(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861704
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】多孔性ポリマービーズとナノエマルジョンによって安定化されたレチノールを含有する化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20160202BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20160202BHJP
A61K 8/97 20060101ALI20160202BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20160202BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20160202BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/81
A61K8/97
A61K8/55
A61K8/06
A61Q19/00
A61Q19/08
A61Q1/02
A61Q5/02
A61Q5/12
A61Q19/10
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-516493(P2013-516493)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公表番号】特表2013-529629(P2013-529629A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】KR2011003132
(87)【国際公開番号】WO2011162478
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年4月28日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0058549
(32)【優先日】2010年6月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512322508
【氏名又は名称】エーシーティ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サンホ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,スジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユンジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジョンウ
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/128292(WO,A1)
【文献】
特表2008−546614(JP,A)
【文献】
特表2009−536162(JP,A)
【文献】
特表2002−512184(JP,A)
【文献】
特開2003−131201(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/099911(WO,A1)
【文献】
特開平09−183722(JP,A)
【文献】
特表2004−538296(JP,A)
【文献】
特開2002−308728(JP,A)
【文献】
特開2002−179516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノールがメソ多孔性ポリマービーズ(mesoporous polymer bead)に吸着して形成されたレチノールナノ高分子カプセルを緑豆MCT(medium chain triglyceride)抽出物とレシチンを用いて50〜200nmのサイズにナノエマルジョン化することにより、安定化されたレチノールを含有する、抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項2】
前記メソ多孔性ポリマービーズはエチレングリコールジメタクリレート(ethylene glycol dimethacrylate)で架橋結合されたポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrlyate)からなることを特徴とする、請求項1に記載の抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項3】
活性成分としてのレチノールは前記レチノールナノ高分子カプセルの0.5〜10重量%で含有されることを特徴とする、請求項1に記載の抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項4】
前記レシチンは水素化レシチン、水素化ホスファチジルコリン、リン脂質、水素化リゾホスファチジルコリン、水素化リゾレシチン、水酸化レシチン及び不飽和レシチンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする、請求項1に記載の抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項5】
