(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1及び
図2を用いて説明する。このX線回折測定システムは、測定対象物OBの残留応力を評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、同照射による測定対象物OBからの回折X線により形成される回折環の形状を検出する。
【0023】
X線回折測定装置は、X線を出射するX線出射器10と、回折X線による回折環が形成されるイメージングプレート21を取り付けるためのテーブル20と、テーブル20を回転及び移動させるテーブル駆動機構30と、イメージングプレート21に形成された回折環を測定するためのレーザ検出装置40と、これらのX線出射器10、テーブル20、テーブル駆動機構30及びレーザ検出装置40を収容するケース60とを備えている。また、ケース60内には、X線出射器10、テーブル20、テーブル駆動機構30及びレーザ検出装置40に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1においてケース60外に示された2点鎖線で示された各種回路は、ケース60内の2点鎖線内に納められている。なお、
図1及び
図2においては、回路基板、電線、固定具、空冷ファンなどは省略されている。
【0024】
ケース60は、平面状の前面壁61、後面壁62、上面壁63、下面壁64、左側面壁65及び右側面壁66(図示省略)を有する直方体状に形成されるとともに、前面壁61と下面壁64の角部を斜めに切断するように傾斜面壁67が設けられている。傾斜面壁67の中央部分には円形の貫通孔67aが設けられて、貫通孔67aを介して、回折環を形成するためのX線(X線出射器10から出射されたX線)を通過させるようになっている。そして、この傾斜面壁67を測定対象物OBの表面(上面)に密着すなわち面接触させて、測定対象物OBにX線を照射し、イメージングプレート21に回折環を形成するようになっている。
【0025】
左右側面壁65,66には、支持脚68a,68b(ただし、支持脚68bは図示省略)の上端部が回転可能に組み付けられている。これらの支持脚68a,68bは、このX線回折測定装置の保管時及び搬送時には、下面壁64に平行になるように折り畳まれて左右側面壁65,66に密着させて収納されており、このX線回折測定装置の使用時には、回転させて下面壁64に対して垂直方向に引き延ばし、下端部を測定対象物OB上に密着させて、傾斜面壁67を測定対象物OBの表面に密着すなわち面接触させて維持するようにする。なお、この支持脚68a,68bは、ケース60を
図2の状態に維持できれば、何れか一方だけでもよい。また、ケース60の上面壁63には、取っ手69が取り付けられており、ユーザが手で取っ手69を持って、このX線回折測定装置を持ち運びできるようになっている。なお、このX線回折測定装置の搬送時に同時に搬送する装置は、後述するコンピュータ装置90及び高電圧電源95のみである。
【0026】
X線出射器10は、長尺状に形成され、ケース60内の上部にて前後方向に延設されてケース60に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線制御回路71により制御されて、X線を下方に向けて出射する。X線出射器10から出射されたX線の光軸と、傾斜面壁67の法線とが所定の角度θをなすように、X線出射器10の出射口11の向きが設定されている。この所定の角度θは、測定対象物OBにX線を照射した場合に、測定対象物OBから回折したX線が出射される角度であり、例えば30度乃至45度の範囲内の所定角度である。なお、前記X線の光軸は、ケース60の上面壁63及び下面壁64に対して垂直であり、ケース60の前面壁61、後面壁62及び左右側面壁65,66に対して平行である。
【0027】
X線制御回路71は、後述するコンピュータ装置90を構成するコントローラ91によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に供給する駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給する駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10の温度が一定に保たれる。
【0028】
テーブル駆動機構30は、X線出射器10の下方にて、移動ステージ31を備えている。移動ステージ31は、フィードモータ32及びスクリューロッド33により、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。フィードモータ32は、テーブル駆動機構30内に固定されていてケース60に対して移動不能となっている。スクリューロッド33は、X線出射器10から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されていて、その一端部がフィードモータ32の出力軸に連結されている。スクリューロッド33の他端部は、テーブル駆動機構30内に設けた軸受部34に回転可能に支持されている。また、移動ステージ31は、それぞれテーブル駆動機構30内にて固定された、対向する1対の板状のガイド35,35により回転不能に挟まれていて、スクリューロッド33の軸線方向に沿ってのみ移動可能となっている。すなわち、フィードモータ32を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ32の回転運動が移動ステージ31の直線運動に変換される。フィードモータ32内には、エンコーダ32aが組み込まれている。エンコーダ32aは、フィードモータ32が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
【0029】
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、フィードモータ32を駆動して移動ステージ31をフィードモータ32側へ移動させる。位置検出回路72は、エンコーダ32aから出力されるパルス信号が入力されなくなると、移動ステージ31が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から移動限界位置に達したことを表す信号を入力すると、フィードモータ32への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ31の原点位置とする。したがって、位置検出回路72は、移動ステージ31が
図1及び
図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ31が移動限界位置から右下方向へ移動するとき、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
【0030】
フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ31の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ32を正転又は逆転駆動する。位置検出回路72は、エンコーダ32aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路72は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ31の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラ91及びフィードモータ制御回路73に出力する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から入力した移動ステージ31の現在の位置が、コントローラ91から入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ32を駆動する。
【0031】
また、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ31の移動速度を表す設定値をコントローラ91から入力する。そして、エンコーダ32aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ31の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ31の移動速度がコントローラ91から入力した移動速度になるようにフィードモータ32を駆動する。
【0032】
一対のガイド35,35の上端は、板状の上壁36によって連結されている。上壁36には、貫通孔36aが設けられていて、貫通孔36aには、X線出射器10の出射口11の先端部が挿入されている。なお、X線出射器10の出射口11の先端が移動ステージ31に当接しないように、X線出射器10及び移動ステージ31の位置が設定されている。
【0033】
また、移動ステージ31には、スピンドルモータ37が組み付けられている。スピンドルモータ37内には、エンコーダ32aと同様なエンコーダ37aが組み込まれている。すなわち、エンコーダ37aは、スピンドルモータ37が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ37aは、スピンドルモータ37が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75へ出力する。
【0034】
スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75は、コントローラ91からの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から、スピンドルモータ37の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ37aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ37の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラ91から入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ37に供給する。回転角度検出回路75は、エンコーダ37aから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ37の回転角度すなわちイメージングプレート21の回転角度θpを計算して、コントローラ91に出力する。そして、回転角度検出回路75は、エンコーダ37aから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準回転位置である。
【0035】
テーブル20は、円形状に形成され、スピンドルモータ37の出力軸の先端部に固定されている。テーブル20の中心軸と、スピンドルモータ37の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル20は、下面中央部から下方へ突出した突出部22を有していて、突出部22の外周面には、ねじ山が形成されている。突出部22の中心軸は、スピンドルモータ37の出力軸の中心軸と一致している。テーブル20の下面には、イメージングプレート21が取付けられている。イメージングプレート21は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート21の中心部には、貫通孔21aが設けられていて、この貫通孔21aに突出部22を通し、突出部22にナット状の固定具23をねじ込むことにより、イメージングプレート21が、固定具23とテーブル20の間に挟まれて固定される。固定具23は、円筒状の部材で、内周面に、突出部22の雄ねじに対応する雌ねじが形成されている。
