特許第5861829号(P5861829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861829
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】渦流探傷方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   G01N27/90
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-33827(P2012-33827)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-170869(P2013-170869A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 明憲
(72)【発明者】
【氏名】畠中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】河井 寛記
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−183347(JP,A)
【文献】 特開2006−343300(JP,A)
【文献】 特開2011−013087(JP,A)
【文献】 特表2009−527745(JP,A)
【文献】 特開2000−111626(JP,A)
【文献】 F.Vacher et al.,Eddy current nondestructive testing with giant magneto-impedance sensor,NDT&E International,2007年,Vol.40,pp.439-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
G01R 33/00−33/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に渦電流を発生させる励磁コイルにコイル駆動手段が印加する励磁電圧の位相と、前記励磁コイルに生じる磁界の変化を検出する磁気インピーダンス効果素子に素子駆動手段が印加する、励磁電圧より高い周波数の駆動電圧の位相とを同期させる同期工程と、
前記被検体に発生した渦電流により前記励磁コイルに生じる磁界の変化を、前記磁気インピーダンス効果素子で検出する磁界検出工程と、
を備えることを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項2】
前記同期工程は、前記コイル駆動手段から前記素子駆動手段にトリガ信号が入力されることにより行われ、
前記トリガ信号が入力されると、前記素子駆動手段から前記駆動電圧がバースト波で出力されることを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷方法。
【請求項3】
被検体に渦電流を発生させる励磁コイルと、
前記励磁コイルの磁界の変化を検出する磁気インピーダンス効果素子と、
前記励磁コイルに予め定められた周波数の励磁電圧を印加して前記励磁コイルを励磁するコイル駆動手段と、
前記磁気インピーダンス効果素子に前記励磁コイルよりも高い周波数の駆動電圧を印加する素子駆動手段と、
前記コイル駆動手段が印加する励磁電圧の位相と、前記素子駆動手段が印加する駆動電圧の位相とを同期させる同期手段と、
を備えることを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項4】
前記同期手段は、前記コイル駆動手段から前記素子駆動手段にトリガ信号が入力されると、前記素子駆動手段から駆動電圧をバースト波で出力させることを特徴とする請求項3に記載の渦流探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流探傷方法および装置に係り、詳しくは磁気インピーダンス効果素子を用いた渦流探傷方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料などの導電体を被検体として、被検体の内部や表面に存在するきずを検出するために磁気センサを用いた渦流探傷が行われている。このような渦流探傷に用いられる磁気センサには、フラックスゲートセンサ、巨大磁気抵抗センサ(GMRセンサ)、磁気インピーダンスセンサ(以下、MIセンサという)等が挙げられる。この中でも、特にMIセンサは高感度であり、MIセンサを用いて渦流探傷を行うことで被検体の表面に存在する微小なきずを検出することが可能となる。
【0003】
MIセンサとして、磁気インピーダンス効果素子が用いられる。この磁気インピーダンス効果素子として、例えばアモルファス磁性ワイヤが挙げられる。アモルファス磁性ワイヤに高周波の電流を流すと、このワイヤのインピーダンスは表皮効果により外部磁界によって変化する。このような現象を磁気インピーダンス効果といい、この効果を生じるアモルファス磁性ワイヤは磁気インピーダンス効果素子と呼ばれている。
