特許第5861887号(P5861887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861887
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】遮熱工法、及び遮熱構造材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20160202BHJP
   F16L 59/08 20060101ALI20160202BHJP
   E04H 5/02 20060101ALI20160202BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   E04B1/76 400C
   F16L59/08
   E04H5/02 Z
   B66C13/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-106740(P2012-106740)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-234472(P2013-234472A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−037539(JP,A)
【文献】 特開2005−048546(JP,A)
【文献】 特開2011−163137(JP,A)
【文献】 特開2010−210259(JP,A)
【文献】 特開2002−105567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76
B66C 13/00
E04H 5/02
F16L 59/08
B66C 5/00 − 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱発生源から構造材に向かう放射熱を遮る遮熱工法において、
前記構造材の前記熱発生源側を断熱材で覆う一方で、該熱発生源側とは反対側の少なくとも一部を断熱材で覆わず、表面の放射率が該構造材の表面の放射率よりも低いカバーで該断熱材の該熱発生源側を覆う遮熱施工工程と、
前記構造材の表面であって、前記断熱材で覆われていない表面の少なくとも一部に、該構造材の表面の放射率よりも高い高放射率膜を形成する放熱施工工程と、
を実行することを特徴とする遮熱工法。
【請求項2】
請求項1に記載の遮熱工法において、
前記放熱施工工程では、前記高放射率膜を黒色系塗料で形成する、
ことを特徴とする遮熱工法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遮熱工法において、
前記高放射率膜の表面の放射率は、0.9以上である、
ことを特徴とする遮熱工法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の遮熱工法において、
前記カバーは金属で形成され、該カバーの表面が表面処理されて、該カバーの表面の放射率が0.3以下になっている、
ことを特徴とする遮熱工法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の遮熱工法において、
前記断熱材は、無機質材で形成されている、
ことを特徴とする遮熱工法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の遮熱工法において、
前記構造材は、加振力を受ける構造材である場合、前記カバーは、前記断熱材の荷重がかかっても折れ曲がらない剛性を有する、
ことを特徴とする遮熱工法。
【請求項7】
構造材と、熱発生源から該構造材に向かう放射熱を遮る遮熱部材とを備えている遮熱構造材において、
前記遮熱部材は、前記構造材の前記熱発生源側を覆う断熱材と、該断熱材の該熱発生源側を覆うカバーと、を有し、
前記カバーの表面の放射率は、前記構造材の表面の放射率よりも低く、
前記構造材の前記熱発生源とは反対側の少なくとも一部が前記断熱材で覆われておらず、該構造材の表面で該断熱材で覆われていない表面の少なくとも一部には、該構造材の表面の放射率よりも高い高放射率膜が形成されている、
ことを特徴とする遮熱構造材。
【請求項8】
請求項7に記載の遮熱構造材において、
前記高放射率膜は、黒色系塗料で形成されている、
ことを特徴とする遮熱構造材。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の遮熱構造材において、
