特許第5862695号(P5862695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

<>
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000004
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000005
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000006
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000007
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000008
  • 特許5862695-電極材料の製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862695
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20160202BHJP
   H01H 1/025 20060101ALI20160202BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20160202BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20160202BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160202BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   H01H33/664 B
   H01H1/025
   H01H11/04 D
   C22C27/06
   C22C9/00
   B22F1/00 L
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-9952(P2014-9952)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-138681(P2015-138681A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2015年3月19日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】石川 啓太
(72)【発明者】
【氏名】北寄崎 薫
(72)【発明者】
【氏名】林 将大
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−232971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/664
B22F 1/00
C22C 9/00
C22C 27/06
H01H 1/025
H01H 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜50重量%の、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満であるCr粉末と、1〜10重量%の、粒子径が30μm以下である耐火性金属粉末と、残部であるCu粉末と、を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加圧成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空遮断器等の電極に用いられる電極材料及び電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅−モリブデン−クロム(以下、Cu−Mo−Crと記述する)複合金属は、従来から知られている銅−ビスマス(Cu−Bi)複合金属や銅−タングステン(Cu−W)複合金属等と比較して、耐溶着性が良好であることに加え、電流遮断能力や絶縁耐力等の電気的特性が優れた真空遮断器の電極材料として知られている(例えば、特許文献1−3)。
【0003】
このCu−Mo−Cr複合金属を用いて高品質、高性能な電極材料を製造する方法として、焼結法(例えば、特許文献2)や溶浸法(例えば、特許文献3)が提案されている。
【0004】
焼結法では、複数の高融点金属(例えば、MoとCr)の混合粉末をCuの融点以上に加熱する仮焼結工程と、仮焼結工程で得られる反応生成物(例えば、MoCr合金組成の仮焼結体)を粉砕してCu粉末と混合する混合工程と、混合工程で得られる混合粉末を加圧成形した成形体を非酸化性雰囲気にてCuの融点以下に加熱する焼結工程と、により電極材料を製造している。
【0005】
また、溶浸法では、Mo粉末とCr粉末とを均一に混合する混合工程と、混合工程で得られる混合物を加圧成形する成形工程と、成形工程で得られる成形体を1100〜1200℃の温度で焼結する仮焼結工程と、仮焼結工程で得られる仮焼結体上にCu薄板を配置し、1100〜1200℃の温度に保持して仮焼結体中にCuを液相焼結させて溶浸させるCu溶浸工程と、により電極材料を製造している。溶浸法は、高電圧大容量、多頻度遮断特性が要求される真空遮断器の電極材料の製造に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−27418号公報
【特許文献2】特開平4−334832号公報
