(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算手段が、前記スロットルバルブから前記エンジンに導入される空気の吸気遅れを模擬した吸気遅れ演算の逆演算である吸気進み補償演算を用いて前記目標流量を演算するとともに、
前記補正手段が、前記演算手段による前記吸気進み補償演算で加減算される前記目標流量の補償分に乗じられるゲインを補正する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、
図1に示す車載のエンジン10に適用される。エンジン10は、例えばガソリンや軽油を燃料とする内燃機関(ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン)である。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。エンジン10のピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジン10の燃焼室26として機能する。
【0023】
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
シリンダー19の頂面には、吸入空気を燃焼室26内に導入するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。
【0024】
また、吸気ポート11,排気ポート12のそれぞれにおける燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる可変動弁機構28によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0025】
可変動弁機構28は、吸気弁14及び排気弁15のそれぞれについて、バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更するものである。この可変動弁機構28には、ロッカアームの揺動量と揺動のタイミングとを変更するための機構として、可変バルブリフト機構28a(以下、VVL機構とも呼ぶ)及び可変バルブタイミング機構28b(以下、VVT機構とも呼ぶ)が内蔵される。
【0026】
VVL機構28aは、吸気弁14や排気弁15のバルブリフト量を連続的に変更する機構である。このVVL機構28aは、カムシャフトに固定されたカムからロッカアームやタペットに伝達される揺動の大きさ(バルブリフト量)を変更する機能を有する。揺動の大きさを変更することで吸気弁14及び排気弁15のストロークが変更され、それぞれの弁の最大リフト量を連続的に変化させることが可能となる。以下、ロッカシャフトに対する揺動部材の基準位置からの角度変化量のことを、制御角θ
VVLと呼ぶ。制御角θ
VVLはバルブリフト量に対応するパラメーターであり、制御角θ
VVLが大きいほどバルブリフト量が増大するように、揺動部材の基準位置が設定されているものとする。
【0027】
VVT機構28bは、吸気弁14や排気弁15の開閉のタイミング(バルブタイミング)を変更する機構である。このVVT機構28bは、ロッカアームに揺動を生じさせるカム又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を有する。カム又はカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト17の回転位相に対するロッカアームの揺動のタイミングを連続的に変化させる(タイミングをずらす)ことが可能となる。以下、基準となるカムシャフトの位相角から実際のカムシャフトの位相角がどの程度進角又は遅角しているかを示す位相角の変化量のことを、位相角θ
VVTと呼ぶ。位相角θ
VVTは、バルブタイミングに対応するパラメーターである。
可変動弁機構28の制御角θ
VVL及び位相角θ
VVTは、後述するバルブ制御装置9によって制御される。
【0028】
[1−2.吸排気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、エンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダー19で発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0029】