前記熱発生源としての高温部材を搬送する天井クレーンで、互いに平行な一対のランウェイガーダーが前記構造材を成し、
前記遮熱部材は、前記ランウェイガーダーで相手方のランウェイガーダーと対向する側の面、及び該ランウェイガーダー中の下部に位置して下方を向いている面に施され、
前記高放射率膜は、前記ランウェイガーダーで前記相手方のランウェイガーダーに対して少なくとも背合わせとなる面の少なくとも一部に形成されている、
ことを特徴とする遮熱構造材。
【請求項10】
請求項9に記載の遮熱構造材において、
前記カバーは、前記断熱材の荷重がかかっても折れ曲がらない剛性を有する、
ことを特徴とする遮熱構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱発生源から鉄骨材等の構造材に向かう放射熱を遮る遮熱工法、及びこの構造材とこの放射熱を遮る遮熱部材とを備えている遮熱構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
部材を遮熱する方法として代表的な方法としては、例えば、以下の特許文献1,2に記載の方法がある。特許文献1に記載の方法は、遮熱対象であるボックス基材の外周全体を、断熱層を形成する空気担持体で覆うと共に、さらにこの空気担持体の外周全体をアルミホイル等の遮熱シートで覆う方法である。また、特許文献2に記載の方法は、熱発生源であるエンジンからの放射熱を受ける燃料管の外周全体を遮熱カバーで覆う方法である。この遮熱カバーは、放射熱を吸収しにくい白色系に塗装されている。また、この特許文献2に記載の方法では、必要に応じて、遮熱カバーの内側に断熱材を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−124672号公報
【特許文献2】特開2007−247558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1,2に記載の方法で構造材を遮熱した場合、確かに、熱発生源からの放射熱を遮ることができ、構造材の温度上昇を抑えることができる。しかしながら、状況によっては、温度上昇に伴う構造材の歪等を少なくする目的で、より構造材の温度上昇を抑えたい場合もある。
【0005】
そこで、本発明は、構造材の温度上昇を抑えることができる遮熱工法、及び遮熱構造材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発明に係る遮熱工法は、
熱発生源から構造材に向かう放射熱を遮る遮熱工法において、前記構造材の前記熱発生源側を断熱材で覆う一方で、該熱発生源側とは反対側の少なくとも一部を断熱材で覆わず、表面の放射率が該構造材の表面の放射率よりも低いカバーで該断熱材の該熱発生源側を覆う遮熱施工工程と、前記構造材の表面であって、前記断熱材で覆われていない表面の少なくとも一部に、該構造材の表面の放射率よりも高い高放射率膜を形成する放熱施工工程と、を実行することを特徴とする。
【0007】
当該遮熱工法では、構造材の熱発生源側を低放射率のカバーで覆うので、熱発生源からの放射熱を効果的に遮熱することができる。さらに、このカバーと構造材との間に断熱材を配置しているので、放射熱を受けて加熱されたカバーから構造材への熱伝達量を減らすことができる。
【0008】
さらに、当該遮熱工法では、構造材で熱発生源側とは反対側の少なくとも一部には断熱材を配置せず、しかも、この表面に高放射率膜を形成しているので、構造材からの放熱量を多くすることができる。
【0009】
よって、当該遮熱工法では、構造材の温度上昇を効果的に抑えることができる。
【0010】
ここで、前記遮熱工法において、前記放熱施工工程では、前記高放射率膜を黒色系塗料で形成してもよい。
【0011】
当該遮熱工法では、比較的低コストで高放射率膜を形成することができる。
【0012】
また、前記遮熱工法において、前記高放射率膜の表面の放射率は、0.9以上であることが好ましい。
【0013】
また、前記遮熱工法において、前記カバーは金属で形成され、該カバーの表面が表面処理されて、該カバーの表面の放射率が0.3以下になっていることが好ましい。
【0014】
また、前記遮熱工法において、前記断熱材は、無機質材で形成されていてもよい。当該遮熱工法では、熱発生源の温度が高い場合でも対応することができる。
【0015】
また、遮熱工法において、前記構造材は、加振力を受ける構造材である場合、前記カバーは、前記断熱材の荷重がかかっても折れ曲がらない剛性を有することが好ましい。
【0016】
