(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒金属を炭素担体に担持させてなる触媒であって、前記触媒金属がPtとRuを主成分とする合金からなり、且つ、前記炭素担体が以下の(イ)〜(ニ)の条件を満たす多孔質炭素担体であることを特徴とする燃料電池用アノード触媒。
(イ)窒素BET比表面積:1500m2/g以上4000m2/g以下
(ロ)酸素含有量:1.0質量%以上10.0質量%以下
(ハ)全酸度:20μeq/g以上1000μeq/g以下
(ニ)Na2CO3水溶液の滴下量から求められる強酸性官能基量:全酸度の0.1%以上10.0%以下
前記触媒金属の担持率が10質量%以上80質量%以下であり、且つ、PtとRuの原子比がPt:Ru=4:6〜6:4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用アノード触媒。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の燃料電池用アノード触媒は、触媒金属を炭素担体に担持させてなる触媒であり、前記触媒金属は、PtとRuを主成分とする合金であって、前記炭素担体は、下記の(イ)〜(ニ)を同時に満足する多孔質炭素担体である。
(イ)窒素BET比表面積:1500m
2/g以上4000m
2/g以下
(ロ)酸素含有量:1.0質量%以上10.0質量%以下
(ハ)全酸度:20μeq/g以上1000μeq/g以下
(ニ)強酸性官能基量:全酸度の0.1%以上10.0%以下
【0021】
以下に、本発明で用いる多孔質炭素担体について、その構造を詳細に説明する。
1.担体として最適な多孔質炭素担体の定量的規定について
本発明の炭素担体に求められるのは、炭素担体の表面のOH基が触媒金属の微粒子へと移動することであり、また、そのためには炭素担体表面と触媒金属微粒子との間の接触面積が大きいことが必要である。更に、炭素担体表面がOH基で高密度に被覆されていることも必要である。
【0022】
そこで、接触面積を大きくするために、担体として多孔質炭素担体を用い、担体表面の細孔内に触媒金属微粒子をある程度の深さまで埋没させることを検討した。その結果、本発明で用いる多孔質炭素担体としては、窒素ガスの吸着等温線から求められるBET法解析による比表面積(窒素BET比表面積)が1500m
2/g以上4000m
2/g以下、好ましくは1800m
2/g以上3500m
2/g以下の多孔質炭素担体を用いることが必要であることを見出した。1500m
2/g未満では、触媒金属微粒子との接触面積が充分大きくないために、CO被毒耐性は向上しない。また、4000m
2/gを超える比表面積の多孔質炭素担体では、担体自体の電子伝導性が低下するためと推察される抵抗増加が観測され、オーム損による電圧低下を生じてしまう。
【0023】
更に、接触面積を大きくするためには、触媒金属の粒子サイズに合わせた細孔の制御も重要である。多孔質炭素担体の細孔のサイズの指標を鋭意検討した結果、窒素ガス等温吸着線より算出されるミクロ孔の平均細孔径が重要であることを見出した。具体的には、窒素ガス等温吸着特性におけるSF法解析による平均細孔径(モード平均径)d
microが、通常0.7nm以上2.0nm以下、好ましくは0.8nm以上1.5nm以下であるのがよい。平均細孔直径が0.7nm未満では、実質的に触媒金属微粒子に対して担体の細孔が小さ過ぎて、接触面積が得られない可能性がある。他方、平均細孔直径が2.0nmを超えると、細孔内に触媒金属微粒子が埋没してしまい、肝心の触媒反応の有効面積が減少し、寧ろ、出力の低下を招く可能性が高まる。
【0024】
なお、本発明において、上記の窒素BET比表面積や平均細孔径を求めるための窒素ガスの吸着等温測定に際しては、カンタクローム社(Quantachrome Instruments)のAutosorb(商品名)を用い、得られた測定値の解析には、同装置に付属のソフトウエア〔Autosorb 1 for Windows(登録商標)1.24〕を用いた。
【0025】
更に、担体として用いる多孔質炭素担体の細孔径サイズd
micro(nm)に対して、担持される触媒金属の平均粒子直径d
ave(nm)の比(d
ave/d
micro)について検討した結果、この比d
ave/d
microが1.0以上3.0以下、好ましくは1.2以上2.5以下であるのがよいことを突き止めた。ここで、触媒金属の平均粒子直径は、粉末X線回折による(110)回折線の半値幅からScherrerの式を用いて算出したものを用いている。
【0026】
SF解析法は、A. Saito and H. C. Foleyにより提案されたガス吸着等温線データに基づきミクロ孔構造を解析する理論であり、細孔直径が0.7〜2.0nmのスーパーミクロ孔(IUPACにて規定された分類)の解析として提案されたものであり、その詳細は非特許文献1に掲載されている。スーパーミクロ孔の解析にはHK法とSF法の2つが一般に広く普及しており、現在市販されている窒素ガスの吸着等温線の測定装置には、解析プログラムとして両者の解析プログラムが付属している。前者はスリット型の細孔構造の解析に適し、また、後者は円筒型の細孔構造の解析に適した解析法であるが、本発明で用いているd
microの値は、種々の多孔質材料で比較したところ、HK法とSF法の差は高々5%程度であって、両者の差は実質的に殆ど無しとみなすことが可能であり、HK法で求められた解析値を本発明に適用することも可能である。
【0027】
2.担体として最適な多孔質炭素担体の表面官能基の定量的規定について
本発明においては、多孔質炭素担体の表面がOH基で高密度に被覆されていることが必要である。本発明者らが検討した結果、下記の3つの指標による規定により、OH基で高密度に被覆される最適な表面構造を規定できることが判明した。すなわち、酸素含有量と、全酸度と、強酸性官能基量との三つの指標による表面官能基状態の規定である。
【0028】
