(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記窒化ケイ素粉末が、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の粒度分布測定における、10体積%径D10と90体積%径D90との比率D10/D90が0.1以上であることを特徴とする請求項2に記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係わる窒化ケイ素粉末の製造方法とそれによって得られる窒化ケイ素粉末、ならびに窒化ケイ素焼結体及びそれを用いた回路基板の実施形態について詳しく説明する。
【0020】
本発明では、窒化ケイ素粉末の酸素を、粒子表面から粒子表面直下3nmまでに存在する酸素を表面酸素と、粒子表面直下3nmよりも内側に存在する酸素を内部酸素と規定し、その表面酸素の含有割合をFSO(質量%)と、内部酸素の含有割合をFIO(質量%)とする。
【0021】
本発明の製造方法で得られる窒化ケイ素粉末は、比表面積に対する表面酸素の含有割合、すなわちFS/FSOが8〜25であり、比表面積に対する内部酸素の含有割合、すなわちFS/FIOが22以上であることを特徴とする、非晶質Si−N(−H)系化合物を熱分解することによって得られる易焼結性の窒化ケイ素粉末である。また、本発明で得られる窒化ケイ素粉末の表面酸素の含有割合FSOは0.5〜1.3質量%の範囲が好ましく、内部酸素の含有割合FIOは1.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の窒化ケイ素粉末は、比表面積が400〜1200m
2/gであり、比表面積をRS(m
2/g)、酸素含有割合をRO(質量%)とした場合に、RS/ROが500以上、好ましくは550以上、特に好ましくは1000以上である非晶質Si−N(−H)系化合物を、連続焼成炉によって流動させながら、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲では12〜100℃/分の昇温速度で加熱し、1400〜1700℃の温度で焼成することにより製造することができる。
【0024】
本発明では、非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造する。本発明で使用する非晶質Si−N(−H)系化合物とは、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等の含窒素シラン化合物の一部又は全てを加熱分解して得られるSi、N及びHの各元素を含む非晶質のSi−N−H系化合物、又は、Si及びNを含む非晶質窒化ケイ素のことであり、以下の組成式(1)で表される。なお、本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物は、以下の組成式(1)において、x=0.5で表されるSi
6N
1(NH)
10.5からx=4で表される非晶質Si
3N
4までの一連の化合物を総て包含しており、x=3で表されるSi
6N
6(NH)
3はシリコンニトロゲンイミドと呼ばれている。
Si
6N
2x(NH)
12−3x(ただし、式中x=0.5〜4であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む)・・・・(1)
不純物として含有されるハロゲンの量は、0.01質量%以下であるが、好ましくは0.005質量%以下である。
【0025】
本発明における含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等が用いられる。これらの化合物は以下の組成式(2)で表される。本発明においては、便宜的に、以下の組成式(2)においてy=8〜12で表される含窒素シラン化合物をシリコンジイミドと表記する。
Si
6(NH)
y(NH
2)
24−2y(ただし、式中y=0〜12であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む)・・・・(2)
不純物として含有されるハロゲンの量は、0.01質量%以下であるが、好ましくは0.005質量%以下である。
【0026】
これらは、公知方法、例えば、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させる方法、具体的には、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法等によって製造される。
【0027】
また、本発明における非晶質Si−N(−H)系化合物としては、公知方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃以下の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法等によって製造されたものが用いられる。
【0028】
本発明での窒化ケイ素粉末の原料である非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は、400〜1200m
2/gである。比表面積が400m
2/gよりも小さいと、1000〜1400℃の温度範囲で急激な結晶化が起こり、針状粒子や凝集粒子が生成してしまう。このような粉末で焼結体を作製しても均質な組織が形成されず、得られる焼結体の強度及び熱伝導率は小さくなる。一方、比表面積が1200m
2/gより大きいと、結晶質窒化ケイ素粉末のα分率が小さくなるので、焼結性が悪化し、焼結体の強度及び熱伝導率が小さくなる。非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は450〜800m
2/gが好ましい。
非晶質Si−N(−H)系化合物の粒径は、真密度が1.4〜1.9g/cm