当該遮熱工法では、構造材に加振力が加わり、この構造材が振動して、断熱材がカバーに接触しつつ相対的に振動しても、このカバーの破損を防ぐことができる。また、断熱材として、柔軟性のあるものを使用すれば、この構造材の振動を抑える効果も期待できる。
【0017】
上記目的を達成するための発明に係る遮熱構造材は、
構造材と、熱発生源から該構造材に向かう放射熱を遮る遮熱部材とを備えている遮熱構造材において、前記遮熱部材は、前記構造材の前記熱発生源側を覆う断熱材と、該断熱材の該熱発生源側を覆うカバーと、を有し、前記カバーの表面の放射率は、前記構造材の表面の放射率よりも低く、前記構造材の前記熱発生源とは反対側の少なくとも一部が前記断熱材で覆われておらず、該構造材の表面で該断熱材で覆われていない表面の少なくとも一部には、該構造材の表面の放射率よりも高い高放射率膜が形成されていることを特徴とする。
【0018】
当該遮熱構造材では、構造材の熱発生源側が低放射率のカバーで覆われているので、熱発生源からの放射熱を効果的に遮熱することができる。さらに、このカバーと構造材との間に断熱材が配置されているので、放射熱を受けて加熱されたカバーから構造材への熱伝達量を減らすことができる。
【0019】
さらに、当該遮熱構造材では、構造材で熱発生源側とは反対側の少なくとも一部には断熱材を配置せず、しかも、この表面に高放射率膜が形成されているので、構造材からの放熱量を多くすることができる。
【0020】
よって、当該遮熱構造材では、構造材の温度上昇を効果的に抑えることができる。
【0021】
ここで、前記遮熱構造材において、前記高放射率膜は、黒色系塗料で形成されていてもよい。
【0022】
当該遮熱構造材では、比較的低コストで高放射率膜を形成することができる。
【0023】
また、前記遮熱構造材において、前記熱発生源としての高温部材を搬送する天井クレーンで、互いに平行な一対のランウェイガーダーが前記構造材を成し、前記遮熱部材は、前記ランウェイガーダーで相手方のランウェイガーダーと対向する側の面、及び該ランウェイガーダー中の下部に位置して下方を向いている面に施され、前記高放射率膜は、前記ランウェイガーダーで前記相手方のランウェイガーダーに対して少なくとも背合わせとなる面の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【0024】
当該遮熱構造材では、ランウェイガーダーの温度上昇を効果的に抑えることができる。さらに、当該遮熱構造材では、断熱材をカバーで覆っているため、断熱材等からの粉塵が搬送物である高温部材に降りかかることを回避することができる。
【0025】
また、前記遮熱構造材において、前記カバーは、前記断熱材の荷重がかかっても折れ曲がらない剛性を有することが好ましい。
【0026】
当該遮熱構造材では、搬送物の搬送でランウェイガーダーに加振力が加わり、このランウェイガーダーが振動して、断熱材がカバーに接触しつつ相対的に振動しても、このカバーの破損を防ぐことができる。また、断熱材として、柔軟性のあるものを使用すれば、この構造材の振動を抑える効果も期待できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、極めて効率的に構造材の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る一実施形態における天井クレーンの斜視図である。
図2】本発明に係る一実施形態における遮熱構造材の断面図である。
図3】本発明に係る一実施形態における遮熱構造材の各部の時間経過に伴う温度変化を検証する際の加熱パターンを示す説明図である。
図4】本発明に係る一実施形態における遮熱構造材に対する加熱温度及び遮熱構造材の各部の温度の変化を示すグラフである。
図5】本発明に係る一実施形態における遮熱構造材の各部の温度の変化を示すグラフである。
図6】本発明に係る一実施形態における遮熱構造材の各部の最高温度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る遮熱工法及びこの工法で製造された遮熱構造材の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
本実施形態の遮熱構造材は、構造材と、熱発生源から構造材に向かう放射熱を遮る遮熱部材とを有している。本実施形態の構造材は、図1に示すように、天井クレーンのランウェイガーダー10である。
【0031】
