(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
機械構造用部品は、急激に大きな応力を受けることによって破損する場合がある。特に、差動歯車、トランスミッション歯車、および歯車付き浸炭シャフトなどの車両用歯車では、車両の急発進および急停車の際の負荷により、歯元が衝撃破壊で破損することがある。このような現象を防止するために、特に差動歯車およびトランスミッション歯車においては、その衝撃値(耐衝撃特性)の向上がより一層望まれている。これら機械構造用部品の衝撃値を十分に向上させることにより、機械構造用部品に用いられる材料の量を減少させ、機械構造用部品の軽量化を達成することができる。
【0003】
従来、上記した部品では一般的に、例えばJIS SCr420、およびJIS SCM420等の、C含有量が0.2%前後の肌焼鋼を素材として用いることで芯部の靭性を確保する。さらに、上記した部品では、浸炭焼入れ処理と150℃前後の低温焼戻しとを施して、部品表面の金属組織をC含有量が0.8%前後の焼戻しマルテンサイト組織とする。これにより、部品の高サイクル曲げ疲労強度および耐摩耗性を高める。
【0004】
衝撃値を向上させるための従来の技術について以下に説明する。特許文献1では、Al、B、およびNの含有量を規定し、固溶Bによって耐衝撃疲労特性、及び面疲労強度を高めた歯車用鋼、並びにそれを用いた歯車が提案されている。しかし、特許文献1に記載の歯車では、浸炭時に脱B現象が起き、歯車表層の固溶Bが消失するので、その衝撃値の向上は小さい。
【0005】
特許文献2では、Mo、Si、P、Mn、およびCrの含有量を規定し、特にMoの含有量を高めることによって得られる、耐衝撃性に優れる歯車が提案されている。しかし、Mo含有量を増大させるにあたって、Si、Mn、およびCrの含有量を低くする必要があるので、特許文献2に記載の歯車では、焼入れ性の低下による強度の低下が起こる。
【0006】
特許文献3では、適量のCuを含有させることによって得られる、高強度且つ高靭性を有する肌焼き鋼が提案されている。しかし、高温では鋼中のCuが液層となり、鋼の脆化を促進する。従って、特許文献3に記載の肌焼き鋼の製造条件には制約がある。
【0007】
本発明者らは、浸炭特性と耐衝撃特性との関係の調査を鋭意実施した。その結果、後述するように、浸炭の際に鋼に浸入するCの浸入量を低下させて、浸炭材の表面C濃度を低下させることが衝撃値を向上させるためには効果的であるとの知見を本発明者らは得た。しかしながら、浸炭材の表面C濃度が低すぎる場合、浸炭処理の本来の目的である疲労強度、および耐摩耗性などの特性の向上が達成されなくなる。従って、耐衝撃特性と、疲労強度および耐摩耗性などの特性とを浸炭鋼部品において両立させるためには、浸炭鋼部品の表面C濃度を適切な水準に制御する必要がある。
表面C濃度の低減は、浸炭処理の際にカーボンポテンシャルを低下させることにより実現可能である。しかし、浸炭炉を用いた実際の生産工程においてこれを実施することは難しい。何故なら、実際の生産工程では、浸炭炉は、用途が異なる種々の部品に対して、同時に、且つ連続して大量に処理を行う必要があるからである。浸炭を行う部品に求められる特性は、上述のように耐衝撃特性に限定されない。例えば、耐摩耗性および疲労強度などの特性も浸炭鋼部品には求められる。したがって、浸炭処理の際にカーボンポテンシャルを低下させることは、耐衝撃特性が主に求められる部品に対しては有効であるが、疲労強度が主に求められる部品において悪影響を及ぼし、疲労強度の低下による問題を発生させる。もし、浸炭性があまり発揮されない条件で浸炭することによって浸炭鋼部品の表面C濃度を制御することを試みる場合、部品ごとに浸炭条件を調整することが必要とされる。しかし、このことは生産性の低下につながるので、産業利用上好ましくない。
従って、種々の部品の浸炭に対応することができる強めの浸炭条件で浸炭処理を行ったとしても、Cの浸入量を適切な水準に制御することができる浸炭用鋼が求められる。
【0008】
表面C濃度の制御技術として、特許文献4において、Si、Ni、Cu、及びCrの含有量の関係を規定することで過剰な浸炭を抑制する浸炭鋼部品が提案されている。しかし、この文献で対象としている浸炭雰囲気は、鋼の表面C濃度を1.0%程度にする浸炭雰囲気である。鋼の表面C濃度をこのような値にした場合、鋼の表面に炭化物が発生する。この場合、衝撃値の向上に有効な表面C濃度の低下を実現できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、機械構造用の浸炭鋼部品においては、耐衝撃特性と、耐摩耗性とを両立させる必要がある。浸炭鋼部品に用いられる浸炭材の耐衝撃特性を十分に向上させることにより、使用材料量を抑制しながらも部品の耐衝撃特性が確保されるように、部品の設計を変更することができる。さらに、機械構造用の浸炭鋼部品の実際の生産工程における浸炭処理は、用途の異なる種々の部品に対して、単一の浸炭条件下、または可能な限り少ない種類の浸炭条件下で行われる必要がある。
