加工対象物の内部に割断予定線に沿って、第1のレーザにより、可視光および近赤外光に対して少なくとも透明である第1の領域であって、前記加工対象物に対して屈折率が変化している第1の領域を形成する第1の工程と、
前記加工対象物の内部において、第2のレーザを前記第1の領域の少なくとも一部を含む領域または前記第1の領域の近傍の領域に照射することによって、前記第1の工程時よりも一時的に高い光吸収率を有する第2の領域を形成する第2の工程と、
前記一時的に光吸収率が高くなった第2の領域の光吸収率が元に戻る前に、前記加工対象物に対して透明な第3のレーザを前記一時的に光吸収率が高くなった第2の領域に照射することによって、前記一時的に光吸収率が高くなった第2の領域に前記第3のレーザを吸収させて、前記割断予定線に沿って前記加工対象物を割断する第3の工程と
を有することを特徴とするレーザによる割断方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0020】
本発明の一実施形態では、加工対象物(例えば、基板)の内部に切断の起点部(切断が始まる場所)を形成するために、第1のレーザを加工対象物の内部に集光させて、加工対象物の内部に改質領域を割断予定線に沿って複数形成する。このとき、改質領域は、割断予定線に沿って連続的に形成しても良いし、断続的に形成しても良い。次いで、加工対象物の内部に、加工対象物の改質領域以外の領域(非改質領域)の光吸収率よりも高い光吸収率を有する領域(以下、“光吸収率増加領域”と呼ぶ)を一時的に形成するために、多光子吸収は生じるが、溶融は起こらないような条件で第2のレーザを、加工対象物の内部において、上記改質領域の少なくとも一部を含む領域、またはその近傍の領域に集光させて、上記光吸収率増加領域を上記割断予定線に沿って複数形成する。この光吸収率増加領域についても割断予定線に沿って連続的に形成しても良いし、断続的に形成しても良い。次いで、上記光吸収率増加領域において、上記起点部からの切断を始めさせる熱膨張を発生させるために、非改質領域に対しては透明であり、かつ上記光吸収率増加領域では吸収される第3のレーザを、加工対象物に照射して、上記光吸収率増加領域に該第3のレーザを吸収させて該光吸収率増加領域を加熱し、該加熱により生じた熱膨張により、上記割断予定線に沿って加工対象物を切断する。
【0021】
このように、本発明の一実施形態では、第1のレーザにより加工対象物の内部に、少なくとも可視光および近赤外光には透明である改質領域を形成し、さらには第2のレーザにより一時的に光吸収率が高くなっている光吸収率増加領域を形成し、該光吸収率増加領域が生じている状態が続いている間に第3のレーザを加工対象物に入射することにより、加工対象物内部を局所的に加熱することができ、該局所的な加熱により上記改質領域を起点として加工対象物を切断する。よって、加工対象物のレーザ光の入射面において、レーザ光によって形成される熱源が発生することを抑制することができる。また、上記切断された加工対象物の切断面、および/または切断面の近傍に位置する上記領域は少なくとも可視光および近赤外光に対して透明であるので、上記切断面に少なくとも可視光および近赤外光に対して不透明な領域が形成されることを低減することができる。さらには、改質領域形成のための第1のレーザを照射しても不透明な領域の形成を低減することができるので、切断面において、組成比の変化を小さくすることができる。
【0022】
なお、本発明では、一時的に光吸収率が高くなり、所定のレーザ光を吸収するようになるが、所定時間経過すると光吸収率が元に戻る光吸収率増加領域を加工対象物の内部に形成することが本質の1つである。すなわち、光吸収率増加領域における第3のレーザによる熱変形(例えば、熱膨張)を改質領域に作用させて、該改質領域を起点として加工対象物を切断することが重要なのである。従って、上記熱変形が改質領域を起点とした切断に作用することができれば、光吸収率増加領域の少なくとも一部と改質領域の少なくとも一部とが重なっても良いし、光吸収率増加領域と改質領域とが離れて形成されても良い。
【0023】
本発明において「改質領域」とは、可視光および近赤外光に対しては少なくとも透明であり、該改質領域の周囲(非改質領域)に対して屈折率が変化している領域である。該改質領域は、好ましくは、溶融によって形成された領域ではなく、上記非改質領域に対してほとんど組成変化が起こっていない領域である。なお、本実施形態の改質領域として求められことの1つは、少なくとも可視光、近赤外光に対して透明であることであるので、改質領域は、可視光および近赤外光を少なくとも透過するような組成であれば、元の組成(非改質領域の組成)から変化しても良い。
【0024】
例えば、本発明の一実施形態に係る改質領域は、上記第1のレーザによって加工対象物の内部に形成されたクラックを含む場合がある。この場合、該クラックの周囲の領域は、非改質領域に対して屈折率が変化しているので、このようなクラックを含む、屈折率が変化した領域が改質領域となる。また、本発明の一実施形態では、改質領域は、クラックのように微小の空洞にならない程度のヒビを含む場合もある。この場合においても、ヒビおよびその周辺部は、非改質領域に対して屈折率が変化しているので、ヒビを含む、屈折率が変化した領域が改質領域となる。
【0025】
また、本発明において「光吸収率増加領域」とは、第2のレーザ光が所定の条件で照射されることにより一時的に形成される領域であって、上記所定の条件の第2のレーザ光が照射されてから所定時間(所定期間)だけ一時的に、第3のレーザ光に対する吸収率が増加する領域である。よって、光吸収率増加領域は、上記所定時間過ぎると、元の状態に戻る。
【0026】
