(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転がり接触点の位置は、前記駆動側噛合部分と前記転がり接触点との軸方向距離(Dd)及び前記従動側噛合部分と前記転がり接触点との軸方向距離(Df)が前記力関係を満たすように、軸方向において前記駆動側噛合部分と前記従動側噛合部分との間に設定されることを特徴とする請求項2又は3に記載のバルブタイミング調整装置。
前記外輪に断面円弧形に形成されて各前記球状転動体と転がり接触する外輪軌道溝(42a)と、前記内輪に断面円弧形に形成されて各前記球状転動体と転がり接触する内輪軌道溝(44a)とは、互いに軸方向にずらして設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関においてクランク軸(図示しない)からカム軸2へクランクトルクを伝達する伝達系に、付設されている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)をクランクトルクの伝達により開閉する。そこで、装置1は、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0016】
(基本構成)
以下、装置1の基本構成を説明する。
図1〜3に示すように装置1は、アクチュエータ4、通電制御回路部7及び位相調整ユニット8等から構成されている。
【0017】
図1に示すアクチュエータ4は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであり、ハウジングボディ5及び制御軸6を有している。ハウジングボディ5は、内燃機関の固定節に固定され、制御軸6を回転自在に支持している。通電制御回路部7は、例えば駆動ドライバ及びその制御用マイクロコンピュータ等から構成され、ハウジングボディ5の外部及び/又は内部に配置されている。通電制御回路部7は、電気的に接続されるアクチュエータ4への通電を制御することで、制御軸6を回転駆動する。
【0018】
図1〜3に示すように位相調整ユニット8は、駆動回転体10、従動回転体20、遊星歯車30、遊星ベアリング40、遊星キャリア50及び弾性部材60を備えている。
【0019】
中空の金属製駆動回転体10は、位相調整ユニット8の他の構成要素20,30,40,50,60を内部に収容している。駆動回転体10は、円環板状の太陽歯車部材11を有底円筒状のスプロケット部材13と段付円筒状のカバー部材14との間に挟持した状態で、それら部材11,13,14を共締めしてなる。
【0020】
図1,2に示すように太陽歯車部材11は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した駆動側内歯車部12を、周壁部の内周面に形成している。
図1に示すようにスプロケット部材13は、周方向に等間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出する複数のスプロケット歯19を、周壁部の外周面に形成している。スプロケット部材13は、それらスプロケット歯19とクランク軸の複数のスプロケット歯との間にてタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。かかる連繋により、クランク軸から出力されるクランクトルクがタイミングチェーンを通じてスプロケット部材13に伝達されるときには、駆動回転体10が当該クランク軸と連動して一定方向(
図2,3の時計方向)に回転する。
【0021】
図1,3に示すように有底円筒状の金属製従動回転体20は、スプロケット部材13の径方向内側に配置されている。従動回転体20は、スプロケット部材13に同軸上に嵌入されることで、駆動回転体10を径方向内側から支持している。軸方向において従動回転体20は、太陽歯車部材11及びスプロケット部材13の間に配置されている。従動回転体20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部22を、底壁部により形成している。かかる連結により従動回転体20は、駆動回転体10と同一方向(
図3の時計方向)に回転しつつ、駆動回転体10に対しては相対回転可能となっている。
