特許第5862751号(P5862751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許5862751多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット
<>
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000007
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000008
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000009
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000010
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000011
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000012
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000013
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000014
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000015
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000016
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000017
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000018
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000019
  • 特許5862751-多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862751
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニット
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20160202BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20160202BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20160202BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20160202BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20160202BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   C08J9/00 ZCEW
   B01D69/00
   B01D69/08
   B01D71/36
   B01D71/38
   H01B1/06 A
【請求項の数】11
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2014-243075(P2014-243075)
(22)【出願日】2014年12月1日
(65)【公開番号】特開2015-127413(P2015-127413A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2014年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-248707(P2013-248707)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茶圓 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 智久
(72)【発明者】
【氏名】乾 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 吉之
(72)【発明者】
【氏名】小野 真誠
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−202217(JP,A)
【文献】 特表平11−501961(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/157647(WO,A1)
【文献】 特開2002−201217(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/061567(JP,A1)
【文献】 再公表特許第2007/069714(JP,A1)
【文献】 国際公開第2013/115278(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/153989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B01D 69/00、69/08、71/36、71/38
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質体であって、
前記ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンと微量共単量体とを共重合することにより得られたものであり、
前記多孔質体は、ノードとフィブリルを含む微細構造を有するものであって、
前記微細構造は、更に、ノード及びフィブリル以外に、2つのノードを連結するフィブリルと、別の2つのノードを連結するフィブリルとがお互いに融着している融着点を有する
ことを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
微細構造は、走査型電子顕微鏡を用いて10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において観察される5μm×5μmの範囲内にある融着点を5点以上有する
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
微量共単量体は、少なくともパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を含む
請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレンは、全単量体単位に対して0.011モル%以上のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)に由来する重合単位を含む
請求項に記載の多孔質体。
【請求項5】
多孔質膜である請求項1、2、3又は4に記載の多孔質体。
【請求項6】
二軸延伸して得られる請求項1、2、3、4又は5に記載の多孔質体。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6に記載の多孔質体からなるフィルター用濾材。
【請求項8】
請求項に記載のフィルター用濾材と、前記フィルター用濾材を保持する枠体と、を備えるフィルターユニット。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5又は6に記載の多孔質体を含む高分子電解質膜。
【請求項10】
多孔質中空糸である請求項1、2、3又は4に記載の多孔質体。
【請求項11】
多孔質繊維である請求項1、2、3又は4に記載の多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体、高分子電解質膜、フィルター用濾材及びフィルターユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーをペースト押出成形して得られる成形体を延伸すると、空孔率の高い多孔質体が得られることが知られている。このポリテトラフルオロエチレン多孔質体はノード(結節)とフィブリル(繊維)から形成されており、水蒸気などの気体を通すが、ポリテトラフルオロエチレンの強い撥水性のため水滴は通さない。この多孔質の延伸体は、未焼成のままシール用材料として使用したり、焼成し、強靭な連続延伸シートやチューブにして、衣類や分離膜に応用されている。
特に二軸延伸された多孔質膜(二軸延伸膜)は、従来から気体・液体(薬液を含む)の精密濾過フィルター、電線被膜用材料、呼吸弁など広範な分野で使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン二軸延伸膜の厚みは薄く(一般的に100μm以下)、延伸工程の途上や延伸後の巻き取り工程、ラミネート等の後工程で膜が破断しやすい。さらには、衣料や分離膜として使用される際も破断しやすく、二軸延伸膜の耐久性、信頼性に課題があった。
【0004】
高い強度を有するポリテトラフルオロエチレン二軸延伸膜の製造方法として、下記の方法が提案されている。
例えば、特許文献1、特許文献2には、押出助剤を含んだ状態でペースト押出物を横方向に延伸した後、助剤を乾燥し、押出方向(縦方向)にすくなくとも1段階の延伸を行った後、さらに横方向に延伸する多孔膜の製造方法が開示されている。
特許文献3には、PTFEの半焼成体を縦方向、横方向の順に二軸延伸した後、これをPTFE焼成体の融点以上の温度でヒートセットする多孔膜の製造方法が開示されている。
【0005】
また、高強度の多孔体を提供するPTFEファインパウダーについても提案されている。
例えば、特許文献4〜5には、特定の破断強度を有する高分子量のテトラフルオロエチレン単独重合体が記載されている。
【0006】
特許文献6〜8には、特定の乳化剤の存在下で重合して得られたポリテトラフルオロエチレン水性分散液が記載されている。
【0007】
また、特許文献9〜11には、パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)で変性されたテトラフルオロエチレン系共重合体が記載されている。
【0008】
また、特許文献12には、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を重合することにより得られた延伸体成形用非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平11−501961号公報
【特許文献2】国際公開第2007/011492号
【特許文献3】特開平5−202217号公報
【特許文献4】特開2000−143727号公報
【特許文献5】特開2002−201217号公報
【特許文献6】国際公開第2007/046345号
【特許文献7】国際公開第2009/001894号
【特許文献8】国際公開第2010/113950号
【特許文献9】特開平11−240917号公報
【特許文献10】国際公開第2003/033555号
【特許文献11】国際公開第2007/005361号
【特許文献12】国際公開第2005/061567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4〜8には、特定の破断強度を有する高分子量のテトラフルオロエチレン単独重合体が記載されているが、このような単独重合体を延伸して得られる延伸体の強度は十分とはいえなかった。
【0011】
特許文献9〜11で開示されているパーフルオロアルキルエチレン(PFAE)で変性されたPTFEファインパウダーや、特許文献12で開示されているパーフルオロ(メチルビニルエーテル)で変性されたPTFEファインパウダーは、得られる成形体の均質性が悪くなる課題があった。
【0012】
本発明の目的は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質体であって、ノードとフィブリルを含む微細構造を有するものであって、上記微細構造は、更に、ノード及びフィブリル以外に、2つのノードを連結するフィブリルと、別の2つのノードを連結するフィブリルとがお互いに融着している融着点を有することを特徴とする多孔質体である。
【0014】
上記微細構造は、走査型電子顕微鏡を用いて10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において観察される5μm×5μmの範囲内にある融着点を5点以上有することが好ましい。
【0015】
上記ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンと微量共単量体とを共重合することにより得られたものであることが好ましい。
【0016】
上記微量共単量体は、少なくともパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を含むことが好ましい。
【0017】
ポリテトラフルオロエチレンは、全単量体単位に対して0.011モル%以上のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)に由来する重合単位を含むことが好ましい。
【0018】
本発明の多孔質体は、多孔質膜であることが好ましい。
【0019】
本発明の多孔質体は、二軸延伸して得られるものであることが好ましい。
【0020】
本発明は、上記多孔質体からなるフィルター用濾材でもある。
【0021】
本発明は、上記フィルター用濾材と、該フィルター用濾材を保持する枠体と、を備えるフィルターユニットでもある。
【0022】
本発明は、上記多孔質体を含む高分子電解質膜でもある。
【0023】
本発明の多孔質体は、多孔質中空糸であることが好ましい。
【0024】