前記安定化されたレシチンは化粧料組成物の全体重量に対して0.0001重量%〜50重量%含有されることを特徴とする、請求項1に記載の抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項6】
前記化粧料組成物はその剤形が柔軟化粧水、栄養化粧水、マッサージクリーム、栄養クリーム、パック、ジェル、皮膚粘着タイプの化粧料、リップスティック、メークアップベース、ファンデーション、シャンプー、リンス、ボディークレンジャー、石鹸、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ剤又は噴霧剤であることを特徴とする、請求項1に記載の抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物。
【請求項7】
(A)(a1)エタノールに50nm〜500nmのメソ多孔性ポリマービーズを添加して攪拌した後、抗酸化剤としてのブチル化ヒドロキシトルエンを混合して溶解させる段階と、(a2)レチノール(ビタミンA)を添加して完全に溶解させた後、蒸留水を混合して攪拌する段階と、(a3)減圧濾過の後に乾燥させ、レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを製造する段階と、
(B)(b1)グリセリンを加温した後、トコフェリルアセテート、ブチル化ヒドロキシアニソール及び緑豆MCT抽出物を混合しながら溶解させる段階と、
(b2)コレステロールを添加して溶解させた後、前記レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを添加する段階と、
(b3)水素化リゾレシチンを混合して溶解させ、精製水を入れて攪拌することによりナノエマルジョン組成物を製造する段階と、
(C)高圧ホモジナイザーを用いてサイズ50〜200nmのナノエマルジョンを形成して安定化する段階とを含んでなる、レチノールの安定化方法。
【請求項8】
前記ナノエマルジョン組成物はグリセリン1〜60重量%、トコフェリルアセテート0.5〜1重量%、ブチル化ヒドロキシアニソール0.03〜0.05重量%、緑豆MCT抽出物1〜12重量%、コレステロール1〜2重量%、レチノールナノ高分子カプセル1〜10重量%、水素化リゾレシチン1〜3重量%、及び精製水を含んでなることを特徴とする、請求項7に記載のレチノールの安定化方法。
【請求項9】
前記緑豆MCT抽出物が緑豆のトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(caprylic/capric triglyceride)抽出物であることを特徴とする、請求項8に記載のレチノールの安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不安定な脂溶性物質のレチノールを安定化して化粧料に利用する技術に係り、具体的には、生理活性成分レチノール(ビタミンA)をメソ多孔性(mesoporous)高分子粒子内に吸着させて一次的に安定化した後、これをさらに特定の脂溶性天然抽出物とレシチンを用いてナノエマルジョン化することにより二次的に安定化して低刺激性皺改善用化粧料に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性化粧品(cosmeceutical)とは、化粧品(cosmetics)と医薬品(pharmaceutical)の概念が合成されたものである。最近、機能性化粧品の開発に関心が集中している。機能性を有する活性成分の研究、効能成分の経皮吸収促進に関連した剤形の研究、及び皮膚生理に対する基礎研究などが盛んに行われている。これにより、皮膚老化防止、紫外線や有害物質などの外部環境からの皮膚保護、及び新しい皮膚細胞生成の促進などに関連した機能性成分の開発とこれらの効能及び皮膚安全性の測定方法に関する研究などが主な関心分野となっている。化粧品の原料として集中的に研究されている有効成分としては、ビタミンA、C、Eなどのビタミン、セラミド(ceramide)、α−ヒドロキシ酸(α-hydroxy acid)、またはβ−ヒドロキシ酸(β-hydroxy acid)、グルカン(glucan)、酵素(enzyme)、調節因子(modulator)、各種植物抽出物などを挙げることができる。
【0003】
ビタミンは、過去から皮膚皺改善用として多く使われてきた。ビタミンが皮膚に及ぼす影響に関する基礎研究が盛んに行われているが、低い安定性により、多様な適用には制限を受けている実情である。したがって、ビタミン自体の安定性を向上させようとする研究が併行されてきた。特に、ビタミンAであるレチノールに関する研究が最近10年間盛んに行われている。レチノールは皮膚のコラーゲン合成を増大させ、角質層のターンオーバーを促進させて細胞の生成を促進させる効果を持っているものと報告されている。ところが、レチノールを過量で皮膚に適用すると、強い皮膚刺激を誘発し、レチノール自体が非常に不安定であるという短所を持っている。したがって、レチノールの安定性を向上させ、少ない量の使用でも十分な活性を示すことができるように、経皮吸収を促進し且つ持続的に均一な量を皮膚に提供することが可能な剤形化技術が求められてきた。かかる問題点を解決するために、現在、カプセル化、無水ベース、特別容器の開発などに関する研究が進行中であり、特に高分子を用いたレチノールカプセル化に関する研究は国内外で様々に行われている。
【0004】
