特許第5861611号(P5861611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エコ・プロジェクトの特許一覧

<>
  • 特許5861611-生コンスラッジの中性化処理方法 図000004
  • 特許5861611-生コンスラッジの中性化処理方法 図000005
  • 特許5861611-生コンスラッジの中性化処理方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861611
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】生コンスラッジの中性化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20160202BHJP
   C04B 18/16 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   C02F11/00 101Z
   C04B18/16
   C02F11/00 HZAB
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-238006(P2012-238006)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-87723(P2014-87723A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501362021
【氏名又は名称】株式会社エコ・プロジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正男
(72)【発明者】
【氏名】時田 孝至
(72)【発明者】
【氏名】岡林 誠治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 瑛
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−036178(JP,A)
【文献】 特開2000−119651(JP,A)
【文献】 特開2003−305497(JP,A)
【文献】 特開2002−322475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生コンスラッジに、硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を養生する養生工程とを備え、前記混合工程において硫酸第一鉄を硫酸第一鉄・一水塩換算で生コンスラッジ1mあたり100kg以上添加し、前記養生工程において14日以上養生することでpHを9.1以下とし黄褐色に着色するとともに六価クロムを還元することを特徴とする生コンスラッジの中性化処理方法。
【請求項2】
前記混合工程において高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを生コンスラッジ1mあたり0.3kg以上添加する請求項1記載の生コンスラッジの中性化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生コンスラッジの中性化処理方法及び中性化処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンスラッジ(生コンクリートスラッジ)は、生コンクリート工場のミキサーやアジテータ車からの洗い水、現場で打ち込まないで残ったコンクリート(以下、残コンという。)や荷卸し検査に不合格となって生コン会社に戻されるコンクリート(以下、戻りコンという。)を処理した排水に含まれる固形分である。生コンスラッジには、主に未反応のセメント粒子、セメント水和生成物、骨材微粒子が含まれている。
【0003】
生コンスラッジは、産業廃棄物上は汚泥に分類されており、強アルカリ性であることから、原則として管理型処分場にて埋め立て処分されている。しかし、全国の生コンスラッジの排出量は、約300万m/年間と見積もられ、管理型処分場の残余年数の問題が指摘されている。このため、業者間では以前より強く生コンスラッジの再利用策が望まれていた。
【0004】
ところが、例えば、生コンスラッジを埋め戻し材料として再利用するためには、全国の保健所の指導によれば、強アルカリ性の生コンスラッジのpHを中性化し、灰色の生コンスラッジを粘性土色に着色し、さらに、生コンスラッジに含有される六価クロムを土壌の汚染に係る環境基準0.05mg/L以下に抑える必要がある。
【0005】
なお、特許文献1には、コンクリートスラッジの固化処理方法として、六価クロムを還元して不溶化、造粒固化することが開示されている。しかし、この方法で得られる固化体のpHは依然としてアルカリ性であるため、国土交通省のリサイクル基準に合致するものの、保健所の指導により埋め戻し材料として再利用することができない、という問題があった。また、この固化体のpHを中性化しようとすれば、そのための処理コストがかなり多くかかってしまう、という問題があった。
【0006】
このほか、引用文献2には、生コンスラッジを回収し、これにセメント、水及び砕石を添加混練して再生生コンクリートを生成し、これを型枠内に養生固化し、さらに凝固させた後、これを破砕及び又は粉砕して所定粒径以下の再生切込み材を形成する生コンスラッジ再生法が開示されている。また、引用文献3には、生コンスラッジを脱水させ、脱水後の生コンスラッジに質量比40%ないし80%の高炉スラグ微粉末を混練させてなる生コンスラッジの処理方法が開示されている。しかし、これらの方法で得られた再生材は生コンスラッジのリサイクル方法を提案しているが、そのための設備費やコスト問題が懸念される。更に、このような方法では基本的に生コンスラッジの中和化を意識したものでない。
