(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算手段は、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値以上の要素から、該要素から前記正の閾値を減算して1より大きい所定の第1振幅係数で除算した値を減算し、前記入力データの要素の内、値が前記負の閾値以下の要素から、該要素から前記負の閾値を減算して1より大きい所定の第2振幅係数で除算した値を減算することを特徴とする請求項1に記載の通信機。
前記逆演算手段は、前記並列信号の前記実部データまたは前記並列信号の前記虚部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、1より大きい所定の第1振幅係数を乗算し、前記正の閾値を減算し、前記第1振幅係数から1を減算した値で除算し、前記入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、1より大きい所定の第2振幅係数を乗算し、前記負の閾値を減算し、前記第2振幅係数から1を減算した値で除算することを特徴とする請求項3に記載の通信機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OFDM方式の通信では、PAPRを低減することが課題となっている。特許文献1では、PAPRを低減する最適位相を算出するために繰り返し計算処理を行い、サブキャリアごとに位相を制御する必要がある。また特許文献1に開示されている技術では、PAPRの低減の程度を制御することはできない。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、OFDM方式の通信において、PAPRを低減し、さらにPAPRの低減の程度を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調手段と、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行うIFFT手段と、
前記IFFT手段の演算結果を該演算結果の実部である実部データと該演算結果の虚部である虚部データとに分解する分解手段と、
前記実部データまたは前記虚部データである入力データの要素の最大値より小さい所定の正の閾値および前記入力データの要素の最小値より大きく、前記正の閾値と異なる絶対値を有する所定の負の閾値を用いて、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値以上の要素に、該要素の値と前記正の閾値との差を縮小する所定の演算を施し、前記入力データの要素の内、値が前記負の閾値以下の要素に、該要素の値と前記負の閾値との差を縮小する所定の演算を施す演算手段と、
前記演算手段で演算を施した前記実部データおよび前記虚部データを合成したデータに基づきベースバンド信号を生成する合成手段と、
前記ベースバンド信号から送信手段を生成して送信する送信手段と、
を備え
、
前記演算手段において、前記入力データが前記実部データである場合と、前記入力データが前記虚部データである場合とで、前記正の閾値および前記負の閾値の少なくともいずれかが異なる、
ことを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記演算手段は、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値以上の要素から、該要素から前記正の閾値を減算して1より大きい所定の第1振幅係数で除算した値を減算し、前記入力データの要素の内、値が前記負の閾値以下の要素から、該要素から前記負の閾値を減算して1より大きい所定の第2振幅係数で除算した値を減算する。
【0011】
本発明の第2の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信手段と、
前記ベースバンド信号を直並列変換し、並列信号を生成する直並列手段と、
前記並列信号を前記並列信号の実部である実部データと並列信号の虚部である虚部データとに分解する受信側分解手段と、
前記並列信号の前記実部データまたは前記並列信号の前記虚部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と前記正の閾値との差を拡大する所定の演算を施し、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値と異なる絶対値を有する所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と前記負の閾値との差を拡大する所定の演算を施す逆演算手段と、
前記逆演算手段で演算を施した前記並列信号の前記実部データおよび前記並列信号の前記虚部データを合成する受信側合成手段と、
前記受信側合成手段の演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFT手段と、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調手段と、
