(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補助軸受を備えた従来の磁気軸受スピンドル装置では、ワークを加工する工具は主軸の一端に取り付けられ、主軸を駆動する主軸モータの両側にラジアル磁気軸受が設けられ、補助軸受が主軸の両端部に設けられていた。この補助軸受は、主軸のラジアル方向(半径方向)及びアキシャル方向(軸方向)を支持し、その他に、アキシャル磁気軸受が、例えば主軸モータとラジアル磁気軸受の間に設けられていた。
【0006】
しかし上述した従来の構造では、工具と工具側のラジアル磁気軸受との間に、補助軸受が存在するため、ラジアル磁気軸受で支持する際に、工具と工具側のラジアル磁気軸受との間隔(以下「ラジアル支持間隔」)が長く、その間の弾性変形によりラジアル方向の加工精度が低下する問題点があった。
また、工具とアキシャル磁気軸受で支持されたディスクの間に、補助軸受と工具側のラジアル磁気軸受が存在するため、アキシャル磁気軸受で支持する際に、工具とアキシャル磁気軸受で支持されたディスクの間隔(以下、「アキシャル支持間隔」)が長く、その間の熱膨張により軸方向の位置精度が低下する問題点があった。
【0007】
本発明は、かかる要望を満たすために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、工具のラジアル支持間隔とアキシャル支持間隔の両方を短縮することができ、これによりラジアル方向の加工精度とアキシャル方向の位置精度を向上することができる磁気軸受スピンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、一端に工具が着脱可能に取り付けられ、軸方向に一端から他端まで延びる主軸と、
主軸をその軸心を中心に回転駆動する主軸モータと、
主軸をラジアル方向に非接触で支持する1対のラジアル磁気軸受と、
主軸をラジアル方向に接触して支持する1対のラジアル補助軸受と、
主軸をアキシャル方向に非接触で支持する1対のアキシャル磁気軸受と、
主軸をアキシャル方向に接触して支持する1対のアキシャル補助軸受と、を備え、
前記主軸は、前記一端と主軸モータとの間に半径方向に延びる円板形状のディスクを有しており、
一端側の前記ラジアル補助軸受は、ディスクの外周面を支持するように、ディスクのラジアル方向外側に設けられ、
前記1対のアキシャル磁気軸受と前記1対のアキシャル補助軸受は、ディスクの軸方向両側にそれぞれ設けられ、
一端側の前記ラジアル磁気軸受は、前記一端とディスクの間、又はディスクと主軸モータとの間に設けられる、ことを特徴とする磁気軸受スピンドル装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の構成によれば、円板形状のディスクが、主軸の一端と主軸モータとの間に位置しており、一端側(工具側)のラジアル補助軸受が、ディスクの外周面を支持するので、ディスクと工具との間には、工具側のラジアル補助軸受が存在しない。
従って、ラジアル補助軸受の軸方向長さに相当する長さ、工具とディスクの間隔(アキシャル支持間隔)を短縮することができ、その間の熱膨張量を短縮してアキシャル方向の位置精度を向上することができる。
【0010】
また、一端側(工具側)のラジアル磁気軸受が、主軸の一端とディスクの間、又はディスクと主軸モータとの間に設けられるので、工具と工具側のラジアル磁気軸受との間には、前者(主軸の一端とディスクの間)に設けられた場合には他の軸受が存在せず、後者(ディスクと主軸モータとの間)に設けられた場合でも、ディスクとこれを支持する軸受のみが存在する。
従って、いずれの場合でも、ラジアル補助軸受の軸方向長さに相当する長さ、工具と工具側のラジアル磁気軸受との間隔(ラジアル支持間隔)を短縮することができ、その間の弾性変形を低減してラジアル方向の加工精度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、従来の磁気軸受スピンドル装置の構成図である。
この図において、1は工具、2はチャック、3は主軸(スピンドル)、4は主軸モータ、5A,5Bはラジアル磁気軸受、6A,6Bはアキシャル磁気軸受、7A,7Bは変位センサ、8A,8Bは補助軸受である。