3の範囲にあるので、(3)式から算出することができる。
BET換算径(nm)=6/比表面積(m
2/g)/真密度(g/cm
3)×1000
・・・(3)
(3)式による非晶質Si−N(−H)系化合物の粒径は2〜10nmの範囲にあり、特許文献5記載の顆粒状物の短軸長1mmより、はるかに小さい。
【0029】
本発明の非晶質Si−N(−H)系化合物は、非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積をRS(m
2/g)、酸素含有割合をRO(質量%)とした場合に、RS/ROが500以上、好ましくは550以上、特に好ましくは1000以上の非晶質Si−N(−H)系化合物である。RS/ROが500未満であると、得られる窒化ケイ素粉末のFS/FIOが小さくなって、高温強度及び熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体が得られないからである。RS/ROの上限は限定されないが、少なくとも10000、あるいは6000までは許容される。
【0030】
非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有割合は、含窒素シラン化合物の酸素量と含窒素シラン化合物を加熱分解する際の雰囲気中の酸素分圧(酸素濃度)を制御することにより調節できる。含窒素シラン化合物の酸素量を少なくするほど、また前記加熱分解時の雰囲気中の酸素分圧を低くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有割合を低くすることができる。含窒素シラン化合物の酸素含有割合は、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させるときには、その反応時の雰囲気ガス中の酸素の濃度で調節でき、前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させるときには、トルエンなどの有機反応溶媒中の水分量を制御することで調節できる。有機反応溶媒中の水分量を少なくするほど含窒素シラン化合物の酸素含有割合を低くすることができる。
【0031】
一方、非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は、その原料となる含窒素シラン化合物の比表面積と、含窒素シラン化合物を加熱分解する際の最高温度で調節できる。含窒素シラン化合物の比表面積を大きくするほど、また前記加熱分解時の最高温度を低くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積を大きくすることができる。含窒素シラン化合物の比表面積は、含窒素シラン化合物がシリコンジイミドである場合には、例えば特許文献3に示す公知の方法、すなわちハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる際のハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとの比率(ハロゲン化ケイ素/液体アンモニア(体積比))を変化させる方法により調節することができる。前記ハロゲン化ケイ素/液体アンモニアを大きくすることで含窒素シラン化合物の比表面積を大きくすることができる。
【0032】
本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成するに際し、連続焼成炉を用いて、非晶質Si−N(−H)系化合物を1400〜1700℃の温度で焼成する。非晶質Si−N(−H)系化合物の加熱に使用される加熱炉としては、ロータリーキルン炉、シャフトキルン炉、流動化焼成炉等の連続焼成炉が用いられる。このような連続焼成炉は非晶質窒化ケイ素の結晶化反応に伴う発熱の効率的な放散に対して、有効な手段である。これら連続焼成炉のうち、特にロータリーキルン炉は、炉心管の回転により粉末を攪拌させながら移送するので効率よく結晶化熱を放熱できるため、均質な粉末を作るのに適しており、特に好ましい焼成炉である。
【0033】
非晶質Si−N(−H)系化合物は、顆粒状に成形しても良い。顆粒状に成形すると粉末の流動性が上がると同時に嵩密度を上げることができるので、連続焼成炉での処理能力を高めることができる。また、粉体層の伝熱状態を改善することもできる。
【0034】
窒素含有不活性ガス雰囲気とは、窒素雰囲気、窒素とアルゴンなどの希ガスからなる不活性ガス雰囲気などをいい、酸素をまったく含まないことが望ましいが、酸素を含むとしても酸素濃度は100ppm以下、さらには50ppm以下であることが好ましい。窒素含有還元性ガス雰囲気とは、窒素などの不活性ガスと水素、アンモニアなどの還元性ガスとからなる雰囲気である。
【0035】
連続焼成炉での焼成における炉心管内部の最高温度、即ち焼成温度は1400〜1700℃の範囲である。焼成温度が1400℃より低いと、十分に結晶化せず、窒化ケイ素粉末中に多量の非晶質窒化ケイ素が含まれるので好ましくない。また、焼成温度が1700℃より高いと、粗大結晶が成長するばかりでなく、生成した結晶質窒化ケイ素粉末の分解が始まるので好ましくない。焼成温度は1400〜1700℃の範囲であれば限定されないが、1400〜1600℃、さらには1450〜1550℃の範囲は好ましい。
【0036】
本発明における連続焼成炉での焼成では、非晶質Si−N(−H)系化合物を、1000〜1400℃の温度範囲では12〜100℃/分、好ましくは15〜60℃/分、さらには30〜60℃/分の昇温速度で加熱する。この理由を以下に説明する。
【0037】
本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成して窒化ケイ素粉末を得る。そして、焼成時の1000〜1400℃の温度範囲では、非晶質窒化ケイ素粉末中に結晶核が発生し、結晶化熱の放出を伴いながら非晶質窒化ケイ素の結晶化が始まり、結晶化した窒化ケイ素が粒成長する。
