調整される。
【0009】
この場合、バルブリフト量やバルブタイミングの変更時には、必ずしも目標トルクの変化を伴わない。したがって、一次進み処理の強度を強めることができず、スロットル開度を調整した結果として得られるエンジン出力の制御応答性を向上させることができない。
一方、一次進み処理の強度を一律に強めておくことで制御応答性を確保することも考えられる。しかしこの場合、外乱やノイズによる微小な目標トルクの変化に対してスロットル開度が極端に大きく調整されることになり、制御安定性が低下する。
【0010】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、吸気制御の応答性と安定性とを両立できるエンジンの制御装置を提供することである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)ここで開示するエンジンの制御装置は、可変動弁機構を備えたエンジンのスロットルバルブを制御する制御装置である。まず、前記エンジンのインテークマニホールド内の目標圧力に対応する目標値(例えば、目標インマニ圧や圧力比相当値)を設定する設定手段を備える。また、前記スロットルバルブを通る吸気の目標流量を前記エンジンの目標トルクに応じて演算する演算手段を備える。さらに、前記設定手段で設定された前記目標値の変化に基づき、前記演算手段で演算される前記目標流量を補正する補正手段を備える。
前記設定手段は、前記エンジンの最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比、又は、前記エンジンの最大充填効率に対する目標充填効率の比を前記目標値として設定する。また、前記最大トルク相当値又は前記最大充填効率は、前記可変動弁機構の制御状態に基づき演算される。
なお、ここでいう最大トルク相当値とは、エンジンがその時点の運転状態(例えば、演算時点での吸排気弁の制御状態、かつ、演算時点と同一のエンジン回転速度である状態)でスロットルバルブの開度を全開とした場合に出力しうる最大トルク、又はこれに相関する値を意味する。また、目標トルク相当値とは、前記目標トルク、又はこれに相関する値を意味する。この場合、最大トルクと最大トルク相当値との間の相関は、目標トルクと目標トルク相当値との間の相関と同一の相関である。
【0012】
なお、前記エンジンの目標トルクとは、エンジンへの出力要求に基づいて設定されるトルク(エンジンに出力させたいトルク)であり、例えばドライバー要求トルクや外部要求トルク等に基づいて与えられる。また、前記可変動弁機構のバルブリフト量やバルブタイミングが変更されると、それに応じてインテークマニホールド圧が変化し、前記目標値もその変化に応じた値に設定される。したがって、前記設定手段は、前記可変動弁機構の状態変化(バルブリフト量及びバルブタイミングのうちの少なくとも何れか一方の変更)に基づいて前記目標値を設定することが好ましい。
【0013】
(2)また、前記補正手段が、前記目標値の変化が大きいほど前記目標流量の補正量を増大させることが好ましい。例えば、前記目標値が急増したときや急減したときに、前記目標流量の補正量を増大させ、前記目標値が変化しないときには、前記目標流量の補正量を減少させる。
【0014】
(3)また、前記補正手段が、前記目標値と前記目標値に時間遅れのフィルター処理を施したフィルター値との差(すなわち遅れ量)又は比率(すなわち遅れ率)に基づき、前記目標流量を補正することが好ましい。
この場合、前記差が大きいほど、あるいは、前記フィルター値に対する前記目標値の比率が大きいほど(あるいは、前記目標値に対する前記フィルター値の比率が小さいほど)、前記目標流量の補正量を増大させることが好ましい。なお、前記目標値と前記フィルター値との差や比率は、「前記目標値が変化したときに、その変化がインマニ圧(実際に発生しうるエンジントルク)をどの程度遅らせるのか」を把握するためのパラメーターである。したがって、前記目標値の遅れの度合いを把握できるパラメーターであれば、上記の差や比率の代わりに用いることが可能である。
【0016】
(4)また、前記演算手段が、前記スロットルバルブから前記エンジンに導入される空気の吸気遅れを模擬した吸気遅れ演算の逆演算である吸気進み補償演算を用いて前記目標流量を演算することが好ましい。この場合、前記補正手段が、前記演算手段による前記吸気進み補償演算で加減算される前記目標流量の補償分に乗じられるゲインを補正することが好ましい。
【0017】
なお、ここでいう吸気遅れ演算の逆演算(吸気進み補償演算)とは、吸気遅れ演算の入力と出力との関係を逆転させた演算を意味する。例えば、吸気遅れ演算では、入力された変数Xに吸気の時間遅れ処理(一次遅れ処理や二次遅れ処理など)を施した結果として変数Yが出力される。一方、吸気遅れ演算の逆演算では、変数Yを入力すると、その変数Yに吸気の時間進み処理を施した結果として変数Xが出力される。