酸素含有量は、多孔質炭素担体の表面の含酸素官能基の大まかな目安を与える。鋭意検討の結果、1.0質量%以上10.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以上6.0質量%以下であるのがよい。1.0質量%未満では、含酸素官能基の絶対量が少なくCO被毒耐性を改善するのに充分なOH基を供給することができない。他方、10.0質量%を超える酸素含有量では、表面の電子伝導性が損なわれ、担体として重要な電子伝導が維持できなくなるため、触媒担体には適用することができない。
【0029】
本発明において、この酸素含有量の測定には、有機物の元素分析に広く用いられる、いわゆる燃焼法によるC、H、N、並びにSの分析値から、残量として酸素含有量を算出した。実施例の酸素含有量もこの方法で測定したものである。
【0030】
また、全酸度は、プロトンを遊離する酸性官能基の総量を表す指標であり、表面の官能基の中で酸性官能基を定量するものである。OH基も全酸度の中に含まれ、その他に、COOH基、ラクトン基等の官能基が含まれる。一般に、炭素材料の含酸素表面官能基には、その他にカルボニル基が含まれるが、プロトン性官能基定量では定量評価できない。鋭意検討の結果、最適な全酸度は、20μeq/g以上1000μeq/g以下、好ましくは50μeq/g以上500μeq/g以下であるのがよい。全酸度が20μeq/g未満では、OH基量が少なく、CO被毒耐性を改善するのに充分なOH基を供給することができない。他方、1000μeq/gを超える全酸度では、表面の電子伝導性が損なわれ、担体として重要な電子伝導が維持できなくなるため、触媒担体には適用することができない。
【0031】
以下に説明する炭素材料表面上の酸性官能基の定量には、Boehmらの方法を用いた(非特許文献3)。
全酸度の測定には、いわゆる中和滴定法を用いる。炭素粉末を蒸留水に分散した後、沸騰させ溶存酸素を除去し、氷水浴で急冷する。そこへ、NaOH水溶液を所定量滴下し、充分に攪拌した後に、メンブレンフィルターで濾過する。濾液を塩酸で中和滴定して、終点の滴下量から消費したNaOH量を算出し、炭素単位質量当たりに換算して、全酸度を求める。
【0032】
NaOH水溶液の代わりに、Na
2CO
3水溶液を用いることにより、強酸性官能基量を求めた。Na
2CO
3水溶液は、カルボキシル基とラクトン基と反応するので、強酸性官能基量は、カルボキシル基とラクトン基の量を表す指標である。従って、全酸度から強酸性官能基量を引いた値が、OH基に対応する定量指標とみなすことが可能である。
【0033】
本発明者らが検討した結果、本発明の多孔質炭素担体の表面官能基における強酸性官能基量の最適範囲は、全酸度に対して、0.1%以上10.0%以下、好ましくは0.1%以上5%以下であるのがよい。強酸性官能基量が0.1%未満では、原因は不明であるが、CO被毒耐性の改善が発現しない。他方、強酸性官能基量が10.0%を超えると、カルボキシル基、ラクトン基等の強酸性基がOH基の作用を阻害するため、触媒担体には適用することができない。
【0034】
本発明に好適な多孔質炭素担体の酸素含有量の制御方法に特に制限はないが、例示するならば、気相処理としては、酸素含有雰囲気中での加熱処理、オゾン含有雰囲気中での加熱処理、酸素プラズマ中での(加熱)処理等を挙げることができ、また、液相での酸化処理としては、硝酸、硫酸、過酸化水素等の一般的に知られた酸化剤中で炭素材料を加熱処理する方法等を挙げることができる。これらの酸化処理後に、不活性雰囲気、還元性雰囲気中で加熱処理することにより、酸素含有量を更に制御することも可能である。
【0035】
3.担体として最適な多孔質炭素担体の製造方法について
本発明で用いる多孔質炭素担体については、上記の条件を満たすものであれば、特に制限されるものではないが、具体的な例としては、石油系や石炭系のピッチやピッチコークス、人造黒鉛、石油や石炭由来の樹脂を原料として製造された種々の炭素材料、天然植物を原料として製造された炭素材料、チャー(いわゆる炭素繊維等)を粗原料として用いていわゆる賦活処理により多孔質化された炭素材料、天然植物(ヤシガラ、竹、木材等)から製造される活性炭等を用いることができる。
【0036】
ここで、上記炭素材料の賦活処理の方法を例示するならば、空気、酸素等の酸化性雰囲気中での酸化処理、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を挙げることができる。この賦活処理の後に、更に不活性ガス、還元性ガス、アンモニアガス、酸化性ガス等のガスを、各々単独で用いた単一ガス雰囲気下に、あるいは、複数のガスを混合して用いたガス雰囲気下に、常圧状態で、あるいは、加圧状態で熱処理を行うことにより、炭素材料表面に種々の官能基を選択的に付与・制御し、窒素ガス吸着特性を制御することができる。
【0037】
また、いわゆる鋳型法(テンプレート法)を用いた多孔質炭素材料(非特許文献2参照)も本発明の多孔質炭素担体として好適に用いることができる。鋳型法による多孔質炭素材料の製造方法は、例えば、鋳型を例示するならば、メソ孔領域の多孔質材料であるメソポーラスシリカ、ミクロ孔領域の多孔質材料であるゼオライト、種々の細孔径を制御可能なコロイダルシリカ等を挙げることができる。
【0038】
特に、本発明で求められる窒素ガス等温吸着線より算出されるSF法解析による平均細孔径(モード平均径)d
microの制御には、いわゆるミクロ孔の制御が必須である。ミクロ孔の導入には、例えば、以下の製造方法を好適に用いることができる。先ず、水蒸気吸着量の絶対値を高めるために、少なくとも、比表面積(窒素ガス吸着によるBET値)については1500m
2/g以上、好ましくは2000m
2/g以上、より好ましくは2500m
2/g以上の多孔質炭素材料を作製する。電気二重層キャパシター用の市販の2000m
2/g以上の活性炭を出発原料とし、更に、炭酸ガス、水蒸気による賦活処理を施すことにより、2500m
2/g以上の比表面積を有する多孔質炭素材料を作製することができる。その上で、ミクロ孔の細孔径を更に小さくするために、不活性雰囲気中で1200℃以上2000℃以下の温度で熱処理する。
【0039】