加工対象物中の光吸収率増加領域とすべきある領域に着目すると、該ある領域に第2のレーザ照射が照射されると、上記所定時間中は第3のレーザ光に対する光吸収率が高くなった光吸収率増加領域となる。その後所定時間過ぎると、元の状態、すなわち上記ある領域に戻る。よって、例えば、上記ある領域が改質領域に含まれる領域である場合、第2のレーザ光の照射により一時的に光吸収率増加領域となり、該光吸収率増加領域に第3のレーザ光が照射されることにより、該光吸収率増加領域が第3のレーザ光を吸収して加熱される。該加熱により光吸収率増加領域において熱変形(例えば、熱膨張)が起き、該熱変形によって改質領域を起点に切断が起こることになる。しかしながら、上記光吸収率増加領域は所定時間が過ぎると、改質領域に含まれる領域、すなわち元の状態に戻る。上記ある領域が非改質領域でも同様のことが言える。よって、光吸収率増加領域となるある領域は、第2のレーザ光が照射されてからの所定時間以外では、元の領域、すなわち、改質領域、非改質領域、またはそれらが混在する領域である。従って、光吸収率増加領域となるある領域は、第2のレーザ光が照射されてからの所定時間以外では、可視光および近赤外光に対しては少なくとも透明であり、非改質領域とは組成比が変わらない、あるいはほとんど変わらない。
なお、本発明において「所定時間」とは、加工対象物の内部の一領域が、所定の条件で入射した第2のレーザによって光吸収率増加領域となった時から、該光吸収率増加領域から元の状態に戻るまでの期間である。すなわち、光吸収率増加領域の形成が継続されている期間である。
【0027】
上述から分かるように、本発明の一実施形態においては、第1のレーザにより、可視光および近赤外光に対して少なくとも透明である改質領域を形成し、第2のレーザにより、第3のレーザに対して光吸収率を一時的に増加させて元に戻る光吸収率増加領域を形成し、第3のレーザにより光吸収率増加領域にて該第3のレーザ光を吸収させて加工対象物内部を局所的に加熱し、該加熱の影響により改質領域を起点として、加工対象物を切断する。これを実現できるようなレーザを第1〜第3のレーザとして選択することが本発明において重要である。
【0028】
本発明の一実施形態では、第1のレーザおよび第2のレーザとして超短パルスレーザを用いることが好ましく、フェムト秒レーザを用いることがさらに好ましい。第1のレーザおよび第2のレーザとしてフェムト秒レーザを用いる場合は、パルス幅が30ps以下であることが好ましく、20ps以下であることがさらに好ましく、さらには10fs以上、20ps以下であることが好ましい。
【0029】
第1のレーザとしてフェムト秒レーザを用いることにより、加工対象物の内部において、可視光および近赤外光に対して少なくとも透明であり、組成比が非改質領域とほとんど変わらないような領域であって、クラックやヒビといった切断の起点となるものが含まれた領域、すなわち本発明の改質領域を形成することができる。本発明では、第1のレーザ光としては、上述のようなフェムト秒レーザ等、レーザ焦点およびその周辺部を熱により溶融しないような超短パルスレーザ、すなわち、本発明の改質領域を加工対象物内に形成可能な超短パルスレーザであればいずれのレーザを用いても良い。
【0030】
また、第2のレーザとしてフェムト秒レーザを用いることにより、加工対象物の内部において、第3のレーザ(例えば、ナノ秒レーザ、またはサブナノ秒レーザ)に対する光吸収率が非改質領域よりも高い領域(光吸収率増加領域)を一時的に形成することができる。本発明では、第2のレーザ光としては、上述のようなフェムト秒レーザ等、多光子吸収は起こるが、レーザ焦点およびその周辺部を熱により溶融しないような条件により、加工対象物の一部を本発明の光吸収率増加領域にすることが可能な超短パルスレーザであればいずれのレーザを用いても良い。
【0031】
さらに、本発明の一実施形態では、第3のレーザとして、第1および第2のレーザよりもパルス幅が広い短パルスレーザを用いることが好ましく、パルス幅が100ps以上、1μs以下の短パルスレーザを用いることがさらに好ましく、さらには100ps以上、20ns以下の短パルスレーザを用いることが好ましい。例えば、第3のレーザとして、ナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザを用いることができる。第3のレーザとしてナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザを用いることにより、第2のレーザとしてフェムト秒レーザを用いて加工対象物内に光吸収率増加領域を形成した場合、該光吸収率増加領域を局所的に加熱することができる。本発明では、第3のレーザ光としては、上述のようなナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザ等、形成された光吸収率増加領域にて吸収される波長帯を有するレーザであって、非改質領域に対しては透明、またはほぼ透明であるレーザであればいずれのレーザを用いても良い。
【0032】
さらに、本発明の一実施形態では、加工対象物の例としては、GaN、SiC、サファイア等が挙げられる。ただし、本発明の一実施形態では加工対象物の材料としてはこれら材料に限定されないことは言うまでも無い。すなわち、第1のレーザにより本発明の改質領域を形成し、第2のレーザにより光吸収率増加領域を形成し、第3のレーザを光吸収率増加領域にて吸収させて生じた熱変形により、改質領域を起点として切断される材料であれば、いずれの材料を用いることができる。
【0033】
(第1の実施形態)
図2は、本実施形態に係るレーザ割断装置20の模式図である。
レーザ割断装置20は、第1のレーザおよび第2のレーザとしてのフェムト秒レーザ、第3のレーザとしてのナノ秒レーザをそれぞれ単一に出射することができ、かつ第2のレーザおよび該第2のレーザのパルスから所定時間だけ遅延した第3のレーザとを空間的に重畳して出射することが可能なレーザ光発生装置21を備えている。該レーザ光発生装置21は、光源22、1/2波長板23、偏光ビームスプリッタ(PBS)24、ミラー25、遅延回路26、および1/2波長板27を有している。
【0034】
光源22は、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザをそれぞれ単独で発振することもできるし、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同期して発振することもできるように構成されている。該光源22は、フェムト秒レーザを発振する短パルス光源22aと、ナノ秒レーザを発振する長パルス光源22bとを有する。