本発明の多孔質体は、多孔質繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多孔質体は、上記構成を有することによって、高強度、少孔径かつ均質性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の多孔質体を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図2】従来の多孔質体を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図3】実施例で用いたロール延伸装置の概要を示す断面模式図である。
図4】実施例で用いたテンター延伸装置を示す断面模式図である。
図5】実施例1で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図6】実施例2で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図7】実施例3で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図8】実施例4で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図9】実施例5で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図10】実施例6で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図11】比較例1で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図12】比較例2で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図13】比較例3で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
図14】比較例4で得られた多孔質膜を走査型電子顕微鏡で観察して得られた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質体であって、ノードとフィブリルを含む微細構造を有するものであって、上記微細構造は、更に、ノード及びフィブリル以外に、2つのノードを連結するフィブリルと、別の2つのノードを連結するフィブリルとがお互いに融着している融着点を有することを特徴とする多孔質体である。
図2の走査型電子顕微鏡写真で示されるように、従来の多孔質体は、ノード200とフィブリル300を含む微細構造を有しているが、フィブリル同士は立体的に交差しているだけである。一方、図1の走査型電子顕微鏡写真で示されるように、本発明の多孔質体は、フィブリル同士が融着した融着点100を有しているという特徴的な微細構造を有している。
上記微細構造が上記融着点を有することによって、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体となる。
【0029】
上記微細構造は、ノード(結節)とフィブリルを含む微細構造を有するものである。
ポリテトラフルオロエチレンを延伸して得られる多孔質体は、通常、フィブリルと呼ばれる微細な小繊維と、これらフィブリルを結び付けているノードと呼ばれる粒状の結節から構成されており、フィブリルとノードとの間に極めて微細な空孔が相互に連続した状態で存在する連続多孔質構造を有している。
上記ノードは、通常、ポリテトラフルオロエチレンの折り畳み結晶からなる粒状部又は島状部(一次粒子が集合した部分)であり、フィブリルは、ノードから繊維状に引き出されたポリテトラフルオロエチレンであって、各ノード間をすだれ状又は蜘蛛の巣状に繋ぐものである。
上記ノードは、通常、延伸後に伸び残った部分であり、フィブリルの末端に位置しており、フィブリルがつながっている塊がフィブリル径より太い部分である。
また、上記ノードは、通常、一次粒子又は一次粒子が集まったものであり、ノードからフィブリルが放射状に伸びている。
なお、本明細書において、フィブリルが枝分かれしていても、フィブリルと分岐部分の径が同じである場合、その分岐はノードとは見なさない。
【0030】
上記微細構造は、ノード及びフィブリルに加えて、融着点を有する。本発明の多孔質体は、融着点を含む微細構造を有することから、高い強度を有し、均質性にも優れる。
上記融着点において、2つのノードを連結するフィブリルと、別の2つのノードを連結するフィブリルとがお互いに融着している。
上記融着点は、少なくとも2本のフィブリルが立体的に交差した交差部分において、お互いに融着することで形成されている。上記融着点は、2本のフィブリルが融着することで形成されており、融着点を形成する2本のフィブリルは、いずれも2つのノード間を連結しており、一方のフィブリルが連結する1組のノードは、もう一方のフィブリルが連結する1組のノードとは異なる。1本のフィブリルが他の2本のフィブリルと融着することにより、融着点を2点以上形成することもできる。上記融着点は、延伸時にフィブリル同士が融着して形成される。
【0031】
上記融着点は、同一多孔体内で少なくとも2本のフィブリルが立体的に交差した交差部位において、お互いに融着することで形成されている。
融着点を構成するフィブリルはPTFE未焼成体、又はペースト押出物を延伸することによって発生する。フィブリルの直径は延伸条件等によって調整することができる。一般的に、一軸延伸体の場合、フィブリルの直径は最大5μm程度であり、二軸延伸体の場合は最大1μm程度である。フィブリルの直径は、0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0032】
上記融着点は、1組のノードを連結する1本のフィブリル上に形成されるものであることから、融着点の前後において、フィブリルの直径の変化が観察されたり、方向の変化が観察されることがない。これらの構造上の特徴は、多方向に伸びるフィブリルを有するノードの構造とは大きく異なる。ノードからは多方向に複数のフィブリルが伸びるので、ノードを中心にフィブリルを観察すると、各フィブリルの直径にはばらつきが観察され、偶然に同じ直径を有する2本のフィブリルが観察されたとしても、これらのフィブリルが直線上に位置することはめったにない。
すなわち、上記融着点では、直径差が10%以内であって、かつ、融着点の前後において直線からのずれが±10度以内である1本のフィブリルが観察できる点で、ノードとは容易に区別が可能である。
【0033】
上記微細構造は、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、走査型電子顕微鏡を用いて10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において観察される5μm×5μmの範囲内にある融着点を1点以上有することが好ましい。より好ましくは、5点以上であり、更に好ましくは10点以上である。
【0034】
本発明の多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる。上記PTFEは、通常、延伸性、フィブリル化特性および非溶融二次加工性を有する。
上記非溶融二次加工性とは、ASTM D−1238及びD−2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、すなわち溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0035】
上記PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)と微量共単量体を共重合することにより得られたPTFEであることが好ましい。
【0036】
上記微量共単量体としては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;(パーフルオロアルキル)エチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる微量共単量体は1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0037】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(A):
CF=CF−ORf (A)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0038】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(A)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0039】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0040】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(A)において、Rfが炭素数4〜9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0041】
【化1】
【0042】
(式中、mは、0又は1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0043】
【化2】
【0044】
(式中、nは、1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0045】
(パーフルオロアルキル)エチレン(PFAE)としては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0046】
上記微量共単量体としては、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフロオロエチレン、フッ化ビニリデン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、(パーフルオロアルキル)エチレン、及び、エチレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、(パーフルオロブチル)エチレン、(パーフルオロヘキシル)エチレン、及び、(パーフルオロオクチル)エチレンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)が更に好ましい。
【0047】
上記微量共単量体は、少なくともパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)を含むことが好ましく、PMVEのみであることがより好ましい。
【0048】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、全単量体単位に対して0.011モル%以上のPMVEに由来する重合単位を含むことが好ましい。PMVEに由来する重合単位の含有量は、0.015モル%以上であることがより好ましく、0.025モル%以上であることが更に好ましい。
多孔質体の均質性の観点からは、PMVEに由来する重合単位の含有量は、0.250モル%以下が好ましく、0.150モル%以下がより好ましく、0.100モル%以下が更に好ましい。0.050モル%以下が最も好ましい。
【0049】
上記PTFEは、TFEと、PMVEと、PMVE以外の微量共単量体と、を重合することにより得られたものであってもよい。
PMVE以外の微量共単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等の含フッ素オレフィン;炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール等の環式のフッ素化された単量体;パーフルオロアルキルエチレン;ω―ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
PMVE以外の微量共単量体に由来する重合体の含有量は、0.0001〜0.300モル%であることが好ましく、0.010〜0.100モル%であることがより好ましい。
【0050】
上記PTFEは、一次融点以上の温度で加熱された履歴のないPTFEであることが好ましい。
上記PTFEは、未焼成のPTFEであってもよいし、半焼成されたPTFEであってもよい。簡便なプロセス、または厚みや孔径の制御のし易さという観点からは、未焼成のPTFEが好ましい。二軸延伸膜の強度を高める、または孔径を小さくする観点からは、半焼成されたPTFEが好ましい。
未焼成のPTFEとしては、例えば、重合上がりのPTFEが挙げられる。
上記未焼成のPTFEとは、二次融点以上の温度に加熱した履歴のないPTFEであり、半焼成のPTFEとは、一次融点以上の温度で加熱された履歴のないPTFEであって、一次融点以下、かつ二次融点以上の温度で加熱されたPTFEである。
上記一次融点は、未焼成のPTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。
上記二次融点は、一次融点以上の温度(例えば、360℃)に加熱したPTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。
本明細書において、上記吸熱カーブは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られたものである。
【0051】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、平均一次粒子径が150nm以上であることが好ましい。より好ましくは、180nm以上であり、更に好ましくは210nm以上であり、特に好ましくは220nm以上である。
