特許第5861870号(P5861870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861870
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】終末期腎不全の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20160202BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160202BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20160202BHJP
【FI】
   G01N33/68ZNA
   G01N33/53 D
   !C07K14/705
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-281562(P2011-281562)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-130524(P2013-130524A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜23年度、独立行政法人科学技術振興機構、重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】池田 正浩
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/027620(WO,A1)
【文献】 特開2008−175630(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150613(WO,A1)
【文献】 特開2013−061334(JP,A)
【文献】 園田紘子,尿中AQP1および2の急性腎不全診断マーカーとしての有用性の検討,第59回日本薬理学会西南部会プログラム/抄録集,2006年,P34
【文献】 KWON T‐H,Reduced AQP1, -2, and -3 levels in kidneys of rats with CRF induced by surgical reduction in renal mass,Am J Physiol,1998年,Vol.275 No.5 Pt.2 Page.F724-F741
【文献】 PISITKUN T,Identification and proteomic profiling of exosomes in human urine,Proc Natl Acad Sci USA,2004年,Vol.101 No.36 Page.13368-13373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/53
C07K 14/705
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップを含む、終末期腎不全の検出方法。
【請求項2】
被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップ、及び被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量と比較するステップを含み、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量が、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量と比較して10%以下に低下するときに、被験体が終末期腎不全であるか、または終末期腎不全への移行段階にあると示される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量の測定を、尿から得られたエキソゾーム画分で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
被験体がヒトである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アクアポリン1およびアクアポリン2の測定がアクアポリン1に特異的に結合する抗体又はその断片およびアクアポリン2に特異的に結合する抗体又はその断片をそれぞれ用いた免疫学的測定法により行われる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体又はその断片およびアクアポリン2に特異的に結合し得る抗体又はその断片を含有する、終末期腎不全の検出薬。
【請求項7】
アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体又はその断片およびアクアポリン2に特異的に結合し得る抗体又はその断片を含有する、終末期腎不全の検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2をマーカータンパク質とする、終末期腎不全の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全が進行し、終末期腎不全の状態に陥ると、治療方法は腎移植又は血液人工透析に限られている。国内における透析患者数は、2000年で21万人、2005年で26万人と、毎年1万人ずつ増加し続けている。加えて、世界的な食生活の欧米化、メタボリックシンドロームの増加などにより、この患者数はさらなる増加が予測される。透析の医療費は高額で、日本では1人1年間に約500万円とも言われており、透析に関して国が支出する医療費総額として、年間1兆円以上もの莫大な額が費やされている。しかも、この莫大な医療費は今後ますます膨らんでいくという状況にある。
