(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
1.電極用バインダー組成物
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、(A)α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位5〜40質量部と、(B)下記一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位1〜10質量部と、を含有する重合体粒子を含み、前記重合体粒子の数平均粒子径が50〜350nmであることを特徴とする。
【化2】
(式中、R
1は一価の炭化水素基、R
2は二価の炭化水素基である。)
【0018】
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、活物質のバインダーとして使用されるものであり、具体的には正極活物質の粒子同士および正極活物質と集電体金属箔とのバインダー、もしくは負極活物質の粒子同士および負極活物質と集電体金属箔とのバインダーとして作用するものである。その際、前記重合体粒子は、正極活物質もしくは負極活物質100質量部に対して固形分で0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部の割合で含有することにより電極用スラリーとして調製することができる。前記重合体粒子の含有量が0.1質量部未満では結着性が低下することがあり、10質量部を超えると電池として組み立てた際の電池諸特性に悪影響を及ぼす傾向がある。以下、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0019】
1.1.重合体粒子
本実施の形態に係る電極用バインダーに含まれる重合体粒子は、(A)α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位(以下、「(A)構成単位」ともいう)と、(B)上記一般式(1)で示される化合物に由来する構成単位(以下、「(B)構成単位」ともいう)と、を含有するものである。なお、本発明において「構成単位」とは、単量体が重合することにより重合体となり該単量体が繰り返し単位を構成するが、この繰り返し単位のことをいう。
【0020】
1.1.1.(A)構成単位
(A)構成単位を含有することにより、重合体粒子は電解液により適度に膨潤することができる。すなわち、重合体鎖からなる網目構造に溶媒が侵入し、網目間隔が広がるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。その結果、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられる。これにより、電極抵抗を低減させることができるので、電極の良好な充放電特性が実現される。
【0021】
(A)構成単位を構成するために用いられるα,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。中でも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。なお、これら(A)構成単位は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(A)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に5〜40質量部であり、7〜35質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましい。(A)構成単位の含有割合が前記範囲にあると、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与することができる。
【0023】
1.1.2.(B)構成単位
重合体粒子が(B)構成単位を含有することにより、本願発明の電極用バインダー組成物と活物質とを混合した際に、活物質を凝集させることなく、活物質が良好に分散した混合物(スラリー)を作製することができる。これにより、混合物を塗布して作製された電極が均一に近い分布となる。その結果、結着欠陥が少ない電極を作製することができる。すなわち、重合体粒子の結着性が向上すると考えられる。
【0024】
また、(A)構成単位を含有し、かつ(B)構成単位を含有しない重合体粒子を含む電極用バインダーを用いた場合、該重合体粒子の電解液に対する膨潤度が大きくなり電極抵抗が低下する反面、活物質同士および活物質層と集電体との界面の密着性が低下し、電極構造を十分に保持できず充放電特性が劣化する可能性がある。しかしながら、本願発明のように(A)構成単位と(B)構成単位とを含有する重合体粒子を含む電極用バインダーを用いることで、それらの相乗効果により該重合体粒子の電解液に対する膨潤度が大きくなり電極抵抗が低下すると共に、活物質を十分に保持することが可能となる。
【0025】
(B)構成単位は、下記一般式(1)で示される化合物に由来する。
【化3】
上記一般式(1)中、R
1は一価の炭化水素基であるが、炭素数が1〜6の置換もしくは非置換のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。また、R
2は二価の炭化水素基であるが、炭素数が1〜6の置換もしくは非置換のアルキレン基であることが好ましい。(B)構成単位を構成するために用いられる上記一般式(1)で示される化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。なお、これら(B)構成単位は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
また、上記一般式(1)で示される化合物と類似構造を有する化合物としてヒドロキシアルキルアクリレートがある。ところが後述する実施例でも示されるように、ヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構造単位を含む電極用バインダー組成物では、本願発明で得られるような高結着性を発現させることはできない。
【0027】
(B)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に1〜10質量部であり、2〜5質量部であることが好ましい。(B)構成単位の含有割合が前記範囲にあると、得られる重合体粒子の結着性を向上できる。(B)構成単位の含有割合が前記範囲未満であると、得られる重合体粒子の結着性が不充分となる場合がある。一方、(B)構成単位の含有割合が前記範囲を超えても、得られる重合体粒子の結着性が不充分となる場合がある。
【0028】
1.1.3.(C)共役ジエン化合物に由来する構成単位