特許文献1〜4の開示技術では、衝撃値の向上と生産性低下の回避とを両立するニーズ、具体的には部品ごとに浸炭条件を調整することなく耐衝撃特性に優れる浸炭鋼部品を得るというニーズには充分に応えることができなかった。
本発明は、浸炭鋼部品の材料として使用したときに、衝撃値(耐衝撃特性)と耐摩耗性との両方に優れる浸炭鋼部品を得ることができ、かつ、その浸炭鋼部品の製造時には浸炭条件の変更を必要としない鋼を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、生産性低下を回避し、かつ優れた衝撃値を有する浸炭鋼部品を得ることができる鋼を実現するために、化学組成と浸炭材質特性とを広範囲かつ系統的に変化させた鋼に対して浸炭および衝撃試験を実施した。その結果、以下に説明する知見が得られた。
【0012】
図1は、鋼に浸炭処理を行って得られた浸炭材の表面C濃度と衝撃値との関係を示すグラフである。浸炭処理によって鋼の表面C濃度は上昇する。浸炭材の衝撃値を向上させるためには、
図1に示すとおり、浸炭後の表面C濃度を適切な水準に制御することが効果的であるとの知見を得た。
【0013】
さらに本発明者らは、浸炭材の表面C濃度を上述のように制御することは、鋼中に固溶する合金元素の含有量を調整することにより実現できるとの知見を得た。具体的には、各合金元素の含有量それぞれを所定範囲内とし、且つ、鋼中の合金元素のうち、Si、Ni、Al、およびSnの鋼中含有量(単位:質量%)を[Si%]、[Ni%]、[Al%]、[Sn%]としたときに、下記式(A)が満たされることにより、浸炭材の表面C濃度が適切な値となり、衝撃値が向上することを本発明者らは明らかにし、これにより本願発明を完成した。
42≧21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]≧8.5・・・(A)
【0014】
本発明は以上の新規なる知見にもとづいてなされたものであり、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る
浸炭用鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.16〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.35〜1.45%、Cr:0.05〜3.0%、Al:0.001〜0.2%、Ni:0.04〜5.0%、Sn:0.015〜1.0%、S:0.004〜0.05%、N:0.003〜0.03%、O:0.005%以下、P:0.025%以下、Mo:0〜1.0%、Cu:0〜1.0%、B:0〜0.005%、Nb:0〜0.3%、Ti:0〜0.3%、V:0〜1.0%、Ca:0〜0.01%、Mg:0〜0.01%、Zr:0〜0.05%、Te:0〜0.1%、希土類元素:0〜0.005%、および残部:Fe及び不純物であり、Si、Ni、Al及びSnの含有量を質量%で[Si%]、[Ni%]、[Al%]、[Sn%]と表したときに、下記(A)式を満足する。
42≧21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]≧8.5・・・(A)
【0016】
(2)上記(1)に記載の
浸炭用鋼は、前記化学組成が、質量%で、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%、およびB:0.0002〜0.005%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の
浸炭用鋼は、前記化学組成が、質量%で、Nb:0.005〜0.3%、Ti:0.005〜0.3%、およびV:0.01〜1.0%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。
【0018】
(4)上記(1)〜(3)のいずれ
かに記載の
浸炭用鋼は、前記化学組成が、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%、Zr:0.0005〜0.05%、Te:0.0005〜0.1%、および希土類元素:0.0001〜0.005%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鋼を用いて浸炭鋼部品を製造すれば、浸炭鋼部品の衝撃値を向上させるために、浸炭鋼部品毎に浸炭条件を調整する必要がない。従って、浸炭方法の統一による製造効率の向上が可能となるとともに、優れた衝撃値の浸炭鋼部品を得ることができ、本発明による産業上の効果は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る鋼の化学成分の限定理由について説明する。以下、合金元素の含有量に係る単位である「質量%」は、単に「%」と記載する。以下の説明において、鋼(浸炭用鋼)に関する説明は、特に断りが無い限り浸炭鋼部品(浸炭材)にも当てはまる。