【0018】
(5)また、前記補正手段で補正された前記目標流量に基づき、前記スロットルバルブの開度を制御する制御手段を備えることが好ましい。例えば、前記スロットルバルブが電制スロットルバルブの場合には、前記制御手段から前記スロットルバルブに対して制御信号が伝達され、スロットル開度が制御される。
【発明の効果】
【0019】
開示のエンジンの制御装置によれば、インテークマニホールド内の目標圧力に対応する目標値の変化に基づいて目標流量を補正することで、目標トルクの変化の有無に関わらず、スロットルバルブを通過する吸気の目標流量を適切に変更することができる。これにより、トルク変化を伴うエンジンの運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても、目標流量を制御することができ、インマニ圧やエンジン出力の応答性を向上させることができる。また、インテークマニホールド内の目標圧力に対応する目標値が変化しない状態では、目標流量を緩慢に制御することができ、インマニ圧やエンジン出力の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係るエンジンの制御装置が適用された車両の構成を例示する図である。
図2】本制御装置の構成を例示するブロック図である。
図3】本制御装置による制御作用を説明するためのグラフであり、(a)はバルブリフト量,(b)は圧力比相当値A,(c)はゲインK2,(d)は目標流量Q,(e)はインマニ圧PIMの変化をそれぞれ例示するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、図1に示す車載のエンジン10に適用される。エンジン10は、例えばガソリンや軽油を燃料とする内燃機関(ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン)である。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。エンジン10のピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジン10の燃焼室26として機能する。
【0023】
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
シリンダー19の頂面には、吸入空気を燃焼室26内に導入するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。
【0024】
また、吸気ポート11,排気ポート12のそれぞれにおける燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる可変動弁機構28によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0025】
可変動弁機構28は、吸気弁14及び排気弁15のそれぞれについて、バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更するものである。この可変動弁機構28には、ロッカアームの揺動量と揺動のタイミングとを変更するための機構として、可変バルブリフト機構28a(以下、VVL機構とも呼ぶ)及び可変バルブタイミング機構28b(以下、VVT機構とも呼ぶ)が内蔵される。
【0026】
VVL機構28aは、吸気弁14や排気弁15のバルブリフト量を連続的に変更する機構である。このVVL機構28aは、カムシャフトに固定されたカムからロッカアームやタペットに伝達される揺動の大きさ(バルブリフト量)を変更する機能を有する。揺動の大きさを変更することで吸気弁14及び排気弁15のストロークが変更され、それぞれの弁の最大リフト量を連続的に変化させることが可能となる。以下、ロッカシャフトに対する揺動部材の基準位置からの角度変化量のことを、制御角θVVLと呼ぶ。制御角θVVLはバルブリフト量に対応するパラメーターであり、制御角θVVLが大きいほどバルブリフト量が増大するように、揺動部材の基準位置が設定されているものとする。
【0027】
VVT機構28bは、吸気弁14や排気弁15の開閉のタイミング(バルブタイミング)を変更する機構である。このVVT機構28bは、ロッカアームに揺動を生じさせるカム又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を有する。カム又はカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト17の回転位相に対するロッカアームの揺動のタイミングを連続的に変化させる(タイミングをずらす)ことが可能となる。以下、基準となるカムシャフトの位相角から実際のカムシャフトの位相角がどの程度進角又は遅角しているかを示す位相角の変化量のことを、位相角θVVTと呼ぶ。位相角θVVTは、バルブタイミングに対応するパラメーターである。
