特許第5861573号(P5861573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5861573容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861573
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20160202BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   A23L1/39
   A23L3/00 101C
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-140761(P2012-140761)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-3926(P2014-3926A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100147588
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】増子 瞳
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−105035(JP,A)
【文献】 特開2002−218957(JP,A)
【文献】 特開2003−061570(JP,A)
【文献】 キャンプで燻製カレー,cookpad,2012年 5月,検索日:2015/05/21、[online],URL,http://cookpad.com/recipe/1818976
【文献】 燻製カレー,煙にまかれて 〜 燻製&道楽記,2011年,検索日:2015/05/21、[online],URL,http://blog.goo.ne.jp/grizzly_2008/e/5f16e9d7f0d1dc98e7d360455988bfe4
【文献】 いつもの「おうちカレー」を簡単に本格派カレーに変身させる3つの方法,スパイスラックブログ,2010年,検索日:2015/05/21,URL,http://blog.livedoor.jp/spiceluck/archives/51692861.html
【文献】 手作りルーの燻製カレー,ベランダ燻製ライフ,2012年 1月,検索日:2015/05/21,URL,http://smokelife2009.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
【文献】 燻製物語 その23 "燻製チキンカレー",[online]、2011.05.13掲載、2015.05.12検索、インターネット,URL,http://live.blow-bar.com/?eid=1221
【文献】 燻製記 -燻製の作り方と燻製レシピ200種以上-簡単燻製の作り方 燻製レシピ の探究記「燻製カレー」,[online]、2011.05.03掲載、2015.05.12検索、インターネット,URL,http://kunsei.livedoor.biz/archives/51658733.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/36−1/48
A23L 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻煙処理を施したカレーパウダーと、0.5質量%以上の燻煙処理を施していない香辛料とを含み、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品。
【請求項2】
燻煙処理を施していない香辛料が、ナツメグ、クローブ、カルダモン、クミン、及びコリアンダーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の加熱殺菌処理済食品。
【請求項3】
燻煙処理を施していない香辛料が、ナツメグ、クローブ、カルダモン、クミン、及びコリアンダーからなる群から選ばれる少なくとも2種を含む、請求項2に記載の加熱殺菌処理済食品。
【請求項4】
カレーパウダーが、焙乾法により燻煙処理を施されたものである、請求項1から3のいずれかに記載の加熱殺菌処理済食品。
【請求項5】
更に、スモークオイルを含有する、請求項1から4のいずれかに記載の加熱殺菌処理済食品。
【請求項6】
カレーパウダーに燻煙処理を施す工程と、
カレーパウダー及び0.5質量%以上の燻煙処理を施していない香辛料を使用して食品を調製する工程と、
前記食品を容器に充填・密封する工程とを有し、
食品が容器に充填・密封される前、又は容器に充填・密封された後に、加熱殺菌処理される、加熱殺菌処理済食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙処理を施したカレーパウダーと、燻煙処理を施していない香辛料とを含み、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚肉や蓄肉に対して燻煙処理を施した燻製食品が人々の間で広く知られている。一般に、燻煙処理は、サクラ、ブナ、ナラ、ヒッコリー等の木材を高温に熱して発生させた煙を食品に接触させることにより行われるものであり、これにより食品の臭みをマスキングすると共に、独特の風味を付与して嗜好性を向上させ、更に、煙に含まれる殺菌成分を食品に浸透させて食品の保存性を向上させる加工技術である。このような、燻煙処理により得られる燻製食品は、その高い嗜好性のため、従来、人々に広く親しまれている。