【0023】
C:0.16〜0.30%
C含有量は、浸炭鋼部品の芯部の強度を決定し、さらに有効硬化層深さにも影響する。所要の芯部強度を確保するために、C含有量の下限値を0.16%とする。一方、C含有量が多すぎると製造性が低下するので、C含有量の上限値を0.30%とする。C含有量は、好ましくは0.18〜0.25%である。
【0024】
Si:0.01〜2.0%
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、機械構造用部品として必要な強度及び焼入れ性を浸炭鋼部品に付与するために有効な元素である。さらに、Si含有量の増加により、浸炭時の浸炭性が低下して、浸炭鋼部品の衝撃値が向上する。Si含有量が0.01%未満では、その効果が不十分である。また、Si含有量が2.0%を超えると、製造時の脱炭が著しくなり、浸炭鋼部品の強度および有効硬化層深さが不足する。以上の理由によって、Si含有量を0.01〜2.0%の範囲内にする必要がある。Si含有量は、好ましくは0.2〜1.5%である。
【0025】
Mn:0.35〜1.45%
Mnは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、必要な強度及び焼入れ性を鋼に付与するために有効な元素である。Mn含有量が0.35%未満では、マルテンサイト変態開始温度が高くなり、セルフテンパーを起こし、硬さが低下する。また、Mn含有量が1.45%を超えると、サブゼロ処理後であっても残留オーステナイトが安定的に鋼中に存在して、鋼の強度が低下する。以上の理由によって、Mn含有量を0.35〜1.45%の範囲内にする必要がある。Mn含有量は、好ましくは、0.50〜1.10%である。
【0026】
Cr:0.05〜3.0%
Crは、必要な強度及び焼入れ性を鋼に付与するために有効な元素である。Cr含有量が0.05%未満では、その効果が不十分である。Cr含有量が3.0%を超えると、その効果が飽和する。以上の理由によって、Cr含有量を0.05〜3.0%の範囲内にする必要がある。Cr含有量は、好ましくは0.2〜1.5%である。
【0027】
Al:0.001〜0.2%
Alは、鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、窒化物となって鋼中に析出して、結晶粒微細化効果を奏する元素である。さらに、Al含有量が増加すると、鋼の浸炭性が低下し、これにより浸炭鋼部品の衝撃値が向上する。Al含有量が0.001%未満では、その効果が不十分である。また、Al含有量が0.2%を超えると、析出物(Al窒化物)が粗大化し、鋼および浸炭鋼部品の脆化の原因となる。以上の理由によって、Al含有量を0.001〜0.2%の範囲内にする必要がある。Al含有量の好適範囲は0.01〜0.15%である。
【0028】
Ni:0.04〜5.0%
Niは、必要な強度及び焼入れ性を鋼に付与するために有効な元素である。さらに、Ni含有量の増加により、浸炭時の浸炭性が低下し、これにより浸炭鋼部品の衝撃値が向上する。Ni含有量が0.04%未満では、その効果が不十分である。Ni含有量が5.0%を超えると、サブゼロ処理を鋼に施しても、残留オーステナイトが鋼中に安定に存在して、鋼の強度が低下する。以上の理由によって、Ni含有量を0.04〜5.0%の範囲内にする必要がある。好ましくは、Ni含有量は1.0〜2.0%である。
【0029】
Sn:0.015〜1.0%
Sn含有量の増加により、浸炭時の浸炭性が低下し、これにより浸炭鋼部品の衝撃値が向上する。Sn含有量が0.015%未満では、その効果は不十分である。一方、Sn含有量が1.0%を超えると、鋼の熱間延性が低下する。以上の理由によって、Snの含有量を0.015〜1.0%の範囲内にする必要がある。Sn含有量の好適範囲は0.02〜0.1%である。
【0030】
S:0.004〜0.05%
Sは、鋼中でMnSを形成し、これにより鋼の被削性を向上させる。S含有量が0.004%未満では、その効果は不十分である。一方、S含有量が0.05%を超えると、その効果は飽和し、むしろ粒界偏析を起こし粒界脆化を引き起こす。以上の理由から、Sの含有量を0.004〜0.05%の範囲内にする必要がある。S含有量の好適範囲は0.01〜0.04%である。
【0031】
N:0.003〜0.03%
Nは、鋼中でAl、Ti、Nb、およびV等と結合して窒化物又は炭窒化物を生成する。これら窒化物および炭窒化物は結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する。N含有量が0.003%未満では、その効果が不十分である。N含有量が0.03%を超えると、その効果が飽和する。以上の理由によって、N含有量を0.003〜0.03%の範囲内にする必要がある。N含有量の好適範囲は0.005〜0.008%である。