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子は、(C)共役ジエン化合物に由来する構成単位(以下、「(C)構成単位」ともいう)をさらに含有するものであることが好ましい。
【0029】
(C)構成単位を含有することにより、重合体粒子が強い結着性を有することができる。すなわち、共役ジエン化合物に由来するゴム弾性が重合体粒子に付与されるため、電極の体積収縮や拡大等の変化に追従することが可能となる。これにより、結着性を向上させて、さらには長期に充放電特性を維持する耐久性を有するものと考えられる。
【0030】
(C)構成単位を構成するために用いられる共役ジエン化合物の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。なお、これら(C)構成単位は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(C)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に60質量部以下であることが好ましく、25〜55質量部であることがより好ましく、35〜50質量部であることが特に好ましい。(C)構成単位の含有割合が前記範囲にあると、結着性のさらなる向上が可能となる。
【0032】
1.1.4.(D)芳香族ビニル化合物に由来する構成単位
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子は、(D)芳香族ビニル化合物に由来する構成単位(以下、「(D)構成単位」ともいう)をさらに含有するものであることが好ましい。
【0033】
(D)構成単位を構成するために用いられる芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。なお、これら(D)構成単位は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(D)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に60質量部以下であることが好ましく、10〜55質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることが特に好ましい。(D)構成単位の含有割合が前記範囲にあると、重合体粒子が活物質として用いられるグラファイトに対して適度な結着性を有する。また、得られる活物質層は、柔軟性や集電体に対する結着性が良好なものとなる。
【0035】
1.1.5.(E)(メタ)アクリレート化合物に由来する構成単位
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子は、(B)構成単位以外の(E)(メタ)アクリレート化合物に由来する構成単位(以下、「(E)構成単位」ともいう)をさらに含有するものであることが好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸〜」というときは、「アクリル酸〜」と「メタクリル酸〜」のいずれをも意味する。また、「〜(メタ)アクリレート」というときは、「〜アクリレート」と「〜メタクリレート」のいずれをも意味する。
【0036】
(E)構成単位を構成するために用いられる(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましい。なお、これら(E)構成単位は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(E)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に40質量部以下であることが好ましく、5〜35質量部であることがより好ましく、10〜30質量部であることが特に好ましい。(E)構成単位の含有割合が前記範囲にあると、得られる重合体粒子は電解液との親和性が適度なものとなり、電気化学デバイス中で電極用バインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0038】
1.1.6.(F)不飽和カルボン酸に由来する構成単位
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子は、(F)不飽和カルボン酸に由来する構成単位(以下、「(F)構成単位」ともいう)をさらに含有するものであることが好ましい。
【0039】
重合体粒子が(F)構成単位を含有することにより、本願発明のバインダー組成物と活物質とを混合した際に、活物質を凝集させることなく、活物質が良好に分散した混合物(スラリー)を作製することができる。これにより、混合物を塗布して作製された電極が均一に近い分布となる。その結果、結着欠陥が少ない電極を作製することができる。すなわち、結着性が向上し耐粉落ち性が改善されると考えられる。
【0040】
(F)構成単位を構成するために用いられる不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のモノまたはジカルボン酸(無水物)を挙げることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が特に好ましい。これら(F)構成単位は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
(F)構成単位の含有割合は、全構成単位を100質量部とした場合に10質量部以下であることが好ましく、0.3〜8質量%であることがより好ましく、0.5〜6質量%であることが特に好ましい。(F)構成単位の含有割合が前記範囲であると、電極用スラリー調製時、重合体粒子の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0042】
1.1.7.その他の共重合単量体に由来する構成単位
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子は、上記構成単位以外に、これらと共重合可能な単量体化合物(以下、単に「その他の共重合単量体」ともいう)に由来する構成単位を含有することができる。
【0043】
その他の共重合単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物;モノアルキルエステル;モノアミド類;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミド等が挙げられる。なお、これら共重合単量体は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができ、また架橋性の共重合単量体を併用することもできる。
【0044】
