特許第5862801号(P5862801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862801
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】医療用ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   A61M25/09 516
   A61M25/09 550
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-551968(P2014-551968)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2013082020
(87)【国際公開番号】WO2014091935
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-270248(P2012-270248)
(32)【優先日】2012年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】金武 潤也
(72)【発明者】
【氏名】川原 真
(72)【発明者】
【氏名】鞍岡 隆志
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−328126(JP,A)
【文献】 特開2012−213667(JP,A)
【文献】 特開2005−253809(JP,A)
【文献】 特開2010−011883(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0275862(US,A1)
【文献】 特開平03−073167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する長尺なワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の表面に配置される線材から構成される線材構造物とを備える医療用ガイドワイヤであって、
前記線材構造物は、前記ワイヤ本体に螺旋状に巻回配置される前記線材を備えており、かつ、前記ワイヤ本体の表面に接する熱融着部を備え、
前記ワイヤ本体は、導電性材料により構成されており、
前記線材は、前記ワイヤ本体よりも磁性が低い材料であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
可撓性を有する長尺なワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の表面に配置される線材から構成される線材構造物とを備える医療用ガイドワイヤであって、
前記線材構造物は、前記ワイヤ本体に網目状に配置される前記線材を備えており、かつ、前記ワイヤ本体の表面に接する熱融着部を備え、
前記ワイヤ本体は、導電性材料により構成されており、
前記線材は、前記ワイヤ本体よりも磁性が低い材料であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記ワイヤ本体と前記線材構造物との熱融着部には、前記線材構造物を構成する前記線材の熱融着前の最大幅よりも幅の小さい幅細部が形成される請求項1又は2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記線材は、その断面が非円形であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ガイドワイヤ、例えば、血管や胆管等の体腔内にカテーテルを導入する際に使用される医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心臓血管系内や胆管内等にカテーテルを導入する際に、そのカテーテルの挿入を安全確実にするために、医療用ガイドワイヤが用いられている。この医療用ガイドワイヤは、その先端をカテーテルの先端より突出させた状態で、血管や胆管に挿入し、体外に位置する手元部を回転させながら押し引き操作して血管等内を進行させ、カテーテルとともに目的部位付近まで挿入される。そして、この状態で、医療用ガイドワイヤに沿ってカテーテルを移動させ、カテーテルの先端部を目的部位付近まで誘導する。したがって、医療用ガイドワイヤには、高度の柔軟性・可撓性、血管等内及びカテーテル内での高摺動性、及び、手元部での高度な操作性等を備えた高品質が要求される。
【0003】