【0032】
O:0.005%以下
Oは、鋼中で酸化物を形成する。この酸化物は、粒界偏析して粒界脆化を起こす場合がある。また、Oは鋼中で硬い酸化物系介在物を形成して脆性破壊を起こしやすくする元素である。O含有量は0.005%以下に制限される必要がある。O含有量の好適範囲は0.0025%以下である。O含有量が少ない方が好ましいので、O含有量の下限値は0%である。
【0033】
P:0.025%以下
Pは、浸炭時にオーステナイト粒界に偏析し、それにより粒界破壊を引き起こす。つまり、Pは浸炭鋼部品の衝撃値を低下させてしまう。したがって、P含有量を0.025%以下に制限する必要がある。P含有量の好適範囲は0.01%以下である。P含有量が少ない方が好ましいので、P含有量の下限値は0%である。しかし、Pの除去を必要以上に行った場合、製造コストが増大する。従って、P含有量の実質的な下限値は約0.004%となるのが通常である。
【0034】
本実施形態に係る鋼は、衝撃値を高めるために、さらに、Mo、Cu、およびBのうち1種または2種以上を含有してもよい。しかしながら、これら元素を含有することは必須ではない。
【0035】
Mo:0〜1.0%
Moは、Pが粒界に偏析することを抑制するので、鋼の衝撃値の向上のために有効な元素である。Mo含有量が1.0%を超えると、その効果が飽和するので、Mo含有量の上限を1.0%とする必要がある。Mo含有量の下限値は0%であるが、Moを含有させて上述の効果を得る場合には、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。Mo含有量のさらなる好適範囲は0.05〜0.25%である。
【0036】
Cu:0〜1.0%
Cuは、鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であり、また、焼入れ性の向上によって鋼の衝撃値を向上させる元素である。Cu含有量が1.0%を超えると、熱間延性が低下するので、Cu含有量の上限を1.0%とする必要がある。Cu含有量の下限値は0%であるが、Cuを含有させて上述の効果を得る場合には、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量のさらなる好適範囲は0.01〜0.2%である。
【0037】
B:0〜0.005%
Bは、Pの粒界偏析を抑制する働きを有する。また、Bは粒界強度および粒内強度の向上効果、及び焼入れ性の向上効果も有し、これら効果は鋼の衝撃値を向上させる。B含有量が0.005%を超えると、その効果は飽和するので、B含有量の上限値を0.005%とする必要がある。B含有量の下限値は0%であるが、Bを含有させて上述の効果を得る場合には、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。B含有量のさらなる好適範囲は0.0005〜0.003%である。
【0038】
本実施形態に係る鋼は、長時間浸炭を行った場合でも衝撃値の低下を防止するために、さらに、Nb、Ti、およびVのうち1種または2種以上を以下に示す範囲内で含有してもよい。しかしながら、これら元素を含有することは必須ではない。
【0039】
Nb:0〜0.3%
Nbは、鋼中にNb炭窒化物を生成する。浸炭温度が980℃以上のいわゆる高温浸炭が適用された場合、および浸炭時間が10時間以上のいわゆる長時間浸炭が適用された場合においても、好適な量のNb炭窒化物が鋼中に存在することにより、オーステナイト粒を細粒化することができ、衝撃値の低下が防止できる。Nb含有量が0.3%を超えると被削性が劣化するので、Nb含有量の上限を0.3%とする。Nb含有量の下限値は0%であるが、Nbを含有させて上述の効果を得る場合には、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Nb含有量のさらなる好適範囲は0.02〜0.05%である。
【0040】
Ti:0〜0.3%
Tiは、鋼中で微細なTiC、および/またはTiCSを生成する。浸炭温度が980℃以上のいわゆる高温浸炭が適用された場合、および浸炭時間が10時間以上のいわゆる長時間浸炭が適用された場合においても、好適な量のTiC、およびTiCSが鋼中に存在することにより、オーステナイト粒を細粒化することができ、鋼の衝撃値の低下が防止できる。Ti含有量が0.3%を越えると、TiN主体の析出物が多くなって、鋼の疲労特性が低下する。以上の理由から、Ti含有量の上限値を0.3%とする必要がある。Ti含有量の下限値は0%であるが、Tiを含有させて上述の効果を得る場合には、Ti含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Ti含有量のさらなる好適範囲は0.02〜0.2%である。
【0041】
V:0〜1.0%