このような磁気インピーダンス効果を生じるアモルファス磁性ワイヤを用いて、被検体の表面のきずを検査する方法が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−183347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アモルファス磁性ワイヤを用いて渦流探傷を行う際、励磁コイルとアモルファス磁性ワイヤとにそれぞれ所定の周波数の電圧を印加するが、励磁コイルに印加される電圧の位相に対してアモルファス磁性ワイヤに印加される電圧の位相にずれが生じてしまうことがある。これは励磁コイルに印加される電圧の周波数及びアモルファス磁性ワイヤに印加される電圧の周波数に、それぞれ微小なずれが生じてしまうことがあるためである。このような位相のずれは、磁界の変化を測定する際にノイズとなって残ってしまうため、被検体の探傷精度が低下してしまう要因となり、好ましくない。
【0006】
この点で上記特許文献1に開示されている技術は、励磁コイルの巻線方向と平行方向にアモルファス磁性ワイヤを配置して被検体表面のきずを検出するものであり、ノイズを低減するものではないため、依然として課題が残されている。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、渦流探傷により被検体に存在するきずを高精度に測定できる渦流探傷方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、請求項1の渦流探傷方法は、被検体に渦電流を発生させる励磁コイルにコイル駆動手段が印加する励磁電圧の位相と、前記励磁コイルに生じる磁界の変化を検出する磁気インピーダンス効果素子に素子駆動手段が印加する、励磁電圧より高い周波数の駆動電圧の位相とを同期させる同期工程と、前記被検体に発生した渦電流により前記励磁コイルに生じる磁界の変化を、前記磁気インピーダンス効果素子で検出する磁界検出工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2の渦流探傷方法では、請求項1において、前記同期工程は、前記コイル駆動手段から前記素子駆動手段にトリガ信号が入力されることにより行われ、前記トリガ信号が入力されると、前記素子駆動手段から前記駆動電圧がバースト波で出力されることを特徴とする。
【0010】
請求項3の渦流探傷装置は、被検体に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記励磁コイルの磁界の変化を検出する磁気インピーダンス効果素子と、前記励磁コイルに予め定められた周波数の励磁電圧を印加して前記励磁コイルを励磁するコイル駆動手段と、前記磁気インピーダンス効果素子に前記励磁コイルよりも高い周波数の駆動電圧を印加する素子駆動手段と、前記コイル駆動手段が印加する励磁電圧の位相と、前記素子駆動手段が印加する駆動電圧の位相とを同期させる同期手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の渦流探傷装置では、請求項3において、前記同期手段は、前記コイル駆動手段から前記素子駆動手段にトリガ信号が入力されると、前記素子駆動手段から駆動電圧をバースト波で出力させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の渦流探傷方法によれば、励磁コイルに励磁電圧を印加するタイミングと、磁気インピーダンス効果素子に電圧を印加するタイミングとを同期させるので、励磁電圧の位相における何れのタイミングに対する駆動電圧の位相のずれは生じなくなる。
従って、位相のずれから生じるノイズが低減されるので、被検体の表面に存在するきずをより精度よく検出することができる。
【0013】
請求項3の渦流探傷装置によれば、励磁コイルに励磁電圧を印加するタイミングと、磁気インピーダンス効果素子に駆動電圧を印加するタイミングとを、予め定められた周期で同期させる。従って、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る渦流探傷装置の概略構成図である。
図2】本発明に係る渦流探傷方法を示すフローチャートである。
図3】同期された励磁コイル駆動信号及びワイヤ駆動信号を示す信号波形である。
図4】(A)は人工きずを形成した被検体の上面図、(B)は(A)のIV-IV線に沿う断面図である。
図5】(A)は本発明に係る探傷方法を行った探傷結果の一例を示す図であり、(B)は従来の探傷方法を行った探傷結果の一例を示す図である。
図6】(A)は本発明に係る探傷方法を行った探傷結果の他の例を示す図であり、(B)は従来の探傷方法を行った探傷結果の他の例を示す図である。
図7】(A)は本発明に係る探傷方法を行った探傷結果のさらに他の例を示す図であり、(B)は従来の探傷方法を行った探傷結果のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る渦流探傷装置の概略構成図である。渦流探傷装置1は、励磁コイル2、アモルファス磁性ワイヤ(磁気インピーダンス効果素子)3、励磁コイル駆動信号発生器(コイル駆動手段)4、センサ回路5、検波回路6、及びパーソナルコンピュータ(以下、PCという)7を備える。