を備え
、
前記逆演算手段において、前記入力データが前記並列信号の前記実部データである場合と、前記入力データが前記並列信号の前記虚部データである場合とで、前記正の閾値および前記負の閾値の少なくともいずれかが異なる、
ことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記逆演算手段は、前記並列信号の前記実部データまたは前記並列信号の前記虚部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、1より大きい所定の第1振幅係数を乗算し、前記正の閾値を減算し、前記第1振幅係数から1を減算した値で除算し、前記入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、1より大きい所定の第2振幅係数を乗算し、前記負の閾値を減算し、前記第2振幅係数から1を減算した値で除算する。
【0015】
本発明の第3の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調ステップと、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行うIFFTステップと、
前記IFFTステップの演算結果を該演算結果の実部である実部データと該演算結果の虚部である虚部データとに分解する分解ステップと、
前記実部データまたは前記虚部データである入力データの要素の最大値より小さい所定の正の閾値および前記入力データの要素の最小値より大きく、前記正の閾値と異なる絶対値を有する所定の負の閾値を用いて、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値以上の要素に、該要素の値と前記正の閾値との差を縮小する所定の演算を施し、前記入力データの要素の内、値が前記負の閾値以下の要素に、該要素の値と前記負の閾値との差を縮小する所定の演算を施す演算ステップと、
前記演算ステップで演算を施した前記実部データおよび前記虚部データを合成したデータに基づきベースバンド信号を生成する合成ステップと、
前記ベースバンド信号から送信手段を生成して送信する送信ステップと、
を備え
、
前記演算ステップにおいて、前記入力データが前記実部データである場合と、前記入力データが前記虚部データである場合とで、前記正の閾値および前記負の閾値の少なくともいずれかが異なる、
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信ステップと、
前記ベースバンド信号を直並列変換し、並列信号を生成する直並列ステップと、
前記並列信号を前記並列信号の実部である実部データと並列信号の虚部である虚部データとに分解する受信側分解ステップと、
前記並列信号の前記実部データまたは前記並列信号の前記虚部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と前記正の閾値との差を拡大する所定の演算を施し、前記入力データの要素の内、値が前記正の閾値と異なる絶対値を有する所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と前記負の閾値との差を拡大する所定の演算を施す逆演算ステップと、
前記逆演算ステップで演算を施した前記並列信号の前記実部データおよび前記並列信号の前記虚部データを合成する受信側合成ステップと、
前記受信側合成ステップの演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFTステップと、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調ステップと、
を備え
、
前記逆演算ステップにおいて、前記入力データが前記並列信号の前記実部データである場合と、前記入力データが前記並列信号の前記虚部データである場合とで、前記正の閾値および前記負の閾値の少なくともいずれかが異なる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、OFDM方式の通信において、PAPRを低減し、さらにPAPRの低減の程度を制御することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。以下の説明において、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)は、IFFTとIDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation:逆離散フーリエ変換)を含む概念とする。したがって本発明の実施の形態においては、IFFTの代わりに、IDFTを行うよう構成してもよい。同様にFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)は、FFTとDFT(Discrete Fourier Transformation:離散フーリエ変換)を含む概念とする。またIDFTおよびDFTを行う場合は、以下の説明におけるFFTサイズとは、DFTのサイズを意味する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。通信機1は、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の無線通信により他の機器と通信を行う。通信機1は、アンテナ10、変調部11、直並列変換部12、IFFT部13、分解部14、演算部15、合成部16、送信部17、およびコントローラ20を備える。演算部15は、実部演算部151および虚部演算部152を備える。