ところで、一般に、種々の食品を製造する際に、所望の風味や味を付与するために香辛料や調味材を用いることがある。例えば、レトルトカレーの場合、小麦粉ルウ(小麦粉と油脂の焙煎物)、野菜・果実ピューレ、調味液等の液体原料と、香辛料、粉末調味料、粉末酸味料等の粉体原料とを組み合わせて煮込み、必要に応じて野菜・牛肉等の具材を加えて容器に充填し、加熱殺菌処理を行うことにより製造されている。
このレトルトカレー等、高温での加熱殺菌処理を施された食品を製造し、その後これを保存する場合、加熱殺菌処理や長期の保存に伴い、香辛料のスパイス感(香り)や旨味成分の旨味、及びスパイス感と旨味が融合することによりもたらされる香味が劣化することが知られていた。
ここで、一般に、食品の風味を改善する方法として、食品粉末を撹拌しつつ、燻煙と接触させることにより燻煙処理した燻煙処理食品粉末を、食品中に所定量含有させることを特徴とする食品の風味改善方法が知られている(特許文献1)。上記燻煙処理食品粉末を食品中に含有させることにより、各種食品にほのかな燻臭を付与して、魚臭、肉臭、獣臭等、各種の不快な臭みをマスキングし、食品の風味を改善することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−062117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、燻煙処理を施した燻煙原料では、比較的強い燻煙味が付与されるため、燻煙原料の燻煙味はレトルト処理中や保存中においても変化しにくい反面、燻煙処理を施されていない他の成分の香りや風味が劣化してしまい、食品全体の香りや風味のバランスが崩れてしまうことがあった。また、レトルトカレー等においては、香辛料のスパイス感が、味を構成する上での重要な要素となっているので、香辛料の全てに燻煙処理を施すと、カレーソース本来のスパイス感が損なわれてしまうことがあった。
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであり、加熱殺菌処理や長期間の保存によっても食品全体の香りや風味のバランスが崩れることがなく、香辛料を用いた食品のスパイス感に優れる、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、燻煙処理を施したカレーパウダーと、燻煙処理を施していない香辛料とを含む食品は、加熱殺菌処理や長期間の保存を経ても食品全体の香りや風味のバランスが崩れることなく、スパイス感にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
本発明の第一の態様は、燻煙処理を施したカレーパウダーと、燻煙処理を施していない香辛料とを含み、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品である。
本発明の第二の態様は、カレーパウダーに燻煙処理を施す工程と、カレーパウダー及び燻煙処理を施していない香辛料を使用して食品を調製する工程と、前記食品を容器に充填・密封する工程とを有し、食品が容器に充填・密封される前、又は容器に充填・密封された後に、加熱殺菌処理される、加熱殺菌処理済食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品は、燻煙処理を施したカレーパウダーと、燻煙処理を施していない香辛料を含むので、レトルト処理等の加熱殺菌処理や、長期間の保存を経た後においても、良好な燻煙味を有する一方で、燻煙処理を施していない香辛料による優れた風味をも有し、食品全体の香りや風味のバランスが優れたものとなる。また、燻煙処理を施した燻製感のあるカレーパウダーの香味と、燻煙処理を施していない香辛料の自然な香味とが融合して、食品のスパイス感が優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
<加熱殺菌処理済食品>
本発明の加熱殺菌処理済食品は、燻煙処理を施したカレーパウダーと、燻煙処理を施していない香辛料とを含み、容器に充填・密封されて加熱殺菌処理されたものである。
[燻煙処理を施したカレーパウダー]
燻煙処理を施したカレーパウダーを調製する際に原料として使用されるカレーパウダーとしては、特に限定されるものではなく、従来知られたカレーパウダーを用いることができる。具体的に、カレーパウダーとしては、例えば、カルダモン、クローブ、ナツメグ、フェヌグリーク、ローレル、フェンネル、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、陳皮、胡椒、唐辛子、マスタード、ジンジャー、ターメリック、パプリカ等から選ばれる2種以上、好ましくは5種以上を含む混合香辛料を用いることができる。カレーパウダーに用いる香辛料の種類は、求められる最終製品の風味に応じて適宜、調整すればよい。加熱殺菌処理済食品中の燻煙処理を施したカレーパウダーの含有量は、0.5質量%以上3質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上2質量%以下とすることが更に好ましい。