Vは、鋼中でV炭窒化物を生成する。浸炭温度が980℃以上のいわゆる高温浸炭が適用された場合、および浸炭時間が10時間以上のいわゆる長時間浸炭が適用された場合においても、好適な量のV炭窒化物が鋼中に存在することにより、オーステナイト粒を細粒化することができ、鋼の衝撃値の低下が防止できる。V含有量が1.0%を超えると、鋼の被削性を劣化させる。以上の理由によって、V含有量の上限値を1.0%とする必要がある。V含有量の下限値は0%であるが、Vを含有させて上述の効果を得る場合には、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。V含有量のさらなる好適範囲は、0.03〜0.1%である。
【0042】
本実施形態に係る鋼は、被削性を改善するために、さらに、Ca、Mg、Zr、Te、および希土類元素のうち1種または2種以上を以下に示す範囲内で含有してもよい。しかしながら、これら元素を含有することは必須ではない。
【0043】
Ca:0〜0.01%
Caは、酸化物の融点を低下させ、切削加工の際に温度上昇により軟質化するので、被削性を改善する。しかし、Ca含有量が0.01%を超えるとCaSが多量に生成されて、被削性が低下する。以上の理由によって、Ca含有量の上限値を0.01%とするのが望ましい。Ca含有量の下限値は0%であるが、Caを含有させて上述の効果を得る場合には、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。Ca含有量のさらなる好適範囲は、0.0005〜0.0015%である。
【0044】
Mg:0〜0.01%
Mgは脱酸元素であり、鋼中に酸化物を生成する。さらに、Mgが形成するMg系酸化物は、MnSの晶出および/または析出の核になりやすい。また、Mgの硫化物は、MnおよびMgの複合硫化物となることにより、MnSを球状化させる。このように、MgはMnSの分散を制御し、被削性を改善するために有効な元素である。しかし、Mg含有量が0.01%を超えると、MgSが大量に生成され、鋼の被削性が低下するので、Mg含有量の上限値を0.01%とするのが望ましい。Mg含有量の下限値は0%であるが、Mgを含有させて上述の効果を得る場合には、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。Mg含有量のさらなる好適範囲は、0.0005〜0.0015%である。
【0045】
Zr:0〜0.05%
Zrは脱酸元素であり、酸化物を生成する。さらに、Zrが形成するZr系酸化物はMnSの晶出および/または析出の核になりやすい。このように、Zrは、MnSの分散を制御し、被削性を改善するために有効な元素である。しかし、Zr量が0.05%を超えると、その効果が飽和するので、Zr含有量の上限値を0.05%とするのが望ましい。Zr含有量の下限値は0%であるが、Zrを含有させて上述の効果を得る場合には、Zr含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。また、MnSの球状化を促進するには、Zr含有量の下限値は、0.003%超とすることが特に好ましい。
【0046】
Te:0〜0.1%
Teは、MnSの球状化を促進するので、鋼の被削性を改善する。Te含有量が0.1%を超えるとその効果が飽和するので、Te含有量の上限値を0.1%とすることが好ましい。Te含有量の下限値は0%であるが、Teを含有させて上述の効果を得る場合には、Te含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。Te含有量のさらなる好適範囲は、0.0005〜0.0015%である。
【0047】
希土類元素:0〜0.005%
希土類元素は、鋼中に硫化物を生成し、この硫化物がMnSの析出核となることで、MnSの生成を促進する元素であり、鋼の被削性を改善する。しかし、希土類元素の合計含有量が0.005%を超えると、硫化物が粗大になり、鋼の疲労強度を低下させるので、希土類元素の合計含有量の上限値を0.005%にする必要がある。希土類元素の合計含有量の下限値は0%であるが、希土類元素を含有させて上述の効果を得る場合には、希土類元素の合計含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。希土類元素の合計含有量のさらなる好適範囲は、0.001〜0.003%である。
【0048】
本実施形態に係る鋼は、上述の合金成分を含有し、残部がFeおよび不純物を含む。上述の合金成分以外の元素が、不純物として、原材料および製造装置から鋼中に混入することは、その混入量が鋼の特性に影響を及ぼさない水準である限り許容される。
【0049】
本実施形態に係る鋼が含む各合金成分の含有量に関し上述した。しかしながら、各合金成分の含有量を個別に制御するだけでは、十分な衝撃値を有する浸炭鋼部品を、浸炭鋼部品の形状に関わらず、単一の浸炭条件下で得るための鋼を実現することはできない。本発明者らは、さらに式(1)に基づいて合金成分の含有量を制御することが必要であることを知見した。
