特許第5861807号(P5861807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

<>
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000003
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000004
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000005
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000006
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000007
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000008
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000009
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000010
  • 特許5861807-電極材料の製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5861807
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20060101AFI20160202BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20160202BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20160202BHJP
   H01H 33/664 20060101ALI20160202BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20160202BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20160202BHJP
   C22C 16/00 20060101ALN20160202BHJP
   C22C 27/02 20060101ALN20160202BHJP
   C22C 27/04 20060101ALN20160202BHJP
   C22C 27/06 20060101ALN20160202BHJP
   C22C 30/02 20060101ALN20160202BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20160202BHJP
【FI】
   C22C1/04 P
   B22F3/26 D
   B22F3/10 F
   H01H33/664 B
   H01H11/04 D
   !C22C9/00
   !C22C16/00
   !C22C27/02 101Z
   !C22C27/02 102Z
   !C22C27/02 103
   !C22C27/04 101
   !C22C27/04 102
   !C22C27/06
   !C22C30/02
   !B22F1/00 P
   !B22F1/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-531768(P2015-531768)
(86)(22)【出願日】2015年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2015054258
【審査請求日】2015年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-41158(P2014-41158)
(32)【優先日】2014年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】北寄崎 薫
(72)【発明者】
【氏名】石川 啓太
(72)【発明者】
【氏名】林 将大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸尚
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光佑
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−007203(JP,A)
【文献】 特開2002−180150(JP,A)
【文献】 特開2006−169547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04
B22F 3/10
B22F 3/26
B22F 1/00
C22C 27/04
C22C 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo、W、Ta、Nb、V、Zrのうちの少なくとも1種の耐熱元素の粉末とCr粉末とを含有する混合粉末を焼結して、前記耐熱元素とCrとが固溶した固溶体を得る仮焼結工程と、
前記固溶体を粉砕して粉末とする粉砕工程と、
前記固溶体の粉末を成形した成形体を焼結して焼結体を得る本焼結工程と、
当該焼結体にCuを溶浸するCu溶浸工程と、を有し、
前記仮焼結工程では、前記固溶体のX線回折測定におけるCr元素に対応するピークまたは前記耐熱元素に対応するピークのいずれかが消失するまで前記混合粉末を焼結する、電極材料の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼結工程の焼結温度は、1250℃以上Crの融点以下の範囲である、請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
前記本焼結工程の焼結温度は、Cuの融点以上Crの融点以下の範囲である、請求項1または請求項2に記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記仮焼結工程では、前記混合粉末を真空加熱炉にて焼結し、
少なくとも、前記混合粉末を焼結後の前記真空加熱炉の真空度を5.0×10-3Pa以下とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記仮焼結工程では、前記混合粉末を加圧成形する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末の成形圧力を0.1t/cm2以下とする、請求項5に記載の電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の組成制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