また、上記カレーパウダーを燻煙処理する際の具体的方法としては、特に限定されるものではないが、サクラ、ブナ、ナラ、ヒッコリー等の木材を加熱して発生させた煙にカレーパウダーを接触させる焙乾法や、人工的に煙と同じ成分を含む燻液を調製し、この燻液にカレーパウダーを接触させる液燻法等を挙げることが出来るが、香辛料本来のスパイス感を生かす上では、焙乾法により燻煙処理することが好ましい。なお、燻煙処理は、カレーパウダーに含まれる各香辛料を完全に混合した状態で行うことが好ましく、焙乾法により燻煙処理する場合には、カレーパウダーを混合しつつ煙を接触させることが好ましい。
カレーパウダーを燻煙処理することにより、カレーパウダーを用いた食品に付与される燻煙味や、通常、加熱殺菌処理や長期間の保存を経ることにより失われやすいカレーパウダーに配合された香辛料のスパイス感や香味が、加熱殺菌処理や長期間の保存を経た後においても劣化しにくいため、燻煙味やカレーパウダーのスパイス感、香味に優れた、加熱殺菌処理済食品を得ることができる。すなわち、混合香辛料であるカレーパウダーを燻煙処理することで、配合された香辛料のスパイス感や香味を融合して燻煙味を付けることができ、これにより保存時に劣化しにくい優れたスパイス感、香味を有する加熱殺菌処理済食品を提供ことができる。
なお、本発明においては、燻煙処理を施したカレーパウダーに加え、食品にスモークオイル(燻材を燃焼又は乾溜し、その溜分から得られる液体)を加えることにより、加熱殺菌処理された食品に更なる燻製味を付与してもよい。
【0009】
[燻煙処理を施していない香辛料]
本発明の加熱殺菌処理済食品には、燻煙処理を施していない香辛料が添加される。ここで、燻煙処理を施さないまま添加する香辛料としては、加熱殺菌処理や長期間の保存を経た後においてもそのスパイス感や香味が変化しにくい香辛料を用いることが好ましい。具体的には、ナツメグ、クローブ、カルダモン、クミン、及びコリアンダーからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、上記に列挙した香辛料からなる群から選ばれる少なくとも2種以上を用いることが好ましい。なお、香辛料の選択は、加熱殺菌処理済食品に求められる風味に応じて適宜選択することが好ましいが、例えば、クミン及びコリアンダーを組み合わせて使用することが好ましい。食品中、燻煙処理を施していない香辛料の含有量は、0.5質量%以上3質量%以下、好ましくは1質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
上記の燻煙処理を施していない香辛料は、加熱殺菌処理や長期間の保存を経た後においてもそのスパイス感や香味が失われにくいため、これらの香辛料を食品に加えることにより、前記の燻煙処理を施したカレーパウダーのスパイス感や香味と融合して、加熱殺菌処理された食品が、良好なスパイス感や香味を有し、食品全体の香りや風味のバランスに優れたものとなる。
【0010】
[加熱殺菌処理済食品]
本発明の加熱殺菌処理済食品としては、カレーパウダーを使用するものである限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、カレー、カレーシチュー、カレーフィリング、カレー風味の調理用ソース等を挙げることが出来る。これらの食品は、加熱殺菌処理されたものであるが、特にレトルトパウチに充填・密封され、レトルト処理されていることが好ましい。加熱殺菌処理済食品には、チルド食品や無菌充填食品等が含まれる。
【0011】
<加熱殺菌処理済食品の製造方法>
本発明は、加熱殺菌処理済食品の製造方法にも関する。本発明の加熱殺菌処理済食品の製造方法は、カレーパウダーに燻煙処理を施す工程(燻煙処理工程)と;カレーパウダー及び燻煙処理していない香辛料を使用して食品を調製する工程(食品調製工程)と;食品を容器に充填・密封する工程(充填・密封工程)と;食品が容器に充填・密封される前、又は容器に充填・密封された後に、加熱殺菌処理する工程(加熱殺菌処理工程)とを有する。
【0012】
[燻煙処理工程]
加熱殺菌処理済食品の製造方法は、カレーパウダーに燻煙処理を施す工程を有するが、カレーパウダーを燻煙処理する際の具体的方法としては、特に限定されるものではない。具体的には、上述の通り、木材を加熱して発生させた煙にカレーパウダーを接触させる焙乾法や、人工的に煙と同じ成分を含む燻液を調製し、この燻液にカレーパウダーを接触させる液燻法等を挙げることが出来るが、焙乾法により燻煙処理することが好ましい。
【0013】
[食品調製工程]
本発明の加熱殺菌処理済食品の製造方法の食品調製工程においては、上述のカレーパウダー及び燻煙処理を施していない香辛料を使用して食品を調製するが、この際、ルウ、具材や、他の原料を配合することにより、常法により食品を調製することが好ましい。
(ルウ)
加熱殺菌処理済食品の製造方法において用いられるルウは、小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂とを含む原料から得られるものである。