PTFEの平均一次粒子径が大きいほど、その粉末を用いてペースト押出成形をする際に、ペースト押出圧力の上昇を抑えられ、成形性にも優れる。上限は特に限定されないが500nmであってよい。重合工程における生産性の観点からは、350nmであることが好ましい。
上記平均一次粒子径は、重合により得られたPTFEの水性分散液を用い、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定できる。
【0052】
上記PTFEは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、粒子中に高分子量のポリテトラフルオロエチレンのコアと、より低分子量のポリテトラフルオロエチレンまたは変性のポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含む変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
このような変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、特表2005−527652号公報に記載されるポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0053】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、標準比重〔SSG〕が2.160以下であることが好ましい。SSGが2.160以下のポリテトラフルオロエチレンは、押出成形物の延伸倍率が3倍を超え、延伸成形に適する。より優れた延伸性が得られることから、SSGは2.155以下であることがより好ましく、2.150以下であることが更に好ましく、2.145以下であることが特に好ましい。
ペースト押出成形をする際に、ペースト押出圧力の上昇を抑えられ、成形性にも優れる観点からは、上記標準比重は、2.130以上であることが好ましい。
上記SSGは、溶融成形加工性を有しないポリテトラフルオロエチレンの分子量の指標としてASTM D4895−89に規定されるSSGである。
【0054】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、押出圧力が22.0MPa以下であることが好ましく、20.0MPa以下であることがより好ましく、19.0MPa以下であることが更に好ましく、18.0MPa以下であることが特に好ましい。
押出圧力が高すぎると、押出成形物が硬くなり、後述する圧延時につぶれにくくなって、多孔質体の均質性が低下する傾向がある。また、押出圧力が低いPTFEを用いると、多孔質体の強度が低下する傾向にあるが、本発明の多孔質体は、驚くべきことに、上記範囲の押出圧力であっても優れた強度を有する。
押出圧力の下限は特に限定されないが、例えば、12.0MPaである。
上記押出圧力は、特開2002−201217号公報の記載に従い、下記方法で求めた値である。
まず、PTFEファインパウダー100gに、PTFEファインパウダー及び潤滑剤を合わせた質量に基づき18.0質量%となるように潤滑剤(商品名:IP1620(登録商標)、出光石油化学社製)を添加し、室温にてガラスビン中で3分間混合する。次いで、ガラスビンを、押出前少なくとも1時間、室温(25℃)に放置し、潤滑化樹脂を得る。潤滑化樹脂をオリフィス(直径2.5mm、ランド長5mm、導入角30°)を通して、室温で100:1の減速比でペースト押出し、均一なビード(beading;押出成形体)を得る。押出スピード、すなわち、ラムスピードは、20インチ/分(51cm/分)とする。押出圧力は、ペースト押出しにおいて押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除した値とする。
【0055】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、破断強度が20N以上であることが好ましい。より好ましくは、28N以上であり、更に好ましくは、32N以上であり、特に好ましくは36N以上である。
特に、高い延伸倍率で延伸される場合には、上記範囲の破断強度であることが好ましい。
破断強度の上限は特に限定されないが、例えば、70Nである。
上記破断強度は、特開2002−201217号公報の記載に従い、下記方法で求めた値である。
まず、上記押出圧力測定のペースト押出しにより得られたビードを230℃で30分加熱することにより、潤滑剤をビードから除去し、次に、ビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔を5.1cmのいずれかの間隔となるよう、各末端をクランプに固定し、空気循環炉中で300℃に加熱し、次いでクランプを総延伸(総ストレッチ)2400%に相当する分離距離となるまで延伸速度(ストレッチ速度)100%/秒で離して、延伸ビード(ビードをストレッチすることによって作製されたもの)を作製する。
このストレッチ方法は、押出スピード(84cm/分でなく51cm/分)が異なることを除いて、本質的に米国特許第4,576,869号明細書に開示された方法に従う。『ストレッチ』とは、延伸による長さの増加であり、通常元の長さと関連して表される。
破断強度は、上記延伸ビードから得られる3つのサンプル〔延伸ビードの各末端から1つ(クランプの範囲においてネックダウンがあればそれを除く)、および、延伸ビードの中心から1つ、を採取したもの〕の最小引張り破断負荷力として測定されるものであり、
上記最小引張破断負荷力は、5.0cmのゲージ長(チャック間の距離)である可動ジョーにおいてサンプルを挟んで固定し、可動ジョーを300mm/分のスピードで駆動させ、引張り試験機を用いて25℃で300mm/分の速度で引っ張り試験を行い破断した時点の強度を3つのサンプルそれぞれについて測定し、その中で最も小さい値である。
【0056】
上記PTFEは、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、押出圧力が20.0MPa以下、かつ破断強度が28N以上であることが特に好ましく、押出圧力が19.0MPa以下、かつ破断強度が30N以上であることが最も好ましい。
【0057】
本発明の多孔質体は、上記PTFEからなるPTFEファインパウダーから形成することができる。
上記PTFEファインパウダーの平均粒子径は、通常、100〜1000μmである。より均質性に優れる多孔質体が得られることから、平均粒子径は300〜800μmであることが好ましく、400〜700μmであることがより好ましい。
上記PTFEファインパウダーの平均粒子径は、JIS K6891に準拠して測定した値である。
【0058】
上記PTFEファインパウダーの見掛密度は、通常、0.35〜0.60g/mlである。より均質性に優れる多孔質体が得られることから、見掛密度は0.40〜0.55g/mlが好ましい。
上記見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定した値である。
【0059】
上記PTFEは、界面活性剤、水性媒体、TFE、及び、微量共単量体を重合槽に投入する工程、及び、重合槽に重合開始剤を投入してTFEと微量共単量体との乳化共重合を開始する工程、を含む製造方法により製造することができる。
微量共単量体の供給は、重合開始前に一括して添加してもよいし、連続的又は間欠的に添加してもよい。
上記製造方法は、乳化共重合により得られたPTFE水性分散液中のPTFEを凝集させる工程を含むものであってもよい。PTFEを凝集させることによって、PTFEファインパウダーが得られる。
上記製造方法は、通常、凝集させて得られたPTFEを回収する工程、及び、回収したPTFEを乾燥する乾燥工程を含む。
【0060】
上記乳化共重合をより具体的な例を挙げて説明する。例えば、攪拌機を備えた耐圧の反応容器に水性媒体及び上記界面活性剤を仕込み、脱酸素後、TFE及び微量共単量体を仕込み、所定の温度にし、重合開始剤を添加して乳化共重合を開始し、反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のTFE、必要に応じて微量共単量体を連続的又は間欠的に追加供給する。所定量のTFE及び微量共単量体を供給した時点で供給を停止し、反応容器内のTFEをパージし、温度を室温に戻して反応を終了する。
【0061】
上記界面活性剤としては、より高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤がより好ましい。
LogPOWが大きい化合物は環境への負荷が懸念されており、これを考慮すると、LogPOWが3.4以下の化合物を使用することが好ましい。これまで乳化重合による含フッ素ポリマーの製造には、界面活性剤として主にパーフルオロオクタン酸アンモニウム〔PFOA〕が使用されており、PFOAはLogPOWが3.5であるので、LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤に切り替えることが好ましい。
一方で、LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤は乳化能に劣る問題がある。高い破断強度のPTFEを得るためには、重合時の水性分散液の安定性が重要であると信じられており、実際に乳化能に劣る含フッ素界面活性剤を使用すると充分な破断強度が得られない。
そこで、国際公開第2009/001894号には、LogPOWが小さい含フッ素界面活性剤を水性分散液の安定性を向上させるために多量に使用する方法が記載されている。しかし、この方法により得られたPTFEでも破断強度は充分ではない。
LogPOWが3.4以下である含フッ素界面活性剤存在下にテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を乳化共重合したPTFEを使用することによって、上記の微細構造を有し、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体を形成することができる。
すなわち、上記PTFEは、LogPOWが3.4以下である含フッ素界面活性剤存在下に、テトラフルオロエチレンと少なくともパーフルオロメチルビニルエーテルとを乳化共重合して得られるものであることが好ましい。
【0062】
上記界面活性剤は、LogPOWが2.5以上の含フッ素界面活性剤であってもよいし、3.0以上の含フッ素界面活性剤であってもよい。
【0063】
上記LogPOWは、1−オクタノールと水との分配係数であり、LogP[式中、Pは、含フッ素界面活性剤を含有するオクタノール/水(1:1)混合液が相分離した際のオクタノール中の含フッ素界面活性剤濃度/水中の含フッ素界面活性剤濃度比を表す]で表されるものである。
LogPOWで表されるオクタノール/水分配係数は、カラム:TOSOH ODS−120Tカラム(φ4.6mm×250mm)、溶離液;アセトニトリル/0.6質量%HClO4水=1/1(vol/vol%)、流速;1.0ml/分、サンプル量;300μL、カラム温度;40℃、検出光;UV210nmの条件で、既知のオクタノール/水分配係数を有する標準物質(ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸及びデカン酸)についてHPLCを行い、各溶出時間と既知のオクタノール/水分配係数との検量線を作成し、この検量線に基づき、試料液におけるHPLCの溶出時間から算出する。
【0064】
LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤としては、含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましく、米国特許出願公開第2007/0015864号明細書、米国特許出願公開第2007/0015865号明細書、米国特許出願公開第2007/0015866号明細書、米国特許出願公開第2007/0276103号明細書、米国特許出願公開第2007/0117914号明細書、米国特許出願公開第2007/142541号明細書、米国特許出願公開第2008/0015319号明細書、米国特許第3250808号明細書、米国特許第3271341号明細書、特開2003−119204号公報、国際公開第2005/042593号、国際公開第2008/060461号、国際公開第2007/046377号、国際公開第2007/119526号、国際公開第2007/046482号、国際公開第2007/046345号に記載されたもの等を使用できる。
【0065】
LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤としては、一般式:
CF−(CF−COOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属を表す。)、一般式:
CFCFCFOCF(CF)COOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属原子を表す。)、一般式:
CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属原子を表す。)、及び、一般式:
CFCFOCFCFOCFCOOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属原子を表す。)
からなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素界面活性剤であることが好ましい。
【0066】
LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤としては、一般式:
CFOCFCFOCFCFCOOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属原子を表す。)、一般式:
CFOCFCFCFOCHFCFCOOX
(式中、Xは水素原子、NH又はアルカリ金属原子を表す。)
等も挙げることができる。
