特許第5861886号(P5861886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861886
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】壁式混合梁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20160202BHJP
   E04B 5/32 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   E04B1/30 C
   E04B5/32 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-89366(P2012-89366)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-217115(P2013-217115A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 宏治
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−253801(JP,A)
【文献】 特表平09−504345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/30
E04B 5/32
E04B 5/29
E04B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート壁と、桁行方向に間隔をもって配列される複数の梁鉄骨、及び床スラブが一体に設けられた合成梁と、を備えた壁式混合梁構造であって、
該合成梁の複数の梁鉄骨の一方の端部同士及び他方の端部同士を組み込んで接続するとともに、桁行方向に沿って延在するフラットプレートを構成する端部鉄筋コンクリート造部が、前記鉄筋コンクリート壁に接合されていることを特徴とする壁式混合梁構造。
【請求項2】
前記端部鉄筋コンクリート造部同士の間の前記梁鉄骨には、下面側において梁間方向のプレストレスが導入されていることを特徴とする請求項1に記載の壁式混合梁構造。
【請求項3】
前記端部鉄筋コンクリート造部と前記鉄筋コンクリート壁との接合部には、梁間方向のプレストレスが導入されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の壁式混合梁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁式混合梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物において、架構剛性を確保しながら大スパン構造を実現するには、鉄筋コンクリート(RC)構造とする必要があり、一般的にはプレストレス構造を採用している(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、柱頭間に梁用パネルが橋架され、その梁用パネル間に床パネルが仮設され、梁用パネル上および床パネル間の取り合い部上部に先組梁鉄筋やPC鋼線が配筋され、これらパネル上に現場コンクリートが打設される構成について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−88393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の大スパン構造では、以下のような問題があった。
すなわち、プレストレス構造での施工においては、手間のかかる緊張作業を伴うことになるうえ、プレストレスを導入することが可能な距離に限界があることから、大スパン構造のスパン長を十分に確保することに限界があった。通常の大スパン構造の場合、柱梁による架構形式となることが多く、柱型や梁型が設けられることから、意匠的な欠点があり、空間利用の観点において不利になるという問題があった。
【0005】
また、従来の大スパン構造では、建物の重量が増加するため、地震力が増大することになり、構造設計上には不利になることから、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、大スパン構造を実現することができるとともに柱型や梁型をなくすことで、空間の利用性を高めることができ、意匠価値を向上させることができる壁式混合梁構造を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、建物の軽量化を図ることで地震力を低減することができる壁式混合梁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る壁式混合梁構造では、鉄筋コンクリート壁と、桁行方向に間隔をもって配列される複数の梁鉄骨、及び床スラブが一体に設けられた合成梁と、を備えた壁式混合梁構造であって、合成梁の複数の梁鉄骨の一方の端部同士及び他方の端部同士を組み込んで接続するとともに、桁行方向に沿って延在するフラットプレートを構成する端部鉄筋コンクリート造部が、鉄筋コンクリート壁に接合されていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、合成梁の複数の梁鉄骨のそれぞれの一端同士(他端同士)が桁行方向に延在する端部鉄筋コンクリート造部に組み込まれた状態で一体的に設けられるとともに、端部鉄筋コンクリート造部が鉄筋コンクリート壁に接合する構造となり、さらに床部分も梁鉄骨、床スラブ、および端部鉄筋コンクリート造部が一体的に組み合わされた混合構造床となることから、架構剛性を確保しながらも梁間方向のスパン長を大きく取ることが可能となり、これら鉄筋コンクリート壁、床スラブ、および端部鉄筋コンクリート造部によって囲まれる架構によって大スパン構造(空間)を形成することができる。
また、端部鉄筋コンクリート造部がフラットプレート構造であるため、柱型や梁型のない壁式構造となり、空間の利用性や自由度を高めることができるうえ、意匠性という観点においても優れた空間を実現することができる。
【0009】
また、本発明の壁式混合梁構造では、架構剛性が高められるので、合成梁の床スラブの厚さ寸法を小さくすることが可能となり、階高を大きくすることができ、形成される大スパン空間をさらに有効に利用することができる。さらに、混合構造床となり、床断面を最小にすることができるので、建物の軽量化を図ることが可能となり、地震力が低減された耐震架構とすることができる。
さらに、本発明の壁式混合梁構造では、一方向構造床となり、梁間方向に沿う断面が桁行方向で同一形状の断面となるので、梁間方向には任意の長さに設定が可能となり、架構をユニット化し、それらを組み合わせることで構築することができる。
【0010】
また、本発明に係る壁式混合梁構造では、端部鉄筋コンクリート造部同士の間の梁鉄骨には、下面側において梁間方向のプレストレスが導入されていてもよい。
【0011】
本発明の壁式混合梁構造によれば、梁間方向の中間部分が梁鉄骨と床スラブのみで構成されるので、この部分の下面側に梁間方向のプレストレスを導入することで、この中間部分に生じるたわみを適宜抑制することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る壁式混合梁構造では、端部鉄筋コンクリート造部と鉄筋コンクリート壁との接合部には、梁間方向のプレストレスが導入されていることが好ましい。
【0013】
この場合、端部鉄筋コンクリート造部と鉄筋コンクリート壁との接合部に生じ得るひび割れを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の壁式混合梁構造によれば、桁行方向に配列された複数の梁鉄骨のそれぞれの一端を組み込み桁行方向に沿って延在する端部鉄筋コンクリート造部が鉄筋コンクリート壁に接合することで、架構剛性を高めることができ、大スパン構造を実現することができるとともに柱型や梁型をなくすことにより、空間の利用性を高めることができ、意匠価値を向上させることができる。
また、本発明の壁式混合梁構造によれば、混合構造床となり、床断面の最小化を図ることが可能となるので、建物の軽量化に伴って地震力を低減することができ、これにより耐震架構を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態による壁式混合梁構造の構成を示す斜視図である。
図2図1に示す壁式混合梁構造の梁間方向を見た立面図である。
図3図1に示す壁式混合梁構造の天上面を上方から見た図である。
図4図2に示すA−A線矢視図であって、壁式混合梁構造を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による壁式混合梁構造について、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1乃至図4に示すように、本実施の形態による壁式混合梁構造は、建物1内に大スパン空間Rを形成する構造である。
すなわち、壁式混合梁構造は、建物1の外壁を構成する鉄筋コンクリート(RC)壁2と、桁行方向Yに間隔をもって配列される複数の梁鉄骨4、及び床スラブ5が一体に設けられた合成梁3と、を備え、合成梁3の複数の梁鉄骨4の一方の端部4a同士及び他方の端部4b同士を組み込んで接続するとともに、桁行方向Yに沿って延在するフラットプレートを構成する端部鉄筋コンクリート造部(端部RC造部6)が、RC壁2に接合された構成となっている。
【0018】
合成梁3の梁鉄骨4は、H形鋼材からなり、図3に示すように、桁行方向Yに一定の間隔をあけて配列され、その端部4a、4bがRC壁2に接合されている。
【0019】
端部RC造部6は、合成梁3(梁鉄骨4及び床スラブ5)の梁間方向Xの両端側に設けられる部分であり、床スラブ5に一体化され、梁鉄骨4をコンクリート中に埋設した構造をなしている。端部RC造部6の断面成(厚さ寸法)は、下面6aが大スパン空間Rの天井面から床スラブ5の床面5aまでの寸法となり、例えば600〜700mmに設定することができる。なお、このときの梁鉄骨4として、例えば高さ寸法が350mmで幅寸法が350mmのH形鋼材を採用することができる。