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1から伝達される制御信号に応じた開度に制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルター25が介装される。これにより、エアフィルター25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
【0030】
[1−3.検出系]
サージタンク21内には、インマニ圧P
IM(サージタンク21内の圧力に対応するインテークマニホールド圧力)を検出するインマニ圧センサー31が設けられる。また、エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧P
BPを検出する大気圧センサー32が設けられる。さらに、エンジン10のクランクシャフト17には、エンジン10の実回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサー33が設けられる。このエンジン回転速度センサー33は、例えばクランクシャフト17の角速度に基づいて実回転速度Neを検出するものである。
【0031】
また、車両の任意の位置(例えばアクセルペダルの近傍)には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度A
PS)を検出するアクセル開度センサー34が設けられる。アクセル開度A
PSは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。上記のセンサー31〜34で取得されたインマニ圧P
IM,大気圧P
BP,実回転速度Ne,アクセル開度A
PSの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0032】
[2.制御装置構成]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)のほか、変速機ECU6,エアコンECU7,電装品ECU8,バルブ制御装置9等が設けられる。これらのエンジン制御装置1及び各種制御装置6〜9は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して互いに通信可能に接続される。
【0033】
変速機ECU6は、図示しない変速機の動作を制御するものであり、エアコンECU7は、図示しないエアコン装置(空調装置)の動作を制御するものである。また、電装品ECU8は、車載投光装置や各種照明装置,パワーウィンドウ装置,ドア施錠装置といったボディ系の各種電装品の動作を制御するものである。これらの各種装置は、エンジン10に対する負荷として作用する。
【0034】
以下、これらのエンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムとも呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置とも呼ぶ。外部負荷装置の作動状態等は、エンジン10の運転状態に関わらず変化しうる。そこで、上記の各外部制御システムは、外部負荷装置がエンジン10に要求するトルクの大きさを随時演算し、これをエンジン制御装置1に伝達する。
【0035】
また、外部制御システムがエンジン10に要求するトルクのことを外部要求トルクと呼ぶ。なお、外部要求トルクの値は、変速機ECU6,エアコンECU7,電装品ECU8といった個々の外部制御システムで演算された後にエンジン制御装置1に伝達されることとしてもよいし、あるいは個々の外部制御システムで収集された情報に基づいてエンジン制御装置1で演算されることとしてもよい。
【0036】
バルブ制御装置9は、可変動弁機構28を制御するものである。ここには、VVL機構28aの動作を制御するバルブリフト量制御部9aと、VVT機構28bの動作を制御するバルブタイミング制御部9bとが設けられる。バルブリフト量制御部9aは、VVL機構28aの制御角θ
VVLを調節することによって、バルブリフト量を任意の値に制御するものである。また、バルブタイミング制御部9bは、VVT機構28bの位相角θ
VVTを調整することによって、バルブタイミングを任意の値に制御するものである。ここで制御された制御角θ
VVL及び位相角θ
VVTの情報は、ともにエンジン制御装置1に伝達される。
【0037】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御するものであり、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量や燃料噴射量、各シリンダー19の点火時期等を制御する。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23のスロットル開度等が挙げられる。