【0021】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)21、RAM(Random Access Memory)23、およびROM(Read-Only Memory)24を備える。複雑化を避け、理解を容易にするために、コントローラ20から各部への信号線が省略されているが、コントローラ20は通信機1の各部にI/O(Input/Output)22を介して接続しており、それらの処理の開始、終了、処理内容の制御を行う。
【0022】
RAM23には、例えば送信フレームを生成するためのデータが記憶されている。ROM24は、コントローラ20が通信機1の動作を制御するための制御プログラムを格納する。コントローラ20は、制御プログラムに基づいて、通信機1を制御する。
【0023】
図2は、実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の通信機1に受信機能をもたせるため、
図2に示す通信機1はさらに復調部31、並直列変換部32、FFT部33、受信側合成部34、逆演算部35、受信側分解部36、受信部37、および送受信切替部38を備える。逆演算部35は、実部逆演算部351および虚部逆演算部352を備える。送信機能および受信機能を備える
図2に示す通信機1を用いて、通信機1が行う通信方法について以下に説明する。
【0024】
変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調し、変調信号を生成し、直並列変換部12に送る。変調方式として、例えばQPSK(Quadrature Phase-Shift Keying:四位相偏移変調)を用いる。直並列変換部12は、変調信号を直並列変換し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する。そして、サブキャリア変調信号をIFFT部13に送る。IFFT部13は、サブキャリア変調信号のIFFTを行い、演算結果を分解部14に送る。
【0025】
分解部14は、IFFT部13の演算結果を該演算結果の実部である実部データと、該演算結果の虚部である虚部データとに分解し、実部データと虚部データを演算部15に送る。演算部15は、実部データを実部演算部151に、虚部データを虚部演算部152にそれぞれ送る。実部演算部151および虚部演算部152の動作は同じであるため、実部演算部151の動作について説明する。サブキャリア変調信号をdとすると、実部演算部151が受け取った実部データuは、下記(1)式で表される。
【0027】
実部演算部151は、実部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と正の閾値との差を縮小する所定の演算を施し、入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と負の閾値との差を縮小する所定の演算を施す。例えば、実部演算部151は、入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素から、該要素から正の閾値を減算して1より大きい所定の実数である第1振幅係数で除算した値を減算する。実部演算部151は、入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素から、該要素から負の閾値を減算して1より大きい所定の実数である第2振幅係数で除算した値を減算する。
【0028】
所定の正の閾値とは、入力データの要素の最大値より小さい正の実数であり、所定の負の閾値とは、入力データの要素の最小値より大きい負の実数である。所定の正の閾値および負の閾値は、後述するようにPAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)の低減の程度およびBER(Bit Error Rate:符号誤り率)の劣化の程度を考慮して予め定められている。なお正の閾値の絶対値と負の閾値の絶対値とは同じ値でもよいし、異なる値でもよい。第1振幅係数と第2振幅係数とは同じ値でもよいし、異なる値でもよい。正の閾値の絶対値と負の閾値の絶対値とが同じであり、第1振幅係数と第2振幅係数とが同じであるように構成すると、上述の演算処理の実装を簡易化することが可能である。
【0029】
正の閾値をth
+とし、第1振幅係数をa
1とし、実部データuの要素の内、値が正の閾値以上である要素をu
+とすると、実部演算部151でu