そこで、以上の要求品質に応える医療用ガイドワイヤとして特許文献1に示されるものが知られている。この医療用ガイドワイヤは、先頭部を含む先端部分の外周を高潤滑性ゾーンに設定すると共に、手元部を含む後端の若干長の外周を低潤滑性ゾーンに設定し、その高潤滑性ゾーンと低潤滑性ゾーンの中間部分の外周が中潤滑性ゾーンに設定され、潤滑度が異なる3ゾーン外周形態となるように形成されている。また、高潤滑性ゾーンは、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン)の18〜20ミクロン膜厚の潤滑性被膜を形成することにより構成されており、中潤滑性ゾーンは、希釈親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン)の5〜10ミクロン膜厚の潤滑性被膜を形成することにより構成されている。低潤滑性ゾーンはふっ素樹脂(PTFE)の潤滑性被膜によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−089305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の医療用ガイドワイヤは、先頭部を含む先端部分の外周に親水性ポリマーからなる潤滑性被膜を形成し高い滑り性を付与しようとするものであるが、潤滑性被膜とカテーテル内面との接触面積が大きいことに起因して接触抵抗が大きく、高い滑り性を得ることができるとは言い難かった。更に、このような構造の医療用ガイドワイヤにおいては、潤滑性被膜の保水性が優れているとはいい難く、高い滑り性を維持することが困難であり、術中に生理食塩水を補給しなおしたり、場合によっては、滑り性悪化のため治療を中止せざるを得ない場合もあった。
【0006】
また、上述の医療用ガイドワイヤの場合、医療用ガイドワイヤを3つの区分に分け、それぞれについて異なる樹脂材料による被膜を形成して潤滑性に差をもたすように構成しているため、医療用ガイドワイヤの製造に多大な時間及びコストが必要になるという問題があった。
【0007】
また、上述の医療用ガイドワイヤの場合、医療用ガイドワイヤの挿入作業を進行させていくと、手元部の一部分がカテーテル内部に進入することになるため、手元部においても潤滑性を付与するという構成は、カテーテルとの摺動性を確保できるという点において優れたものであるといえる。しかしながら、手元部におけるふっ素樹脂(PTFE)の潤滑性被膜は、手指に対する摩擦係数が比較的低いため、グリップ力が高まらず、施術者にとっては滑りやすい構造となる。したがって、手元部を持って回転させたり、押し引き操作する際の操作性に欠けるという問題があった。つまり、従来の医療用ガイドワイヤにおいては、摺動性と操作性とを両立させることが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、摺動性及び操作性を両立することができ、製造しやすい医療用ガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、可撓性を有する長尺なワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の表面に配置される線材から構成される線材構造物とを備えており、前記ワイヤ本体と、前記線材構造物とが熱融着されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤより達成される。
【0010】
このような医療用ガイドワイヤは、例えば、ワイヤ本体の表面に線材構造物を配置し、加熱処理を行うという簡便な方法により製造されるため、製造に要する時間を短縮でき、コストを下げることが可能となる。また、カテーテル内や血管内に医療用ガイドワイヤを挿入した場合、カテーテルの内壁等と接触する部分は、線材の最外部(頂部)になるため、医療用ガイドワイヤとカテーテル等との接触面積を減じることが可能となり、高い摺動性を確保することが可能となる。特に、線材構造物を易滑性樹脂繊維を含む線材から構成することにより、より高い摺動性を確保することができる。また、施術者が回転や押し引き操作を行う手元部においては、医療用ガイドワイヤ表面に形成される凹凸部(線材構造物)が、すべり止めの機能を発揮するため、手元部における施術者のグリップ力が高まり、繊細な回転操作や押し引き操作を行うことが可能となり、高い操作性を得ることができる。
【0011】
この医療用ガイドワイヤにおいて、前記ワイヤ本体と前記線材構造物との熱融着部には、前記線材構造物を構成する前記線材の熱融着前の最大幅よりも幅の小さい幅細部が形成されることが好ましい。このような幅細部を備えることにより、医療用ガイドワイヤの手元部においては、施術者の手や指の表面が線材構造物に食い込みやすくなり、医療用ガイドワイヤに対するグリップ力を向上させることができ、医療用ガイドワイヤの操作性をより一層高めることができる。
【0012】
また、前記線材構造物は、前記ワイヤ本体に螺旋状に前記線材を巻回して構成されることが好ましい。このような構成の場合、医療用ガイドワイヤを極めて効率よく製造することができる。また、医療用ガイドワイヤにおける先端部分、中間部分、手元部分のそれぞれにおいて、線材の巻回ピッチを変化させることが容易であり、これにより、先端部分での高い摺動性を確保しつつ、手元部での摺動性及び操作性を確保するという要求品質に更なる付加価値を付与して医療用ガイドワイヤを製造することができる。例えば、手元部においては隣接する線材のピッチ間隔を大きく設定することにより、すべり止めの機能を高めて、操作性をより一層向上させることができ、また、先端部分においては隣接する線材のピッチ間隔を小さくして、摺動性を確保すると共に、先端部分に血栓が付着しにくい構造となるように構成することができる。
【0013】