1.1.8.重合体粒子の数平均粒子径
重合体粒子の数平均粒子径は、50〜350nmであり、70〜300nmであることが好ましい。重合体粒子の数平均粒子径が前記範囲にあると、電極を形成する際の乾燥工程において、結着性が向上する傾向がある。また、得られる電極は、活物質・重合体粒子・集電体の各相互間に十分な数の有効接着点が形成される傾向があるため好ましい。
【0045】
重合体粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を使用することにより求めることができる。このような粒度分布測定装置としては、たとえば、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)、ALV5000(ALV社製)などを挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。従って、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、電極用スラリー中に含まれる重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。なお、重合体粒子の数平均粒子径は、電極用スラリーを遠心分離して活物質粒子を沈降させた後、その上澄み液を上記の粒度分布測定装置によって測定する方法によっても測定することができる。
【0046】
1.2.重合体粒子の作製方法
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子の合成方法については特に限定されないが、二段階の乳化重合工程により容易に作製することができる。
【0047】
1.2.1.1段目の重合工程
1段目の乳化重合工程に用いられる(I)単量体成分には、例えば、α,β−不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、およびその他の共重合単量体等の非カルボン酸系単量体と、不飽和カルボン酸等のカルボン酸系単量体と、が含有される。(I)単量体成分に含まれる非カルボン酸系単量体の含有割合は、非カルボン酸系単量体とカルボン酸系単量体の合計100質量%中、80〜92質量%であることが好ましく、82〜92質量%であることがより好ましい。非カルボン酸系単量体の含有割合が80〜92質量%であると、電極用スラリー調製時、重合体粒子の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0048】
(I)単量体成分において、前記非カルボン酸系単量体中の(メタ)アクリレート化合物の含有割合は14〜30質量%であることが好ましい。(メタ)アクリレート化合物の含有割合が前記範囲にあると、電極用スラリー調製時、重合体粒子の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、得られる重合体粒子は電解液との親和性が適度なものとなり、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0049】
(I)単量体成分において、非カルボン酸系単量体中の共役ジエン化合物の含有割合は10〜60質量%であることが好ましく、芳香族ビニル化合物の割合は20〜50質量%であることが好ましい。また、カルボン酸系単量体中のイタコン酸の割合は、50〜85質量%であることが好ましい。
【0050】
1.2.2.2段目の重合工程
2段目の乳化重合工程に用いられる(II)単量体成分には、例えば、α,β−不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、およびその他の共重合単量体等の非カルボン酸系単量体と、不飽和カルボン酸等のカルボン酸系単量体と、が含有される。(II)単量体成分に含まれる非カルボン酸系単量体の含有割合は、非カルボン酸系単量体とカルボン酸系単量体の合計100質量%中、94〜99質量%であることが好ましく、96〜98質量%であることがより好ましい。非カルボン酸系単量体の含有割合が前記範囲にあると、電極用スラリー調製時、重合体粒子の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0051】
(II)単量体において、非カルボン酸系単量体中の(メタ)アクリレート化合物の含有割合は11.5質量%以下であることが好ましい。(メタ)アクリレート化合物の含有割合が11.5質量%以下であると、得られる重合体粒子は電解液との親和性が適度なものとなり、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0052】
また、重合体粒子構成単量体において、(I)単量体成分と(II)単量体成分との質量比((I)/(II)比)は、0.05〜0.5であることが好ましく、0.1〜0.4であることがより好ましい。(I)/(II)比が前記範囲にあると、電極用スラリー調製時、重合体粒子の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0053】
1.2.3.乳化重合
乳化重合工程は、水性媒体中において、乳化剤、重合開始剤、および分子量調節剤の存在下に行われる。以下、乳化重合工程で用いられる各材料について説明する。
【0054】
1.2.3.1.乳化剤
乳化剤の具体例としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤;パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。なお、乳化重合工程では、これらの乳化剤を一種単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0055】
1.2.3.2.重合開始剤
重合開始剤の具体例としては、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤;クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤が挙げられる。中でも、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。なお、乳化重合工程では、これらの重合開始剤を一種単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は特に制限されず、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤等の組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0056】
1.2.3.3.分子量調節剤