【0067】
上記含フッ素界面活性剤が塩である場合、該塩を形成する対イオンとしては、アルカリ金属イオン又はNH4+等が挙げられ、アルカリ金属イオンとしては、例えば、Na、K等が挙げられる。
【0068】
LogPOWが3.4以下の含フッ素界面活性剤としては、CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOH、CFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH、CFCFOCFCFOCFCOOH、CFCFOCFCFOCFCOONH、CFOCFCFCFOCHFCFCOOH、CFOCFCFCFOCHFCFCOONH4、CF−(CF−COOH、CF−(CF−COONH、CFCFCFOCF(CF)COONH、CFCFCFOCF(CF)COOH等が挙げられる。
【0069】
上記界面活性剤は、合計添加量で、水性媒体に対して0.0001〜10質量%の量を添加することが好ましい。より好ましい下限は0.1質量%であり、より好ましい上限は2質量%、更に好ましい上限は1質量%である。
少なすぎると、乳化粒子の安定性が良くなく、収率を上げることができないおそれがあり、反応中及び反応後の凝集物や反応容器への付着物が多くなる等の系が不安定になる現象が起こるおそれがある。多すぎると、添加量に見合った安定性の効果が得られず、却って系が不安定になる現象が起こるおそれがあり、重合速度の低下や反応停止が起こるおそれがある。
上記界面活性剤は、重合反応を開始する前に一括で槽内に添加してもよいし、重合反応を開始した後、連続的又は断続的に添加してもよい。
上記界面活性剤の添加量は、乳化粒子の安定性や目的とするPTFEの一次粒子径等によって適宜決定される。
【0070】
上記乳化共重合における重合開始剤としては、TFEの重合において従来から使用されているものが使用できる。
上記乳化共重合における重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、レドックス重合開始剤等が使用できる。
上記重合開始剤の量は、少ないほど、SSGが低いPTFEを得ることができる点で好ましいが、あまりに少ないと重合速度が小さくなり過ぎる傾向があり、あまりに多いと、SSGが高いPTFEが生成する傾向がある。
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、水溶性過酸化物が挙げられ、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸パーオキサイド等の水溶性有機過酸化物等が好ましく、過硫酸アンモニウム又はジコハク酸パーオキサイドがより好ましい。これらは、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、重合温度と目標とするSSGに応じて適宜選択することができるが、一般的に使用される水性媒体の質量の1〜100ppmに相当する量が好ましく、1〜20ppmに相当する量がより好ましく、1〜6ppmに相当する量が更に好ましい。
上記重合開始剤としてラジカル重合開始剤を使用する場合、重合中に亜硫酸アンモニウム等のパーオキサイドの分解剤を添加することによって、系内のラジカル濃度を調整することもできる。
【0071】
上記重合開始剤としてラジカル重合開始剤を使用する場合、重合中にラジカル捕捉剤を添加することにより、SSGが低いPTFEを容易に得ることができる。
上記ラジカル捕捉剤としては、例えば、非置換フェノール、多価フェノール、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類、キノン化合物等が挙げられるが、なかでもハイドロキノンが好ましい。
上記ラジカル捕捉剤は、SSGが低いPTFEを得る点で、重合反応に消費される全TFEの50質量%が重合される前に添加することが好ましい。より好ましくは、TFEの40質量%、更に好ましくは30質量%が重合される前に添加する。
上記ラジカル捕捉剤は、使用される水性媒体の質量の0.1〜20ppmに相当する量が好ましく、3〜10ppmに相当する量がより好ましい。
【0072】
上記レドックス重合開始剤としては、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩、過硫酸塩、臭素酸塩、塩素酸塩、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、シュウ酸又はコハク酸等の有機酸、チオ硫酸塩、塩化第一鉄、ジイミン等の還元剤との組合せが挙げられる。上記酸化剤、還元剤いずれも1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、過マンガン酸カリウムとシュウ酸との組み合わせが好ましい。
上記レドックス重合開始剤の使用量は、使用するレドックス重合開始剤の種類、重合温度、目標とするSSGに応じて適宜選択することができるが、使用される水性媒体の質量の1〜100ppmに相当する量が好ましい。
上記レドックス重合開始剤は、上記酸化剤又は還元剤を同時に添加することで重合反応を開始しても良いし、予め上記酸化剤又は還元剤の何れか一方を槽内に添加しておき、残る一方を添加することで重合反応を開始しても良い。
上記レドックス重合開始剤は、予め上記酸化剤又は還元剤の何れか一方を槽内に添加しておき、残る一方を添加して重合を開始する場合、残る一方を連続的又は断続的に添加することが好ましい。
上記レドックス重合開始剤は、残る一方を連続的又は断続的に添加する場合、SSGが低いPTFEを得る点で、徐々に添加する速度を減速させることが好ましく、さらに重合途中で中止することが好ましく、該添加中止時期としては、重合反応に消費される全TFEの80質量%が重合される前が好ましい。TFEの65質量%が重合される前がより好ましく、TFEの50質量%が重合される前がさらに好ましく、30質量%が重合される前が特に好ましい。
レドックス重合開始剤を用いる場合は水性媒体中のpHをレドックス反応性を損なわない範囲に調整するため、pH緩衝剤を用いることが望ましい。pH緩衝剤としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩類を用いることができ、リン酸水素二ナトリウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム12水和物が好ましい。
また、レドックス重合開始剤を用いる場合の、レドックス反応する金属イオンとしては複数のイオン価をもつ各種の金属を用いることができる。具体例としては、鉄、銅、マンガン、クロムなどの遷移金属が好ましく、特に鉄が好ましい。
【0073】
上記水性媒体は、重合を行わせる媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水のみであるか、又は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0074】
上記重合は、0.05〜5.0MPaの圧力下で行うことができる。好ましい圧力の範囲は0.5〜3.0MPaである。
【0075】
上記重合は、10〜100℃の温度で行うことができる。好ましい温度の範囲は50〜90℃である。
【0076】
上記重合において、更に、目的に応じて、公知の安定剤、連鎖移動剤等を添加してもよい。
【0077】
上記安定剤としては、実質的に反応に不活性であって、上記反応条件で液状となる炭素数が12以上の飽和炭化水素を挙げられ、なかでも、パラフィンワックスが好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で液体でも、半固体でも、固体であってもよいが、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、通常40〜65℃が好ましく、50〜65℃がより好ましい。
また、飽和炭化水素以外の分散安定剤として、フッ素系オイル、フッ素系溶剤、シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記安定剤は、水性媒体100質量部に対して1〜10質量部で使用することができる。
【0078】
上記連鎖移動剤としては、公知のものが使用でき、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、水素等が挙げられる。上記連鎖移動剤の使用量は、通常、供給されるTFE全量に対して、1〜1000ppmであり、好ましくは1〜500ppmである。
【0079】
また、水性媒体中のpHをレドックス反応性を損なわない範囲に調整するため、pH緩衝剤を用いることが望ましい。pH緩衝剤としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩類を用いることができ、リン酸水素二ナトリウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム12水和物が好ましい。
また、レドックス重合開始剤を用いる場合の、レドックス反応する金属イオンとしては複数のイオン価をもつ各種の金属を用いることができる。具体例としては、鉄、銅、マンガン、クロムなどの遷移金属が好ましく、特に鉄が好ましい。
【0080】
上記重合は、重合中に生じる凝固物の量を減少させるために水性媒体に対して5〜500ppmのジカルボン酸の存在下に行ってもよく、その場合、10〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うことが好ましい。上記ジカルボン酸が水性媒体に対して少な過ぎると、充分な効果が得られないおそれがあり、多過ぎると、連鎖移動反応が起こり、得られるポリマーが低分子量のものとなるおそれがある。上記ジカルボン酸は、150ppm以下であることが好ましい。上記ジカルボン酸は、重合反応の開始前に添加してもよいし、重合途中に添加してもよい。
【0081】
上記ジカルボン酸としては、例えば、一般式:HOOCRCOOH(式中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)で表されるものが好ましく、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸がより好ましく、コハク酸が更に好ましい。
【0082】
上記PTFEの重合が終了した時点で、固形分濃度が10〜50質量%の水性分散液を得ることができる。上記水性分散液は、上記含フッ素界面活性剤、及び、ポリテトラフルオロエチレンを含有する。ポリテトラフルオロエチレンの平均一次粒子径は150〜500nmである。
【0083】
上記製造方法は、得られたPTFE水性分散液中のPTFEを凝集させる工程、凝集させて得られたPTFEを回収する工程、及び、回収したPTFEを乾燥する乾燥工程を含むことが好ましい。
上記水性分散液に含まれるポリテトラフルオロエチレンを凝集させることによりPTFEファインパウダーが得られる。
上記ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液は、凝集、洗浄、乾燥を経てファインパウダーとして回収し、多孔質体の製造に使用することができる。上記ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液に対して凝集を行う場合、通常、ポリマーラテックス等の重合により得た水性分散液を、水を用いて10〜20質量%のポリマー濃度になるように希釈し、5〜50℃に調整し、場合によっては、pHを中性又はアルカリ性に調整した後、撹拌機付きの容器中で反応中の撹拌よりも激しく撹拌して行う。凝集させる温度は使用する撹拌翼の形状やサイズ、ポリマー濃度、目的とするファインパウダーの平均粒子径に応じて、適宜選択することができる。上記凝集は、メタノール、アセトン等の水溶性有機化合物、硝酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩や、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を凝析剤として添加しながら撹拌を行ってもよい。上記凝集は、また、インラインミキサー等を使用して連続的に行ってもよい。
【0084】
上記PTFEを凝集して得られた湿潤粉末の乾燥は、通常、上記湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに好ましくない影響を与える。これは、この種のポリテトラフルオロエチレンからなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。上記乾燥は、10〜250℃、好ましくは120〜230℃の乾燥温度で行うことができる。
【0085】
本発明の多孔質体は、縦と横のマトリクス引張強度の積が2.20×10MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、3.00×10MPa以上であり、更に好ましくは、5.00×10MPa以上である。
上記縦と横のマトリクス引張強度は、下記方法で求めた値である。
(縦のマトリクス引張強度)
多孔質体から5つの試料を切り出す。各試料は、縦方向(長手方向、つまりペースト押出方向)に15.0cm、横方向(幅方向、つまりペースト押出方向とは直角方向)に2.0cmの寸法を有する。5つの試料について、縦方向の引張強度測定を行い、5つの試料それぞれが示す最大荷重を求める。
次に、5つの試料が示した最大荷重の値のうち、最も大きな値と最も小さな値とを除き、残りの3つの値の平均値を算出し、縦の平均最大荷重とする。
縦のマトリクス引張強度は、縦の平均最大荷重、試料幅(2.0cm)、膜厚み(単位:cm)及び空孔率から、下記式を用いて求める。
縦のマトリクス引張強度={縦の平均最大荷重/(2.0×膜厚み)}/(1−空孔率)
(横のマトリクス引張強度)