【0014】
従来の工作機械用の磁気軸受スピンドル装置では、ワークを加工する工具1はチャック2により主軸3の一端(図で左端)に取り付けられ、主軸3を駆動する主軸モータ4の両側に主軸3を非接触で支持するラジアル磁気軸受5A,5Bが設けられ、主軸3に接触して支持する補助軸受8A,8Bが主軸の両端部に設けられていた。
また、主軸3の軸方向移動を非接触で支持するアキシャル磁気軸受6A,6Bが、ディスク3aの両側に設けられ、補助軸受8A,8Bが主軸3の軸方向移動を主軸3に接触して支持するアキシャル補助軸受の機能を兼ねていた。
なおこの図でLは、ラジアル磁気軸受5A,5Bの支持距離である。
【0015】
上述した従来の構造では、工具1と工具側のラジアル磁気軸受5Aとの間に、工具側の補助軸受8Aと変位センサ7Aが存在するため、工具1(この例では先端)と工具側のラジアル磁気軸受5Aとの間隔L1(ラジアル支持間隔)が長く、その間の弾性変形によりラジアル方向の加工精度が低下する。
また、従来の構造では、工具1とアキシャル磁気軸受6A,6Bで支持されたディスク3aの間に、工具側の補助軸受8A、変位センサ7A、及びラジアル磁気軸受5Aが存在するため、工具1(この例では先端)とアキシャル磁気軸受6A,6Bで支持されたディスク3aの間隔L2(アキシャル支持間隔)が長く、その間の熱膨張により軸方向の位置精度が低下する。
【0016】
図2は、本発明による磁気軸受スピンドル装置10の第1実施形態図であり、
図3はその第2実施形態図である。
【0017】
図2、
図3において、1は工具、2はチャック、13は主軸(スピンドル)、14は主軸モータ、15A,15Bはラジアル磁気軸受、16A,16Bはアキシャル磁気軸受、17A,17Bは変位センサ、18A,18Bはラジアル補助軸受、19A,19Bはアキシャル補助軸受である。
【0018】
工具1は、例えばボールエンドミルであり、チャック2に一体的に結合されている。また、チャック2は、例えば主軸13の一端11a(工具端)に設けた図示しないインロー孔とネジ孔に結合(嵌合と螺合)するようになっており、インローとネジにより、工具1を主軸13と同心に固定できるようになっている。
なお、チャック2の構造、或いはチャック2と主軸13の結合構造は、工具1を主軸13の一端11aに着脱可能に取り付けられる限りで、この例に限定されない。
【0019】
主軸13は、工具1が取り付けられた一端11a(工具端)から、軸方向に他端11bまで延びる。また、主軸13は、その一端11aと主軸モータ14との間に半径方向に延びる円板形状のディスク13aを有している。
ディスク13aの厚さは一定であり、ディスク13aの外周面は主軸13の軸心を中心とする円筒面であるのがよい。
また、ディスク13a以外の主軸13(以下、「支持軸13b」)の外周面は、主軸13の軸心を中心とする円筒面であるのがよい。なお、この例で支持軸13bの直径は一定であるが、必要に応じて直径を変化させてもよい。
なお、
図2、
図3において、磁気軸受スピンドル装置10の主軸13は、水平に示しているが、主軸13の軸線は、水平、垂直、或いは傾斜してもよい。
【0020】
主軸モータ14は、主軸13をその軸心を中心に回転駆動するスピンドルモータである。主軸モータ14(スピンドルモータ)は、主軸13に組み込まれたロータ部(図示せず)と主軸13から第1隙間aを隔ててこれを囲むステータ部14aとからなる。第1隙間aは、主軸13を所望の高速回転(例えば6万rpm以上)で回転駆動できる限りで任意に設定される。
【0021】
図2、
図3において、主軸モータ14、ラジアル磁気軸受15A,15B、アキシャル磁気軸受16A,16B、変位センサ17A,17B、ラジアル補助軸受18A,18B、及びアキシャル補助軸受19A,19Bの外輪又は固定部は、磁気軸受スピンドル装置10の図示しないケーシング内面に固定されている。
【0022】
1対のラジアル磁気軸受15A,15Bは、主軸13をラジアル方向(半径方向)に非接触で支持する。ラジアル磁気軸受15A,15Bと主軸13との第2隙間bは、主軸モータ14の第1隙間aと同一又はこれより小さく設定されている。
変位センサ17A,17Bは、主軸13のラジアル方向(半径方向)の位置を非接触で検出する。