【0003】
現在透析導入の判断は、超音波診断による腎の大きさ、血中カルシウムや血中重炭酸イオン濃度などを指標に行われている。しかしながら、これらは腎機能を類推するための指標でしかなく、より腎臓の機能状態を反映した指標が必要とされる。また、血中クレアチニン値や血中尿素窒素値などは間接的な指標にはなり得るが、腎臓に機能障害が生じた場合には、終末期腎不全に至らなくても、いずれの値ともかなり上昇してくるために、終末期腎不全の診断指標としては不十分である。このように、終末期腎不全あるいは終末期腎不全への移行段階の腎臓の機能状態を把握することのできる有効な指標は無いのが現状である。
【0004】
一方、水分子を透過させる膜タンパク質分子として発見されたアクアポリン(AQP)は、現在では同じタンパク質分子ファミリーに属する分子種として13種類の分子種が報告されている。腎臓においては、近位尿細管及びヘンレの細い下行脚の上皮細胞にアクアポリン1が、近位尿細管の上皮細胞にアクアポリン11が、近位直尿細管(特にS3セグメント)の上皮細胞にアクアポリン7が、集合管の主細胞にアクアポリン2、アクアポリン3、及びアクアポリン4が、集合管のα間在細胞にアクアポリン6が、近位尿細管及び集合管の上皮細胞にアクアポリン8がそれぞれ部位特異的に発現していることが知られている。
【0005】
本発明者らは、アクアポリンが近位尿細管細胞において特異的に発現していること、また、急性腎不全において近位尿細管が選択的に障害されることに基づき、尿中のアクアポリン1の測定による組織障害に起因する急性腎不全の診断方法(特許文献1)、また、尿中のアクアポリン2の測定による薬剤、虚血再灌流に起因する急性腎不全の診断方法(特許文献2)を確立している。しかしながら、これらの方法は、いずれも急性腎不全を診断する方法であり、終末期の腎臓機能の判断を行うものではない。また腎臓RNAマーカーによる腎臓の病理学的状態を特徴づける方法が報告されているが(特許文献3)、終末期腎不全におけるタンパク質発現に関しては記載がない。
【0006】
終末期腎不全は、虚血再灌流、薬剤、組織障害を主病因とする急性腎不全からの進行よりも、慢性糸球体腎炎や糖尿病等に起因する慢性腎不全から進行することが多い。また、障害がみられる部位も、急性腎不全は尿細管であるのに対し、慢性腎不全では糸球体と、違いがある。
【0007】
慢性腎不全は、腎障害が不可逆的に進行し、腎臓の尿生成に関与する組織が減少し、体液組成の恒常性が維持できなくなり、数ヶ月から数年にかけて徐々に腎機能が障害され、正常な状態の50%以下となる状態をいう。慢性腎不全は、血清クレアチニンとクレアチニンクリアランスの腎機能検査の結果から、病期は1〜4に分けられる。第1期(腎予備能低下期)、第2期(代謝性腎不全期)では無症状でまだ大部分の腎機能が代償されているが、第3期(非代償性腎不全期)になるとその代償も破綻して、高度の高窒素血症、アシドーシス、低カルシウム血症、高リン血症、低ナトリウム血症、高カリウム血症、貧血など様々な症状が出現する。第4期(尿毒症期)は腎不全の終末期で、尿毒症となり、透析療法の導入を余儀なくされ、腎臓移植が行われることもある。慢性腎不全は機能が回復することはないので、水分、塩分、タンパクを制限する食事療法や、高血圧などをコントロールする薬物療法で、進行を少しでも遅らせることが治療の主体となる。第2期慢性腎の場合は、早期診断によって投薬や食事療法などの医療介入により6年間で患者を第1期慢性腎まで回復させられる可能性が報告されている、よって、慢性腎から終末期(第4期)腎不全への移行を早期に検出することが可能となれば、医療介入により透析導入までの期間を延長させることができ、また、透析導入の適切な時期を把握できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-175630
【特許文献2】WO 2010/150613
【特許文献3】特開2008-504047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
終末期腎不全および慢性腎不全から終末期腎不全への移行を、より腎臓の機能状態を反映した信頼性のある指標を用いて診断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、尿中に含まれるアクアポリン1および2に着目し、終末期腎不全患者から得られた尿サンプル中、特にエキソゾーム画分に含まれるアクアポリン1およびアクアポリン2の量を調べたところ、いずれの量も健常人よりも著しく減少していたのに対し、タンパク尿を呈する慢性腎不全患者ではそれらの量の減少は認められないという知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップを含む、終末期腎不全の診断方法。
(2) 被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップ、及び被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量と比較するステップを含み、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量が、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量と比較して10%以下に低下するときに、被験体が終末期腎不全であるか、または終末期腎不全への移行段階にあると判定する、(1)に記載の方法。
(3) 尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量の測定を、尿から得られたエキソゾーム画分で行う、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 被験体がヒトである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0012】