真空インタラプタ(VI)等の電極に用いられる電極材料には、(1)遮断容量が大きいこと、(2)耐電圧性能が高いこと、(3)接触抵抗が低いこと、(4)耐溶着性が高いこと、(5)接点消耗量が低いこと、(6)裁断電流が低いこと、(7)加工性に優れること、(8)機械強度が高いこと、等の特性を満たすことが求められる。
【0003】
銅(Cu)−クロム(Cr)電極は、遮断容量が大きく、耐電圧性能が高く、耐溶着性が高い等の特性を有し、真空インタラプタの接点材料として広く用いられている。Cu−Cr電極では、Cr粒子の粒径が細かい方が、遮断電流や接触抵抗の面において良好であるとの報告がある(例えば、非特許文献1)。
【0004】
Cu−Cr電極材料の製造方法として、一般に固相焼結法と溶浸法の2通りが良く知られている。固相焼結法は、導電性の良好なCuと耐アーク性に優れるCrとを一定の割合で混合し、その混合粉末を加圧成形してから、真空中等の非酸化雰囲気で焼結して焼結体を製造する。焼結法は、CuとCrの組成を自由に選ぶことができる長所があるが、溶浸法と比較してガス含有量が高く、機械強度が低くなるおそれがある。
【0005】
一方の溶浸法は、Cr粉末を加圧成形して(若しくは、成形せずに)、容器に充填し、真空中等の非酸化雰囲気でCuの融点以上に加熱することによりCr粒子間の空隙にCuを溶浸して電極を製造する。溶浸法は、CuとCrの組成比を自由に選ぶことができないが、固相焼結法よりもガス・空隙の少ない素材が得られ、機械強度が高いという長所がある。
【0006】
近年、真空インタラプタの使用条件が厳しくなるとともにコンデンサ回路への真空インタラプタの適用拡大が進んでいる。コンデンサ回路では、通常の2〜3倍の電圧が電極間に印加されるため、電流遮断時や電流開閉時のアークによって接点表面が著しく損傷し再点弧が発生しやすくなると考えられる。例えば、回路電圧を印加した状態で電極を閉じていくと、可動電極と固定電極との間の電界が強くなり、電極が閉じる前に絶縁破壊が生じる。この時にアークが発生し、アークの熱によって電極の接点表面に溶融が生じる。そして、電極が閉じると、溶融した部位は熱拡散により温度が低下し、溶着することとなる。電極が開くときには、この溶融した部位が引き剥がされるので、接点表面に損傷が生じることとなる。そのため、従来のCu−Cr電極より優れた耐電圧性能及び電流遮断性能を有する電極材料が求められている。
【0007】
電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性の良好なCu−Cr系電極材料の製造方法として、基材であるCu粉末に、電気的特性を向上させるCr粉末と、Cr粒子を微細にする耐熱元素(モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)等)粉末とを混合した後、混合粉末を型に挿入して加圧成形し焼結体とする電極の製造方法がある(例えば、特許文献1,2)。
【0008】
具体的には、200〜300μmの粒子サイズを有するCrを原料としたCu−Cr系電極材料に耐熱元素を添加し、微細組織技術を通してCrを微細化する。つまり、Crと耐熱元素の合金化を促進させ、Cu基材組織内部に微細なCr−X(Xは耐熱元素)粒子の析出を増加させている。その結果、直径20〜60μmのCr粒子が、その内部に耐熱元素を有する形態で、Cu基材組織内に均一に分散されることとなる。
【0009】
電極材料において、電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性を向上させるには、Cu基材中のCrや耐熱元素の含有量を多くし、且つCr及びCrと耐熱元素が固溶した粒子の粒径を微細化してCu基材中に均一に分散させることが求められる。
【0010】
しかしながら、特許文献1の電極材料中のCr系粒子の粒径は、20〜60μmであり、電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性を向上させるにはさらなる微細化が必要となる。
【0011】
一般的に、平均粒径が小さいCr粉末を原料として用いることで、Cu基材中に微細化されたCrを均一に分散させることができる。しかし、Cr原料の平均粒径を小さくすると、Cr原料中の酸素含有量が多くなり、Cu−Cr系電極の電流遮断性能が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−7203号公報
【特許文献2】特開2002−180150号公報
【特許文献3】特開2004−211173号公報
【特許文献4】特開昭63−62122号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】RIEDER, F. u.a.、”The Influence of Composition and Cr Particle Size of Cu/Cr Contacts on Chopping Current, Contact Resistance, and Breakdown Voltage in Vacuum Interrupters”、IEEE Transactions on Components, Hybrids, and Manufacturing Technology、Vol. 12、1989、273-283
【発明の概要】
【0014】
本発明は、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能の向上に寄与する技術を提供することを目的とする。
【0015】
上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の一態様は、耐熱元素の粉末とCr粉末とを含有する混合粉末を焼結して、耐熱元素とCrとが固溶した固溶体を得る仮焼結工程と、前記固溶体を粉砕して粉末とする粉砕工程と、前記固溶体の粉末を成形した成形体を焼結して焼結体を得る本焼結工程と、当該焼結体にCuを溶浸するCu溶浸工程と、を有する。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記仮焼結工程では、前記固溶体のX線回折測定におけるCr元素に対応するピークまたは耐熱元素に対応するピークのいずれかが完全に消失するまで前記混合粉末を焼結する。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記仮焼結工程の焼結温度は、1250℃以上Crの融点以下の範囲である。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記本焼結工程の焼結温度は、Cuの融点以上Crの融点以下の範囲である。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記仮焼結工程では、前記混合粉末を真空加熱炉にて焼結し、少なくとも、前記混合粉末を焼結後の前記真空加熱炉の真空度を5.0×10-3Pa以下とする。
【0020】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記仮焼結工程では、前記混合粉末を加圧成形する。