【0016】
励磁コイル2は渦巻き状のコイルであり、アモルファス磁性ワイヤ3は、励磁コイル2の中心側から径方向外側の端部に向かって配置される。このように構成された励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3は、探触子8として作用する。探触子8は被検体10の検査面11上に配置され、検査面11を探触子8で検査する。なお、励磁コイル2は空心コイル等としてもよい。また、被検体10は導電性の部材であり、例えば鉄、アルミニウム、チタン、ステンレスなどの金属体、導電性を有する炭素系部材、及び金属系構造物等が挙げられる。
【0017】
励磁コイル駆動信号発生器4は、所定の信号周波数、即ち所定の周波数の電圧を励磁コイル2に印加するものである。励磁コイル駆動信号発生器4によって励磁された励磁コイル2を被検体10の検査面11に近接することにより、検査面11に渦電流を発生させる。
センサ回路5はワイヤ駆動信号発生器(素子駆動手段)51と、応答信号抽出回路52とを含んで構成される。ワイヤ駆動信号発生器51は所定の信号周波数、即ち所定の周波数の電圧をアモルファス磁性ワイヤ3に印加する。応答信号抽出回路52は、アモルファス磁性ワイヤ3のインピーダンス変化に応じた電圧を出力する回路である。
【0018】
検波回路6は、励磁コイル駆動信号発生器4の電圧を参照信号とし、応答信号抽出回路52で抽出された電圧、即ちアモルファス磁性ワイヤ3の応答信号を同期検波し、振幅および位相情報を出力する回路である。
PC7は演算装置71及びモニタ装置72を備えている。演算装置71では、検波回路6から入力された信号を処理して、表面きずに係る信号をノイズ信号と判別しやすくしてモニタ装置72に表示する。
【0019】
アモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧の周波数は、励磁コイル2に印加される電圧の周波数よりも高い周波数である。被検体10の検査面11にあるきず等の欠陥を検出するために、アモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数を高くするのが好ましい。詳しくは、励磁コイル駆動信号発生器4が励磁コイル2に印加する電圧の周波数範囲は100kHz〜10MHz、ワイヤ駆動信号発生器52がアモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数範囲は10MHz以上とするのが好ましい。励磁コイル2に印加される電圧の周波数及びアモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧の周波数は、検出するきずの大きさに応じてそれぞれ選択される。
【0020】
励磁コイル駆動信号発生器4は、ワイヤ駆動信号発生器51に接続されている。このように接続されることで、後述するように励磁コイル駆動信号発生器4からワイヤ駆動信号発生器51にトリガ信号を入力することが可能となる。
【0021】
本発明の渦流探傷装置1における被検体10の検査は、励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3にそれぞれ所定の周波数の電圧を印加し、探触子8を被検体10に近接させて励磁コイル2を励磁させながら被検体10に沿って探触子8を移動させていくことにより行われる。
【0022】
このように構成された渦流探傷装置1を用いて、被検体10の検査面11を検査する渦流探傷方法について説明する。図2には検査面11の渦流探傷方法のフローチャートを示しており、以下、同フローチャートに基づいて説明する。なお、励磁コイル駆動信号発生器4が印加する電圧の周波数及びワイヤ駆動信号発生器51が印加する電圧の周波数は、それぞれ予め設定されているものとする。
【0023】
ステップS1では、励磁コイル駆動信号発生器4に、ワイヤ駆動信号発生器51に入力するトリガ信号の発生タイミングを設定する。トリガ信号の発生タイミングは、励磁コイル駆動信号発生器4の周波数に合わせて設定される。本実施形態では、励磁コイル駆動信号発生器4に設定された周波数の1周期毎にトリガ信号を発生するように設定される。
【0024】
ステップS2では、バースト波の波数をワイヤ駆動信号発生器51に設定する。バースト波とは、正弦波、方形波、ランプ波形、パルス波形等を、所定の周期で指定された時間(即ち波数)だけ持続する波形信号のことである。当該ステップで設定するバースト波の波数は、励磁コイル2に印加される電圧の周波数の1周期において、励磁コイル2に印加される電圧の周波数とアモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧の周波数との比以下であり、且つ多くなるように設定することが好ましい。例えば、アモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧の周波数が15MHz、励磁コイル2に印加される電圧の周波数が1MHzである場合には、バースト波の波数を10波以上とするのが好ましい。バースト波の波数を多くすることで、アモルファス磁性ワイヤ3からの応答信号を検波回路6で処理することが可能となる。一方、1周期での波数が少ないと、アモルファス磁性ワイヤ3からの応答信号を検波回路6で処理することが困難となることがあるため、好ましくない。