【0038】
焼成時、1000〜1400℃の温度範囲において12〜100℃/分、好ましくは15〜60℃/分、さらには30〜60℃/分の昇温速度で加熱することで、結晶化前の非晶質窒化ケイ素の粒成長による表面エネルギーが減少し、結晶核の発生密度が適正化されると共に、結晶化初期における粒成長が抑制され、より焼結に適した粒子形状でよりシャープな粒度分布を持つ結晶質窒化ケイ素粉末を得ることが可能になる。
【0039】
なお、本発明における非晶質Si−N(−H)系化合物を加熱する際の昇温速度は、連続焼成炉の炉心管内部の温度分布と粉末の移動速度とを調整することで設定することができる。例えばロータリーキルン炉では、原料粉末である非晶質Si−N(−H)系化合物は、炉心管入口に設置されたフィーダーにより炉心管内に供給され、炉心管の回転と傾きによって炉心管中央の最高温度部へ移動する。炉心管入り口から最高温度部までの温度分布は加熱ヒーターの温度設定によって調整でき、原料粉末の移動速度は炉心管の回転数と傾きで調整することができる。
【0040】
次に、本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法によって得られる、高い機械的強度と高い熱伝導率とを有する窒化ケイ素焼結体を得ることができる窒化ケイ素粉末について説明する。
【0041】
本発明の窒化ケイ素粉末は、比表面積が5〜30m
2/gであり、粒子表面から粒子表面直下3nmまでに存在する酸素の含有割合をFSO(質量%)とし、粒子表面直下3nmから内側に存在する酸素の含有割合をFIO(質量%)とし、比表面積をFS(m
2/g)とした場合に、FS/FSOが8〜25であり、かつFS/FIOが22以上であり、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の粒度分布測定における、10体積%径D10と、90体積%径D90との比率、D10/D90が0.1以上であることを特徴とする窒化ケイ素粉末である。本発明の窒化ケイ素粉末は、緻密で優れた機械的強度を持つ窒化ケイ素焼結体、特に高い熱伝導性と優れた機械的強度とを併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることが可能な、本発明の製造方法によって初めて得られた、特定の比表面積、特定のFS/FSO、特定のFS/FIO、及び特定のD10/D90を有する窒化ケイ素粉末である。
【0042】
本発明の窒化ケイ素粉末の比表面積(FS)は5〜30m
2/gの範囲であり、好ましくは7〜25m
2/gである。比表面積が5m
2/gを下回ると粒子の表面エネルギーが小さくなる。そのような粉末は焼結し難くなり、得られる焼結体の強度及び熱伝導率が低くなりやすい。比表面積が30m
2/gを超えると、粒子の表面エネルギーは大きくなるが、得られる成形体は相対密度が大きくなりにくく、また相対密度が不均一になりやすい。この場合、得られる焼結体は十分に緻密化せず強度が小さくなり、熱伝導率も低くなる。
【0043】
本発明の窒化ケイ素粉末において、比表面積(FS)と、粒子表面から粒子表面直下3nmまでに存在する酸素の含有割合(FSO)との比(FS/FSO)は、8〜25の範囲である。前記FS/FSOが8〜25の範囲にあると、焼結での窒化ケイ素粉末と焼結助剤との濡れ性や溶解性が高まり、緻密で優れた機械的強度をもつ窒化ケイ素焼結体、または高い熱伝導性と優れた機械的強度とを併せ持つ窒化ケイ素焼結体が得られる。FS/FSOが8よりも小さいと、比表面積に対する表面酸素が多すぎて、緻密な焼結体は得られるものの、高温強度及び熱伝導率が小さくなる。一方、FS/FSOが25より大きいと、焼結時に粒子表面への焼結助剤の濡れ性が悪くなって、緻密化が十分に進行しなくなり、焼結体の強度及び熱伝導率が小さくなる。FS/FSOは、10〜22の範囲であることは好ましい。
【0044】
本発明の窒化ケイ素粉末において、比表面積(FS)と、粒子表面直下3nmより内側に存在する酸素の含有割合(FIO)との比(FS/FIO)は、22以上である。FS/FIOが22より小さいと、比表面積に対する内部酸素量が多すぎて、窒化ケイ素の焼結過程において窒化ケイ素粒子が焼結助剤等から成る粒界相に溶解する際に粒界相の組成を変化させ、β−柱状晶の析出と成長を阻害し、焼結体機械的特性、特に高温強度の十分な発現が望めなくなる。また、高い熱伝導率の発現も望めなくなる。FS/FIOは25以上であることがより好ましい。上限は限定されないが、100、さらには200程度までは実現可能であり、好ましい。
【0045】
本発明の窒化ケイ素粉末の粒度分布は、以下に規定される範囲にある。レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定したときの10体積%径(D10)と、90体積%径(D90)との比率(D10/D90)が0.1以上である。D10/D90が0.1より小さい場合、粒度分布がブロードになりすぎて焼結組織が不均一になり、残留ポアやマイクロクラック等が発生して焼結体の強度が小さくなる。比率(D10/D90)が0.15以上であることが好ましい。上限は限定されないが、0.25、さらには0.3程度までは実現可能であり、好ましい。
【0046】