天井クレーンは、互いに平行に水平方向の延びる一対のランウェイガーダー10と、各ランウェイガーダー10上に固定されているランウェイレール30と、ランウェイレール30上を走行するクレーン本体40と、を有する。クレーン本体40は、各ランウェイレール30上を走行するクレーンサドル41と、一対のクレーンサドル41を互いに連結するクレーンガーダー42と、クレーンガーダー42に沿って走行するホイスト43と、を有している。
【0032】
構造材としてのランウェイガーダー10は、H型鋼で形成されている。ランウェイガーダー10は、図2に示すように、H型鋼の一対のフランジ11,12が上下に配列され、一対のフランジ11,12のうちの一方のフランジ12の外側面が上を向き且つ水平になるよう配置されている。なお、以下では、この一方のフランジ12を上フランジ12と呼び、他方のフランジ11を下フランジ11と呼ぶ。
【0033】
本実施形態における熱発生源は、天井クレーンが搬送する高温部材50である。遮熱部材20は、この高温部材50からの放射熱を遮るためにランウェイガーダー10に設けられている。
【0034】
遮熱部材20は、ランウェイガーダー10の高温部材側を覆う断熱材21と、この断熱材21の高温部材側を覆うカバー25とを有している。断熱材21としては、例えば、アルミナやシリカ等を主成分とする高耐熱ロックウールやセラミックファイバーブランケット、アルミナ繊維製品(Al 95%、SiO 5%程度のファイバー)等の無機質繊維フェルトを用いる。カバー25は、例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄鋼等で形成されている。アルミニウムやステンレスでカバー25を形成する場合、その表面に対して研磨する等の表面処理が施されて、その表面の放射率が0.3以下であるものを用いる。また、鉄鋼でカバー25を形成する場合、白色系塗料を塗布する等の表面処理が施されて、その表面の放射率が同じく0.3以下であるものを用いる。
【0035】
断熱材21は、一対のランウェイガーダー10のそれぞれで、相手方のランウェイガーダー10と対向する側の面及び下方を向いている面に設けられている。具体的に、図2中で向かって右側のランウェイガーダー10では、一対のフランジ11,12の左側端面11a,12a、一対のフランジ11,12を連結するウェブ13の左側面13a、及び、一対のフランジ11,12のうちの下フランジ11の下面11dを覆うように、L形に断熱材21が設けられている。カバー25は、前述したように、L形に設けられた断熱材21の高温部材50側、言い換えると、ランウェイガーダー10と反対側に、断熱材21と同様、ほぼL形に設けられている。
【0036】
ランウェイガーダー10で、断熱材21で覆われていない表面の一部には、耐熱黒色系塗料による高放射率膜18が形成されている。具体的に、図2中で向かって右側のランウェイガーダー10では、一対のフランジ11,12の右側端面11b、12b、ウェブ13よりも右側における上フランジ12の下面12d、ウェブ13よりも右側における下フランジ11の上面11c、ウェブ13の右側面に、高放射率膜18が形成されている。なお、ランウェイガーダー10で、断熱材21で覆われない表面としては、上フランジ12の上面12cがあるが、この上フランジ12の上面12cには、ランウェイレール30が設けられるため、ここでは高放射率膜18を形成しない。但し、この上フランジ12の上面12cに高放射率膜18を形成してもよいし、さらに、ランウェイガーダー10の表面全体に高放射率膜18を形成してもよい。
【0037】
ランウェイガーダー10は、前述したように、鋼材で形成されている。鋼材は、その表面が通常の酸化面で粗い酸化面でない場合、表面の放射率が、常温から500℃の範囲内で、0.79〜0.85程度である。本実施形態では、ランウェイガーダー10で、断熱材21で覆われていない表面の一部に耐熱黒色系塗料による高放射率膜18を形成して、表面の放射率を上げている。具体的に、高放射率膜18を形成する材料にもよるが、ここでは、放射率を0.9以上にしている。
【0038】
高放射率膜18としては、前述の耐熱黒色系塗料の他に、酸化第一鉄による酸化膜や、セラミック系粉末や金属系粉末の溶射等によるコーティング膜等が考えられる。しかしながら、コスト面等の観点から、高放射率膜18は耐熱黒色系塗料を用いることが好ましい。耐熱黒色系塗料としては、例えば、オキツモ株式会社製のB−600、ジャパンセンサー株式会社製のJCS−3号等があり、これらの塗料はいずれも常温〜600℃の範囲で放射率が0.9を超える。なお、ランウェイガーダー10の表面温度があまり上がらない場合には、耐熱塗料である必要はない。
【0039】
以上で説明した遮熱構造材1は、以下の手順で製造される。