また、前記線材構造物は、網目状に構成されることが好ましい。このように、線材構造物を網目状に構成した場合、線材構造物とワイヤ本体との熱融着部における密着強度を向上させることができ、線材構造物がワイヤ本体から剥離してしまうような事態が発生することを効果的に抑制することができる。また、カテーテルの内壁や血管と接触する主な部分は、網目における結節部分となることから、カテーテルや血管と接触面積をより一層低減させることができるため、より高い摺動性を確保することができる。一方、医療用ガイドワイヤの手元部に着目すると、施術者の操作時においては、施術者の手や指の表面が各網目部分に食い込むこととなるため、医療用ガイドワイヤの手元部に対するグリップ力が向上し、医療用ガイドワイヤの操作性をより一層高めることができる。
【0014】
また、前記線材は、その断面が非円形であることを特徴とすることが好ましい。このように線材構造物を構成する線材の断面が非円形である場合、手元部におけるすべり止め機能を高めることができるため、医療用ガイドワイヤの操作性をより一層向上させることができる。なお、医療用ガイドワイヤの先端部においては、断面が非円形の線材の最外部(頂部)のみが、カテーテルの内壁や血管と接触するため、カテーテルや血管に対する摺動性は低下しない。
【0015】
また、前記ワイヤ本体は、導電性材料により構成されており、前記線材は、前記ワイヤ本体よりも磁性が低い材料により形成されており、前記ワイヤ本体上に配置された前記線材構造物の外側から前記ワイヤ本体を電磁誘導加熱し、加熱された前記ワイヤ本体の熱によって前記線材構造物と前記ワイヤ本体との対向領域の少なくともいずれか一方を溶融させて、前記線材構造物が前記ワイヤ本体に熱融着して構成されることが好ましい。
【0016】
このように電磁誘導加熱を行うことにより、ワイヤ本体に線材構造物を熱融着させる場合、ワイヤ本体の表面に配設された線材構造物の外表面の形状が熱溶解によって変形することを効果的に防止することができ、カテーテルの内壁や血管内における医療用ガイドワイヤの摺動性が低下することを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摺動性及び操作性を両立することができ、製造しやすい医療用ガイドワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る医療用ガイドワイヤの先端部分の概略構成側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る医療用ガイドワイヤの手元部分の概略構成側面図である。
図3図2のA−A断面図である。
図4】カテーテルに医療用ガイドワイヤを挿入した状態を示す説明図である。
図5図1に示す医療用ガイドワイヤの要部拡大断面図である。
図6図1に示す医療用ガイドワイヤの変形例を示す断面図である。
図7図1に示す医療用ガイドワイヤの変形例を示す断面図である。
図8図1に示す医療用ガイドワイヤの変形例を示す概略構成側面図である。
図9】線材構造物を構成する線材の形状を説明するための説明図である。
図10図1に示す医療用ガイドワイヤの変形例を示す概略構成側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態にかかる医療用ガイドワイヤ1について添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。図1は、本発明の一実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1の先端部分1aの概略構成側面図であり、図2は、医療用ガイドワイヤ1の手元部分1bの概略構成側面図である。また、図3は、図2のA−A断面図である。本発明に係る医療用ガイドワイヤ1は、例えば、カテーテルに挿入して用いられる医療用ガイドワイヤであって、図1図3に示すように、ワイヤ本体2と、ワイヤ本体2の表面に配設される線材構造物3とを備えている。
【0020】
ワイヤ本体2は、可撓性を有する長尺な線材状部材である。このワイヤ本体2としては、医療用ガイドワイヤの芯材として使用される従来からある種々の材料を用いて構成することができる。例えば、ステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金、擬弾性を示す合金(超弾性合金を含む)などの各種金属材料を使用することができる。特に、擬弾性を示す合金(超弾性合金を含む)が好ましく、より好ましくは超弾性合金である。
【0021】
超弾性合金は、比較的柔軟であるとともに、復元性があり、曲がり癖が付き難いので、ワイヤ本体2を超弾性合金で構成することにより、医療用ガイドワイヤ1は、高い柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管等に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られる。また、医療用ガイドワイヤ1が、湾曲・屈曲変形を繰り返しても、ワイヤ本体2の復元性により曲がり癖が付かないので、医療用ガイドワイヤ1の使用中に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
【0022】
