(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862009
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】VOC低減装置
(51)【国際特許分類】
B01D 43/00 20060101AFI20160202BHJP
B01D 53/44 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
B01D43/00 ZZAB
B01D53/44 110
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-279559(P2010-279559)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-125700(P2012-125700A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】達 晃一
【審査官】
近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−152026(JP,A)
【文献】
特開2007−301507(JP,A)
【文献】
特開平10−337440(JP,A)
【文献】
特開平10−296033(JP,A)
【文献】
特開2008−302347(JP,A)
【文献】
特開2001−193974(JP,A)
【文献】
特開2004−267360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 43/00
B01D 53/38〜53/44
B01D 1/00〜1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口と排出口との間に流路が形成された筒状のケーシングと、該ケーシング内の前記流路上に設けられ、VOC低減対象物からのVOCの放散を促進するために前記VOC低減対象物を加熱する加熱器と、前記ケーシング内における前記加熱器後流の前記流路上に設けられ、前記加熱器による加熱によって前記VOC低減対象物から放散したVOCを空気と共に吸引する送風機と、前記ケーシング内における前記送風機後流の前記流路上に設けられ、前記送風機によって吸引した空気中のVOC濃度を検出する濃度センサと、該濃度センサによって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となるように前記送風機の回転数を制御する制御機とを備え、前記ケーシングは、前記吸込口が前記VOC低減対象物の表面に対して間隔を隔てて対向するように配置され、前記制御機は、前記送風機の回転数を変化させて、前記濃度センサによって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となる前記送風機の回転数を見つけ出すものであることを特徴とするVOC低減装置。
【請求項2】
前記ケーシング内における前記送風機後流の前記流路上に設けられ、前記VOC低減対象物から放散したVOCを吸着するVOC吸着剤を備えた請求項1に記載のVOC低減装置。
【請求項3】
前記ケーシングの吸込口に接続され、前記VOC低減対象物を収容するチャンバーを備えた請求項1又は2に記載のVOC低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品及び材料等から放散するVOCを低減するVOC低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質過敏症やシックハウス症候群等を防ぐ目的から、部品及び材料等から放散するVOC(揮発性有機化合物)の低減方法及び低減対策等が各産業において検討されている。しかし、規制対象となるVOCが材料に含まれていなくても、当該材料が他の材料や生産工程から発生するVOCを吸着することがあり、VOCの拡散低減を困難にしている。自動車部品に使用される吸音材等の材料には、衣類等の古着がリサイクルされており、防虫剤等に使用されているパラジクロロベンゼンが当該吸音材等から検出されることがある。一般的なVOCは、部品及び材料等を加熱することにより部品及び材料等に吸着しているVOCを拡散させて低減することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−301507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、部品及び材料等を加熱する作業には設備及び時間を必要とするため実現することが困難であった。そのため、近年、簡便で且つ効果的なVOC低減対策が検討されている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、VOCの低減対策を簡便で且つ効果的に実施することを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、吸込口と排出口との間に流路が形成された筒状のケーシングと、該ケーシング内の前記流路上に設けられ、VOC低減対象物からのVOCの放散を促進するために前記VOC低減対象物を加熱する加熱器と、前記ケーシング内における前記加熱器後流の前記流路上に設けられ、前記加熱器による加熱によって前記VOC低減対象物から放散したVOCを空気と共に吸引する送風機と、前記ケーシング内の前記流路上に設けられ、前記送風機によって吸引した空気中のVOC濃度を検出する濃度センサと、該濃度センサによって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となるように前記送風機の回転数を制御する制御機とを備えたことを特徴とするVOC低減装置である。
【0007】
前記VOC低減装置は、前記ケーシング内における前記送風機後流の前記流路上に設けられ、前記VOC低減対象物から放散したVOCを吸着するVOC吸着剤を備えても良い。
【0008】
前記VOC低減装置は、前記ケーシングの吸込口に接続され、前記VOC低減対象物を収容するチャンバーを備えても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、VOCの低減対策を簡便で且つ効果的に実施することを可能とすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るVOC低減装置の概略図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係るVOC低減装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
本実施形態に係るVOC低減装置は、部品及び材料等(以下、VOC低減対象物ともいう)から放散するVOCを低減するための装置であり、自動車部品、材料の他にも、家電製品、家具、建材等にも使用可能なものである。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るVOC低減装置10は、吸込口11aと排出口11bとの間に流路11cが形成された筒状のケーシング11と、ケーシング11内の流路11c上に設けられ、VOCが吸着したVOC低減対象物AからのVOCの放散(脱離)を加速(促進)するためにVOC低減対象物Aを加熱するヒーター(加熱器)12と、ケーシング11内におけるヒーター12後流の流路11c上に設けられ、ヒーター12による加熱によってVOC低減対象物Aから放散したVOCを空気と共に吸引するファン(送風機)13と、ケーシング11内の流路11c上に設けられ、ファン13によって吸引した空気中のVOC濃度を検出する濃度センサ14と、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度に応じてファン13を制御する制御機としてのECU(電子制御ユニット)15とを備える。