また、ラジアル磁気軸受15A,15Bを制御する制御装置(図示せず)を備え、変位センサ17A,17Bの検出データを基に、主軸13を各磁気軸受15A,15Bの中心位置に磁気浮上させて非接触で支持するようになっている。
【0023】
1対のアキシャル磁気軸受16A,16Bは、主軸13をアキシャル方向(軸方向)に非接触で支持する。アキシャル磁気軸受16A,16Bは、ディスク13aの軸方向両側にそれぞれ対向して設けられ、ディスク13aを各磁気軸受16A,16Bの中心位置に磁気浮上させて非接触で支持するようになっている。
ディスク13aの両面と各磁気軸受16A,16Bとの第3隙間cは、ディスク13aをアキシャル方向に非接触で支持できる限りで任意に設定される。
【0024】
この例で一端側(工具側)の変位センサ17Aは、主軸13のアキシャル方向(軸方向)の位置も非接触で検出する。
また、アキシャル磁気軸受16A,16Bを制御する制御装置(図示せず)を備え、変位センサ17Aの検出データを基に、主軸13をアキシャル磁気軸受16A,16Bの中心位置に磁気浮上させて非接触で支持するようになっている。
【0025】
1対のラジアル補助軸受18A,18Bは、主軸13をラジアル方向に接触して支持する。ラジアル補助軸受18A,18Bと主軸13との第4隙間dは、ラジアル磁気軸受15A,15Bの第2隙間bより小さく、例えばその1/2に設定されている。ラジアル補助軸受18A,18Bは、例えば玉軸受であるがその他の軸受であってもよい。
【0026】
上述した構成により、ラジアル磁気軸受15A,15Bにより主軸13を各磁気軸受15A,15Bの中心位置に磁気浮上させて非接触で支持する状態(正常な運転状態)では、主軸13の偏心量(中心位置からの半径方向変位)はラジアル補助軸受18A,18Bの第4隙間dより小さい。従って、正常な運転状態において、ラジアル補助軸受18A,18Bは主軸13と接触せず、なんら機能しない。
【0027】
一方、ラジアル磁気軸受15A,15Bが作動していない停止状態や、正常に機能していない場合には、主軸13を各磁気軸受15A,15Bの中心位置に保持できなくなり、主軸13は磁気軸受15A,15Bの中心位置から偏心する。この偏心量がラジアル補助軸受18A,18Bの第4隙間dと一致すると、ラジアル補助軸受18A,18Bの内面が主軸13に接触し、主軸13をラジアル方向に支持し、それ以上の偏心を防止することができる。
【0028】
1対のアキシャル補助軸受19A,19Bは、主軸13(のディスク13a)をアキシャル方向(軸方向)に接触して支持する。ディスク13aの両面とアキシャル補助軸受19A,19Bとの第5隙間eは、アキシャル磁気軸受16A,16Bの第3隙間cより小さく、例えばその1/2に設定されている。アキシャル補助軸受19A,19Bは、例えば玉軸受であるがその他の軸受であってもよい。
【0029】
この構成により、アキシャル磁気軸受16A,16Bによりディスク13aを磁気軸受16A,16Bの中心位置に磁気浮上させて非接触で支持する状態(正常な運転状態)では、ディスク13aの変位量(中心位置からの軸方向変位)は、アキシャル補助軸受19A,19Bの第5隙間eより小さい。従って、正常な運転状態において、アキシャル補助軸受19A,19Bはディスク13aと接触せず、なんら機能しない。
【0030】
一方、アキシャル磁気軸受16A,16Bが作動していない停止状態や、正常に機能していない場合には、ディスク13aを磁気軸受16A,16Bの中心位置に保持できなくなり、ディスク13aは磁気軸受15A,15Bの中心位置から変位する。この変位量(中心位置からの軸方向変位)がアキシャル補助軸受19A,19Bの第5隙間eと一致すると、アキシャル補助軸受19A,19Bがディスク13aに接触し、ディスク13aをアキシャル方向に支持し、それ以上の変位を防止することができる。
【0031】
図2、
図3において、一端側(工具側)のラジアル補助軸受18Aは、ディスク13aの外周面を支持するように、ディスク13aのラジアル方向外側に設けられている。
この構成により、工具側のラジアル補助軸受18Aとディスク13aが、軸方向の同一位置に位置するので、ディスク13a以外の主軸13の外周に工具側のラジアル補助軸受18Aを設ける必要性を無くすことできる。