+に演算を施した結果であるv
+は、下記(2)式で表される。
【0031】
また負の閾値をth
−とし、第2振幅係数をa
2とし、実部データuの要素の内、値が負の閾値以下である要素をu
−とすると、実部演算部151でu
−に演算を施した結果であるv
−は、下記(3)式で表される。
【0033】
なお実部データuの要素の内、値が負の閾値より大きく、かつ、正の閾値より小さい要素については、実部演算部151は上述のいずれの演算も施さない。
【0034】
虚部演算部152は、虚部データを入力データとして実部演算部151と同様に上述の演算処理を行う。実部演算部151および虚部演算部152が用いる所定の正の閾値および負の閾値は、異なってもよい。実部演算部151および虚部演算部152が同じ所定の正の閾値および負の閾値を用いる場合には、1つの演算器を用いて実部演算部151および虚部演算部152を実現することができる。
【0035】
実部データおよび虚部データの要素の内、値が正の閾値または負の閾値に一致する要素については、該要素に上述の演算を施しても値は変わらない。したがって、実部演算部151および虚部演算部152は、入力データの要素の内、値が正の閾値より大きい要素および値が負の閾値より小さい要素について上述の演算を行うよう構成してもよい。
【0036】
演算部15は、実部演算部151で演算を施した実部データおよび虚部演算部152で演算を施した虚部データを合成部16に送る。
【0037】
合成部16は、送られた実部データおよび虚部データを合成したデータに基づきベースバンド信号を生成する。送られた実部データをv、虚部データをwとすると、合成したデータはv+jwで表される。ただしjは虚数単位である。送信部17は、ベースバンド信号から送信信号を生成し、送受信切替部38およびアンテナ10を介して他の機器に送信信号を送る。
【0038】
図3は、実施の形態に係る演算部での演算処理による信号点配置図の変化を示す図である。FFTサイズを2048、変調方式をQPSK、正の閾値を0.02、負の閾値を−0.02、第1振幅係数および第2振幅係数を2とし、あるランダム信号を入力信号として用いてシミュレーションを行った。
図3(a)は、IFFT部13の演算結果の信号点配置図を示す。
図3(b)は、合成部16で実部データと虚部データを合成したデータの信号点配置図を示す。実部演算部151および虚部演算部152において上述の演算を施すことにより、複素平面上の点が複素平面の原点方向に移動していることがわかる。
【0039】
図4は、実施の形態に係る演算部での演算処理による実部データおよび虚部データの振幅の変化を示す図である。横軸は周波数(単位:サブキャリア間隔f
0)であり、縦軸は振幅である。
図4(a)は上述のシミュレーションにおいて分解部14が生成した実部データ、
図4(b)は分解部14が生成した虚部データ、
図4(c)は実部演算部151で演算を施した実部データ、
図4(d)は虚部演算部152で演算を施した虚部データである。実部演算部151および虚部演算部152において上述の演算を施すことにより、実部データおよび虚部データにおいて、正の閾値以上の要素の値と正の閾値との差および負の閾値以下の要素の値と負の閾値との差が縮小していることがわかる。
【0040】
図5は、実施の形態に係る通信機が行う送信制御の動作の一例を示すフローチャートである。変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調して変調信号を生成し、直並列変換部12は、変調信号を直並列変換し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する(ステップS110)。IFFT部13は、サブキャリア変調信号のIFFTを行う(ステップS120)。
【0041】
分解部14は、IFFT部13の演算結果を該演算結果の実部である実部データと、該演算結果の虚部である虚部データとに分解する(ステップS130)。実部演算部151は、実部データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と正の閾値との差を縮小する所定の演算を施し、実部データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と負の閾値との差を縮小する所定の演算を施す。虚部演算部152は、虚部データに対し、実部演算部151と同様の演算処理を行う(ステップS140)。
【0042】
合成部16は、実部データおよび虚部データを合成したデータに基づきベースバンド信号を生成する(ステップS150)。送信部17は、ベースバンド信号から送信信号を生成し、送受信切替部38およびアンテナ10を介して他の機器に送信信号を送る(ステップS160)。
【0043】