多孔質体から5つの試料を切り出す。各試料は、縦方向(長手方向、つまりペースト押出方向)に2.0cm、横方向(幅方向、つまりペースト押出方向とは直角方向)に15.0cmの寸法を有する。5つの試料について、横方向の引張強度測定を行い、5つの試料それぞれが示す最大荷重を求める。
次に、縦方向と同様に横の平均最大荷重を求め、下記式を用いて横のマトリクス引張強度を求める。
横のマトリクス引張強度={横の平均最大荷重/(2.0×膜厚み)}/(1−空孔率)
なお、上記引張強度測定は、50Nロードセルを備える引張試験機を用い、チャック長さを5.0cm、クロスヘッド速度を300mm/分として行う。
上記空孔率は、下記式により求められる値である。
空孔率=1−(膜密度/PTFE真密度)
上記PTFE真密度は、2.2g/cmである。
上記膜厚み、膜密度は、後述する方法で求める。
【0086】
本発明の多孔質体は、気体又は液体の透過量もしくは流量が多くなることが望ましいため、膜密度が1.40g/cm以下であることが好ましい。より好ましくは、1.00g/cm以下であり、更に好ましくは、0.80g/cm以下である。
上記膜密度は下記方法にて求めた値である。
多孔質体を4.0cm×12.0cmの長方形にカットした試料の質量を精密天秤にて測定し、測定した質量及び膜厚みから、以下の式により試料の密度を計算する。
ρ=M/(4.0×12.0×t)
ρ=膜密度(g/cm
M=質量(g)
t=膜厚み(cm)
3か所について上記測定および計算を行い、それらの平均値を膜密度とする。
【0087】
本発明の多孔質体は、平均孔径が、0.05〜2.0μmであることが好ましく、0.2〜1.5μmの範囲がより好ましい。
平均孔径が上記範囲であることによって、液体(薬液含む)の精密濾過フィルター等の用途に好適に使用できる。
エアフィルターに用いる場合、低い圧力損失を維持する観点から、平均孔径が0.4〜2.0μmが好ましい。
上記平均孔径は、ASTM F−316−86の記載に準じて測定されるミーンフローポアサイズ(MFP)である。
【0088】
本発明の多孔質体はまた、平均孔径が2.00μm以下であることが好ましく、1.00μm以下であることがより好ましい。さらに、高い膜強度を要求される場合には、平均孔径が小さいことが好ましいので、0.60μm以下であることが更に好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
平均孔径は、0.05μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.10μm以上であり、更に好ましくは0.20μm以上である。
【0089】
本発明の多孔質体は、多孔質膜であることが好ましい。本発明の多孔質体が多孔質膜である場合、その膜厚は、0.5μm以上であることが好ましい。より好ましくは、1μm以上であり、更に好ましくは、3μm以上である。膜厚が薄すぎると機械的強度が低下するおそれがある。また、膜厚の上限は特に限定されないが、例えば、100μmである。
例えば、エアフィルターとして用いる場合、圧力損失の上昇を抑制する観点から、好ましい上限は100μmである。
上記膜厚みは、膜厚計を使用し、多孔質膜を5枚重ねて全体の膜厚みを測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚みとする。
【0090】
本発明の多孔質体は、上記PTFE以外にも、公知の添加剤等を含んでもよい。例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の炭素材料、顔料、光触媒、活性炭、抗菌剤、吸着剤、防臭剤等を含むことも好ましい。
上記公知の添加剤等は、本発明の効果を妨げない範囲の量で使用することができる。例えば、本発明の多孔質体は、上記公知の添加剤等が、合計で40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
逆にいうと、本発明の多孔質体は、上記PTFEが、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0091】
本発明の多孔質体は、例えば、上記PTFEからなるPTFEファインパウダーをペースト押出してペースト押出物を得るペースト押出工程、ペースト押出物を圧延してPTFE未焼成体を得る圧延工程、PTFE未焼成体を乾燥して押出助剤を除去する乾燥工程、必要に応じて乾燥後のPTFE未焼成体を半焼成してPTFE半焼成体を得る工程、得られた乾燥後のPTFE未焼成体又はPTFE半焼成体を縦方向(MD)に延伸して一軸延伸体を得る一軸延伸工程、及び、得られた一軸延伸体を横方向(TD)に延伸する二軸延伸工程、を含む製造方法により製造することができる。
上記方法により、ポリテトラフルオロエチレンは容易にフィブリル化し、結節と繊維からなる二軸延伸多孔質膜が得られる。
なお、通常、上記縦方向(MD)は、ペースト押出工程でペースト押出した方向と同じ方向である。横方向(TD)は、縦方向に対して垂直な方向である。
通常は、圧延工程(半焼成する場合は半焼成体を得る工程)の後、縦方向に延伸して一軸延伸体を得て、その後、横方向に延伸して二軸延伸体を得るが、圧延工程(半焼成する場合は半焼成体を得る工程)の後、横方向に延伸して一軸延伸体を得て、その後、縦方向に延伸して二軸延伸体を得てもよい。
なお、延伸設備の設計上、延伸倍率に制限がある場合等には、縦方向の延伸(一軸延伸工程)、横方向の延伸(二軸延伸工程)のいずれも、複数回行ってもよい(いわゆる多段延伸)。
本発明の多孔質体は、製造に特別な設備設計が必要でなく、ごく一般的な成形・延伸設備を用いて製造することができる。
また、本発明の多孔質体は、一軸延伸して得られる一軸延伸多孔質体であってもよいが、上記のように二軸延伸して得られる二軸延伸多孔質体であることがより好ましい。
【0092】
上記製造方法は、ペースト押出工程の前に、PTFEファインパウダーに、ソルベントナフサ、ホワイトオイルなどの液状潤滑剤を添加して液状潤滑剤と混合されたPTFEファインパウダーを得る工程を含むことが好ましい。
上記液状潤滑剤の添加量は、後述するペースト押出条件等にもよるが、PTFEファインパウダー100質量部に対して、17〜34質量部であることが好ましい。
【0093】
上記ペースト押出工程は、特定の径を有するダイスや、シート形状の押出物が得られるダイスを備えた押出機を用いて、棒状又はシート状のペースト押出物を得るものであることが好ましい。
上記ペースト押出工程において、押出圧力は、使用する押出機や、押出速度等に応じて適宜設定すればよい。
【0094】
上記ペースト押出工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質が得られることから、押出温度が5〜100℃であることが好ましい。より好ましくは、30〜80℃である。
【0095】
上記ペースト押出工程は、PTFEファインパウダーを予備成形して予備成形体を得て、この予備成形体を押出機に入れて押出して棒状のペースト押出物を得るものであることが好ましい。
【0096】
上記圧延工程は、圧延温度が5〜100℃であることが好ましく、30〜80℃であることがより好ましい。
圧延後の未焼成PTFEの厚みは、通常、20〜500μmであり、好ましくは50〜400μmである。
【0097】
上記乾燥工程は、常温でおこなってもよいし、加熱して行ってもよい。上記のように液状潤滑剤を使用した場合、乾燥することにより液状潤滑剤を除去することができる。乾燥温度は、液状潤滑剤の種類等によるが、70〜280℃であることが好ましく、100〜250℃であることがより好ましい。
【0098】
上記圧延は、圧延ロール等を用いる方法、ベルトプレス等により行うことができる。
【0099】
上記製造方法は、必要に応じてPTFE未焼成体を半焼成してPTFE半焼成体を得る工程を含む。
上記半焼成は、PTFEの一次融点以下、かつ二次融点以上の温度で加熱するものである。
上記一次融点は、未焼成のPTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。
上記二次融点は、一次融点以上の温度(例えば、360℃)に加熱したPTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。
本明細書において、上記吸熱カーブは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られたものである。
【0100】
上記一軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸倍率が2〜50倍であることが好ましく、5〜30倍であることがより好ましい。
【0101】
上記一軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸温度が常温〜一次融点未満であることが好ましく、200〜330℃であることがより好ましく、250〜300℃であることが更に好ましい。
【0102】
上記一軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸速度が5〜2000%/秒であることが好ましく、7〜1000%/秒であることがより好ましく、10〜700%/秒であることが更に好ましい。
【0103】
一軸延伸を行う方法としては、特に限定されない。工業的にはロール延伸、熱板延伸等が挙げられる。
【0104】
上記二軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸倍率が2〜100倍であることが好ましく、10〜50倍であることがより好ましい。
【0105】
上記二軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸温度が常温〜400℃であることが好ましく、150〜390℃であることがより好ましく、200〜380℃であることが更に好ましい。
【0106】
上記二軸延伸工程は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、延伸速度が5〜1000%/秒であることが好ましく、7〜700%/秒であることがより好ましく、10〜600%/秒であることが更に好ましい。
【0107】
上記製造方法は、高強度、少孔径かつ均質性に優れる多孔質体が得られることから、二軸延伸工程の後に、熱固定する工程を含むことが好ましい。熱固定の温度は、300〜420℃であることが好ましく、350〜400℃であることがより好ましい。
【0108】
上記二軸延伸を行う方法としては特に限定されないが、テンター等を用いて行う方法が挙げられる。
【0109】
本発明の多孔質体は、高い空孔率を維持したまま、高い強度と良好な均質性を有することから、エアフィルター、薬液フィルター等の各種精密濾過フィルターの濾材、高分子電解質膜の支持材等として好適に利用できる。また、半導体分野、繊維分野、医療分野、エレクトロケミカル分野、シール材分野、空気濾過分野、給気/換気/内圧調整分野、液濾過分野、水処理分野、一般消費材分野等で使用する製品の素材としても有用である。
以下に、具体的な用途を例示する。
【0110】
エレクトロケミカル分野
誘電材料プリプレグ、EMI遮蔽材料、伝熱材料等。より詳細には、プリント配線基板、電磁遮蔽シールド材、絶縁伝熱材料、絶縁材料等。
【0111】
シール材分野
ガスケット、パッキン、ポンプダイアフラム、ポンプチューブ、航空機用シール材等。
【0112】
空気濾過分野
ULPAフィルター(半導体製造用)、HEPAフィルター(病院・半導体製造用)、円筒カートリッジフィルター(産業用)、バグフィルター(産業用)、耐熱バグフィルター(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルター(排ガス処理用)、SINBRANフィルター(産業用)、触媒フィルター(排ガス処理用)、吸着剤付フィルター(HDD組込み)、吸着剤付ベントフィルター(HDD組込み用)、ベントフィルター(HDD組込み用他)、掃除機用フィルター(掃除機用)、汎用複層フェルト材、GT用カートリッジフィルター(GT向け互換品用)、クーリングフィルター(電子機器筐体用)等。
【0113】
換気/内圧調整分野
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等。
【0114】
液濾過分野
半導体液ろ過フィルター(半導体製造用)、親水性PTFEフィルター(半導体製造用)、化学薬品向けフィルター(薬液処理用)、純水製造ライン用フィルター(純水製造用)、逆洗型液ろ過フィルター(産業排水処理用)等。
【0115】
一般消費材分野
衣類(民生衣類向け)、ケーブルガイド(バイク向け可動ワイヤ)、バイク用衣服(民生衣服向け)、キャストライナー(医療サポーター)、掃除機フィルター、バグパイプ(楽器)、ケーブル(ギター用信号ケーブル等)、弦(弦楽器用)等。
【0116】
繊維分野
PTFE繊維(繊維材料)、ミシン糸(テキスタイル)、織糸(テキスタイル)、ロープ等。
【0117】
医療分野
体内埋設物(延伸品)、人工血管、カテーテル、一般手術(組織補強材料)、頭頸部製品(硬膜代替)、口内健康(組織再生医療)、整形外科(包帯)等。
【0118】
特に、本発明の多孔質体は、低圧力損失であるため、ULPAフィルター、HEPAフィルター、各種中性能エアフィルター用の濾材として特に有用である。
【0119】
本発明の多孔質体は、高強度、少孔径かつ均質性に優れることから、薬液フィルター、エアフィルター等の各種フィルターとして好適に利用できる。すなわち、上記多孔質体からなるフィルター用濾材も本発明の一つである。
上記フィルター用濾材は、上記多孔質体のみからなるものであってもよいし、上記多孔質体と、他の材料とを積層したものであってもよい。
例えば、取扱い性をよくするために、通気性支持材で少なくとも片面を補強して使用することが好ましい。通気性支持材とは、多孔質体を支持するものであり、好ましくは、多孔質体に接着している。支持材は、通気性を有し、かつ多孔質体を支持できるものであれば特に限定されないが、不織布が好ましい。