【0021】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の他の態様は、上記電極材料の製造方法において、前記混合粉末の成形圧力を0.1t/cm2以下とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法により製造された電極材料を有する真空インタラプタの概略断面図である。
図3】(a)Mo粉末とCr粉末の混合粉末の電子顕微鏡写真、(b)MoCr粉末の電子顕微鏡写真である。
図4】実施例1の電極材料の断面顕微鏡写真(倍率×400)、実施例1の電極材料の断面顕微鏡写真(倍率×800)である。
図5】(a)実施例1の電極材料の断面組織SEM(走査型電子顕微鏡)像(倍率×1000)、(b)実施例1の電極材料の断面組織SEM像(倍率×2000)である。
図6】参考例1のMoCr粉末の電子顕微鏡写真(倍率×500)である。
図7】参考例2のMoCr粉末の電子顕微鏡写真(倍率×500)である。
図8】比較例に係る電極材料の製造方法のフローチャートである。
図9】比較例1の電極材料の断面顕微鏡写真(倍率×800)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について、図を参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、特に断りがない限り、平均粒子径(メディアン径d50)と体積相対粒子量は、レーザー回折式粒度分布測定装置(シーラス社:シーラス1090L)により測定された値を示す。
【0024】
まず、本発明に先立って、発明者らは再点弧発生と、耐熱元素(Mo,Cr等)やCuの分布と、の相関性について検討を行った。その結果、再点弧を発生した電極表面を観察することで、耐熱元素よりも融点が低いCu領域において微小な突起部(例えば、数十μm〜数百μmの微小な突起)が多いことを見出した。この突起部の先端には高電界が生じるため、遮断性能や耐電圧性能を低下させる要因となり得る。突起部の形成は、投入電流により電極が溶融・溶着し、その後の電流遮断時に溶融部が引き剥がされることによって形成されるためと推定される。この推定に基づいて電極材料の遮断性能及び耐電圧性能の検討を行った結果、電極中の耐熱元素の粒径を小さくし、微細分散させること、及び、電極表面中のCu領域を微細に均一分散させることで、Cu領域における微小な突起部の発生が抑制され、且つ再点弧の発生確率が低減されるという知見を得た。また、電極接点は、接点の開閉の繰り返しによって、電極表面の耐熱元素の粒子が砕かれ、微細な粒子となって電極表面から離脱し、絶縁破壊が起こることが考えられる。この考察に基づいて、耐電圧性能に優れる電極材料の検討を行った結果、電極材料中の耐熱元素の粒径を小さくし、微細分散させること、さらに、Cu領域を微細分散させることで、耐熱元素の粒子が砕かれるのを抑制する効果が得られるとの知見を得た。これらの知見に基づいて、発明者らは、耐熱元素の粒径、Cuの分散性、真空インタラプタの電極の耐電圧性等について鋭意検討した結果、本発明の完成に至ったものである。
【0025】
本発明は、Cu−Cr−耐熱元素(Mo,W,V等)電極材料の組成制御技術に係る発明であって、Crを含有する粒子を微細化して均一に分散させ、高導電体成分であるCu組織も微細均一分散させること、また耐熱元素の含有量を多くすることで、例えば、真空インタラプタ用電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させるものである。
【0026】
耐熱元素は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。特に、Cr粒子を微細化する効果が顕著であるMo、W、Ta、Nb、V、Zrを用いることが好ましい。耐熱元素を粉末として用いる場合、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは2〜10μmにすることで、電極材料にCrを含有する粒子(耐熱元素とCrの固溶体を含む)を微細化して均一に分散させることができる。耐熱元素は、電極材料に対して6〜76重量%、より好ましくは32〜68重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。
【0027】
Crは、電極材料に対して1.5〜64重量%、より好ましくは4〜15重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。Cr粉末を用いる場合、Cr粉末の粒径を、例えば、−48メッシュ(粒径300μm未満)、より好ましくは−100メッシュ(粒径150μm未満)、さらに好ましくは−325メッシュ(粒径45μm未満)とすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。Cr粉末の粒径を−100メッシュとすることで、電極材料に溶浸されたCuの粒子径を大きくする要因となる残存Crの量を低減することができる。また、電極材料中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましいが、Cr粒子を細かくするほど電極材料に含有される酸素含有量が増加して電流遮断性能が低下する。Cr粒子の粒径を小さくすることによる電極材料の酸素含有量の増加は、Crを微細に粉砕する際にCrが酸化することにより生じるものと考えられる。そこで、Crが酸化しない条件、例えば、不活性ガス中でCrを微細な粉末とすることができるのであれば、粒径が−325メッシュ未満のCr粉末を用いてもよく、電極材料中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましい。
【0028】
Cuは、電極材料に対して20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%含有させることで、耐電圧性能や電流遮断性能を損なうことなく、電極材料の接触抵抗を低減することができる。なお、電極材料に含有されるCuの含有量は、溶浸工程により定められることとなるので、電極材料に対して添加される耐熱元素、Cr及びCuの合計は、100重量%を超えることはない。
【0029】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について、図1のフローチャートを参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明では、Moを例示して説明するが、他の耐熱元素の粉末を用いた場合も同様である。
【0030】
混合工程S1では、耐熱元素粉末(例えば、Mo粉末)とCr粉末を混合する。Mo粉末及びCr粉末の平均粒子径は、特に限定するものではないが、Mo粉末の平均粒子径は2〜20μm、Cr粉末の平均粒子径は、−100メッシュとすることで、Cu相にMoCr固溶体が均一に分散した電極材料を形成することができる。また、Mo粉末とCr粉末は、重量比率でMo1に対してCrが4以下、より好ましくはMo1に対してCrが1/3以下となるように混合することで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。