【0038】
図1に示すように、エンジン制御装置1には、インマニ圧センサー31,大気圧センサー32,エンジン回転速度センサー33,アクセル開度センサー34,バルブ制御装置9が情報入力源として接続されるとともに、制御対象であるスロットルバルブ23も接続される。本実施形態では、おもにスロットル開度の制御について説明する。
【0039】
エンジン制御装置1は、エンジン10の出力目標としての目標トルクを設定し、その目標トルクに応じてスロットル開度を調節する吸気量制御を実施する。この吸気量制御を実現するために、エンジン制御装置1には、設定部2,演算部3,補正部4及び制御部5が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0040】
[2−1.設定部]
設定部2(設定手段)は、エンジン10のインマニ20内の目標圧力に対応する目標値を設定するものである。ここでいう目標値には、例えば目標インマニ圧(インマニ圧P
IMの目標)や、大気圧P
BPに対するインマニ圧P
IMの比率(圧力比)の目標が含まれ、あるいはその圧力比の目標に対応するパラメーターが含まれる。本実施形態の設定部2は、エンジン10の最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比を圧力比相当値Aとして演算し、これをインマニ20内の目標圧力に対応する目標値とする。
図2に示すように、設定部2には目標トルク演算部2a,最大トルク演算部2b及び圧力比相当値演算部2cが設けられる。
【0041】
目標トルク演算部2aは、エンジン10への出力要求に基づいて設定される目標トルクPi
ETV、又は目標トルクPi
ETVに対応する値を演算するものである。ここでは、例えばエンジン10の実回転速度Ne及びアクセル開度A
PSから設定されるドライバー要求トルクや前述の外部要求トルク等に基づき、目標トルクPi
ETVが演算される。ここで演算された目標トルクPi
ETVの値は、圧力比相当値演算部2c及び演算部3に伝達される。
【0042】
最大トルク演算部2bは、エンジン10がその時点の運転状態でスロットルバルブ23を全開に制御された場合に出力しうる最大トルクPi
MAXを演算するものである。ここでは、例えばエンジン10の実回転速度Ne,VVL機構28aの制御角θ
VVL及びVVT機構28bの位相角θ
VVTに基づき、最大トルクPi
MAXが演算される。最大トルクPi
MAXは、実回転速度Ne,制御角θ
VVL及び位相角θ
VVTと最大トルクPi
MAXとの対応関係を定める数式やマップを用いて演算される。ここで演算された最大トルクPi
MAXの値は、圧力比相当値演算部2cに伝達される。
【0043】
圧力比相当値演算部2cは、目標トルク演算部2aで演算された目標トルクPi
ETVと最大トルク演算部2bで演算された最大トルクPi
MAXとに基づき、圧力比相当値Aを演算するものである。圧力比相当値Aは、目標インマニ圧に対応するパラメーターであり、最大トルクPi
MAXに対する目標トルクPi
ETVの比(A=Pi
ETV/Pi
MAX)として与えられる。ここで演算された圧力比相当値Aは、補正部4に伝達される。
【0044】
[2−2.補正部]
補正部4(補正手段)は、後述する演算部3での吸気進み補償部3dで実施される一次進み処理のゲインK
2を演算するものである。このゲインK
2は、演算部3で演算されるスロットルバルブ23部の目標流量Qを補正するための係数である。
図2に示すように、補正部4には、フィルター値演算部4a,差演算部4b及びゲイン演算部4cが設けられる。
【0045】
フィルター値演算部4aは、圧力比相当値Aに時間遅れのフィルター処理を施したフィルター値Cを演算するものである。このフィルター処理は、目標インマニ圧が実際のインマニ圧P
IMに対してどの程度遅れて変化するのかを把握するための遅れ演算であり、フィルター値Cの値は所定の周期で繰り返し演算される。ここで演算されたフィルター値Cの値は、差演算部4bに伝達される。
【0046】
応答遅れを与えるための手法は種々考えられるが、一次応答遅れを与える場合には、例えば式1に従ってフィルター値Cを演算することができる。式1中の関数fは、変数A,B及びゲインK
1の関数であり、式1中のK
1は、吸気応答遅れに相当する変化をフィルター値Cに与えるための係数であり、変数Bは、今回の演算周期で演算されるフィルター値Cに対して、前回の演算周期で演算されたフィルター値(すなわち、フィルター値Cの前回値)である。具体的な関数fの形式は種々考えられるが、例えば、圧力比相当値A及び前回値Bの関数として表現される所定量FにゲインK
