特許第5862221号(P5862221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5862221貯蔵用構造物の補強方法及び貯蔵用構造物の補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862221
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】貯蔵用構造物の補強方法及び貯蔵用構造物の補強構造
(51)【国際特許分類】
   B65D 90/22 20060101AFI20160202BHJP
   B65D 90/02 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B65D90/22 D
   B65D90/02 L
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-252713(P2011-252713)
(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公開番号】特開2013-107659(P2013-107659A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】濱野 洋之
(72)【発明者】
【氏名】横沢 純一
(72)【発明者】
【氏名】宅和 大助
【審査官】 佐野 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−064297(JP,A)
【文献】 米国特許第04249352(US,A)
【文献】 特開平09−142580(JP,A)
【文献】 米国特許第03687149(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/22
B65D 90/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部又は棒状部を有するリブ材を、貯蔵用構造物の側周面外方の周辺面から該貯蔵用構造物の高さ方向に立てた状態で該貯蔵用構造物の側周面に接着し固定するとともに、前記リブ材を前記貯蔵用構造物の周方向に沿って複数配置し、それぞれ接着固定する工程と、
前記リブ材の上端上に、アンカー固定用フックを有した板材を複数載置するとともに、該板材間を連結して筒状の胴巻きとし、該胴巻きで前記貯蔵用構造物の側周面を囲繞する工程と、
前記アンカー固定用フックと地盤側とをアンカーケーブルで連結する工程と、を備えることを特徴とする貯蔵用構造物の補強方法。
【請求項2】
前記リブ材の接着を、エポキシ樹脂系接着剤によって行うことを特徴とする請求項1記載の貯蔵用構造物の補強方法。
【請求項3】
前記貯蔵用構造物が、可燃性の液体を貯蔵するタンクであることを特徴とする請求項1又は2に記載の貯蔵用構造物の補強方法。
【請求項4】
前記貯蔵用構造物が、既設の構造物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の貯蔵用構造物の補強方法。
【請求項5】
貯蔵用構造物の側周面上に、板状部又は棒状部を有するリブ材が該貯蔵用構造物の側周面外方の周辺面から該貯蔵用構造物の高さ方向に立てられた状態で接着固定された状態であり、かつ、該リブ材が前記貯蔵用構造物の周方向に沿って複数配置されてそれぞれ接着固定された状態であり
前記リブ材の上端上に複数の板材が載置され、かつ、該板材が前記貯蔵用構造物の周方向に沿って筒状に配置されるとともに、該板材どうしが連結されて筒状の胴巻きとされ、
前記板材に設けられたアンカー固定用フックと地盤側とがアンカーケーブルで連結されていることを特徴とする貯蔵用構造物の補強構造。
【請求項6】
前記リブ材の接着が、エポキシ樹脂系接着剤によってなされていることを特徴とする請求項5記載の貯蔵用構造物の補強構造。
【請求項7】
前記貯蔵用構造物が、可燃性の液体を貯蔵するタンクであることを特徴とする請求項5又は6に記載の貯蔵用構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵用構造物の補強方法及び貯蔵用構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
貯蔵用構造物として、石油など可燃性液体を貯蔵する地上タンク(屋外タンク)が知られている。このような地上タンクとしては、特に海に面して設置されるタンクの場合に、津波対策が施されているものがある。例えば、特許文献1には、タンク本体の周囲に津波防護柵を設置する構成が開示されている。