【0035】
短パルス光源22aの、レーザの進行方向の後流側には1/2波長板23が設けられおり、該1/2波長板23の後流側にPBS24が設けられている。本実施形態では、短パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザが、PBS24に対してP偏光で入射するように1/2波長板23は構成されている。従って、短パルス光源22aから出力されたフェムト秒レーザは、1/2波長板23にてP偏光になり、PBS24をそのまま透過する。
なお、本明細書においては、光源22から出力されたレーザの進行方向の後流側を単に“後流側”と呼び、光源22から出力されたレーザの進行方向の上流側を単に“上流側”と呼ぶことにする。
【0036】
長パルス光源22bの後流側には、ミラー25、遅延回路26、および、1/2波長板27がこの順番で設けられており、ミラー25にて反射された、長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザが、遅延回路26および1/2波長板27を介してPBS24に入射するように、ミラー25、遅延回路26、および1/2波長板27は位置決めされている。本実施形態では、長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザが、PBS24に対してS偏光で入射するように1/2波長板27は構成されている。従って、1/2波長板27の上流側から入射されたナノ秒レーザは、1/2波長板27にてS偏光になり、PBS24にて反射されてPBS24の後流側に出射される。
【0037】
本実施形態では、PBS24は、短パルス光源22aおよび長パルス光源22bのそれぞれの後流側に設けられ、短パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザと長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザとを同一の方向から出射しているので、短パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザと長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザとの合波手段としても機能することができる。
【0038】
本実施形態では、短パルス光源22aおよび長パルス光源22bからフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同期して発振した場合に、長パルス光源22bから発振されたあるナノ秒レーザパルスが、該あるナノ秒レーザパルスと同期して発振された長パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザパルスよりも所定時間遅延してPBS24に入射するように、遅延回路26は構成されている。なお、上記所定時間は、第2のレーザとしてフェムト秒レーザを加工対象物に入射して生じた光吸収率増加領域の形成が持続する期間(例えば、数10ns以内の時間)である。従って、短パルス光源22aからのフェムト秒レーザの発振と長パルス光源22bからのナノ秒レーザの発振とを同期して行うと、あるフェムト秒レーザパルス28aと該フェムト秒レーザパルス28aと同期して発振されたナノ秒レーザパルス28bとは、PBS24から上記所定時間だけ時間的にずれて出射される。すなわち、PBS24からは、フェムト秒レーザパルス28aから上記所定時間だけ遅れてナノ秒レーザパルス28bが出射される。
【0039】
PBS24の後流側には、出力減衰器29およびビーム径調整器30がこの順番で配置されている。従って、PBS24から出射された、フェムト秒レーザの単体、ナノ秒レーザ単体、またはフェムト秒レーザとナノ秒レーザとが合波されたものは、出力減衰器29にて所望に応じて出力が減衰され(エネルギーが調節され)、ビーム径調整器30にて所望のビーム径に調整されて後流側に出射される。
【0040】
ビーム径調整器30の後流側には、短パルス光源22aから出射されたフェムト秒レーザおよび長パルス光源22bから出射されたナノ光レーザの双方は反射し、可視光は透過するように構成されたダイクロイックフィルタ31、レンズ32、およびXYZステージ33がこの順番で設けられている。従って、ビーム径調整器30から出射された、フェムト秒レーザの単体、ナノ秒レーザ単体、またはフェムト秒レーザとナノ秒レーザとが合波されたものは、ダイクロイックフィルタ31にて反射され、レンズ32を介してXYZステージ33に保持された加工対象物に入射する。
なお、XYZステージ33のX軸およびY軸はXYZステージ33の加工対象物を設置するための設置面の面内方向にあり、Z軸は該設置面の法線方向である。XYZステージ33は、上記設置面上に設置された加工対象物34を、X軸、Y軸、Z軸に沿って所望に応じて移動できるように構成されている。
また、本実施形態では、レンズ32により集光された可視光の焦点と、レンズ32により集光されたフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザの焦点とは一致している。
【0041】
XYZステージ33の設置面と対向して、CCDカメラ35が設けられている。該CCDカメラ35は可視光を発振する可視光光源を有しており、該可視光光源から発振された可視光がダイクロイックフィルタ31を介してXYZステージ33に保持された加工対象物34に入射し、該加工対象物34にて反射された可視光がダイクロイックフィルタ31を介してCCDカメラの撮像素子に入射するように、CCDカメラ35、ダイクロイックフィルタ31、レンズ32、XYZステージ33が位置決めされている。
【0042】