1を乗じることによって応答遅れを与えたものをフィルター値Cとしてもよい。
C=f(A,B,K
1) …(式1)
【0047】
差演算部4bは、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uを演算するものである。圧力比相当値Aが一定値で安定しているようなエンジン10の運転状態では、フィルター値Cが圧力比相当値Aにほぼ一致し、絶対値uはほぼ0(又は微小な値)となる。一方、圧力比相当値Aが短時間の間に大きく変化したときには、フィルター値Cと圧力比相当値Aとの差が広がり、絶対値uの値が増大する。したがって、絶対値uは圧力比相当値Aの変化の度合いを把握するための指標となりうる。ここで演算された絶対値uの値は、ゲイン演算部4cに伝達される。
【0048】
ゲイン演算部4cは、差演算部4bで演算された絶対値uに基づいて、演算部3における吸気進み補償演算のゲインK
2を演算するものである。ここでは、例えば絶対値uが大きいほど大きな値のゲインK
2が与えられ、絶対値uがu=0のときにゲインK
2が0に近い微小な値(又はほぼ0)として与えられる。なお、
図2中に示すように、予め設定された絶対値uとゲインK
2との対応マップや数式等に基づいて、ゲインK
2を演算してもよい。ここで演算されたゲインK
2の値は、演算部3に伝達される。
【0049】
[2−3.演算部]
演算部3(演算手段)は、目標トルク演算部2aで演算された目標トルクPi
ETVに応じて、スロットルバルブ23部を通過する吸気の目標流量Qを演算するものである。目標流量Qとは、エンジン10で目標トルクPi
ETVを発生させるのに要する空気の流量である。なお、エンジン10で実際に発生するトルクの大きさは、シリンダー19内に導入された空気量に対応するものであって、スロットルバルブ23部を通過する空気量とは一致しない。そこで演算部3は、シリンダー19への空気の入り込みやすさや吸気遅れを考慮して、目標流量Qを演算する。
図2に示すように、演算部3には、目標充填効率演算部3a,目標筒内空気量演算部3b,増減比演算部3c及び吸気進み補償部3dが設けられる。
【0050】
目標充填効率演算部3aは、目標トルクPi
ETVに対応する目標充填効率Ec
TGTを演算するものである。ここでは、例えば予め設定された目標トルクPi
ETVと目標充填効率Ec
TGTとの対応マップや数式等に基づいて目標充填効率Ec
TGTが演算される。ここで演算された目標充填効率Ec
TGTの値は、目標筒内空気量演算部3bに伝達される。
【0051】
なお、充填効率とは、一回の吸気行程(ピストン16が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダー19内に充填される空気の体積を標準状態での気体体積に正規化したのちシリンダー容積で除算したもの(標準大気条件でシリンダー19内を占める空気の質量に対する、一回の吸気行程でシリンダー19内に充填される空気の質量の比率)である。充填効率はその行程でシリンダー19内に導入された空気量に対応し、目標充填効率Ec
TGTは充填効率の目標値であって目標空気量に対応する。
【0052】
目標筒内空気量演算部3bは、目標充填効率演算部3aで演算された目標充填効率Ec
TGTを、シリンダー19内に導入される空気量の目標値に変換する演算を行うものである。以下、変換後の値を目標筒内空気量Dと呼ぶ。標準状態での目標筒内空気量Dは、目標充填効率Ec
TGTにエンジン10の実回転速度Ne及びシリンダー容積を乗算することで算出される。また、シリンダー19内に導入される空気の圧力や温度が標準状態と異なる場合を考慮して、インマニ圧P
IMや大気圧P
BP,吸気温度等に応じた補正量が加味された目標筒内空気量Dを演算してもよい。あるいは、予め設定された目標充填効率Ec
TGTと目標筒内空気量Dとの対応マップや数式等に基づいて、目標筒内空気量Dを求めてもよい。ここで演算された目標筒内空気量Dは、吸気進み補償部3dに伝達される。
【0053】
増減比演算部3cは、エンジン10の吸気性能の指標値である体積効率係数の増減比Rを演算するものである。体積効率係数は、シリンダー19の体積効率を吸気系圧力について標準化したものである。シリンダー19への空気の入り込みやすさは、制御角θ
VVLや位相角θ
VVTに応じて変化するものであることから、例えばVVL機構28aの制御角θ
VVL及びVVT機構28bの位相角θ
VVTに基づいて体積効率係数を求めることができる。
【0054】
また、インマニ圧センサー31で検出されたインマニ圧P