【0050】
42≧21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]≧8.5・・・(1)
式(1)において、[Si%]、[Ni%]、[Sn%]、および[Al%]は、Si、Ni、Sn、およびAlの含有量を質量%で示すものである。以下に、式(1)の導出の根拠に関して説明する。
【0051】
先ず本発明者らは、浸炭材の耐衝撃性を評価するために行った検討の内容を以下に説明する。
まず、C:0.20質量%、Si:0.24質量%、Mn:0.79質量%、P:0.014質量%、S:0.015質量%、Cr:1.21質量%、Al:0.031質量%、Ni:0.05質量%、Sn:0質量%、N:0.005質量%、およびO:0.001質量%を含有し、残部がFeおよび不純物である浸炭用鋼を基準鋼と定義した。次に、
図2に示される、外形寸法が10mm×10mm×55mmであり、且つ曲率半径10mmおよび深さ2mmの円弧状の切欠き(ノッチ)を有するシャルピー衝撃試験片を、本実施形態におけるシャルピー衝撃試験片3と定義した。基準鋼を材料として形成されたシャルピー衝撃試験片3に対して、先ず処理温度が930℃であり、処理時間が5時間であり、且つカーボンポテンシャルが0.8である浸炭条件(以下、基準浸炭条件と称する場合がある)でガス浸炭を行い、次いで焼戻し温度が150℃であり且つ焼戻し時間が90分である焼戻しを行って得られる浸炭材の25℃でのシャルピー吸収エネルギーを、基準衝撃値と定義した。
さらに、衝撃値比を、基準衝撃値を得る際に適用された浸炭条件(すなわち、基準浸炭条件)に従ってシャルピー衝撃試験片3に浸炭および焼戻しを行って得られた浸炭材の25℃でのシャルピー吸収エネルギーを、基準衝撃値で除した値と定義した。
上述の基準鋼は、歯車用鋼として一般に用いられる、SCr420に相当する化学組成を有する鋼であり、後述する比較例26の鋼と同一である。上述の基準浸炭条件の下で行われるガス浸炭は、機械構造用部品の製造のために行われる一般的な浸炭処理である。
上述のシャルピー衝撃試験片3の側面形状(切欠きの延伸方向に垂直な断面の形状)を
図2に示す。切欠き2の曲率半径は10mmである。シャルピー衝撃試験片3の形状は、一般的なシャルピー衝撃試験片の形状(例えば、JIS−Z2242「金属材料のシャルピー衝撃試験方法」中に規定された形状)とは異なる。シャルピー衝撃試験片3の切欠き2の形状は、歯車の歯元部の形状を模擬することを意図して決定されている。このような切欠きを有する試験片にシャルピー衝撃試験を行うことにより、歯車の歯元部における耐衝撃特性を推定することができる。このような切欠きを有する試験片は、例えば日本国特開2013−40376号公報に記載されているように、浸炭した鋼材の耐衝撃特性を測定する試験片形状としては広く用いられている。シャルピー吸収エネルギーの測定は、シャルピー衝撃試験片3の形状以外は、JIS−Z2242「金属材料のシャルピー衝撃試験方法」に準じて行われた。シャルピー衝撃試験の実施温度は25℃とした。シャルピー衝撃試験片3は機械加工によって作成された。
【0052】
次に本発明者らは、上述した成分範囲内(ただし、式1に関する規定は考慮しない)で合金元素を含有する種々の鋼を鍛造、機械加工、および浸炭し、これら鋼から得られる浸炭材の衝撃値比を求めた。さらに本発明者らは、各浸炭材の表面C濃度を測定した。
表面C濃度の測定方法を以下に説明する。先ず、基準浸炭条件下でガス浸炭処理が行われたシャルピー衝撃試験片3のノッチ面(切欠きが形成された面)および切欠き2に対して垂直な方向に沿ってシャルピー衝撃試験片3を切断し、切断面を研磨した。
図3に、切断面の概略図を示す。次に、切欠き2の底部表面から、シャルピー衝撃試験片3の高さ方向に向かって5〜50μmの領域(表面C濃度測定領域1)において、5μm間隔でC濃度を測定した。C濃度の測定はEPMAによって行った。測定点の大きさ(EPMAの電子ビーム径)はφ5μmとした。これにより得られた10個の測定データを平均した値を、表面C濃度とした。表面C濃度の単位は質量%である。
【0053】
このように、鋼の化学成分及び浸炭材質特性を広範囲かつ系統的に変化させた際の浸炭後の表面C濃度を測定した結果、合金元素の添加量に応じて表面C濃度が変化することを本発明者らは知見した。この現象は、合金元素と、浸炭により鋼表面に浸入するCとの化学的な相互作用により生じたと考えられる。Si、Ni、Al、及びSnは、特に表面C濃度に対する影響が強く、これら元素の含有量の増加に伴い、表面C濃度が低下した。上述の知見によれば、本実施形態に係る鋼の化学組成において、Si、Ni、Al、およびSnの含有量の関係性を式1によって規定することで、鋼の浸炭性を制御することができる。
【0054】