XYZステージ33およびCCDカメラ35には、XYZステージ33およびCCDカメラ35を制御する制御部36が電気的に接続されている。この制御部36は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU、およびこのCPUによって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM、CPUの処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM、およびフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリなどを有する。また、制御部36には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部37、XYZステージ33の入力・設定状態、CCDカメラ35の撮像画像などをはじめとする種々の表示を行う表示部38(例えば、ディスプレイ)が接続されている。なお、上記制御部36は、出力減衰器29の減衰率を調節するように構成されていても良い。
【0043】
図3は、本実施形態に係る光源22の構成を示す図である。
図3において、短パルス光源22aは、発振器201、パルス間引き器202、分岐カカプラ203、ストレッチャ204、予備増幅器205、増幅器206、パルス圧縮器207、およびシャッター208を備えている。一方、長パルス光源22bは、ストレッチャ209、予備増幅器210、増幅器211、およびシャッター212を備えている。
なお、シャッター208はパルス圧縮器207から出射されたフェムト秒レーザが照射されても破壊されないように構成されている。同様に、シャッター212は増幅器211から出射されたナノ秒レーザが照射されても破壊されないように構成されている。
【0044】
図3において、50MHz、100fsのレーザ光を発振する発振器201の後流側は、パルス間引き器202が光ファイバを介して接続されており、パルス間引き器202は、発振器201から入射された50MHz、100fsのレーザ光を500kHz、100fsのレーザ光に変換して後流側に出射する。パルス間引き器202の後流側は、3dBカプラである分岐カプラ203が光ファイバを介して接続されており、分岐カプラ203の出力端の一方には光ファイバを介してストレッチャ204が光ファイバを介して接続されており、他方にはストレッチャ209が光ファイバを介して接続されている。
【0045】
ストレッチャ204は、分岐カプラ203の一方の出力端から出射された、500kHz、100fsのレーザ光を、500kHz、100psのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ204の後流側は、予備増幅器205が光ファイバを介して接続されており、該予備増幅器205の後流側は、増幅器206が光ファイバを介して接続されており、該増幅器206の後流側は、光ファイバを介してパルス圧縮器207が光ファイバを介して接続されている。該パルス圧縮器207は、増幅器206から出射された500kHz、500fsのレーザ光に変換し、該500kHz、500fsのレーザ光は、短パルス光源22aの出射端213から出射される。このようにして、短パルス光源22aは、500kHz,500fsのフェムト秒レーザを出射することができる。このとき、パルス圧縮器207の後流側には矢印方向Pに移動可能なシャッター208が設けられているので、短パルス光源22aは、シャッター208の開閉動作により、フェムト秒レーザの発振をオン、オフすることができる。
【0046】
このように、本実施形態では、分岐カプラ203の一方の出力端と出射端213とを光学的に接続する第1の経路に含まれる各構成要素を分岐カプラ203の一方の出力端から出射されたレーザが通過することにより、該レーザが出射すべきフェムト秒レーザに変換される。
【0047】
一方、ストレッチャ209は、分岐カプラ203の他方の出力端から出射された、500kHz、100fsのレーザ光を、500kHz、1nsのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ209の後流側は、予備増幅器210が光ファイバを介して接続されており、該予備増幅器210の後流側は、増幅器211が光ファイバを介して接続されている。増幅器211から出射された500kHz、1nmのレーザ光は、長パルス光源22bの出射端214から出射される。従って、長パルス光源22bは、500kHz、1nsのナノ秒レーザを出射することができる。このとき、増幅器211の後流側には矢印方向Pに移動可能なシャッター212が設けられているので、短パルス光源22bは、シャッター212の開閉動作により、ナノ秒レーザの発振をオン、オフすることができる。
【0048】
このように、本実施形態では、分岐カプラ203の他方の出力端と出射端214とを光学的に接続する第2の経路に含まれる各構成要素を分岐カプラ203の他方の出力端から出射されたレーザが通過することにより、該レーザが出射すべきナノ秒レーザに変換される。
【0049】
本実施形態では、分岐カプラ203の一方の出力端から出射されたレーザ光が短パルス光源22aの出射端213まで通過する第1の経路の光路長と、分岐カプラ203の他方の出力端から出射されたレーザ光が長パルス光源22bの出射端214まで通過する第2の経路の光路長とが同一に設定されている。従って、単一の発振器201から出射された単一のレーザ光を分岐して、互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザとして発振することができる。なお、光路長の調整は、例えば、各構成要素間に設けられた光ファイバの長さおよび屈折率の少なくとも一方を適宜変えることによって行えば良い。
【0050】
また、本実施形態では、短パルス光源22aおよび長パルス光源22bがそれぞれ、シャッター208、212を備えているので、シャッター208、212の開閉の組み合わせにより、光源22は、フェムト秒レーザ単体、およびナノ秒レーザ単体で出射することができ、さらにはフェムト秒レーザと該フェムト秒レーザと同期したナノ秒レーザとを同時に出射することができる。シャッター208、212の開閉制御は、制御部36が行っても良い。