ここで、多孔質炭素材料の熱処理は、多孔質炭素材料を構成する炭素六角網面からなる組織構造を熱により再構成し、細孔を狭めることを意図するものである。本発明の多孔質炭素担体として好適な多孔質炭素材料を得るためには、1200℃以上2000℃以下、好ましくは1200℃以上1600℃以下の温度での熱処理が好ましい。2000℃超の高温で熱処理すると、結晶性が高まり過ぎて細孔が完全に消失する虞があり、1600℃以下であれば、本発明に規定する細孔に制御し易い。また、1200℃未満では、炭素網面の再配列は生じないため、細孔の構造は変化し難い。
【0040】
本発明に規定するOH基を選択的に賦与した多孔質炭素担体を製造するには、上記の多孔質化(賦活処理)、熱処理に加えて、担体表面の酸化処理が必須である。その酸化処理の方法としては、強い酸化作用を持つ酸化剤(例えば、発煙硝酸、発煙硫酸等)の溶液中に多孔質炭素材料を浸漬させる処理を行い、引き続き、不活性雰囲気中で500〜600℃の温度に加熱する熱処理を行うことが挙げられる。また、その他の強い酸化処理として、NO
2による熱処理、NO
2と酸素の混合による熱処理等も好適に適用することができる。更に、これら両者の複合処理、他の酸化処理との複合処理も有効な手段である。例えば、多孔質炭素材料をNO
2と酸素との混合ガスの流通化で、400℃以上1200℃以下、好ましくは600℃以上1000℃以下の温度で1〜5時間処理することにより、多量の含酸素官能基を多孔質炭素材料の表面に導入することが可能であり、得られた多孔質炭素材料は本発明の多孔質炭素担体として好適である。
【0041】
特に、前記の酸化処理を施した多孔質炭素材料を不活性雰囲気中300〜600℃の温度で熱処理をした後、室温から300℃のオゾンガスフロー中で加熱する等の方法によりいわゆるオゾン酸化を行い、次いで過酸化水素水中、室温〜130℃の温度で熱処理し、更に、水素雰囲気中300〜500℃の温度で熱処理し、更に、不活性雰囲気中200〜300℃の温度で熱処理することにより、本発明の多孔質炭素担体として好適なOH基に富んだ表面構造を得ることができる。
【0042】
4.担体として最適な多孔質炭素担体の平均粒子径について
本発明の多孔質炭素担体は、その平均粒子径が10nm以上10μm以下、好ましくは50nm以上5μm以下であるのが好ましい。10nm未満では実質的なガス拡散のための細孔を触媒相中で確保することができず、他方、10μmを越える粒子径では触媒成分の触媒相中での分布が疎になり、大きな電流密度を取り出すのが難しくなることがある。
【0043】
5.触媒金属について
上述のように、本発明のアノード触媒の性能改善の本質的な機構は、従来のPt-Ru合金触媒の活性を、炭素担体の表面との相互作用により改善するものである。従って、本発明の多孔質炭素担体がPt-Ru触媒に対して担体効果を有効に発現するには、触媒金属微粒子と多孔質炭素担体との接触面積が大きいことが必要である。本発明者が鋭意検討した結果、多孔質炭素担体の平均細孔径d
microに対して、触媒金属微粒子の粒子径d
aveは、両者の比d
ave/d
microとして、1.0以上3.0以下、好ましくは1.2以上2.5以下であるのがよく、触媒金属微粒子の粒子径d
aveがこの範囲であれば、触媒のCO被毒耐性を大幅に改善することができる。この比d
ave/d
microが3.0を超えると、触媒金属粒子と炭素担体の接触面積が小さくなり、炭素担体と触媒金属微粒子と相互作用の効果が小さくなってしまう虞があり、また、1.0未満では、接触面積は大きいが、触媒微粒子が多孔質炭素材料の細孔の中に埋没して触媒として作用する有効表面積が減少するために、触媒自体の活性が低下してしまう虞がある。
【0044】
本発明の触媒金属を構成するPtとRuを主成分とする合金としては、合金を構成する元素組成においてPtとRuを併せた原子比率が80%以上を占めるものであるのが好ましい。PtとRuを併せた原子比率が80%未満では、Pt-Ru合金の持つ触媒能が低下する虞がある。PtとRu以外の成分としては、水分子との吸着性の高い成分であって、アノード触媒としての運転環境で溶出しない成分であることが好ましい。具体的に例示すると、SnO
2、TiO
2等が挙げられる。
【0045】
本発明で用いるPt-Ru合金触媒は、本来の水素酸化触媒活性が高いことと併せて、CO被毒耐性が高いことが重要であり、既に知られているPt-Ru合金を使用することが可能である。Pt-Ru合金触媒に求められるCO被毒耐性を発揮するには、Pt原子に吸着したCOを酸化するために、OHを供給するRu原子がPt原子の近傍に分散して存在することが本質的に重要であり、そのためには、Pt原子に対するRu原子の存在比率とPt-Ru合金の固溶状態が高いことの二つが重要である。前記の理由により、触媒として用いるPt-Ru合金については特に均一固溶した合金であることが望ましい。また、Pt-Ru合金と共存してPt原子だけで構成される粒子が共存することも可能である。特に3nm以下の微細なPt微粒子を共存させることにより、水素酸化活性を高めることが可能である。なお、Ruだけで構成される粒子は、それ自体で水素酸化活性がないため、Pt-Ru合金触媒と共存することは好ましくない。
【0046】
本発明の多孔質炭素担体を触媒担体として用いたときに、CO被毒耐性が高くなるPt-Ru合金触媒におけるPtとRuの合金組成は、PtとRuの原子比でPt:Ru=4:6〜6:4、好ましくは45〜60:55〜40の範囲である。Pt組成が原子比4:6よりも少ないと、水素酸化反応に対するPtの触媒活性が低下する虞がある。反対に、Ru組成が原子比6:4よりも少ないと、CO被毒耐性の特性が低下する虞がある。原子比組成の最適範囲は、多孔質炭素担体との相互作用に関連して定まるものと推察されるが、その機構の詳細は不明である。
【0047】
6.Pt-Ru合金触媒について
本発明において、Pt-Ru合金触媒の多孔質炭素担体に対する担持率については、10質量%以上80質量%以下、好ましくは20質量%以上70質量%以下、より好ましくは30質量%以上60質量%以下である。通常、触媒量一定で電極を設計するため、80質量%を超える担持率では、触媒層の厚みが薄くなり過ぎて触媒の持つ本来の性能を引き出せなくなる虞があり、また、10質量%未満の担持率では、触媒層の厚みが厚くなり過ぎてこの場合にも触媒の持つ本来の性能を引き出せなくなる虞がある。
【0048】