分子量調節剤の具体例としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。なお、乳化重合工程では、これらの分子量調節剤を一種単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0057】
1.2.4.乳化重合の条件
1段目の乳化重合工程は、重合温度が40〜80℃、重合時間が2〜4時間の条件で行うことが好ましい。1段目の乳化重合工程においては、重合転化率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。また、2段目の乳化重合工程は、重合温度が40〜80℃、重合時間が2〜6時間の条件で行うことが好ましい。
【0058】
乳化重合終了後は中和剤を添加することにより分散液のpHが6以上8以下となるように中和処理することが好ましい。使用する中和剤としては、特に限定されるものではないが、通常水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物やアンモニアが挙げられる。分散液のpHを6以上8以下の範囲に設定することで分散液の安定性がさらに良好となる。乳化重合工程における全固形分濃度を50質量%以下とすると分散安定性良く反応を進行させることができるが、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。また、中和処理を行った後に濃縮することにより粒子の安定性をさらに良好にさせながら高固形分化させることができる。
【0059】
1.3.その他の添加剤
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物には、必要に応じて水溶性増粘剤等の各種添加剤を添加してもよい。添加剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等の水溶性増粘剤;ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ等の分散剤;ノニオン性、アニオン性界面活性剤等のラテックスの安定化剤が挙げられる。
【0060】
2.電極用スラリー
本実施の形態に係る電極用スラリーは、活物質と、前記電極用バインダー組成物と、を含有するものである。
【0061】
2.1.活物質
活物質は、特に限定されるものではない。リチウムイオン二次電池電極に用いる場合には、負極活物質としてカーボンを用いることができる。カーボンの具体例としては、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース等の有機高分子化合物を焼成することにより得られる炭素材料;コークスやピッチを焼成することにより得られる炭素材料;人造グラファイト;天然グラファイト等が挙げられる。また、電気二重層キャパシタ電極に用いる場合には、活性炭、活性炭繊維、シリカ、アルミナ等を用いることができる。また、リチウムイオンキャパシタ電極に用いる場合には、黒鉛、難黒鉛化炭素、ハードカーボン、コークスなどの炭素材料や、ポリアセン系有機半導体(PAS)等を用いることができる。
【0062】
2.2.添加剤
本実施の形態に係る電極用スラリーには、増粘剤、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤、ラテックスの安定化剤としてのノニオン性またはアニオン性界面活性剤、消泡剤等の添加剤を添加することができる。
【0063】
2.3.電極用スラリーの調製
本実施の形態に係る電極用スラリーには、活物質100質量部に対して、前述の電極用バインダー組成物が、固形分換算で0.1〜10質量部含有されていることが好ましく、0.3〜4質量部含有されていることがより好ましい。電極用バインダー組成物の含有量が前記範囲にあると、電極用バインダー組成物が電解液に溶解し難くなり、過電圧の上昇による電池特性への悪影響を抑制できる。
【0064】
本実施の形態に係る電極用スラリーの調製において、電極用バインダー組成物と、活物質と、必要に応じて用いられる添加剤とを混合するには、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0065】
3.電極
本実施の形態に係る電極は、集電体と、前記集電体の表面上に前述の電極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。
【0066】
3.1.集電体
集電体の具体例としては、金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタル等が挙げられる。集電体を構成する材料の具体例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。集電体の厚みは、リチウムイオン二次電池用の電極を構成する場合には、5〜30μmであることが好ましく、8〜25μmであることがより好ましい。また、電気二重層キャパシタ用の電極を構成する場合には、集電体の厚みは5〜100μmであることが好ましく、10〜70μmであることがより好ましく、15〜30μmであることが特に好ましい。
【0067】
3.2.活物質層の形成
電極用スラリーを塗布する手段の具体例としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等が挙げられる。また、電極用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度が20〜250℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。また、処理時間は1〜120分間であることが好ましく、5〜60分間であることがより好ましい。
【0068】
プレス加工する手段の具体例としては、高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機等が挙げられる。プレス加工の条件は、用いる加工機に応じて適宜設定される。このようにして形成される活物質層は、厚みが40〜100μmであり、密度が1.3〜2.0g/cm
3である。このようにして得られる電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極として好適に用いることができる。
【0069】
4.電気化学デバイス
本実施の形態に係る電極を用いてリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスを作製することができる。たとえば、リチウムイオン二次電池を構成する場合には、リチウム化合物からなる電解質を溶媒中に溶解した電解液が用いられる。
【0070】
電解質の具体例としては、LiClO
4、LiBF
4、LiI、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N等が挙げられる。