衝撃値比は、以下の理由により、1.2以上である必要がある。上述のように、浸炭鋼部品に用いられる浸炭材の耐衝撃特性を十分に向上させることにより、使用材料量を抑制しながらも耐衝撃破壊性が確保されるように、部品の設計を変更することができる。機械構造部品の技術分野では、このような設計変更を実施するためには、上述した基準衝撃値(一般的な浸炭条件で浸炭されたSCr420の衝撃値)に対して、衝撃値が20%向上している必要があるとされている。
上述したように、衝撃値比と表面C濃度との間には相関関係がある。
図4は、浸炭材の表面C濃度と衝撃値比との相関関係を示す片対数グラフである。
図4において、破線より下のデータポイントの衝撃値比は1.2未満である。
図4に示されるように、1.2以上の衝撃値比を有する浸炭材を得るためには、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた浸炭材の表面C濃度を0.75%以下に制御する必要があることが分かった。
ここで、表面C濃度を、Si、Ni、Al、およびSnの各含有量を因子として重回帰分析した。その結果、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた場合に表面C濃度が0.75質量%である浸炭材を得るための臨界的な条件として、下記式(1’)および式(2’)を得た。
21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]=α・・・ (1’)
α=8.5・・・ (2’)
【0055】
図5は、α値と表面C濃度との関係、およびα値と衝撃値比との関係を示すグラフである。
図5において、左の破線より左にあるデータポイントのα値は8.5未満であり、右の破線より右にあるデータポイントのα値は42超である。このグラフからわかるように、α値が8.5以上であると、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた場合に表面C濃度が0.75質量%以下となる。α値が増加するに従い、浸炭材の表面C濃度が低下するので、それに伴い浸炭材の衝撃値が増加する。好ましくは、α値は12以上である。
【0056】
一方で、浸炭性の低下が著しい場合、表面硬さが低下することによって耐摩耗性が顕著に低くなり、浸炭鋼部品としての強度が十分ではなくなる。基準浸炭条件でガス浸炭が行われた場合、浸炭材の表面硬さはHV550より高くなることが望ましい。これを達成するためには、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた浸炭材の表面C濃度は0.4質量%以上である必要がある。さらに、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた浸炭材の表面C濃度を0.4質量%以上にするためには、α値を42以下にする必要があることがわかった。なお、基準浸炭条件でガス浸炭が行われた浸炭材の表面C濃度は0.55質量%以上であることがさらに好ましく、これを達成するためには、α値を25以下にすることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る鋼から浸炭鋼部品を得るための浸炭方法は、ガス浸炭(変性炉方式、および滴注式のいずれでもよい)が好ましい。また、浸炭に加えて浸窒を実施してもよい。
なお、浸炭鋼部品の評価基準として有効硬化層深さが検討される場合もあるが、差動歯車などの車両用歯車のような部品に求められる特性は、有効硬化層深さよりも表面硬さに強く関連する。従って、浸炭鋼部品の表面C濃度を適切な水準に制御し、これにより表面硬さを最適化することができる本実施形態に係る鋼を用いれば、産業利用上有利な効果が得られる。
【0058】
本実施形態に係る鋼は、例えば、先ず熱間圧延により丸棒鋼とされ、次いで鍛造や切削加工を加えられて歯車などの形状とされ、さらに浸炭焼入れが施されて浸炭鋼部品とされてもよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0060】
表1−1および表1−2に示す化学成分を有する種々の鋼塊を、長さ方向の断面寸法が縦50mmおよび横50mm(50mm×50mm)である角棒形状に鍛伸後、均熱処理と焼準とを施してから、さらに長さ方向の断面寸法が縦25mmおよび横25mmである角棒形状に4分割した。得られた各棒から、その中心軸に沿って、
図2に示される、外形寸法が10mm×10mm×55mmであり、且つ曲率半径10mmおよび深さ2mmの円弧状の切欠き(ノッチ)を有するシャルピー衝撃試験片を採取した。この試験片形状は、上述したシャルピー衝撃試験片3と同一である。次に、このシャルピー衝撃試験片に浸炭処理を施した。比較例29以外の実施例および比較例には、処理温度が930℃であり、処理時間が5時間であり、且つカーボンポテンシャルが0.8である浸炭条件でガス浸炭を行った。この処理条件は、上述した基準浸炭条件と同一である。比較例29には、処理温度が930℃であり、処理時間が5時間であり、且つカーボンポテンシャルが0.6である浸炭条件でガス浸炭を行った。焼戻しは、焼戻し温度が150℃であり且つ焼戻し時間が90分である条件下で実施した。