一般に、「ルウ」とは、小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂とを含む原料を加熱処理して得られたものをいう。
また、「小麦粉」としては、中力粉、強力粉、準強力粉、及び薄力粉等から選ばれた1種以上を用いることができる。
なお、澱粉としては、従来公知の澱粉を挙げることができ、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、及びもち米澱粉等、並びにこれらの加工澱粉等を挙げることができる。本発明の加熱殺菌処理済食品の製造方法においては、澱粉は、物質として100%純粋な澱粉に限らず、適当量の不純物を含むものでもよく、未処理澱粉に限らず各種加工澱粉であってもよい。
また、ルウの原料として用いることができる食用油脂としては、天然油脂、加工油脂、及びこれらの混合物のいずれをも用いることができる。具体的には、バター、マーガリン、豚脂、牛脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂を含む原料を加熱処理する場合、加熱温度は、原料の品温が110℃以上となるように加熱することが好ましく、110℃以上140℃以下に達するように加熱することが更に好ましい。また、加熱処理の時間は、3分から120分程度行うことが好ましい。
このルウは、香辛料、調味料等を添加して調製したものであってもよく、上記の燻煙処理を施したカレーパウダー及び/又は燻煙処理を施していない香辛料を添加して調製したものであってもよい。
【0014】
(具材)
加熱殺菌処理済食品の製造方法においては、当該食品に各種の具材を加えることが好ましい。
具材は、動物性のものであっても、植物性のものであってもよいが、動物性の具材としては、鶏肉、豚肉、牛肉、シーフード等、植物性の具材としては、ポテト、人参、ゴボウ、ダイコン等の根菜類;チェーチ、枝豆等の豆類;レンコン、アスパラ等の茎菜類;ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツ等の葉菜類;ナス、トマト、オクラ等の果菜類;ブロッコリー、カリフラワー等の花菜類;ワカメ、ヒジキ、コンブ等の藻類;シメジ、マッシュルーム、マイタケ等のきのこ類;パイナップル、リンゴ等の果実類;及びアーモンド、ゴマ等の種子類を挙げることができる。
これらの具材の処理方法については、各具材について従来知られている方法を採用すればよい。
【0015】
(他の原料)
本発明の加熱殺菌処理済食品の製造方法により製造される食品は、その目的とする最終形態に応じて、各種調味料等の風味原料、植物性原料のペースト状物(例えば、トマトペースト、ポテトペースト、リンゴペースト、オニオンペースト、カボチャペースト、ブロッコリーペースト等)等を含んでいてもよい。
特に、風味原料として、ペプチド、糖類、及び水を含む流動性調味料を配合してもよい。
(流動性調味料)
本発明の加熱殺菌処理済食品の製造方法に用いられる流動性調味料は、味噌等のペプチド、糖類、及び水を含む混合物に、品温90℃以上100℃以下で45分以上150分以下加熱処理を施したものである。流動性調味料を添加することにより、旨味成分の旨味が十分に引き出されると共に、加熱殺菌処理によっても当該旨味が劣化することが少ないので、燻煙処理されたカレーパウダーの燻製味及び燻煙処理を施していない香辛料の香味とあいまって、調和の取れた風味を有する食品を得ることができる。
(ペプチド)
ペプチド又はこれを含む原料として、例えば、各種ペプチドの単品、味噌、酵母エキス、タンパク加水分解物、畜肉エキス等又はこれらの混合物を用いることができ、味噌を用いることが好ましい。流動性調味料の調製に用いられる味噌としては、特に限定されるものではなく、液状、ペースト状、粉末状、顆粒状の味噌を挙げることができる。本発明においては、味噌特有の香りが弱い粉末状又は顆粒状の味噌に限られず、液状又はペースト状の生味噌を使用することによっても、加熱殺菌処理済食品の風味改善の効果が十分に得られる。
なお、味噌自体、比較的粒子が大きく、喫食時にざらつき等の好ましくない食感を与える可能性がある。このため、味噌自体を予めコミトロール等によって処理し、微粒子化しておくか、味噌を添加した流動性調味料や、流動性調味料を添加した食品を、コミトロール等によって処理して微粒子化することが好ましい。
流動性調味料中のペプチドの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下であることが好ましい。また、ペプチドが味噌である場合の含有量は、タンパク質量に換算して0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。流動性調味料中のペプチド又は味噌の含有量を、上記の範囲内のものとすることにより、加熱殺菌処理済食品が、より良好なコク味があって、より芯のある調和の取れた旨味を有し、且つ、味噌特有の醗酵臭を有さないものとなる。
(糖類)
流動性調味料の調製に用いられる糖類としては、特に限定されるものではなく、従来公知の糖類を使用することができる。具体的には、ショ糖、ブドウ糖、ハチミツ、果糖等を挙げることができる他、タマネギ細断物等を、糖類を含む原料として用いてもよい。糖類としては、特にショ糖が好ましい。これらの糖類は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