IM及び大気圧センサー32で検出された大気圧P
BPに基づいて体積効率係数を求めてもよい。あるいは、エンジン10の実回転速度Neと圧力比相当値演算部2cで演算された圧力比相当値Aに基づき、体積効率係数を求めてもよい。増減比演算部3cは、このようにして得られた体積効率係数の増減変化の割合を増減比Rとして演算する。体積効率係数の変化がないときの増減比Rの値はR=1であり、体積効率係数が低下したとき(吸入空気がシリンダー19に入り込みにくくなったとき)の増減比Rの値はR<1となる。ここで演算された増減比Rの値は、吸気進み補償部3dに伝達される。
【0055】
吸気進み補償部3dは、目標筒内空気量演算部3bで演算された目標筒内空気量Dと、増減比演算部3cで演算された増減比Rと、補正部4のゲイン演算部4cで演算されたゲインK
2とに基づく吸気進み補償演算を用いて、スロットルバルブ23部の目標流量Qを演算するものである。ここでいう吸気進み補償演算とは、スロットルバルブ23からエンジン10のシリンダー19内に導入される空気の吸気遅れを模擬した吸気遅れ演算の逆演算であり、目標流量Qの値は所定の周期で繰り返し演算される。ここで演算された目標流量Qの値は、制御部5に伝達される。
【0056】
吸気進み補償演算の具体的な手法は種々考えられるが、一次応答遅れの逆演算である一次進みを与える場合には、式2に従って目標流量Qを演算することができる。式2中の関数gは、変数D,E,R及びゲインK
2の関数であり、変数Eは今回の演算周期で演算された目標筒内空気量Dに対して、前回の演算周期で演算された目標筒内空気量(すなわち、目標筒内空気量Dの前回値)である。
Q=g(D,E,R,K
2) …(式2)
【0057】
具体的な関数gの形式は種々考えられるが、例えば、目標筒内空気量D,前回値E及び増減比Rの関数として表現される第二所定量GにゲインK
2を乗じたものを目標筒内空気量Dに加算して、目標流量Qを演算してもよい。この場合、目標筒内空気量D,前回値E及び増減比Rの関数として表現される第二所定量Gは、吸気進み補償演算で加減算される目標流量Qの補償分に相当する。
【0058】
なお、目標筒内空気量Dと前回値Eとの差が大きいほど、又は、増減比Rの値が1から遠ざかるほど第二所定量Gが増加するような演算とすることが好ましい。この場合、目標流量Qの変化量は、ゲインK
2が大きいほど増大し、ゲインK
2が小さいほど減少する。つまり、ゲインK
2が大きいほど目標流量Qの応答性が向上し、ゲインK
2が小さいほど安定性が向上する。
【0059】
[2−4.制御部]
制御部5(制御手段)は、演算部3で演算された目標流量Qを得るためのスロットルバルブ23の開度を演算し、そのスロットル開度に応じた制御信号をスロットルバルブ23に出力するものである。ここでは、例えば予め設定された目標流量Q,エンジン10の実回転速度Ne及び目標開度電圧の対応マップや数式等に基づいて目標開度電圧が演算され、この目標開度電圧が制御信号としてスロットルバルブ23に伝達される。
【0060】
なお、スロットルバルブ23は、制御部5からの制御信号を受けてスロットル開度を制御される。これにより、スロットルバルブ23部を通過する空気の流量が目標流量Qになり、シリンダー19内に目標筒内空気量Dの吸気が導入され、エンジン出力が目標トルクPi
ETVに対応する大きさとなる。エンジン制御装置1ではこのように吸気制御が実施される。
【0061】
[3.作用]
図3(a)〜(e)を用いて、VVL機構28aの作動時における吸気制御について説明する。ここでは、目標トルク演算部2aで演算される目標トルクPi
ETVが一定であるとする。
図3(a)に示すように、時刻t
1にVVL機構28aのバルブリフト量がL
1からL
2へと減少するように制御角θ
VVLが変更されると、バルブリフト量の減少に伴い、最大トルク演算部2bで演算されるエンジン10の最大トルクPi
MAXが減少する。したがって、圧力比相当値演算部2cで演算される圧力比相当値Aの値は、
図3(b)に示すように、時刻t
1を境にして値A
1から値A
2へと増加する。
【0062】
一方、補正部4のフィルター値演算部4aでは圧力比相当値Aに遅れ処理を施したフィルター値Cが演算されるとともに、差演算部4bで圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uが演算される。これにより、ゲイン演算部4cでは絶対値uの大きさに対応するゲインK
2が与えられる。
図3(c)に示すように、ゲインK
2の経時変動グラフは、時刻t
1以前が0に近い微小な値であり、時刻t