【0040】
まず、ランウェイガーダー10となるH型鋼の表面の所定部分に耐熱黒色系塗料を塗布し、この部分に高放射率膜18を形成する(放熱施工工程)。
【0041】
次に、高放射率膜18を形成したH型鋼をランウェイガーダー10として天井クレーン設置建屋内の所定位置に取り付ける(設置工程)。
【0042】
次に、天井クレーン設置建屋内に取り付けられたランウェイガーダー10の表面の所定部分に断熱材21を取り付け、その高温部材50側の面にカバー25を取り付ける(遮熱施工工程)。カバー25は、例えば、ボルト及びナット、又はビス等を用いてランウェイガーダー10に取り付ける。
【0043】
以上でランウェイガーダー10に対する遮熱工法が終了し、遮熱構造材1が完成する。なお、施工手順としては、以上で説明した放熱施工工程、設置工程、遮熱施工工程の順が基本的には最も好ましいが、これら3つの工程を如何なる順序で行ってもよい。但し、ランウェイガーダー10の表面全体に高放射率膜18を形成する場合には、放熱施工工程後に遮熱施工工程を実施する必要がある。
【0044】
以上のように、本実施形態では、ランウェイガーダー10の高温部材50側を低放射率のカバー25で覆っているので、高温部材50からの放射熱を効果的に遮熱することができる。さらに、このカバー25とランウェイガーダー10との間に断熱材21を配置しているので、放射熱を受けて加熱されたカバー25からランウェイガーダー10への熱伝達量を減らすことができる。このため、本実施形態では、ランウェイガーダー10の温度上昇を抑えることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、ランウェイガーダー10で高温部材50からの放射熱を受けない表面には断熱材21を配置せず、しかも、この表面に高放射率膜18を形成しているので、ランウェイガーダー10からの放熱量を多くすることができる。このため、本実施形態では、ランウェイガーダー10の温度上昇をより抑えることができる。
【0046】
このように、本実施形態では、高温部材50を搬送しても、ランウェイガーダー10の温度上昇を極めて効果的に抑えることができるため、温度上昇に伴うランウェイガーダー10の熱変形を最小限に抑えることができ、クレーン本体40のスムーズな走行を実現できる。さらに、ランウェイガーダー10の温度上昇を極めて効果的に抑えることができるため、断熱材21の厚さを薄くすることができ、狭隘な部分にも、断熱材21を含む遮熱部材20を設けることができる。
【0047】
また、本実施形態では、断熱材21をカバー25で覆っているため、断熱材21等からの粉塵が搬送物に降りかかることを回避することができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、カバー25として、断熱材21の荷重がかかっても折り曲がらない剛性を確保するために、1.5mm以上、好ましくは2.0mm以上の厚さの金属板を用いている。このため、本実施形態では、ランウェイガーダー10上をクレーン本体40が走行して、ランウェイガーダー10に加振力が加わり、このランウェイガーダー10が振動して、断熱材21がカバー25に接触しつつ相対的に振動しても、このカバー25の破損を防ぐことができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、断熱材21として、柔軟性を有する無機質繊維フェルトを用いるので、ランウェイガーダー10に加振力が加わっても、この断熱材21で振動がある程度吸収され、ランウェイガーター10の振動を抑えることができる。
【0050】
次に、以上で説明した遮熱構造材1の具体的な遮熱効果について説明する。
ここでは、以下の条件下で、差分法による2次元非定常熱伝導計算プログラムを用いて、遮熱構造材1の断面における各部の時間経過に伴う温度変化を求めた。
【0051】
[各種寸法条件]
構造材(ランウェイガーダー10)を構成するH型鋼の諸寸法(図2参照)
高さH(上フランジ12の上面12cと下フランジ11の下面11dとの間隔)
:1200(mm)
フランジ幅B:600(mm)
ウェブ厚さt1:22(mm)
フランジ厚さt2:40(mm)
断熱材の厚さti:20(mm)
カバーの厚さtp:2.0(mm)
H型鋼の下フランジ11の下面11dから高温部材50までの距離D:350(mm)
【0052】
[各種物性条件]
構造材(ランウェイガーダー10)を構成するH型鋼の諸物性
初期温度:60℃
熱伝導率:63(W/m・K)at60℃、45(W/m・K)at500℃