(5) アクアポリン1およびアクアポリン2の測定がアクアポリン1に特異的に結合する抗体およびアクアポリン2に特異的に結合する抗体をそれぞれ用いた免疫学的測定法により行われる、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体およびアクアポリン2に特異的に結合し得る抗体を含有する、終末期腎不全の診断薬。
(7) アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体およびアクアポリン2に特異的に結合し得る抗体を含有する、終末期腎不全の診断用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被験者の尿中、特に尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を調べるだけで、被験者が終末期腎不全であるか、または終末期腎不全への移行段階にあるかを判定できる。本発明の診断方法は、より腎臓の機能状態を反映した信頼性のある指標に基づいているので、透析導入の正確な判断や終末期腎不全への移行段階を早期に把握することができる。その結果、慢性腎不全患者に対して食事療法や薬物療法による回復可能性の道を開き、医療介入により透析導入までの期間を延長させることができるので、患者および社会の透析治療に関わる医療費や援助費の負担を大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】イヌ、ウシ、ヒト、ラットおよびマウスのアクアポリン1のアミノ酸配列のアライメントを示す。
図2】ヒト、イヌ(予測)、ウシ、ラット及びマウスのアクアポリン2のアミノ酸配列のアライメントを示す。
図3】終末期腎不全患者の尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1(AQP1)およびアクアポリン2(AQP2)の量を示す。点線は、健常者(対照)のレベルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、被験体の尿中、特に尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップを含む、終末期腎不全の診断方法に関する。
【0016】
本発明において「被験体」とは終末期腎不全を発症しうる動物であれば限定されないが、ヒトが特に好ましい。ヒト以外の被験体としては、例えば、サル、チンパンジー等の非ヒト霊長類や、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモット等の他の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の動物を被験体とした場合に得られる情報(判定結果)は、当該非ヒト動物の終末期腎不全の診断にも利用され得るが、むしろそれをヒトの終末期腎不全の診断の確立に利用できる点で有用である。図1、2にそれぞれ示すように、アクアポリン1、アクアポリン2のアミノ酸配列は種を超えて保存性が高い。また、ラットなどの疾患モデル動物で見られた尿中アクアポリン排泄量の変化が、患者においても見られることが報告されている。よって、非ヒト動物での実験結果はヒトに対しても外挿可能であると言える。
【0017】
本発明の方法では、被験体からの尿をサンプルとして用いる。アクアポリン1および2は、尿中エキソゾームに多く存在すると考えられるため、尿のエキソゾーム画分を含むサンプルを調製することが好ましい。サンプルの調製は、例えば以下のようにして行う。まず、被験体より尿を採取し、1,000gで10分間遠心し、続いてその上清を17,000gで15分間遠心し、さらにその上清を200,000gで60分間遠心し、得られた沈殿をエキソゾーム画分として分離する。エキソゾーム画分のタンパク質は、4×サンプルバッファー(0.5M Tris-HCl、8%SDS、50%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルー、0.2M DTT)と混合し、37℃で30分間インキュベートすることにより可溶化してサンプルとする。
【0018】
本明細書においてアクアポリン1とは、典型的にはアクアポリン1の成熟体または完全体であり、糖鎖修飾されたアクアポリン1分子も包含される。糖鎖の種類、結合位置などは限定されない。アクアポリン1のアミノ酸配列は被験体の動物種により若干異なる。一例として、配列表には配列番号1としてイヌ(Canis familiaris)由来アクアポリン1を、配列番号2としてウシ(Bos taurus)由来アクアポリン1を、配列番号3としてヒト(Homo sapiens)由来アクアポリン1を、配列番号4としてラット(Rattus norvegicus)由来アクアポリン1を、配列番号5としてマウス(Mus musculus)由来アクアポリン1を、それぞれ示す。
【0019】
同様に、本明細書においてアクアポリン2とは、典型的にはアクアポリン2の成熟体または完全体であり、糖鎖修飾されたアクアポリン2分子も包含される。糖鎖の種類、結合位置などは限定されない。アクアポリン2のアミノ酸配列は被験体の動物種により若干異なる。一例として、配列表には、配列番号6としてヒト(Homo sapiens)由来アクアポリン2を、配列番号7としてイヌ(Canis familiaris)由来アクアポリン2を、配列番号8としてウシ(Bos taurus)由来アクアポリン2を、配列番号9としてラット(Rattus norvegicus)由来アクアポリン2を、配列番号10としてマウス(Mus musculus)由来アクアポリン2を、それぞれ示す。