また、コバルト系合金を用いてワイヤ本体2を構成した場合、その弾性率が高く、かつ適度な弾性限度を有している。このため、コバルト系合金で構成されたワイヤは、トルク伝達性に優れ、座屈等の問題が極めて生じ難い。コバルト系合金としては、構成元素としてCoを含むものであれば、いかなるものを用いてもよいが、Coを主成分として含むもの(Co基合金:合金を構成する元素中で、Coの含有率が重量比で最も多い合金)が好ましく、Co−Ni−Cr系合金を用いるのがより好ましい。このような組成の合金を用いることにより、前述した効果がさらに顕著なものとなる。また、このような組成の合金は、弾性係数が高く、かつ高弾性限度としても冷間成形可能で、高弾性限度であることにより、座屈の発生を十分に防止しつつ、小径化することができ、所定部位に挿入するのに十分な柔軟性と剛性を備えるものとすることができる。
【0023】
また、ワイヤ本体2の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、一本の鋼材によってワイヤ本体2を形成してもよく、或いは、一本の線状鋼材を折り合わせた後撚り合わせてワイヤ本体2を形成してもよい。また、複数の線状鋼材を撚り合わせてワイヤ本体2を形成してもよく、線状鋼材及び線状樹脂部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの(二層構造のもの、例えば、金属からなる中心部分の外表面に熱硬化性樹脂をコーティングして表面部分を構成したような部材)等、種々の構成を採用することができる。このワイヤ本体2の全長は、特に限定されないが、200〜5000mm程度であるのが好ましい。
【0024】
また、ワイヤ本体2は、その外径がほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように形成してもよい。ワイヤ本体2の先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように構成した場合、ワイヤ本体2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、医療用ガイドワイヤ1は、先端部に良好な狭窄部の通過性および柔軟性を得て、血管等への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができるので好ましい。
【0025】
また、先端部分を構成する第1ワイヤ本体と、中間部分及び手元部分を構成する第2ワイヤ本体部とを溶接等により連結することによりワイヤ本体2を構成してもよい。第1ワイヤ本体と第2ワイヤ本体とによりワイヤ本体2を構成する場合、第1ワイヤ本体の径が、第2ワイヤ本体の径よりも小さくなるように設定することが好ましい。また、連結部分は、第1ワイヤ本体と第2ワイヤ本体とが滑らかに連結するようにテーパ状となるように構成することが好ましい。このようにワイヤ本体2を構成した場合も、ワイヤ本体2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、医療用ガイドワイヤ1は、先端部に良好な狭窄部の通過性および柔軟性を得て、血管等への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができるので好ましい。
【0026】
線材構造物3は、ワイヤ本体2の表面に配置される部材であり、線材31から構成されている。図1図3に示す本実施形態における医療用ガイドワイヤ1においては、ワイヤ本体2の表面に対して、線材31を螺旋状に巻回した形態として構成されている。また、ワイヤ本体2と線材構造物3とは、熱融着されて一体化されている。
【0027】
線材31は、易滑性樹脂繊維を含む線材であり、その最大径が、ワイヤ本体2への熱融着前において、10μm以上200μm以下であるものを好ましく使用できる。易滑性樹脂繊維としては、潤滑性を有するフッ素系樹脂繊維が好ましい。このようなフッ素系樹脂繊維としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300〜310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250〜280℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260〜270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160〜180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290〜300℃)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等のフッ素系樹脂から形成した疎水性樹脂繊維を挙げることができる。なかでも、優れた摺動特性を有することから、PFA、PTFE、FEP、ETFE、PVDFが好ましい。また、易滑性樹脂繊維としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、水溶性ナイロン等の親水性樹脂からなる繊維を使用することもできる。これら樹脂繊維により線材31を製造する方法は特に限定されず、例えば、原料を押出成形により紡糸する方法等の従来公知の方法を用いることができる。ここで、易滑性樹脂繊維を含む線材31とは、易滑性樹脂単体により製造される線材状部材の他、種類の異なる易滑性樹脂を組み合わせて製造される線材状部材や、易滑性樹脂及び金属材料を組み合わせて製造される線材状部材、易滑性樹脂及び非金属材料を組み合わせて製造される線材状部材を含む概念である。