(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861835
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】チャック
(51)【国際特許分類】
B23B 31/18 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
B23B31/18
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-133651(P2012-133651)
(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-255967(P2013-255967A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241588
【氏名又は名称】豊和工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早川 祥弘
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−218413(JP,A)
【文献】
実開平05−049207(JP,U)
【文献】
特開2001−025909(JP,A)
【文献】
特開2003−245810(JP,A)
【文献】
特開平8−47808(JP,A)
【文献】
仏国特許発明第2373351(FR,A)
【文献】
特公昭45−028158(JP,B1)
【文献】
特開2011−251347(JP,A)
【文献】
特公昭47−009357(JP,B1)
【文献】
実開昭55−007638(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/10−31/19,31/22,
B23Q 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体に、チャック半径方向に揺動可能な爪開閉部材を設け、爪開閉部材の先端には把握爪が装着され、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により爪開閉部材をチャック半径方向に揺動させ、把握爪によってワークをクランプ、アンクランプするようにしたチャックにおいて、爪開閉部材の軸部には一対の平行な平面と軸部の外方に向けて傾斜する一対の傾斜面を連設し、チャック本体を構成する後ボディに前記軸部を案内する案内溝が設けられ、案内溝の両端には、前記傾斜面が嵌め込まれる溝部が設けられ、ワークのクランプ時に、案内溝と一対の平行な平面との隙間の範囲内で爪開閉部材の軸線回りの回動を可能にし、把握爪をチャック半径方向の外方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝から一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面が一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の装着方向を変更し、把握爪をチャック半径方向の内方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝からもう一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面がもう一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の軸線回りの回動が防止されるようにしたことを特徴とするチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により爪開閉部材をチャック半径方向に揺動させて成るチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャック本体に、チャック半径方向に揺動可能な爪開閉部材を設け、爪開閉部材の先端には把握爪が装着され、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により爪開閉部材をチャック半径方向に揺動させ、把握爪によってワークをクランプ、アンクランプするようにしたチャックが知られている。そして、引用文献1記載のように、揺動部材(爪開閉部材)に設けた孔に左右一対のピンをはめ、このピンの先端部をばねによりベアリングレース(支持部)に形成される斜面に押し込むことで、アンクランプ時に、揺動部材が所定の位置で保持されるようになっている。また、ワークをクランプする時に、ワークの外形が真円でない場合や、ワークの軸芯がチャック軸線からずれている場合には、把握爪の一方の側部が他方の側部より先にワークの外周面に当接するので、前記左右のピンがばね力に抗して後退して前記他方の側部がワークに当接するまで揺動部材が軸線回りに回動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のチャックでは、左右のピンの間にロッドを介在させ、ワークをクランプする時に、ワークの外形が真円でない場合や、ワークの軸芯がチャック軸線からずれている場合には、揺動部材の回動によって左右のピンがばね力に抗して前記ロッドに当接するまで後退する。