流動性調味料中の糖類の含有量は、0.05質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。上記の含有量で、流動性調味料に糖類を配合することにより、加熱殺菌処理済食品に好適な風味を付与可能な流動性調味料を調製することができる。
(水)
流動性調味料の調製に用いることができる水の含有量は、流動性調味料中1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、10質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
(流動性調味料の調製の際の加熱処理)
流動性調味料の調製の際の加熱処理は、ペプチド、糖類、及び水を含む混合物の品温90℃以上100℃以下で、45分以上150分以下であることが好ましく、60分から100分加熱することが更に好ましい。ここで、上記の条件は、混合物の品温が、上記指定の温度で上記指定の時間保持されることを指す。
(流動性調味料の含有量)
本発明の加熱殺菌処理済食品には、流動性調味料を1質量%以上70質量%以下含ませることが好ましく、5質量%以上35質量%以下含ませることが更に好ましい。また、流動性調味料中のペプチドの含有量及び加熱殺菌処理済食品中の流動性調味料の含有量を適宜調整することにより、食品中、流動性調味料として添加されるペプチドの含有量を、0.01質量%以上1質量%以下とすることが好ましい。ペプチドが味噌である場合は、タンパク質含量で、0.01質量%以上2質量%以下とすることが好ましく、0.03質量%以上1質量%以下とすることが更に好ましい。
【0016】
[充填・密封工程、及び加熱殺菌処理工程]
充填・密封工程、及び加熱殺菌処理工程は、上記食品を容器に充填・密封すると共に、食品が容器に充填・密封される前に、又は容器に充填・密封された後に、加熱殺菌処理するものである。このような、容器への充填・密封、及び食品の加熱殺菌処理は、従来公知の方法で行えばよい。
例えば、加熱殺菌処理済食品が、レトルト食品である場合、食品をレトルトパウチに充填した後、密封し、これを例えば120℃から125℃で、20分から60分間加熱することにより、レトルト処理すればよい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
<香辛料の混合・調製>
(カレーパウダーB)
レトルトカレーソースに一般に用いられるカレーパウダーで、クミン、コリアンダーを含むもの。
(燻製カレーパウダーA)
カレーパウダーBから、クミン、コリアンダーを実施例1で単独で用いた量だけ減らした「カレーパウダーA」を、ヒッコリーを用いて焙乾法により燻煙処理したもの。なお、カレーパウダーAにもクミン、コリアンダーが含まれる。
(燻製カレーバウダーB)
カレーパウダーBを、ヒッコリーを用いて焙乾法により燻煙処理したもの。
(クミン、コリアンダー)
燻煙処理をしていない粉末状のもの。
【0019】
<実施例1>
表に示した原料のうち、生味噌(タンパク質含量10質量%、水分40質量%)、砂糖、及び水(全原料に対して15%の量に相当)を加熱釜で撹拌しながら100℃に達温するまで加熱して流動性調味料を調製した。
次いで、加熱釜に残りの原料を加えて、撹拌しながら100℃に達温するまで加熱してカレーソースを調製し、レトルトパウチに充填密封し、レトルト処理を施した。なお、得られたレトルトカレーには、流動性調味料の形で添加された味噌がタンパク質含量で0.1質量%含まれていた。
<実施例2及び3、並びに比較例1及び2>
各実施例及び比較例について、加熱釜に表に示した原料を加えて、撹拌しながら100℃に達温するまで加熱してカレーソースを調製し、レトルトパウチに充填密封し、レトルト処理を施した。
【0020】
<評価>
各実施例及び比較例で得られたレトルトカレーソースと、レトルト処理してから6ヶ月保存後のレトルトカレーソースに相当する製品とについて、官能試験により、以下の基準で、風味を10名のパネリストの官能評価により5段階で評価した。結果を表1に示す。
5:燻煙味とスパイス感のバランスが良く、全体的にしっかりとした味の強さがある。
4:燻煙味とスパイス感のバランスが良く、全体的に適度な味の強さがある。
3:燻煙味とスパイス感のバランスは良いが、味の強さがやや弱い。
2:燻煙味とスパイス感のバランスが悪い。
1:燻煙味とスパイス感のバランスが悪く、味の強さが弱い。
【0021】
【表1】
(表中の数値は質量%で表される)
※スモークオイル粉末は、デキストリンにヒッコリーの香りを付与したものである。
※スモークフレーバーは、燻煙処理時の煙の香りをイメージした香料製剤である。
【0022】
表1より、本発明の加熱殺菌処理済食品は、比較例の加熱殺菌処理済食品と比較しても、加熱殺菌処理や、長期間の保存を経た後においても、良好な燻煙味を有する一方で、燻煙処理を施していない香辛料による優れた風味をも有し、食品全体の香りや風味のバランスが優れたものとなるとともに、食品のスパイス感が優れたものとなっていることが分かった。