その一例として、韓国特許登録第0463167号には、数〜数百ナノメートルサイズの高分子粒子内に生理活性有効成分としてのレチノールを捕集し、前記高分子粒子を皮膚の内部に拡散、浸透させ、前記生理活性有効成分を捕集した高分子粒子が皮膚構造の中間層に留まるようにして、前記高分子粒子内の有効成分が皮膚内に徐々に伝達されるようにする経皮吸収剤が開示されている。
【0005】
ところが、上述したようにレチノールを高分子粒子内に捕集させて直接皮膚の内部に拡散、浸透させる場合に皮膚刺激のおそれがあり、剤形内における十分な安定性を確保することができないという問題点があった。本発明者は、レチノールを一次的にメソ多孔性ポリマービーズ(mesoporous polymer bead)に吸着させた後、二次的にナノエマルジョンを形成する安定化技術を用いてレチノールカプセルを製造し、これを化粧料に利用することにより、レチノールの安定性が大きく向上するうえ、経皮吸収が促進され、レチノールの最も大きい問題点である皮膚刺激が減少し、皮膚皺改善効果に優れた化粧料を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、二重安定化方法によって安定化されたレチノールを含有する化粧料組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、レチノールを効果的に安定化する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、レチノールがメソ多孔性ポリマービーズ(mesoporous polymer bead)に吸着して形成されたレチノールナノ高分子カプセルを脂溶性天然抽出物としての緑豆MCT(medium chain triglyceride)抽出物とレシチンを用いてナノエマルジョン化することにより、安定化されたレチノールを含有する皮膚皺改善用化粧料組成物が提供される。
【0009】
前記メソ多孔性ポリマービーズは、生体適合性に優れたメソ多孔性ポリマービーズ(mesoporous polymer bead)であり、好ましくはエチレングリコールジメタクリレート(ethylene glycol dimethacrylate)で架橋結合されたポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrlyate)からなる。活性成分としてのレチノールは、前記レチノールナノ高分子カプセルの0.5〜10重量%で含有される。
前記レシチンは、水素化レシチン、水素化ホスファチジルコリン、リン脂質、水素化リゾホスファチジルコリン、水素化リゾレシチン、水酸化レシチン及び不飽和レシチンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のレシチンであり、好ましくは水素化リゾレシチンである。前記ナノエマルジョンは50〜200nmのサイズを有し、好ましくは70〜100nmのサイズを有する。
前記安定化されたレシチンは化粧料組成物の全体重量に対して0.0001重量%〜50重量%含有される。前記化粧料組成物は、その剤形が柔軟化粧水、栄養化粧水、マッサージクリーム、栄養クリーム、パック、ジェル、皮膚粘着タイプの化粧料、リップスティック、メークアップベース、ファンデーション、シャンプー、リンス、ボディークレンジャー、石鹸、
ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ剤又は噴霧剤として適用できる。
前記他の目的を達成するために、本発明によれば、(A)(a1)エタノールに50nm〜500nmのメソ多孔性ポリマービーズを添加して攪拌した後、抗酸化剤としてのブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene)を混合して溶解させる段階と、(a2)レチノール(ビタミンA)を添加して完全に溶解させた後、蒸留水を混合して攪拌する段階と、(a3)減圧濾過後に乾燥させ、レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを製造する段階と、(B)(b1)グリセリンを加温した後、トコフェリルアセテート(tocopheryl acetate)、ブチル化ヒドロキシアニソール(butylated hydroxyl anisole)及び緑豆MCT抽出物を混合しながら溶解させる段階と、(b2)コレステロールを添加して溶解させた後、前記レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを添加する段階と、(b3)水素化リゾレシチン(hydrogenated lysolecithin)を混合して溶解させ、精製水を入れて攪拌することによりナノエマルジョン組成物を製造する段階と、(C)高圧ホモジナイザー(Microfluidizer)を用いてサイズ50〜200
nmのナノエマルジョンを形成して安定化する段階とを含んでなる、レチノールの安定化方法が提供される。