そのロッドは、ロッドに左右のピンが当接した時に、ピンの先端部とベアリングレースの斜面とを係合させる長さである。従って、アンクランプ時には、ばねにより左右のピンの先端部がベアリングレースの斜面に押し付けられ、揺動部材が軸線回りに回動して所定の位置に戻るようになっている。ところが、ワークの外形が真円でない場合や、ワークの軸芯がチャック軸線からずれている場合には、ワークのクランプ、アンクランプを繰り返していると、左右のピンが繰り返しロッドに当接してロッドが磨耗や破損するおそれがあった。また、ばねのばね力に抗して左右のピンが繰り返し後退していると、ばねに繰り返し荷重がかかり、所定のばね力を維持できないおそれがあった。
【0005】
よって、ロッドやばねが上記のような状態であると、アンクランプ時に、把握爪や揺動部材にワーク等の衝突による衝撃力が加わった場合には、ピンの先端部と斜面との係合が解除する状態まで揺動部材が軸線回りに回動してしまい、ばねによって左右のピンを外方へ付勢しても、ピンの先端部をベアリングレースの斜面に押し付けることができず、揺動部材を所定の位置に戻すことができなかった。そして、アンクランプ時に、把握爪を所定の位置で保持できないために、複数の把握爪によるワークを挿入する空間が形成されず、次のワークをクランプ出来なくなる問題があった。
そこで本発明の課題は、上記問題点に鑑み、アンクランプ時に、把握爪が確実に所定の位置で保持されるようにしたチャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、チャック本体に、チャック半径方向に揺動可能な爪開閉部材を設け、爪開閉部材の先端には把握爪が装着され、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により爪開閉部材をチャック半径方向に揺動させ、把握爪によってワークをクランプ、アンクランプするようにしたチャックにおいて、
爪開閉部材の軸部には一対の平行な平面と軸部の外方に向けて傾斜する一対の傾斜面を連設し、チャック本体を構成する後ボディに前記軸部を案内する案内溝が設けられ、案内溝の両端には、前記傾斜面が嵌め込まれる溝部が設けられ、ワークのクランプ時に、案内溝と一対の平行な平面との隙間の範囲内で爪開閉部材の軸線回りの回動を可能にし、把握爪をチャック半径方向の外方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝から一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面が一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の装着方向を変更し、把握爪をチャック半径方向の内方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝からもう一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面がもう一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の軸線回りの回動が防止されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、
爪開閉部材の軸部には一対の平行な平面と軸部の外方に向けて傾斜する一対の傾斜面を連設し、チャック本体を構成する後ボディに前記軸部を案内する案内溝が設けられ、案内溝の両端には、前記傾斜面が嵌め込まれる溝部が設けられ、ワークのクランプ時に、案内溝と一対の平行な平面との隙間の範囲内で爪開閉部材の軸線回りの回動を可能にし、把握爪をチャック半径方向の外方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝から一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面が一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の装着方向を変更し、把握爪をチャック半径方向の内方に揺動させてワークをアンクランプする時には、軸部が案内溝からもう一方の溝部に向って移動し、一対の傾斜面がもう一方の溝部に嵌め込まれ、爪開閉部材の軸線回りの回動が防止されるようにしたので、爪開閉部材の装着方向の変更により、ワークの外径をクランプするチャックや、ワークの内径をクランプするチャックであっても、アンクランプ時に、複数の把握爪によるワークを挿入する空間を確実に形成することになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】把握爪をチャック半径方向の外方に揺動させた状態を示す図である。
【
図6】
図5の状態から、爪開閉部材を前方に移動させた状態を示す図である。
【
図8】