本発明で用いるPt-Ru合金触媒の粒子径としては、通常8nm以下、好ましくは6nm以下であるのがよい。触媒粒子の粒子径が8nm超であると、触媒として効果のあるのは触媒粒子の表面近傍が主であるため、コスト増になり好ましくない。但し、触媒粒子の粒子径が1nm未満になると、粒子径が1nm以上の場合とは触媒表面を構成する結晶面が異なるためと考えられるが、触媒活性が低下してしまうので、Pt-Ru合金触媒の粒子径の下限は1nmである。なお、ここで言う粒子径は、X線回折で評価される平均粒子径、あるいは、TEM観察等で見積もられる平均的な粒子径を指すものである。
【0049】
このようなPt-Ru合金触媒の製造方法としては、多孔質炭素担体の表面に触媒金属としてのPt-Ru合金を担持させることができれば、特に制限されるものではないが、例えば、塩化白金酸、塩化ルテニウム等の触媒金属の塩化物を始めとする触媒金属の硝酸塩、錯体等の触媒金属化合物を水に溶解して触媒金属化合物水溶液を調製し、得られた触媒金属化合物水溶液中に多孔質炭素担体を分散させると共に、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、及びエーテル類から選ばれる還元剤を添加して触媒金属化合物を還元し、多孔質炭素担体に液相吸着させることによって、白金とルテニウムを多孔質炭素担体に担持させる方法を例示することができる。
【0050】
更に、PtとRuの固溶状態を高めるために、多孔質炭素担体に触媒金属微粒子を担持させた後に、更に熱処理することが有効である。具体的には、600℃以上1200℃以下、好ましくは700℃以上1100℃以下、より好ましくは800℃以上1000℃以下の温度で、1分以上1時間以下の熱処理である。600℃以上の温度は原子レベルの固溶状態を高めるために必要であり、また、1200℃を超える熱処理は、触媒担体として用いる多孔質炭素担体の表面構造、特に、細孔構造を変化させることがあるので好ましくない。また、熱処理の際の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、あるいは水素等を含んだ還元性雰囲気が好ましい。更に、熱処理は、触媒金属微粒子同士の凝集を防ぐ目的で、上記の1分以上1時間以下の範囲内で短時間処理することが重要であり、1分未満では有効な固溶状態に達せず、また、1時間超では触媒金属微粒子同士が凝集して粒子径が大きくなってしまい、活性が低下してしまう。
【0051】
更に、120℃〜600℃未満の温度域で所定時間の加熱を行う熱履歴処理も触媒金属微粒子の凝集を防ぐ上で有効である。この熱履歴処理の加熱時間については、具体的には、60分以下、好ましくは30分以下、更に好ましくは20分以下とすることが好ましい。上記の温度域に晒される時間が60分を超えると、粒子同士が凝集合体して粗大粒子化するため好ましくない。
【0052】
7.固体高分子形燃料電池の触媒層とその製造方法について
本発明の固体高分子形燃料電池で用いられる触媒層は、前記Pt-Ru合金触媒の他に、電解質材料としてプロトン伝導性樹脂を含むが、このプロトン伝導性樹脂の種類や形態については特に限定されるものではない。また、本発明においては、多孔質炭素担体からなるPt-Ru合金触媒とプロトン伝導性樹脂とに加えて、保湿性を高めるための金属酸化物微粒子や、撥水性を高めるためのテトラフルオロエチレン等の樹脂を添加し分散させた触媒層も好適に用いることができる。なお、本発明で用いるプロトン伝導性を有する電解質材料としては、デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるスルホン酸基を導入したフッ素系高分子や、リン酸基、スルホン酸基等が導入された炭化水素系の高分子、例えば、ベンゼンスルホン酸が導入されたポリイミド等の高分子等を挙げることができる。
【0053】
本発明において、固体高分子形燃料電池で用いる触媒層については、本発明の多孔質炭素担体を用いたPt-Ru合金触媒を含むものであれば、その製造方法は特に限定されないが、本発明のPt-Ru合金触媒と前記プロトン伝導性を有する電解質材料の入った溶媒からなる触媒層スラリーを作製し、テフロン(登録商標)シート等の高分子材料、ガス拡散層、又は、電解質膜に塗布し、乾燥する方法が例として挙げられる。上記の触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シート等の高分子材料に塗布した場合には、触媒層と電解質膜とが接触するように2枚のテフロン(登録商標)シート等の高分子材料で電解質膜を挟み、ホットプレスで触媒層を電解質膜に定着させた後、更に2枚のガス拡散層で挟んでホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を作製する方法を例として挙げることができる。また、ガス拡散層に上記の触媒層スラリーを塗布した場合には、触媒層と電解質膜とが接触するように2枚のガス拡散層で電解質膜を挟み、ホットプレス等で触媒層を電解質膜に圧着させる方法等でMEAを作製することができる。電解質膜に触媒層を塗布した場合には、触媒層とガス拡散層とが接触するように2枚のガス拡散層で挟み、触媒層をガス拡散層に圧着させる方法等でMEAを作製することができる。
【0054】
触媒層スラリーに用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0055】
ガス拡散層の機能としては、セパレーターに形成されたガス流路から触媒層までガスを均一に拡散させる機能と、触媒層とセパレーターとの間に電子を伝導する機能とが求められるので、このガス拡散層を形成する主な構成材料としては、最低限、これらの機能を有していれば、特に限定されるものではないが、一般的な例として、例えばカーボンクロスやカーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。
【0056】
ガス拡散層の触媒層に接する側に、マイクロポア層と呼ばれる数μmから数十μmの厚みのカーボンブラックを主成分とするガス拡散の補助層を設けることができる。この補助層におけるマイクロポア層の機能は、数μmから数十μmの細孔構造を持つガス拡散層により拡散されたガスをサブミクロン以下の細孔を有する触媒層へ均質かつ円滑に供給することにあり、例えば触媒層と同一の構造体であるカーボンブラックにより形成される。このような目的で用いられるカーボンブラックに求められる物性としては、撥水性であること、化学的・電気化学的に安定であること、触媒層と同等の細孔分布を持つことである。撥水性を高めるために、カーボンブラックの結晶性を高めることも有効である。