【0003】
また、地震などによる破損の対策が施されたものも知られている。例えば、特許文献2には、破損により地上タンクの内容液が流出した場合に、これを受ける防液堤を設けた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−302281号公報
【特許文献2】特開2002−80091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、既に設置されている地上タンク(貯蔵用構造物)の中には、前記特許文献1、2に開示されたような対策がなされていないものも多く、また、アンカーが設けられていないものも多数ある。したがって、大地震やこれに伴う津波が起こることを想定すると、このような既設の地上タンクに対する補強が大きな課題となっている。すなわち、例えば大地震によって津波が起こると、地上タンクは津波に押し流され、転倒して貯蔵機能が損なわれてしまったり、他構造物との接触によって被害の拡大を招いてしまうおそれがある。
しかしながら、地上タンクの周囲に防護柵や防液堤を設置するのは、特に既設の構造物に対する補強としては施工が大がかりとなり、また、周囲に防護柵や防液堤を設置するのに充分なスペースがないと、このような補強を実施することが困難になる。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、簡易な施工によって、しかも大きなスペースを必要とすることなく、津波等への対策を可能にした貯蔵用構造物の補強方法、及び貯蔵用構造物の補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の貯蔵用構造物の補強方法は、板状部又は棒状部を有するリブ材を、貯蔵用構造物の側周面外方の周辺面から該貯蔵用構造物の高さ方向に立てた状態で該貯蔵用構造物の側周面に接着し固定するとともに、前記リブ材を前記貯蔵用構造物の周方向に沿って複数配置し、それぞれ接着固定する工程と、
前記リブ材の上端上に、アンカー固定用フックを有した板材を複数載置するとともに、該板材間を連結して筒状の胴巻きとし、該胴巻きで前記貯蔵用構造物の側周面を囲繞する工程と、
前記アンカー固定用フックと地盤側とをアンカーケーブルで連結する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記貯蔵用構造物の補強方法においては、前記リブ材の接着を、エポキシ樹脂系接着剤によって行うことが好ましい。
また、前記貯蔵用構造物の補強方法においては、前記構造物が、可燃性の液体を貯蔵するタンクであることが好ましい。
また、前記貯蔵用構造物の補強方法においては、前記貯蔵用構造物が、既設の構造物であることが好ましい。
【0009】
本発明の貯蔵用構造物の補強構造は、貯蔵用構造物の側周面上に、板状部又は棒状部を有するリブ材が該貯蔵用構造物の側周面外方の周辺面から該貯蔵用構造物の高さ方向に立てられた状態で接着固定され、かつ、該リブ材が前記貯蔵用構造物の周方向に沿って複数配置されてそれぞれ接着固定され、
前記リブ材の上端上に複数の板材が載置され、かつ、該板材が前記貯蔵用構造物の周方向に沿って筒状に配置されるとともに、該板材どうしが連結されて筒状の胴巻きとされ、
前記板材に設けられたアンカー固定用フックと地盤側とがアンカーケーブルで連結されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記貯蔵用構造物の補強構造においては、前記板材の接着が、エポキシ樹脂系接着剤によってなされていることが好ましい。
また、前記貯蔵用構造物の補強構造においては、前記構造物が、可燃性の液体を貯蔵するタンクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の貯蔵用構造物の補強方法および貯蔵用構造物の補強構造によれば、貯蔵用構造物の側周面上にリブ材を立てた状態で接着固定し、かつ、該リブ材を前記貯蔵用構造物の周方向に沿って複数配置してそれぞれ接着固定し、該リブ材の上端上に複数の板材を載置し、かつ、該板材を前記貯蔵用構造物の周方向に沿って筒状に配置するとともに、該板材どうしを連結して筒状の胴巻きとし、前記板材に設けられたアンカー固定用フックと地盤側とをアンカーケーブルで連結するので、貯蔵用構造物の外周面の全方位を筒状の胴巻きとアンカー固定用フックとアンカーケーブルとによって地盤側に固定することができ、したがって簡易な施工で耐転倒性等を向上し、津波等に対する効果的な対策とすることができる。
【0012】