【0036】
イメージングプレート21は、フィードモータ32によって駆動されて、移動ステージ31、スピンドルモータ37及びテーブル20と共に原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。また、イメージングプレート21は、スピンドルモータ37によって駆動されて回転しながら、フィードモータ32によって駆動されて、移動ステージ31、スピンドルモータ37及びテーブル20と共に撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート21の移動においては、イメージングプレート21の中心軸が、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
【0037】
また、移動ステージ31、スピンドルモータ37の出力軸、テーブル20、イメージングプレート21及び固定具23には、X線出射器10から出射されたX線を通過させる貫通孔がそれぞれ設けられている。これらの貫通孔の中心軸と、テーブル20の回転軸は一致している。すなわち、これらの貫通孔の中心軸と、X線出射器10から出射されるX線の光軸とが一致するとき、X線が測定対象物OBに照射されるようになっている。このように、X線を測定対象物OBに照射するときのイメージングプレート21の位置が、回折環撮像位置である。
【0038】
フィードモータ32の下方には、測定対象物OBにて反射したX線を受光する複数の受光素子からなる受光センサ25(例えば、X線CCD)が組み付けられている。受光センサ25は、測定対象物OB及びイメージングプレート21からフィードモータ32側に充分離れている。これにより、イメージングプレート21が回折環撮像位置にあるとき、受光センサ25は、測定対象物OBにて反射したX線を直接受光できる。受光センサ25の受光面は、測定対象物OBの表面と平行である。受光センサ25の受光面におけるX線の受光位置は、測定対象物OBの高さに対応している。言い換えれば、イメージングプレート21と測定対象物OBとの距離に対応している。受光センサ25は、それぞれの受光素子が受光した受光信号をセンサ信号取出回路76へ出力する。
【0039】
センサ信号取出回路76は、コントローラ91からの指令により作動開始し、受光センサ25から入力した受光信号を用いて、受光センサ25の受光面における受光信号のピーク位置を算出して受光位置を表す受光位置信号としてコントローラ91へ出力する。
【0040】
レーザ検出装置40は、回折環を撮像したイメージングプレート21にレーザ光を照射して、イメージングプレート21から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置40は、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート21からフィードモータ32側に充分離れている。すなわち、イメージングプレート21が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置40によって遮られないようになっている。レーザ検出装置40は、レーザ光源41と、コリメートレンズ42、反射鏡43、ダイクロイックミラー44及び対物レンズ46を備えている。
【0041】
レーザ光源41は、レーザ駆動回路77によって制御されて、イメージングプレート21に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路77は、コントローラ91によって制御され、レーザ光源41から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路77は、後述するフォトディテクタ52から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源41に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート21に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
【0042】
コリメートレンズ42は、レーザ光源41から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡43は、コリメートレンズ42にて平行光に変換されたレーザ光を、ダイクロイックミラー44に向けて反射する。ダイクロイックミラー44は、反射鏡43から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ46は、ダイクロイックミラー44から入射したレーザ光をイメージングプレート21の表面に集光させる。この対物レンズ46から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ31の移動方向に対して垂直な方向である。
【0043】
対物レンズ46には、フォーカスアクチュエータ47が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ47は、対物レンズ46をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ46は、フォーカスアクチュエータ47が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
【0044】
対物レンズ46によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート21の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート21にレーザ光を照射すると、イメージングプレート21の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも短い波長の光を発する。イメージングプレート21に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ46を通過し、ダイクロイックミラー44にて、蛍光体から発せられた光は大部分が反射し、レーザ光の反射光は一部のみが反射する。ダイクロイックミラー44の反射方向には、集光レンズ48、シリンドリカルレンズ49及びフォトディテクタ50が設けられている。集光レンズ48は、ダイクロイックミラー44から入射した光を、シリンドリカルレンズ49に集光する。シリンドリカルレンズ49は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ50は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路78に出力する。
【0045】
増幅回路78は、フォトディテクタ50から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成し、フォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路79は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路79は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート21の表面からのずれ量を表している。
【0046】
フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ47を駆動して、対物レンズ46をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート21の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
【0047】
SUM信号生成回路80は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換器83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート21にて反射し、ダイクロイックミラー44にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート21にて反射し、ダイクロイックミラー44にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート21に入射した回折X線の強度に、入射した時間を乗算した値(X線露光量)に相当する。A/D変換器83は、コントローラ91によって制御され、SUM信号生成回路80からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
【0048】
また、レーザ検出装置40は、集光レンズ51及びフォトディテクタ52を備えている。集光レンズ51は、レーザ光源41から出射されたレーザ光の一部であって、ダイクロイックミラー44を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ52の受光面に集光する。フォトディテクタ52は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ52は、レーザ光源41が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路77へ出力する。
【0049】
また、対物レンズ46に隣接して、LED53が設けられている。LED53は、LED駆動回路84によって制御されて、回折環を消去するための消去用光である可視光を発して、イメージングプレート21に撮像された回折環を消去する。このLED53が、本発明の消去用光照射器に相当する。LED駆動回路84は、コントローラ91によって制御され、LED53に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0050】
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された
図3のメインプログラム(
図4A乃至
図4Cのデータ処理ルーチンを含む)を実行する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果などを視覚的に知らせる。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧を供給する。
【0051】
上記のように構成したX線回折測定装置の動作を説明する前に、時間Ta+TbだけX線を照射したときの回折環の半径方向における受光強度曲線が、時間TaだけX線を照射したときの受光強度曲線と、時間TbだけX線を照射したときの受光強度曲線とを位置を合わせて合算した受光強度曲線にほぼ一致する点について、下記の実験結果を用いて説明しておく。
図8(A)はX線を測定対象物OBに8秒間照射した場合にイメージングプレート21に形成される回折環の1つの周方向位置おける受光強度の分布状態を示し、
図8(B)はX線を測定対象物OBに8秒間ずつ2回照射した場合にイメージングプレート21に形成される回折環の1つの周方向位置おける2つの受光強度を加算した受光強度の分布状態を示し、
図8(C)はX線を測定対象物OBに14秒間照射した場合にイメージングプレート21に形成される回折環の1つの周方向位置おける受光強度の分布状態を示している。
【0052】
図8(A)〜(C)においては、横軸はイメージングプレート21の半径方向位置に対応しているが、実際には
図8(D)に示すように、180度がX線とイメージングプレート21とが交わる位置、すなわちイメージングプレート21の中心位置であり、イメージングプレート21の半径方向の位置は、測定対象物OBにおけるX線の照射位置とイメージングプレート21上の半径方向おける位置とを結ぶ直線(図示破線)と、X線の軸線とがなす角度φである。また、縦軸は、受光強度を表すものであるが、フォトディテクタ50からの受光信号を増幅回路78で増幅した値であるので、単にレベル比で表している。なお、