【0022】
従動回転体20は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した従動側内歯車部24を、周壁部の内周面に形成している。従動側内歯車部24は、駆動側内歯車部12とは軸方向のカム軸2側にずれて径方向では重ならない箇所に、配置されている。従動側内歯車部24の内径は、駆動側内歯車部12の内径よりも小さく設定されている。従動側内歯車部24の歯数は、駆動側内歯車部12の歯数よりも少なく設定されている。
【0023】
図1〜3に示すように段付円筒状の金属製遊星歯車30は、従動回転体20のうち周壁部の径方向内側から太陽歯車部材11の径方向内側に跨って、配置されている。遊星歯車30は、回転体10,20とは径方向に偏心している。遊星歯車30は、歯底円の径方向外側に歯先円を有した駆動側外歯車部32と従動側外歯車部34とを、周壁部の外周面に形成している。回転体10,20に対して遊星歯車30の偏心する偏心側(以下、単に「偏心側という)において、駆動側外歯車部32は駆動側内歯車部12と噛合している。ここで、駆動側外歯車部32及び駆動側内歯車部12の各々において、それら歯車部32,12同士が実際に噛合している範囲を、駆動側噛合部分Gdという。従動側外歯車部34は、駆動側外歯車部32とは軸方向のカム軸2側にずれて径方向では重ならない箇所に、形成されている。従動側外歯車部34の外径は、駆動側外歯車部32とは相異なる径として、駆動側外歯車部32の外径よりも小さく設定されている。従動側外歯車部34の歯数は、駆動側外歯車部32の歯数よりも少なく設定されている。従動側外歯車部34は、偏心側において従動側内歯車部24と噛合している。ここで、従動側外歯車部34及び従動側内歯車部24の各々において、それら歯車部34,24同士が実際に噛合している範囲を、従動側噛合部分Gfという。
【0024】
金属製遊星ベアリング40は、駆動側外歯車部32の径方向内側から従動側外歯車部34の径方向内側に跨って、配置されている。遊星ベアリング40は、回転体10,20とは径方向に偏心している。遊星ベアリング40は、外輪42と内輪44との間に複数の球状転動体46が一列介装されてなる単列式ラジアル軸受であり、特に本実施形態では単列式深溝玉軸受である。外輪42は、遊星歯車30に同軸上に圧入されることで、当該歯車30を径方向内側から支持している。外輪42は、径方向外側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の外輪軌道溝42aを形成している。一方で内輪44は、径方向内側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の内輪軌道溝44aを形成している。外輪軌道溝42aと内輪軌道溝44aとは、それらの間に配置される各球状転動体46の外周面に対して、それぞれ転がり接触する。
【0025】
部分偏心円筒状の金属製遊星キャリア50は、内輪44の径方向内側からカバー部材14の径方向内側に跨って、配置されている。遊星キャリア50は、回転体10,20及び制御軸6とは同軸上となる円筒面状の入力部51を、周壁部の内周面に形成している。入力部51には、継手53と嵌合する連結溝52が設けられ、当該継手53を介して制御軸6が遊星キャリア50と連結されている。かかる連結により遊星キャリア50は、制御軸6と一体に回転しつつ、駆動側内歯車部12に対して相対回転可能となっている。
【0026】
遊星キャリア50は、回転体10,20とは偏心する円筒面状の偏心部54を、周壁部の外周面に形成している。偏心部54は、同軸上に外嵌された内輪44を径方向内側から支持している。かかる支持下、遊星ベアリング40を介して遊星キャリア50により軸受される遊星歯車30の各外歯車部32,34は、駆動側内歯車部12に対する遊星キャリア50の相対回転に従って噛合部分Gd,Gfを変化させることで、一体に遊星運動可能となっている。ここで遊星運動とは、遊星歯車30が自身の周方向へ自転しつつ、遊星キャリア50の回転方向へ公転する運動をいう。換言すれば、遊星キャリア50は、遊星歯車30の公転方向に回転可能となっている。
【0027】