【0057】
8.固体高分子形燃料電池とその製造方法について
上述のガス拡散層を両極に装着したMEAを、いわゆるガス流通経路のための溝を有するセパレーターで挟み込むことにより、固体高分子形燃料電池(単位セル)を製造することができる。固体高分子形燃料電池を作動させる温度、供給する燃料(水素ガス)、及び酸化剤である空気(酸素)のガス流通量と、ガスと共に供給する水蒸気量とを制御することにより、用途に応じた出力特性を有する高効率な固体高分子形燃料電池を調製することができる。特に、本発明の多孔質炭素担体を用いたPt-Ru合金触媒を使用することにより、低加湿条件でも良好な出力特性を発揮させることができる。
【実施例】
【0058】
次に、具体的な実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
<多孔質炭素担体の調製>
〔多孔質炭素担体A-1〜A-6〕
ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製、30nm程度の粒子径の球状炭素が数個〜10個程度連なった構造)を、CO
2流通下に1150℃及び1.5時間の処理条件で賦活処理して調製したものを炭素材料Aとした。
【0059】
この炭素材料Aを、アルゴン雰囲気中1500℃及び1時間の条件で加熱処理したものをA-1とし、また、処理温度を600℃とした以外は上記と同じ条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体A-2とした。
【0060】
また、炭素材料Aを42%-硝酸水溶液中に分散させ、撹拌しながら150℃にセットしたホットプレート上で3時間処理(以下、この処理を「熱硝酸処理」と称する。)した後に、アルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体A-3とした。
【0061】
更に、炭素材料Aをアルゴン雰囲気中1100℃及び1時間の条件で加熱処理したものをA-4とし、また、炭素材料Aを熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中1100℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体A-5とした。
【0062】
更にまた、炭素材料Aを熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理し、次いで、常温でオゾン酸化処理を5時間行った後、H
2O
2水溶液に分散してホットプレートで加熱して60℃以下に保ちながら5時間処理し、最後にアルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体A-6とした。
【0063】
上記の常温でのオゾン酸化処理以降の処理により、OH基をより多く炭素材料表面に富化することができ、この処理により本発明で規定する物性を満たす多孔質炭素担体を調製することができた。以下、この処理を「OH富化処理」と称する。上述の処理で得られた多孔質炭素担体の物性を表1に示す。なお、オゾン酸化処理においては、オゾン濃度約20g/m
3の酸素ガスフロー中80℃及び3時間の条件で、多孔質炭素材料を酸化処理した。
【0064】
〔多孔質炭素担体B、C、D〕
LPC-U(新日鐵化学社製)を平均粒子径2.1μmに粉砕したもの3gと特級試薬KOH (和光純薬社製)12gとを混合し、得られた混合物をニッケル材質の円筒容器に挿入し、不活性ガス流通雰囲気下に600℃及び3時間の条件で処理する、いわゆるアルカリ賦活処理を実施した。生成した反応物に含まれるアルカリ金属をエタノールで処理した後、蒸留水に分散させ充分に攪拌した後に濾過し、90℃で真空乾燥して多孔質炭素担体Bを調製した。
【0065】
また、アルカリ賦活処理の際の処理温度を700℃とし、処理時間を5時間に変えたこと以外は、前記と同一の条件で処理して、多孔質炭素担体Cを調製した。
更に、アルカリ金属の種類をNaOHに変更し、アルカリ賦活処理の際の処理温度を750℃とし、処理時間を10時間に変えたこと以外は、多孔質炭素Bと同一の条件で処理して、多孔質炭素担体Dを調製した。
【0066】
上記の多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中1200℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-1とし、また、多孔質炭素担体Bを熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中1300℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-2とし、更に、多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中1300℃及び1時間の条件で加熱処理した後に30%-過酸化水素水中に分散させ、常温で一晩攪拌処理(以下、「過酸化水素処理」と称する。)したものを多孔質炭素担体B-3とし、この多孔質炭素担体B-3を400℃及び1時間の条件でアルゴン処理したものを多孔質炭素担体B-4とし、そして、多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-5とした。
【0067】