【0025】
ステップS3では、励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3をそれぞれ駆動し、励磁コイル駆動信号発生器4から励磁コイル2に印加される電圧の位相が上記ステップS1で設定された発生タイミングになると、励磁コイル駆動信号発生器4からワイヤ駆動信号発生器51にトリガ信号が入力される(同期工程)。
【0026】
ステップS4では、ワイヤ駆動信号発生器51にトリガ信号が入力されると、ワイヤ駆動信号発生器51からアモルファス磁性ワイヤ3に予め設定された周波数でバースト波を印加する(同期工程)。
【0027】
詳しくは、図3に励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3にそれぞれ印加された電圧の波形を示す。図3に示すように、励磁コイル駆動電圧が位置Pを通過した時点でトリガ信号が発生し、位置Pから時間t経過後にワイヤ駆動電圧のバースト波が出力されている。なお、時間tは予め定められた一定の時間である。また、時間tはなくてもよく、ワイヤ駆動信号発生器51にトリガ信号が入力されると、ワイヤ駆動電圧のバースト波を出力するようにしてもよい。
【0028】
ステップS5では、アモルファス磁性ワイヤ3におけるインピーダンス変化を応答信号抽出回路52を介して検波回路で検出する(磁界検出工程)。
【0029】
このように、本実施形態では、予め定められたタイミングで励磁コイル駆動信号発生器4からワイヤ駆動信号発生器51へトリガ信号を入力し、ワイヤ駆動信号発生器51は当該トリガ信号が入力されるとアモルファス磁性ワイヤ3へ予め定められた周波数で電圧を印加する。
【0030】
これにより、励磁コイル2に印加される電圧の周波数の位相と、アモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧の周波数の位相とは同期の取れた状態になり、位相のずれに基づくノイズを低減することができるので、探傷精度をより向上させることができる。従って、被検体10の検査面11に存在する1mm以下の微小なきずも、より精度よく検出することが可能となる。
【0031】
また、励磁コイル駆動信号発生器4からワイヤ駆動信号発生器51へトリガ信号が入力されると、ワイヤ駆動信号発生器51から電圧をバースト波としてアモルファス磁性ワイヤ3に印加する。これにより、励磁コイル2に印加される電圧の周波数の位相と、アモルファス磁性ワイヤ3に印加される電圧のバースト波における位相とが常に同期の取れた状態になる。従って、これらの周波数の位相のずれによるノイズを低減することができ、検査面11に存在するきずをより精度よく検出することができる。
【0032】
なお、上述した本実施形態では、磁気インピーダンス効果素子としてアモルファス磁性ワイヤを用いているが、アモルファス磁性リボン等を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本発明に係る渦流探傷装置1及び上述した渦流探傷方法を用い、被検体10にチタン材を用いて表面きずの検出を行った。
【0034】
図4(A)は、以下に説明する各実施例で用いた被検体10の上面図、図4(B)は図4(A)のIV-IV線に沿う断面図である。本実施例で用いたチタン材には人工きず12が形成されており、図4(A)、(B)に示すように人工きず12はきず長さL、きず幅W、きず深さDで形成されている。このきず長さL、きず幅W、及びきず深さDをそれぞれ変えて、図4(A)に示す矢印の向きに探触子8を移動させながら、上述した渦流探傷方法で渦流探傷を行った。なお、本実施例では、長さ2mm、20μm径のアモルファス磁性ワイヤを利用した。また、以下に示す各実施例では、比較例として従来行っていた励磁コイル2に印加する信号周波数の位相とアモルファス磁性ワイヤ3に印加する信号周波数の位相とを同期せずに渦流探傷を行った場合についても示す。
【0035】
<実施例1>
人工きず12のきず長さL:0.6mm、きず幅W:0.08mm、きず深さD:0.3mmが形成されたチタン材に、励磁コイル駆動電圧の周波数を1MHz、ワイヤ駆動電圧の周波数を15MHzに設定し、励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3にそれぞれ信号周波数を印加してインピーダンスの変化を測定した。結果を図5(A)、(B)にそれぞれ示す。
【0036】