可変動弁機構28の制御角θVVL及び位相角θVVTは、後述するバルブ制御装置9によって制御される。
【0028】
[1−2.吸排気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、エンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダー19で発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0029】
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1から伝達される制御信号に応じた開度に制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルター25が介装される。これにより、エアフィルター25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
【0030】
[1−3.検出系]
サージタンク21内には、インマニ圧PIM(サージタンク21内の圧力に対応するインテークマニホールド圧力)を検出するインマニ圧センサー31が設けられる。また、エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧PBPを検出する大気圧センサー32が設けられる。さらに、エンジン10のクランクシャフト17には、エンジン10の実回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサー33が設けられる。このエンジン回転速度センサー33は、例えばクランクシャフト17の角速度に基づいて実回転速度Neを検出するものである。
【0031】
また、車両の任意の位置(例えばアクセルペダルの近傍)には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサー34が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。上記のセンサー31〜34で取得されたインマニ圧PIM,大気圧PBP,実回転速度Ne,アクセル開度APSの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0032】
[2.制御装置構成]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)のほか、変速機ECU6,エアコンECU7,電装品ECU8,バルブ制御装置9等が設けられる。これらのエンジン制御装置1及び各種制御装置6〜9は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して互いに通信可能に接続される。
【0033】
変速機ECU6は、図示しない変速機の動作を制御するものであり、エアコンECU7は、図示しないエアコン装置(空調装置)の動作を制御するものである。また、電装品ECU8は、車載投光装置や各種照明装置,パワーウィンドウ装置,ドア施錠装置といったボディ系の各種電装品の動作を制御するものである。これらの各種装置は、エンジン10に対する負荷として作用する。
【0034】
以下、これらのエンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムとも呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置とも呼ぶ。外部負荷装置の作動状態等は、エンジン10の運転状態に関わらず変化しうる。そこで、上記の各外部制御システムは、外部負荷装置がエンジン10に要求するトルクの大きさを随時演算し、これをエンジン制御装置1に伝達する。
【0035】
また、外部制御システムがエンジン10に要求するトルクのことを外部要求トルクと呼ぶ。なお、外部要求トルクの値は、変速機ECU6,エアコンECU7,電装品ECU8といった個々の外部制御システムで演算された後にエンジン制御装置1に伝達されることとしてもよいし、あるいは個々の外部制御システムで収集された情報に基づいてエンジン制御装置1で演算されることとしてもよい。
【0036】
バルブ制御装置9は、可変動弁機構28を制御するものである。ここには、VVL機構28aの動作を制御するバルブリフト量制御部9aと、VVT機構28bの動作を制御するバルブタイミング制御部9bとが設けられる。バルブリフト量制御部9aは、VVL機構28aの制御角θVVLを調節することによって、バルブリフト量を任意の値に制御するものである。また、バルブタイミング制御部9bは、VVT機構28bの位相角θVVTを調整することによって、バルブタイミングを任意の値に制御するものである。ここで制御された制御角θVVL及び位相角θVVTの情報は、ともにエンジン制御装置1に伝達される。