また、上記の多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中1300℃1時間の条件で加熱処理した後に熱硝酸処理し、更にアルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-6とし、多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中1050℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-7とし、多孔質炭素担体Bを熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中800℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-8とし、多孔質炭素担体Bを熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中900℃及び1時間の条件で加熱処理し、更に上述のOH富化処理したものを多孔質炭素担体B-9とし、多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中900℃及び1時間の条件で加熱処理した後にOH富化処理したものを多孔質炭素担体B-10とし、多孔質炭素担体Bをアルゴン雰囲気中1250℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体B-11とした。
【0068】
更に、上記の多孔質炭素担体B-8の調製時と同様の処理方法で多孔質炭素担体Bを処理する際に、熱硝酸処理時の処理時間を短くしたものを多孔質炭素担体B-12とし、熱硝酸処理時の処理時間を短くすると共に、アルゴン雰囲気中での加熱処理時の熱処理温度を850℃に変えたものをB-13とし、熱硝酸処理後のアルゴン雰囲気中での加熱処理時の熱処理温度を750℃にしたものを多孔質炭素担体B-14とし、また、熱硝酸処理時の処理時間を長くしたものを多孔質炭素担体B-15とし、更に、熱硝酸処理時の処理時間を長くすると共に、アルゴン雰囲気中での加熱処理時の熱処理温度を750℃にしたものを多孔質炭素担体B-16とした。
上述の処理で得られた多孔質炭素担体B及びB-1〜B-16の物性を表2に示す。
【0069】
上記の多孔質炭素担体CとDに対して、アルゴン雰囲気中1300℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体C-1、D-1とし、また、熱硝酸処理した後、アルゴン雰囲気中で600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体C-2、D-2とし、熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中800℃及び1時間の条件で加熱処理し、次いでOH富化処理したものを多孔質炭素担体C-3、D-3とし、また、熱硝酸処理せずにアルゴン雰囲気中900℃及び1時間の条件で加熱処理し、次いでOH富化処理したものを多孔質炭素担体C-4、D-4とし、更に、アルゴン雰囲気中1250℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体C-5、D-5とした。
【0070】
また、上記の多孔質炭素担体C-3、D-3の調製時と同様の処理方法で多孔質炭素担体C、Dを処理する際に、熱硝酸処理の処理時間を短くすると共に、熱処理温度を850℃に変えたものを多孔質炭素担体C-6、D-6とし、熱硝酸処理後のアルゴン雰囲気中での加熱処理時の熱処理温度を750℃にしたものを多孔質炭素担体C-7、D-7とし、また、熱硝酸処理の処理時間を長くしたものを多孔質炭素担体C-8、D-8とし、更に、熱硝酸処理の処理時間を長くすると共に、熱処理温度を750℃にしたものを多孔質炭素担体C-9、D-9とした。
【0071】
そして、上記の多孔質炭素担体D-8の調製時と同様の処理方法で多孔質炭素担体Dを処理する際に、熱硝酸処理後のアルゴン雰囲気中での加熱処理時の熱処理温度を850℃、900℃に変えたものを各々多孔質炭素担体D-10、D-11とし、また、上記の多孔質炭素担体D-10の調製時と同様の処理条件で多孔質炭素担体Dを処理する際に、OH富化処理の工程で、オゾン酸化処理の処理時間を10時間、20時間に変更したものを各々多孔質炭素担体D-12、D-13とし、また、H
2O
2水溶液での処理時間を10時間、20時間に変更したものを各々多孔質炭素担体D-14、D-15とした。
上述の処理で得られた多孔質炭素担体C及びC-1〜C-9の物性を表3に、また、多孔質炭素担体D及びD-1〜B-15の物性を表4にそれぞれ示す。
【0072】
〔多孔質炭素担体E〕
「炭素材料の新展開 学振第117委員会 六十周年記念出版」(ISBN 978-4-9903439-0-3)の第28項に記載されたY型ゼオライトを鋳型として合成した炭素材料の合成法に倣って、多孔質炭素担体Eを合成した。
【0073】
上記の多孔質炭素担体Eに対して、アルゴン雰囲気中1000℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体E-1とし、また、この際の熱処理温度を500℃、800℃に変更して得られたものを各々多孔質炭素担体E-2、E-3とした。また、多孔質炭素担体Eに対して、熱硝酸処理した後にアルゴン雰囲気中600℃及び1時間の条件で加熱処理したものを多孔質炭素担体E-4とし、この多孔質炭素担体E-4を更にOH富化処理したものを多孔質炭素担体E-5とした。
【0074】
上記の多孔質炭素担体E-5の調製時と同様の処理条件で多孔質炭素担体Eを処理する際に、熱硝酸処理後のアルゴン雰囲気中での熱処理温度を550℃に変更したものを多孔質炭素担体E-6とし、また、上記の多孔質炭素担体E-1の調製時と同様の処理条件で多孔質炭素担体Eを処理する際に、熱処理温度を900℃に変更したものを多孔質炭素担体E-7とし、更に、上記の多孔質炭素担体E-4の調製時と同様の処理条件で多孔質炭素担体Eを処理する際に、熱硝酸処理後のアルゴン雰囲気中での熱処理温度を900℃に変更したものを多孔質炭素担体E-8とし、また、この多孔質炭素担体E-8を更にOH富化処理したものを多孔質炭素担体E-9とした。そして、上記の多孔質炭素担体E-7を更にOH富化処理したものを多孔質炭素担体E-10とし、また、多孔質炭素担体E-1の調製時と同様の処理条件で多孔質炭素担体Eを処理する際に、熱処理温度を1400℃に変更したものを多孔質炭素担体E-11とした。
炭素材料Eと上記の処理により調製した多孔質炭素担体E-1〜E-11の物性を表5に示す。
【0075】