金属製弾性部材60は、偏心部54の周方向二箇所に開口した収容凹部55に、それぞれ一つずつ個別に収容されている。各弾性部材60は、概ねU字状断面の板ばねである。各弾性部材60は、径方向外側の内輪44と収容凹部55との間に介装されることで、遊星歯車30及び遊星ベアリング40の径方向に圧縮されて弾性変形している。ここで
図2,3に示すように、回転体10,20に対して遊星歯車30及び遊星ベアリング40が偏心する径方向に沿って径方向線Lを想定したとき、各弾性部材60は、軸方向長さの任意の範囲にて当該線Lに関する線対称位置に配置されている。かかる配置下、各弾性部材60が弾性変形により発生する復原力の合力Fsは、径方向線Lに沿う偏心側に向かって、内輪44に作用する。かかる復原力作用の結果として遊星歯車30は、遊星ベアリング40を介して偏心側に付勢されている。
【0028】
以上の構成を備えた位相調整ユニット8では、駆動回転体10に対する従動回転体20の回転位相を、制御軸6の回転状態に応じて調整する。かかる回転位相の調整により、内燃機関の運転状況に適したバルブタイミング調整が実現される。
【0029】
具体的には、制御軸6が駆動回転体10と同速に回転することで、遊星キャリア50が駆動側内歯車部12に対して相対回転しないときには、遊星歯車30をなす各外歯車部32,34が遊星運動せずに回転体10,20と連れ回りする。その結果、回転位相が実質的に不変となって、バルブタイミングが保持調整される。一方、制御軸6が駆動回転体10に対して低速又は逆方向に回転することで、遊星キャリア50が駆動側内歯車部12に対する遅角方向へ相対回転すると、各外歯車部32,34の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角方向へ相対回転する。その結果、回転位相が遅角変化して、バルブタイミングが遅角調整される。また一方、制御軸6が駆動回転体10よりも高速に回転することで、遊星キャリア50が駆動側内歯車部12に対する進角方向へ相対回転すると、各外歯車部32,34の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する進角方向へ相対回転する。その結果、回転位相が進角変化して、バルブタイミングが進角調整される。
【0030】
(位相調整ユニットの詳細構成)
以下、位相調整ユニット8の詳細構成を説明する。
【0031】
図4に示すように従動回転体20は、周壁部のうち開口側の軸方向端面により、円環平面状のスラスト軸受部26を形成している。スラスト軸受部26は、遊星歯車30のうち外歯車部32,34間を径方向に接続する円環平面状の接続部36に対して、軸方向に摺動接触している。かかる摺動接触によりスラスト軸受部26は、軸方向の「片側」としてのカム軸2側から遊星歯車30を軸受している。
【0032】
遊星ベアリング40において外輪軌道溝42aと内輪軌道溝44aとは、径方向では部分的に重なる範囲内で軸方向では互いにずれて、設けられている。ここで特に、軸方向長さが実質同一且つそれぞれの軌道溝42a,44aが軸方向中心部に形成された外輪42と内輪44とは、例えばフラッシュグラウンド加工により軸方向に所定量δだけずらして配置されることで、それら軌道溝42a,44aも軸方向に実質同量δだけずらされている。こうした構成により外輪軌道溝42aと各球状転動体46との転がり接触点48は、
図4の如くそれら各球状転動体46の中心点Oを通るように想定した径方向線L1に対して、軸方向のカム軸2側に接触角θをなしている。
【0033】
さらに転がり接触点48は、いずれの内歯車部12,24とも径方向にて重なっていない。ここで特に本実施形態では、
図4の如く転がり接触点48を通るように想定した径方向線L2上に、従動側外歯車部34は存在しているが、他の歯車部12,24,32は存在していない。即ち、径方向線L2上には、少なくとも内歯車部12,24が存在していない。こうした構成により、軸方向において転がり接触点48は、駆動側噛合部分Gdの歯車部24,34側の端部Gdeと、従動側噛合部分Gfの歯車部12,32側の端部Gfeとの間に、位置している。即ち、転がり接触点48の軸方向位置は、駆動側噛合部分Gdと従動側噛合部分Gfとの間となる軸方向範囲Adfに、設定されている。