【特許文献3】特開2012−7203号公報
【特許文献4】特開2002−373537号公報
【特許文献5】特開2002−180150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、焼結法では、仮焼結工程を行う時間が必要であることや、仮焼結体を粉砕する際には、粉砕雰囲気を管理した環境にて粉砕及び分級を行うので、電極材料の製造コストが高くなるおそれがある。
【0008】
また、溶浸法は、仮焼結工程やCu溶浸工程等を行うため、電極材料の製造コストが高くなるおそれがある。
【0009】
Cuを主成分とし高融点金属を1種類含有する電極材料により電極接点を製造する場合、Cu粉末及び高融点金属粉末(例えば、Cr粉末)を混合し、プレス焼結にて電極接点が製造される。これに対して、特許文献3に記載されているように、Cuを主成分とし高融点金属を2種類以上含有する電極材料により電極接点を製造する場合には、ただ単に高融点金属粉末を混合し、プレス焼結する方法では、電極材料内部に気孔が多く存在し、電極接点として使用できない。
【0010】
電極材料内部に気孔が多く存在する理由として、焼結によってCrからMoへの拡散がおこることでCr粒子が小さくなり、その部分が空隙となることや、焼結に伴う収縮により加圧成形体の空隙部がCuで埋まらないことが考えられる。内部に空隙が存在する電極材料により製造された電極接点は、ろう材が電極接点に浸入する等の理由により、電極接点と電極棒とのろう付けが不良となるおそれが生じる。
【0011】
このように、電極材料の耐電圧性等の電気的特性を向上するために耐電圧性に優れた高融点金属を添加する技術が提案されているが、製造コストが増加する等の理由により、真空遮断器等の製品に適用することができない場合が少なくない。そこで、比較的低コストで製造することが可能で、耐電圧性等の電気的特性に優れた電極材料が求められている。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、電極材料の耐電圧性の向上に貢献する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の電極材料の一態様は、10〜50重量%の、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満であるCr粉末と、1〜10重量%の耐火性金属粉末と、を含有し、残部がCu粉末と不可避的不純物である混合物を、加圧成形して焼結したことを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の他の態様は、上記電極材料において、前記耐火性金属は、Mo、W、Nb、Ta、V、Zr、Be、Hf、Ir、Pt、Ti、Si、Rh及びRuのいずれかから選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の他の態様は、上記電極材料において、前記耐火性金属粉末の粒子径は、30μm以下であることを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の他の態様は、上記電極材料において、前記Cr粉末の平均粒子径は、150μm以下であることを特徴としている。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法の一態様は、10〜50重量%の、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満であるCr粉末と、1〜10重量%の耐火性金属粉末と、残部であるCu粉末と、を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加圧成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、を有することを特徴としている。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の真空インタラプタの一態様は、真空容器内に、固定電極と、当該固定電極に離接可能に対向配置される可動電極とを設けた真空インタラプタであって、前記固定電極と前記可動電極の少なくとも一方の電極を、10〜50重量%の、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満であるCr粉末と、1〜10重量%の耐火性金属粉末と、を含有し、残部がCu粉末と不可避的不純物である混合物を、加圧成形後、焼結して形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
以上の発明によれば、電極材料の耐電圧性の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る真空インタラプタの概略断面図である。
図2】Cr粉末Aの粒度分布の測定結果である。
図3】Cr粉末Bの粒度分布の測定結果である。
図4】(a)従来技術に係る電極材料の断面の顕微鏡写真、(b)実施例3の電極材料の断面の顕微鏡写真である。
図5】電極材料の充填率とMo含有率との関係を示す特性図である。
図6】電極材料の耐電圧性とMo含有率との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る電極材料及び電極材料の製造方法並びに真空インタラプタについて、図を参照して詳細に説明する。
【0022】
発明者らは、Crの粒度、焼結時のCrの拡散を考慮し、最適な焼結温度及びCu、Cr、Moの配合量から耐電圧向上の検討をし、本発明の完成に至ったものである。