受信側での処理を以下に説明する。受信部37は、アンテナ10および送受信切替部38を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成し、受信側分解部36に送る。受信側分解部36は、ベースバンド信号を直並列変換し、並列信号を生成する。受信側分解部36は、並列信号を並列信号の実部である実部データと、並列信号の虚部である虚部データとに分解し、並列信号の実部データと虚部データを逆演算部35に送る。逆演算部35は、並列信号の実部データを実部逆演算部351に、並列信号の虚部データを虚部逆演算部352にそれぞれ送る。実部逆演算部351および虚部逆演算部352の動作は同じであるため、実部逆演算部351の動作について説明する。実部逆演算部351が受け取った並列信号の実部データをrとすると、rは送信側の実部演算部151で演算を施した実部データvに一致する。
【0044】
実部逆演算部351は、並列信号の実部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と正の閾値との差を拡大する所定の演算を施し、入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と負の閾値との差を拡大する所定の演算を施す。所定の演算とは送信側の実部演算部151で演算を施した所定の要素の値を復元するための演算である。例えば、実部逆演算部351は、入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に1より大きい所定の実数である第1振幅係数を乗算し、正の閾値を減算し、第1振幅係数から1を減算した値で除算する。実部逆演算部351は、入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に1より大きい所定の実数である第2振幅係数を乗算し、負の閾値を減算し、第2振幅係数から1を減算した値で除算する。
【0045】
実部逆演算部351が用いる所定の正の閾値および負の閾値は、送信側の実部演算部151が用いた所定の正の閾値および負の閾値とそれぞれ同じである。また第1振幅係数および第2振幅係数も、送信側の実部演算部151が用いた第1振幅係数および第2振幅係数と同じである。受信側では予め正の閾値、負の閾値、第1振幅係数および第2振幅係数についての情報を保持しているものとする。
【0046】
上記(2)式について、u
+は正の閾値th
+以上の値であること、および第1振幅係数a
1が1より大きいことを用いて式を変形すると、下記(4)式が導き出される。
【0048】
したがって、並列信号の実部データrの要素の内、値が正の閾値以上である要素は、送信側の実部演算部151で上記(2)式で表される演算を施した要素に一致する。すなわち、実部逆演算部351が受け取った並列信号の実部データrの内、値が所定の正の閾値以上である要素をr
+とすると、r
+はv
+ に一致する。実部逆演算部351でr
+に演算を施した結果であるs
+は、下記(5)式で表される。r
+はv
+ に一致するので、上記(2)式を用いて上記(5)式を変形すると、s
+=u
+が得られる。
【0050】
上記(3)式について、u
−は負の閾値th
−以下の値であること、および第2振幅係数a
2が1より大きいことを用いて式を変形すると、下記(6)式が導き出される。
【0052】
したがって、並列信号の実部データrの要素の内、値が負の閾値以下である要素は、送信側の実部演算部151で上記(3)式で表される演算を施した要素に一致する。すなわち、実部逆演算部351が受け取った並列信号の実部データrの内、値が所定の負の閾値以下である要素をr
−とすると、r
−はv
− に一致する。実部逆演算部351でr
−に演算を施した結果であるs
−は、下記(7)式で表される。r
−はv
− に一致するので、上記(3)式を用いて上記(7)式を変形すると、s
−=u
−が得られる。
【0054】
なお並列信号の実部データrの要素の内、値が負の閾値より大きく、かつ、正の閾値より小さい要素については、実部逆演算部351は上述のいずれの演算も施さない。
【0055】
虚部逆演算部352は、虚部データを入力データとして実部逆演算部351と同様に上述の演算処理を行う。実部逆演算部351と同様に、虚部逆演算部352が用いる所定の正の閾値および負の閾値は、送信側の虚部演算部152が用いた所定の正の閾値および負の閾値とそれぞれ同じである。実部逆演算部351および虚部逆演算部352が用いる所定の正の閾値および負の閾値は、異なってもよい。実部逆演算部351および虚部逆演算部352が同じ所定の正の閾値および負の閾値を用いる場合には、1つの演算器を用いて実部逆演算部351および虚部逆演算部352を実現することができる。送信側と同様に、実部逆演算部351および虚部逆演算部352は、入力データの要素の内、値が正の閾値より大きい要素および値が負の閾値より小さい要素について上述の演算を行うよう構成してもよい。
【0056】
逆演算部35は、実部逆演算部351で演算を施した並列信号の実部データおよび虚部逆演算部352で演算を施した並列信号の虚部データを受信側合成部34に送る。
【0057】
受信側合成部34は、送られた並列信号の実部データおよび並列信号の虚部データを合成したデータをFFT部33に送る。送られた並列信号の実部データをs、並列信号の虚部データをxとすると、合成したデータはs+jxで表される。FFT部33は、受信側合成部34から送られたデータのFFTを行い、サブキャリア変調信号を生成する。FFT部33は、サブキャリア変調信号を並直列変換部32に送る。