【0037】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御するものであり、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量や燃料噴射量、各シリンダー19の点火時期等を制御する。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23のスロットル開度等が挙げられる。
【0038】
図1に示すように、エンジン制御装置1には、インマニ圧センサー31,大気圧センサー32,エンジン回転速度センサー33,アクセル開度センサー34,バルブ制御装置9が情報入力源として接続されるとともに、制御対象であるスロットルバルブ23も接続される。本実施形態では、おもにスロットル開度の制御について説明する。
【0039】
エンジン制御装置1は、エンジン10の出力目標としての目標トルクを設定し、その目標トルクに応じてスロットル開度を調節する吸気量制御を実施する。この吸気量制御を実現するために、エンジン制御装置1には、設定部2,演算部3,補正部4及び制御部5が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0040】
[2−1.設定部]
設定部2(設定手段)は、エンジン10のインマニ20内の目標圧力に対応する目標値を設定するものである。ここでいう目標値には、例えば目標インマニ圧(インマニ圧PIMの目標)や、大気圧PBPに対するインマニ圧PIMの比率(圧力比)の目標が含まれ、あるいはその圧力比の目標に対応するパラメーターが含まれる。本実施形態の設定部2は、エンジン10の最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比を圧力比相当値Aとして演算し、これをインマニ20内の目標圧力に対応する目標値とする。図2に示すように、設定部2には目標トルク演算部2a,最大トルク演算部2b及び圧力比相当値演算部2cが設けられる。
【0041】
目標トルク演算部2aは、エンジン10への出力要求に基づいて設定される目標トルクPiETV、又は目標トルクPiETVに対応する値を演算するものである。ここでは、例えばエンジン10の実回転速度Ne及びアクセル開度APSから設定されるドライバー要求トルクや前述の外部要求トルク等に基づき、目標トルクPiETVが演算される。ここで演算された目標トルクPiETVの値は、圧力比相当値演算部2c及び演算部3に伝達される。
【0042】
最大トルク演算部2bは、エンジン10がその時点の運転状態でスロットルバルブ23を全開に制御された場合に出力しうる最大トルクPiMAXを演算するものである。ここでは、例えばエンジン10の実回転速度Ne,VVL機構28aの制御角θVVL及びVVT機構28bの位相角θVVTに基づき、最大トルクPiMAXが演算される。最大トルクPiMAXは、実回転速度Ne,制御角θVVL及び位相角θVVTと最大トルクPiMAXとの対応関係を定める数式やマップを用いて演算される。ここで演算された最大トルクPiMAXの値は、圧力比相当値演算部2cに伝達される。
【0043】
圧力比相当値演算部2cは、目標トルク演算部2aで演算された目標トルクPiETVと最大トルク演算部2bで演算された最大トルクPiMAXとに基づき、圧力比相当値Aを演算するものである。圧力比相当値Aは、目標インマニ圧に対応するパラメーターであり、最大トルクPiMAXに対する目標トルクPiETVの比(A=PiETV/PiMAX)として与えられる。ここで演算された圧力比相当値Aは、補正部4に伝達される。
【0044】
[2−2.補正部]
補正部4(補正手段)は、後述する演算部3での吸気進み補償部3dで実施される一次進み処理のゲインK2を演算するものである。このゲインK2は、演算部3で演算されるスロットルバルブ23部の目標流量Qを補正するための係数である。図2に示すように、補正部4には、フィルター値演算部4a,差演算部4b及びゲイン演算部4cが設けられる。
【0045】
フィルター値演算部4aは、圧力比相当値Aに時間遅れのフィルター処理を施したフィルター値Cを演算するものである。このフィルター処理は、目標インマニ圧が実際のインマニ圧PIMに対してどの程度遅れて変化するのかを把握するための遅れ演算であり、フィルター値Cの値は所定の周期で繰り返し演算される。ここで演算されたフィルター値Cの値は、差演算部4bに伝達される。
【0046】