【0023】
本発明の実施形態に係る電極材料及び電極材料の製造方法は、Cu粉末、Cr粉末及び耐火性金属粉末を混合した混合粉体を加圧成形し、得られた加圧成形体を非酸化性雰囲気にてCuの融点以下の温度で焼成することで、比較的低コストで耐電圧性に優れた電極材料を製造するものである。
【0024】
具体的には、混合粉体に混合するCr粉末として、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満のCr粉末を用いることで、実質的に焼結後の充填率が90%以上であって、Cu相にCrと耐火性金属の固溶体が分散している組織を有する電極材料を製造することができる。
【0025】
Cu粉末は、例えば、市販の電解銅粉末を用いる。Cu粉末の形状は、必ずしも樹枝状である必要はなく、例えば、アトマイズ粉のような球状でも、不規則形状であってもよい。
【0026】
Cr粉末は、例えば、平均粒子径150μm以下(ただし、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満)のものを使用する。Cr粉末は、10wt%以上50wt%以下の範囲、より好ましくは、20wt%以上30wt%以下の範囲で混合粉体に混合することで、耐電圧性に優れた電極材料を製造することができる。Cr粉末の混合量が20wt%以上30wt%以下の範囲である電極材料は、例えば、12〜36kV定格の真空インタラプタ(VI)に最適な電極材料となる。
【0027】
Mo粉末は、粒径が30μm以下のMo粉末、より好ましくは、最大粒径が4μm未満のMo粉末を使用する。Mo粉末は、1wt%以上10wt%以下の範囲、より好ましくは5wt%以上7wt%以下の範囲で混合粉体に混合することで、耐電圧性に優れた電極材料を製造することができる。なお、実施例では、耐火性金属として、Moを例示して説明するが、Moと同様に、耐火性を有し、Cr粒子を微細にする特性(すなわち、電極材料に空隙を形成する要因となり得る特性)を有する金属をMo粉末の替わりに用いても、同様の効果を得ることができる。このような耐火性金属としては、例えば、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等を挙げることができる。
【0028】
混合粉体は、焼結法で一般的に用いられる成形圧力(例えば、1〜4t/cm2)で成形し成形体とする。この成形体を、非酸化性雰囲気中(例えば、水素雰囲気中や真空雰囲気中)で、Cuの融点(1083℃)以下の温度で焼結し、焼結体を得る。なお、Mo粉末の粒径は、フィッシャー法によって測定された値を示し、Cr粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された値を示す。また、粉末の粒子の上限が定められている場合は、篩により分級された粉末であることを示す。
【0029】
なお、本発明の実施形態に係る電極材料を用いて真空インタラプタを構成することができる。図1に示すように、本発明の実施形態に係る真空インタラプタは、真空容器2と、固定電極3と、可動電極4とを有する。
【0030】
真空容器2は、絶縁筒5の両開口端部を固定側端板6及び可動側端板7でそれぞれ封止されることで構成される。
【0031】
固定電極3は、固定側端板6を貫通した状態で固定される。固定電極3の一端は、真空容器2内で、可動電極4の一端と対向するように固定されており、固定電極3の可動電極4と対向する端部には、電極材料8が設けられる。
【0032】
可動電極4は、可動側端板7に設けられる。可動電極4は、固定電極3と同軸上に設けられる。可動電極4は、図示省略の開閉手段により軸方向に移動させられ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。可動電極4の固定電極3と対向する端部には、電極材料8が設けられる。なお、可動電極4と可動側端板7との間には、ベローズ9が設けられ、真空容器2内を真空に保ったまま可動電極4を上下させ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。
【0033】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明の電極材料及び電極材料の製造方法について詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、実施例及び比較例の電極材料の製造方法において、Cu粉末と、Mo粉末(平均粒子径3μm)は、共通のものを用いた。
【0034】
[比較例1]
比較例1の電極材料製造法は、電極材料として従来から製造されているCu−Cr系の電極材料であり、各メーカでCr粒径及び組成、成形圧、焼結温度、焼結時間は所望とする特性より変えられている。
【0035】
Cu粉末と、平均粒子径80μmのCr粉末(以後、Cr粉末Aと称する)とを重量比で、Cu:Cr=80:20の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1070℃で2時間焼成し、比較例1の焼結体(電極材料)を得た。
【0036】
図2は、比較例1で用いたCr粉末Aの粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した結果を示す図である。Cr粉末Aにおいて、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量(累積値)は、21%であった。