また、貯蔵用構造物の周囲に必要となるスペースは、アンカーケーブルの端部側を固定するだけのスペースでよく、したがって大きなスペースを必要とすることなく効果的に補強を行うことができる。
また、貯蔵用構造物に固定されるリブ材には、通常時には鉛直方向にしか荷重がかからず、この荷重もほとんどがリブ材を介して周辺面にかかるため、貯蔵用構造物にかかる負荷を最小限に抑えることができる。
さらに、貯蔵用構造物の側周面上にリブ材を接着によって固定し、これらリブ材上に単に胴巻きを載置するので、貯蔵用構造物に対する溶接が不要になり、したがって貯蔵物が可燃性の液体であっても、これを貯蔵した稼働状態のもとで支障なく施工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る貯蔵用構造物の補強構造の一実施形態の、要部を断面図した概略構成図である。
図2図1に示した貯蔵用構造物の補強構造の要部斜視図である。
図3】(a)〜(e)は本発明に係る貯蔵用構造物の補強方法の一実施形態を説明するための図であり、(a)、(c)、(d)は要部側断面図、(b)は要部斜視図、(e)は模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る貯蔵用構造物の補強方法及び貯蔵用構造物の補強構造を詳しく説明する。
図1は、本発明に係る貯蔵用構造物の補強構造の一実施形態を示す図であり、図1中符号1は、貯蔵用構造物としての地上タンク(屋外タンク)である。この地上タンク1は、石油等の常温で液体の可燃性液体を常温で貯蔵するもので、基礎マウンド2上に設置された既設のものである。基礎マウンド2は、地盤G中に埋設されたもので、その周囲にはリングコンクリート3が円環状に配置されている。
【0015】
基礎マウンド2上にはアスファルトモルタル4が敷設されており、このアスファルトモルタル4上に地上タンク1が設けられている。地上タンク1は、アスファルトモルタル4上に設けられた底部5と、円筒状の側板6と、該側板6の上部開口を覆う蓋部(図示せず)とから構成されている。底部5は、円環状のアニュラープレート7と、該アニュラープレート7内に設けられた底板8とから形成されており、前記側板6は、アニュラープレート7上に配置されている。
【0016】
側板6には、その側周面(外周面)上の底部5側に細長いリブ材9が複数貼設されており、これらリブ材9上に円筒状(円環状)の胴巻き10が設けられている。
リブ材9としては、本実施形態では図2に示すように横断面T字状に形成された鋼材が用いられている。この鋼材(リブ材9)は、H形鋼やI形鋼の一方の側がカットされたカットT材(CT形鋼)であり、細長い矩形板状の支持板9aと、この支持板9aの一方の長辺側端面に接している細長い矩形板状の貼設板9bとからなっている。なお、支持板9aは、本発明においてリブ材9が有する板状部又は棒状部となっている。また、貼設板9bは、側板6に貼設される貼設部となっている。
【0017】
このリブ材9(カットT材)は、地下タンク1の側板6(側周面)の外方に位置する周辺面、本実施形態では側板6の外方に延び出たアニュラープレート7の外周部上面から、地下タンク1の高さ方向(通常は鉛直方向)に立てられた状態で、該地下タンク1の側板6(側周面)に前記貼設板9bが接着され固定されている。すなわち、支持板9aが前記周辺面(アニュラープレート7の外周部上面)から鉛直方向上方に向かって立てられるように、リブ材9は接着、固定されている。これによってリブ材9は、支持板9aの貼設板9bと反対側の側端面が、側板6の半径方向外方に向かって配置され、したがって支持板9aの短辺が側板6の半径方向外方に延在させられている。
【0018】
このようなリブ材9としては、例えば厚さが10mm〜20mm程度、長さ(支持板9aの長辺の長さ)が数十cm〜数m程度、幅(支持板9aの短辺の長さ)が数cm〜十数cm程度のカットT材が好適に用いられている。なお、このリブ材9の長さについては、これが後述する胴巻き10の高さ位置を決定するようになるため、後述するアンカーケーブルの長さやその角度(アンカー角度)等によって適宜に決定されている。
【0019】
接着固定されるリブ材9の数は、地下タンク1の大きさ、すなわちその外周面(側板6)の円周の長さによって適宜に決定されている。例えば、12本〜64本程度が周方向に沿って等間隔に配置されている。
また、これらリブ材9は、その上端のレベルが均一になるよう、その長さが調整されている。本実施形態では、リブ材9の設置面はアニュラープレート7の外周部上面であり、その高さ(レベル)が均一になっているため、リブ材9も基本的には全て同一高さに調整されている。
【0020】