【0020】
そして、RC壁2に沿って延在する端部RC造部6同士の間の部分(梁間方向Xの床中間部3a)は、合成梁3の下面側に梁鉄骨4(下フランジ部分)が露出している。なお、この床中間部3aには、端部RC造部6の下面6aと同一レベル(図2の点線)の高さ位置に天井材を設けることも可能である。
【0021】
ここで、端部RC造部6の梁間方向Xの長さ寸法L(図2図3参照)は、梁間方向XでRC壁2、2の離間寸法(内法スパン)の約1/5〜1/4の長さに設定される。例えば、内法スパンが20mである場合には、上記端部RC造部6の長さ寸法Lは4〜5mとなる。
【0022】
次に、上述した構成の壁式混合梁構造の作用について、詳細に説明する。
図1乃至図4に示すように、本実施の形態の壁式混合梁構造では、合成梁3の複数の梁鉄骨4のそれぞれの一端部4a同士(他端部4b同士)が桁行方向Yに延在する端部RC造部6によって一体的に設けられるとともに、端部RC造部6がRC壁2に接合する構造となり、さらに床部分も梁鉄骨4、床スラブ5、および端部RC造部6が一体的に組み合わされた混合構造床となることから、架構剛性を確保しながらも梁間方向Xのスパン長を大きく取ることが可能となり、これらRC壁2、床スラブ5、および端部RC造部6によって囲まれる架構によって大スパン空間R(大スパン構造)を形成することができる。
【0023】
また、端部RC造部6がフラットプレート構造であるため、柱型や梁型のない壁式構造となり、空間の利用性や自由度を高めることができるうえ、意匠性という観点においても優れた空間を実現することができる。
【0024】
また、壁式混合梁構造では、架構剛性が高められるので、合成梁3の床スラブ5の厚さ寸法を小さくすることが可能となり、階高を大きくすることができ、形成される大スパン空間Rをさらに有効に利用することができる。さらに、混合構造床となり、床断面を最小にすることができるので、建物1の軽量化を図ることが可能となり、地震力が低減された耐震架構とすることができる。
【0025】
さらに、壁式混合梁構造では、一方向(桁行方向Y)に長い一方向構造床となり、梁間方向Xに沿う断面が桁行方向Yで同一形状の断面となるので、梁間方向Xには任意の長さに設定が可能となり、架構をプレキャストコンクリート等でユニット化し、それらを組み合わせることで構築することができる。
【0026】
また、端部RC造部6同士の間の梁鉄骨4には、下面側において例えば下フランジに対して梁間方向Xに沿ってPC鋼材(図示省略)が設けられていて、梁間方向Xのプレストレスを導入する構成としてもよい。
この場合、梁間方向Xの中間部分が梁鉄骨4と床スラブ5のみで構成されるので、この部分の下面側に梁間方向Xに沿ってプレストレスを導入することで、この中間部分に生じるたわみを適宜抑制することが可能となる。
【0027】
さらに、端部RC造部6とRC壁2との接合部Tには、梁間方向Xに沿ってPC鋼材(図示省略)が設けられていて、梁間方向Xのプレストレスを導入する構成としてもよい。
この場合、端部RC造部6とRC壁2との接合部Tに生じ得るひび割れを防止することができる。
【0028】
また、壁式混合梁構造では、梁間方向Xで床中間部3aにおける梁鉄骨4の桁行方向Yの配置間隔を小さくすることで、端部RC造部6およびRC壁2の厚さを抑えることができ、構造設計を通常のRC造床と同様に単位幅で行うことができる。
【0029】
上述のように本実施の形態による壁式混合梁構造では、桁行方向Yに配列された複数の梁鉄骨4のそれぞれの一端(端部4a、4b)を組み込み桁行方向Yに沿って延在する端部RC造部6がRC壁2に接合することで、架構剛性を高めることができ、大スパン空間Rを実現することができるとともに、柱型や梁型なくすことが可能となることにより、空間の利用性を高めることができ、意匠価値を向上させることができる。
また、壁式混合梁構造によれば、混合構造床となり、床断面を最小化させることが可能となるので、建物1の軽量化に伴って地震力を低減することができ、これにより耐震架構を実現することができる。
【0030】
以上、本発明による壁式混合梁構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では建物に適用した一例を示しているが、これに限定されることはなく、例えば地下構造に適用することも可能である。
また、梁鉄骨4の寸法、複数の梁鉄骨の配列間隔(桁行寸法)、床スラブ5の厚さ寸法、端部RC造部6の桁行方向Yの長さ寸法L、厚さ寸法などの構成は、建物1の形状、大スパン空間Rの大きさ(広さ)等の施工条件に基づいて適宜設定されるものである。
【0031】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 建物
2 RC壁(鉄筋コンクリート壁)
3 合成梁
3a 床中間部
4 梁鉄骨
4a 一方の端部
4b 他方の端部
5 床スラブ
6 端部RC造部(端部鉄筋コンクリート造部)
R 大スパン空間
T 接合部
X 梁間方向
Y 桁行方法
図1
図2
図3
図4