【0051】
なお、本実施形態では、予備増幅器205、210に、入射されるレーザ光をオン、オフするスイッチ機能を持たせても良い。この場合は、予備増幅器205、210がそれぞれ、上流側から入射された光を遮断することができるので、予備増幅器205、210のオン、オフを制御することで、光源22から出射されるレーザ光の選択を行うことができる。例えば、予備増幅器205、210を共にオン状態とすれば、光源22からは互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザが出射され、予備増幅器205をオン状態とし、予備増幅器210をオフ状態とすれば、光源22はフェムト秒レーザのみを出射する。同様に、予備増幅器205をオフ状態とし、予備増幅器210をオン状態とすれば、光源22はナノ秒レーザのみを出射する。
【0052】
また、分岐カプラ203を、分岐比可変機能を有する分岐カプラにしても良い。この場合、互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを出射する場合は、分岐カプラ203の一方の出射端と他方の出射端との分岐比を、50:50にし、フェムト秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を100:0にし、ナノ秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を0:100とすれば良い。
【0053】
このような構成により、短パルス光源22a、長パルス光源22b、1/2波長板23、PBS24、ミラー25、遅延回路26、および1/2波長板27を備えるレーザ光発生装置は、第1〜第3のレーザを単体で発振することができ、かつ第2および第3のレーザを時間的、空間的に重畳して発振することができる。
【0054】
次に、所定のレーザ光の焦点を加工対象物の内部の所定の位置に設定する方法の一例を説明する。
レンズ32により集光される焦点を加工対象物34の表面に設定する場合、制御部36は、CCDカメラ35から可視光を照射した状態で、加工対象物34が設定されたXYZステージ33をZ軸方向に移動させながら、CCDカメラ35にて撮像データを取得するように、XYZステージ33およびCCDカメラ35を制御する。制御部36は、上記CCDカメラ35にて取得された各撮像データに基づいて、可視光のレンズ32を介した焦点が加工対象物34の表面と一致する時の、XYZステージ33の位置を取得し、この位置を基準位置として、制御部36のRAMに記憶される。よって、制御部36は、レンズ32から集光される焦点が加工対象物34の表面と一致する場合に対応するXYZステージ33のZ軸方向の位置を基準位置として保持することになる。なお、この基準位置は、レンズ32が同一の位置に設けられ、加工対象物の厚さが、上記測定のものと同一である場合には流用できる。
【0055】
加工対象物34の内部の所定の位置にレンズ32を介したフェムト秒レーザやナノ秒レーザの焦点を設定する場合は、上記基準位置を用いてXYZステージ33のZ軸方向の位置を変動させる。例えば、加工対象物34の表面からxμmの位置に上記焦点を設定したい場合は、ユーザが入力操作部37により、加工対称物34の表面から焦点までの距離に関する焦点距離情報としてxμmを入力し、さらに加工対象物34の屈折率を入力する。制御部36は、RAMに格納された基準位置に基づいてXYZステージ33を移動させ、加工対象物34の表面がレンズ32からの焦点と一致するようにする。次いで、制御部36は、ユーザから入力された焦点距離情報および加工対象物34の屈折率に基づいて、入力された屈折率におけるxμmの対応距離を演算し、該演算結果に基づいて、加工対象物34の表面から内部に向かってxμmの位置に焦点位置が来るように上記基準位置から所定距離だけ下方(Z軸方向であって、レンズ32から遠ざかる方向)にXYZステージ33を移動させる。これにより、レンズ32から集光したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザの焦点は、加工対象物34の内部の所定の場所に位置することになる。
【0056】
以下で、本実施形態に係る、加工対象物の割断方法を説明する。
図4は、本実施形態に係る、加工対象物のレーザによる割断方法の手順を示す図である。
まずは、ステップS41において、第1のレーザであるフェムト秒レーザ(超短パルスレーザ;例えば、10fs−30ps)を(レーザにとって)透明な加工対象物34内部に集光点を持つように照射する事により、加工対象物34内部に改質領域を形成する。この改質領域は、切断したいラインである割断予定線にそって連続的もしくは断続的に形成され、加工対象物34の表面からの深さ方向に対して複数の深さにラインを形成する事もできる。この改質領域のラインが加工対称物の割断の為の起点となる。この時の光密度は例えば加工対象物34がサファイアの場合、時間幅:500fs、波長:1.04μmのレーザ光を用いて、NA=0.65の集光レンズ32でおよそ1.5μmのスポット径に集光した場合、クラック形成に必要なエネルギーはおよそ>0.05μJである。この時形成された改質領域はフェムト秒レーザ照射時に発生する内部応力によるクラックもしくは残留応力により形成される屈折率が変化した領域であり、いわゆる溶融領域ではない。このフェムト秒レーザで改質された領域に多光子吸収を起こさない程度のエネルギー密度のレーザを照射しても改質領域はレーザ光を吸収せず、それ以上の変化は起こらない。
【0057】
図5(a)において、符号51は、割断予定線であり、該割断予定線51に沿って加工対象物34を切断する。なお、本明細書において、割断予定線とは、仮想的な線であっても良いし、加工対象物34の表面に実際に書かれた線であっても良い。
【0058】