また本発明の窒化ケイ素粉末は、非晶質Si−N(−H)系化合物を、連続焼成炉によって流動させながら、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下で焼成して得られるので、金属ケイ素を含有しない。金属ケイ素を含有する窒化ケイ素粉末を焼結すると、焼結の昇温過程で金属ケイ素が溶融するか、窒化されることになる。溶融した金属ケイ素は窒化ケイ素粉末を凝集させて、窒化ケイ素粉末と焼結助剤とが広い範囲で接触しない領域ができる。その領域では窒化ケイ素の焼結助剤への溶解速度が小さくなって焼結の進行が遅くなり、窒化ケイ素焼結体にポアやマイクロクラックが生成する。焼結の昇温過程で金属ケイ素が窒化された場合も、その領域では、金属ケイ素が溶融して窒化ケイ素粉末が凝集した場合と同様に窒化ケイ素の焼結助剤への溶解速度が小さくなって焼結の進行が遅くなり、窒化ケイ素焼結体にポアやマイクロクラックが生成する。本発明の窒化ケイ素粉末は、金属ケイ素に起因する窒化ケイ素焼結体中のポアおよびマイクロクラックが生成しないので、高強度な窒化ケイ素焼結体が得られやすい。本発明の窒化ケイ素粉末は金属ケイ素を含まない。JIS R1616−9 遊離けい素の定量方法に準拠した水素ガス発生−ガス容量法により測定して金属ケイ素が検出されないことが好ましい。すなわち、0.01質量%未満であることが望ましい。
【0047】
本発明の窒化ケイ素粉末は、比表面積が400〜1200m
2/gであり、比表面積をRS(m
2/g)、酸素含有割合をRO(質量%)とした場合に、RS/ROが500以上である非晶質Si−N(−H)系化合物を、連続焼成炉によって流動させながら、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲では12〜100℃/分の昇温速度で加熱し、1400〜1700℃の温度で焼成することで初めて得られる窒化ケイ素粉末である。
【0048】
本発明では、原料を流動させることに加えて、特定温度範囲の昇温速度を特定の範囲に調節して焼成することで、従来は焼結に適した粒子形態及び比表面積の窒化ケイ素粉末を得ることができなかったRS/ROが小さい原料を用いても、焼結に適した窒化ケイ素粉末を得ることができることを見出し、更に、その窒化ケイ素粉末の比表面積に対する内部酸素含有割合を低くできることを見出すことができた。
【0049】
原料の非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝等に収容して、バッチ炉、またはプッシャー炉等で前記原料を流動させずに焼成する従来の方法、あるいは、連続焼成炉で前記原料を流動させながら焼成する方法であっても、RS/ROが500未満の原料を用いる従来の方法では、本発明の窒化ケイ素粉末を得ることはできない。以下、これについて説明する。
【0050】
原料を流動させずに焼成する従来の方法の場合は、原料を流動させながら焼成する方法の場合と比較して、以下に説明するように、比表面積を上げるには相対的に酸素量が多い非晶質Si−N(−H)系化合物を用いる必要があるので、特に、得られる窒化ケイ素粉末の比表面積に対する内部酸素の割合小さくすることが困難である。原料の非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝等に収容して、バッチ炉、またはプッシャー炉等で前記原料を流動させずに焼成する方法では、前述の通り結晶化熱を効率的に放熱することが困難なため、結晶化熱により結晶化過程にある窒化ケイ素粉末の温度が局所的に急激に上昇して、生成する窒化ケイ素粉末が部分的にあるいは全体的に、柱状結晶化または針状結晶化しやすくなる。この場合、非晶質Si−N(−H)系化合物を顆粒状にして伝熱を良くした上で、昇温速度を低くして焼成することで、窒化ケイ素粉末の柱状結晶化または針状結晶化を抑制することは可能である(特許文献4)が、昇温速度が低くなることによって、得られる窒化ケイ素粉末の比表面積は小さくなる。焼成時の昇温速度が低いと、昇温速度が高い場合と比較して、窒化ケイ素の核生成温度は変わらないものの、核成長が進むため、窒化ケイ素粒子が大きくなるからである。低い昇温速度で比表面積が大きい窒化ケイ素粉末を得るためには、過飽和度を上げるために、原料に比表面積が小さく、酸素の含有割合が高い非晶質Si−N(−H)系化合物を用いる必要がある。その理由は以下のように考えられる。
【0051】
非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成する工程では、原料表面から発生するSi源ガス種(特にSiO)が窒化ケイ素の核生成と成長を促進する。原料の比表面積が小さいと、SiOの蒸気圧が焼成工程の低温では低く、高温でSiO濃度が高くなるので、高温で粒子近傍の過飽和度が高くなり窒化ケイ素の核生成が起きる。高温で核生成が起きる場合には、昇温速度が低くても、核発生数が多くなり、また成長が短時間に進むので、窒化ケイ素粒子が小さくなる。また、原料の酸素含有割合が高い場合は、核生成温度が高くなり、核生成時の粒子近傍の過飽和度が高くて、原料の比表面積が小さい場合と同様に窒化ケイ素粒子が小さくなるものと考えられる。したがって、低い昇温速度で焼成することが必要な、原料を流動させずに焼成する従来の方法で、焼結に適した比表面積の窒化ケイ素粉末を得るためには、比表面積が小さく、かつ酸素量が多い原料を用いる必要がある。
【0052】
しかし、酸素含有割合が高い非晶質Si−N(−H)系化合物を原料に用いると、得られる窒化ケイ素粒子内部の酸素含有割合が高くなる。したがって、原料を流動させずに焼成する従来の方法で得られる、焼結に適した比表面積の窒化ケイ素粉末は、原料を流動させながら焼成して得られる同じ比表面積の窒化ケイ素粉末と比較して、粒子内部の酸素含有割合は高くなる。
【0053】
以上のように、原料を流動させずに焼成する従来の方法では、原料を流動させながら焼成する方法の場合と比較して、得られる窒化ケイ素粉末の比表面積に対する内部酸素の含有割合が高くなるので、FS/FIOが大きい窒化ケイ素粉末を得ることが困難であり、本発明の窒化ケイ素粉末を得ることができなかった。
【0054】