図5、6のVIII−VIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示すチャック1のチャック本体2は、図示しない取付ボルトによって前ボディ3の後端面を後ボディ4で塞ぎ、内側に内部空間5が形成されている。チャック本体2のチャック軸線CL上には駆動部材6が配置され、図示しない駆動源によりチャック軸線CL方向の前、後方へ移動するようになっている。駆動部材6は、軸形状の案内部材6aに、後述する各爪開閉部材11に対応するように形成した係合部材6bが取り付けられたものである。前ボディ3にはガイド孔7が穿設され、そのガイド孔7に前記駆動部材6の先端部が案内されている。また、このガイド孔7を前ボディ3前面から塞ぐようにストッパ部材8が取り付けられている。前ボディ3には、複数(本実施形態では3つ)の段付きの支持孔9が円周方向に等間隔に穿設されている。各支持孔9の小径孔側は前記内部空間5に連通し、大径孔側は前ボディ3の前面に開口している。各支持孔9には段付き形状の支持部10が固着され、各支持部10にはチャック半径方向に揺動するように爪開閉部材11が夫々設けられている。各支持部10にはシール部材12が配設され、支持孔9の大径孔を塞ぐように蓋部材13が取り付けられている。
【0010】
前記支持部10の内周には、爪開閉部材11に形成した球状部14と同一径の内周面15及び、爪開閉部材11の球状部14と同一径の球面16が形成されている。爪開閉部材11は先端に把握爪17の取付け部18が形成され、その取付け部18に前記球状部14、軸部19が連設されている。軸部19には、後述する貫通孔24に向けて装着孔20が設けられ、その装着孔20に付勢機構21の付勢部材22が摺動自在に装着されている。付勢機構21は付勢部材22とバネ部材23とから成り、付勢部材22と前記装着孔20の底面との間にバネ部材23を介在させ、付勢部材22を後ボディ4に当接させることでバネ部材23のバネ力により爪開閉部材11がチャック本体2の前方へ移動するようになっている。球状部14には、チャック軸線CLと直交する方向に貫通孔24が設けられている。その貫通孔24に、貫通孔24との間に隙間S1を形成するような軸径を有する軸部材25が挿通されている。
図3に示すように、軸部材25の両端は支持部10に夫々保持されている。このことから、爪開閉部材11は軸部材25に対して前、後方へ移動可能となっている。また、爪開閉部材11は、前記隙間S1の範囲内で支持孔9の軸線を中心に揺動することができる。
【0011】
爪開閉部材11の先端の取付け部18には、断面T字のナット溝26が形成されている。取付け部18の当接面18aに保持部材27を当接させ、前記ナット溝26に挿入した凸状のナット部材28にボルト部材29を捩じ込むことで、保持部材27が取付け部18に取付けられる。その保持部材27にワークWの外周面に対応する把持面17aが形成された把握爪17が取付けられている。爪開閉部材11の軸部19は、駆動部材6に旋回可能に取付けられたロッカボール30に摺動自在に嵌め込まれている。駆動部材6によりロッカボール30はチャック軸線CL方向の前、後方へ移動し、そのロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の把握爪17はチャック半径方向の外、内方に揺動するようになっている。
【0012】
前記爪開閉部材11の軸部の装着孔20から貫通孔24に向けてネジ部31aを備えた取付孔31が設けられている。その取付孔31には、爪開閉部材11の移動量Lを調整可能な調整機構32が備えられている。調整機構32は、調整部材33、球部材34、ネジ部材35とから成る。取付孔31の先端側には摺動自在に調整部材33が装着され、ネジ部31aに捩じ込んだネジ部材35を球部材34を介して前記調整部材33に係合させ、ネジ部材35を捩じ込むことで調整部材33の先端が貫通孔24内へ突出するようになっている。よって、爪開閉部材11に備えた調整機構32の調整部材33の先端と軸部材25との距離が爪開閉部材11の前方への移動量Lとなり、具体的には、貫通孔24内への突出量を増やせば爪開閉部材11の前方への移動量Lが小さく、貫通孔24内への突出量を減らせば爪開閉部材11の前方への移動量Lは大きくなる。また、調整部材33の先端には、軸部材25に係合可能な円弧状の凹溝33aが形成され、その円弧状の凹溝33aと軸部材25とが面当りするようになっている。
【0013】
爪開閉部材11の軸部19には
一対の平行な平面36と軸部19の外方に向けて傾斜する一対の傾斜面37が連設されている。後ボディ4には、爪開閉部材11の軸部19を案内する案内溝38が設けられている。案内溝38と
前記平面36との間には隙間S2が形成されている。隙間S2は上記した貫通孔24と軸部材25の間の隙間S1より小さいので、爪開閉部材11は隙間S2の範囲内で軸線回りに回動可能となる。案内溝38の両端には前記傾斜面37が嵌め込まれる溝部39が夫々設けられている。よって、駆動部材6の移動により爪開閉部材11がチャック半径方向に揺動すると、
図8に示すように、案内溝38にある一対の傾斜面37が一方の溝部39に嵌り込むようになっている。本実施形態では、アンクランプ時に把握爪17をチャック半径方向の外方に揺動させ、クランプ時に把握爪17をチャック半径方向の内方に揺動させて成るワークWの外径をクランプするチャック1であるが、