【0031】
仮焼結工程S2では、混合工程S1で得られたMo粉末とCr粉末の混合粉末(以下、混合粉末と称する)を、Mo及びCrと反応しない容器(例えば、アルミナ容器)に充填して、非酸化性雰囲気(水素雰囲気や真空雰囲気等)にて所定の温度(例えば、1250℃〜1500℃)で仮焼結を行う。仮焼結を行うことで、MoとCrが相互に固溶拡散したMoCr固溶体が得られる。仮焼結工程S2では、必ずしもすべてのMoとCrがMoCr固溶体を形成するまで仮焼結を行う必要はない。ただし、X線回折測定によって観察されるMo元素に対応するピーク及びCr元素に対応するピークのいずれか若しくは両方が完全に消失した仮焼結体(すなわち、MoとCrのどちらかがもう一方に完全に固溶した仮焼結体)を用いることで、より耐電圧性能の高い電極材料を得ることができる。よって、例えば、Mo粉末の混合量が多い場合には、MoCrの固溶体のX線回折測定で、少なくともCr元素に対応するピークが消失するように、仮焼結工程S2の焼結温度と時間が選択され、Cr粉末の混合量が多い場合には、MoCrの固溶体のX線回折測定で、少なくともMo元素に対応するピークが消失するように、仮焼結工程S2の焼結温度と時間が選択される。
【0032】
また、仮焼結工程S2では、仮焼結を行う前に混合粉末を加圧成形(プレス処理)しても良い。加圧成形することで、MoとCrとの相互拡散が促進され仮焼結時間を短くしたり、仮焼結温度を低減したりすることができる。加圧成形時の圧力は、特に限定するものではないが、0.1t/cm2以下とすることが好ましい。混合粉体の加圧成形時の圧力が非常に大きい場合、仮焼結体が硬くなり、後の粉砕工程S3での粉砕作業が困難となるおそれがある。
【0033】
粉砕工程S3では、粉砕機(例えば、遊星ボールミル)を用いてMoCr固溶体の粉砕を行い、MoCr固溶体の粉末(以下、MoCr粉末と称する)を得る。粉砕工程S3の粉砕雰囲気は、非酸化性雰囲気が望ましいが、大気中において粉砕してもかまわない。粉砕条件は、MoCr固溶体粒子が相互に結合している粒子(2次粒子)を粉砕する程度の粉砕条件でよい。なお、MoCr固溶体の粉砕は、粉砕時間を長くすればするほど、MoCr固溶体粒子の平均粒子径が小さくなる。したがって、例えば、MoCr粉末において、粒径30μm以下の粒子(より好ましくは、粒径20μm以下の粒子)の体積相対粒子量が50%以上となるような粉砕条件を設定することで、MoCr粒子(MoとCrが相互に固溶拡散した粒子)及びCu組織が均一に分散した電極材料(すなわち、耐電圧性能に優れた電極材料)を得ることができる。
【0034】
成形工程S4では、MoCr粉末の成形を行う。MoCr粉末の成形は、例えば、2t/cm2の圧力で加圧成形することにより行う。
【0035】
本焼結工程S5では、成形されたMoCr粉末の本焼結を行い、MoCr焼結体(MoCrスケルトン)を得る。本焼結は、例えば、MoCr粉末の成形体を、1150℃−2時間、真空雰囲気中で焼結することにより行う。本焼結工程S5は、MoCr粉末の変形と接合によってより緻密なMoCr焼結体を得る工程である。MoCr粉末の焼結は、次の溶浸工程S6の温度条件、例えば1150℃以上の温度で実施することが望ましい。溶浸温度よりも低い温度で焼結を行うと、Cu溶浸時にMoCr焼結体に含有されているガスが新たに発生してCu溶浸体に残留し、耐電圧性能や電流遮断性能を損なう要因となるからである。本発明の焼結温度は、Cu溶浸時の温度よりも高く、且つCrの融点以下の温度、好ましくは1150〜1500℃の範囲で行うことで、MoCr粒子の緻密化が進み、且つMoCr粒子の脱ガスが十分に進行する。
【0036】
Cu溶浸工程S6では、MoCr焼結体にCuを溶浸させる。Cuの溶浸は、例えば、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、非酸化性雰囲気にて、Cuの融点以上の温度で所定時間(例えば、1150℃−2時間)保持することにより行う。
【0037】
なお、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法により製造された電極材料(以下、本発明の実施形態に係る電極材料と称する)を用いて真空インタラプタを構成することができる。図2に示すように、本発明の実施形態に係る電極材料を有する真空インタラプタ1は、真空容器2と、固定電極3と、可動電極4と、主シールド10と、を有する。
【0038】
真空容器2は、絶縁筒5の両開口端部が、固定側端板6及び可動側端板7でそれぞれ封止されることで構成される。
【0039】
固定電極3は、固定側端板6を貫通した状態で固定される。固定電極3の一端は、真空容器2内で、可動電極4の一端と対向するように固定されており、固定電極3の可動電極4と対向する端部には、本発明の実施形態に係る電極材料である電極接点材8が設けられる。
【0040】
可動電極4は、可動側端板7に設けられる。可動電極4は、固定電極3と同軸上に設けられる。可動電極4は、図示省略の開閉手段により軸方向に移動させられ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。可動電極4の固定電極3と対向する端部には、電極接点材8が設けられる。なお、可動電極4と可動側端板7との間には、ベローズ9が設けられ、真空容器2内を真空に保ったまま可動電極4を上下させ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。
【0041】
主シールド10は、固定電極3の電極接点材8と可動電極4の電極接点材8との接触部を覆うように設けられ、固定電極3と可動電極4との間で発生するアークから絶縁筒5を保護する。
【0042】
[実施例1]
具体的な実施例を挙げて、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法並びに当該方法により作製される電極材料について詳細に説明する。実施例1の電極材料は、図1に示すフローチャートにしたがって作製したものである。
【0043】
Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=7:1として、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0044】
Mo粉末は、粒度2.8〜3.7μmのものを用いた。このMo粉末をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定したところメディアン径d50は5.1μm(d10=3.1μm、d90=8.8μm)であった。Cr粉末は、−325メッシュ(ふるい目開き45μm)を用いた。
【0045】
混合終了後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉にて仮焼結を行った。なお、仮焼結温度で所定時間維持した後の真空度が5×10-3Pa以下であれば、得られた仮焼結体を用いて作製した電極材料中の酸素含有量が少なくなり、電極材料の電流遮断性能を損なうことがない。