図8(A)の縦軸の目盛間隔は、
図8(B)(C)の2倍にして示している。また、前記8秒及び14秒の照射時間は、実験に用いたX線照射器に対して出射指令を発した時点かX線出射器に対して停止指令を発するまでの時間である。この実験に用いたX線出射器は、停止指令に対しては即座に応答してX線の出射を停止するが、出射指令に対しては出射指令の直後からX線の出射は開始されず、出射指令から実際にX線の実際に出射されるまでには、1〜2秒程度の時間遅れがある。したがって、実際のX線の照射時間に関しては、前記14秒は前記8秒の約2倍に相当する。よって、
図8(A)の場合のピーク付近の受光強度は、
図8(B)(C)の場合のピーク付近の受光強度の約1/2になっている。
【0053】
この実験結果によれば、X線の照射時間が8秒であって回折X線の露光強度が弱い場合には、
図8(A)に示すように、受光強度のピークが小さいうえに、ピーク部分の形状にはノイズ成分が多く含まれている。一方、X線を測定対象物OBに8秒間ずつ2回照射して2つの受光強度を加算した場合、及びX線の照射時間が14秒であって回折X線の露光強度が強い場合には、
図8(B)(C)に示すように、受光強度のピークが大きいうえに、ピーク部分の形状に含まれるノイズ成分は少ない。そして、
図8(B)(C)を比べると、半径方向における受光強度分布はほぼ等しくなっている。したがって、X線の照射時間が短い場合でも、複数回のX線の照射及び複数の受光強度の加算を行えば、X線の照射時間を十分に長くした場合と同様な結果が得られることが分かる。さらに、
図9(A)〜(C)は、
図8(A)〜(C)の場合において、イメージングプレート21に形成された回折環の画像を示すものであり、この画像からも、X線の照射時間が短い場合でも、複数回のX線の照射及び複数の受光強度の加算を行えば、X線の照射時間を十分に長くした場合と同様な結果が得られることが分かる。
【0054】
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBであるショットピーニングを行った後の鉄材の回折環を測定して残留応力を求める具体的方法について説明する。上記のように構成したX線回折装置においては、その保管状態及び搬送状態では、
図12Aに示すように、支持脚68a,68bは、下面壁64に平行になるように折り畳まれて左右側面壁65,66に密着して収納されている。
【0055】
このような状態にあるX線回折測定装置を取っ手69を持って持ち運び、ショットピーニングを終えた測定対象物OBである鉄材の上に載せる。この場合、
図2及び
図12Bに示すように、支持脚68a,68bを下面壁64に対して垂直方向に回転させて、下端部を測定対象物OB上に密着させ、傾斜面壁67を測定対象物OBの表面に密着すなわち面接触させて、X線回折測定装置を測定対象物OBの表面上に維持するようにする。また、この場合、X線回折測定装置を、測定対象物OBである鉄材上であって、測定位置が傾斜面壁67に設けた貫通孔67aの位置に来るようにする。この状態では、X線出射器10から出射されたX線の光軸と傾斜面壁67の法線とが所定の角度θをなすように設定されているので、X線の光軸と測定対象物OBの表面の法線とがなす角度は、所定の角度θに設定される。これにより、測定対象物OBにX線が照射されれば、測定対象物OBから回折X線が出射され、イメージングプレート21上には回折環が形成される。
【0056】
その後、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を上記の構成のX線回折測定装置に接続する。そして、作業者が、入力装置92を用いて、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、残留応力の測定開始を指示する。これにより、コントローラ91は、
図3に示すメインプログラムの実行を開始する。
【0057】
このメインプログラムは
図3のステップS10にて開始され、コントローラ91は、ステップS12にて、変数qを「0」に設定した後、ステップS14以降の処理を実行する。変数qは、詳しくは後述する、再測定を行った回数を表す変数である。ステップS14においては、コントローラ91は、X線出射器10からのX線を測定対象物OBに照射して、イメージングプレート21に回折環を形成する。
【0058】
具体的には、次のような処理を実行する。まず、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート21を低速回転させ、エンコーダ37aからインデックス信号を入力した時点でイメージングプレート21の回転を停止させ、イメージングプレート21の回転角度を0度に設定する。次に、位置検出回路72の作動を開始させるとともに、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32の作動を開始させ、位置検出回路72との協働によりフィードモータ32の作動を停止させて、イメージングプレート21を回折環撮像位置まで移動させる。次に、センサ信号取出回路76の作動を開始させるとともに、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させて、測定対象物OBにX線を照射し始める。そして、測定対象物OBの表面にて反射されて受光センサ25により受光されたX線による、センサ信号取出回路76から受光位置信号を入力して、前記入力した受光位置信号を用いてイメージングプレート21と測定対象物OBとの距離Lを算出する。なお、この算出した距離Lは、後述する処理によって利用されるので、メモリに記憶しておく。
【0059】
次に、前記算出した距離Lが所定の基準範囲内にあることを条件に、センサ信号取出回路76の作動を停止させた後、設定された照射時間TxだけX線の照射を続行して、その後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10によるX線の照射を停止させる。なお、この場合の照射時間Txは、初期設定により予め決められた基準照射時間Txoである。これにより、この状態では、X線が基準照射時間Txoだけ測定対象物OBに照射されて、測定対象物OBから発生した回折X線による回折環がイメージングプレート21に基準照射時間Txoに渡って撮像される。なお、前記算出した距離Lが基準範囲内にない場合には、作業者に、X線回折測定装置をセットし直すように指示する。
【0060】
前記回折環撮像処理後、コントローラ91は、ステップS16にて、回折環読取り処理を実行する。この回折環読取り処理は、前記イメージングプレート21に形成された回折環を読取るための処理である。具体的には、次のような処理を実行する。まず、測定対象物OBの残留応力が「0」である場合の回折環の半径である回折環基準半径R0を計算しておく。この回折環基準半径R0は、測定対象物OBの材質及びイメージングプレート21から測定対象物OBまでの距離Lに依存し、回折角θxは材質(本実施形態では、鉄である)によって決定されるので、R0=L・tan(θx)の演算によって計算される。なお、後述の再計算処理を省くために、この計算された回折環基準半径R0はメモリに記憶される。
【0061】
次に、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32を作動させ、位置検出回路72と協働して、イメージングプレート21を読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート21の読取り開始位置は、対物レンズ46の中心すなわちレーザ光の照射位置が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ小さな位置である。なお、所定距離αは、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある距離よりもやや大きい距離である。このときのX線回折測定装置は、
図12Cに示された状態にある。
【0062】
ここで、移動ステージ31の移動限界位置から
図1及び
図2の右下方向への移動距離xを表す位置検出回路72からの位置信号と、イメージングプレート21の中心からレーザ光の照射位置(対物レンズ46の中心位置)までの距離(すなわちレーザ光の照射位置の半径r)との関係について説明しておく。移動ステージ31すなわちイメージングプレート21が移動限界位置にある状態においては、
図10(A)に示すように、イメージングプレート21の中心から対物レンズ46の中心位置までの距離をRxとする。なお、この場合、対物レンズ46は前記イメージングプレート21の中心位置から
図1及び
図2にて左上方向にあり、また前記距離Rxは予め測定されてコントローラ91に記憶されている。一方、
図10(B)に示すように、イメージングプレート21を移動限界位置から
図1及び
図2の右下方向へ距離xだけ移動させると、レーザ光の照射位置の半径rは、r=x+Rxで表される。この場合、距離xは、前述のように位置検出回路72から出力される位置信号によって示されるので、今後の処理において、レーザ光の照射位置の半径rは、位置検出回路72から出力される位置信号によって表された距離xに予め記憶されている値Rxを加算することになる。
【0063】
そして、前記のように、イメージングプレート21を読取り開始位置へ移動させる場合には、
図10(C)に示すように、レーザ光の照射位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ内側に位置するので、この場合の半径rは距離R0−αに等しくなるはずである。したがって、イメージングプレート21を駆動限界位置から
図1及び
図2の右下方向へ移動させる距離xは、x=R0−α−Rxに等しくなる。すなわち、イメージングプレート21の読取り開始位置への移動においては、位置検出回路72から出力される位置信号により表される距離x(=R0−α−Rx)だけ、テーブル20を
図1及び
図2の右下方向へ移動させればよい。
【0064】
次に、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ37を回転させ、イメージングプレート21を予め決められた一定の回転速度で回転させる。この場合、スピンドルモータ制御回路74は、エンコーダ37aからのパルス信号を用いて回転速度を計算しながら、前記一定の回転速度でイメージングプレート21が回転するようにスピンドルモータ37の回転を制御する。そして、レーザ駆動回路77を制御してレーザ光源41によるレーザ光のイメージングプレート21に対する照射を開始し、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボ制御を開始させる。その後、回転角度検出回路75及びA/D変換器83の作動を開始させる。
【0065】
次に、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32を作動させ、イメージングプレート21を読取り開始位置から軸受部34側(
図1及び
図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、イメージングプレート21において回折環基準半径R0から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で相対移動し始め、前記イメージングプレート21の回転との同時動作により、イメージングプレート21上を螺旋状に回転し始める。
【0066】