応答遅れを与えるための手法は種々考えられるが、一次応答遅れを与える場合には、例えば式1に従ってフィルター値Cを演算することができる。式1中の関数fは、変数A,B及びゲインK1の関数であり、式1中のK1は、吸気応答遅れに相当する変化をフィルター値Cに与えるための係数であり、変数Bは、今回の演算周期で演算されるフィルター値Cに対して、前回の演算周期で演算されたフィルター値(すなわち、フィルター値Cの前回値)である。具体的な関数fの形式は種々考えられるが、例えば、圧力比相当値A及び前回値Bの関数として表現される所定量FにゲインK1を乗じることによって応答遅れを与えたものをフィルター値Cとしてもよい。
C=f(A,B,K1) …(式1)
【0047】
差演算部4bは、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uを演算するものである。圧力比相当値Aが一定値で安定しているようなエンジン10の運転状態では、フィルター値Cが圧力比相当値Aにほぼ一致し、絶対値uはほぼ0(又は微小な値)となる。一方、圧力比相当値Aが短時間の間に大きく変化したときには、フィルター値Cと圧力比相当値Aとの差が広がり、絶対値uの値が増大する。したがって、絶対値uは圧力比相当値Aの変化の度合いを把握するための指標となりうる。ここで演算された絶対値uの値は、ゲイン演算部4cに伝達される。
【0048】
ゲイン演算部4cは、差演算部4bで演算された絶対値uに基づいて、演算部3における吸気進み補償演算のゲインK2を演算するものである。ここでは、例えば絶対値uが大きいほど大きな値のゲインK2が与えられ、絶対値uがu=0のときにゲインK2が0に近い微小な値(又はほぼ0)として与えられる。なお、図2中に示すように、予め設定された絶対値uとゲインK2との対応マップや数式等に基づいて、ゲインK2を演算してもよい。ここで演算されたゲインK2の値は、演算部3に伝達される。
【0049】
[2−3.演算部]
演算部3(演算手段)は、目標トルク演算部2aで演算された目標トルクPiETVに応じて、スロットルバルブ23部を通過する吸気の目標流量Qを演算するものである。目標流量Qとは、エンジン10で目標トルクPiETVを発生させるのに要する空気の流量である。なお、エンジン10で実際に発生するトルクの大きさは、シリンダー19内に導入された空気量に対応するものであって、スロットルバルブ23部を通過する空気量とは一致しない。そこで演算部3は、シリンダー19への空気の入り込みやすさや吸気遅れを考慮して、目標流量Qを演算する。図2に示すように、演算部3には、目標充填効率演算部3a,目標筒内空気量演算部3b,増減比演算部3c及び吸気進み補償部3dが設けられる。
【0050】
目標充填効率演算部3aは、目標トルクPiETVに対応する目標充填効率EcTGTを演算するものである。ここでは、例えば予め設定された目標トルクPiETVと目標充填効率EcTGTとの対応マップや数式等に基づいて目標充填効率EcTGTが演算される。ここで演算された目標充填効率EcTGTの値は、目標筒内空気量演算部3bに伝達される。
【0051】
なお、充填効率とは、一回の吸気行程(ピストン16が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダー19内に充填される空気の体積を標準状態での気体体積に正規化したのちシリンダー容積で除算したもの(標準大気条件でシリンダー19内を占める空気の質量に対する、一回の吸気行程でシリンダー19内に充填される空気の質量の比率)である。充填効率はその行程でシリンダー19内に導入された空気量に対応し、目標充填効率EcTGTは充填効率の目標値であって目標空気量に対応する。
【0052】
目標筒内空気量演算部3bは、目標充填効率演算部3aで演算された目標充填効率EcTGTを、シリンダー19内に導入される空気量の目標値に変換する演算を行うものである。以下、変換後の値を目標筒内空気量Dと呼ぶ。標準状態での目標筒内空気量Dは、目標充填効率EcTGTにエンジン10の実回転速度Ne及びシリンダー容積を乗算することで算出される。また、シリンダー19内に導入される空気の圧力や温度が標準状態と異なる場合を考慮して、インマニ圧PIMや大気圧PBP,吸気温度等に応じた補正量が加味された目標筒内空気量Dを演算してもよい。あるいは、予め設定された目標充填効率EcTGTと目標筒内空気量Dとの対応マップや数式等に基づいて、目標筒内空気量Dを求めてもよい。ここで演算された目標筒内空気量Dは、吸気進み補償部3dに伝達される。
【0053】
増減比演算部3cは、エンジン10の吸気性能の指標値である体積効率係数の増減比Rを演算するものである。体積効率係数は、シリンダー19の体積効率を吸気系圧力について標準化したものである。シリンダー19への空気の入り込みやすさは、制御角θVVLや位相角θVVTに応じて変化するものであることから、例えばVVL機構28aの制御角θVVL及びVVT機構28bの位相角θVVTに基づいて体積効率係数を求めることができる。