【0037】
[実施例1]
Cu粉末と、平均粒子径80μmのCr粉末(以後、Cr粉末Bと称する)と、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=79:20:1の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1070℃で2時間焼成し、実施例1の焼結体(電極材料)を得た。
【0038】
図3は、実施例1で用いたCr粉末Bの粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した結果を示す図である。Cr粉末Bは、Cr粉末Aを分級して、粒子径40μm以下の体積相対粒子量を5%未満としたものである。
【0039】
[実施例2]
Cu粉末と、Cr粉末Bと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=78:19:3の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1070℃で2時間焼成し、実施例2の焼結体(電極材料)を得た。
【0040】
[比較例2]
Cu粉末と、Cr粉末Aと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=79:20:1の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、比較例2の焼結体(電極材料)を得た。
【0041】
[比較例3]
Cu粉末と、Cr粉末Aと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=78:19:3の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、比較例3の焼結体(電極材料)を得た。
【0042】
[比較例4]
Cu粉末と、Cr粉末Aと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=76:19:5の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、比較例4の焼結体(電極材料)を得た。
【0043】
[比較例5]
Cu粉末と、Cr粉末Aと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=73:18:9の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、比較例5の焼結体(電極材料)を得た。
【0044】
[実施例3]
Cu粉末と、Cr粉末Bと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=76:19:5の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、実施例3の焼結体(電極材料)を得た。
【0045】
[実施例4]
Cu粉末と、Cr粉末Bと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=74:19:7の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1045℃で2時間焼成し、実施例4の焼結体(電極材料)を得た。
【0046】
[実施例5]
Cu粉末と、Cr粉末Bと、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=76:19:5の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して4t/cm2のプレス圧で成形した。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1030℃で2時間焼成し、実施例5の焼結体(電極材料)を得た。
【0047】
[比較例6]
Cu粉末と、100メッシュ(目開き150μm)のCr粉末と、Mo粉末と、を重量比(wt%)で、Cu:Cr:Mo=80:5:15の組成となるように混合し、この混合粉末を内径が50mmの金型に80g充填して、2t/cm2のプレス圧で加圧成型した。成形体の充填率は64%であった。得られた成形体を非酸化性雰囲気(5×10-5Torrの真空中)にて1050℃で2時間焼成し、比較例6の焼結体(電極材料)を得た。比較例6の焼結体の充填率は73%であり、焼結による収縮があまり発生せず、電極材料内部に気孔が多く存在しているものと考えられる。
【0048】
[電極材料の特性評価]
まず、比較例1の焼結体と実施例3の焼結体の断面を顕微鏡(反射電子画像)により観察した。
【0049】
図4(a)に示すように、比較例1の焼結体では、Cu相10にCr粒子11が分散した組成分布となっている。これに対して、図4(b)に示すように、実施例3の焼結体では、Cu相10にCr粒子11が分散し、且つ、Cu相10の中にMo−Crの固溶体12が均一に分散している組織を有することがわかる。
【0050】