本実施形態では、ユーザが入力操作部37により、改質領域を形成すべき深さ(加工対象物の表面から内部に向かった距離)および加工対象物34の屈折率が入力されると、制御部36は、RAMに格納された基準位置および上記ユーザ入力に基づいて、XYZステージ33を移動させ、加工対象物34の内部の所定の位置にレンズ32による焦点が位置するようにXYZステージ33を制御する。これと共に、制御部36は、シャッター208を開け、シャッター212を閉じるようにシャッター208、212を制御する。従って、このときは光源22からはフェムト秒レーザのみが出射されることになる。次いで、制御部36が、割断予定線51に沿ってレーザが走査されるようにYXZステージ33を移動させることにより、
図5(b)に示すように、加工対象物34の内部において、割断予定線に沿った改質領域52を形成することができる。本実施形態では、改質領域52にはクラックが含まれている。なお、上記レーザ走査の際にシャッター208を開放し続ければ、改質領域52のラインは割断予定線に沿って連続的に形成される。一方、上記レーザ走査の際にシャッター208を断続的に開閉すれば、改質領域52のラインは割断予定線に沿って断続的に形成される。
【0059】
ステップS42では、ステップS41により形成された改質領域52のラインもしくはその近辺に、光吸収率増加領域を形成するために、固体内部プラズマを発生させるのに十分なエネルギーを持った第2のレーザであるフェムト秒レーザ(超短パルスレーザ;例えば、10fs−30ps)を照射する。この時、第2のレーザのエネルギー密度は必ずしも材料を改質する程のエネルギー(改質領域を形成するほどのエネルギー)を持つ必要は無く、固体内部プラズマもしくは光イオン化現象を誘起する程度のエネルギーが有ればよい。例えば時間幅:500fs、波長:1.04μmのレーザ光を用いて、NA=0.65の集光レンズ32でおよそ1.5μmのスポット径に集光した場合はおよそ>0.01μJである。この時、固体内部プラズマもしくは光イオン化の自己吸収(アバランシェ吸収)により、透明材料の光吸収率は一時的に上がる。内部プラズマもしくは光イオン化は光子密度の濃い領域でのみ発生する為、透明材料に対して局所的に光吸収率の大きい部分を形成するのがステップS42の目的である。このプラズマもしくは光イオン化による吸収率上昇の持続時間はおよそ〜30ns程度(溶融石英、120fs,800nmのレーザ照射時)である事が非特許文献1に記載されている。
【0060】
本実施形態では、ユーザが入力操作部37により、光吸収率増加領域を形成すべき深さが入力されると、制御部36は、RAMに格納された基準位置および上記ユーザ入力に基づいて、XYZステージ33を移動させ、加工対象物34の内部の所定の位置にレンズ32による焦点が位置するようにXYZステージ33を制御する。例えば、ユーザが改質領域52よりも浅い位置に光吸収率増加領域が形成されるような深さを入力すると、制御部36は、レンズ32からの焦点が改質領域52の形成時よりも浅い領域に位置するようにXYZステージ33を制御する。次いで、制御部36が、短パルス光源22aから発振されているフェムト秒レーザが、多光子吸収は起こるが、レーザ焦点およびその周辺部を熱により溶融しないようなエネルギーまでレーザ出力が減衰されるように出力減衰器29を制御し、割断予定線51に沿ってレーザが走査されるようにYXZステージ33を移動させる。これにより、
図6に示すように、改質領域52の直上において、割断予定線51に沿って光吸収率増加領域53が形成される。なお、上記レーザ走査の際にシャッター208を開放し続ければ、光吸収率増加領域53のラインは割断予定線に沿って連続的に形成される。一方、上記レーザ走査の際にシャッター208を断続的に開閉すれば、光吸収率増加領域53のラインは割断予定線に沿って断続的に形成される。
【0061】
ステップS43では、ステップS42により局所的に形成された吸収領域(光吸収率増加領域53)に対して、該吸収領域の光吸収率が元に戻る前に、第3のレーザとしてのナノ秒レーザを光吸収率増加領域に入射させる。なお、第3のレーザは、第2のレーザと空間的および/または時間的にオーバーラップすることが好ましい。第3のレーザであるナノ秒レーザ(加工対象物に対して透明なレーザ)を照射する事により、第3のレーザは材料の表面では吸収されずに、ステップS42で励起した領域(光吸収率増加領域)のみで吸収されることになり、加工対象物34の内部を局所的に加熱する事ができる。それにより加工対象物34の内部の切断予定線51近辺に極端な温度勾配を作る事ができる。この時、第3のレーザのエネルギーは材料に熱膨張は与えるが、溶融領域を発生させないエネルギーに調整しておく。ステップS43とステップS42とは時間的に同時もしくはステップS42から〜10ns以内に実施する必要がある。第3のレーザの時間幅は、材料に効率的に熱を与える事ができ、かつ光による電子励起→格子振動→熱拡散が進むまで光照射が持続している事が望ましく、その為第3のレーザの時間幅は>100ps以上が望ましい。
【0062】
本ステップでは、制御部36の制御により、シャッター208が開いた状態で、シャッター212を開ける。これにより、光源22からはフェムト秒レーザおよび該フェムト秒レーザと同期したナノ秒レーザが同時に発振される。長パルス光源22bとPBS24との間には遅延回路26が設けられているので、PBS24から、光源22から同期して出射されたフェムト秒レーザ(第2のレーザ)に対して、上記所定時間だけ遅延したナノ秒レーザ(第3のレーザ)を出射することができる。よって、加工対象物34の内部の所定の領域には、第2のレーザとしてのフェムト秒レーザが入射されて光吸収率増加領域53が形成され、所定時間経過する前に該光吸収率増加領域53に第3のレーザとしてのナノ秒レーザが入射される。よって、光吸収率増加領域53がナノ秒レーザを吸収することになり、該光吸収率増加領域53が加熱される。これにより、光吸収率増加領域53と改質領域52に含まれるクラックとの間に極端な温度勾配が生じる。すなわち、光吸収率増加領域53が熱膨張することになり、該熱膨張によりクラック部分を広げるような応力がクラックに働き、該応力によりクラックを起点とした切断が起こる。これにより、割断予定線51に沿って加工対象物34は切断される。