60℃〜500℃の間は一定変化率で変化
比熱:0.37(kJ/kg・K)at60℃、
0.52(kJ/kg・K)at500℃
60℃〜500℃の間は一定変化率で変化
密度:7900(kg/m
放射率(全表面に高放射率膜18を形成したと仮定):0.9
60℃〜500℃の間一定
カバーの諸物性
カバーの形成材料:アルミニウム
熱伝導率:237(W/m・K)
60℃〜500℃の間一定
比熱:0.92(kJ/kg・K)
60℃〜500℃の間一定
密度:2710(kg/m
放射率:0.3 60℃〜500℃の間一定
断熱材の諸物性
断熱材の材質:ロックウール
熱伝導率:0.04(W/m・K)at60℃、
0.125(W/m・K)at500℃
60℃〜500℃の間は一定変化率で変化
比熱:0.80(kJ/kg・K)at60℃
0.88(kJ/kg・K)at500℃
60℃〜500℃の間はほぼ一定変化率
密度:80(kg/m
放射率:0.9 60℃〜500℃の間一定
【0053】
[熱発生源による加熱条件]
雰囲気温度:60℃
熱発生源である高温部材の表面温度:600℃
熱発生源による加熱時間(構造材との間の距離が最小距離(前述の距離D)になる時間)
Th(図3参照)):41秒(0.7分)
加熱時間Thの繰り返し回数:40回
加熱時間Thの繰り返し周期Ti(図3参照):6分
【0054】
[2次元非定常熱伝導計算プログラムによる計算結果]
以上の条件で2次元非定常熱伝導計算プログラムを用いて、ランウェイガーダー10、断熱材21、カバー25のそれぞれを複数の要素に分割して、全要素毎の温度を求めた結果、全要素毎の最高温度は図6に示すようになった。なお、図6は、あくまでも、ランウェイガーダー10を構成する全要素毎の最高温度、断熱材21を構成する全要素毎の最高温度、カバー25を構成する全要素毎の最高温度を示す図であり、位置や寸法等を示すものではない。
【0055】
具体的に、L形に設けたカバー25では、カバー25を構成する要素のうちで角部の要素c1が最高温度になり、その温度は217℃になった。L形に設けた断熱材21では、断熱材21を構成する要素のうちで角部の要素i1が最高温度になり、その温度は185℃になった。また、ランウェイガーダー10では、ランウェイガーダー10を構成する要素のうちで下フランジ11における断熱材21の角部に最も近い部分の要素f1が最高温度になり、その温度は81℃になった。また、ランウェイガーダー10のウェブ13の中間部の要素w1の最高温度は74℃になった。
【0056】
L形のカバー25における角部の要素c1の温度は、図4及び図5に示すように、初回の加熱時間で60℃から約160℃まで上昇した後、この加熱時間の終了後に温度低下する。この要素c1の温度は、二回目の加熱時間で約190℃まで上昇した後、この加熱時間の終了後に温度低下する。以下、この要素c1の温度は、温度上昇と温度低下を繰り返し、次第に各加熱時間における上昇時の温度が回数の増加に伴って高くなる。そして、7又は8回目の加熱時間で、前述の最高温度である217℃にほぼ達する。以降、加熱の回数が増加しても、この要素c1の上昇時の温度はこの217℃でほぼ一定である。
【0057】
ランウェイガーダー10における下フランジ11の端部の要素f1の温度は、60℃から加熱の回数が増加するに従って緩やかに上昇し、39〜40回目の加熱で、前述の最高温度である81℃に達する。また、ランウェイガーダー10におけるウェブ13の中間部の要素w1の温度は、60℃から加熱の回数が増加するに従って緩やかに上昇し、39〜40回目の加熱で、前述の最高温度である74℃に達する。
【0058】
以上のように、本実施形態では、表面温度が600℃の高温部材50が至近距離である350mmまで繰り返して接近するという、極めて厳しい条件下でも、ランウェイガーダー10の温度を81℃以下に抑えることができる。
【0059】
なお、以上の実施形態では、鋼材で形成されているランウェイガーダー10を構造材としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構造材に本発明を適用してもよい。さらに、構造材は、鋼材で形成されていなくてもよく、他の金属やコンクリート等で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…遮熱構造材、10…ランウェイガーダー(構造材)、11…下フランジ、12…上フランジ、13…ウェブ、18…高放射率膜、20…遮熱部材、21…断熱材、25…カバー、40…クレーン本体、50…高温部材(熱発生源)
図1
図2
図3
図4
図5
図6