【0007】
生コンスラッジを埋戻し材、盛土材および路盤材などに有効活用しようとする場合、産業廃棄物上の汚泥としての認定を外れなければならないが、それには生コンスラッジの安全性と多様性用途を意識した中性化、着色、六価クロムの還元が必須条件となっている。このため、これらの条件を満たす生コンスラッジの処理方法が強く求められていた。
【0008】
更には、生コンスラッジ排出業者の新たな設備投資を必要とせず、従来の設備を使いながら、しかも管理型処分場に持ち込む経費より、かなり安価な処理方法が望まれていた。同時に、中性化処理土が汎用土木用資材として広く活用されることが期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−36178号公報
【特許文献2】特開2008−50189号公報
【特許文献3】特開2001−191095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、低コストにて生コンスラッジを埋め戻し材料として再利用することを可能にする、新規の生コンスラッジの中性化処理方法及び中性化処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、硫酸第一鉄を中性化処理材の成分として用いることで、生コンスラッジの中性化、着色、六価クロムの還元を同時にかつ低コストにて達成できることを見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明の生コンスラッジの中性化処理方法は、生コンスラッジに、硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を養生する養生工程とを備え、前記混合工程において硫酸第一鉄を硫酸第一鉄・一水塩換算で生コンスラッジ1mあたり100kg以上添加し、前記養生工程において14日以上養生することでpHを9.1以下とし黄褐色に着色するとともに六価クロムを還元することを特徴とする。
【0013】
また、前記混合工程において高分子凝集剤としてポリアクリルアミドを生コンスラッジ1mあたり0.3kg以上添加する
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生コンスラッジの中性化、着色、六価クロムの還元を同時にかつ低コストにて達成でき、低コストにて生コンスラッジを埋め戻し材料として再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】処理材Aを添加した場合のpHの経時変化を示すグラフである。
図2】処理材Bを添加した場合のpHの経時変化を示すグラフである。
図3】処理材Cを添加した場合のpHの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の生コンスラッジの中性化処理方法は、生コンスラッジに、硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を養生する養生工程とを備えたものである。
【0017】
一般的な生コンスラッジは、pH11〜14、湿潤密度1.1〜2.0g/ml、含水比30〜100%である。
【0018】
はじめに混合工程において、この生コンスラッジに硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合する。
【0019】
ここで、硫酸第一鉄としては、無水物や種々の水和物が知られており、特定のものに限定されるものではないが、例えば、硫酸第一鉄・一水塩、硫酸第一鉄・四水塩を好適に用いることができる。また、酸化チタン製造の副産物や鉄鋼洗浄廃液の乾燥品として得られた硫酸第一鉄を用いることができる。
【0020】
混合工程における硫酸第一鉄の添加量は、一水塩換算で、好ましくは、生コンスラッジ1mあたり100kg以上とする。これは、100kg未満では、つぎの養生工程において混合物のpHが中性付近に到達しないためである。なお、生コンスラッジ1mあたり100kgの硫酸第一鉄(一水塩換算)を添加すれば、養生後のpHはおよそ9以下の中性付近に到達し、埋め戻し材料として再利用可能なレベルとなる。さらに、確実にpHを中和付近に到達させるためには、硫酸第一鉄の添加量は、一水塩換算で、生コンスラッジ1mあたり140kg以上とするのが好ましいが、経済性を考慮して120〜150kgとしてもよい。
【0021】
また、高分子凝集剤としては、一般的に知られている種々のノニオンポリマー、アニオンポリマーを用いることができる。特定のものに限定されるものではないが、例えば、ノニオンポリマーとしては、ポリアクリクアミド、アニオンポリマーとしては、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合物を好適に用いることができる。高分子凝集剤の添加量は、例えば、硫酸第一鉄(一水塩換算)100質量部に対して0.05〜1.5質量部とすることができる。なお、ポリアクリルアミドを用いる場合は、混合物の造粒性を良好にするために、ポリアクリルアミドの添加量は、生コンススラッジ1mあたり0.05kg以上、さらには0.3kg以上とするのが好ましい。
【0022】
また、無機粉末としては、一般的に知られている種々の無機物からなる粉末を用いることができる。特定のものに限定されるものではないが、例えば、シリカ粉末、フライアッシュ、酸性白土粉末やカオリン粉末などの粘土鉱物の粉末、高炉スラグ粉末、及び鋳物砂粉末などが好適に用いられる。無機粉末の添加量は、例えば、硫酸第一鉄(一水塩換算)100質量部に対して1〜80質量部とすることができる。無機粉末は、混合物を均一に混合しやすくするために添加する。
【0023】
つぎに養生工程において、上記混合工程において生コンスラッジに硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合することによって得られた混合物を養生する。