焼戻し後に、各試料の表面C濃度を測定した。表面C濃度の測定方法は以下の通りである。先ず、シャルピー衝撃試験片のノッチ面(切欠きが形成された面)および切欠きに対して垂直な方向に沿ってシャルピー衝撃試験片を切断し、切断面を研磨した。次に、切欠き2の底部表面から、シャルピー衝撃試験片の高さ方向に向かって5〜50μmの領域(表面C濃度測定領域1)において、5μm間隔でC濃度を測定した。C濃度の測定はEPMAによって行った。測定点の大きさ(EPMAの電子ビーム径)はφ5μmとした。これにより得られた10個の測定データを平均した値を、表面C濃度とした。表面C濃度の単位は質量%である。
また、焼戻し後にシャルピー衝撃試験を実施して、シャルピー吸収エネルギー(衝撃値)を測定した。シャルピー衝撃試験は、シャルピー衝撃試験片のノッチの形状以外はJIS−Z2242に規定の方法に則って、試験温度25℃で実施した。
さらに、各試料の衝撃値を比較例26の衝撃値で除すことにより、各試料の衝撃値比を算出した。なお、比較例26の鋼は、上述した基準鋼である。
加えて、各試料の耐摩耗性を評価するために、各試料に摩耗試験を行って摩耗深さを測定した。上述の方法で作成した焼準後の50mm×50mmの角棒から、その中心軸に沿って、直径26mmおよび長さ28mmの円筒部と、この円筒部と同一の中心軸を持つ直径24mmおよび長さ51mmの円筒状のつかみ部とを有する形状の摩耗試験片を採取した。つかみ部は、円筒部の長さ方向の両端に配置されている。さらに、この摩耗試験片に、前述のシャルピー衝撃試験片と同じ条件で浸炭処理を施した。摩耗深さとは、ローラーを摩耗試験片の円筒部に押し付けて、このローラーを100万回回転させた後に摩耗試験片に生じた摩耗の深さである。摩耗試験条件は以下の通りとした。摩耗深さが30μm未満である試料は、十分な耐摩耗性を有していると判断された。
ローラーの材質:軸受用鋼(SUJ2)
ローラーの硬さ:HV700〜800
ローラー直径:130mm
ローラー幅:18mm
ローラー形状:外周にR=150mmのクラウニングを形成
ローラー接触力:ヘルツ応力1500MPa(面圧)
滑り率:−100%
【0061】
表2に、各試料の表面C濃度、衝撃値比、および摩耗深さを示す。比較例26は、歯車用鋼として一般に用いられるJIS−G 4053に規定されたSCr420に相当する化学組成を有し、21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]が6.3であり、基準浸炭条件下でガス浸炭を行った場合、衝撃値は10J/cm
2となった。発明例1〜25の衝撃値比は、いずれも1.3以上であり、優れた耐衝撃強度を有していることが明らかであった。例えば発明例1は、21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]が41.1であり、表面C濃度が0.46%であるので、良好な衝撃値が得られた。
【0062】
これに対し、比較例26〜35は、好ましい特性を有しなかった。
比較例26、および28は、Snを含有していないので、浸炭が過度に行われ、実施例と比較して低い衝撃値しか有しなかった。また、比較例31はSn含有量が本発明の規定範囲を下回っていたので、比較例26、および28と同様に、浸炭が過度に行われ、実施例と比較して低い衝撃値しか有しなかった。
比較例27に関しては、各合金元素の含有量は本発明の規定範囲内であるが、21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]が本発明の規定範囲を上回っていた。これにより、比較例27の耐摩耗性は低かった。
比較例30に関しては、各合金元素の含有量は本発明の規定範囲内であるが、21×[Si%]+5×[Ni%]+40×[Sn%]+32×[Al%]が本発明の規定範囲を下回っていたので、浸炭が過度に行われた。これにより、比較例30は、実施例と比較して低い衝撃値しか有しなかった。
比較例32に関しては、Sn含有量が本発明の規定範囲を上回っていたので、熱間延性が低下した。これにより、比較例32では、得られた浸炭材の表面に割れが多発した。
比較例33に関しては、Ni含有量が本発明の規定範囲を上回っていたので、強度が低下した。これにより、比較例33の耐摩耗性は低かった。
比較例34に関しては、Al含有量が本発明の規定範囲を上回っていたので、脆化が生じた。これにより、比較例34の衝撃値比は低かった。
【0063】
参考例29は、比較例26と同じ鋼であるが、浸炭条件が異なり、カーボンポテンシャル(0.6の浸炭処理)を低く設定しているため表面C濃度が低く、良好な衝撃値が得られていることがわかる。しかし実際の生産においてカーボンポテンシャルを低く設定することは生産性の低下につながるため、不適である。
【0064】
【表1-1】
【0065】
【表1-2】
【0066】
【表2】