1から所定時間の間だけ増大するパルス状の形状となる。このパルスの時間幅は、フィルター値演算部4aでの遅れ処理に応じた時間幅となる。
【0063】
また、演算部3の増減比演算部3cで演算される体積効率係数は、バルブリフト量の減少に応じて低下する。また、吸気進み補償部3dにおいて、第二所定量GにゲインK
2を乗じたものを目標筒内空気量Dに加算して目標流量Qを演算するものにあっては、体積効率係数の増減比Rが小さくなることで、第二所定量Gが増加する。これにより、時刻t
1以前は所定値Q
1であった目標流量Qの値は、時刻t
1以降に増加する。このとき、第二所定量Gに乗算されるゲインK
2の値は、
図3(c)に実線で示すように、時刻t
1からパルス状に増大し、
図3(d)に実線で示すように、目標流量Qの経時変動が高応答となる。したがって、
図3(e)中に実線で示すように、インマニ圧P
IMが所定圧P
1から所定圧P
2へとステップ状に素早く上昇する。
【0064】
なお、
図3(c)〜(e)中の破線グラフは、従来技術に係る吸気進み補償演算の手法を用いた場合の変化を示すものである。すなわち、吸気進み補償演算のゲインK
2を目標トルクPi
ETVに応じて設定する手法では、目標トルクPi
ETVが変化しないエンジン10の運転状態の変更時に、吸気進み補償演算のゲインK
2が増大しない。つまり、可変動弁機構28の制御角θ
VVLや位相角θ
VVTが変化したとしても、目標トルクPi
ETVが変化しない限りゲインK
2が微小値のままとなってしまう。したがって、時刻t
1以降に吸気進み補償部3dで目標筒内空気量Dに加算される補償分の流量が小さくなり、インマニ圧P
IMの収束性が低下する。これに対して、上記のエンジン制御装置1では、目標トルクPi
ETVが変化しないエンジン10の運転状態の変更時であってもゲインK
2が適切に設定されるため、目標流量Qの進み補償を適切に与えることができ、その結果インマニ圧P
IMの収束性が改善される。
【0065】
[4.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、目標インマニ圧に対応する圧力比相当値Aの変化に基づいて目標流量Qが補正される。これにより、目標トルクPi
ETVの変化の有無に関わらず、スロットルバルブ23部を通過する吸気の目標流量Qを適切に変化させることができる。つまり、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても、目標流量Qを適切に制御することができ、インマニ圧P
IMやエンジン出力の応答性を向上させることができる。また、圧力比相当値Aが変化しない状態(例えば、目標インマニ圧が安定した状態)では、インマニ圧P
IMやエンジン出力の安定性を向上させることができる。
【0066】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aの変化の度合いに相当する絶対値uが大きいほどゲインK
2の値が大きくなり、目標流量Qの補正量である補償分が増大する。この補償分の補正量の値は、ゲインK
2の値が大きいほど増大する。
これにより、圧力比相当値Aが大きく変化したときに目標流量Qの変化量を増大させることができ、スロットル開度を調整した結果として得られるインマニ圧P
IMの制御応答性を向上させることができる。
【0067】
例えば、バルブリフト量やバルブタイミングの制御に起因する目標インマニ圧の変化に対して、実際のインマニ圧P
IMを応答性よく制御することができ、エンジン10のトルク制御性を向上させることができる。また、圧力比相当値Aが安定した状態では目標流量Qの変化量を減少させることができ、インマニ圧P
IMの制御安定性を向上させることができる。例えば、ノイズや外乱による目標トルクPi
ETVの変化に対して、実際のインマニ圧P
IMが過敏に変動するような不具合を防止することができ、エンジン10のトルク制御性を向上させることができる。
【0068】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差に基づいて目標流量Qが補正されるため、圧力比相当値Aの変化の有無を明確に判別することができ、圧力比相当値Aの変化量が比較的大きいときと比較的小さいときとで補正内容を相違させることができる。
これにより、圧力比相当値Aが安定した状態では目標流量Qへの補正を弱めて吸気制御の安定性を確保しながら、圧力比相当値Aが大きく変化したときにはその変化に目標流量Qを素早く追従させることができる。このように、吸気制御の応答性と安定性とのバランスを適切に制御することができる。
【0069】