【0046】
仮焼結工程では、1250℃で3時間混合粉末の仮焼結を行った。1250℃で3時間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10-3Paであった。
【0047】
冷却後、真空加熱炉からMoCr仮焼結体を取り出し、遊星ボールミルを用いて10分間粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後、MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の結晶定数を求めた。MoCr粉末(Mo:Cr=7:1)の格子定数aは、0.3107nmであった。なお、Mo粉末の格子定数a(Mo)は0.3151nmであり、Cr粉末の格子定数a(Cr)は、0.2890nmであった。
【0048】
MoCr粉末(Mo:Cr=7:1)のX線回折(XRD)の測定結果において、0.3151nmと0.2890nmのピークは消失していた。このことより、仮焼結を行うことによりMo元素とCr元素が相互に固相拡散し、MoとCrが固溶化したことがわかる。
【0049】
図3(a)は、Mo粉末とCr粉末の混合粉末の電子顕微鏡写真である。左下及び中央上に見られる比較的大きな粒子径が45μm程度の粒子は、Cr粉末であり、凝集している細かい粒子はMo粉末である。
【0050】
図3(b)は、MoCr粉末の電子顕微鏡写真である。粒子径が45μm程度の比較的大きな粉末は確認できず、Crは原料そのままの状態(サイズ)では存在していないことが確認された。また、MoCr粉末の平均粒度径(メディアン径d50)は15.1μmであった。
【0051】
X線回折(XRD)測定の結果と電子顕微鏡写真より、MoとCrを混合した後、1250℃−3時間焼成することでCrが微細化され、MoとCrが相互に拡散してMoとCrの固溶体が形成されたと考えられる。
【0052】
次に、粉砕工程で得られたMoCr粉末をプレス機を用いてプレス圧2t/cm2で加圧成形して成形体を形成し、この成形体を1150℃−2時間真空雰囲気中で本焼結して、MoCr焼結体を作製した。
【0053】
その後、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、真空加熱炉において1150℃−2時間保持して、MoCr焼結体にCuを溶浸させ、実施例1の電極材料(Cu−Cr−Mo電極)を得た。
【0054】
[電極材料の断面観察]
実施例1の電極材料の断面を電子顕微鏡により観察した。電極材料の断面顕微鏡写真を図4(a)及び図4(b)に示す。
【0055】
図4(a),(b)において、比較的白く見える領域(白色部分)がMoとCrが固溶体化した合金組織であり、比較的黒く見える部分(灰色部分)がCu組織である。実施例1の電極材料では、1〜10μmの微細な合金組織(白色部分)が均一に微細化して分散していた。また、Cu組織も偏在せずに均一に分散していた。
【0056】
[電極材料におけるMoCr粒子の平均粒径]
実施例1の電極材料の断面組織をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。電極材料のSEM像を図5(a)及び図5(b)に示す。
【0057】
図5(a),(b)のSEM像から、MoとCrが固溶体化した合金組織(白色部分)の平均粒径を算出した。電極材料中のMoCr粒子の平均粒径dmは、国際公開番号WO2012/153858に記載されているフルマンの式により求めた。
dm=(4/π)×(NL/NS) …(1)
L=nL/L …(2)
S=nS/S …(3)
dm:平均粒径、π:円周率、
L:断面組織上の任意の直線によってヒットされる単位長さ当たりの粒子数、
S:任意の測定領域内でヒットされる単位面積当たりに含まれる粒子の数、
L:断面組織上の任意の直線によってヒットされる粒子の数、
L:断面組織上の任意の直線の長さ、
S:任意の測定領域内に含まれる粒子の数、
S:任意の測定領域の面積
具体的に説明すると、図5(a)のSEM像を用いて、その写真全体を測定領域(面積S)として得られたSEM像に含まれるMoCr粒子数nSを数えた。次に、SEM像を等分に分割する任意の直線(長さL)を引き、その直線にヒットされる粒子の数nLを数えた。
【0058】
これらの数値nL及びnSを、それぞれL及びSで除して、NL及びNSを求めた。さらに、NL及びNSを(1)式に代入することにより、平均粒径dmを求めた。
【0059】
その結果、実施例1の電極材料のMoCr粒子の平均粒径dmは、3.8μmであった。1250℃−3時間混合粉末を仮焼結し、遊星ボールミルを用いて粉砕したMoCr粉末の平均粒子径は15.7μmであったことは前述した。Cu溶浸後の断面観察をし、フルマンの式から求めたMoCr粒子の平均粒子径は3.8μmであったことから、Cu溶浸工程S6においてMoCr粒の微細化がさらに進行したと考えられる。つまり、粉砕工程S3で得られたMoCr粉末において、d50=30μm以下となるような粉砕条件を設定することで、Cu溶浸後の断面観察において、フルマンの式から求めたMoCr粒子の平均粒子径は15μm以下となった。
【0060】
[電極材料におけるMoCr粒子の分散状態]
電極材料中にMoCr粒子がどれだけ存在するか、またMoCr粒子の粒径がどの程度のサイズであるかだけでなく、MoCr粒子がどの程度均一に分散されているかにより電極材料の特性が左右される。
【0061】
そこで、図5(a),(b)のSEM像から、実施例1の電極材料におけるMoCr粒子の分散状態指数を算出し、電極組織のミクロ分散状態の評価を行った。分散状態指数は、特開平4−74924号公報に記載されている手法にしたがって算出した。
【0062】
具体的には、図5(b)のSEM像を用いて、MoCr粒子の重心間距離を100個測定し、測定したすべての重心間距離Xの平均値ave.Xと標準偏差σを求め、求められたave.Xとσとを(4)式に代入して分散状態指数CVを求めた。
CV=σ/ave.X …(4)
その結果、重心間距離Xの平均値ave.Xは5.25μm、標準偏差σは、3.0μmとなり、分散状態指数CVは、0.57となった。
【0063】
[実施例2]
実施例2の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=9:1で混合したものである。実施例2の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0064】
実施例2の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=9:1)は、0.3118nmであり、Vegardの法則に当てはまった。Vegardの法則に当てはまったことより、MoとCrは相互に拡散して無秩序置換型固溶体を形成していると考えられる。
【0065】
[実施例3]
