【実施例】
【0027】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0028】
本実施例は、被加工物1たる絶縁性ジルコニアの放電加工方法であって、この放電加工に用いる工具電極2は、前記被加工物1との対置面に複数のスリット3が設けられ、また、この放電加工中に前記工具電極2を揺動させると共に、前記被加工物1の被加工面5に対して平行に移動させることで前記被加工物1たる絶縁性ジルコニアの加工表面の性状を良好にすることを特徴とする絶縁性ジルコニアの放電加工方法である。
【0029】
本実施例は、放電加工装置(図示せず)に、
図1に示す板状の工具電極2を装着し、被加工物1たる絶縁性ジルコニアを補助電極法によって放電加工する方法であり、工具電極2を被加工物1の被加工面5に設けた補助電極に対置させ、この被加工面5に沿って平行に移動させて放電加工を行うことで、工具電極2の対置面の面積より大きい大面積を加工している。
【0030】
この放電加工に用いる工具電極2は、被加工物1との対置面に複数のスリット3が同一ピッチで設けられており、この複数のスリットの夫々は、スリット幅が0.01mm〜1.0mm且つ工具電極2の移動方向に対して0°〜75°の角度であり、対置面を直線状に横断するよう設けられた細長い溝である。
【0031】
具体的には、本実施例のスリットは、スリット幅が0.2 mmであり、工具電極2の移動方向に対する角度が30°の直線状のスリットであり、工具電極2の対置面に等間隔に設けられている。
【0032】
また、本実施例の方法は、この工具電極2を放電加工装置に取り付けて揺動させながら移動させる方法であり、この揺動は被加工物1の被加工面5に対して平行方向への揺動である。
【0033】
本実施例は、この方法及びこの工具電極2を用いて絶縁性ジルコニアの被加工部を放電加工することによって、100mm
2以上の面積に対しても表面粗さを低下させることなく、被加工表面を均一な状態の梨地面を形成している。
【0034】
また、本実施例では、絶縁材料に対する放電加工を行うため補助電極法を採用しており、被加工物1の表面に導電性材料を設けており、この導電性材料は金属、炭素、炭化物若しくは導電性高分子などであり、この導電性材料を薄板、網目材に形成したり、薄膜を蒸着している。
【0035】
即ち、本実施例は、予め、絶縁性材料である被加工物1の表面に導電性材料を設けて補助電極を形成し、この補助電極に加工用の工具電極2を対置させた状態で加工油中に浸漬し、この補助電極と工具電極2との間に電圧を印加して放電させることで被加工物1を放電加工している。
【0036】
以上の構成の工具電極2を用いて、被加工物1としての絶縁性ジルコニアに放電加工を行い、被加工物1の被加工面が適正な表面粗さとなることを目標として、工具電極2の走査、スリット形成及び揺動の効果を確認する実験1及び実験2を行った。
【0037】
1 実験1
1-1 目的
単軸加工を行った際の加工面積の増加に伴う表面加工粗さの変化を調べた。
【0038】
1-2 実験方法
絶縁性ジルコニアに対して補助電極法を用い、従来と同様のZ軸方向に加工する
放電加工を行って表面粗さを評価した。工具電極の対置面の面積及び被加工部の面
積は、100〜1600mm
2とした。
【0039】
1-3 実験結果
結果を
図2に示す。
【0040】
1-4 結論
加工面積が増加するにつれて、被加工面の加工粗さも大きくなって悪化した。特
に、加工面積1600mm
2に対しては、表面加工粗さRaが8.9μmと非常に粗い加工面に
なった。
【0041】
2 実験2
2-1 目的
工具電極の被加工物との対置面にスリット及び揺動を付与して移動させる加工(
本実施例)による被加工面の表面粗さの改善効果を確認する。
【0042】
2-2 実験方法
絶縁性ジルコニアに対して、補助電極法を用い、実験1で表面粗さが最大になっ
た加工面積1600mm
2の加工を、(a)従来と同じ単軸加工、(b)無スリット工具
電極による移動加工、(c)スリット付き工具電極による揺動且つ移動加工、の三
種類の方法によって行った。
【0043】
また、本実験の上記(c)の場合、スリット3は、スリット幅0.2mm、スリット
の深さ20mm、スリット本数27本、工具電極の移動方向に対する角度は30°である
。
【0044】
2-3 実験結果
上記の(a)〜(c)による放電加工による夫々の被加工面の表面粗さを
図3に
示す。本実施例の(c)によるスリット付き工具電極による揺動移動加工では、従
来の(a)の単軸加工に比べ表面粗さを約半減できた。
【0045】
2-4 結論
板状の工具電極に複数のスリットを設けて、揺動させながら移動加工する本実施
例の有効性を確認した。
【0046】
以上の実験では、本実施例の有効性を加工面積が1600mm
2まで確認できた。なお、この工具電極2の板厚を変えずに、板幅と移動距離を長くすることで、加工屑などの排出性を維持したまま加工面積を増加することが可能である。
【0047】
また、本実験では、工具電極に、スリット幅0.2mm、スリット深さ20mmのスリット27本を、工具電極の移動方向に対して30°傾けた角度に設けたが、スリット本数は工具電極の板幅に応じて適宜に設定することができ、また、スリットの深さも電極消耗率に応じて適宜に設定すればよいものである。
【0048】
従って、より広い面積に対しても表面粗さを低下させることなく、被加工表面を均一な状態の梨地面を形成することが可能となる。
【0049】
本実施例は、上述のようにしたから、この板状の工具電極2を被加工物1の被加工面5に対して平行に移動させながら放電加工すると、加工屑や炭化物等がこの工具電極2と被加工物1の被加工面5との間から排出し易くなって、被加工面5の表面粗さを低減できることになり、更に、この工具電極2の対置面に設けたスリット3から加工屑などが排出されるため一層表面粗さを低減できることになり、更に、本実施例は、この工具電極2の移動時に揺動させるため、スリット3による筋状の加工跡が除去されるとともに加工屑などを除去する効果もあるため均質な加工面になる。
【0050】
以上、本実施例は、被加工物との対置面に複数のスリットが設けられた工具電極を揺動させながら移動させることで、このスリットから放電加工によって生じた加工屑などの排出が促進され、よって表面粗さが低減し且つ均質な加工表面に加工できることになる。