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aを目標インマニ圧に対応する目標値として利用している。この圧力比相当値Aは、目標トルクPi
ETVの変動の有無に関わらず、最大トルクPi
MAXに反比例して変化する値である。このような値を用いて目標流量Qを補正することで、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても吸気量を制御することが可能となり、エンジン10の制御性を向上させることができる。
【0070】
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、吸気進み補償部3dで実施される吸気進み補償演算のゲインK
2のみを補正しており、目標トルクPi
ETVや目標充填効率Ec
TGT,目標筒内空気量Dの演算は従来通りの手法を用いて演算することができる。このように、従来の吸気進み補償演算に対する適用が容易であり、汎用性の高い吸気制御を実現することができる。
【0071】
(6)また、補正部4で補正された目標流量Qに基づいてスロットルバルブ23を制御することで、トルク変化の有無に関わらずスロットル開度を増減変化させることができる。したがって、トルク変化を伴うエンジン10の運転状態の変化に対してのみならず、トルク変化を伴わない運転状態の変化に対しても吸気流量を制御することが可能となり、インマニ圧P
IM及びエンジントルクの制御性を向上させることができる。
【0072】
[5.変形例]
上述の実施形態では、目標インマニ圧に対応するパラメーターとして圧力比相当値Aを用いたものを例示したが、圧力比相当値Aの代わりに目標インマニ圧そのものを用いてもよい。目標インマニ圧は、例えば目標トルクPi
ETV,制御角θ
VVL及び位相角θ
VVTに基づいて演算することができる。なお、可変動弁機構28のバルブリフト量やバルブタイミングが変更されると、それに応じて実際のインマニ圧P
IMが変化するため、目標インマニ圧もその変更に応じた値に設定すればよい。つまり、上記の設定部2が、可変動弁機構28の状態変化(バルブリフト量及びバルブタイミングのうちの少なくとも何れか一方の変更)に基づいて、目標インマニ圧を設定,演算する制御構成とすればよい。
【0073】
また、上述の実施形態の最大トルクPi
MAX及び目標トルクPi
ETVの代わりに、最大充填効率Ec
MAX及び目標充填効率Ec
TGTを用いて第二圧力比相当値Zを演算し、この第二圧力比相当値Zを圧力比相当値Aの代わりに用いてゲインK
2を演算してもよい。この場合、最大充填効率Ec
MAXに対する目標充填効率Ec
TGTの比を第二圧力比相当値Z(Z=Ec
TGT/Ec
MAX)とする。最大充填効率Ec
MAXとは、上述の実施形態における最大トルクPi
MAXに対応する充填効率Ecであり、エンジン10で最大トルクPi
MAXを発生させるのに要求される空気量に基づいて算出される充填効率Ec(スロットル開度を全開にした時の充填効率Ec)である。第二圧力比相当値Zは、目標インマニ圧に対応するパラメーターの一つである。したがって、第二圧力比相当値Zを用いてゲインK
2を演算した場合にも、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0074】
また、上述の実施形態では、圧力比相当値Aとフィルター値Cとの差の絶対値uに基づいてゲインK
2が設定されているが、ゲインK
2を設定する際の引数はこれに限定されない。例えば、フィルター値Cに対する圧力比相当値Aの比率(A/C)やその逆数(C/A)を用いてゲインK
2を設定することも考えられる。
【0075】
これらの絶対値uやフィルター値Cに対する圧力比相当値Aの比率等は、「目標インマニ圧が変化したときに、その変化が実際のインマニ圧をどの程度遅らせるのか」を把握するためのパラメーターである。したがって、目標インマニ圧の遅れの度合いを把握できるパラメーターであれば、上記の絶対値uや比率の代わりに用いることが可能である。例えば、フィルター値Cの代わりに圧力比相当値Aの前回値やインマニ圧P
IMを用いて差や比率を演算してもよいし、フィルター値Cの代わりにインマニ圧P
IMに時間遅れのフィルター処理を施したものを用いて差や比率を演算してもよい。
【0076】
また、上述の実施形態におけるエンジン10の種類は任意であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン,その他の燃焼形式の内燃機関に適用可能である。吸気弁14及び排気弁15の少なくとも何れか一方に可変動弁機構28を備えた内燃機関であれば、上記の制御を実施することができる。