【0014】
ケーシング11は、吸込口11aがVOC低減対象物Aの表面に対して間隔を隔てて対向するように配置される。
【0015】
本実施形態のヒーター12は、赤外線ヒーター(加熱用赤外線ランプ)からなる。ヒーター12は、VOC低減対象物Aの表面を所定温度(本実施形態では、80℃)に加熱するように設定されている。
【0016】
ファン13は、空気を吸込口11aからケーシング11(流路11c)内に吸い込み、ケーシング11(流路11c)内の空気を排出口11bから排出する。ファン13は、ECU15に電気的に接続されており、ECU15によって回転数(或いは回転速度)が制御される。
【0017】
本実施形態の濃度センサ14は、半導体センサからなる。又、本実施形態の濃度センサ14は、ケーシング11内におけるファン13後流の流路11c上に設けられている。濃度センサ14は、ECU15に電気的に接続されており、ECU15に対して検出信号を出力する。
【0018】
本実施形態のECU15は、ケーシング11に設けられている。ECU15は、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度(放散濃度)をモニター(監視)し、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となるように、ファン13によって吸引する空気の速度(即ち、ファン13の回転数)を制御する。
【0019】
又、本実施形態に係るVOC低減装置10は、ケーシング11内におけるファン13後流の流路11c上に設けられ、VOC低減対象物Aから放散したVOCを吸着するVOC吸着剤16を備える。
【0020】
VOC吸着剤16は、例えば、フィルター(例えば、アルミ製のハニカム材)と、フィルターに担持され吸着作用を有する物質(例えば、活性炭)とから構成される。
【0021】
次に、本実施形態に係るVOC低減装置10の作動を説明する。
【0022】
VOC低減対象物(部品及び材料等)Aの表面に吸着したVOCは、放散形態が蒸散支配型となる。蒸散支配型は表面流速と速度(VOCの放散速度)とが比例している。つまり、VOC低減対象物Aの表面に対流を確保しながら、VOC低減対象物Aの表面を加熱することにより、VOC低減対象物AからのVOCの放散を加速することが可能となる。
【0023】
本実施形態に係るVOC低減装置10では、VOCが吸着したVOC低減対象物AからのVOCの放散を加速するためにVOC低減対象物Aを加熱するためのヒーター12が、ケーシング11内の流路11c上に設けられている。又、VOCの放散速度を最適にするために空気の速度を制御するためのファン13が、ケーシング11内におけるヒーター12後流の流路11c上に設けられている。このファン13の回転駆動によりVOC低減対象物Aの表面に対流を作り出し、ヒーター12による加熱によってVOC低減対象物Aから放散したVOCは、ファン13後流のVOC吸着剤16に捕集される。
【0024】
VOC吸着剤16はVOC吸着量が飽和したら適宜交換する。本実施形態に係るVOC低減装置10では、ECU15は、VOC吸着剤16の使用時間を測定し、測定したVOC吸着剤16の使用時間が所定時間を超えたときに、VOC吸着剤16のVOC吸着量が飽和したと判断するようになっている。
【0025】
又、本実施形態に係るVOC低減装置10では、VOC低減対象物AからのVOCの放散が最適か不適かを判断するための濃度センサ14が、ケーシング11内の流路11c上に設けられており、ECU15は濃度センサ14によりファン13によって吸引した空気中のVOC濃度をモニター(監視)する。ECU15は、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となるようにファン13の回転数を制御する。具体的には、ECU15は、ファン13の回転数を変化させて、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度が最大濃度となるファン13の回転数を見つけ出すようになっている。
【0026】
VOC低減対象物AからのVOCの放散が終了したら、VOC低減装置10を新たにVOCが吸着している箇所に移動させる。例えば、ECU15は、濃度センサ14によって検出される空気中のVOC濃度が所定濃度(例えば、上記最大濃度の50%)を下回ったときに、当該箇所におけるVOCの放散が終了したと判断する。本実施形態ではVOC低減装置10の移動は手動であるが、VOC低減装置10の移動はアクチュエータ等を利用して自動にしても良い。又、VOC低減装置10を固定とし、VOC低減対象物Aを移動させても良い。
【0027】
本実施形態に係るVOC低減装置10では、VOCが吸着したVOC低減対象物AからのVOCの放散を加速するためにVOC低減対象物Aを加熱するためのヒーター12と、VOCの放散速度を最適にするために空気の速度を制御するためのファン13とを、ケーシング11内の流路11c上に設けることにより、VOC低減対象物Aを加熱するための特別な設備が不要となり、VOCの低減対策を簡便に実施することが可能となる。
【0028】
又、本実施形態に係るVOC低減装置10では、濃度センサ14によりファン13によって吸引した空気中のVOC濃度をモニターし、そのVOC濃度が最大濃度となるようにファン13の回転数を制御することにより、VOC低減対象物AからのVOCの放散を最適とすることができ、VOCの低減対策を効果的に実施することが可能となる。
【0029】
以上要するに、本実施形態に係るVOC低減装置10により、目に見えないVOCの低減対策を簡便で且つ効果的に実施することが可能となる。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0031】
例えば、上記の実施形態は生産工程におけるVOC低減を想定しているが、部品単体の場合は、同様な仕様のVOC低減装置10を装備したチャンバー20等(
図2参照)を利用することにより、部品の大きさにもよるが複数部品の同時処理も可能となる。チャンバー20は、ケーシング11の吸込口11aに接続される。なお、
図2中、符号21はチャンバー20の吸入口部を示す。
【0032】
又、ケーシング11内におけるVOC吸着剤16後流の流路11c上に別の濃度センサ17(
図1参照)を設け、ECU15は、濃度センサ17によってVOC吸着剤16を通過した空気中のVOC濃度をモニター(監視)し、そのVOC濃度(処理後濃度)が所定濃度を超えたときに、VOC吸着剤16のVOC吸着量が飽和したと判断するようにしても良い。濃度センサ17は、例えば、半導体センサからなる。
【符号の説明】
【0033】
10 VOC低減装置
11 ケーシング
12 ヒーター(加熱器)
13 ファン(送風機)
14 濃度センサ
15 ECU(制御機)
16 VOC吸着剤
20 チャンバー
A VOC低減対象物(部品及び材料等)