側板6へのリブ材9の接着には、接着剤として、各種の土木工法にも用いられているエポキシ樹脂系接着剤が、充分な強度が得られ、また取り扱いも容易であるなどの理由によって好適に用いられている。ただし、本発明はこれに限定されることなく、エポキシ樹脂系接着剤以外の接着剤を用いてリブ材9の接着を行うようにしてもよい。
【0021】
これらリブ材9の上端上には、円筒状(円環状)の胴巻き10が設けられている。胴巻き10は、鋼板等からなる複数の曲げ板材11が地下タンク1の側板6の周方向に沿って円筒状に配置され、隣り合うものどうしが互いに連結されて一体化されたものである。曲げ板材11は、円筒状の側板6に対応する曲率に形成された厚さ10mm〜20mm程度の円弧板状のもので、側板6の円周を例えば6〜8分割する程度の大きさ(長さ)に、後述する連結部分(重なり部分)の長さを加えて形成されたものである。
【0022】
このような曲げ板材11、11間の連結は、例えば図2に示すように一方の曲げ板材11の側端部が他方の曲げ板材11の側端部上に重ねられ、この重なり部分にて接着されることにより、なされている。接着剤としては、前記リブ材9の接着と同様に、エポキシ樹脂系接着剤が好適に用いられている。ただし、エポキシ樹脂系接着剤以外の接着剤を用いて、曲げ板材11、11間の接着を行うようにしてもよいのはもちろんである。
【0023】
このようにして形成された胴巻き10は、リブ材9の上端上、すなわち支持板9aの上端となる短辺上に、単に載せられただけで設置されており、したがって地上タンク1の側板6に対しては、一部が当接しただけの状態で、または全体がわずかな間隙をあけた状態で、これを囲繞している。
【0024】
また、曲げ板材11には、予めアンカー固定用フック12が溶接等によって固定されている。アンカー固定用フック12は、リング状のフック部12aを備えた公知のもので、曲げ板材11の大きさ(長さ)に応じて、その長さ方向に1〜10個程度固定されている。すなわち、地上タンク1の側板6の全周において、合計で12〜80個程度が等間隔で配置されるように、各曲げ板材11の適宜箇所に配設されている。なお、このようなアンカー固定用フック12の数は、地上タンク1の大きさ、すなわちその円周の長さ等に応じて適宜に決定されている。
【0025】
アンカー固定用フック12のフック部12aには、それぞれアンカーケーブル13の一端側が連結されている。アンカーケーブル13は、例えばPC鋼より線ケーブルからなるもので、その一端側が例えば圧着グリップ等の固定具(図示せず)によって前記フック部12aに連結され、固定されている。また、アンカーケーブル13の他端部は、図1に示すように地盤G側に固定されている。
【0026】
例えば、アンカーケーブル13の他端部は、リングコンクリート3に孔3aがあけられ、この孔3a内に接着剤(図示せず)が充填されるとともに他端部が挿入され、接着剤が硬化させられることでリングコンクリート3に固定されている。ただし、本発明はこれに限定されることなく、例えばアンカーケーブル13の長さやアンカーケーブル13と地上タンク1の側板6とのなす角度(アンカー角度)αを所望の値としたい場合には、リングコンクリート3ではなくその内側または外側の地盤Gに直接孔をあけ、この孔内に接着剤を充填するとともに他端部を挿入し、接着剤を硬化させることでアンカーケーブル13の他端部を地盤G側に固定してもよい。
【0027】
次に、このような地上タンク1の補強方法に基づき、本発明の貯蔵用構造物(地上タンク1)の補強方法の一実施形態について説明する。
地上タンク1は、海の近くに設けられた既設のもので、前記特許文献1、2に開示されたような防護柵や防液堤などの津波対策に充分になされていないものとする。このような地上タンク1に対しては、新たな、又はより充分な津波対策を行う必要があり、したがって本実施形態では、以下のような工程で津波対策としての補強を行う。
【0028】
まず、リブ材9を予め設定された数用意するとともに、これらの高さ(長さ)を調整しておく。通常は、それぞれの高さを予め設定された同じ高さに形成しておく。なお、このようなリブ材9としては、前述したようなカットT材が好適に用いられる。
また、リブ材9とは別に、地上タンク1の側板6に対応する曲げ板材11を複数用意するとともに、これら曲げ板材11の外面側に、アンカー固定用フック12を溶接等によって固定しておく。曲げ板材11に固定するアンカー固定用フック12の数については、地上タンク1に要求される補強強度、すなわち津波の際にこれに抗して地上タンク1を保持する力等に基づいて決定される。
【0029】