実施例3の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=5:1で混合したものである。実施例3の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0066】
実施例3の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=5:1)は、0.3094nmであり、Vegardの法則に当てはまった。
【0067】
[実施例4]
実施例4の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=3:1で混合したものである。実施例4の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0068】
実施例4の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=3:1)は、0.3073nmであり、Vegardの法則に当てはまった。
【0069】
[実施例5]
実施例5の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=1:1で混合したものである。実施例5の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0070】
実施例5の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=1:1)は、0.3013nmであり、Vegardの法則に当てはまった。
【0071】
[実施例6]
実施例6の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=1:3で混合したものである。実施例6の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0072】
実施例6の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=1:3)は、0.2929nmであり、Vegardの法則に当てはまった。
【0073】
[実施例7]
実施例7の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=1:4で混合したものである。実施例7の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比率が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0074】
実施例7の仮焼結体を粉砕したMoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の格子定数aを求めた。格子定数a(Mo:Cr=1:4)は、0.2924nmであり、Vegardの法則に当てはまった。
【0075】
実施例2−7の電極材料の溶浸体断面の観察を行ったところ、すべての試料において、1〜10μmの微細なMoCr合金組織が均一に微細化していて、また、Cu組織も偏在せず均一に分散していた。
【0076】
[参考例1]
参考例1の電極材料は、仮焼結工程において、1200℃で30分間仮焼結を行ったものである。参考例1の電極材料は、仮焼結工程における温度及び時間が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0077】
Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率でMo:Cr=7:1としてV型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、このMo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉で仮焼結を行った。仮焼結工程では、1200℃で30分間混合粉末の仮焼結を行った。1200℃で30分間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10-3Paであった。
【0078】
冷却後、真空加熱炉からMoCr仮焼結体を取り出し、遊星ボールミルを用いて仮焼結体を粉砕し、MoCr粉末を得た。MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の結晶定数を求めたところ、0.3131nmのピークとCr元素の格子定数aである0.2890nmのピークが混在していた。
【0079】
図6に示すように、参考例1のMoCr粉末を、電子顕微鏡(倍率×500)を用いて観察したところ、一部に粒径40μm程度のCr粒子が見られた。すなわち、1200℃−30分の熱処理条件では、Crの微細化並びにCrのMo粒子への拡散が不十分であった。
【0080】
[参考例2]
参考例2の電極材料は、仮焼結工程において、1200℃で3時間仮焼結を行ったものである。参考例2の電極材料は、仮焼結工程における温度が異なること以外は、実施例1と同じ材料を原料とし、実施例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0081】
Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率でMo:Cr=7:1としてV型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、このMo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉で仮焼結を行った。仮焼結工程では、1200℃で3時間混合粉末の仮焼結を行った。1200℃で3時間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10-3Paであった。
【0082】
冷却後、真空加熱炉からMoCr仮焼結体を取り出し、遊星ボールミルを用いて仮焼結体を粉砕し、MoCr粉末を得た。粉砕後、MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、粉砕粉の結晶定数を求めたところ、0.3121nmのピークとCr元素の格子定数aである0.2890nmのピークが混在していた。
【0083】
図7に示すように、参考例2のMoCr粉末を、電子顕微鏡(倍率×500)を用いて観察したところ、一部に粒径40μm程度のCr粒子が見られた。すなわち、1200℃−3時間の熱処理条件では、Crの微細化並びにCrのMo粒子への拡散が不十分であった。
【0084】
なお、参考例1及び参考例2の仮焼結の条件では、Crの微細化並びにCrのMo粒子への拡散には不十分であるとしたが、この温度条件であっても十分に長い時間仮焼結を行うことで、MoとCrが相互に拡散してMoとCrの固溶体が形成されることはいうまでもない。ただし、仮焼結時間を長くすることにより真空加熱炉の運転コストが増大し、電極材料の製造コストを増大させる要因となるおそれがある。
【0085】
[実施例8]
Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=1:4として、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0086】
Mo粉末は、粒度≧4.0μmのものを用いた。このMo粉末をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定したところメディアン径d50は10.4μm(d10=5.3μm、d90=19.0μm)であった。Cr粉末は、−180μmメッシュ(ふるい目開き80μm)を用いた。
【0087】
混合終了後、このMo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉内で1250℃で3時間維持し、仮焼結体を作製した。1250℃で3時間キープしたときの最終真空度は、3.5×10-3Paであった。
【0088】
冷却後、真空加熱炉からMoCr仮焼結体を取り出し、遊星ボールミルを用いて粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後、MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の結晶定数を求めた。格子定数a(Mo:Cr=1:4)は、0.2926nmであり、Mo元素の格子定数aである0.3151nmのピークは見られず、Cr元素の格子定数aである0.2890nmのピークはほぼ見られなかった。
【0089】
次に、MoCr粉末をプレス圧2t/cm2で加圧成形して成形体を形成し、この成形体を1150℃−2時間真空雰囲気中で本焼結してMoCr焼結体を製作した。その後、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、真空加熱炉において1150℃−2時間保持し、MoCr焼結体にCuを溶浸した。
【0090】
実施例8の電極材料の断面観察を電子顕微鏡(倍率×800)により行ったところ、3〜20μmの微細なMoCr固溶体組織(白色部分)が均一に微細化して分散していた。また、Cu組織も偏在せず均一に分散していた。
【0091】
[比較例1]
図8に示すフローチャートにしたがって、比較例1の電極材料を作製した。
【0092】
Mo粉末とCr粉末の混合比率を重量比率で、Mo:Cr=7:1としてV型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した(混合工程T1)。
【0093】
実施例1と同様に、Mo粉末は、メディアン径d50=5.1μm(d10=3.1μm、d90=8.8μm)のものを用い、Cr粉末は−180メッシュ(ふるい目開き80μm)を用いた。
【0094】
混合終了後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をプレス圧2t/cm2で加圧成形して成形体を形成し(加圧成形工程T2)、この成形体を1200℃の温度で2時間真空雰囲気中において保持することにより本焼結を行い(焼結工程T3)、MoCr焼結体を製作した。
【0095】
その後、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、真空加熱炉において1150℃の温度で2時間保持することによりCuの溶浸を行った(Cu溶浸工程T4)。このようにして、MoCr焼結体内に、Cuを液相焼結させて、均一な溶浸体を得た。
【0096】
図9に、比較例1の電極材料の電子顕微鏡写真(倍率×800)を示す。図9において、比較的白く見える領域(白色部分)がMoとCrが固溶化した組織であり、比較的黒く見える部分(黒色部分)がCuの組織である。
【0097】
比較例1の電極材料は、1〜10μmの微細なMoCr固溶体粒子(白色部分)の中に、粒径20〜60μmのCu(黒色部分)が分散した組織となっている。これは、Cu溶浸工程T4で、Cr粒子がMo粒子によって微細化され、拡散機構によりMo粒子にCrが拡散してCrとMoが固溶体組織を形成する工程で生ずる空隙部分にCuが溶浸した結果であると推定される。
【0098】
[比較例2]
比較例2の電極材料は、Cr粉末として−325メッシュ(ふるい目開き45μm)を用いたこと以外は、比較例1の電極材料と同じ材料を原料とし、比較例1と同じ方法により電極材料を作製した。
【0099】
比較例2の電極材料の断面観察を電子顕微鏡(倍率×800)により行ったところ、1〜10μmの微細なMoCr固溶体粒子の中に、粒径15〜40μmのCuが分散した組織となっていた。これは、Cu溶浸工程でCr粒子がMo粒子により微細化され、拡散機構によりMo粒子にCrが拡散してCrとMoが固溶体組織を形成する工程で生ずる空隙部分にCuが溶浸した結果であると推定される。
【0100】
比較例1及び比較例2の結果から、MoとCrを混合した後、プレス成形しその後Cuを溶浸する従来法では、原料として用いたCr粉の粒径を反映した粒径のCuが分散した組織が存在する。これに対して、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、耐熱元素(Mo、W、Nb、Ta、V、Zr等)とCrが相互に固溶拡散した粒子を微細化して均一に分散し、高導電体成分であるCu部分も微細均一分散した電極材料を製造することができる。その結果、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能が向上する。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に、実施例1−8、参考例1,2、比較例1,2の電極材料の耐電圧性能を示す。表1に示した実施例1−8から明らかなように、実施例1−8の電極材料は、耐電圧性能に優れた電極材料である。また、電極材料に含有される耐熱元素の割合が増加するにしたがって、電極材料の耐電圧性能が向上していることがわかる。すなわち、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、耐熱元素粉末とCr粉末とを混合する混合工程と、耐熱元素粉末とCr粉末の混合物を仮焼結する仮焼結工程と、仮焼結体を粉砕する粉砕工程と、仮焼結体を粉砕した粉末を焼結する本焼結工程と、本焼結工程で得られる焼結体(スケルトン)にCuを溶浸させるCu溶浸工程とを行うことで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。
【0103】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した微細粒子(耐熱元素とCrの固溶体粒子)を、電極材料に均一に分散させることができるので、電流遮断性能や接触抵抗を低減することができる。この微細粒子の平均粒子径は、原料であるMo粉末の平均粒子径やCr粉末の平均粒子径に応じて変化することとなるが、電極材料に分散される微細粒子の平均粒子径は、フルマンの式を用いて求めた平均粒子径が20μm以下、より好ましくは15μm以下の大きさとなるように組成制御することで、電極材料の電流遮断性能を向上し、接触抵抗を低減することができる。