また、原料を流動させながら焼成する方法であっても、従来は、特定の温度範囲の昇温速度を特定の範囲にすることで、比表面積に対する内部酸素の含有割合が一定より低い原料を用いても焼結性が良好な窒化ケイ素粉末が得られることが知られていなかったので、例えば特許文献5に示されるように、比表面積に対する内部酸素の含有割合が高い原料、すなわちRS/ROが500未満の原料を用いていた。したがって、原料を流動させながら焼成する方法であっても、従来の製造方法では、本発明の窒化ケイ素粉末を得ることはできなかった。
【0055】
本発明の窒化ケイ素粉末は、原料を流動させることに加えて、特定の温度範囲の昇温速度を特定の範囲に調節して焼成することで、比表面積に対する内部酸素の含有割合が高い原料を用いても、焼結に適した窒化ケイ素粉末を得ることができることを見出し、更に窒化ケイ素粉末の比表面積に対する内部酸素含有割合を低くできることを見出して開発された本発明の製造方法によって初めて得られた、焼結に好適な比表面積、FS/FSOを有することに加えて、FS/FIOが大きい窒化ケイ素粉末である。
【0056】
本発明の窒化ケイ素粉末は、優れた焼結性を有し、本発明の窒化ケイ素粉末を焼結して得られる窒化ケイ素焼結体は、室温及び高温での優れた機械的特性及び高い熱伝導性を有することを特徴とする。本発明の窒化ケイ素粉末を焼結して得られる窒化ケイ素焼結体は、限定するわけではないが、99.0%以上の相対密度、後述の「高温構造部材用焼結体の作製及び評価方法」で作製及び評価して、1000MPa以上の室温曲げ強度、及び600MPa以上の1200℃での曲げ強度、さらには、1100MPa以上の室温曲げ強度、及び700MPa以上の1200℃での曲げ強度を有することができる。また、本発明の窒化ケイ素粉末を焼結して得られる窒化ケイ素焼結体は、後述の「回路基板用焼結体の作製及び評価方法」で作製及び評価して、600MPa以上の室温曲げ強度、及び100W/mK以上の25℃での熱伝導率、さらには、650MPa以上の室温曲げ強度、及び130W/mK以上の25℃での熱伝導率を有することができる。
【0057】
なお、前述したプッシャー炉とは、被焼成物であるセラミックス原料などが収容された坩堝等が積載された複数の台板を順次プッシャー機構によって炉内に押し込んで搬送することによって被焼成物の焼成を行う、温度及び雰囲気条件を制御しうる炉室を備えた焼成炉である。
【0058】
本発明に係る窒化ケイ素粉末の表面酸素の含有割合と内部酸素の含有割合は、以下の方法により測定することができる。まず、窒化ケイ素粉末を秤量し、窒化ケイ素粉末の表面酸素と内部酸素の合計である全酸素の含有割合であるFTO(質量%)をJIS R1603−10酸素の定量方法に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法(LECO社製、TC−136型)で測定する。次に、秤量した窒化ケイ素粉末を、窒化ケイ素粉末1質量部に対しフッ化水素が5質量部となるように、窒化ケイ素粉末とフッ酸水溶液とを混合し、室温で3時間攪拌する。これを吸引濾過し、得られた固形物を120℃で1時間真空乾燥し、このフッ酸処理粉末の重量を測定する。得られた粉末の酸素含有量を赤外吸収スペクトル法で測定し、この値を補正前FIO(フッ酸処理粉末に対する質量%)とする。内部酸素の含有割合FIO(窒化ケイ素粉末に対する質量%)は下記の式(3)から算出する。表面酸素の含有割合FSO(窒化ケイ素粉末に対する質量%)は下記の式(4)から算出する。このようにして求めた表面酸素が、粒子表面から粒子表面直下3nmの範囲に存在する酸素に起因することは、前記のフッ酸処理前後における粉末のX線光電子スペクトルのデプス・プロファイル及び処理前後の粉末重量変化より確認した。
FIO(質量%)=((フッ酸処理粉末の重量)(g))/(窒化ケイ素粉末重量(g))×補正前FIO(質量%)・・・・(3)
FSO(質量%)=FTO(質量%)−FIO(質量%)・・・・(4)
【0059】
また、本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有割合も、窒化ケイ素粉末と同様にJIS R1603−10酸素の定量方法に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法(LECO社製、TC−136型)で測定したが、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸化を抑制するために、測定直前までの試料保管時及び測定時の雰囲気を窒素雰囲気とした。
【0060】
次に、本発明に係る窒化ケイ素焼結体及びそれを用いた回路基板について説明する。
【0061】
本発明に係る窒化ケイ素焼結体は以下の製造方法により作製される。本発明の窒化ケイ素粉末と焼結助剤とを混合し、得られた混合粉末を成形し、更に得られた成形体を焼結することで、本発明に係る高温構造部材用の窒化ケイ素焼結体を製造することができる。あるいは、成形と焼結とを同時に行いながら本発明に係る高温構造部材用の窒化ケイ素焼結体を製造することができる。
【0062】
窒化ケイ素は難焼結材料であるため、通常、焼結助剤により焼結を促進させながら焼結体は製造される。窒化ケイ素焼結体は、焼結過程において高温安定型のβ型の柱状結晶が析出するため、焼結体中の窒化ケイ素結晶粒子の多くはβ型の柱状結晶になる。このβ型の柱状結晶のアスペクト比や粒径などの微構造は、原料窒化ケイ素粉末のみならず、焼結助剤の種類や添加量、および焼結条件により大きく影響されるので、これらの因子は、窒化ケイ素粉末の物性及び窒化ケイ素焼結体に求められる特性に応じて適宜選択される。
【0063】
窒化ケイ素焼結体の機械的強度を高くするためには、窒化ケイ素焼結体の組織を、β型の柱状結晶のアスペクト比が高く、微細な構造にすることが望ましく、この場合の焼結助剤としては、一般的には、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム及び酸化イットリウムが適宜組み合わせられて用いられる。ガスタービン部材のように、特に高温強度が求められる高温構造部材用の窒化ケイ素焼結体の製造には、粒界相の耐熱性を高めることに有効な酸化イッテルビウム等の希土類酸化物が、これら焼結助剤に更に組み合わせて用いられることがある。