次に、回転角度検出回路75との協働により、イメージングプレート21の所定の回転角度ごとに、A/D変換器83からSUM信号を取り込み、また位置検出回路72からの位置信号を取り込むとともに位置信号によって表される距離xに所定距離Rxを加算して半径rを計算し、前記取込んだSUM信号を信号強度S(n,m)としてメモリに順次記憶するとともに、前記計算した半径値を半径r(n,m)としてメモリに順次記憶する。これにより、イメージングプレート21の読取りポイントからの輝尽発光の強度すなわち読取りポイントに対するX線回折光の露光強度を表す信号強度S(n,m)が、読取りポイントの半径を表す半径r(n,m)と共にメモリに順次記憶される。この場合、
図11に示すように、変数nは螺旋状に移動する読取りポイントの所定の回転角度ごとに「1」ずつ増加する変数であり、変数mは読取りポイントが1回転する毎に「1」ずつ増加する変数である。なお、変数n,mは、回転角度検出回路75からの回転角度θpを用いて順次変更される。
【0067】
そして、レーザ光の照射位置が回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ大きくなった時点で、前記SUM信号及び半径値の読取りを終了する。この位置は、位置検出回路72から出力される位置がR0+α−Rxになる位置である。これにより、レーザ光の照射位置が回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ小さな位置から回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ大きな位置までの信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリには記憶されることになる。また、このSUM信号及び半径値の読取り終了時には、フォーカスサーボ回路81によるフォーカスサーボ制御を停止し、レーザ駆動回路77を制御してレーザ光源41によるレーザ光の照射を停止させ、A/D変換器83及び回転角度検出回路75の作動を停止させ、かつフィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32の作動を停止させてイメージングプレート21の移動を停止させる。なお、この状態では、位置検出回路72の作動及びイメージングプレート21の回転は、以前と同様のまま継続されている。
【0068】
前記回折環読取り処理後、コントローラ91は、ステップS18にて、回折環消去処理を実行する。この回折環消去処理は、前記イメージングプレート21に形成された回折環を消去するための処理である。具体的には、次のような処理を実行する。まず、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32を作動させて、イメージングプレート21を消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート21が消去開始位置は、LED53から出力される可視光の中心が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ小さい位置である。すなわち、この位置は、イメージングプレート21が駆動限界位置にある状態において、イメージングプレート21の中心からLEDの可視光の中心までの距離をRy’とすると、位置検出回路72から出力される位置がR0−γ−Ry’になる位置である。なお、所定距離γは、前記所定距離αよりも若干大きく、前記撮像された回折環の半径よりは余裕をもってずれた位置である。これにより、後述の処理により、前記撮像された回折環が確実に消去される。
【0069】
次に、LED駆動回路84を制御してLED53による可視光のイメージングプレート21に対する照射を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32を作動させて、イメージングプレート21を消去開始位置から軸受部34側(
図1及び
図2の右下方向)に一定速度で移動させる。そして、イメージングプレート21の現在の位置が消去終了位置を超えると、回折環の消去処理を終了する。この消去終了位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ大きな位置、すなわち位置検出回路72から出力される位置がR0+γ−Ry’になる位置である。これにより、回転するイメージングプレート21に対し、前記回折環基準半径R0から所定距離γだけ内側から所定距離γだけ外側まで、LED53による可視光が照射されるので、前記回折X線によって形成された回折環は内側から徐々に消去されていく。この回折環の消去処理の終了時には、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート21の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED53による可視光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、かつスピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ37の作動を停止させて、イメージングプレート21の回転を停止させる。
【0070】
前記回折環読取り処理後、コントローラ91は、ステップS20にて、データ処理ルーチンを実行する。このデータ処理ルーチンは、回折環の半径方向における反射光の強度曲線のピークの大きさを求め、ピークが設定された大きさ未満である場合には再測定を行うことを決定する処理である。このデータ処理ルーチンの詳細は、
図4A乃至
図4Cに示されており、ステップS100にてその実行が開始される。
【0071】
このデータ処理ルーチンの実行開始後、コントローラ91は、ステップS102にて、変数qが「0」であるか、すなわち初回測定(すなわち1回目の測定)であるか、再測定(すなわち2回目以降の測定)であるかを判定する。変数qが前記ステップS12の処理により「0」に初期設定されたまま、すなわち初回の測定であれば、コントローラ91は、ステップS104にて「Yes」と判定し、ステップS104〜S114からなる処理を実行する。
【0072】
コントローラ91は、ステップS104にて、変数n,tを「1」にそれぞれ初期設定する。変数nは、前述した場合と同様に、読取りポイントの所定の回転角度ごとに「1」ずつ増加する変数であり、変数tは後述するピーク値P(t)及びピーク高さPG(t)を指定する「1」ずつ増加する変数である。前記ステップS104の処理後、コントローラ91は、ステップS106にて、前記ステップS18の回折環読取り処理によってメモリに記憶されていて、変数nによって指定される信号強度S(n,1)〜S(n,m
max)及び半径r(n,1)〜r(n,m
max)を用いて、受光強度曲線を作成する。この場合、値1〜m
maxは前述した変数mすなわち読取りポイントが1回転するごとに「1」ずつ増加する変数に対応しており、値m
maxは、メモリに記憶されている信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)のうちで、変数nによって指定される信号強度S(n,m)及び半径r(n,1)〜r(n,m
max)の数、すなわち変数mの最大値である。したがって、前記受光強度曲線は変数n(=1)によって指定される回転角度における半径方向に沿った信号強度の分布曲線である。なお、この場合、形成される受光強度曲線はスムージング処理される。次に、コントローラ91は、ステップS108にて、前記受光強度曲線のピーク値を計算してピーク値P(t)としてメモリに記憶するとともに、受光強度曲線の平坦部分からピーク点までの高さを計算してピーク高さPG(t)としてメモリに記憶する。なお、ピーク値の計算においては、受光強度が増加した後に減少する点を補間処理によりピーク点として検出し、検出したピーク点のレベルをピーク値とする。また、平坦部分とは
図5(A)〜(C)においてピーク点の両側に位置する部分であり、ピーク高さの計算においては、前記両側に位置する部分の平均値を平坦部分の高さ(ベースレベル)として利用する。
【0073】
前記ステップS108の処理後、コントローラ91は、ステップS110にて変数nに所定値kを加算し、ステップS112にて加算後の変数nが値n
maxよりも大きいかを判定する。この場合、所定値kは、所定の正の整数値であり、「1」であってもよいが、ステップS106〜S114の処理時間を短縮させるために「1」よりも大きな値である。また、値n
maxはメモリに記憶されている信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)における変数nの最大値、すなわち読取りポイントの最大角度に対応する値である。初期の状態では変数nは「1」であり、値n+kは値n
maxよりも小さく、コントローラ91は、ステップS112にて「No」と判定して、ステップS114にて変数tに「1」を加算して、ステップS106〜ステップS112をふたたび実行する。そして、変数nがステップS110の処理によって値n
maxより大きくなるまで、ステップS112にて「No」と判定され、ステップS106〜S114の循環処理が繰り返し実行される。この循環処理により、読取りポイントにおける所定角度に所定値kを乗算した角度ごとに、ピーク値P(t)及びピーク高さPG(t)が順次記憶されていく。
【0074】
そして、変数nが値n
maxよりも大きくなると、すなわち1回転分のピーク値P(t)及びピーク高さPG(t)の記憶が終了すると、コントローラ91は、ステップS112にて「Yes」と判定し、ステップS116にて、ピーク値P(1)〜P(t
max)の最大値P
maxを抽出するとともに、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minを抽出する。なお、値t
maxはピーク値P(t)及びピーク高さPG(t)のそれぞれの数に等しい。また、この最大値P
maxが本発明の測定ピーク値に対応し、この最小値PG
minが本発明の測定ピーク高さに対応する。
【0075】
次に、コントローラ91は、
図4BのステップS118にて、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGo以上であるかを判定する。この基準高さPGoは、ピーク点を精度よく検出できる最小限のピーク高さとして実験により確認された値である。この場合、最小値PG
minが基準高さPGo以上であれば、コントローラ91は、ステップS118にて「Yes」と判定し、ステップS140にて「再測定なし」を設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22にて「再測定あり?」を判定する。この場合、「再測定なし」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS22にて「No」と判定して、ステップS26の残留応力の計算及び表示処理を実行する。
【0076】
ステップS26の残留応力の計算及び表示処理においては、まず、前記ステップS18の回折環読取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径r(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を用いてピーク位置rp(n)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を計算する。具体的には、変数nを「1」から値n
maxまで順次変化させながら、1〜n
maxまで変化する変数nの各値(n=n
x)ごとに、信号強度S(n,m)(n=n
x,m=1〜m
max)及び半径r(n,m)(n=n
x,m=1〜m
max)を用いて受光強度曲線、すなわち変数n(=n
x)によって指定される回転角度における半径方向に沿った信号強度の分布曲線をそれぞれ作成して、作成した受光強度曲線からピーク位置rp(n)(=n