【0104】
また、MoCr粉末を仮焼結・粉砕後に測定したMoCr粉末の粒径と、フルマンの式によりCu溶浸工程後の電極材料にて測定されたMoCr粉末の平均粒子径とを比較すると、Cu溶浸工程において、MoCr粒子の微細化がさらに進行していることが確認できた。具体的には、粉砕後のMoCr粉末は、d50=30μmであったのに対して、フルマンの式によりCu溶浸工程後の電極材料におけるMoCr粉末の平均粒子径は、10μm以下であった。このことより、MoCr粉末を、30μm以下の粒子が体積相対粒子量で50%以上とすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。このように、Cu溶浸工程において、耐熱元素とCrの固溶体粒子をさらに微細化することができるので、実施例6〜8のように、耐熱元素とCrの固溶体粉末のXRD測定においてCr元素のピークがわずかに残っている場合でも、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。
【0105】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、微細粒子の重心間距離の平均値と標準偏差から求めた分散状態指数CVが2.0以下、望ましくは、1.0以下となるように電極材料の組成を制御することができるので、電流遮断性能及び耐電圧性能に優れた電極材料を得ることができる。
【0106】
また、電極材料に対する耐熱元素の含有量を多くすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。電極材料における耐熱元素の含有量を多くすればするほど、電極材料の耐電圧性能が向上する傾向がある。ただし、電極材料に耐熱元素のみ含有させた場合(電極材料にCrを含有させない場合)には、Cuの溶浸が困難となるおそれがある。よって、固溶体粉末における耐熱元素とCr元素の割合は、重量比率で耐熱元素1に対してCrが4以下、より好ましくは耐熱元素1に対してCrが1/3以下とすることで、耐電圧性能に優れた電極材料を得ることができる。
【0107】
また、耐熱元素(Mo等)の平均粒子径の大きさは、耐熱元素とCrの固溶体粉末の粒子径の大きさを決定する一つの要因となり得る。すなわち、Cr粒子が耐熱元素粒子によって微細化され、拡散機構によって耐熱元素粒子にCrが拡散して耐熱元素とCrとが固溶体組織を形成することから、耐熱元素の粒径は、仮焼結によって大きくなる。また、仮焼結によって大きくなる度合いは、Crの混合割合にも依存する。そのため、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは、2〜10μmとすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を形成するための耐熱元素とCrの固溶体粉末を得ることができる。
【0108】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法は、電極材料を溶浸法で製造しているので、電極材料の充填率が95%以上となり、電流遮断時や電流開閉時のアークによる接点表面の表面荒れが少ない電極材料を製造することができる。すなわち、空孔の存在による電極材料表面の微細な凹凸がなく、耐電圧性能に優れた電極材料を製造することができる。また、多孔質体の空隙部にCuが充填されることにより、機械的強度に優れ、焼結法により製造される電極材料よりも高硬度であることから、耐電圧性能に優れる電極材料を製造することができる。
【0109】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法により製造された電極材料を、例えば、真空インタラプタ(VI)の固定電極及び可動電極の少なくとも一方に設けることで、真空インタラプタの電極接点の耐電圧性能が向上する。電極接点の耐電圧性能が向上すると、従来の真空インタラプタよりも固定電極と可動電極との間のギャップ長を短くでき、且つ固定電極並びに可動電極と主シールドとの間のギャップを狭めることができるため、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。その結果、真空インタラプタを小型化することができる。また、真空インタラプタを小型化することで、真空インタラプタの製造コストが低減する。
【0110】
なお、本発明の実施形態の説明は、特定の望ましい実施例を例として説明したが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲で、適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術範囲に属する。
【0111】
例えば、本発明の実施形態の説明において、仮焼結温度は、1250℃−3時間の条件であるが、本発明の仮焼結温度は、1250℃以上且つCrの融点以下、より好ましくは1250℃〜1500℃の範囲で行うことで、MoとCrの相互拡散が充分に進行し、且つその後の粉砕機を用いたMoCr固溶体の粉砕が比較的容易に行え、さらには耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。また、仮焼結時間は、仮焼結温度によって異なるものであり、例えば、1250℃では、3時間の仮焼結を行っているが、1500℃では、0.5時間の仮焼結で十分である。
【0112】
また、MoCr固溶体粉末は、実施形態に記載されている製造方法により製造されたものに限定されず、公知の製造方法(例えば、ジェットミル法、アトマイズ法)で製造されたMoCr固溶体粉末を用いてもよい。
【0113】
また、成形工程はプレス機を用いて成形しているが、電極材料の成形はCIP処理、HIP処理により成形しても良い。さらには、本焼結後、Cu溶浸前にHIP処理を行うことによりMoCr焼結体の充填率を高め、その結果として電極材料の耐電圧性能を高めることができる。
【0114】
また、本発明の電極材料の製造方法により製造される電極材料は、耐熱元素、Cr、Cuのみを構成要素としたものに限定されるものではなく、電極材料の特性を向上させる元素を含有していてもよい。例えば、電極材料にTeを添加することにより電極材料の耐溶着性が向上する。
【要約】
Crを含有する粒子を微細化して均一に分散させ、且つ高導電体成分であるCu部分も微細均一分散させた電極材料の製造方法である。電極材料の製造方法は、耐熱元素粉末とCr粉末を混合する混合工程(S1)と、この混合粉末を仮焼結して耐熱元素とCrの固溶体を得る仮焼結工程(S2)と、耐熱元素とCrの固溶体を粉砕し、耐熱元素とCrの固溶体粉末を得る粉砕工程(S3)と、この固溶体粉末を成形する成形工程(S4)と、得られた成形体を本焼結して耐熱元素とCrの焼結体(スケルトン)を得る本焼結工程(S5)と、耐熱元素とCrの焼結体にCuを溶浸するCu溶浸工程(S6)と、を有する。
図1
図2
図8
図3
図4
図5
図6
図7
図9