【0064】
一方、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率を高くするためには、β型結晶の割合を高めることと、β型結晶の純度を高め、その寸法を大きくすることが有効である。窒化ケイ素のα型結晶が複雑な積層構造であるのに対し、β型結晶は比較的単純な積層構造であるので、β型結晶の方がフォノン散乱を起こしにくく、更にそのβ型結晶の原子配列に乱れが少なく連続性が高いことで、熱伝導が良くなるからである。しかし、窒化ケイ素焼結体のこのような結晶形態(結晶粒子寸法が大きいこと)と機械的強度とはトレードオフの関係になりやすいので、適度な粒径のβ型結晶が複雑に絡み合った組織を形成できて、最小限の量の粒界相で緻密化できる助剤が前記助剤の中から適宜、また適量選択される。
【0065】
本発明においては、酸化イットリウム、ランタノイド系希土類酸化物、酸化マグネシウム等の助剤を、単独で、あるいは適宜組み合わせて、目的に応じて用いることができる。また、他にも、MgSiN
2、Mg
2Siなどのマグネシウム化合物、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム等を、単独で、あるいは酸化イットリウム、ランタノイド系希土類酸化物、酸化マグネシウム等の少なくとも一つに適宜組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明の窒化ケイ素粉末と焼結助剤の混合方法としては、これらが均一に混合できる方法であれば、湿式、乾式を問わずいかなる方法でも良く、回転ミル、バレルミル、振動ミルなどの公知の方法を用いることができる。例えば、窒化ケイ素粉末、焼結助剤、成形用バインダー、及び分散剤を、水などを分散媒としてボールミル混合した後、スプレー乾燥して混合粉末を顆粒状にする方法を採用することができる。
【0067】
混合粉末の成形方法としては、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、射出成形、排泥成形、冷間静水圧成形等の公知の方法を用いることができる。例えば、得られた顆粒状の混合粉末を、ゴム製の型に充填して圧力をかけて成形体を得るCIP(冷間静水圧加圧)成形を採用することができる。
【0068】
成形体の焼結方法としては、得られる焼結体が緻密化する方法であればいかなる方法でも良いが、不活性ガス雰囲気での常圧焼結、或いは雰囲気のガス圧を0.2〜10MPa程度に高めたガス圧焼結が採用される。焼結は、一般に、窒素ガスを用いて、常圧焼結では、1700〜1800℃、ガス圧焼結では、1800〜2000℃の温度範囲で行われる。
【0069】
また、成形と焼結とを同時に行う方法であるホットプレスを採用することもできる。ホットプレスによる焼結は、通常、窒素雰囲気で、圧力0.2〜10MPa、焼結温度1950〜2050℃の範囲で行われる。
【0070】
得られた窒化ケイ素焼結体を、HIP(熱間静水圧加圧)処理することで強度を更に向上させることができる。HIP処理は、通常、窒素雰囲気で、圧力30〜200MPa、焼結温度2100〜2200℃の範囲で行われる。
【0071】
また、本発明に係る回路基板は以下の方法により製造される。回路基板とは、電子回路が表面に形成された板状の部品、または、表面に電子回路を形成するための(電子回路を含まない)部品のことである。
【0072】
本発明に係る回路基板は、本発明に係る窒化ケイ素焼結体を研削等により板状に加工し、得られた板状焼結体に金属シートなどを接合した後、エッチング等により金属シートの一部を除去して板状焼結体の表面に導体回路パターンを形成するなどして製造することができる。
【0073】
また、他の方法として以下の方法があげられる。本発明に係る窒化ケイ素粉末に、焼結助剤、有機バインダー等を加えて原料混合体を調整し、次に得られた原料混合体をドクターブレード法のようなシート成形法にて成形体(グリーンシート)を得る。その後、成形体表面に導体形成用ペーストをスクリーン印刷して所定形状の導体回路パターンを形成する。有機バインダーを脱脂処理により除去して、得られたパターンが形成された成形体を不活性雰囲気中で焼成して、本発明に係る回路基板を製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
(非晶質Si−N(−H)系化合物の組成分析方法)
非晶質Si−N(−H)系化合物のケイ素(Si)含有量は、JIS R1603−7全けい素の定量方法に準拠したICP発光分析により測定し、窒素(N)含有量はJIS R1603−8全窒素の定量方法に準拠した水蒸気蒸留分離中和滴定法により測定し、また酸素(O)含有量を、前述の通りJIS R1603−10酸素の定量方法に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法により測定した。ただし、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸化を抑制するために、ICP発光分析または水蒸気蒸留分離中和滴定法によるケイ素・窒素含有量測定の場合は、測定のための試料前処理直前までの試料保管時の雰囲気を窒素雰囲気とし、また赤外線吸収法による酸素含有量測定の場合は、測定直前までの試料保管時及び測定時の雰囲気を窒素雰囲気とした。非晶質Si−N(−H)系化合物の水素(H)含有量は、非晶質Si−N(−H)系化合物の全量よりケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)含有量を除いた残分として、化学両論組成に基き算出して、求めた。以上より、Si、N及びHの比を求めて、非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式を決定した。