【0063】
以上のステップによりステップS41で形成した改質領域52近辺のみに極端な温度勾配を発生する事ができ、ステップS41で形成したクラック等を含む改質領域52を起点として材料を切断する事ができる。その為、従来のように材料切断の為にフェムト秒レーザによる改質層形成+外部機械的応力によるブレークという2段階のプロセスを必要とせず、レーザ照射のみによる切断が可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、レーザ光を吸収して改質領域を起点とした切断を起こさせる熱変形が起こる光吸収率増加領域53は、所定時間経過すると元の状態に戻る。該元の状態は、非改質領域、改質領域、またはそれが混在する領域であるが、いずれにしても可視光および近赤外光に対しては少なくとも透明な領域であるので、加工対象物の切断後において、切断された加工対象物の切断面、内部において、可視光および近赤外光に対して少なくとも不透明な領域の発生を低減することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、第1から第3のレーザはシングルビームではなく、例えば深さ方向に3つの焦点を持つマルチビーム(DOE等を用いて)にしておく事も可能である。
【0066】
又、加工対象物の材料の割れやすさによってはステップS42での第2のレーザ(超短パルスレーザ)のエネルギーを改質領域ができる程度のエネルギーに調整する事により、ステップS41を省略しても良い。
【0067】
このように本実施形態によれば、第2レーザ照射により、加工対象物内部に局所的に光吸収領域(光吸収率増加領域)を形成しその部分だけを熱する事ができる為、第3のレーザにより形成される熱源71は内部にある。その為、
図7に示すように熱拡散により、加工対象物34の表面に所定の堆積薄膜72が形成さている場合、該堆積薄膜72に熱ダメージを与える事が無い、あるいは該堆積薄膜72への熱ダメージを軽減することができる。なお、
図7において、符号71aはレーザ照射点付近の最も温度が高い加熱領域であり、符号71bは加熱領域71aを囲むように形成された加熱領域71aよりも温度が低い加熱領域であり、符号71cは加熱領域71bを囲むように形成された加熱領域71bよりも温度が低い加熱領域である。
特許文献1の方法では熱源の位置が表面に限定されており、改質層から熱源までの距離が場合によっては遠くなるために、効果が薄い。それに対して本実施形態では改質領域の直近に熱勾配を作る事ができる為に熱勾配により与える応力を大きくすることができる。
特許文献2の方法では、改質層が恒常的に光吸収性を持つ必要があるが、本実施形態では、一時的に光吸収率が高くなり所定時間経過後には元に戻る光吸収率増加領域を形成しているので、材料の組成を大きく変化させずに材料を切断する事が可能である。すなわち、第2のレーザにより熱源71を発生させるための領域を形成しているので、加工対象物内のある領域を、切断のときだけ一時的に、切断のための熱に寄与する第3のレーザ光を吸収するような領域とし、それ以外では可視光および近赤外光に対して少なくとも透明な領域とすることができる。
【0068】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、改質領域の形成箇所を、加工対象物の深さ方向(Z軸方向)においては1箇所に設定しているが、
図8に示すように、改質領域83を、加工対象物34の表面(レンズ32側の面)81から裏面(XYZステージ33の設置面側の面)82に向かって連続的に形成しても良い。
図8において、符号84は光吸収率増加領域であり、符号85は第3のレーザが照射されて加熱される領域である。
【0069】
この場合は、制御部36は、CCDカメラ35により、加工対象物34の表面を検知する方法と同様にして、可視光のレンズ32を介した焦点が加工対象物34の裏面82と一致する時の、XYZステージ33の位置(裏面位置)を取得する。次いで、制御部36は、XYZステージ33を裏面位置に移動させて、レンズ32を介した焦点を裏面82に一致させ、この状態からXYZステージ33を所定の速さで下降させ(表面81から裏面82に向かう方向に移動させ)、これと共にフェムト秒レーザを加工対象物34に入射させる。
【0070】
制御部36は、加工対象物34の厚さ分だけXYZステージ33が下降したときに、レンズ32を介した焦点が表面81に一致したと判断し、X−Y軸において割断予定線に沿って所定距離だけXYZステージ33を移動させ、かつ裏面位置となるようにXYZステージ33を移動させる。次いで、上述と同様にして、裏面82から表面81に向かってフェムト秒レーザを連続的に走査して、裏面82から表面81に向かって連続的に改質領域83を形成する。
【0071】
また、
図9に示すように、改質領域91を、加工対象物34の表面81から裏面に向かって断続的に形成しても良い。
この場合は、裏面位置に位置するXYZステージ33を下降に移動させながらフェムト秒レーザを加工対象物34に照射する際、シャッター208の開閉を断続的に行うように制御部36を構成すれば良い。
【0072】
(第3の実施形態)
本実施形態では、
図2に示す構成において、出力減衰器29の上流側に設けられたレーザ光発生装置は、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同一の出射端から出射する光源100を備えている。
図10において、50MHz、100fsのレーザ光を発振する発振器301の後流側は、パルス間引き器302が光ファイバを介して接続されており、パルス間引き器302は、発振器301から入射された50MHz、100fsのレーザ光を500kHz、100fsのレーザ光に変換して後流側に出射する。パルス間引き器302の後流側は、3dBカプラである分岐カプラ303が光ファイバを介して接続されており、分岐カプラ303の出力端の一方には光ファイバを介してストレッチャ304が光ファイバを介して接続されており、他方にはストレッチャ307が光ファイバを介して接続されている。