【0058】
並直列変換部32は、サブキャリア変調信号を並直列変換し、直列信号を生成して復調部31に送る。復調部31は、直列信号を所定の復調方式で復調する。例えば、復調部31は直列信号のQPSK復調を行う。これにより変調部11で変調した入力信号を復調部31で復調して出力することができる。
【0059】
図6は、実施の形態に係る通信機が行う受信制御の動作の一例を示すフローチャートである。受信部37は、アンテナ10および送受信切替部38を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成する(ステップS210)。受信側分解部36は、ベースバンド信号を直並列変換し、並列信号を生成する(ステップS220)。受信側分解部36は、並列信号を並列信号の実部である実部データと、並列信号の虚部である虚部データとに分解する(ステップS230)。
【0060】
実部逆演算部351は、並列信号の実部データである入力データの要素の内、値が所定の正の閾値以上の要素に、該要素の値と正の閾値との差を拡大する所定の演算を施し、入力データの要素の内、値が所定の負の閾値以下の要素に、該要素の値と負の閾値との差を拡大する所定の演算を施す。虚部逆演算部352は、虚部データに対し、実部逆演算部351と同様の演算処理を行う(ステップS240)。
【0061】
受信側合成部34は、並列信号の実部データおよび並列信号の虚部データを合成し、FFT部33は、合成したデータのFFTを行い、サブキャリア変調信号を生成する(ステップS250)。並直列変換部32は、サブキャリア変調信号を並直列変換して直列信号を生成し、復調部31は、直列信号を所定の復調方式で復調する(ステップS260)。
【0062】
以上説明した原理に従って、通信機1は例えば以下のように通信を行う。サブキャリアの数が4の場合に、分解部14が生成した実部データuが下記(8)式で表されるとする。
【0064】
ここで一例として、正の閾値を3、負の閾値を−3、第1振幅係数および第2振幅係数を2とすると、実部演算部151で演算の対象となるのは上記(8)式の1行目の要素と4行目の要素である。1行目の要素に上記(2)式に基づき演算を施し、4行目の要素に上記(3)式に基づき演算を施すと、実部演算部151で演算を施した実部データvは、下記(9)式で表される。
【0066】
受信側での処理を以下に説明する。受信側分解部36が生成した並列信号の実部データrは、上記(9)式で表されるvに一致する。実部逆演算部351で演算の対象となるのは上記(9)式の1行目の要素と4行目の要素である。1行目の要素に上記(5)式に基づき演算を施し、4行目の要素に上記(7)式に基づき演算を施すと、演算を施した実部データsは、下記(10)式で表され、上記(8)式で表されるuに一致する。したがって、受信側で入力信号を復元できることがわかる。
【0068】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、OFDM通信方式において、実部データと虚部データの要素の内、値が正の閾値以上の要素および値が負の閾値以下の要素に所定の演算を施し、ベースバンド信号を生成することでPAPRを低減することが可能となる。また後述するように、PAPRを低減し、PAPRの低減の程度を制御することが可能となる。
【0069】
(具体例)
次に、シミュレーションにより本実施の形態に係る発明の効果を説明する。入力信号にランダム信号を用いて、従来技術と本実施の形態に係る発明について、ベースバンド信号を生成し、PAPRの算出を繰り返すシミュレーションを行った。変調方式としてQPSKを用い、FFTサイズを2048として、従来技術と本実施の形態に係る発明のPAPRのCCDF(Complementary Cumulative Distribution Function:相補累積分布関数)、すなわちPAPRの発生確率の特性を比較した。従来技術とは、上述のような演算を加えずにサブキャリア変調信号からベースバンド信号を生成する方法である。
【0070】
図7は、シミュレーションしたベースバンド信号のPAPRのCCDF特性と第1振幅係数および第2振幅係数との関係を示す図である。横軸はPAPR(単位:dB)、縦軸はPAPRのCCDFである。本実施の形態においては正の閾値を0.02、負の閾値を−0.02で固定し、第1振幅係数および第2振幅係数の値を変化させた。第1振幅係数および第2振幅係数は同じ値aとする。従来技術のPAPRのCCDF特性が太い実線のグラフであり、本実施の形態においてa=2.5とした場合が細い実線のグラフであり、a=2の場合が点線のグラフであり、a=1.5の場合が一点鎖線のグラフである。図に示す範囲において、本実施の形態に係る発明のPAPRはいずれの場合も従来技術と比べて低減されており、aを1に近づけることで、PAPRがより低減されることがわかる。
【0071】