【0076】
(比表面積、粒度分布の測定方法)
窒化ケイ素粉末及び非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は窒素ガス吸着によるBET1点法(島津製作所社製、フローソーブ2300)で測定し、粒度分布はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、LA−950)で測定した。
【0077】
(結晶化度の測定方法)
精秤した窒化ケイ素粉末を0.5NのNaOH水溶液に加えて100℃に加熱した。窒化ケイ素の分解により発生したNH
3ガスを1%ホウ酸水溶液に吸収させ、吸収液中のNH
3量を0.1N硫酸標準溶液で滴定した。吸収液中のNH
3量から分解窒素量を算出した。結晶化度は、分解窒素量と窒化ケイ素の理論窒素量39.94%から、下記の式(5)により算出した。
結晶化度(%)=100−(分解窒素量×100/39.94)・・・・(5)
【0078】
(金属ケイ素含有率の測定方法)
窒化ケイ素粉末の金属ケイ素(金属シリコン)含有率は、遊離けい素含有率0.01質量%以上、1質量%以下に適用されるJIS R1616−9 遊離けい素の定量方法に準拠した水素ガス発生−ガス容量法により測定した。
【0079】
(高温構造部材用焼結体の作製及び評価方法)
窒化ケイ素粉末93質量部に、焼結助剤として酸化イットリウム5質量部及び酸化アルミニウム2質量部を添加した配合粉を、媒体としてエタノールを用いて48時間ボールミルで湿式混合した後、減圧乾燥した。得られた混合物を50MPaの成形圧で6×45×75mm形状に金型成形した後、150MPaの成形圧でCIP成形した。得られた成形体を窒化ケイ素製坩堝に入れ、窒素ガス雰囲気下1780℃で2時間焼結した。得られた焼結体を切削研磨加工し、JIS R1601に準拠した3mm×4mm×40mmの試験片を作製した。焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定した。室温及び1200℃での高温曲げ強度を、インストロン社製万能材料試験機を用いてJIS R1601に準拠した方法により測定した。
【0080】
(回路基板用焼結体の作製及び評価方法)
窒化ケイ素粉末94.5質量部に、焼結助剤として酸化イットリウム3.5質量部及び酸化マグネシウム2質量部を添加した配合粉を、媒体としてエタノールを用いて12時間ボールミルで湿式混合した後、減圧乾燥した。得られた混合物を50MPaの成形圧で12.3mmφ×3.2mm形状に金型成形した後、150MPaの成形圧でCIP成形した。得られた成形体を窒化ホウ素製坩堝に入れ、窒素ガスによる0.8MPaの加圧雰囲気下、1900℃で22時間焼結した。得られた焼結体を切削研磨加工し、JIS R1601に準拠した3mm×4mm×40mmの曲げ試験片、及びJIS R1611に準拠した熱伝導率測定用の10mmφ×2mmの試験片を作製した。焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定した。室温曲げ強度を、インストロン社製万能材料試験機を用いてJIS R1601に準拠した方法により、また、室温における熱伝導率を、JIS R1611に準拠したフラッシュ法により測定した。
【0081】
(実施例1)
20℃に保たれた直径40cm、高さ60cmの縦型耐圧反応槽内の空気を窒素ガスで置換した後、反応槽内に40リットルの液体アンモニア及び5リットルのトルエンを仕込んだ。反応槽内で、液体アンモニア及びトルエンをゆっくり攪拌しながら、液体アンモニアを上層に、トルエンを下層に分離した。予め調製した2リットルの四塩化ケイ素と0.1質量%の水分を含む6リットルのトルエンとからなる溶液(反応液)を、導管を通じて、ゆっくり撹拌されている反応槽内の下層に供給した。このとき、反応槽内に供給された四塩化ケイ素と反応槽内の液体アンモニアの体積比は5/100である。前記溶液の供給と共に、上下層の界面近傍に白色の反応生成物が析出した。反応終了後、反応槽内の反応生成物及び残留液を濾過槽へ移送し、反応生成物を濾別して、液体アンモニアで4回バッチ洗浄し、約1kgの比表面積が1400m
2/gのシリコンジイミドを得た。
【0082】
得られたシリコンジイミドを、直径150mm、長さ2800mm(加熱長1000mm)のロータリーキルン炉の原料ホッパに充填し、ロータリーキルン炉内を13Pa以下に真空脱気した後、酸素を2%含有する窒素ガスを全ガス量流量250NL/時間で導入し、加熱を開始した。ロータリーキルン炉内が最高温度(1000℃)に達したところで原料供給スクリューフィーダーを回転させ、シリコンジイミドを3kg/時間の粉末処理速度で原料ホッパから炉内に供給した。キルンの傾斜角度を2度、回転数を1rpmとし、最高温度での保持時間を10分として、シリコンジイミドを加熱して表1に示す実施例1に係る、組成式Si
6N
8.4H
1.2で表される、すなわちSi
6N
2x(NH)
12−3xにおいて式中のxが3.6である非晶質Si−N(−H)系化合物を得た。
【0083】
次いで、得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を、内径114mm、長さ1780mmの炭化ケイ素製の炉心管を有するロータリーキルン炉の原料ホッパに充填した。ロータリーキルン炉内を窒素ガスで十分に置換した後、窒素ガス流通雰囲気(酸素濃度100ppm未満)下で、炉内の最高温度箇所が表1に示す焼成温度になるまで昇温し、炉内の温度分布が安定した後に、原料供給スクリューフィーダーを回転させ、非晶質Si−N(−H)系化合物を2kg/時間の粉末処理速度で原料ホッパから炉内に供給した。炉心管の回転数を2rpmとし、1000〜1400℃の温度範囲の粉末の昇温速度が40℃/minになるように炉心管内の粉末の移動速度を炉心管傾斜角度で調整して非晶質Si−N(−H)系化合物を加熱し、1500℃で焼成して、実施例1の窒化ケイ素粉末を製造した。