例えば、上述の親水性樹脂を熱可塑性樹脂と併用してなる繊維を易滑性樹脂繊維として使用することもできる。親水性樹脂と併用する前記熱可塑性樹脂としてはポリウレタン、ポリアミド、EVOH等、親水性基を分子中に有する親水性熱可塑性樹脂が溶融紡糸により容易に繊維化できる点、熱処理により繊維を溶融または軟化させられる点で好ましい。親水性樹脂と熱可塑性樹脂とを併用した繊維を製造する方法も特に限定されず、溶融混錬して混合する方法や芯鞘やサイドバイサイド、海島構造等のコンジュゲート繊維とする方法、それぞれの繊維を用いて引き揃え、合撚、複合紡績、カバリングなどの加工繊維とする方法が例示でき、特に芯鞘コンジュゲート繊維、またはサイドバイサイドコンジュゲート繊維とすることが好ましい。コンジュゲート繊維とすることでワイヤ本体2との融着を良好に保ちつつ所望の滑り性を実現することができる点で好ましい。
【0028】
ワイヤ本体2に線材31を巻き付ける方法は特に限定されず、例えば、カバリング糸を製造するために使用されるカバリング装置を用いて巻き付ける方法等が挙げられる。
【0029】
ここで、線材31の形態としては、単線でもよく、或いは、同一種類の単線同士を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。また、種類の異なる単線を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。
【0030】
線材構造物は、上述のように、ワイヤ本体2の表面に対して、線材31を螺旋状に巻回し、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に隣り合う線材31同士が、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に所定の間隔を設けるように構成されている。本実施形態においては、医療用ガイドワイヤの先端部分1aにおいては、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に隣り合う線材31同士が、互いに密接するように(隣り合う線材31の間隔が0となるように)構成されており、医療用ガイドワイヤの手元部分1bにおいては、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向における線材31の線材ピッチが、線材31の最大径の2〜10倍の範囲となるように構成されている。なお、線材31の線材ピッチとは、図3に示すように、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に隣り合う線材31同士の中心間距離を表す概念である。なお、線材31の線材ピッチは、任意に変更して医療用ガイドワイヤを構成することができる。
【0031】
ここで、線材構造物3(線材31)は、ワイヤ本体2の外表面に熱融着されているが、線材構造物3(線材31)をワイヤ本体2の外表面に熱融着させる方法としては、例えば、線材31をワイヤ本体2の外表面に螺旋状に巻回した後、加熱することによって線材31を溶融させて、線材31をワイヤ本体2の表面に融着させる方法を挙げることができる。加熱方法としては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、ワイヤ本体2に巻回された線材31の外側から熱を付与することにより行うことができる。なお、熱融着とは、加熱により物体の少なくとも一部を溶融させることにより軟化して他の物体に付着させる場合の他、例えば、融点を持たない物体(例えば、親水性樹脂からなる物体)をガラス転移温度を超える温度において軟化させて他の物体に付着させる場合も含む概念である。
【0032】
また、特に、ワイヤ本体2を、導電性材料(電気を通しやすい材料)により構成するとともに、線材31を、ワイヤ本体2よりも磁性が低い材料により形成する場合には、ワイヤ本体2上に配置された線材31の外側からワイヤ本体2を電磁誘導加熱装置により電磁誘導加熱し、加熱されたワイヤ本体2の熱によって線材31とワイヤ本体2との対向領域の少なくともいずれか一方を溶融させて、線材31をワイヤ本体2に融着させるようにして、線材31をワイヤ本体2の外表面に合着させることが好ましい。なお、ワイヤ本体2よりも磁性が低い材料とは、ワイヤ本体2よりも磁性が弱い材料の他、磁性が無い材料を含む概念である。なお、電磁誘導加熱とは、電磁調理器(IHクッキングヒーター)や高周波溶接等にも利用されている加熱方式の一種であり、コイルに交流電流を流すことにより磁界(磁束密度)の変化を生じさせ、その磁界内に置いた導電性物質に誘導電流(渦電流)を発生させて、その抵抗により導電性物質自体を発熱させる原理を利用した加熱方式である。
【0033】