【0020】
アクアポリン1の測定は、アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体を用いて行なうことが好ましい。同様に、アクアポリン2の測定は、アクアポリン2に特異的に結合し得る抗体を用いて行なうことが好ましい。このような抗体としては、測定しようとする動物種のアクアポリン1、アクアポリン2又はそれらの部分配列を含むポリペプチドを抗原として用い、常法により作製された抗体を好適に使用できる。
【0021】
抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また抗体はアクアポリン1またはアクアポリン2に特異的に結合し得る限り断片として使用することもできる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0022】
モノクローナル抗体は例えば次の手順で作製することができる。
上記の抗原を、動物に対して、抗原の投与により抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。用いられる動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物が挙げられる。抗血清中の抗体価の測定は常法により行うことができる。
【0023】
抗原を免疫された動物から抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。融合操作は既知の方法、例えば、Nature 256:495(1975)記載の方法に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられる。
【0024】
モノクローナル抗体の選別は、公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0025】
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様の、例えば塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例えば、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAまたはプロテインGなどを用いた特異的精製法による免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0026】
一方、ポリクローナル抗体は例えば次の手順で作製することができる。
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原とキャリアとの複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から活性型ハプトグロビンに対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。ポリクローナル抗体の作製に使用する抗原はモノクローナル抗体の作製におけるのと同様である。抗原とキャリアとの複合体を形成する際に、キャリアの種類および抗原とキャリアとの混合比は、キャリアに架橋させた抗原に対して抗体が効率よくできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよい。キャリアとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等が用いられる。また、抗原とキャリアのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができ、具体的にはグルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
【0027】
抗原とキャリアとの複合体は、免疫される動物に対して、抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうことができる。用いられる動物としては、モノクローナル抗体作製の場合と同様の哺乳動物が挙げられる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の手順で行なうことができる。
【0028】
本発明の方法は、被験体からの尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を評価するステップを含む。アクアポリン1およびアクアポリン2の量は、それぞれ標準サンプルとの比較などにより絶対量を測定してもよい。しかし、必ずしもアクアポリン1およびアクアポリン2の絶対的な量を測定する必要はなく、対照となる尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量との相対的な関係を明らかにできれば評価としては十分である。尿中エキソゾーム画分のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を評価する場合も、これと同様である。
【0029】
アクアポリン1およびアクアポリン2の量の評価方法としては、典型的には、上記の抗アクアポリン1抗体およびアクアポリン2抗体を用いた免疫学的測定法が挙げられる。免疫学的測定法としては、特に制限はなく、従来公知の方法、例えば酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、免疫クロマトグラフィー法、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、抗原抗体複合体形成に伴う濁度を測定する比濁法、抗体固相膜電極を利用し抗原との結合による電位変化を検出する酵素センサー電極法、免疫電気泳動法などを採用することができる。これらの中でもEIA法またはウエスタンブロット法が好ましい。なお、EIA法には、競合的酵素免疫測定法や、サンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)等が包含される。