【0120】
このような不織布としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維不織布、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維不織布、芯成分がPETで鞘成分がポリエチレン(PE)である芯鞘構造の不織布(PET/PE芯/鞘不織布)、芯成分がPETで鞘成分がPBTである芯鞘構造の不織布(PET/PBT芯/鞘不織布)、芯成分が高融点PETで鞘成分が低融点PETである芯鞘構造の不織布(高融点PET/低融点PET芯/鞘不織布)、PET繊維及びPBT繊維の複合繊維からなる不織布、高融点PET繊維及び低融点PET繊維の複合繊維からなる不織布等が挙げられる。支持材は、本発明の効果を妨げないように、高い通気性を有し、低圧力損失であることが好ましい。
【0121】
上述のように、濾材の性能は、主に、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質体の性能に由来し、支持材としてプレフィルタ機能を有する支持材を用いなくても十分に大きな保塵量(捕塵量)が得られるが、更に保塵量を大きくする目的で、支持材としてメルトブロー不織布などを用いてもよい。
【0122】
支持材の孔径は、上記多孔質体の孔径より大きいことが好ましい。支持材に用いられる不織布の目付は、通常10〜600g/m、好ましくは15〜300g/m、より好ましくは15〜100g/mである。また、支持材に用いられる不織布の膜厚は、好ましくは0.10〜0.52mmである。また、保塵量を確保するために、気流の上流側に保塵量の多い通気性支持材(例えば、特開2000−300921号公報、特表2008−525692号公報、米国特許第6808553号明細書に記載のものなど、公知の保塵量を確保できる手段)を使用してよい。
本発明はまた、上記フィルター用濾材と、該フィルター用濾材を保持する枠体と、を備えるフィルターユニットでもある。
【0123】
本発明の多孔質体は、高強度、少孔径かつ均質性に優れることから、繊維製品として好適に利用できる。すなわち、本発明の多孔質体は、多孔質繊維であることも好ましい。
【0124】
本発明の多孔質体は、高強度、少孔径かつ均質性に優れることから、医療分野等で使用される多孔質中空糸として好適に利用できる。
すなわち、本発明の多孔質体は、多孔質中空糸であることも好ましい。
上記多孔質中空糸は、医療分野だけでなく、中空糸膜として精密濾過フィルターとして、半導体・FPD分野、電池分野、洗浄分野、バイオマス関連分野、測定機器や印刷機器等の内部フィルター分野、汚水処理分野、廃液処理分野、化学プラント分野、飲料水や清涼飲料、酒類等の食品分野等に幅広く使用される。
【0125】
本発明はまた、上記多孔質体を含む高分子電解質膜である。
高分子電解質膜に用いる場合、上記多孔質体は、平均孔径が2.00μm以下であることが好ましく、1.00μm以下であることがより好ましい。
さらに、高い膜強度を要求される場合には、平均孔径が小さいことが好ましいので、0.60μm以下であることが更に好ましく、0.40μm以下であることが特に好ましい。
平均孔径は、0.05μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.10μm以上であり、更に好ましくは0.20μm以上である。
【0126】
上記高分子電解質は、固体高分子型燃料電池の高分子固体電解質として用いられる公知のポリマーを使用することができる。
【0127】
上記高分子電解質としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物、又は、分子内に芳香環を有する、一部がフッ素化された炭化水素系高分子化合物にイオン交換基を導入した化合物などが好ましい。このなかでも、化学的安定性の観点から、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物がより好ましい。
【0128】
上記高分子電解質は、当量重量(EW)、つまりイオン交換基1当量当たりの乾燥重量が250以上、1500以下であることが好ましい。
EWの上限は、900であることがより好ましく、700であることが更に好ましく、600であることが特に好ましく、500であることが殊更に好ましい。
EWの下限は、300であることがより好ましく、350であることが更に好ましく、400であることが特に好ましい。
EWが小さい方が、伝導度が高くなり好ましい反面、熱水への溶解性が大きくなる場合があるため、上記のような適切な範囲であることが望ましい。
EWが低い高分子電解質を使用すると、高分子電解質膜の寸法変化が大きくなり、燃料電池自動車の運転時のような、高温で湿度変化が大きな環境下では、耐久性が悪くなる傾向があるが、本発明の高分子電解質膜は、上記多孔質体を備えることによって、EWが低い高分子電解質を使用したとしても、寸法変化が小さく、耐久性及び信頼性に優れたものとなる。
【0129】
上記高分子電解質は、110℃相対湿度80%RHにおけるプロトン伝導度が0.10S/cm以上であることが好ましい。より好ましくは60%RHにおけるプロトン伝導度が0.05S/cm以上であり、更に好ましくは40%RHにおけるプロトン伝導度が0.02S/cm以上、更により好ましくは30%RHにおけるプロトン伝導度が0.01S/cm以上である。
上記高分子電界質のプロトン伝導度は高いほどよいが、例えば、110℃相対湿度50%RHにおけるプロトン伝導度が1.0S/cm以下であってもよい。
【0130】
上記高分子電解質は、25℃50%RHにおけるイオンクラスター間距離が、0.1nm以上2.6nm以下であることが好ましい。イオンクラスター間距離が2.6nm以下になると伝導度が急激に大きくなる。
イオンクラスター間距離の上限は、より好ましくは2.5nmである。イオンクラスター間距離の下限は、より好ましくは0.5nmであり、さらに好ましくは1.0nmであり、特に好ましくは2.0nmである。
例えば、上記範囲のイオンクラスター間距離を有するフッ素系高分子電解質は、特殊なイオンクラスター構造を有している。フッ素系高分子電解質については後述する。
イオンクラスターとは、複数のプロトン交換基が集合し形成されたイオンチャンネルであり、ナフィオンに代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜もこのようなイオンクラスター構造を有すると考えられている(例えば、Gierke.T.D.,Munn.G.E.,Wilson.F.C. J.Polymer Sci. Polymer Phys, 1981, 19, 1687参照。)。
【0131】
イオンクラスター間距離dは、以下の方法で測定し、算出することができる。
製膜した高分子電解質に対し、25℃50%RHの雰囲気で小角X線散乱測定を実施する。得られた散乱強度をブラッグ角θに対してプロットし、通常2θ>1°に現れるクラスター構造由来のピーク位置におけるブラッグ角θmを算出する。θmから下記式(1)によりイオンクラスター間距離dを算出する。
d=λ/2/sin(θm) (1)
(式中λは入射X線波長)
なお、この測定の際、膜をキャスト法により製膜した場合は事前に160℃でアニールする。また、後述するフッ素系高分子電解質では、COOZ基又はSOZ基で表される末端基がCOOH又はSOHになるよう処理する。試料膜は測定前に30分以上25℃50%RHの雰囲気に保持した後、測定を実施する。
上記フッ素系高分子電解質は、イオンクラスター間の距離が短いため、プロトンがイオンクラスター間を移動しやすいと推測され、低湿度下でも高い伝導度を有する。
【0132】
上記高分子電解質は、フッ素系高分子電解質であることが好ましく、上記フッ素系高分子電解質は、COOZ基又はSOZ基(Zはアルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、又は、NRを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又は水素を表す。)含有モノマー単位を有するものであることが好ましい。
上記フッ素系高分子電解質において、COOZ基又はSOZ基含有モノマー単位は、全単量体単位の10〜95モル%であることが好ましい。ここで「全単量体単位」とは、フッ素系高分子電解質の分子構造上、モノマーに由来する部分の全てを示す。
上記COOZ基又はSOZ基含有モノマー単位は、一般に、下記一般式(I)
CF=CF(CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (I)
(式中、Yは、F(フッ素原子)、Cl(塩素原子)又はパーフルオロアルキル基を表す。kは0〜2の整数、lは0又は1、nは、0〜8の整数を表し、n個のYは、同一でも異なっていてもよい。YはF又はClを表す。mは0〜12の整数を表す。ただし、m=0の場合は、l=0、n=0となる。m個のYは、同一でも異なっていてもよい。AはCOOZ又はSOZ、Zはアルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、又は、NRを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又は水素を表す。)で表されるCOOZ基又はSOZ基含有モノマーに由来するものである。
【0133】
上記一般式(I)において、上記Yは、F又は−CFであることが好ましく、Fがより好ましい。
は、−SOZであることが好ましく、−SOHであることがより好ましい。
mは0〜6の整数であることが好ましい。
また、上記一般式(I)において、合成面及び操作性の観点から、kは0であることがより好ましく、lは1であることがより好ましく、nは0又は1であることがより好ましく、nは0であることが更に好ましい。
また、YはFであり、mは2〜6の整数であることがより好ましく、YはFであり、mは2又は4であることが更に好ましく、YはFであり、mは2であることが特に好ましい。
【0134】
上記フッ素系高分子電解質において、上記COOZ基又はSOZ基含有モノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0135】
上記フッ素系高分子電解質は、上記COOZ基又はSOZ基含有モノマーに由来する繰り返し単位(α)と、COOZ基又はSOZ基含有モノマーと共重合可能なエチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(β)とを含む共重合体であることが好ましい。
【0136】
上記繰り返し単位(β)を構成することとなるエチレン性フルオロモノマーは、エーテル性酸素〔−O−〕を有さず、ビニル基を有するモノマーであるが、ビニル基はフッ素原子により水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。
なお、本明細書において「エーテル性酸素」とは、モノマー分子を構成する−O−構造を意味する。
【0137】
上記エチレン性フルオロモノマーとしては、例えば、下記一般式(II)
CF=CF−Rf (II)
(式中、Rfは、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)
で表されるハロエチレン性フルオロモノマー、あるいは下記一般式(III)
CHY=CFY (III)
(式中、YはH又はFを表し、YはH、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)
で表される水素含有フルオロエチレン性フルオロモノマー等が挙げられる。
【0138】
上記エチレン性フルオロモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン〔VDF〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン等が挙げられるが、TFE、VDF、CTFE、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、HFPであることが好ましく、TFE、CTFE、HFPがより好ましく、TFE、HFPが更に好ましく、TFEが特に好ましい。上記エチレン性フルオロモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0139】
上記フッ素系高分子電解質は、COOZ基又はSOZ基含有モノマーに由来する繰り返し単位(α)が10〜95モル%、エチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(β)が5〜90モル%、繰り返し単位(α)と繰り返し単位(β)との和が95〜100モル%である共重合体であることが好ましい。
【0140】
上記COOZ基又はSOZ基含有モノマーに由来する繰り返し単位(α)は、より好ましい下限が15モル%、更に好ましい下限が20モル%、より好ましい上限が60モル%、更に好ましい上限が50モル%である。
【0141】
上記エチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(β)は、より好ましい下限が35モル%、更に好ましい下限が45モル%、より好ましい上限が85モル%、更に好ましい上限が80モル%である。
【0142】
上記フッ素系高分子電解質は、上記一般式(I)で表されるCOOZ基又はSOZ基含有モノマーに由来する繰り返し単位と、TFEに由来する繰り返し単位と、を含有する共重合体であることが好ましい。
【0143】
上記フッ素系高分子電解質は、上記以外の第3成分モノマーに由来する繰り返し単位として、COOZ基又はSOZ基含有モノマー以外のビニルエーテルに由来する繰り返し単位(γ)を、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは4モル%以下、更に好ましくは3モル%以下有するものであっても差し支えない。