<Pt-Ru合金触媒の調製>
塩化白金酸水溶液中に、触媒担体として上述のようにして調製された多孔質炭素担体を分散し、50℃に保温し、撹拌しながら過酸化水素水を加え、次いでNa
2S
2O
4水溶液を添加して触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を濾過し水洗して乾燥した後に、100%-H
2気流中300℃及び3時間の条件で還元処理を行い、Pt触媒を調製した。
【0076】
更に、塩化ルテニウム(RuCl
3水和物)水溶液にメタノールを添加して混合し、充分に攪拌し、得られた塩化ルテニウム溶液中に上で得られたPt触媒を分散させ、更に、NaOH水溶液を滴下してpHを5.5に調整し、その後、得られた混合物を、オイルバスで50℃に保温した状態で、攪拌しながら一晩反応させた。
【0077】
反応終了後、得られた反応混合物をメンブレンフィルターで濾過して固形分を回収し、次いでこの固形分を再び水に分散させて水洗し、再び濾過して80℃で真空乾燥し、Pt-Ru触媒を得た。
次に、このようにして得られたPt-Ru触媒を合金化させるために、アルゴン(不活性ガス)雰囲気中900℃及び5〜30分間の条件で熱処理を行い、Pt-Ru合金触媒を調製した。
【0078】
このようにして得られたPt-Ru合金触媒を燃料電池のアノード触媒に適用した。また、Pt-Ru合金触媒におけるPtとRuの組成比(Pt/Ru)と、Pt-Ru合金の担持率とは、多孔質炭素担体に対するPt原料の仕込み量の調整とその後のRu原料の仕込み量の調整とで制御した。
【0079】
なお、正極の白金触媒については、触媒担体として多孔質炭素担体A-1を用いて調整した上記のPt触媒をそのまま使用した。また、この正極の白金触媒については、全て同一バッチのものを用い、調製された単位セルの間で正極による差が出ないようにした。
【0080】
<触媒インクの調製>
上記で調製したPt-Ru合金触媒を容器に取り、これに5%-ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を加え、軽く撹拌後、超音波洗浄器に容器を入れて触媒を分散させた。更に撹拌しながら酢酸ブチルを加え、触媒とナフィオンとの合計の固形分濃度が2質量%となるように調整し、触媒とナフィオンとが凝集した触媒インクを調製した。なお、この触媒インクの調製に際しては、Pt-Ru合金触媒中の多孔質炭素担体の1質量部に対して、ナフィオンが1.5質量部となる比率で混合した。また、この調製方法はアノード触媒の調製とカソード触媒の調製の両方に共通して適用した。
【0081】
<ガス拡散炭素材料インクの調製>
容器にガス拡散炭素材料としてケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)を取り、この炭素材料の濃度が2質量%になるように酢酸ブチルを加え、超音波で炭素材料を解砕し、ガス拡散炭素材料が凝集したガス拡散炭素材料インクを調製した。
【0082】
<塗布インクの作製>
触媒インクとガス拡散炭素材料インクを混合し、固形分濃度が2質量%の塗布インクを作製した。ここで、特に記述がない限り、ガス拡散炭素材料は、触媒成分を除いた全固形分1質量部に対して0.05質量部の比率になるように混合した。
【0083】
<触媒層の作製>
触媒層の作製に際し、Pt-Ru合金触媒を用いて調製した塗布インクをアノード触媒インクとして用い、また、上記の正極用の白金触媒を用いて調製した塗布インクをカソード触媒インクとして用いた。アノード触媒インク、あるいは、カソード触媒インクをテフロン(登録商標)シートにそれぞれスプレーした後、アルゴン雰囲気中80℃及び10分間の条件で乾燥し、続いてアルゴン雰囲気中120℃及び60分間の条件で乾燥し、それぞれアノード触媒層、カソード触媒層を作製した。
【0084】
作製された各触媒層の白金目付け量は、作製したテフロン(登録商標)シート上の触媒層を3cm角の正方形に切り取って質量を測定し、その後、触媒層をスクレーパーで剥ぎ取った後のテフロン(登録商標)シート質量を測定し、先の質量との差分から触媒層質量を算出し、触媒インク中の固形分中の白金が占める割合から計算により求め、白金目付け量が0.20mg/cm
2になるようにスプレー量を調整した。
【0085】
<MEAの作製>
作製したアノード触媒層とカソード触媒層を用いてMEA(膜電極複合体)を作製した。
ナフィオン膜(デュポン社製N112)については6cm角の正方形に切り取り、また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード触媒層とカソード触媒層とについては、それぞれカッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。これらアノード触媒層とカソード触媒層との間にナフィオン膜を挟み込み、この際に各触媒層がアノード及びカソードとしてナフィオン膜の中心部を挟んで互いに正対する位置関係にずれが無いようにし、120℃、100kg/cm
2及び10分間の条件でプレスした。その後常温まで冷却した後、アノード側及びカソード側共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取り、アノード及びカソードの触媒層がナフィオン膜に定着した触媒層定着ナフィオン膜を得た。
【0086】
次に、ガス拡散層として市販のカーボンクロス(E-TEK社製LT1200W)を2.5cm角の正方形に切り取り、得られた2枚のカーボンクロスの間に、アノードとカソードの位置関係にずれが無いように、先に作製した触媒層定着ナフィオン膜を挟み込み、120℃、50kg/cm
2及び10分間の条件でプレスし、MEAを作製した。なお、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの質量とプレス後に剥がしたテフロン(登録商標)シートの質量との差から定着した触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より白金目付け量を算出し、0.2mg/cm
2であることを確認した。
【0087】
<燃料電池の性能評価の際の条件>