x)をそれぞれ計算する。なお、この場合も、形成される受光強度曲線はスムージング処理されるとともに、ピーク位置は受光強度が増加した後に減少する点を補間処理を行って計算される。これにより、所定角度ごとにおける受光強度のピーク位置rp(n)(n=1〜n
max)、すなわち回折環の所定角度ごとの半径がそれぞれ計算される。
【0077】
その後、コントローラ91は、このピーク位置rp(n)(n=1〜n
max)を用いて、測定対象物OBである鉄材の測定箇所の残留圧縮応力(垂直応力)を計算し、計算した結果に応じて鉄材のショットピーニングによる加工結果を評価する。なお、これらの残留応力は、従来からよく知られているcosα法を用いて計算されるとともに、その計算結果による残留応力の大きさにより、ショットピーニングの評価がなされる。そして、計算された残留応力及び評価結果を表示装置93に表示して、ステップS28にてメインプログラムの実行を終了する。
【0078】
一方、前記ステップS116の処理により抽出したピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGo未満であれば、コントローラ91は、
図4BのステップS118にて「No」と判定し、ステップS120にて、最小値PG
minを基準高さPGoで除算した除算値PG
min/PGoが「0.5」以上であるかを判定する。この判定処理は、後述する2回目の回折環撮像処理においてX線の照射時間Txとして基準照射時間Txoを採用すれば、初回の最小値PG
minと、2回目の回折環読取り処理によって取得される信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に関するピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minとを加算したピーク高さが基準高さPGoを超えて、ピーク点を精度よく検出できるか否かを判定するものである。したがって、除算値PG
min/PGoが「0.5」以上であれば、すなわち初回と同じ2回目の回折環撮像処理及び回折環読取り処理によってピーク点を精度よく検出できる場合には、コントローラ91は、ステップS120にて「Yes」と判定して、ステップS128にて変数Qを「1」に設定する。なお、この変数Qは、詳しくは後述するように、再測定(回折環撮像処理、回折環読取り処理及び回線環消去処理)を行うべき回数である。
【0079】
前記ステップS128の処理後、コントローラ91は、ステップS136にて、前記ステップS18の回折環読取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)、すなわち初回の回折環読み取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を、以前の測定による信号強度S’(n,m,q)(n=1〜n
max,m=1〜m
max,q=0)としてメモリに記憶しておく。なお、この場合の変数qは、初期設定された「0」である。前記ステップS136の処理後、コントローラ91は、ステップS138にて、「再測定あり」に設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。
【0080】
このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22にて「Yes」すなわち「再測定あり」と判定して、ステップS24にて変数qに「1」を加算してステップS14に戻り、前述したステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理及びステップS18の回折環消去処理を実行する。なお、この場合も、回折環撮像処理におけるX線の照射時間Txは、初期設定された基準照射時間Txoのままである。この状態では、今回の回折環撮像処理及び回折環読取り処理により、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。前記ステップS18の処理後、コントローラ91は、ステップS20にてデータ処理ルーチンをふたたび実行し始める。この場合、変数qは前記ステップS24の処理により「1」が加算されて「1」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS100のデータ処理ルーチンの開始後、ステップS102にて「No」と判定して、
図4CのステップS142に進む。
【0081】
ステップS142においては、変数Qが「1」であるかを判定する。この場合、変数Qは前記ステップS128の処理により「1」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS142にて「Yes」と判定して、ステップS144にて、前記新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に前記ステップS136の処理により記憶しておいたS’(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max,0)を加算して、加算値S(n,m)+S’(n,m)を新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶しておく。なお、この場合、初回及び2回目の回折環撮像処理においては、X線の照射時間Txは共に基準時間Txoである。また、初回及び2回目の回折環読取り処理は同一条件で行われ、初回の回折環読取り処理による信号強度S(n,m)のイメージングプレート21に対する読取りポイントと、2回目の回折環読取り処理による信号強度S(n,m)のイメージングプレート21に対する読取りポイントは同一であるので、同一読取りポイントにおける2組の信号強度S(n,m)が加算されることになる。また、初回及び2回目の回折環読取り処理による半径r(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)は同じであるが、本実施形態では、初回の回折環読取り処理による半径r(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)は廃棄され、2回目の回折環読取り処理による半径r(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が採用される。
【0082】
前記ステップS144の処理後、コントローラ91は、ステップS152にてX線の照射時間Txを基準照射時間Txoに設定し、ステップS154にて「再測定なし」を設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。なお、ステップS152によるX線の照射時間Txの設定は今回の処理では不要であるが、後述する処理により照射時間Txが基準照射時間Txoから他の値に変更された場合に、照射時間Txを初期の基準照射時間Txoに戻しておく処理である。
【0083】
そして、コントローラ91は、
図3のメインプログラムのステップS22の前述した判定処理を実行する。この場合、「再測定なし」に設定されているので、コントローラ91はステップS22にて「No」と判定し、ステップS26にて前述した残留応力の計算及び表示処理を実行して、ステップS28にてメインプログラムの実行を終了する。ただし、この場合には、2回目のステップS14,S16の処理によって2回目の回折環撮像処理及び回折環読み取り処理による信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が新たに取得され、前記ステップS144の処理により前記新たに取得された信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が初回の回折環読取り処理による信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に加算されており、残留応力の計算及び表示処理は、前記加算結果である信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を用いて行われる。
【0084】
一方、前記ステップS116の処理により抽出したピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGo未満であり、かつ最小値PG
minを基準高さPGoで除算した除算値PG
min/PGoが「0.5」未満であれば、コントローラ91は、ステップS118,S120にてそれぞれ「No」と判定し、ステップS122に進む。ステップS122においては、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minを値(PGo−PG
min)に変化させた場合におけるピーク値P(1)〜P(t
max)の最大値P
maxを、下記式1の演算により推定最大値P
max’として推定計算する。
P
max’=(P
max−Ref)・(PGo−PG
min)/PG
min+Ref …式1
前記式1において、値Refは回折X線の露光強度が「0」のときの反射光の強度、すなわちイメージングプレート21にX線を入射させずにレーザ光を照射したときのA/D変換器83からのSUM信号のレベルであり、実験により確認された予め決められている値である。また、値PGo−PG
minはピーク高さの基準高さPGoとピーク高さの最小値PG
minとの差(PGo−PG
min)であり、この差(PGo−PG
min)と最小値PG
minとの比の値(PGo−PG
min)/PG
minを、ピークの最大値P
maxから値Refを減算した値(P
max−Ref)に乗算して、乗算結果(P
max−Ref)・(PGo−PG
min)/PG
minに値Refを加算している。したがって、前記式1の推定演算により、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minを、基準高さPGoと最小値PG
minとの差(PGo−PG
min)まで大きくした場合における、ピーク値P(1)〜P(t
max)の最大値P
maxの推定値が推定最大値P
max’として計算されることになる。言い換えれば、この推定最大値P
max’は、詳しくは後述するように、最小値PG
minの基準高さPGoまでの不足分を補う照射時間だけX線を照射した場合におけるピーク値P(1)〜P(t
max)の最大値を表す。
【0085】
前記ステップS122の処理後、コントローラ91は、ステップS124にて、推定最大値P
max’が限界値Plim以下であるかを判定する。この場合、限界値Plimは次のようにして予め決められている値である。X線の出射時間を増加させて回折X線の露光強度(すなわちX線の出射強度)を大きくしていくと、反射光の強度(フォトディテクタ50によって検出される受光強度)、すなわち回折X線の露光強度を「0」にしたときの反射光の強度に輝尽発光の強度を加えた強度は、
図7に示すように徐々に大きくなる。そして、X線の出射時間をさらに増加させて回折X線の露光強度をさらに大きくしていくと、反射光の強度は飽和する。この
図7に示すような特性を予め実験により確認しておき、前記飽和する反射光の強度よりも多少小さな強度が限界値Plimとして予め定められる。なお、反射光の強度は実際にはA/D変換器83が出力する信号強度であるので、レーザ光源41が出射するレーザ光の強度及び増幅回路78の増幅率により異なった値になる。よって、限界値Plimは、レーザ光強度及び増幅率ごとに記憶されており、測定の際に設定されているレーザ光強度及び増幅率により使用する値が選択される。
【0086】
推定最大値P
max’が限界値Plim以下であれば、コントローラ91は、ステップS124にて「Yes」と判定して、ステップS126にて、X線の照射時間Txを、前記ピーク高さの基準高さPGoとピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minとの差(PGo−PG