なお、フッ素系高分子電解質のポリマー組成は、例えば、300℃における溶融NMRの測定値から算出することができる。
【0144】
繰り返し単位(γ)を構成することとなるCOOZ基又はSOZ基含有モノマー以外のビニルエーテルとしては、COOZ基又はSOZ基を含有しないものであれば特に限定されず、例えば、下記一般式(IV)
CF=CF−O−Rf (IV)
(式中、Rfは、炭素数1〜9のフルオロアルキル基又は炭素数1〜9のフルオロポリエーテル基を表す。)
で表されるフルオロビニルエーテル、より好ましくはパーフルオロビニルエーテル、あるいは下記一般式(V)
CHY=CF−O−Rf (V)
(式中、Yは、H又はFを表し、Rfは、炭素数1〜9のエーテル基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)
で表される水素含有ビニルエーテル等が挙げられる。上記ビニルエーテルとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0145】
上記高分子電解質は、従来公知の方法を用いて製造することができる。例えば、国際公開第2009/116446号に記載された方法で製造することができる。
【0146】
本発明の高分子電解質膜は、厚みが1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上100μm以下であり、更に好ましくは5μm以上50μm以下である。膜厚が薄いと発電時の直流抵抗を小さくできる一方、ガス透過量が高くなるおそれがあるため、上記のような適切な範囲であることが望ましい。
また、本発明の高分子電解質膜は、上記の多孔質体を使用することで、優れた耐久性を維持しながら、厚みを薄くすることもできる。
【0147】
次に、本発明の高分子電解質膜の製造方法について以下に説明する。
【0148】
(高分子電解質膜の製造方法)
本発明の高分子電解質膜は、例えば、多孔質体を後述する高分子電解質溶液に含浸させるか、高分子電解質溶液を多孔質体に塗布することで得ることができる。上記含浸又は塗布の後には、乾燥を行うことが好ましい。
【0149】
上記含浸させる方法としては、ディップコーティングする方法が挙げられる。
上記塗布方法としては、スロットダイ方式や特表平11−501964号公報に開示された正転ロールコーティング、逆転ロールコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、スプレーコーティング等のコーティング技術が挙げられる。これら方式は、作製したい塗工液層の厚み、塗工液等の材料物性、塗工条件を考慮して、適宜選択できる。
【0150】
上記乾燥では、高分子電解質溶液を構成する溶媒を除去する。乾燥は、常温下で行ってもよいし、加熱下で行ってもよい。
上記乾燥は、加熱下で行うものであることが好ましく、例えば、50〜350℃で加熱することが好ましい。
【0151】
本発明の高分子電解質膜を製造するためのより具体的な方法としては、例えば、移動している又は静置されている細長いキャスティング基材(シート)上に高分子電解質溶液の被膜を形成し、その溶液上に細長い多孔質体を接触させ、未完成な複合構造体を作製し、この未完成な複合構造体を熱風循環槽中等で乾燥させ、次に乾燥させた未完成な複合構造体の上に高分子電解質溶液の被膜をさらに形成し、高分子電解質膜を作製する方法が挙げられる。
【0152】
さらに、高分子電解質膜の伝導性や機械的強度を向上する目的で、このようにして作製された高分子電解質膜の少なくとも一方の主面上に、高分子電解質を含む層を1層以上積層してもよい。
また、架橋剤や紫外線、電子線、放射線等を用いて、そこに含まれる化合物同士を架橋してもよい。
【0153】
(高分子電解質溶液)
上記高分子電解質溶液は、適切な溶媒(樹脂との親和性が良好な溶媒)に、高分子電解質を溶解又は懸濁させて得ることができる。
適切な溶媒としては、例えば、水やエタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリンなどのプロトン性有機溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。特に、1種の溶媒を用いる場合、水単独が好ましい。また、2種類以上を併用する場合、水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒が特に好ましい。
【0154】
溶解又は懸濁する方法は、特に限定されない。例えば、まず、総固形分濃度が1〜50質量%となるような条件下、高分子電解質を、例えば、水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒に加える。次に、この組成物を必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に入れ、窒素などの不活性気体で内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃の条件下、1〜12時間加熱、攪拌する。これにより、溶解液又は懸濁液が得られる。なお、この際の総固形分濃度は高いほど収率上好ましいが、濃度を高めると未溶解物が生じるおそれがあるため、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0155】
プロトン性有機溶媒を用いる場合、水とプロトン性有機溶媒の混合比は、溶解方法、溶解条件、高分子電解質の種類、総固形分濃度、溶解温度、攪拌速度等に応じて適宜選択できる。水に対するプロトン性有機溶媒の質量の比率は、水1に対してプロトン性有機溶媒0.1〜10が好ましく、特に好ましくは水1に対して有機溶媒0.1〜5である。
【0156】
なお、このような溶液又は懸濁液には、乳濁液(液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなすもの)、懸濁液(液体中に固体粒子がコロイド粒子あるいは顕微鏡で見える程度の粒子として分散したもの)、コロイド状液体(巨大分子が分散した状態)、ミセル状液体(多数の小分子が分子間力で会合して出来た親液コロイド分散系)等の1種又は2種以上が含まれる。
【0157】
また、このような溶液又は懸濁液は、濃縮することが可能である。濃縮の方法としては特に限定されない。例えば、加熱し、溶媒を蒸発させる方法や、減圧濃縮する方法等がある。その結果得られる塗工溶液の固形分率は、高すぎると粘度が上昇して取り扱い難くなるおそれがあり、また低すぎると生産性が低下する場合があるため、最終的な塗工溶液の固形分率は0.5〜50質量%が好ましい。
【0158】
以上により得られた溶液又は懸濁液は、粗大粒子成分を除去する観点から、濾過されることがより好ましい。濾過方法は、特に限定されず、従来行われている一般的な方法が適用できる。例えば、通常使用されている定格濾過精度を有する濾材を加工したフィルターを用いて、加圧濾過する方法が代表的に挙げられる。フィルターについては、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の10倍〜100倍の濾材を使用することが好ましい。この濾材は濾紙でもよいし、金属焼結フィルターのような濾材でもよい。特に濾紙の場合は、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の10〜50倍であることが好ましい。金属焼結フィルターの場合は、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の50〜100倍であることが好ましい。当該90%捕集粒子径を平均粒子径の10倍以上に設定することは、送液するときに必要な圧力が高くなりすぎることを抑制したり、フィルターが短期間で閉塞してしまうことを抑制し得る。一方、平均粒子径の100倍以下に設定することは、フィルムで異物の原因となるような粒子の凝集物や樹脂の未溶解物を良好に除去する観点から好ましい。
【0159】
本発明は、上記高分子電解質膜を備える膜電極接合体でもある。電解質膜の両面にアノードとカソードの2種類の電極触媒層が接合したユニットは、膜電極接合体(以下「MEA」と略称することがある)と呼ばれる。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。
【0160】
電極触媒層は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤とから構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であればよく、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、およびこれらの合金等が挙げられ、その中では、主として白金が用いられる。
【0161】
電極面積に対する電極触媒の担持量としては、電極触媒層を形成した状態で、好ましくは0.001〜10mg/cm、より好ましくは0.01〜5mg/cm、最も好ましくは0.1〜1mg/cmである。
【0162】
上記で得られたMEA、場合によっては更に一対のガス拡散電極が対向した構造のMEAは、更にバイポーラプレートやバッキングプレート等の一般的な固体高分子電解質型燃料電池に用いられる構成成分と組み合わされて、固体高分子電解質型燃料電池が構成される。本発明は、上記膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池でもある。
【0163】
バイポーラプレートとは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトと樹脂との複合材料、または金属製のプレート等を意味する。バイポーラプレートは、電子を外部負荷回路へ伝達する機能の他、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を持っている。こうしたバイポーラプレートの間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池が製造される。
【0164】
従来、PTFE二軸延伸膜は、延伸時に微少なフィブリルの“毛羽”が立つため、表面の滑り性が悪く、粘着性を感じる手触りである。この“毛羽”は互いに絡み合う為、PTFE二軸延伸膜同士は接着されたような状態になりやすく、長い巻物を作製すると、巻圧が強くなる巻芯部でブロッキングが発生し、ラミネート加工時などに安定して繰り出すことが難しかった。
一方、本発明の多孔質体では、“毛羽”の発生を抑えることができる。表面が平滑で滑り性が良く、動摩擦係数・静摩擦係数共に、従来のPTFE二軸延伸膜より低いため、加工プロセス上取り扱い易い。
更に、本発明の多孔質体は、高い繊維密度を有することも、従来にない特徴の一つである。
【実施例】
【0165】
実施例において、各物性の測定は以下の方法により行った。
【0166】
(1)ポリマー濃度
ポリテトラフルオロエチレン水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、30分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する加熱残分の質量の割合を百分率で表した数値をポリマー固形分濃度とする。
【0167】
(2)平均一次粒子径
ポリテトラフルオロエチレン水性分散液を水で固形分濃度が0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して決定した数基準長さ平均粒子径とを測定して、検量線を作成する。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から平均一次粒子径を決定する。
【0168】
(3)微量共単量体(PMVE)の含量
非溶融加工性PTFEファインパウダーを高温下で溶融させて、F19−NMR測定を行い、得られる微量共単量体中の官能基に由来するシグナルから算出した。
例えば、本願実施例にて使用したPMVEの含有量は、360℃にてF19−NMR測定を行い、以下の式に基づき算出した。
微量共単量体含有量(mol%)=(4B/3)/(A+(B/3))×100
(A=−118ppm付近に現れるCFシグナルとCFシグナルとの合計、B=−52ppm付近に現れるPMVE由来のCFシグナルの積分値)
【0169】
(4)標準比重〔SSG〕
ASTM D−4895−89に準拠して試料を作製し、得られた試料の比重を水置換法によって測定する。
【0170】
(5)押出圧力
特開2002−201217号公報の記載に従い、まず、室温で2時間以上放置されたPTFEファインパウダー100gに潤滑剤(商品名「アイソパーH(登録商標)」、エクソン社製)21.7gを添加し、3分間混合してPTFEファインパウダー混合物を得る。
その後、得られたPTFEファインパウダー混合物を、25℃恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、オリフィス(直径2.5mm、ランド長1.1cmm、導入角30°)を通してペースト押出しを行い、ビードを得る。
上記押出圧力は、ペースト押出しにおいて押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除した値である。
【0171】
(6)破断強度
特開2002−201217号公報の記載に従い、まず、下記方法で押出ビードの延伸試験を行い、破断強度測定用のサンプルを作製する。
上記のペースト押出により得られたビードを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去する。乾燥後のビードを適当な長さに切断し、クランプ間が5.1cmとなるよう、各末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱する。次いで、クランプを総ストレッチが2400%に相当する分離距離となるまで、延伸速度100%/秒で離し、延伸試験を実施する。『総ストレッチ』とは、延伸試験前のビード長さ(100%)に対する延伸による長さの増加である。