【0054】
また、インマニ圧センサー31で検出されたインマニ圧PIM及び大気圧センサー32で検出された大気圧PBPに基づいて体積効率係数を求めてもよい。あるいは、エンジン10の実回転速度Neと圧力比相当値演算部2cで演算された圧力比相当値Aに基づき、体積効率係数を求めてもよい。増減比演算部3cは、このようにして得られた体積効率係数の増減変化の割合を増減比Rとして演算する。体積効率係数の変化がないときの増減比Rの値はR=1であり、体積効率係数が低下したとき(吸入空気がシリンダー19に入り込みにくくなったとき)の増減比Rの値はR<1となる。ここで演算された増減比Rの値は、吸気進み補償部3dに伝達される。
【0055】
吸気進み補償部3dは、目標筒内空気量演算部3bで演算された目標筒内空気量Dと、増減比演算部3cで演算された増減比Rと、補正部4のゲイン演算部4cで演算されたゲインK2とに基づく吸気進み補償演算を用いて、スロットルバルブ23部の目標流量Qを演算するものである。ここでいう吸気進み補償演算とは、スロットルバルブ23からエンジン10のシリンダー19内に導入される空気の吸気遅れを模擬した吸気遅れ演算の逆演算であり、目標流量Qの値は所定の周期で繰り返し演算される。ここで演算された目標流量Qの値は、制御部5に伝達される。
【0056】
吸気進み補償演算の具体的な手法は種々考えられるが、一次応答遅れの逆演算である一次進みを与える場合には、式2に従って目標流量Qを演算することができる。式2中の関数gは、変数D,E,R及びゲインK2の関数であり、変数Eは今回の演算周期で演算された目標筒内空気量Dに対して、前回の演算周期で演算された目標筒内空気量(すなわち、目標筒内空気量Dの前回値)である。
Q=g(D,E,R,K2) …(式2)
【0057】
具体的な関数gの形式は種々考えられるが、例えば、目標筒内空気量D,前回値E及び増減比Rの関数として表現される第二所定量GにゲインK2を乗じたものを目標筒内空気量Dに加算して、目標流量Qを演算してもよい。この場合、目標筒内空気量D,前回値E及び増減比Rの関数として表現される第二所定量Gは、吸気進み補償演算で加減算される目標流量Qの補償分に相当する。
【0058】
なお、目標筒内空気量Dと前回値Eとの差が大きいほど、又は、増減比Rの値が1から遠ざかるほど第二所定量Gが増加するような演算とすることが好ましい。この場合、目標流量Qの変化量は、ゲインK2が大きいほど増大し、ゲインK2が小さいほど減少する。つまり、ゲインK2が大きいほど目標流量Qの応答性が向上し、ゲインK2が小さいほど安定性が向上する。
【0059】
[2−4.制御部]
制御部5(制御手段)は、演算部3で演算された目標流量Qを得るためのスロットルバルブ23の開度を演算し、そのスロットル開度に応じた制御信号をスロットルバルブ23に出力するものである。ここでは、例えば予め設定された目標流量Q,エンジン10の実回転速度Ne及び目標開度電圧の対応マップや数式等に基づいて目標開度電圧が演算され、この目標開度電圧が制御信号としてスロットルバルブ23に伝達される。
【0060】
なお、スロットルバルブ23は、制御部5からの制御信号を受けてスロットル開度を制御される。これにより、スロットルバルブ23部を通過する空気の流量が目標流量Qになり、シリンダー19内に目標筒内空気量Dの吸気が導入され、エンジン出力が目標トルクPiETVに対応する大きさとなる。エンジン制御装置1ではこのように吸気制御が実施される。
【0061】
[3.作用]
図3(a)〜(e)を用いて、VVL機構28aの作動時における吸気制御について説明する。ここでは、目標トルク演算部2aで演算される目標トルクPiETVが一定であるとする。図3(a)に示すように、時刻t1にVVL機構28aのバルブリフト量がL1からL2へと減少するように制御角θVVLが変更されると、バルブリフト量の減少に伴い、最大トルク演算部2bで演算されるエンジン10の最大トルクPiMAXが減少する。したがって、圧力比相当値演算部2cで演算される圧力比相当値Aの値は、図3(b)に示すように、時刻t1を境にして値A1から値A2へと増加する。
【0062】
一方、補正部4のフィルター値演算部4aでは圧力比相当値Aに遅れ処理を施したフィルター値Cが演算されるとともに、差演算部4bで圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uが演算される。これにより、ゲイン演算部4cでは絶対値uの大きさに対応するゲインK2が与えられる。図3(c)に示すように、ゲインK2の経時変動グラフは、時刻t1以前が0に近い微小な値であり、時刻t1から所定時間の間だけ増大するパルス状の形状となる。このパルスの時間幅は、フィルター値演算部4aでの遅れ処理に応じた時間幅となる。