図5(A)は、本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合の結果を示す図であり、図5(B)は、比較例として励磁コイル2に印加する電圧の周波数の位相とアモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数の位相とを同期せずに渦流探傷を行った場合の結果を示す図である。図5(A)、(B)にそれぞれ示す範囲Sは、チタン材に形成された人工きず12を探触子8が通過した際の電圧変化の範囲を示している。
【0037】
図5(A)の本発明に係る渦流探傷方法の結果は、図5(B)に示す従来の渦流探傷方法に比べてノイズが大幅に低減されていることが判る。また、図5(A)に示す本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は6.8であった。一方、図5(B)に示す従来の探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は2.6であった。このように、図5(A)に示す本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行うと、従来の探傷方法と比べて全体的にノイズを低減することができ、微小なきずでも精度よく検出可能であることが判る。
【0038】
<実施例2>
人工きず12のきず長さL:0.6mm、きず幅W:0.08mm、きず深さD:0.3mmが形成されたチタン材に、励磁コイル駆動電圧の周波数を2MHz、ワイヤ駆動電圧の周波数を25MHzに設定し、励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3にそれぞれ電圧を印加してインピーダンスの変化を測定した。結果を図6(A)、(B)にそれぞれ示す。
【0039】
図6(A)は、本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合の結果を示す図であり、図6(B)は、比較例として励磁コイル2に印加する電圧の周波数の位相とアモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数の位相とを同期せずに渦流探傷を行った場合の結果を示す図である。なお、図6(A)、(B)にそれぞれ示す範囲Sは、上記実施例1と同様である。
【0040】
図6(A)に示すように、本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は3.4であった。一方、図6(B)に示す従来の探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は1.9であった。このように、上記実施例1と同様の効果を得られることが確認できた。
【0041】
<実施例3>
人工きず12のきず長さL:3.0mm、きず幅W:0.3mm、きず深さD:0.8mmが形成されたチタン材に、励磁コイル駆動電圧の周波数を100kHz、ワイヤ駆動電圧の周波数を25MHzに設定し、励磁コイル2及びアモルファス磁性ワイヤ3にそれぞれ電圧を印加してインピーダンスの変化を測定した。結果を図7(A)、(B)にそれぞれ示す。
【0042】
図7(A)は、本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合の結果を示す図であり、図7(B)は、比較例として励磁コイル2に印加する電圧の周波数の位相とアモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数の位相とを同期せずに渦流探傷を行った場合の結果を示す図である。なお、図7(A)、(B)にそれぞれ示す範囲Sは、上記実施例1と同様である。
【0043】
図7(A)に示すように、本発明に係る渦流探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は13.4であった。一方、図7(B)に示す従来の探傷方法で渦流探傷を行った場合のS/N比は9.8であった。本実施例のように、励磁コイル2に印加する電圧の周波数が低い場合でも、上記実施例1と同様の効果を得られることが確認できた。
【0044】
以上から、本実施形態の渦流探傷装置1及び渦流探傷方法で利用する周波数として、励磁コイル2に印加する電圧の周波数は100kHz〜2MHz、アモルファス磁性ワイヤ3に印加する電圧の周波数は10MHz以上とすることで、被検体10の検査面11に存在するきずを精度よく検出することができるという結果を得ることができた。
励磁コイル2については、上記から電圧の周波数を100kHz〜2MHzから選択することで良好な結果を得ることができているので、励磁コイル2の電圧の周波数を100kHz〜10MHzから選択するようにしても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 渦流探傷装置
2 励磁コイル
3 アモルファス磁性ワイヤ(磁気インピーダンス効果素子)
4 励磁コイル駆動信号発生器(コイル駆動手段)
5 センサ回路
6 検波回路
10 被検体
51 ワイヤ駆動信号発生器(素子駆動手段)
52 応答信号抽出回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7