【0030】
ウエスタンブロット法を本発明の免疫学的測定法として採用する場合、例えば次のようにして尿中又は尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1およびアクアポリン2を検出することができる。ドデシル硫酸ナトリウム含有ポリアクリルアミドゲル上に検体である尿又は尿中エキソゾーム画分を添加し、一定の電圧をかけて電気泳動を行い、泳動によりゲル上で分離されたタンパク質をPVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜のようなブロッティング用メンブレンに電気的にトランンスファーする。このメンブレンをスキムミルク等でブロッキング処理した後に、上記抗アクアポリン1抗体または抗アクアポリン2抗体をメンブレンと反応させ、次いで化学発光物質、蛍光物質、あるいは酵素(西洋ワサビペルオキシダーゼ等)で標識した二次抗体を結合させ、更に標識物質に応じた検出操作を行う。メンブレン上にアクアポリン1またはアクアポリン2が存在する場合には検出することができる。なお、ウエスタンブロット法による具体的な検出方法は後記実施例に記載されている。
【0031】
本発明では尿中、特に尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定し、その両方が著明に低下することを指標として終末期腎不全を診断する。ここで、「終末期腎不全」とは、慢性腎不全の治療効果がもはや認められなくなった状態をいい、長期透析や腎移植の対象となる腎不全をいう。
【0032】
本発明において「診断」とは、典型的には、被験体が終末期腎不全に罹患しているか否かの判定(狭義の診断)を意味するが、これには限定されず、慢性腎不全から終末期腎不全に移行段階にあるかどうかの判定、軽度慢性腎不全の治療効果の判定をも包含する概念(広義の診断)である。好ましくは、本発明において「診断」とは、in vitroでの終末期腎不全の検出を意味する。実施例に示すように尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量は終末期腎不全においても顕著に減少するか、ほぼゼロになることから、本発明の方法は終末期腎不全の早期診断に有用であるといえる(なおこの場合、「診断」は狭義の意味で用いられる)。また尿をサンプルとして使用することから、被験体にとって負荷がほとんどない、非侵襲的な方法であるといえる。
【0033】
被験体が終末期腎不全であるか否かの判定、あるいは、被験体が終末期腎不全への移行段階であるか否かの判定の際には、健常検体の尿サンプル中におけるアクアポリン1およびアクアポリン2の量を基準とすることができる。あるいは、被験体が軽度から中等度の慢性腎不全患者であって過去の検査で尿サンプルのアクアポリン1およびアクアポリン2の量が正常である場合は、その正常と判断された過去の検査における尿サンプル中におけるアクアポリン1およびアクアポリン2の量を基準とすることができる。また、治療の効果の判定の際には、薬物療法や食事療法などの対症療法開始前の被験体(例えば、第2期慢性腎不全患者)から採取された尿サンプル中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を基準値とすることもできる。本発明では、比較対象となるこれらの検体を「対照」と称する。したがって、本発明の方法において対照には、正常個体から得た尿のプール、終末期腎不全が疑われる前の当該被験体から得られた尿サンプル、治療前の当該被験体から得られた尿サンプルなどが含まれる。
【0034】
好ましい態様において、本発明は、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定するステップに加えて、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量とそれぞれ比較するステップをさらに含み、ここで、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量が、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量とそれぞれ比較して顕著に低下するときに、被験体が終末期腎不全である、または、終末期腎不全への移行段階にある、あるいは対照と比較して慢性腎不全が進行したと判断される。被験体の尿中エキソゾーム画分中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を評価に用いる場合も、これと同様である。ここで、「顕著に低下する」とは、具体的には、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量に対して「10%以下」、「5%以下」、「3%以下」、「2%以下」、「1%以下」低下することいい、ほぼ「0%」にまで低下することをも含む。
【0035】
すなわち、本発明の方法では、典型的には、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量を測定し、当該量と、対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量とをそれぞれ対比し、前者が後者より著しく少ないときに、終末期腎不全である、または、終末期腎不全への移行段階にあると判定する。ここで、慢性腎不全に対する治療効果の判定においては、対照として治療前の当該被験体から取得した尿サンプルを用い、治療後の被験体から得られた尿サンプル中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量が対照(すなわち、治療前)よりも増加していれば、治療効果が認められると判定することができる。