電磁誘導加熱されたワイヤ本体2に生じる誘導電流の密度は、ワイヤ本体2の中心からその表面に近いほど高くなることから、ワイヤ本体2の内部に比べてその表面の方が早く加熱(集中して加熱)されることとなる。したがって、ワイヤ本体2の融点が線材31の融点よりも低い場合には、集中して加熱されるワイヤ本体2の表面(ワイヤ本体2における線材31との対向領域(接触領域))が溶融することとなる。また、線材31の融点がワイヤ本体2の融点よりも低い場合には、ワイヤ本体2が発した熱が線材31に伝わって、線材31におけるワイヤ本体2との対向領域(接触領域)が溶融することとなる。なお、電磁誘導加熱装置に流れる電流(コイルに流れる交流電流)の周波数を高く設定することにより、ワイヤ本体2において発熱する部位をその表面に集めることができ、逆に、電流の周波数を低く設定することによりワイヤ本体2の内部も均一に発熱させることができるため、電磁誘導加熱装置に流れる電流の周波数を適宜変更できるように構成することが好ましい。
【0034】
このように電磁誘導加熱を行うことにより、線材31とワイヤ本体2との接触界面及びその近傍で速やかに軟化又は溶融するため、線材31の物性に寄与する分子配向を維持しやすく、上記線材31の機械的強度をより高く保つことができる。また、外部からの伝熱又は輻射、エネルギー線照射等による加熱と異なり、線材31とワイヤ本体2との接触界面及びその近傍のみで軟化又は溶融するため、医療用ガイドワイヤ1の外表面となる側の表面凹凸を維持しやすく、摺動性を高めることができる。
【0035】
また、ワイヤ本体2の外表面に線材構造物3(線材31)をより強固に接着させるためには、プライマーなどの接着剤をワイヤ本体2の外表面に塗布した後に、当該ワイヤ本体2の外表面に線材31を巻回して線材構造物3を形成し、その後、加熱することによって接着剤及び線材構造物3(線材31)を溶融させて、ワイヤ本体2上に線材構造物3(線材31)を融着させることが好ましい。前記プライマーなどの接着剤の素材としては線材に用いられる素材と同じ素材を含む素材が好ましい。他にプライマーに含まれる素材として、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、又はそれらの前駆体が例示でき、中でも融着時の熱処理でも塗膜強度が低下せず、高い弾性率を有する点で、ポリイミド、ポリアミド、又はそれらの前駆体を含むことが好ましい。
【0036】
また、ワイヤ本体2の外表面に線材構造物3(線材31)をより強固に接着させるために、線材31をワイヤ本体2の外表面に巻回する前段階において、ワイヤ本体2の表面に対して、予めエッチング処理を施してもよい。エッチング処理を施すことにより、ワイヤ本体2の表面に微細な凹凸が形成され、ワイヤ本体2と線材31との接着性が向上し、医療用ガイドワイヤ1の耐久性の向上を図ることができる。なお、エッチング処理の具体的方法は特に限定されず、サンドブラストエッチング、イオンエッチング、プラズマエッチング、イオンミリング、ECRエッチング等の物理的エッチング処理法や、硝酸とフッ化水素酸を含有するエッチング液を用いたり、アルカリ液を用いるウエットエッチング、CF等のフッ素系ガスと酸素を主体とするプラズマ発生用の混合ガスを用いるドライエッチング等の化学的エッチング処理法等を採用することができおる。
【0037】
本実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1は、上述のような構成を有しているため、例えば、ワイヤ本体2の表面に線材構造物3を配置し、加熱処理を行うという簡便な方法により製造されるため、製造に要する時間を短縮でき、コストを下げることが可能となる。また、従来の医療用ガイドワイヤは、ワイヤ本体に対して樹脂材料をコーティングして被膜を形成するようにして構成しているため、医療用ガイドワイヤの外形寸法を均一に維持することが難しいという側面もあったが、本実施形態の医療用ガイドワイヤ1は、所定太さのワイヤ本体2の表面に対して、所定太さの線材31からなる線材構造物3を配置して形成するため、医療用ガイドワイヤ1の外形寸法を均一に維持することが容易となる。ここで、線材31の融着の前後(タイミング)いずれかによらず、線材31と線材31の間(凹部)や、線材表面(凸部)にコーティング処理を行うことは制限されない。線材31と線材31との間に、親水性樹脂から形成される親水性コーティングを配することは好ましく、このような構成とすることで医療用ガイドワイヤ1の保水性が高まり、使用時に滑りが悪化することを可及的に防止でき好ましい。例えば、線材31を疎水性樹脂から形成し、線材31間の凹部に親水性コーティングを配することにより凹部の保水性が有効に発揮され高い滑り性が発揮できる点で好ましい。線材31間の凹部に配される親水性コーティングの素材である親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、水溶性ナイロン等を挙げることができる。また、親水性コーティングの素材として、親水性樹脂とともに、ポリイミド、ポリアミドイミド、又はそれらの前駆体を併用する素材を採用すると、線材の接着を確固たるものにできるとともに、耐久性の高い親水性コーティングができる点で好ましい。
【0038】