曲げ板材11の長さ(大きさ)については、地上タンク1の側板6の円周を所定の数に分割したときの長さに、重なり部分の長さを加えて形成する。すなわち、所定の数の曲げ板材11を地上タンク1の側板6上にてその円周方向に順次重ねつつ円筒状に並べて配置した際、側板6をちょうど一周する長さとされる。なお、曲げ板材11の長さについては、特に限定されないものの、クレーンで吊り上げ、リブ材9上に載せた後、地上タンク1の側板6上にてその円周方向に互いに重ねて接着しつつ、円筒状に形成するのに適した長さにしておくのが好ましい。
【0030】
また、重なる部分の長さについては、曲げ板材11、11間に必要な接着強度を予めシミュレーション等によって求めておき、これを満足する接着面積となるように設定しておく。さらに、曲げ板材11の幅についても、必要な接着強度を満足する接着面積となるように、予め設定しておく。
【0031】
接着剤としては、充分な強度が得られるエポキシ樹脂系接着剤が好適に用いられる。この接着剤を、予めリブ材9の貼設板9bの裏面に所定量塗布しておき、このように接着剤を塗布したリブ材9を、クレーン等によって吊り上げ、図3(a)に示すようにアニュラープレート7(地上タンク1の側周面外方の周辺面)上に立てて配置するとともに、その貼設板9bの裏面を地上タンク1の側板6(側周面)上の所定位置に順次貼設する。
【0032】
すなわち、予め用意し、接着剤を塗布した所定の数のリブ材9を、側板6上にてその円周方向に所定の間隔で配置し、それぞれ接着・固定する。なお、接着剤については、予め貼設板9bに塗布しておくことなく、側板6上に位置合わせした際、塗布するようにしてもよい。
【0033】
また、これらリブ材9については、その上端の高さ(レベル)が同一になるよう、予め長さを調整しておくとともに、必要に応じて接着後でも一部切断することなどでレベル出しをする。すなわち、アニュラープレート7の外周部上面に、他の部材が設置されていることなどで凸部が形成されており、この凸部上にリブ材9を設置する必要がある場合などでは、上端のレベルが他のリブ材9の上端レベルに一致するように、その長さを調整する。
【0034】
ここで、接着剤は所定の接着強度が発現するまでにある程度の時間を必要とすることから、クレーンで吊り上げ、側板6上に貼設した後、クレーン等によってリブ材9を側板6側に押し付けた状態を維持し、接着剤に所定の接着強度を発現させる。このような接着強度の発現は、エポキシ樹脂系接着剤では常温で起こるため、溶接のように火花が生じるおそれはなく、加熱も必要としない。したがって、地上タンク1については、可燃性の液体を貯蔵した状態のままで、つまり稼働状態のままで、リブ材9の貼設(接着)、固定を行うことができる。
【0035】
次いで、これらリブ材9の上端上に、曲げ板材11を側板6の周方向に沿って順次載置しつつ、図3(b)に示すように隣り合う曲げ板材11の側端部に他方の曲げ板材11の側端部を重ね合わせ、かつ重なり部分を接着剤で接着する。接着剤については、予め重なり部分に塗布しておいてもよく、重ね合わせる際に一方または両方の曲げ板材11に塗布するようにしてもよい。
このようにして曲げ板材11を順次接着して連結し、地下タンク1の側板6を周回する筒状に形成することで、胴巻き10を形成する。これにより、胴巻き10によって地下タンク1の側板6を囲繞する。
【0036】
次いで、図3(c)に示すように各曲げ板材11のそれぞれのアンカー固定用フック12に、アンカーケーブル13の一端側を連結する。このアンカーケーブル13の連結は、例えば圧着グリップ等の固定具(図示せず)を用いるなど、従来公知の手法を採用することができる。
【0037】
全てのアンカー固定用フック12に対してアンカーケーブル13の一端側を連結したら、これらアンカーケーブル13の他端側を地盤Gに連結する。本実施形態では、図3(d)に示すようにリングコンクリート3に斜めに孔3aをあけ、この孔3a内に接着剤(図示せず)を充填する。そして、このように接着剤を充填した孔3a内にアンカーケーブル13の他端側を挿入し、その状態で接着剤が硬化し、強度を発現するまで保持する。接着剤としては、ウレタン樹脂系やエポキシ樹脂系の土木用接着剤が好適に用いられる。
【0038】
アンカーケーブル13については、通常時には大きな緊張力を発揮することなく、単に張った状態だけの緊張力が維持できるようにすればよい。したがって、アンカーケーブル13の他端側の連結、固定については、特殊な工法を用いることなく一般的な工法で行うことができる。
【0039】
なお、リングコンクリート3については、既設の地上タンク1に付随して設けられていない場合、補強時に新たに設置し、この新設したリングコンクリート3にアンカーケーブル13の他端側を連結するようにしてもよい。