次に、実施例1〜5及び比較例1〜6の焼結体に対して、充填率(%)、ろう付け性、耐電圧性能を測定した。充填率は、焼結体の密度を実測し、(実測密度/理論密度)×100(%)で算出した。ろう付け性は、焼結体とCu電極棒との間にろう材を入れ、真空ろう付け後、簡易的なハンマー衝撃法若しくは焼結体とCu電極棒の引張試験を行うことで密着力を評価した。耐電圧性能は、焼結体を電極として真空インタラプタを構成し、雷インパルスフラッシュオーバー試験(昇降法)にて、50%フラッシュオーバー電圧を求めた。なお、耐電圧性能は、比較例1の焼結体を1.0とした場合の相対値で示している。各焼結体の測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、Cr粉末Bを用いた実施例1〜5の焼結体は、ろう付け性が良好であり、耐電圧性が比較例1の焼結体と比較して向上している。
【0053】
表1の結果から、ろう付け性と焼結体の充填率との間には相関性があり、焼結体の充填率を向上させることで、ろう付け性が良好となることがわかる。つまり、充填率が90%以上であれば、ろう付け性が安定的に実施できるものと考えられる。
【0054】
図5は、焼結体の充填率とMoの含有率との関係を示す図である。また、図6は、焼結体の耐電圧性とMoの含有率との関係を示す図である。図5に示すように、焼結体の充填率は、Moの含有率に応じて低下することがわかる。また、図6に示すように、焼結体の耐電圧性は、Moの含有率に応じて上昇することがわかる。
【0055】
すなわち、電極材料の耐電圧性を向上させるためには、Moの含有率を向上させる必要があるが、Moの含有率を向上させることで、電極材料の充填率が低下すると電極材料のろう付け性が低下し、電極材料として使用することが困難となる。
【0056】
図5に示した、実施例5の電極材料と比較例4の電極材料とを比較すると、Mo含有率が同じであっても、40μm以下の微細Cr粒子の体積相対粒子量を5%未満にすることで、焼結体の充填率が向上していることがわかる。これは、粒子径が40μm以下のCrは、Moに拡散しやすいと考えられ、この範囲のCrの粒子量を10%未満(より好ましくは、5%未満)とすることで、焼結時のCrの拡散量が抑制されて焼結体の空隙が低減し、焼結体の充填率が向上したものと考えられる。
【0057】
すなわち、Mo粉末と混合するCr粉末の粒度分布を調整することで、焼結体の充填率を向上させることができる。その結果、焼結体へのMoの含有率を増加させることができるので、焼結体の耐電圧特性を向上させることができる。
【0058】
なお、図5に示した実施例3と5を比較すると、焼結体の充填率は、焼結温度により変化している。図5の結果によれば、焼結温度が1045℃のとき充填率が最も高く、1045℃より低い場合は充填率が低下し、また、高い温度であっても充填率が90%を超える電極材料のMo含有率が少量となるため、耐電圧性能の大きな向上は見込めない。よって、焼結時の温度は、980〜1080℃、より好ましくは、1070〜1030℃、さらに好ましくは、1045℃とすることで、充填率が高く、ろう付け性に優れた焼結体を得ることができる。
【0059】
次に、実施例5の電極材料を電極接点として固定電極と可動電極の端部にそれぞれ設け、溶着性試験を行った。溶着性試験は、STC試験(25kA−3s)により電極間を溶着させ、その電極間を引き剥がすのに必要な力(kN)に基づいて評価した。溶着性試験の結果を表2に示す。STC試験の結果、実施例5の電極材料の溶着性は良好であると評価できた。
【0060】
【表2】
【0061】
以上のような、本発明の実施形態に係る電極材料は、Cu粉末と、Cr粉末と、耐火性金属粉末とを混合し、得られた混合粉体を加圧成形して焼成する電極材料において、粒子径が40μm以下の粒子の体積相対粒子量が10%未満であるCr粉末を混合粉体に混合することで、ろう付け性に優れ、且つ耐電圧性が良好な電極材料を得ることができる。
【0062】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法は、予め粒度を調整したCr粉末を混合粉末に混合し、混合粉末を加圧成形し、この成形体をCuの融点以下で焼結させるようにすることで、焼結後の充填率が高くなり、ろう付けが可能な電極材料を比較的低コストで製造することができる。
【0063】
また、本発明による電極材料及び電極材料の製造方法によれば、実質的に焼結後の充填率が90%以上であって、Cu相の中にCrと耐火性金属の固溶体が分散している組織を有する電極材料を得ることができる。
【0064】
また、本発明の電極材料の製造方法によれば、高融点金属(Cr、Mo)の固溶体がCu相に均一に分散し、緻密で耐電圧性能の良い電極材料を低コストで製造することができる。
【0065】
本発明の電極材料を、例えば、真空インタラプタ(VI)の固定電極及び可動電極の少なくとも一方に設けることで、真空インタラプタの電極接点の耐電圧性が向上する。電極接点の耐電圧性が向上すると、従来の真空インタラプタよりも開閉時の可動側電極と固定側電極のギャップが短くでき、さらに、電極と絶縁筒とのギャップも短くすることが可能であることから、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。その結果、真空インタラプタを構成要素に有する真空遮断器を小型化することができる。例えば、交流遮断器の場合、通常真空インタラプタを3つ備えるため、1本あたりの真空インタラプタの小型化により、真空遮断器が非常に小型化される。このように、真空遮断器の部品を小型化することで、真空遮断器の製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…真空インタラプタ
2…真空容器
3…固定電極
4…可動電極
5…絶縁筒
6…固定側端板
7…可動側端板
8…電極材料(電極接点)
9…ベローズ
10…Cu相
11…Cr粒子
12…Mo−Crの固溶体
図1
図2
図3
図5
図6
図4