言い換えれば、ラジアル補助軸受18Aの軸方向長さに相当する長さを、主軸モータ14の一端側(工具側)で短縮することができる。
【0032】
また
図2、
図3において、1対のアキシャル磁気軸受16A,16Bと1対のアキシャル補助軸受19A,19Bは、ディスク13aの軸方向両側にそれぞれ設けられている。
この構成により、主軸13が熱膨張する場合でも、ディスク13aの軸方向位置をアキシャル磁気軸受16A,16B及びアキシャル補助軸受19A,19Bで同一位置に位置決めすることができる。
【0033】
また、
図2において、一端側(工具側)のラジアル磁気軸受15Aは、主軸13の一端11aとディスク13aの間に設けられている。
言い換えれば、
図2において、工具側のラジアル磁気軸受15Aが、主軸13の一端側端部に設けられ、ディスク13aは、一端側のラジアル磁気軸受15Aと主軸モータ14の間に設けられている。また、この例で一端側(工具側)の変位センサ17Aは、ラジアル磁気軸受15Aとディスク13aの間に設けられている。
【0034】
この構成により、工具1と工具側のラジアル磁気軸受15Aとの間には、他の軸受が存在しない。従って、工具1(この例では先端)と工具側のラジアル磁気軸受15Aとの間隔M1(ラジアル支持間隔)を大幅に短縮することができ、その間の弾性変形を低減してラジアル方向の加工精度を向上することができる。
また、この例で、ラジアル磁気軸受15A,15Bの支持距離Mは、従来例と同等であるが、ラジアル支持間隔M1が短縮されるので、磁気軸受スピンドル装置10の全長を従来例より短縮することができる。
【0035】
また、
図3において、一端側のラジアル磁気軸受15Aは、ディスク13aと主軸モータ14との間に設けられている。
言い換えれば、
図3において、ディスク13aが、主軸13の一端側端部に設けられ、一端側のラジアル磁気軸受15Aは、ディスク13aと主軸モータ14の間に設けられている。また、この例で一端側(工具側)の変位センサ17Aは、ラジアル磁気軸受15Aと主軸モータ14の間に設けられている。
【0036】
この構成により、工具1とディスク13aとの間には、他の軸受が存在しない。従って、工具1(この例では先端)とディスク13aとの間隔M2(アキシャル支持間隔)を大幅に短縮することができ、その間の熱膨張量を大幅に低減して軸方向の位置精度を向上することができる。
また、この例で、ラジアル磁気軸受15A,15Bの支持距離Mは、その間にディスク13aがないので従来例より大幅に短縮することができ、ラジアル支持間隔M1も短縮されるので、磁気軸受スピンドル装置10の全長を従来例より短縮することができる。
【0037】
上述したように本発明の構成によれば、円板形状のディスク13aが、主軸13の一端11aと主軸モータ14との間に位置しており、一端側(工具側)のラジアル補助軸受18Aが、ディスク13aの外周面を支持するので、ディスク13aと工具1との間には、工具側のラジアル補助軸受18Aが存在しない。
従って、ラジアル補助軸受18Aの軸方向長さに相当する長さ、工具1(この例では先端)とディスク13aの間隔M2(アキシャル支持間隔)を短縮することができ、その間の熱膨張量を短縮してアキシャル方向の位置精度を向上することができる。
【0038】
また、一端側(工具側)のラジアル磁気軸受15Aが、主軸13の一端11a(工具端)とディスク13aの間、又はディスク13aと主軸モータ14との間に設けられるので、工具1と工具側のラジアル磁気軸受15Aとの間には、前者(主軸13の工具端11aとディスク13aの間)に設けられた場合には他の軸受が存在せず、後者(ディスク13aと主軸モータ14との間)に設けられた場合でも、ディスク13aとこれを支持する軸受のみが存在する。
従って、いずれの場合でも、ラジアル補助軸受18Aの軸方向長さに相当する長さ、工具1(この例では先端)と工具側のラジアル磁気軸受15Aとの間隔M1(ラジアル支持間隔)を短縮することができ、その間の弾性変形を低減してラジアル方向の加工精度を向上することができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。