また、カテーテル内や血管内に挿入した場合、図4に示すように、カテーテルZの内壁と接触する部分は、線材構造物3を構成する線材31の最外部(頂部)になるため、医療用ガイドワイヤ1とカテーテルZとの接触面積を、従来の医療用ガイドワイヤに比べて大きく減じることが可能となり、医療用ガイドワイヤ1とカテーテルZと間で発生する接触抵抗を低下させて、高い摺動性を確保することが可能となる。特に、線材構造物3を易滑性樹脂繊維を含む線材31から構成することにより、より高い摺動性を確保することができる。また、線材31を親水性樹脂からなる繊維等から形成し、医療用ガイドワイヤ1における線材31自身(線材構造物3)が親水性を有する構成とする場合、上記背景技術において説明したような親水性ポリマーからなる潤滑性被膜に比べて、当該線材31は膨潤し易く、多くの水分を保水することが可能となり、また、親水性を有する線材31と線材31との間に形成される凹部の形状に基づいて保水性が発揮され、より高い摺動性を確保することが可能となる。この結果、使用時に滑りが悪化することを効果的に防止することができる。また、親水性を有する線材31と線材31との間に形成される凹部に、上述の親水性コーティングを配することにより、線材31自身に効果的に保たれる水と凹部に効果的に保たれる水とによって、親水性の線材31の滑り性が有効に発揮され、滑り性が長期間にわたって持続可能な医療用ガイドワイヤ1を得ることが可能となる。このような医療用ガイドワイヤ1によれば、従来問題となっていた、術中に生理食塩水を補給しなおしたり、或いは、滑り性悪化のため治療を中止したりするといった事態が発生することを極めて効果的に回避することが可能となる。
【0039】
また、施術者が回転や押し引き操作を行う手元部においては、医療用ガイドワイヤ表面に形成される凹凸(線材構造物3)が、すべり止めの機能を発揮するため、手元部における施術者のグリップ力が高まり、繊細な回転操作や押し引き操作を行うことが可能となり、高い操作性を発揮させることが可能となる。このように、本実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1は、高い摺動性及び高い操作性を両立することができる。
【0040】
また、上記実施形態においては、線材構造物3は、ワイヤ本体2の表面に対して、螺旋状に線材31を巻回して構成されているため、医療用ガイドワイヤ1を極めて効率よく製造することができる。また、医療用ガイドワイヤ1における先端部分、中間部分、手元部分のそれぞれにおいて、線材31の線材ピッチ(巻回ピッチ)を変化させることが容易であり、これにより、先端部分での高い摺動性を確保しつつ、手元部での摺動性及び操作性を確保するという要求品質に更なる付加価値を付与して医療用ガイドワイヤ1を製造することができる。例えば、手元部においては隣接する線材31の線材ピッチを比較的大きく設定することにより、すべり止めの機能を高めて、操作性をより一層向上させることができ、また、先端部分においては隣接する線材31の線材ピッチを小さくして、摺動性を確保すると共に、血栓が付着しやすい段差部分が極力発生しないように医療用ガイドワイヤ1を構成することができる。
【0041】
また、本実施形態の医療用ガイドワイヤ1は、ワイヤ本体2と、当該ワイヤ本体2の表面に設けられる線材構造物3とが熱融着されて構成されている。これにより、図5の要部拡大断面図に示すように、ワイヤ本体2と線材構造物3との熱融着部4に、線材構造物3を構成する線材31の熱融着前の最大幅よりも幅の小さい幅細部41を形成させることができる。この熱融着部4における幅細部41は、線材構造物3とワイヤ本体2との熱融着時に、線材構造物3を構成する線材31におけるワイヤ本体2との接触箇所が溶融し、その後冷却されて固化することにより形成される。このように、本実施形態に係る医療用ガイドワイヤにおいては、線材構造物3の熱融着部4に幅細部41からなるくびれ部を形成することができるため、かかるくびれ部(幅細部41)に、施術者の手や指の表面が食い込みやすくなり、医療用ガイドワイヤ1に対するグリップ力を向上させることができ、医療用ガイドワイヤ1の操作性をより一層高めることができる。なお、熱融着部4におけるくびれ部(幅細部41)は、カテーテルの内壁等に接触する部分ではないため、かかるくびれ部がカテーテル等との摺動性に対して影響は与えない。したがって、本実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1は、高い摺動性及び高い操作性を両立することができる優れた医療用ガイドワイヤであるといえる。
【0042】
また、ワイヤ本体2と線材構造物3とを熱融着させる際に供給する熱エネルギー量を適宜変更することにより、線材構造物3を構成する線材31(ワイヤ本体2の表面に対する凸部に相当)の形状を種々変更し、医療用ガイドワイヤ1が挿入される人体の種々の部位(動脈、静脈、胆管等)やカテーテルの種類に適合した医療用ガイドワイヤ1、あるいは、摺動性や操作性、血栓非付着性のいずれかに特化した医療用ガイドワイヤ1を容易に製造することができる。例えば、医療用ガイドワイヤ1の先端部分において血栓が付着することを積極的に防止したい場合には、当該部分に対して多くの熱エネルギーを供給することによって、線材31の大部分を溶融させ、隣接配置される線材31同士を繋げて線材構造物3の表面が平滑な状態となる医療用ガイドワイヤ1を構成することができる。
【0043】