min)を最小値PG
minで除算した値(PGo−PG
min)/PG
minに基準時間Txoを乗算した値{(PGo−PG
min)/PG
min}・Txoに設定する。この場合、値PGo−PG
minは最小値PG
minの基準高さPGoに対する不足分を表し、基準時間Txoは最小値PG
minを得たときのX線の照射時間であるので、前記計算されるX線の照射時間Txは、2回目の測定によるピーク高さPGの最小値PG
minが前記値(PGo−PG
min)になると推定されるX線の照射時間、すなわち最小値PG
minの基準高さPGoまでの不足分を補う照射時間を表すことになる。そして、このことは、前述したステップS144による初回の測定結果と2回目の測定結果である両信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)の加算により、加算結果である信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を用いて計算されるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minはほぼ基準高さPGoになることが予想されることを意味する。
【0087】
前記ステップS126の処理後、コントローラ91は、前述したステップS128,S136,S138の処理により、変数Qを「1」に設定し、初回の回折環読み取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を信号強度S’(n,m,0)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶しておき、かつ「再測定あり」に設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22の判定処理を実行する。この場合も、前記ステップS138の処理により、「再測定あり」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS22にて「Yes」と判定して、ステップS24にて変数qに「1」を加算してステップS14に戻り、前述したステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理及びステップS18の回折環消去処理を実行する。この場合には、X線の照射時間Txは、基準照射時間Txoではなく、前述したステップS126の処理によって設定された値{(PGo−PG
min)/PG
min}・Txoに等しい。そして、この場合も、今回の回折環撮像処理及び回折環読取り処理により、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。前記ステップS18の処理後、コントローラ91は、ステップS20にてデータ処理ルーチンをふたたび実行し始める。この場合も、変数qは前記ステップS24の処理により「1」が加算されて「1」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS100のデータ処理ルーチンの開始後、ステップS102にて「No」と判定して、
図4CのステップS142に進む。
【0088】
この場合も、変数Qは前記ステップS128の処理により「1」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS142にて「Yes」と判定して、前述したステップS144の処理により、前記新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に前記ステップS136の処理により記憶しておいたS’(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max,0)を加算して、加算値S(n,m)+S’(n,m)を新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶する。なお、この場合には、初回の回折環撮像処理におけるX線の照射時間Txは基準照射時間Txoであるが、2回目のX線の照射時間Txは前記値{(PGo−PG
min)/PG
min}・Txoによって表された時間である。また、回折環読取り処理に関しては、初回及び2回目とも同一条件で行われるので、この場合も、初回及び2回目の2組の信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が加算されるとともに、2回目の回折環読取り処理による半径r(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が採用される。
【0089】
前記ステップS144の処理後、コントローラ91は、前述した場合と同様に、ステップS152,S154の処理により、X線の照射時間Txを基準照射時間Txoに設定し、「再測定なし」を設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。なお、この場合、2回目の回折環撮像処理におけるX線の照射時間Txは基準時間Txoとは異なる値に設定されているが、このステップS152の処理により、照射時間Txは基準照射時間Txoに戻される。
【0090】
そして、この場合も、「再測定なし」に設定されているので、コントローラ91はステップS22にて「No」と判定し、ステップS26にて前述した残留応力の計算及び表示処理を実行して、ステップS28にてメインプログラムの実行を終了する。この場合も、2回目のステップS14,S16の処理によって2回目の回折環撮像処理及び回折環読み取り処理による信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が新たに取得され、前記ステップS144の処理により前記新たに取得された信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が初回の回折環読取り処理による信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に加算されており、残留応力の計算及び表示処理は、前記加算結果である信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を用いて行われる。ただし、この場合には、前述のように、初回及び第2回目の回折環撮像処理においては、X線の照射時間は異なる。
【0091】
一方、前記ステップS116の処理により抽出したピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGo未満であり、かつ最小値PG
minを基準高さPGoで除算した除算値PG
min/PGoが「0.5」未満であっても、前記ステップS122の処理によって計算された推定最大値P
max’が限界値Plimより大きければ、コントローラ91は、ステップS124にて「No」と判定して、前述したステップS126に進むことなく、ステップS130に進む。これは、X線の照射時間Txを値{(PGo−PG
min)/PG
min}・Txoに設定して回折環撮像処理によりX線を照射した場合には、回折環読取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を用いて計算される反射光の強度曲線は飽和してしまい、前記強度曲線からピークの検出が精度よくできないからである。
【0092】
ステップS130においては、前記推定最大値P
max’を限界値Plimに変化させた場合におけるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の推定最小値PG
min’を、下記式2の演算により計算する。
PG
min’=PG
min・(Plim−Ref)/(P
max’−Ref) …式2
次に、ステップS132にて、X線の照射時間Txを、前記推定最小値PG
min’を最小値PG
minで除算した値PG
min’/PG
minに基準時間Txoを乗算した値(PG
min’/PG
min)・Txoに設定する。この照射時間Tx(=(PG
min’/PG
min)・Txo)は、X線の照射によって形成される回折環に関して、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが推定最小値PG
min’になると推定される時間である。
【0093】
前記ステップS132の処理後、コントローラ91は、ステップS134にて、基準高さPGoから最小値PG
minを減算した減算値(PGo−PG
min)を推定最小値PG
min’で除算した除算結果(PGo−PG
min)/PG
min’の小数点以下を切り上げて変数Qとして設定する。この場合、値PGo−PG
minは初回の測定による最小値PG
minの基準高さPGoに対する不足分を表し、これを推定最小値PG
min’で除算し、小数点以下を切り上げて変数Qとして設定することにより、前記不足分PGo−PG
minが補われる前記照射時間Tx(=(PG
min’/PG
min)・Txo)(推定最小値PG
min’が取得されるX線の照射時間)の2回目以降のX線の照射回数を表すことになる。なお、この場合、最小値PG
minは値PGo/2未満であり(ステップS120の「No」との判定処理参照)、かつ推定最小値PG
min’は最小値PG
minより小さいので(ステップS124の「No」との判定処理及びステップS130の処理参照)、変数Qは「2」以上の値となる。
【0094】
前記ステップS134の処理後、コントローラ91は、前述したステップS136,S138の処理により、初回の回折環読み取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を信号強度S’(n,m,0)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶しておき、かつ「再測定あり」に設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。なお、この場合の変数qは「0」に初期設定されたままである。このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22の判定処理を実行する。この場合も、前記ステップS138の処理により、「再測定あり」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS22にて「Yes」と判定して、ステップS24にて変数qに「1」を加算してステップS14に戻り、前述したステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理及びステップS18の回折環消去処理を実行する。この場合には、X線の照射時間Txは、基準照射時間Txoではなく、前述したステップS132の処理によって設定された値(PG
min’/PG
min)・Txoに等しい。そして、この場合も、今回の回折環撮像処理及び回折環読取り処理により、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。前記ステップS18の処理後、コントローラ91は、ステップS20にてデータ処理ルーチンをふたたび実行し始める。この場合も、変数qは前記ステップS24の処理により「1」が加算されて「1」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS100のデータ処理ルーチンの開始後、ステップS102にて「No」と判定して、
図4CのステップS142に進む。
【0095】