【0034】
さらに、転がり接触点48よりも軸方向のカム軸2側では、遊星歯車30のうち従動側外歯車部34の径方向内側へ向かって突出する円環板状の内フランジ部38により、外輪42が同軸2側から軸方向に係止されている。
【0035】
(位相調整ユニットにおけるラジアル力バランス及びスラスト力作用)
以下では、まず、位相調整ユニット8におけるラジアル力バランスについて説明する。
【0036】
図4に示すように、各弾性部材60から遊星ベアリング40内の接触点48を経て偏心側の遊星歯車30へ伝達される復原力の合力Fs(以下、単に「復原力Fs」という)は、各噛合部分Gd,Gfに分配される。ここで、駆動側噛合部分Gdの端部Gdeと転がり接触点48との軸方向距離を、Ddとし、従動側噛合部分Gfの端部Gfeと転がり接触点48との軸方向距離を、Dfとする。すると、復原力Fsの伝達により各噛合部分Gd,Gfには、それぞれ転がり接触点48からの軸方向距離Dd,Dfに応じた偏心側のラジアル力Fsd,Fsfが分配される。具体的に駆動側噛合部分Gdには、下記式1に従って分配されたラジアル力Fsdが作用する一方、従動側噛合部分Gfには、下記式2に従って分配されたラジアル力Fsfが作用する。
Fsd=Fs・Df/(Dd+Df) …(式1)
Fsf=Fs・Dd/(Dd+Df) …(式2)
【0037】
図5に例示するように、内燃機関の回転中にカム軸2と連動して回転する従動回転体20には、吸気弁のスプリング反力等に起因して、当該軸2からカムトルクが伝達される。かかるカムトルクは、駆動回転体10に対する従動回転体20の進角方向へ作用する負トルクと、駆動回転体10に対する従動回転体20の遅角方向へ作用する正トルクとの間にて、交番変化する。ここで本実施形態のカムトルクについては、カム軸2及びその軸受間のフリクション等に起因して、正トルクと負トルクとを平均した平均トルクTaveが正トルク側(遅角方向)に偏っている。故に、最大カムトルクTmaxは、
図5に示す如き正トルクの最大値に設定されている。
【0038】
カム軸2から従動回転体20へカムトルクが伝達されることで、各噛合部分Gd,Gfには、それぞれ
図4の如くラジアル力Fsd,Fsfと対抗して入力されるように、偏心側とは反対側のラジアル力Fcd,Fcfが作用する。ここで
図6に示すように、駆動側噛合部分Gdにて駆動側内歯車部12と駆動側外歯車部32とがなす圧力角を、ψdとし、従動側噛合部分Gfにて従動側内歯車部24と従動側外歯車部34とがなす圧力角を、ψfとする。それと共に、駆動側内歯車部12のピッチ円の半径を、Rdとし、従動側内歯車部24のピッチ円の半径を、Rfとする。すると、カムトルクのうち最大カムトルクTmaxの伝達により各噛合部分Gd,Gfには、それぞれの圧力角ψd,ψf及び接触半径Rd,Rfに応じたラジアル力Fcd,Fcfが入力される。具体的に駆動側噛合部分Gdの端部Gdeには、下記式3に従ってラジアル力Fcdが入力される一方、従動側噛合部分Gfの端部Gfeには、下記式4に従ってラジアル力Fcfが入力される。
Fcd=Tmax・tan(ψd)/Rd …(式3)
Fcf=Tmax・tan(ψf)/Rf …(式4)
【0039】
図4に示すように、各噛合部分Gd,Gfにおいて歯打ちによる異音及び磨耗を抑止するには、最大カムトルクTmaxの伝達によるラジアル力Fcd,Fcf以上に、復原力Fsの伝達によるラジアル力Fsd,Fsfを調整する必要がある。そこで、駆動側噛合部分GdではFcd≦Fsdを満たし且つ従動側噛合部分GfではFcf≦Fsfを満たすように、即ち下記式5,6の力関係を満たす軸方向距離Dd,Dfとなるように、転がり接触点48の軸方向位置が噛合部分Gd,Gf間に設定される。
Tmax・tan(ψd)/Rd≦Fs・Df/(Dd+Df) …(式5)
Tmax・tan(ψf)/Rf≦Fs・Dd/(Dd+Df) …(式6)
【0040】
こうした噛合部分Gd,Gf間での位置設定に反して、仮に転がり接触点48が従動側噛合部分Gfと径方向に重なるように位置設定がなされた場合、軸方向距離Dfが負の値となることで、式5が満たされなくなるので、異音及び磨耗の抑止は困難となる。また、仮に転がり接触点48が駆動側噛合部分Gdと径方向に重なるように位置設定がなされた場合、軸方向距離Ddが負の値となることで、式6が満たされなくなるので、この場合も異音及び磨耗の抑止は困難となる。したがって、異音及び磨耗を抑止するには、噛合部分Gd,Gf間のうち両式5,6を満たす位置に、転がり接触点48の軸方向位置を設定する必要がある。