また、このようにリングコンクリート3の孔3a内に直接アンカーケーブル13の他端側を固定するのに代えて、例えば孔3a内に固定用フック(図示せず)を固定し、この固定用フックにアンカーケーブル13の他端側を固定することにより、アンカーケーブル13の他端側をリングコンクリート3に間接的に固定するようにしてもよい。
【0040】
このようにして全てのアンカーケーブル13の他端側を、図3(e)の平面図に示すようにリングコンクリート3を介して地盤G側に連結し、これによってアンカー固定用フック12と地盤G側とをアンカーケーブル13で連結することにより、図1に示した補強後の地上タンク1(貯蔵用構造物)が得られる。
【0041】
なお、本発明では、図1に示すようにアンカーケーブル13と地上タンク1の側板6とのなす角度(アンカー角度)αを所望の値(例えば45°)としたい場合であって、かつ、アンカーケーブル13の長さがリングコンクリート3に連結するのに不適当な場合などでは、前述したようにアンカーケーブル13の他端側をリングコンクリート3ではなく、その内側または外側の地盤Gに直接連結するようにしてもよい。すなわち、地盤G中の岩盤に直接孔をあけ、この孔内に接着剤を充填するとともに他端部を挿入し、接着剤を硬化させることにより、アンカーケーブル13の他端部を地盤Gに直接固定してもよい。
【0042】
このような補強方法にあっては、地上タンク1の側板6(側周面)上にリブ材9を立てた状態で接着固定し、かつ、該リブ材9を地上タンク1の周方向に沿って複数配置してそれぞれ接着固定し、該リブ材9の上端上に複数の曲げ板材11からなる円筒状の胴巻き10を形成し、アンカー固定用フック12と地盤G側とをアンカーケーブル13で連結するので、地下タンク1の外周面の全方位を筒状の胴巻き10とアンカー固定用フック12とアンカーケーブル13とによって地盤G側に固定することができ、したがって簡易な施工で耐転倒性等を向上し、津波等に対する効果的な対策とすることができる。
【0043】
また、地上タンク1の周囲に必要となるスペースは、アンカーケーブル13の他端側(端部側)を固定するだけのスペースでよく、したがって大きなスペースを必要とすることなく効果的に補強を行うことができる。
また、地下タンク1に固定されるリブ材9には、通常時には鉛直方向にしか胴巻き10の荷重がかからず、この荷重もほとんどがリブ材9を介してアニュラープレート7(周辺面)にかかるため、地下タンク1にかかる負荷を最小限に抑えることができる。したがって、施工時にはもちろん、施工後においても、地下タンク1の側板6を損傷するおそれがない。
【0044】
さらに、地上タンク1の側周面上にリブ材9を接着によって固定し、これらリブ材9上に単に胴巻き10を載置するので、貯蔵用構造物に対する溶接が不要になり、したがって貯蔵物が可燃性の液体であっても、これを貯蔵した稼働状態のもとで支障なく施工を行うことができる。
また、敷地の大きさや立地条件等によってクレーンの使用が制約されている場合にも、その制約に合わせてリブ材9や曲げ板材11の数を決定し、リブ材9や曲げ板材11の重量や大きさを調整することにより、敷地制約に充分に対応可能となる。
【0045】
また、このような補強方法で補強された地上タンク1(貯蔵用構造物)は、前記したように耐転倒性等が向上して津波等に対する効果的な対策がとられたものとなるため、地震等に伴う津波に遭遇しても、津波に押し流されたり、転倒して貯蔵機能が損なわれてしまうといった不都合が回避されたものとなる。
【0046】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、本発明に係る貯蔵用構造物は石油等を貯蔵する地上タンクに限定されることなく、種々の材料や中間品、各種製品等を貯蔵する倉庫などであってもよく、このような倉庫の補強にも本発明の補強方法やその構造が適用可能である。
【0047】
また、前記実施形態ではリブ材9を立てる地下タンク1(貯蔵用構造物)の側板6(側周面)外方の周辺面を、側板6の外方に延び出たアニュラープレート7の外周部上面としたが、側板6の外方に延び出たアニュラープレート7の寸法が充分でない場合や、アニュラープレート7が無い場合には、アニュラープレート7の外側の面や地下タンク1の設置面を前記周辺面とし、該周辺面上にリブ材9を立てるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…地上タンク(貯蔵用構造物)、6…側板、9…リブ材、9a…支持板、10…胴巻き、11…曲げ板材(板材)、12…アンカー固定用フック、13…アンカーケーブル、G…地盤
図1
図2
図3