【0073】
ストレッチャ304は、分岐カプラ303の一方の出力端から出射された、500kHz、100fsのレーザ光を、500kHz、100psのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ304の後流側は、入射された光をオン、オフする機能を有する予備増幅器305が光ファイバを介して接続されている。該予備増幅器305のオン、オフの切り替えを制御部36が行っても良い。該予備増幅器305の後流側は、増幅器306が光ファイバを介して接続されている。増幅器306は2つの入力端を有しており、一方の入力端が予備増幅器305に接続されている。
【0074】
一方、ストレッチャ307は、分岐カプラ303の他方の出力端から出射された、500kHz、100fsのレーザ光を、500kHz、1.1nsのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ307の後流側は、入射された光をオン、オフする機能を有する予備増幅器308が光ファイバを介して接続されている。該予備増幅器308のオン、オフの切り替えを制御部36が行っても良い。該予備増幅器308の後流側は、増幅器306の他方の入力端が光ファイバを介して接続されている。
【0075】
上述のように本実施形態では増幅器306が2つの入力端を有しているので、該増幅器306が分岐カプラ303にて分岐された光を合波する合波手段としても機能する。よって、増幅器306は、光源300から発振すべきフェムト秒レーザの元となる500kHz、100psのレーザ光と、光源300から発振すべきナノ秒レーザの元となる500kHz、1.1nsのレーザ光とを増幅して後流側に出射する。
【0076】
増幅器306の後流側は、光ファイバを介してパルス圧縮器309が光ファイバを介して接続されている。該パルス圧縮器309は、100ps分のチャープが補正されるように構成されている。よって、該パルス圧縮器309に入射した100psパルスはフェムト秒まで圧縮されるが、1.1nsパルスは1nsまでしか圧縮されない。従って、パルス圧縮器309は、増幅器306から出射された500kHz、100psのレーザ光を500kHz、500fsのフェムト秒レーザに変換して出射し、増幅器306から出射された500kHa、1.1nsのレーザ光を500kHz、1nsのナノ秒レーザに変換して出射する。
【0077】
本実施形態では、単一の発振器301から出射されたレーザ光を、第1および第2の経路に分岐して合波しているが、第1の経路では発振器301からのレーザ光を光源300から出射すべきフェムト秒レーザの元となるレーザに変換し、第2の経路では発振器301からのレーザ光を光源300から出射すべきナノ秒レーザの元となるレーザに変換する。なお、発振器301から出射したレーザ光をフェムト秒レーザに変換するための第1の経路は、分岐カプラ303とストレッチャ304とを接続する光ファイバ310、ストレッチャ304、ストレッチャ304と予備増幅器305とを接続する光ファイバ311、予備増幅器305、および予備増幅器305と増幅器306とを接続する光ファイバ312である。また、発振器301から出射したレーザ光をナノ秒レーザに変換するための第2の経路は、分岐カプラ303とストレッチャ307とを接続する光ファイバ313、ストレッチャ307、ストレッチャ307と予備増幅器308とを接続する光ファイバ314、予備増幅器308、および予備増幅器308と増幅器306とを接続する光ファイバ315である。
【0078】
本実施形態では、分岐カプラ303の一方の出射端から出射されたあるパルスと同時に他方の出射端から出射した他のパルスが、上記あるパルスから所定時間だけ遅延して合波手段としての増幅器306に到達するように、第2の経路は構成されている。すなわち、上記他のパルスがあるパルスから所定時間だけ遅延して増幅器306に到達するように、第2の経路の光路長を第1の光路長よりも長く設定することにより、第2の経路に遅延回路の機能を持たせている。なお、光ファイバ313、314、315の長さおよび屈折率の少なくとも一方を調整することにより、上記第2の経路の光路長を調整すれば良い。
【0079】
本実施形態では、予備増幅器305、308のオン、オフの組み合わせにより、光源300から出射されるレーザ光の種類を決定することができる。例えば、光源300からフェムト秒レーザのみを出射する場合は、予備増幅器305をオン(レーザ光を通過できる状態)にし、予備増幅器308をオフ(レーザ光を遮断する状態)にし、光源300からナノ秒レーザのみを出射する場合は、予備増幅器305をオフにし、予備増幅器308をオンにすれば良い。また、光源300からフェムト秒レーザとナノ秒レーザとを空間的、時間的に重畳して出射する場合は、予備増幅器305および308共にオンにすれば良い。
【0080】
なお、分岐カプラ303を、分岐比可変機能を有する分岐カプラにしても良い。この場合、フェムト秒レーザとナノ秒レーザとを空間的、時間的に重畳して出射する場合は、分岐カプラ303の一方の出射端と他方の出射端との分岐比を、50:50にし、フェムト秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を100:0にし、ナノ秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を0:100とすれば良い。
【0081】
このように、本実施形態では、第1および第2のレーザ光としてのフェムト秒レーザのみのレーザ発振、第3のレーザとしてのナノ秒レーザのみのレーザ発振をそれぞれ単一に行うことができ、かつ第2のレーザと該第2のレーザパルスから所定時間だけ遅延した第3のレーザとを同一の光ファイバから出射すること、すなわち、第2のレーザと第3のレーザとを空間的、時間的に重畳して出射することができる。