【0041】
さて、上述した各式5,6に従って、Dd/(Dd+Df)の値を横軸にプロットし、復原力Fsの値を縦軸にプロットすると、それら両式5,6を満たす範囲は、
図7においてクロスハッチング部分を除いた範囲により示される。ここで、式5を満たす範囲の境界条件は、
図7に破線グラフで示すように、当該式5の表す力関係のうち両辺が等号関係となる下記式7により求められる。また、式6を満たす範囲の境界条件は、
図7に実線グラフで示すように、当該式6の表す力関係のうち両辺が等号関係となる下記式8により求められる。故に、式7,8の連立方程式を解くことで、
図7の黒丸に対応して得られる下記式9によると、復原力Fsを最小にするDd/Df値として、例えば各弾性部材60の小型化等を可能にする理想値が求められる。以上より、両式5,6を満たすDd/Df値の設計値としては、Dd/Df値の理想値に対して、Dd/Df値の公差(例えば±15%)と共に復原力Fsの公差(例えば±15%)を加味した誤差範囲内(例えば±25%)に、設定される。
Tmax・tan(ψd)/Rd=Fs・Df/(Dd+Df) …(式7)
Tmax・tan(ψf)/Rf=Fs・Dd/(Dd+Df) …(式8)
Dd/Df=(tan(ψf)/Rf)/(tan(ψd)/Rd) (式9)
【0042】
ここまで、位相調整ユニット8におけるラジアルバランスについて説明したが、次に、同ユニット8におけるスラスト力作用について説明する。
【0043】
図4に示すように、転がり接触点48にて球状転動体46から外輪42には、接触角θに応じた下記式10に従って、スラスト力Fstが軸方向の従動回転体20側に作用する。その結果、スラスト力Fstが外輪42から内フランジ部38に伝達される遊星歯車30では、接続部36がスラスト軸受部26に対して軸方向に押し付けられることとなる。
Fst=Fs・tan(θ) …(式10)
【0044】
(作用効果)
以上説明した装置1の作用効果を、以下に説明する。
【0045】
装置1にて遊星ベアリング40は、遊星歯車30を径方向内側から支持する外輪42と、遊星キャリア50により径方向内側から支持される内輪44との間にて、複数の球状転動体46が一列介装された単列式構造となっているので、小型化を達成できる。また、装置1の遊星歯車30は、従動回転体20のスラスト軸受部26により軸方向のカム軸2側から軸受されることで、当該軸方向に対して傾き難くなっている。しかも装置1では、軸方向のうち遊星歯車30がスラスト軸受部26により軸受されるカム軸2側に外輪42が接触角θをなして各球状転動体46と転がり接触することで、当該外輪42により支持される遊星歯車30は、軸方向のスラスト力を受けてスラスト軸受部26に押し付けられる。これにより遊星歯車30については、傾き難さが増して姿勢が安定することになる。
【0046】
さらに装置1では、外輪42と球状転動体46との転がり接触点48が軸方向において駆動側噛合部分Gdと従動側噛合部分Gfとの間に位置することで、それら両噛合部分Gd,Gfには、各弾性部材60から伝達される復原力Fsが確実に分配され得る。かかる分配の結果、各噛合部分Gd,Gfへと作用する径方向のラジアル力Fsd,Fsfは、カム軸2から従動回転体20へのカムトルク伝達により各噛合部分Gd,Gfへ入力される径方向のラジアル力Fcd,Fcfに、対抗する力となる。故に各噛合部分Gd,Gfでは、復原力Fsの伝達により分配されたラジアル力Fsd,Fsfを利用して、カムトルク伝達により入力されたラジアル力Fcd,Fcfを相殺させ得る。これによれば、各噛合部分Gd,Gfでの力バランスがカムトルクの交番により変化して遊星歯車30の姿勢が傾く事態を、回避できる。
【0047】
以上のことから装置1は、遊星歯車30の姿勢傾きに起因する異音及び摩耗の抑止を、小型化と両立して達成可能である。
【0048】