得られた窒化ケイ素粉末からは金属ケイ素は検出されなかった。すなわち、得られた窒化ケイ素粉末の金属ケイ素含有率は0.01質量%未満であった。
【0084】
(実施例2〜12、比較例1〜14)
得られる非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有割合を制御するために、シリコンジイミドを合成する際に反応槽下層に供給する反応液中のトルエンの水分量を0.01〜0.5質量%の範囲で、またシリコンジイミドを分解する際に炉内に導入する窒素ガスの酸素含有割合を0.1〜5%の範囲で適宜調節したことと、得られる非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積を制御するために、炉の最高温度を800〜1100℃の範囲で調節したこと以外は実施例1と同様の方法で、表1に示す実施例2〜12及び比較例1〜14に係る非晶質Si−N(−H)系化合物を得た。なお、実施例2〜12に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si
6N
2x(NH)
12−3xにおけるxは、実施例2から順に2.7、2.8、1.1、0.6、2.6、2.6、2.8、3.5、2.7、2.8、0.8であり、比較例1〜14に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si
6N
2x(NH)
12−3xにおけるxは、比較例1から順に3.8、0.6、0.6、3.5、3.4、2.7、2.6、0.8、2.7、2.6、2.9、2.8、3.8、3.8であった。因みに、比較例15〜17に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si
6N
2x(NH)
12−3xにおけるxは、比較例15から順に、3.5、2.4、2.9であった。次いで、これらの非晶質Si−N(−H)系化合物を原料にして、1000〜1400℃の温度範囲の昇温速度、及び焼成温度を表1に示すように調節した以外は実施例1と同様の方法でロータリーキルン炉にて非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成して、実施例2〜12、及び比較例1〜14の窒化ケイ素粉末を製造した。
得られた窒化ケイ素粉末からは金属ケイ素は検出されなかった。すなわち、得られた窒化ケイ素粉末の金属ケイ素含有率は0.01質量%未満であった。
【0085】
(比較例15)
表1に示す比較例15の窒化ケイ素粉末は以下の方法にて製造した。比較例4に係る非晶質Si−N(−H)系化合物と同様の非晶質Si−N(−H)系化合物を、内径280mm、高さ150mmの黒鉛製坩堝に充填し、プッシャー炉にセットした。プッシャー炉内を窒素ガスで十分に置換した後、窒素ガス流通雰囲気下で1500℃まで昇温した。1000〜1400℃の温度範囲で、粉末が4℃/分の昇温速度で加熱されるように坩堝の搬送速度を調整して、比較例15の窒化ケイ素粉末を製造した。
得られた窒化ケイ素粉末からは金属ケイ素は検出されなかった。すなわち、得られた窒化ケイ素粉末の金属ケイ素含有率は0.01質量%未満であった。
【0086】
(比較例16〜17)
原料として、実施例10、11に係る非晶質Si−N(−H)系化合物と同様の非晶質Si−N(−H)系化合物を用いたこと以外は、比較例15と同様のプッシャー炉を用いて比較例15と同様の条件で非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成して、それぞれ比較例16、17の窒化ケイ素粉末を製造した。
【0087】
得られた実施例1〜12、及び比較例1〜15の窒化ケイ素粉末の比表面積、FS/FSO値、FS/FIO値、粒度分布、結晶化度、粒子形状は表2に示す通りであった。
得られた窒化ケイ素粉末からは金属ケイ素は検出されなかった。すなわち、得られた窒化ケイ素粉末の金属ケイ素含有率は0.01質量%未満であった。
【0088】
(実施例1−1〜12−1、比較例1−1〜17−1)
実施例1〜9、及び比較例1〜6で得られた各窒化ケイ素粉末を、表3に示すように、実施例1−1〜12−1及び比較例1−1〜17−1の原料として用い、前記の(高温構造部材用焼結体の作製及び評価方法)に記載した方法に従って高温構造部材用焼結体を作製し評価した。表3には、更に、それら高温構造部材用焼結体の相対密度、室温曲げ強度、高温曲げ強度を示す。
【0089】
(実施例1−2〜12−2、比較例1−2〜17−2)
実施例1〜12、及び比較例1〜15で得られた窒化ケイ素粉末を、表4に示すように、実施例1−2〜12−2及び比較例1−2〜17−2の原料として、前記の(回路基板用焼結体の作製及び評価方法)に記載した方法に従って熱伝導率測定用焼結体を作製し評価した。表4には、更に、それら熱伝導率測定用焼結体の相対密度、室温曲げ強度、熱伝導率を示す。
【0090】
本発明の窒化ケイ素粉末は、適度な表面酸素の含有割合を有していることから易焼結性であるので、本発明の窒化ケイ素粉末を焼結して得られた焼結体は、相対密度が大きく、室温強度が高い。さらに、本発明の窒化ケイ素粉末は、内部酸素の含有割合が低いので、本発明の窒化ケイ素粉末を焼結して得られた焼結体は、高温強度及び熱伝導率が高い。
【0091】
本発明の窒化ケイ素粉末により、室温及び高温において優れた機械的特性を持つ窒化ケイ素焼結体、及び高い熱伝導率と優れた機械的特性とを併せ持つ窒化ケイ素焼結体が提供される。
【0092】
さらに本発明によれば、放熱性及び機械的強度に優れる回路基板が提供される。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】