前記製造方法において、前記ナノエマルジョン組成物は、グリセリン1〜60重量%、トコフェリルアセテート0.5〜1重量%、ブチル化ヒドロキシアニソール0.03〜0.05重量%、緑豆MCT(medium chain triglyceride)抽出物1〜12重量%、コレステロール1〜2重量%、レチノールナノ高分子カプセル1〜10重量%、水素化リゾレシチン1〜3重量%、及び精製水を含んでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の安定化されたレチノールを含有する化粧料組成物は、二重に安定化されたレチノールを用いるのでその安定性が高く、経皮吸収率に優れるうえ、レチノールを特定のサイズに形成されるナノ高分子カプセルに捕集して皮膚内に浸透させるので徐放性に優れて活性成分を皮膚に持続的に供給することにより皮膚の皺を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の安定化されたレチノールの力価維持能を示すグラフである。
【
図2】本発明の安定化されたレチノールの力価維持能を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施例に係る安定化レチノールのサイトカイン発現抑制能を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施例に係る安定化レチノールのコラーゲン生成促進効果を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施例に係る安定化レチノールのコラーゲン生成促進効果を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施例に係る安定化レチノール含有剤形の安定性を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施例に係る安定化レチノール含有化粧料の安定性試験結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、空気、水分又は熱に不安定な活性成分としてのレチノールを効果的に安定化し、且つ経皮吸収率を高めて少ない量の使用でも抗炎及び皺改善効果を確保し、活性成分の徐放性を実現して皮膚刺激を抑制することを技術的特徴とする。
【0013】
これを達成するために、本発明によれば、レチノール(ビタミンA)がメソ多孔性高分子粒子に捕集されて形成されたレチノールナノ高分子カプセルを緑豆MCT(medium chain triglyceride)抽出物とレシチンでナノエマルジョン化することにより、安定化されたレチノールを含有する抗炎及び皮膚皺改善用化粧料組成物が提供される。
【0014】
以下、レチノールの二重安定化方法について詳細に説明する。
【0015】
まず、活性成分としてのレチノールが、生体適合性に優れたメソ多孔性ポリマービーズに吸着することにより、一次的に安定化されるレチノールナノ高分子カプセルを製造する。前記メソ多孔性ポリマービーズとしては、生体適合性に優れた多孔性高分子物質が使用でき、好ましくはエチレングリコールジメタクリレートで架橋結合されたポリメチルメタクリレートが使用できる。
この場合、レチノールを捕集する前記メソ多孔性高分子粒子は、50nm〜500nm、好ましくは200nm〜300nm、さらに好ましくは200nmのサイズを有する多孔性ポリマービーズを使用することができる。レチノールを捕集した前記メソ多孔性高分子粒子は、以後のナノ柔化過程で粒子サイズが調整される。これは、レチノールの捕集段階であまり小さい粒子の多孔性ポリマービーズを使用する場合にはレチノールの捕集が難しいためである。活性成分としてのレチノールは、制限的ではないが、前記レチノールナノ 高分子カプセルの0.5〜10重量%で含有される。
このように一次的に安定化されたレチノールナノ高分子カプセルをグリセリン、トコフェリルアセテート、ブチル化ヒドロキシアニソール、緑豆MCT(medium chain triglyceride)抽出物、コレステロール、レシチン及び精製水を含む組成物に添加して二次安定化のためのナノエマルジョン組成物を製造する。その後、高圧ホモジナイザーを用いて、50〜200nmのサイズ、好ましくは70〜100nmのサイズを有するナノエマルジョンを形成することにより、安定化されたレチノールを製造する。
前記レシチンとしては、水素化レシチン、水素化ホスファチジルコリン、リン脂質、水素化リゾホスファチジルコリン、水素化リゾレシチン、水酸化レシチン及び不飽和レシチンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のレシチンが使用でき、好ましくは水素化リゾレシチンである。
本発明の一実施例によれば、前記緑豆MCT抽出物は、緑豆をトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(caprylic/capric triglyceride)に混合した後、80℃程度で3〜5時間抽出して製造される。前記緑豆抽出物自体の抗炎及び皺改善効能はレチノール含有エマルジョン内でその効果の上昇が行われ、前記緑豆MCT抽出物は前記ナノエマルジョンの安定化にも寄与するので、緑豆MCT抽出物の添加はレチノールの安定性が向上した抗炎及び皺機能改善用化粧料の製造において重要である。本発明では、レチノールをナノ高分子カプセルに吸着させて直接皮膚に適用するのではなく、これをさらにエマルジョン形成カプセル化して皮膚に適用する特徴を持つ。これは、不安定な活性成分であるレチノールをさらに安定化することにより長期間力価を維持させるうえ、ナノエマルジョン化することにより皮膚透過率を向上させるという効果をもたらす。