以上のようにして作製したMEAを用いて単位セル(燃料電池)を構成し、それぞれ燃料電池測定装置に組み込み、燃料電池の性能評価を次の手順で行った。
【0088】
最初に、以下の条件を「純水素出力」の代表的な条件として性能評価を行った。供給ガスとしては、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ30%と60%となるように供給した。なお、供給ガスはフローで評価し、特にセル下流に設けられた背圧弁での圧力調整はしなかった。セル温度は80℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ80℃に保温された蒸留水中でバブリングを行って加湿した。このような条件でセルにガスを供給した後、200mA/cm
2まで約2時間かけて負荷を徐々に増加していき、200mA/cm
2に到達した時点で負荷を固定し、その後120分経過後のセル端子間電圧を「純水素出力」として記録した。
【0089】
次に、以下の条件を「CO耐性評価」の代表的な条件として性能評価を行った。上述の「純水素出力」評価の運転のまま、アノード側の供給ガスだけをCO含有水素に切り替えた。この際の操作は、先ず、アノード側に500ppmのCOガスを混合した水素ガスを流し、120分経過後の出力を計測し、「CO 500ppm出力」として記録した。また、COガス濃度を2000ppmに高めた供給ガスを順次アノード側に流し、120分経過後の出力を各々計測し、「CO 2000ppm出力」として記録した。更に、純水素出力に対する各CO濃度の時の出力の減少幅を「低下出力電圧」として記録した。
【0090】
<評価結果-1>
触媒担体として多孔質炭素担体A-1〜A-6を用い、上記のPt-Ru合金触媒の調製方法に従ってPt-Ru合金触媒A-1〜A-6を合成し、これらのPt-Ru合金触媒A-1〜A-6をアノードに用いて、上述の方法に従ってMEAを作製し、上述の方法で発電特性を評価した。なお、Pt/Ruの原子比は、50/50となるように調製した。また、Pt-Ru合金触媒A-1〜A-6の担持率は、何れの場合も50質量%となるように調製した。結果を表1に示す。
【0091】
表1に示す結果から明らかなように、用いられたPt-Ru合金触媒A-1〜A-6は何れも本発明の規定から外れる触媒であり、CO被毒耐性を表わす低下出力電圧が大きく、特に、CO濃度2000ppmにおける低下出力電圧は600mVを超え、出力を取ることが困難な状況であった。
【0092】
<評価結果-2>
触媒担体として多孔質炭素担体B、B-1〜B-16を用いたこと以外は、評価結果-1と同様にして、Pt-Ru合金触媒B、B-1〜B-16を調製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
表2に示す結果から、本発明の規定を満たすPt-Ru合金触媒B-9及びB-12〜B-16をアノード触媒として用いた燃料電池は、優れた耐CO被毒特性を示すことが明確に見て取れる。
【0094】
<評価結果-3>
触媒担体として多孔質炭素担体C、C-1〜C-9を用いたこと以外は、評価結果-1と同様にして、Pt-Ru合金触媒C、C-1〜C-9を調製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0095】
表3に示す結果から、本発明の規定を満たすPt-Ru合金触媒C-3及びC-6〜C-9をアノード触媒として用いた燃料電池は、優れた耐CO被毒特性を示すことが明確に見て取れる。
【0096】
<評価結果-4>
触媒担体として多孔質炭素担体D、D-1〜D-9を用いたこと以外は、評価結果-1と同様にして、Pt-Ru合金触媒D、D-1〜D-9を調製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0097】
更に、多孔質炭素担体D-10〜D-15を触媒担体として用い、Pt-Ru合金触媒の担持率が50質量%で、Pt/Ru原子比が40/60となるように調製したこと以外は、上記の評価結果-1と同様にして、Pt-Ru合金触媒D-10〜D-15を調製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0098】
表4に示す結果から、本発明の規定を満たすPt-Ru合金触媒D-3、D-6〜D-9、及びD-10〜D-15をアノード触媒として用いた燃料電池は、優れた耐CO被毒特性を示すことが明確に見て取れる。
【0099】
<評価結果-5>
触媒担体として多孔質炭素担体E、E-1〜E-11を用いたこと以外は、評価結果-1と同様にして、Pt-Ru合金触媒E、E-1〜E-11を調製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0100】
表5に示す結果から、本発明の規定を満たすPt-Ru合金触媒E-9をアノード触媒として用いた燃料電池は、優れた耐CO被毒特性を示すことが明確に見て取れる。
【0101】
<評価結果-6>
触媒担体として多孔質炭素担体D-10を用い、Pt-Ru合金触媒の担持率をそれぞれ50質量%、30質量%、及び15質量%とし、また、Pt/Ru原子比が50/50となるように調製したものをそれぞれPt-Ru合金触媒D-16、D-17、及びD-18とした。また同様に、触媒担体として多孔質炭素担体D-10を用い、Pt-Ru合金触媒の担持率を40質量%とし、また、Pt/Ru原子比が30/70、40/60、60/40、及び70/30となるように調製したものをそれぞれPt-Ru合金触媒D-19、D-20、D-21、及びD-22とした。
【0102】
これらのPt-Ru合金触媒D-16〜D-22を用いて、評価結果-1と同様にして評価を行った。結果を表6に示す。
表6に示す結果から、本発明の規定を満たすPt-Ru合金触媒D-16〜D-22をアノード触媒として用いた燃料電池は、いずれも良好な耐CO被毒特性を示した。特に、PtとRuの原子比(Pt/Ru)が4:6〜6:4の範囲内であるPt-Ru合金触媒D-16〜D-18、D-20、及びD-21はより優れた耐CO被毒特性を示している。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】