図8は、シミュレーションしたベースバンド信号のPAPRのCCDF特性と閾値との関係を示す図である。横軸はPAPR(単位:dB)、縦軸はPAPRのCCDFである。本実施の形態においては、第1振幅係数および第2振幅係数を2で固定し、正の閾値および負の閾値を変えて同様のシミュレーションを行った。なお正の閾値および負の閾値の絶対値を同じ値thとする。従来技術のPAPRのCCDF特性が太い実線のグラフであり、本実施の形態においてth=0.2とした場合が細い実線のグラフであり、th=0.02の場合が点線のグラフであり、th=0.002の場合が一点鎖線のグラフである。th=0.2の場合のPAPRは従来技術と同程度であるが、th=0.02およびth=0.002の場合は、従来技術と比べてPAPRが低減されている。PAPRの低減に好適な閾値の値は、入力信号の値や信号数に依存する。FFTサイズが2048の場合には、th=0.02が好適な値であった。th=0.2の場合に、図中の一部の範囲においては本実施の形態に係る発明のPAPRは、従来技術と比較して劣化している。これは所定の条件において、ピーク電力の低減の程度よりも平均電力の低減の程度が大きくなるためである。したがって、例えばFFTサイズ2048の場合にはth=0.02を用いるように、FFTサイズに応じた好適な正の閾値および負の閾値を用いるよう構成すればよい。
【0072】
BERについて同様にシミュレーションを行った。
図9は、シミュレーションしたBER特性と第1振幅係数および第2振幅係数との関係を示す図である。横軸はEb/No(Energy per Bit to NOise power spectral density ratio:ビットエネルギー対雑音電力密度比)、縦軸はBERである。Eb/Noの単位はdBである。本実施の形態においては正の閾値を0.02、負の閾値を−0.02で固定し、第1振幅係数および第2振幅係数を変化させた。第1振幅係数および第2振幅係数は同じ値aとする。従来技術のBERはプロット点を四角で表したグラフであり、本実施の形態においてa=2.5とした場合がプロット点を三角で表したグラフであり、a=2の場合がプロット点を丸で表したグラフであり、a=1.5の場合がプロット点を菱形で表したグラフである。
【0073】
本実施の形態ではaを1に近づけるにしたがって、BERが劣化している。aを1に近づけるほど、演算を施した実部データおよび虚部データの要素の値は正の閾値または負の閾値に近づく。伝送路における雑音の影響により該要素が負の閾値より大きく、かつ、正の閾値より小さい値となってしまった場合、受信側で正しく復元されない。そのためaを1に近づけると、BERが劣化する。
【0074】
図10は、シミュレーションしたBER特性と閾値との関係を示す図である。横軸はEb/No(単位:dB)、縦軸はBERである。本実施の形態においては、第1振幅係数および第2振幅係数を2で固定し、正の閾値および負の閾値を変えて同様のシミュレーションを行った。なお正の閾値および負の閾値の絶対値を同じ値thとする。従来技術のBERはプロット点を四角で表したグラフであり、本実施の形態においてth=0.2とした場合がプロット点を三角で表したグラフであり、th=0.02の場合がプロット点を丸で表したグラフであり、th=0.002の場合がプロット点を菱形で表したグラフである。
【0075】
本実施の形態ではthを小さくするにしたがって、BERが劣化している。上述のように雑音の影響により受信側で正しく復元されない場合があるため、thを小さくして、本実施の形態の演算対象となる要素の数が増えると、BERが劣化する。
【0076】
BERは、送信電力を上げることで、改善することが可能である。また予めシミュレーションを行って、FFTサイズに応じた好適な正の閾値および負の閾値を検出することで、BERの劣化を最小限に抑えることが可能である。
【0077】
上述のシミュレーションにより、本実施の形態においては、値が正の閾値以上である要素および値が負の閾値以下である要素に所定の演算を施して、ベースバンド信号を生成することでPAPRを低減できることがわかった。また第1振幅係数、第2振幅係数、正の閾値および負の閾値を変更することでPAPRの低減の程度を制御できることがわかった。
【0078】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。変調部11の変調方式は、QPSKに限られず、QPSK以外のPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)などを用いることができる。変調部11と直並列変換部12の順序を変えて、入力信号を直並列変換してサブキャリア信号に割り当て、並列信号の各データを所定の変調方式で変調するよう構成してもよい。その場合、受信側では復調部31と並直列変換部32の順序を変えて、復調処理を行う。
【0079】
IFFT部13は、IFFTの代わりにIDFTを行うよう構成してもよいし、FFT部33は、FFTの代わりにDFTを行うよう構成してもよい。実部演算部151および虚部演算部152の演算処理は上述の実施の形態に限られず、正の閾値以上である要素の値と正の閾値との差および負の閾値以下である要素の値と負の閾値との差を縮小する演算であればよい。