図9に示すように、前記爪開閉部材11の装着方向を変更し、アンクランプ時に把握爪17Aをチャック半径方向の内方に揺動させ、クランプ時に把握爪17Aをチャック半径方向の外方に揺動させて成るワークW1の内径をクランプするチャック1Aであっても、
図10に示すように、アンクランプ時には、案内溝38にある爪開閉部材11の一対の傾斜面37がもう一方の溝部39に嵌り込むようになっている。
【0014】
上記構成のチャック1の動作について説明する。チャック本体2は取付ボルト50により旋盤等の主軸部51前端に固着され、主軸部51の回転と共にチャック本体2が回転するようになっている。そして、主軸部51後端に設置された回転シリンダ(図示しない)のピストン(図示しない)にコネクチングロッド(図示しない)を介して駆動部材6が連結され、ピストンの作動により駆動部材6がチャック軸線CL方向の前、後方に移動するようになっている。ワークWをクランプする前には、
図5に示すように、駆動部材6をチャック軸線CL方向の前方に移動させ、ロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の把握爪17をチャック半径方向の外方に揺動させると共に、
図6に示すように、調整機構32の調整部材33の先端が軸部材25に当接するまで、付勢機構21により爪開閉部材11を支持部10の内周面15に沿って前方に移動させる。
図8に示すように、爪開閉部材11の軸部19は案内溝38から溝部39に向って移動し、一対の傾斜面37が溝部39に嵌め込まれ、爪開閉部材11の軸線回りの回動が防止される。よって、把握爪17が所定の位置で保持され、複数の把握爪11によるワークWが挿入される空間が、チャック本体2の前方に形成されることになる。
【0015】
チャック本体2の前方の空間にワークWが挿入されると、
図6から
図2に示すように、駆動部材6をチャック軸線CL方向の後方に移動させ、ロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の把握爪17をチャック半径方向の内方に揺動させると共に、
図7に示すように、軸部19を溝部39から案内溝38に向って移動させる。ワークWの軸芯がチャック軸線CLにある場合には、把握爪17の把握面17aの両端が同時にワークWの外周面に当接し、複数の把握爪17によりワークWがクランプされる。また、ワークWの外形が真円でない場合や、ワークWの軸芯がチャック軸線CLからずれている場合には、把握爪17の把握面17aの一方が他方より先にワークWの外周面に当接するので、他方がワークWの外周面に当接するまで爪開閉部材11が軸線回りに回動し、把握爪17の把握面17aがワークWの外周面に当接することになる。その後、複数の把握爪17によりワークWがクランプされる。駆動部材6は後方に移動し続け、ロッカボール30の作動によりワークWをクランプした爪開閉部材11を後方に移動させる。支持部10の球面部16に球状部14が当接すると、駆動部材6の移動が停止すると共に、チャック本体2前面に固着されたストッパ部8にワークWの端面が押し付けられる。その後、チャック本体2を回転させ、図示しない工具によってワークWが加工される。ワークWの加工が終了した後、
図6に示すように、駆動部材6をチャック軸線CL方向の前方に移動させ、各爪開閉部材11の先端の把握爪17がチャック半径方向の外方に揺動し、ワークWをアンクランプする。そして、チャック本体2の前方からワークWが取り出され、次に加工するワークWがチャック本体2の前方の空間に挿入された後、上記動作が繰り返し行われる。
【0016】
以上のように、
爪開閉部材11の軸部19には一対の平行な平面36と軸部19の外方に向けて傾斜する一対の傾斜面37を連設し、チャック本体2を構成する後ボディ4に前記軸部19を案内する案内溝38が設けられ、案内溝38の両端には、前記傾斜面37が嵌め込まれる溝部39が設けられ、ワークWのクランプ時に、案内溝38と一対の平行な平面36との隙間S2の範囲内で爪開閉部材11の軸線回りの回動を可能にし、把握爪17をチャック半径方向の外方に揺動させてワークWをアンクランプする時には、軸部19が案内溝38から一方の溝部39に向って移動し、一対の傾斜面37が一方の溝部39に嵌め込まれ、爪開閉部材11の装着方向を変更し、把握爪17Aをチャック半径方向の内方に揺動させてワークW1をアンクランプする時には、軸部19が案内溝38からもう一方の溝部39に向って移動し、一対の傾斜面37がもう一方の溝部39に嵌め込まれ、爪開閉部材11の軸線回りの回動が防止されるようにしたので、爪開閉部材11の装着方向の変更により、ワークWの外径をクランプするチャック1や、ワークW1の内径をクランプするチャック1Aであっても、アンクランプ時に、複数の把握爪17(17A)によるワークW(W1)を挿入する空間を確実に形成することができる。
【符号の説明】
【0017】
1 チャック
2 チャック本体
4 後ボディ
11 爪開閉部材
17 把握爪
19 軸部
36
平面
37 傾斜面
38 案内溝
39 溝部
S2 隙間
W ワーク