【0036】
対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量の測定は、被験体の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量の測定と同様の手順で行うことができる。対照の尿中のアクアポリン1およびアクアポリン2の量は、被験体の尿の測定のたびに測定してもよいし、事前に測定しておいてもよい。
【0037】
本発明はまた、アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体とアクアポリン2に特異的に結合し得る抗体を含む、終末期腎不全の診断薬に関する。
【0038】
本発明の診断薬は、必要な試薬とともにキット化することもできる。例えば検出キットには、抗アクアポリン1抗体および抗アクアポリン2抗体、標識化された二次抗体、検出のための試薬等の必要な構成要素が含まれ得る。キットにはさらに、バッファー、洗浄液、使用説明書等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものでない。
【0040】
(実施例1)
1,実験方法
(1)尿サンプルの調製
倫理委員会の承認のもと、同意が得られた患者より提供を受けた随時尿を用いて実験を行った。提供された尿を、まず1,000 gで15分間遠心し、続いてその上清を17,000 gで30分間遠心し、さらにその上清を200,000 gで60分間遠心し、その沈殿をエキソゾーム画分として分離した。エキソゾーム画分のタンパク質は、4×サンプルバッファー(0.5 M Tris-HCl、8% SDS、50% グリセロール、0.01% ブロモフェノールブルー、0.2 M DTT)と混合し、37℃で30分間インキュベートし可溶化してサンプルとした。また、富士ドライケムスライド(CRE-PIII、富士写真フイルム株式会社、Tokyo)を用いて全尿中のクレアチニン濃度を測定した。一方、採取した血液は、ヘパリンと混濁した後、12,000rpmで10分間遠心することで血漿を分離した。富士ドライケムスライド(CRE-PIII、富士写真フイルム株式会社、Tokyo)を用いて血漿中のクレアチニン濃度を測定した。
【0041】
(2)サンプル中のタンパク質検出
尿のエキソゾームサンプルは定法に従い、SDS-PAGEを行い、ゲル内のタンパク質はセミドライタイプ(KS-8460、マリソル、Tokyo)のブロッティング装置を用いてポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に転写した。転写後、TBS中にてローテーターで振盪しながら洗浄(15分、2回)し、5%スキムミルク、Tween-20を含むTBS(5% SM TTBS)でブロッキング(オーバーナイト、4℃)した。ブロッキング後、1次抗体(1.6% SM TTBSで1:1000に希釈したウサギ抗アクアポリン−1抗体または1.6% SM TTBSで1:500に希釈したヤギ抗アクアポリン−2抗体、以上Santa Cruz Baiotechnology, Inc、USA)を60分間反応させた(室温)。反応後、TTBSで1次抗体を洗浄(5分間、2回)し、1.6% SM TTBSで1:3000に希釈した2次抗体(抗ウサギIgG抗体または抗ヤギIgG抗体)を反応させた後、TTBSで洗浄(5分間、4回)し、最後にTBS(10分間、1回)で洗浄した。バンドの可視化はSuperSignal(登録商標) West Femto Maximam Sensitivity Subatrate(PIERCE社、IL)を用いて発光させ、ポラロイドカメラ(ECLTM-mini Camera、Amersham International plc.、Tokyo)で撮影した。
【0042】
(3)データ解析
尿中エキソゾームタンパク質については、一定量のクレアチニンを含有するサンプルに含まれるタンパク質量を定量化し、対照群の値の平均値を100%として表した。各データは、平均値±標準誤差(SEM)で示した。有意差検定には、Dunnett法を用いた。
【0043】
2.結果
図3に終末期腎不全患者6例の尿中アクアポリン1またはアクアポリン2タンパク質排泄量をそれぞれまとめた結果を示す。図3から明らかなように、終末期腎不全患者において、尿中アクアポリン1およびアクアポリン2タンパク質はほとんど検出されないことが分かった。なお本実施例では、アクアポリン2タンパク質排泄量の1例に、他の測定結果と大きく外れた結果が得られている。これを外れ値とみなせば、アクアポリン2タンパク質の排泄量は、ほぼゼロであり、アクアポリン1タンパク質の排泄量と同程度とすることができる。一方、図には示していないが、慢性腎不全患者43例において同様の検討を行ったところ、健常者と比較して、尿中アクアポリン1およびアクアポリン2タンパク質排泄量はそれぞれ、550 ± 382、132 ± 50%であり、発現量に有意差は見られなかった。
【0044】
以上の結果から、尿中アクアポリン1およびアクアポリン2タンパク質排泄量の両方が著明に低下する時、腎臓がほとんど働いていないこと、そして、それらを測定することによって終末期腎不全を診断できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、終末期腎不全の診断薬またはキットの製造分野において利用できる。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]