本発明の具体的な一具現例によれば、前記レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを担持するエマルジョンは、前記レチノールが担持されたナノ高分子カプセル10重量%をグリセリン60重量%、トコフェリル1重量%、ブチル化ヒドロキシアニソール0.05重量%、緑豆MCT抽出物12重量%、コレステロール2重量%、水素化リゾレシチン3重量%及び精製水と混合して作られる組成物によって製造できる。
前記安定化されたレチノールは化粧料組成物の全体重量に対して0.0001重量%〜50重量%含有される。前記化粧料組成物は柔軟化粧水、栄養化粧水、マッサージクリーム、栄養クリーム、パック、ジェル、皮膚粘着タイプの化粧料、リップスティック、メークアップベース、ファンデーション、シャンプー、リンス、ボディークレンジャー、石鹸、
ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ剤又は噴霧剤の剤形として適用できる。
本発明の一実施例によれば、本発明の安定化されたレチノールは下記の方法によって製造できる。
(A)(a1)エタノールに50nm〜500nmのメソ多孔性ポリマービーズを添加して攪拌した後、ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated polymer bead)を混合して溶解させる段階と、(a2)レチノール(ビタミンA)を添加して完全に溶解させた後、蒸留水を混合して攪拌する段階と、(a3)減圧濾過後に乾燥させ、レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを製造する段階と、
(B)(b1)グリセリンを80℃程度に加温した後、トコフェリルアセテート、ブチル化ヒドロキシアニソール、及び緑豆MCT抽出物を混合しながら溶解させる段階と、(b2)コレステロールを添加して溶解させた後、前記レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを添加する段階と、(b3)水素化リゾレシチンを混合して70℃程度で溶解させ、精製水を入れて攪拌してナノエマルジョン組成物を製造する段階と、
(C)高圧ホモジナイザー(Microfluidizer)を用いてサイズ50〜200mmのナノエマルジョンを形成させる段階とを含む方法によって、安定化されたレチノールを製造する。
前記(A)段階で50nm〜500nmのメソ多孔性ポリマービーズを用いて、レチノールが吸着したナノ高分子カプセルを製造するが、これは前記(C)段階のナノ柔化過程で粒子サイズが調整できる。これにより、本発明の一実施例によれば、ナノエマルジョンの内部に存在するナノ高分子カプセルのサイズは40〜180nmに調整できる。
前記ナノ高分子カプセルの粒子サイズが40nmより小さいと、あまり皮膚深く浸透して外部への排出が難しいという問題があり、粒子サイズが180nmを超過すると、ナノエマルジョンの粒子サイズが増加するので、経皮吸収率が低下するという問題がある。前記ナノ高分子カプセルは、皮膚中間層に留まりながら有効成分を徐々に放出し、皮膚のターンオーバー周期と共に徐々に皮膚外層に押し出されることになり、皮膚から剥離される角質層と共に除去される。
前記製造方法において、前記ナノエマルジョン組成物は、グリセリン1〜60重量%、トコフェリルアセテート0.5〜1重量%、ブチル化ヒドロキシアニソール0.03〜0.05重量%、緑豆MCT抽出物1〜12重量%、コレステロール1〜2重量%、レチノールナノ高分子カプセル1〜10重量%、水素化リゾレシチン1〜3重量%、及び精製水を含んでなることが好ましい。
HPLCを用いて安定化レチノールに対する力価維持能を確認した結果、本発明によって安定化されたレチノールは28日間常温(25℃)で100%以上含量を維持し、高温(45℃)でも90%以上維持されて安定性に優れることを確認することができた。刺激緩和効果を調べるためにTNF−α及びIL−1α発現抑制効果を評価した結果、HaCaT細胞株に本発明に係る安定化レチノールを処理した場合には、これらのサイトカインの発現が全て顕著に減少した。プロコラーゲン(Procollagen)mRNA発現に及ぼす影響を確認した結果、本発明によって製造された安定化レチノールを処理するときにCOL1A1の発現量が大きく増加することを確認することができた。これは、本発明に係る安定化レチノールは皮膚刺激が少ないながら皺改善効果に優れた物質であることを示す。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明する。ところが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
製造例1:レチノールナノ高分子カプセルの製造
5Lのビーカーに入ったエタノールに、サイズ100nmのエチレングリコールジメタクリレートで架橋結合されたポリメチルメタクリレートメソ多孔性ポリマービーズ50gを添加してアジミキサーで40分以上攪拌した後、ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene)2gを混合して溶解させた。レチノール(ビタミンA)40gを入れて完全に溶解させた後、精製水を混合して5分以上攪拌した。減圧濾過した後、レチノールが吸着した多孔性ポリマービーズを45℃で真空乾燥させた(収率:96.78%)。
実施例1:レチノールナノ高分子カプセル担持ナノエマルジョンの製造