以上、本発明に係る医療用ガイドワイヤ1について説明したが、具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、図1図3に示すように、ワイヤ本体2の外周面を被覆する線材構造物3は、ワイヤ本体2に巻回される一層の線材層として構成されているが、例えば、図6の断面図に示すように、ワイヤ本体2の外周面上に螺旋状に巻回される線材31が複数の層を形成するように線材構造物3を構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、図1図3に示すように、ワイヤ本体2の外周面に一本の線材31を螺旋状に巻回して線材構造物を形成しているが、例えば、図7の要部拡大断面図に示すように、太さの異なる複数の線材311,312をワイヤ本体2の外周面に螺旋状(二重螺旋状)に巻回して被覆することにより線材構造物3を形成してもよい。このような構成を採用する場合、互いに隣接する太さの異なる線材311,312間で段差Dが形成されるため、医療用ガイドワイヤ1の手元部においては、当該段差Dが、すべり止め機能を発揮することになるため、更なるグリップ力の向上が図られ、施術者にとっての操作性が向上する。なお、医療用ガイドワイヤ1の先端部分においては、径の大きい線材311が、カテーテルの内壁に接し、径の小さい線材312は、カテーテルと接触しないため、カテーテル等に対する医療用ガイドワイヤ1の摺動性は低下しない。
【0045】
また、上記実施形態においては、線材構造物3は、ワイヤ本体2の外表面に螺旋状に線材31を巻回して構成されているが、例えば、図8の概略構成側面図に示すように、ワイヤ本体2の外表面上において、線材31により形成された網目状構造を有する筒状体32となるように線材構造物3を形成してもよい。筒状体32として形成される線材構造物3は、網目状構造を有するように構成される限り、如何ように形成してもよく、例えば、組紐製法により筒状体32を形成してもよく、或いは、編物を形成する要領で線材31を編み込んで筒状体32を形成してもよい。このよう線材構造物3を線材31により形成された網目状構造を有する筒状体32とした場合、線材構造物3とワイヤ本体2との熱融着部における密着強度が向上し、線材構造物3がワイヤ本体2から剥離してしまうような事態が発生することを効果的に抑制することができる。また、カテーテルや血管と接触する主な部分は、網目における結節部分となることから、カテーテルや血管と接触面積をより一層低減させることができるため、より高い摺動性を確保することができる。一方、医療用ガイドワイヤ1の手元部に着目すると、施術者の操作時においては、施術者の手や指の表面が各網目部分に食い込むこととなるため、医療用ガイドワイヤ1の手元部に対するグリップ力が向上し、医療用ガイドワイヤ1の操作性をより一層高めることができる。
【0046】
また、上記実施形態においては、図1図3に示すように、断面形状が円形である線材31を用いて線材構造物3を構成し、当該線材構造物3をワイヤ本体2の外周面に被覆するようにして医療用ガイドワイヤ1を構成しているが、このような断面形状が円形の線材31の代わりに、多角形の断面形状を有する線材31や、楕円の断面形状を有する線材31、扇型の断面形状を有する線材31等の断面が非円形である線材31を使用して、線材構造物3を構成してもよい。ここで、多角形の断面形状を有する線材31とは、例えば、図9(a)に示す断面視三角形状や、(b)に示す断面視五角形状、(c)に示す断面視星形状のように、角が立った多角形状の断面を有する線材31の他、図9(d)〜(f)に示すような、角に丸みを帯びた断面視三角形状、断面視五角形状、断面視星形状等の断面を有する線材31や、図9(g)〜(i)に示すような、いびつに変形した断面視三角形状、断面視五角形状、断面視星形状等の断面を有する線材31を含む概念である。このように断面が非円形である線材31を用いて線材構造物3を構成した場合、断面が円形である線材31を用いた場合よりも、複雑な凹凸形状を線材構造物3の表面に形成することができるため、手元部におけるグリップ力を高めることが可能となり、医療用ガイドワイヤ1の操作性が向上する。なお、このような断面非円形の線材31を用いて線材構造物3を形成した場合であっても、カテーテルの内壁や血管と接する部分は、線材31の最外部(頂部)となることから、カテーテルに対する医療用ガイドワイヤ1の摺動性は低下しない。
【0047】
また、本実施形態において、図10に示すように、ワイヤ本体2の先端を被覆する被覆部材5を設けるように構成してもよい。この被覆部材5は、医療用ガイドワイヤ1の血管等への挿入時に、血管内壁等を傷つけることを防止するために設けられるものであり、柔軟性に富む熱可塑性エラストマーや各種ゴム材料から形成される。この被覆部材5の形状は、血管等の損傷を防止する観点から、その先端および基端が丸みを帯びる円柱状に形成されている。この被覆部材5の中に、造影性を有する材料(X線不透過材料等)によるフィラー(粒子)を分散し、これにより造影部を構成するようにしてもよい。また、被覆部材5の外面に対して、親水性材料をコーティングするようにしてもよい。これにより、親水性材料が湿潤して潤滑性を生じ、医療用ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)が低減し、摺動性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 医療用ガイドワイヤ
2 ワイヤ本体
3 線材構造物
31 線材
4 熱融着部
41 幅細部(くびれ部)
5 被覆部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10