【0024】
ここで、硫酸第一鉄は、酸性化成分として作用して生コンスラッジと中和反応する。そして、これと同時に、生コンスラッジに含まれる六価クロムが三価クロムに還元される。一方、硫酸第一鉄の二価鉄は三価鉄に酸化され、この三価鉄の生成により、混合物の色が暗緑色から暗茶色を経て茶色に変化する。さらに、混合物を撹拌し養生することにより二価鉄から三価鉄への空気酸化が促進され、最終的には粘性土の色である黄褐色に至る。また、積極的に酸化を促進させる場合は酸化剤、例えば次亜塩素酸、過酸化水素、過マンガン酸塩などを添加する方法もある。
【0025】
養生工程における養生時間は、14日以上とするのが好ましいが、この期間中3日に1回位の頻度で養生物全体をバックホゥなどで撹拌混合し、空気接触を多くする事が好適である。更に養生時間を14日以上とすることにより、中和反応が十分に進んで混合物のpHが中性付近に達する。
【0026】
また、高分子凝集剤は、固化材として作用し、混合物を固化させる。高分子凝集剤の凝集作用により、混合物を撹拌した際の造粒が容易となる。
【0027】
本発明の生コンスラッジの中性化処理材は、上記の生コンスラッジの中性化処理方法を行うために配合されたものであり、硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを含有する。なお、硫酸第一鉄、高分子凝集剤、無機粉末についての詳細は上述のとおりである。
【0028】
硫酸第一鉄、高分子凝集剤、無機粉末の配合割合は、例えば、硫酸第一鉄(無水物換算)100質量部に対して、高分子凝集剤0.05〜1.5質量部、無機粉末1〜80質量部とすることができる。
【0029】
更に、本発明の中性化処理後の処理土は、生コンスラッジ構成成分である骨材粒子やケイ酸カルシウムなどの他に、中和副成分として硫酸カルシウム、鉄酸四カルシウムやケイ酸塩と鉄などの複塩が含まれているものと予想される。
【0030】
以下、本発明の生コンスラッジの中性化処理方法について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0031】
灰白色、pH12.78(20〜25℃)、湿潤密度1.6062g/cm、含水比60.7%の生コンスラッジを用いて、以下の中性化処理を行った。
【0032】
中性化処理材として、硫酸第一鉄・一水塩60質量%、ポリアクリルアミド0.4質量%、シリカ粒子3.6質量%、フライアッシュ36質量%を配合した処理材A、硫酸第一鉄・一水塩96質量%、ポリアクリルアミド0.4質量%、シリカ粒子3.6質量%を配合した処理材B、硫酸第一鉄・一水塩100質量%からなる処理材Cを用意した。
【0033】
そして、生コンスラッジを予め均一に混合した後、所定量のスラッジを採取し、生コンスラッジ1mあたり以下の表に示す添加量の処理材を添加してスパーテルで30秒間混合し、造粒性の状態を観察した。その後、開放状態で養生し、pHの経時変化を測定した。なお、pHはJIS 0211、含水比はJIS A 1203に準拠して測定した。造粒性の状態は目視により観察して評価し、pH0日後は混合1時間後に測定した。また、表中、硫酸鉄とあるのは、硫酸第一鉄・一水塩の添加量である。その結果を以下の表に示す。また、処理剤Aを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図1に、処理剤Bを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図2に、処理剤Cを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図3に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
いずれの処理剤を添加した場合にも、pHは養生初期に大きく低下し、その後ゆるやかに低下した。また、いずれの処理剤を添加した場合にも、硫酸第一鉄・一水塩の添加量が多いほどpHの低下が大きかった。そして、生コンスラッジ1mあたりの硫酸第一鉄・一水塩の添加量が100kg以上の場合に14日間の養生後のpHが9.1以下となり、140kg以上の場合にpHが8.6以下となった。
【0036】
造粒性については、ポリアクリルアミドを含まない処理剤Cを用いた場合と、ポリアクリルアミドを含む処理剤A、Bを50kg/m(生コンススラッジ1mに対しポリアクリルアミド0.2kg)添加したときにやや悪かったが、それ以外の場合は良好であった。
【0037】
また、14日間の養生後の混合物の六価クロムの溶出試験を行った。110℃で乾燥後、乳鉢で砕き目開き2mmの篩いを通し、ジフェニルカルバジド吸光光度法に準拠したパックテストを行った。その結果、いずれの処理剤を添加した場合においても、14日間の養生後に六価クロムは検出されなかった。一方、未処理の生コンスラッジからは、0.15ppmの六価クロムが検出された。
【0038】
また、14日間の養生後の混合物の測色試験を行った。小砂利、砂を除去するために、混合物を乳鉢で粗粉砕し、16#(1000μm)の篩いにかけた。つぎに、乳鉢で粉砕して60#(250μm)の篩いをかけて、篩いを通過したものについて試験を行った。色の測定は、JIS Z 8722:2009に準拠し、色の表示方法は、JIS Z 8729:2004に準拠して行った。その結果を下表に示す。また、下表には、測色試験の結果からJIS Z 8721:1993に基づき求めたMunsell値と、JIS Z 8102:2001に記載の269色慣用色名と近似した相当色名を併せて記載した。生コンスラッジ1mあたり192kgの硫酸第一鉄・一水塩を添加したときに、粘性土の色である濃い黄褐色(土色)になり、それ以外の場合は薄い黄褐色(金茶)になった。
【0039】
【表2】
図1
図2
図3