上記延伸条件にて作成された延伸ビードを適当な長さに切断し、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、可動ジョーを300mm/分のスピードで駆動させ、引張り試験機を用いて室温にて破断強度を測定し、延伸ビードから得られる3つのサンプル、延伸ビードの各末端から1つ(クランプの範囲においてネックダウンがあればそれを除く)、およびその中心から1つ、の最小引張り破断負荷(力)を破断強度とする。
【0172】
(7)目付(目付量)
4.0cm×12.0cmの長方形にカットした試料を精密天秤にて測定した質量(g)を面積(0.0048m)で除した値とする。
【0173】
(8)膜密度
4.0cm×12.0cmの長方形にカットした試料の質量を精密天秤にて測定し、測定した質量、および上記膜厚みから、膜密度を以下の式により計算する。
ρ=M/(4.0×12.0×t)
式中:ρ=膜密度(g/cm
M=質量(g)
t=膜厚み(cm)
3か所について上記測定および計算を行い、それらの平均値を膜密度とする。
【0174】
(9)空孔率
空孔率は、上記膜密度およびPTFE真密度(2.2g/cm)から、以下の式により求める。
空孔率=1−(膜密度/PTFE真密度)
上記PTFE真密度は、2.2g/cmである。
【0175】
(10)膜厚み
膜厚みは、膜厚計を使用し、二軸延伸多孔質膜を5枚重ねて全体の膜厚みを測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚みとする。
【0176】
(11)マトリクス引張強度(縦及び横)
下記方法で求めた縦のマトリクス引張強度と横のマトリクス引張強度の積から、「縦と横のマトリクス引張強度の積」を求める。
(縦のマトリクス引張強度)
まず、二軸延伸多孔質膜から5つの試料を切り出した。各試料は、縦方向(長手方向、つまりペースト押出方向)に15.0cm、横方向(幅方向、つまりペースト押出方向とは直角方向)に2.0cmの寸法を有する。5つの試料について、縦方向の引張強度測定を行い、5つの試料それぞれが示す最大荷重を求めた。
次に、5つの試料が示した最大荷重の値のうち、最も大きな値と最も小さな値とを除き、残りの3つの値の平均値を算出し、縦の平均最大荷重とした。
縦のマトリクス引張強度は、縦の平均最大荷重、試料幅(2.0cm)、膜厚み(単位:cm)及び空孔率から、下記式を用いて求める。
縦のマトリクス引張強度={縦の平均最大荷重/(2.0×膜厚み)}/(1−空孔率)
(横のマトリクス引張強度)
二軸延伸多孔質膜から5つの試料を切り出した。各試料は、縦方向(長手方向、つまりペースト押出方向)に2.0cm、横方向(幅方向、つまりペースト押出方向とは直角方向)に15.0cmの寸法を有する。5つの試料について、横方向の引張強度測定を行い、5つの試料それぞれが示す最大荷重を求めた。
次に、縦方向と同様に横の平均最大荷重を求め、下記式を用いて横のマトリクス引張強度を求める。
横のマトリクス引張強度={横の平均最大荷重/(2.0×膜厚み)}/(1−空孔率)
なお、上記引張強度測定は、50Nロードセルを備える引張試験機を用い、チャック長さを5.0cm、クロスヘッド速度を300mm/分として行う。
【0177】
(12)平均孔径
ASTM F−316−86に準拠し、ミーンフローポアサイズ(MFP)を測定し、平均孔径とした。
【0178】
(13)ノード及び融着点の個数
走査型電子顕微鏡を用いて、10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において、任意の5μm×5μmの領域を観察し、ノードと融着点の個数を数えた(図5〜14参照)。
【0179】
(14)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(商品名:SU8020、HITACHI社製)を用いて、10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において、任意の5μm×5μmの領域を観察し、縦横直行する直線を引いて、各直線にクロスする繊維の直径全てを定規で測定し、縮尺換算して繊維径(nm)を求める。次に、求めた繊維径の全てを10nm刻みで度数分布にし、対数確率紙にプロットし、確率50%の先とクロスする箇所の繊維径を平均繊維径とした。平均繊維径はフィルター性能と関連する。
【0180】
(15)繊維数
走査型電子顕微鏡(商品名:SU8020、HITACHI社製)を用いて、10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において、任意の5μm×5μmの領域を観察し、縦横直行する直線を引いて、各直線にクロスする繊維の数を数えた。
【0181】
(16)繊維充填指数
走査型電子顕微鏡(商品名:SU8020、HITACHI社製)を用いて、10000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において、任意の5μm×5μmの領域を観察し、縦横直行する直線を引いて、各直線にクロスする繊維の直径全てを定規で測定し、縮尺換算して繊維径(nm)を求める。次に、求めた繊維径全てを合計した値を繊維充填指数とした。大きい繊維充填指数は高い繊維密度を意味する。
【0182】
作製例1
ステンレス鋼(SUS316)製アンカー型撹拌翼と温度調節用ジャケットを備え、内容量が6リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、脱イオン水 3560ml、パラフィンワックス 104g及び含フッ素界面活性剤としてCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH 5.4gを仕込み、70℃に加温しながら窒素ガスで3回、TFEガスで2回、系内を置換して酸素を除いた。その後、TFEガスで槽内圧力を0.60MPaにして250rpmで撹拌し、槽内温度を70℃に保った。
次に、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を0.60g(全量が反応した場合、TFE全重合量に対して0.029モル%(0.049質量%))をTFEで圧入し、オートクレーブの槽内圧力を0.70MPaとした。
続いて、脱イオン水20mlに過硫酸アンモニウム15.4mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、オートクレーブの槽内圧力を0.78MPaにし、重合反応を開始した。
重合反応の進行に伴い、槽内圧力が低下するが、オートクレーブの槽内圧力を常に0.78±0.05MPaに保つようにTFEを連続的に供給した。また、槽内温度を70℃、撹拌速度を250rpmに維持した。
TFEの消費量が429gになった時点(TFEの全重合量1225gに対して、35.0質量%)で、脱イオン水20mlにラジカル補足剤としてヒドロキノン14.32mg(水性媒体に対して4.0ppm)を溶かした水溶液をTFEで圧入した。
重合はその後も継続し、TFEの消費量が1225gになった時点で、撹拌及びモノマー供給を停止して、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、反応を終了させ、変性PTFEの水性分散液Aを得た。
重合槽内のポリマー凝固物は痕跡程度であった。
【0183】
得られた水性分散液のポリマー濃度、平均一次粒子径を測定した。測定結果を表1に示す。
次に、攪拌翼と邪魔板を備え、内容量が6リットルの凝析槽に、脱イオン水で希釈したPTFE水性分散液Aを3L仕込み、撹拌を開始した(450rpm)。
このとき、炭酸水素アンモニウム水溶液を凝析槽内に仕込んだ。ポリマー粉末が水と分離すれば、撹拌を停止した。得られた湿潤粉末を濾別し、新たに脱イオン水で水洗した。
160℃に設定した熱風循環式乾操機にて18時間乾燥させることにより、変性PTFEのファインパウダーA(PTFE−A)を得た。
PMVE変性量、SSG、押出圧力、破断強度について測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0184】
作製例2
乾燥温度を160℃に変更する以外は、国際公開第2005/061567号の比較例3に記載の方法の通り、ホモPTFEのファインパウダーB(PTFE−B)を得た。
得られたPTFE−Bについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0185】
作製例3
国際公開第2010/113950号の実施例2に記載の方法の通り、ホモPTFEのファインパウダーC(PTFE−C)を得た。
得られたPTFE−Cについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0186】
作製例4
PMVEの仕込量を0.30gに変更する以外は、作製例1と同様にして変性PTFEのファインパウダーD(PTFE−D)を得た。得られたPTFE−Dについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0187】
作製例5
PMVEの仕込量を0.75g、湿潤粉末の乾燥温度を180℃に変更する以外は、作製例4と同様にして変性PTFEのファインパウダーE(PTFE−E)を得た。
得られたPTFE−Eについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0188】
作製例6
PMVEの仕込量を2.00gに変更する以外は、作製例5と同様にして変性PTFEのファインパウダーF(PTFE−F)を得た。
得られたPTFE−Fについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0189】
作製例7
国際公開第2012/086710号の作製例1に記載の方法の通り、変性PTFEのファインパウダーG(PTFE−G)を得た。
得られたPTFE−Gについて、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0190】
【表1】
【0191】
実施例1
(押出と圧延)
作製例1で得られた変性PTFEのファインパウダーA(PTFE−A)100重量部あたり押出助剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を24重量部を加えて混合し、12時間静置した。
次に100φmmの予備成形機に上記ファインパウダーA(PTFE−A)と押出助剤の混合物を投入し、圧力3MPaで圧縮し、プレフォームを得た。続いて、予め内径16mmφのダイスを内径100mmの押出機に、上記プレフォームを入れてペースト押出を行い、PTFE成形体を得た。
更に得られたPTFE成形体を、カレンダーロールによりフィルム状に成形(圧延)し未焼成PTFEフィルムを得た。
熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚み約300μmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。
【0192】
(一軸延伸)
図3で示す複数のロールを備えた延伸装置を用い、得られた未焼成PTFEフィルムを温度300℃の条件で、縦方向に5倍に延伸した(一軸延伸)。
一軸延伸膜の外観評価を行った。一軸延伸膜の外観評価基準は、以下の通りである。
○:均一
△:部分的に破断または亀裂等の欠陥が存在
×:全体的に破断又は亀裂等の欠陥が存在
また、一軸延伸膜の強度(押出方向)を測定した。一軸延伸膜の強度は、下記方法で測定した。
【0193】
(二軸延伸)
次に、一軸延伸した未焼成フィルム(一軸延伸膜)を、図4に示すテンター延伸装置を用いて幅方向に延伸倍率43倍に延伸し、熱固定を行った(二軸延伸)。このときの延伸温度は295℃、熱固定温度は340℃であった。
得られた多孔質膜(二軸延伸膜)の外観評価を行った。二軸延伸膜の外観評価基準は、以下の通りである。
◎:均一
○:均一(一部にムラ)
△:ムラが多い
×:部分的に破断または亀裂等の欠陥が存在
××:全体的に破断
得られた多孔質膜(二軸延伸膜)の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0194】
実施例2〜6および比較例1〜4
PTFE原料の種類、押出助剤(炭化水素油)の量、1軸延伸条件、2軸延伸条件を表2記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして加工して多孔質膜(二軸延伸膜)を得た。
実施例1と同様にして各種物性を測定した。結果を表2に示す。
【0195】
【表2】
【0196】
また、実施例1及び2、並びに、比較例1及び4で得られた多孔質膜(二軸延伸膜)の平均繊維径、繊維数、繊維充填指数を測定した。結果を表3に示す。
【0197】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の多孔質体は、フィルター用濾材、多孔質中空糸、多孔質繊維、高分子電解質膜の支持材等として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0199】
1:圧延フィルムの巻出しロール
2、18:巻き取りロール
3、4、5、8、9、10、11、12:ロール
6、7:ヒートロール
13:長手方向延伸フィルムの巻き出しロール
14:予熱ゾーン
15:延伸ゾーン
16:熱固定ゾーン
17:ラミネートロール
100:融着点
200:ノード
300:フィブリル
図3
図4
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14