また、装置1の各噛合部分Gd,Gfにおいて復原力Fsの伝達によるラジアル力Fsd,Fsfは、それぞれカムトルク伝達により対抗するラジアル力Fcd,Fcf以上となることで、それら各噛合部分Gd,Gfでの力バランスが維持され得る。ここで、特にラジアル力Fsd,Fsfは、それぞれ最大カムトルクTmaxの伝達時に対抗するラジアル力Fcd,Fcf以上となるので、各噛合部分Gd,Gfでの力バランスがカムトルクの交番に拘らずに常に維持され得る。そこで式5,6に従って、Fcd≦Fsd且つFcf≦Fsfの力関係を満たすように、転がり接触点48の位置を軸方向の噛合部分Gd,Gf間に設けることによれば、遊星歯車30の傾き難さが確実に増す。故に、異音及び摩耗の抑止効果の信頼性を高めることが可能となる。
【0049】
さらに、装置1においてカムトルク伝達によるラジアル力Fcd,Fcfは、各噛合部分Gd,Gfと転がり接触点48との軸方向距離Dd,Dfに応じて分配されることになる。そこで、Fcd≦Fsd且つFcf≦Fsfの力関係を軸方向距離Dd,Dfが満たすように、転がり接触点48の位置を軸方向の噛合部分Gd,Gf間に設けることによれば、それら各噛合部分Gd,Gfでの力バランスを適正に調整できる。その結果、遊星歯車の傾き難さは確実に増すことになるので、異音及び摩耗の抑止効果の信頼性を高めることが可能となる。
【0050】
加えて装置1によると、外輪42と内輪44とにそれぞれ断面円弧形に形成されて各球状転動体46と転がり接触する外輪軌道溝42aと内輪軌道溝44aとは、互いに軸方向にずれることで、外輪軌道溝42a側での接触角θを適正に確保できる。その結果、遊星歯車30がスラスト軸受部26に確実に押し付けられて遊星歯車30の傾き難さが増すので、異音及び摩耗の抑止効果の信頼性を高めることが可能となる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0052】
具体的に変形例1では、
図8,9に示すように、遊星歯車30を軸方向の「片側」から軸受するスラスト軸受部126を、駆動回転体10のうち例えばスプロケット部材13又はカバー部材14に形成してもよい。ここで
図8は、軸方向のカム軸2側に接触角θをなす遊星ベアリング40を採用し、同軸2側から遊星歯車30を軸受するスラスト軸受部126をスプロケット部材13に形成した例につき、示している。また一方で
図9は、軸方向のうちカム軸2とは反対側に接触角θをなす遊星ベアリング140を採用し、同反対側から遊星歯車30を軸受するスラスト軸受部126をカバー部材14に形成した例につき、示している。
【0053】
変形例2では、軸方向長さが実質同一且つ軸方向に位置合わせされた外輪42と内輪44とにおいて、それぞれの軌道溝42a,44aが軸方向中心部からずれて形成された単列式深溝玉軸受を、遊星ベアリング40,140として採用してもよい。
【0054】
変形例3では、単列式深溝玉軸受に代えて、少なくとも外輪軌道溝42aが軸方向に非対称な断面形状により接触角θを与える単列式アンギュラ玉軸受を、遊星ベアリング40,140として採用してもよい。
【0055】
変形例4では、単列式深溝玉軸受に代えて、上記実施形態又は上記変形例2に準じて軌道溝42a,44aを軸方向にずらした単列式四点接触玉軸受を、遊星ベアリング40,140として採用してもよい。この場合、遊星ベアリング40,140としての四点接触玉軸受は、実質的に二点接触状態にて使用される。
【0056】
変形例5では、転がり接触点48を通るように想定した径方向線L2上に、外歯車部32,34を少なくとも存在させないことで、軸方向において駆動側噛合部分Gdと従動側噛合部分Gfとの間に転がり接触点48を設定してもよい。
【0057】
変形例6では、上記実施形態にて列挙した式3〜8の最大カムトルクTmaxを、それよりも小さな例えば平均トルクTaveに設定してもよい。この場合、上記実施形態にて列挙した式5,6の力関係は、平均的に満たされることになる。
【0058】
変形例7では、「動弁」として排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、「動弁」として吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に、本発明を適用してもよい。