ステップS142においては、変数Qが「1」であるかを判定する。この場合、変数Qは「2」以上であるので、コントローラ91は、ステップS142にて「No」と判定して、ステップS146に進む。ステップS146においては、変数qと変数Qが等しいかが判定される。この場合、変数qは「1」であり、変数Qは前述のように「2」以上であるので、コントローラ91は、ステップS146にて「No」と判定して、ステップS148に進む。ステップS148においては、2回目の回折環読み取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を信号強度S’(n,m,q)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶しておく。そして、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。なお、この場合の変数qは「1」に変更されている。
【0096】
このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22の判定処理を実行する。この場合、初回の測定後の前記ステップS138の処理により、「再測定あり」に設定されたままであるので、コントローラ91は、ステップS22にて「Yes」と判定し、ステップS24にて変数qに「1」を加算して変数qを「2」に変更して、ステップS14に戻り、前述したステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理及びステップS18の回折環消去処理を実行する。この場合には、X線の照射時間Txは、前記2回目の測定時の値(PG
min’/PG
min)・Txoに保たれたままである。そして、この場合も、今回の回折環撮像処理及び回折環読取り処理により、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。前記ステップS18の処理後、コントローラ91は、ステップS20にてデータ処理ルーチンをふたたび実行し始める。この場合、変数qは前記ステップS24の処理により「2」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS100のデータ処理ルーチンの開始後、ステップS102にて「No」と判定して、
図4CのステップS142に進む。
【0097】
この場合も、変数Qは「2」以上であるので、コントローラ91は、ステップS142にて「No」と判定して、ステップS146に進む。そして、ステップS146においては、変数qと変数Qが等しいかがふたたび判定される。この場合、変数qは「2」であり、変数Qが「2」であれば、コントローラ91は、ステップS146にて「Yes」と判定して、ステップS150に進む。一方、変数Qが「2」でなければ、すなわち変数Qが「2」よりも大きければ、コントローラ91はステップS146にて「No」と判定し、ふたたびステップS148において、3回目の回折環読み取り処理によって取得した信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)を信号強度S’(n,m,q)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶しておく。そして、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。なお、この場合の変数qは「2」に変更されている。
【0098】
このデータ処理ルーチンの実行終了後、コントローラ91は、ふたたび
図3のメインプログラムに戻り、ステップS22の判定処理を実行する。そして、この場合も、初回の測定後の前記ステップS138の処理により、「再測定あり」に設定されたままであるので、コントローラ91は、ステップS22にて「Yes」と判定し、ステップS24にて変数qに「1」を加算して変数qを「3」に変更して、ステップS14に戻り、前述したステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理及びステップS18の回折環消去処理を実行する。この場合も、X線の照射時間Txは、前記3回目の測定時の値(PG
min’/PG
min)・Txoに保たれたままであり、今回の回折環撮像処理及び回折環読取り処理により、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。前記ステップS18の処理後、コントローラ91は、ステップS20にてデータ処理ルーチンをふたたび実行し始める。この場合、変数qは前記ステップS24の処理により「3」に設定されているので、コントローラ91は、ステップS100のデータ処理ルーチンの開始後、ステップS102にて「No」と判定して、
図4CのステップS142に進む。
【0099】
この場合も、変数Qは「2」以上であるので、コントローラ91は、ステップS142にて「No」と判定して、ステップS146に進む。そして、ステップS146においては、変数qと変数Qが等しいかがふたたび判定される。この場合、変数qは「3」であり、変数Qが「3」であれば、コントローラ91は、ステップS146にて「Yes」と判定して、ステップS150に進む。一方、変数Qが「3」でなければ、すなわち変数Qが「3」よりも大きければ、コントローラ91はステップS146にて「No」と判定し、ふたたび前述したデータ処理ルーチンのステップS148及びメインプログラムのステップS22,S24,S14〜S20の処理を、変数qが変数Qに等しくなるまで繰り返し実行する。これにより、X線の照射時間Txは前記値(PG
min’/PG
min)・Txoに保たれたまま、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)及び半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)がメモリに記憶される。この場合、変数qは前記ステップS24の処理により順次「1」ずつ増加する。そして、変数qが変数Qに等しくなると、すなわち変数Qによって表された測定回数が終了すると、コントローラ91は、ステップS146にて「Yes」と判定して、ステップS150に進む。
【0100】
ステップS150においては、メモリに記憶されていて、「0」から値Q−1までの変数qによって指定されるQ個の信号強度S’(n,m,q)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)の合計値に、新たな信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)が加算されて、信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としてメモリに記憶される。この信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)は初回の測定を含めて(Q+1)回の測定結果における信号強度を合算したものである。なお、この場合も、この合算された信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)に対応した半径(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)としては、最後に測定された結果がメモリに記憶されている。
【0101】
前記ステップS150の処理後、コントローラ91は、前述したステップS152,S154の処理により、X線の照射時間Txを基準照射時間Txoに戻すとともに、「再測定なし」を設定して、ステップS156にてこのデータ処理ルーチンの実行を終了する。そして、コントローラ91は、
図3のメインプログラムの前述したステップS22にて、「No」すなわち「再測定なし」と判定して、ステップS26にて前述した残留応力の計算及び表示処理を実行して、ステップS28にてメインプログラムの実行を終了する。この場合、信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)は、3回以上の回折環撮像処理及び回折環読み取り処理による測定結果における信号強度が合算されたものであり、この合算値を用いて、前述した残留応力の計算及び表示処理が行われる。そして、ステップS28にてメインプログラムの実行が終了して、残留応力の測定が終了される。
【0102】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、ステップS104〜S114の処理により、イメージングプレート21の半径方向における受光強度の平坦部分(ベースレベル)からピーク値P(1)〜P(t
max)までのピーク高さPG(1)〜PG(t
max)をイメージングプレート21の複数の周方向位置について計算し、ステップS116の処理により、これらのピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minを計算した。そして、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが、イメージングプレート21の半径方向における受光強度のピーク点を精度よく検出できる最小限のピーク高さPGである基準高さPGo未満の場合には、ステップS118,S138,S22の処理により、ステップS14の回折環撮像処理、ステップS16の回折環読取り処理、及びステップS18の回線環消去処理からなる再測定処理を行った後、再測定処理におけるステップS16の回折環読取り処理により読取った受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)と、再測定処理前におけるステップS16の回折環読取り処理によって取得した受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)とをステップS136,S144の処理により合算し、ステップS26においてこの合算結果である受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)を用いて測定対象物OBの残留応力を計算するようにした。これによれば、イメージングプレート21の受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)の合算結果である受光強度から作成した受光強度曲線は、初回の測定及び再測定のそれぞれのX線の照射時間を加算した時間だけX線を照射したときの受光強度から作成した受光強度曲線とほぼ一致し、再測定におけるX線の照射時間を大幅に大きくしなくても、測定時間を短くしたうえで、イメージングプレート21の異なる周方向位置ごとの受光強度から精度よくピーク点をそれぞれ取得できて、回折環を用いて測定対象物OBの残留応力を計算できるようになる。
【0103】
この場合、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGoの1/2以上であれば、ステップS120の処理により、ステップS126の処理によるX線の照射時間Txの再計算は行われず、再測定におけるステップS14の回折環撮像処理によるX線の照射時間Txは基準時間Txoに設定されたままとなる。これによれば、初回の測定及び再測定によるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)が基準高さPGoの1/2以上であるので、合算処理の合算結果である受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)のピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGoを超える程度の大きさとなり、ステップS26による残留応力が精度よく計算されるようになる。
【0104】