グリセリン600gを2Lのビーカーに入れ、70℃に加温した後、トコフェリルアセテート10g、ブチル化ヒドロキシアニソール0.05g、緑豆MCT(トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)抽出物150gを混合し、温度を維持しながら溶解させた。コレステロール(Solvay Germany)20gを添加して溶解させた後、前記製造例1で製造されたレチノールナノ高分子カプセル80gと水素化リゾレシチン(PC70%)30gを混合して65℃で完全に溶解させた。精製水200gを入れて50分攪拌した後、高圧ホモジナイザー(Microfluidizer M−110F、Microfluidizer、Germany)を用いて1,500barで2回通過させてサイズ75nmのレチノールナノ高分子カプセル担持ナノエマルジョンを製造した。
製造例2:レチノール担持ナノエマルジョンの製造
前記製造例1のレチノールナノ高分子カプセルを添加する代わりにレチノール(98%溶液)30gを添加する以外は、前記実施例1と同様にしてレチノール担持ナノエマルジョンを製造した。
製造例3:レチノール担持エマルジョンの製造
緑豆MCT抽出物を添加していない以外は、前記実施例1と同様にしてレチノール担持ナノエマルジョンを製造した。
試験例1:レチノールに対する力価維持能の確認
前記実施例1によって安定化されたレチノールの力価を常温(25℃)、高温(45℃)で確認した。また、前記製造例1、3で製造された安定化レチノールを比較例1、2にして、製造直後のレチノール力価と45℃に5週間放置させた後のレチノール力価を、HPLC(325nmで)で吸光度を測定して確認した。
1)検液の製造
レチノール2500IUをメタノール100mLに溶解させて100mLとした液を10mL正確に採取して10倍希釈し、必要であれば濾過して検液として用いる。
2)標準液の製造
レチノール100mLを含む液10mLを正確に採取し、これにメタノールを入れて100mLとした液を、標準液とする。
3)分析方法
カラムはC18で充填されたものを使用し、検出器は波長325nmの紫外部吸光光度計を使用した。移動相は90%エタノールを使用し、流量条件は1.0mL/minとした。
その結果を
図1及び
図2に示した。
図1から確認されるように、35日間常温(25℃)及び高温(45℃)でレチノールの含量を測定した結果、前記実施例1によって安定化されたレチノールは低温で100%以上の含量を維持し、高温でも90%以上の含量を維持して含量変化がないほどと優れた安定性を有する。
図2から確認されるように、二次エマルジョン化していない比較例1、及び緑豆MCT抽出物を添加していない比較例2の場合は実施例1と比較してレチノール力価維持能が低下する。これは二次エマルジョン化による二重安定化及び緑豆MCT抽出物の添加によってレシチンの力価維持能が大幅向上することを示す。
安定化されたレチノールの生理活性を確認するために、下記のような方法で効能試験を行った。
細胞培養
実験に使用された細胞は、HaCaT(Human Keratinocytes cell line)であり、37℃、5%のCO
2、10%のウシ胎仔血清(FBS、Lonza)、50μg/mLのストレプトマイシン(Sigma)を添加したDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium、Invitrogen)培地で培養した。
サイトカイン(Cytokine)の発現測定
RNA分離
RNA分析のために細胞内の総RNAを細胞培養からトリゾール試薬(Invitrogen、USA)を用いて抽出した。RNAの純度と無欠性はA
260nm/A-
280nmの比率測定によって確認し、RNA収率は260nmでの吸光度によって測定した。
【0017】
RT−PCR(Reverse Transcriptase-polymerase Chain Reaction)
cDNA合成は、3μgの総RNAをOligo dT15(500ng/μL)プライマー、dNTP(10mM)、RTase inhibitor(40U/μL)、PowerscriptII RTase(Clontech、USA)を添加して25℃で10分間プライマーアニーリング(Primer annealing)、42℃で60分間cDNAを合成し、95℃で5分間RTase変性(denaturation)させた。PCRはcDNAからTNF−α、IL−1α、COL1A1およびGAPDHを増幅するためにcDNA3μL、10X taqポリメラーゼ5μL、2.5mM dNTP2μL、10pmolプライマーそれぞれ2μL、およびtaqポリメラーゼ0.5μLを混合し、蒸留水を加えて50μLに調整した後、増幅させた。プライマー配列は下記表1に示した。PCRによって生成された産物は1%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動してイメージ分析器(UGEN、U:Genius)で確認し、各バンドのデンシティ(density)はdensitometric program(Gene Tools from Syngene)を用いて測定した。前記製造例2の安定化レチノール(0.2%)を比較例とした。
【0018】
【表1】
【0019】
ザイモグラフィー(Zymography)
