【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、銀粘土は、通常、粘土細工と同じように自由に造形され、得られた造形体を乾燥後に焼成することにより、銀製の宝飾品又は美術工芸品が製造される。その銀宝飾品又は美術工芸品の形状は、様々であり、銀粘土は、所望する形状に合わせて造形される。銀宝飾品又は美術工芸品の中には、全体が平面又は曲面を有する板形状である場合、或いは、全体の一部が平面又は曲面を有する板を含む形状である場合など、多様である。これらの多様な形状に合わせて、銀粘土は、造形され、乾燥後に焼成されることになる。
【0006】
ここで、上述の板形状に造形された銀粘土の造形体を焼成したときに、
図1に示されるように、得られた焼成体の表面は、平坦なものとなり、所望の形状に合っている。しかし、その造形体における板形状部が薄い場合に、
図2に示されるように、その平坦な表面に膨れが多数発生するなど、焼結不良となることがある。この膨れが多くなると、銀宝飾品又は美術工芸品における装飾に障害となることもあり、所望の装飾品としては、見栄えが悪くなる、所望するデザインと異なるものになってしまう、といった問題が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究を行った。
図1に示された焼成体の表面について、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて、成分分析を行ったところ、Agのみの成分が検出され、他の成分を検出できなかった。これは、正常な状態、即ち、焼結不良のない所望の装飾品が得られているといえる。これに対して、
図2に示されるような焼成体の膨れ部分の表面について、EPMAによる結果、
図3に示されるように、Agの他に、僅かなP成分が検出された。しかし、焼成体の表面の膨れ部分下の内部(断面)について、EPMAによる分析を行ったところ、焼成体の内部からは、P成分など、他の成分は検出されなかった。
【0008】
以上のことからすれば、膨れが発生していない正常状態の銀粘土焼成体には、P成分が含まれていないことは明らかであって、膨れが発生した部分の銀粘土焼成体表面から、P成分が検出されたことにより、膨れの発生は、このP成分の存在に起因したものであるといえる。P成分が銀粘土中に含まれていたためであり、膨れの発生を抑制するには、銀粘土中に含まれるP成分を低減すればよいという知見が得られた。
【0009】
この発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、
(1)Agを主成分とし、P成分の含有量を
70ppm(質量ppm、以下同じ)以下とした銀粉末からなる銀粘土用銀粉末に、特徴を有するものである。
【0010】
この発明の銀粘土用銀粉末は、P成分が極めて少ない、きれいな水を使用して、溶融銀をアトマイズして得られたアトマイズ粉末であることが好ましい。したがって、この発明は、
(2)
P:15ppm以下を含有する水で溶融銀をアトマイズしてアトマイズ銀粉末
を得ること、に特徴を有するものである。
【0011】
また、この発明の銀粘土について、焼結性に優れたものとするために、前記
(1)に記載の銀粉末に対して、バインダーを添加した銀粘土、又は前記
(1)に記載の銀粉末に対して、バインダーと、界面活性剤を添加した銀粘土、又は前記
(1)に記載の銀粉末に対して、バインダーと、油脂、界面活性剤を添加した銀粘土とすることもできる。
【0012】
したがって、この発明は、
(3)前記
(1)に記載の銀粉末と、バインダーとを含有し、残りが水からなる焼成性に優れた銀粘土、
(4)前記
(1)に記載の銀粉末と、バインダーと、界面活性剤とを含有し、残りが水からなる焼結性に優れた銀粘土、
(5)前記
(1)に記載の銀粉末と、バインダーと、油脂とを含有し、残りが水からなる焼結性に優れた銀粘土、
(6)前記
(1)に記載の銀粉末と、バインダーと、油脂と、界面活性剤とを含有し、残りが水からなる焼結性に優れた銀粘土、
に特徴を有するものである。
【0013】
上述したように、銀粘土焼成体の表面に膨れが発生する原因は、銀粘土中にP成分が含まれていることによるが、特に、この銀粘土に混練された銀粉末には、100ppmを超えるPが含まれていることが、分析の結果、判明した。このPは、Ag粒子をコーティングするP化合物(Ag
3PO
4など)となって存在し、銀粉末がバインダーと混合される際に、そのP化合物が粒子として析出するものと見られる。このP化合物が銀粘土造形体の焼成中にガス化することにより、膨れが発生し、造形体の焼結状態に影響しているものと考えられる。
【0014】
ここで、種々試験した結果、この銀粉末中のPが100ppmを超えていると、銀粘土焼成体の表面に、膨れが顕著に現れた。特に、P化合物が大きい粒子で存在する場合には、膨れが顕著に現れた。さらに、銀粘土造形体の厚さが、薄い程、この膨れが発生し易いことも確認できた。
【0015】
そのため、膨れの発生を防止するには、先ずは、この銀粉末中に含まれるP成分をできるだけ低減することが重要となる。通常、銀粉末の製造にあたっては、溶融銀を水でアトマイズする水アトマイズ法が用いられている。ここで使用される水にも、Pが含まれていることがあるので、この水に含まれるPの量を、できるだけ少なくすることにして、
15ppm以下とした。この水を使用して溶融銀をアトマイズすることにより、銀粉末を作製して、銀粉末に含まれるPの量を低減することができた。そして、銀粉末中に、Pの量が
70ppm以下であると、銀粘土焼成体の表面における膨れ発生を抑制できた。
【0016】
銀粘土中におけるP成分の低減を図るためには、銀粉末中に含まれるP成分の量を一層低減することが重要である。
【0017】
そこで、この発明の銀粘土に含めるバインダーとしては、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉などいかなるバインダーを使用してもよいが、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースが最も好ましい。これらバインダーは、加熱すると速やかにゲル化して造形体の形状保持を容易にするために添加する。
【0018】
また、この発明の銀粘土には、さらに、界面活性剤を必要に応じて添加することができ、添加する界面活性剤の種類は、特に限定されるものではなく、通常の界面活性剤を使用することができる。
【0019】
また、この発明の銀粘土には、さらに、油脂も必要に応じて添加でき、添加する油脂は、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン、)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)などがある。