【0063】
また、演算部3の増減比演算部3cで演算される体積効率係数は、バルブリフト量の減少に応じて低下する。また、吸気進み補償部3dにおいて、第二所定量GにゲインK2を乗じたものを目標筒内空気量Dに加算して目標流量Qを演算するものにあっては、体積効率係数の増減比Rが小さくなることで、第二所定量Gが増加する。これにより、時刻t1以前は所定値Q1であった目標流量Qの値は、時刻t1以降に増加する。このとき、第二所定量Gに乗算されるゲインK2の値は、図3(c)に実線で示すように、時刻t1からパルス状に増大し、図3(d)に実線で示すように、目標流量Qの経時変動が高応答となる。したがって、図3(e)中に実線で示すように、インマニ圧PIMが所定圧P1から所定圧P2へとステップ状に素早く上昇する。
【0064】
なお、図3(c)〜(e)中の破線グラフは、従来技術に係る吸気進み補償演算の手法を用いた場合の変化を示すものである。すなわち、吸気進み補償演算のゲインK2を目標トルクPiETVに応じて設定する手法では、目標トルクPiETVが変化しないエンジン10の運転状態の変更時に、吸気進み補償演算のゲインK2が増大しない。つまり、可変動弁機構28の制御角θVVLや位相角θVVTが変化したとしても、目標トルクPiETVが変化しない限りゲインK2が微小値のままとなってしまう。したがって、時刻t1以降に吸気進み補償部3dで目標筒内空気量Dに加算される補償分の流量が小さくなり、インマニ圧PIMの収束性が低下する。これに対して、上記のエンジン制御装置1では、目標トルクPiETVが変化しないエンジン10の運転状態の変更時であってもゲインK2が適切に設定されるため、目標流量Qの進み補償を適切に与えることができ、その結果インマニ圧PIMの収束性が改善される。
【0065】
[4.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、目標インマニ圧に対応する圧力比相当値Aの変化に基づいて目標流量Qが補正される。これにより、目標トルクPiETVの変化の有無に関わらず、スロットルバルブ23部を通過する吸気の目標流量Qを適切に変化させることができる。つまり、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても、目標流量Qを適切に制御することができ、インマニ圧PIMやエンジン出力の応答性を向上させることができる。また、圧力比相当値Aが変化しない状態(例えば、目標インマニ圧が安定した状態)では、インマニ圧PIMやエンジン出力の安定性を向上させることができる。
【0066】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aの変化の度合いに相当する絶対値uが大きいほどゲインK2の値が大きくなり、目標流量Qの補正量である補償分が増大する。この補償分の補正量の値は、ゲインK2の値が大きいほど増大する。
これにより、圧力比相当値Aが大きく変化したときに目標流量Qの変化量を増大させることができ、スロットル開度を調整した結果として得られるインマニ圧PIMの制御応答性を向上させることができる。
【0067】
例えば、バルブリフト量やバルブタイミングの制御に起因する目標インマニ圧の変化に対して、実際のインマニ圧PIMを応答性よく制御することができ、エンジン10のトルク制御性を向上させることができる。また、圧力比相当値Aが安定した状態では目標流量Qの変化量を減少させることができ、インマニ圧PIMの制御安定性を向上させることができる。例えば、ノイズや外乱による目標トルクPiETVの変化に対して、実際のインマニ圧PIMが過敏に変動するような不具合を防止することができ、エンジン10のトルク制御性を向上させることができる。
【0068】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差に基づいて目標流量Qが補正されるため、圧力比相当値Aの変化の有無を明確に判別することができ、圧力比相当値Aの変化量が比較的大きいときと比較的小さいときとで補正内容を相違させることができる。
これにより、圧力比相当値Aが安定した状態では目標流量Qへの補正を弱めて吸気制御の安定性を確保しながら、圧力比相当値Aが大きく変化したときにはその変化に目標流量Qを素早く追従させることができる。このように、吸気制御の応答性と安定性とのバランスを適切に制御することができる。
【0069】