タンパク質はcell lysis buffer[50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、5mM EDTA、1% Triton X−100、1mM PMSF]で分離し、Bradford assayを行ってタンパク質の量を確認した後で使用した。2%Gelatin(Fluka)が含まれたSDS−PAGE GELを準備する。タンパク質をTris−Glycine SDSバッファと混ぜ、常温で10分間反応させる。この際、加熱は行わない。タンパク質を1X Tris−Glycine SDS Runningバッファと共にゲルにロード(loading)する。Running後、1X Zymogram Renaturing bufferにゲルを浸した後、30分間常温で穏やかに振る(gently shaking)。その後、1X Zymogram Developing bufferに入れて常温で30分間反応させ、綺麗な1X Zymogram Developing bufferで取り替えた後、37℃で一晩おく。翌日Coomassie blue R−250(BIO−RAD)で30分間染色(staining)した後、脱色(destaining)を行う。
試験例2:サイトカイン発現抑制試験
前記実施例1の安定化レチノールの抗炎効果を評価するために、前記試験方法によってサイトカイン発現抑制能を評価した。サイトカインの発現を増加させる紫外線を角質形成細胞に照射した後、前記製造例2の安定化レチノール(0.2%)を比較例3として、サイトカイン発現抑制効果を確認した。その結果を
図3に示した。
図3より、サイトカインの発現を増加させる紫外線を角質形成細胞に照射した後、比較例3と実施例1のサイトカイン発現抑制効果を確認した結果、比較例3の場合はTNF−α及びIL−1αの親発現が増加したが、実施例1の安定化レチノールを処理した場合はこれらサイトカインの発現が全て顕著に減少した。
試験例3:コラーゲン生合成促進試験
本発明の安定化レチノールがCOL1A1(Type1プロコラーゲン(procollagen))の発現に影響を及ぼすかを確認するために、RT−PCRを行ってCOL1Alの発現量を確認した。その結果は
図3aに示した。実施例1の安定化レチノール処理の際にCOL1A1の発現量が比較例3に比べて増加することを確認した。
プロコラーゲンタンパク質の発現に及ぼす影響
本発明の安定化レチノールのプロコラーゲンmRNA発現増加効果を確認してゼラチン分解タンパク質の発現にも関与するかを確認するために、ザイモグラフィー(zymography)を行った。その結果は
図5に示した。ゼラチンを分解するMMP−2のタンパク質発現水準が比較例に比べて減少することを確認することができた。
これらの試験例から確認されるように、本発明に係る安定化されたレチノールは力価維持能に優れて抗炎及び皺改善効果に優れることが分かった。
実施例2:クリームの製造
前記実施例で製造された安定化レチノールを添加して下記表2の組成で化粧料組成物を製造した。
【0020】
【表2】
【0021】
試験例4:剤形安定性試験
前記実施例2、比較例4及び比較例5に対して、前記試験例1と同様の方法で剤形安定性を確認した。その結果を
図6に示した。
【0022】
図6から確認されるように、前記安定化されたレチノールを含有する前記実施例3の場合は優れた安定性を示した。
【0023】
試験例5:変色実験
前記実施例2、比較例4及び比較例5によって製造された化粧料組成物に対する剤形変色実験を次のとおり行った。
【0024】
実施例2、比較例4及び比較例5に対して4℃、25℃、45℃、50℃、日光で5週間安定性テストを行った。その結果を
図7及び下記表3に示した。
【0025】
【表3】
【0026】
(−変色なし、±<+変色程度)
前記表3及び
図7より、本発明の安定化されたレチノールを含有する実施例2が比較例4及び比較例5に比べてさらに優れた安定性を確認することができる。
【0027】
試験例6:皮膚刺激性評価
実施例2、比較例4及び比較例5によって製造された化粧料組成物に対する皮膚皺改善効果を次のとおり測定した。
30代の女性40名を3グループ(実験区、対照区1、対照区2)に分けて、実験区では実施例2の化粧料組成物、対照区1及び対照区2では比較例4及び比較例5の化粧料組成物を目尻に毎晩1回0.2gの量で12週間塗布した後、目尻の皺部位をARAMO TS(アラムヒュビス、韓国)を用いて測定し、皺改善効果を評価した。結果は下記表4及び表5に示した。
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
(刺激程度は0:刺激なし、5:刺激が激しくて使用中断)
実験結果、実施例2の場合は、12週間使用後の皮膚皺の数値が5.1減少し(14.49%)、比較例4の0.24減少(0.57%)より約25.4倍以上皺がさらに改善された。また、比較例5の3.2減少より(9.09%)約1.6倍の皺改善効果を得た。
【0031】
また、実施例2及び比較例5を用いた被検者の設問調査結果、比較例5を使用したときは刺激を訴える場合が多いが、実施例2を使用したときは軽微な刺激を示す場合が2件であり、残りの被検者からは刺激を確認することができなかった。よって、上記の結果より分かるように、本発明の安定化されたレチノールは皺改善効果及び刺激緩和効果に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、生理活性成分レチノール(ビタミンA)をメソ多孔性高分子粒子内に吸着させて一次的に安定化した後、これをさらに特定の脂溶性天然抽出物とレシチンを用いてナノエマルジョン化することにより二次的に安定化して低刺激性皺改善用化粧料に利用することが可能な産業上利用可能性のある発明である。