また、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGoの1/2未満であれば、ステップS122〜S126の処理により、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minを、基準高さPGoと最小値PG
minと差(PGo−PG
min)まで大きくした場合における、ピーク値P(1)〜P(t
max)の最大値P
maxの推定値である推定最大値P
max’、すなわち最小値PG
minの基準高さPGoまでの不足分を補う照射時間だけX線を照射した場合におけるピーク値P(1)〜P(t
max)の推定最大値P
max’が、飽和する反射光の強度よりも多少小さな強度である限界値Plim以下であることを条件に、基準高さPGoと最小値PG
minとの差の最小値PG
minに対する割合を、初回の回折環撮像処理におけるX線の照射時間である基準時間Txoに乗算して求めた時間が、再測定処理によって実行される回折環撮像処理におけるX線の照射時間Txとして設定される。すなわち、最小値PG
minの基準高さPGoまでの不足分を補う時間が、再測定処理によって実行される回折環撮像処理におけるX線の照射時間Txとして設定される。その結果、前記ステップS136,S144からなる合算処理の合算結果である受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)によるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minは、基準高さPGoに達する程度の大きさとなり、ステップS26による残留応力が精度よく計算されるようになる。
【0105】
また、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGoの1/2未満であり、かつ推定最大値P
max’が限界値Plimよりも大きい場合には、ステップS120〜S124,S130〜S132の処理により、前記推定最大値P
max’を限界値Plimに変化させた場合におけるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の推定最小値PG
min’を計算するとともに、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが推定最小値PG
min’になるX線の照射時間Txが計算される。すなわち、イメージングプレート21の半径方向における受光強度のピーク値P(1)〜(t
max)の最大値が限界値Plimを超えない状態となるX線の照射時間Txが計算される。そして、ステップS134の処理により、初回の測定による最小値PG
minの基準高さPGoに対する不足分PGo−PG
minが補われる、前記照射時間TxによるX線の2回目以降の照射回数を表す値が変数Qとして計算され、ステップS22,S24,S142,S146,S154の処理により、変数Qによって指定される回数だけ再測定処理が実行されるとともに、測定された全ての受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)が合算される。その結果、前記ステップS136,S148、S150からなる合算処理の合算結果である受光強度S(n,m)(n=1〜n
max)によるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minは、基準高さPGoよりも大きくなり、ステップS26による残留応力が精度よく計算されるようになる。
【0106】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0107】
上記実施形態においては、ピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGo未満かつ基準高さPGoの半分PGo/2以上であるときには、ステップS118にて「No」及びステップS120にて「Yes」と判定して、X線の照射時間Txを初回の照射時間と同じ基準照射時間Txoに保って2回目の回折環撮像処理を実行するようにした。しかし、これに代えて、上記実施形態のステップS126と同様な処理により、初回と2回目の測定の信号強度S(n,m)(n=1〜n
max,m=1〜m
max)の合算値によるピーク高さPG(1)〜PG(t
max)の最小値PG
minが基準高さPGoになるようなX線の照射時間Tx(={(PGo−PG
min)/PG
min}・Txo)を計算し、この計算した照射時間Txを用いて2回目の回折環撮像処理を行うようにしてもよい。これによれば、上記実施形態よりも測定時間を短くできる。
【0108】
また、上記実施形態及び変形例においては、ステップS104〜S116の処理により、回折環の半径方向における反射光の強度曲線を所定の回転角度ごとに作成し、複数のピーク値P(1)〜P(t
max)及びピーク高さPG(1)〜PG(t
max)を求めて、その中からピーク値の最大値P
maxを測定ピーク値として求めるとともに、ピーク高さの最小値PG
minを測定ピーク高さとして求めるようにした。しかし、これに代えて、1つの回転角度に対してのみ回折環の半径方向における反射光の強度曲線を作成し、1つのピーク値及びピーク高さを本発明の測定ピーク値及び測定ピーク高さとしてそれぞれ求めて、以降の処理において、前記求めたピーク値及びピーク高さを上記実施形態及び変形例のピーク値の最大値P
max及びピーク高さの最小値PG
minに代えて用いるようにしてもよい。これによれば、測定ピーク値及び測定ピーク高さの精度は上記実施形態の場合よりも低下するが、上記実施形態よりも測定時間を短縮できる。
【0109】
また、上記実施形態においては、ケース60の左右側面壁65,66に密着させて収納状態にある折り畳み式の支持脚68a,68bを90度回転させて、X線回折測定装置を
図2の姿勢に維持させるようにしたが、この
図2の姿勢と同じ姿勢を維持することができれば、どのような構造の支持部材を設けるようにしてもよい。例えば、X線回折測定装置の下面壁64に対して垂直方向に進退可能な支持脚を設け、この支持脚を下面壁64の下方に突出させて、X線回折測定装置を
図2の姿勢に維持させるようにしてもよい。
【0110】
また、上記折り畳み式の支持脚68a,68bをなくし、ケース60の下面壁64と傾斜面壁67が交差する角度と等しい角度のある三角形のブロックを用意して、測定の際には、前記ブロックを測定対象物OBと下面壁64の間に挿入することにより、X線回折測定装置を
図2と同じ姿勢に維持させるようにしてもよい。なお、この場合、X線回折測定装置の搬送時には、ブロックを搬送する必要も生じる。
【0111】
また、上記実施形態においては、測定対象物OBが大きくて、
図2に示すように、X線回折測定装置を測定対象物OB上に載置し、測定対象物OBの残留応力を測定するために、イメージングプレート21に回折X線による回折環を撮像して、撮像した回折環の形状を読取ることについて説明した。しかし、このX線回折測定装置は、測定対象物OBが小さいときの残留応力の測定にも対応させることもできる。この場合、
図13に示すように、X線回折測定装置を固定支持する固定治具101を用意して、設置面FL上に固定治具101を置き、X線回折測定装置のケース60の左右側面壁65,66を固定治具101に固定することにより、傾斜面壁67が水平になるようにX線回折測定装置を固定支持する。
【0112】
そして、設置面FL上には、測定対象物OBを載置する昇降ステージ102aを備えた昇降機102を置く。昇降ステージ102aは、上下に昇降可能となっている。そして、小さな測定対象物OBの検査位置が傾斜面壁67に設けた貫通孔67aの位置に対向するように、測定対象物OBを昇降ステージ102a上に載置した後、測定対象物OBが傾斜面壁67に接触する高さ位置又は前記高さ位置に近接する位置まで、昇降ステージ102aを上昇させる。その後、上記実施形態と同様に、測定対象物OBにX線を照射してイメージングプレート21に回折環を撮像して、撮像した回折環の形状を読取り、残留応力を計算すれば、小さな測定対象物OBであっても、その残留応力を測定できる。
【0113】
また、上記実施形態においては、回折環の形状を測定するために、イメージングプレート21の回転角度が所定の回転角度になるごとに、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を記憶するようにした。しかし、これに代えて、所定の時間間隔で、イメージングプレート21の回転角度θ(n,m)、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を取得して記憶してもよい。
【0114】
また、上記実施形態においては、受光センサ25の受光位置を用いて、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある領域を想定して、読取り開始位置を決定するようにした。しかし、回折環基準半径R0を用いることなく、常に一定の領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート21の全領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。また、LED53による可視光の照射についても同様に、常に一定の領域にLED53から発せられた可視光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート21の全領域にLED53からの可視光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
【0115】
また、上記実施形態の回折環消去処理においては、テーブル20を回転させるとともに、半径方向に移動させることにより、イメージングプレート21に形成された回折環を消去するようにした。しかし、これに代えて、複数のLEDを回折環の消去位置にてイメージングプレート21の半径方向に延設して配置するようにすれば、テーブル20を半径方向に移動させることなく回転させるだけで、イメージングプレート21に形成された回折環を消去できる。さらに、複数のLEDからのLED光が、イメージングプレート21に形成された回折環の全体に照射されるようにすれば、テーブル20の半径方向の移動及び回転をなくしても、イメージングプレート21に形成された回折環を消去できる。これらによれば、回折環の消去時間を短くできて、上記実施形態よりも測定時間を短くできる。
【0116】
また、上記実施形態においては、レーザ検出装置40は、フォーカスサーボ制御されるようにしたが、イメージングプレート21を回転させた際のイメージングプレート21の受光面と対物レンズ46との距離の変動が微小であれば、フォーカスサーボ制御は不要である。
【0117】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート21に照射されるレーザ光は、一定強度のレーザ光としたが、これに代えて、予め設定されたハイレベルの強度と、予め設定されたローレベルの強度が繰り返されるパルス状のレーザ光とし、ハイレベルの強度になるタイミングでSUM信号の瞬時値を取得するようにしてもよい。この場合、イメージングプレート21のSUM信号の瞬時値を取得するポイントに瞬間的にハイレベルの強度のレーザ光を照射する。すなわち、SUM信号の瞬時値を取得するポイントにレーザ光が向かう状態では、レーザ光の強度はローレベルであり、輝尽発光により発生する光はほとんど無い。そして、SUM信号の瞬時値を取得するポイントに近づいたとき、レーザ光の強度がハイレベルになって輝尽発光による光が発生する。常にハイレベルの強度のレーザ光を照射した場合は、輝尽発光による光が生じ続けることで光の強度が減少するが、上記のように構成すれば、輝尽発光によって大きな強度の光が発生し、SUM信号の瞬時値をより精度よく取得することができる。