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aを目標インマニ圧に対応する目標値として利用している。この圧力比相当値Aは、目標トルクPiETVの変動の有無に関わらず、最大トルクPiMAXに反比例して変化する値である。このような値を用いて目標流量Qを補正することで、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても吸気量を制御することが可能となり、エンジン10の制御性を向上させることができる。
【0070】
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、吸気進み補償部3dで実施される吸気進み補償演算のゲインK2のみを補正しており、目標トルクPiETVや目標充填効率EcTGT,目標筒内空気量Dの演算は従来通りの手法を用いて演算することができる。このように、従来の吸気進み補償演算に対する適用が容易であり、汎用性の高い吸気制御を実現することができる。
【0071】
(6)また、補正部4で補正された目標流量Qに基づいてスロットルバルブ23を制御することで、トルク変化の有無に関わらずスロットル開度を増減変化させることができる。したがって、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても吸気流量を制御することが可能となり、インマニ圧PIM及びエンジントルクの制御性を向上させることができる。
【0072】
[5.変形例]
上述の実施形態では、目標インマニ圧に対応するパラメーターとして圧力比相当値Aを用いたものを例示したが、圧力比相当値Aの代わりに目標インマニ圧そのものを用いてもよい。目標インマニ圧は、例えば目標トルクPiETV,制御角θVVL及び位相角θVVTに基づいて演算することができる。なお、可変動弁機構28のバルブリフト量やバルブタイミングが変更されると、それに応じて実際のインマニ圧PIMが変化するため、目標インマニ圧もその変更に応じた値に設定すればよい。つまり、上記の設定部2が、可変動弁機構28の状態変化(バルブリフト量及びバルブタイミングのうちの少なくとも何れか一方の変更)に基づいて、目標インマニ圧を設定,演算する制御構成とすればよい。
【0073】
また、上述の実施形態の最大トルクPiMAX及び目標トルクPiETVの代わりに、最大充填効率EcMAX及び目標充填効率EcTGTを用いて第二圧力比相当値Zを演算し、この第二圧力比相当値Zを圧力比相当値Aの代わりに用いてゲインK2を演算してもよい。この場合、最大充填効率EcMAXに対する目標充填効率EcTGTの比を第二圧力比相当値Z(Z=EcTGT/EcMAX)とする。最大充填効率EcMAXとは、上述の実施形態における最大トルクPiMAXに対応する充填効率Ecであり、エンジン10で最大トルクPiMAXを発生させるのに要求される空気量に基づいて算出される充填効率Ec(スロットル開度を全開にした時の充填効率Ec)である。第二圧力比相当値Zは、目標インマニ圧に対応するパラメーターの一つである。したがって、第二圧力比相当値Zを用いてゲインK2を演算した場合にも、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0074】
また、上述の実施形態では、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uに基づいてゲインK2が設定されているが、ゲインK2を設定する際の引数はこれに限定されない。例えば、フィルター値Cに対する圧力比相当値Aの比率(A/C)やその逆数(C/A)を用いてゲインK2を設定することも考えられる。
【0075】
これらの絶対値uやフィルター値Cに対する圧力比相当値Aの比率等は、「目標インマニ圧が変化したときに、その変化が実際のインマニ圧をどの程度遅らせるのか」を把握するためのパラメーターである。したがって、目標インマニ圧の遅れの度合いを把握できるパラメーターであれば、上記の絶対値uや比率の代わりに用いることが可能である。例えば、フィルター値Cの代わりに圧力比相当値Aの前回値やインマニ圧PIMを用いて差や比率を演算してもよいし、フィルター値Cの代わりにインマニ圧PIMに時間遅れのフィルター処理を施したものを用いて差や比率を演算してもよい。
【0076】
また、上述の実施形態におけるエンジン10の種類は任意であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン,その他の燃焼形式の内燃機関に適用可能である。吸気弁14及び排気弁15の少なくとも何れか一方に可変動弁機構28を備えた内燃機関であれば、上記の制御を実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン制御装置
2 設定部(設定手段)
3 演算部(演算手段)
4 補正部(補正手段)
5 制御部(制御手段)
10 エンジン
20 インテークマニホールド(インマニ)
23 スロットルバルブ
28 可変動弁機構
図1
図2
図3