【0071】
溶媒の具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシシラン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン等の窒素含有化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;2−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,8−ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。
【0072】
本実施の形態に係る電極を用いて電気二重層キャパシタを構成する場合には、上記の溶媒中に、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート等の電解質を溶解した電解液が用いられる。また、本実施の形態に係る電極を用いてリチウムイオンキャパシタを構成する場合には、上記のリチウムイオン二次電池を構成する場合と同様の電解液を用いることができる。
【0073】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0074】
5.1.リチウムイオン二次電池の作製
5.1.1.負極の作製
(1)作製方法
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、ダイセル化学工業株式会社製)1部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100部(固形分換算)、水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、後記「5.5.電極用バインダー組成物の調製」の項で調製された電極用バインダー組成物2部(固形分換算)を加え、さらに1時間攪拌しペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分を50%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。銅箔よりなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、活物質層の密度が1.8g/cm
3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、負極を得た。
【0075】
(2)結着性評価(ピール強度の測定)
作製した負極から、幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片の活物質層側の表面を、両面テープを用いてアルミ板に貼り付けた。一方、試験片の集電体の表面に、幅18mmテープ(ニチバン株式会社製、商品名「セロテープ(登録商標)」、JIS Z1522に規定)を貼り付けた。この幅18mmテープを90°方向に50mm/minの速度で剥離したときの強度(mN/2cm)を6回測定し、その平均値をピール強度(mN/2cm)として算出した。なお、ピール強度の値が大きいほど集電体と活物質層との密着強度が高く、集電体から活物質層が剥離し難いと評価することができるが、ピール強度の値が20mN/2cm以上である場合、良好と判断できる。
【0076】
5.1.2.正極の作製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0部(固形分換算)、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO
2(ハヤシ化成株式会社製)100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)36部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを投入し、固形分を65%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。アルミ箔よりなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、活物質層の密度が3.0g/cm
3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、二次電池正極を得た。
【0077】
5.1.3.リチウムイオン二次電池の組立
グローブボックス内で2極式単層ラミネートセルの内側に、アルミニウムからなるフィルム状の外装アルミシール上に、50mm×25mmに切り出した前記負極を載置した。次いで、この負極上に、54mm×27mmに切り出したポリプロピレン製の多孔膜からなるセパレータ(セルガード社製、商品名「セルガード#2400」、厚み25μm)を載置するとともに、空気が入らないように前記セル内に電解液を注入した。その後、48mm×23mmに切り出した前記正極を前記セパレータ上に載置した。そして、この正極上に、上記外装アルミシールと同様の外装アルミシールを載置した。このようにして、外装アルミシール、負極、セパレータ、正極、及び外装アルミシールからなる積層体を得た。その後、外装アルミシールを加温シーリング装置で2つの外装アルミシールの外周縁部を互いに接合させ封止した。そして、各層の間に空気が入らないように電解液を注入することにより2極式単層ラミネートセルからなる二次電池(電気化学デバイス)を作製した。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1の溶媒に、LiPF
6が1モル/リットルの濃度で溶解した溶液である。これらの操作は、グローブボックス内で行った。
【0078】
5.2.サイクル特性評価前の内部直流抵抗値(DC−IR)の評価
25℃に設定した恒温槽に、前記「5.1.3.リチウムイオン二次電池の組立」の項にて作製したセルを配置し、定電流(0.2C)にて50%DOD(3.8V)まで充電した。その後、定電流(0.5C)にて10秒間充電を行った際の電圧変化を読み取り、1分間休止した後、さらに定電流(0.5C)にて10秒間放電を行った際の電圧変化を読み取った。電流値を0.5Cから1.0C、2.0C、3.0C、5.0Cに変更した以外は同様の方法で充放電時の電圧を読み取った。印加した電流値(A)を横軸、電圧値(V)を縦軸としたグラフを作成し、充放電各時において、プロット点を結んだ直線の勾配値を算出した。その勾配値をそれぞれ充電時および放電時の内部直流抵抗値(DC−IR)とした。
【0079】
なお、測定条件において、「DOD」とは、充電容量に対する放電容量の割合を示す。たとえば、「50%DODまで充電する」とは、全容量を100%とした場合、50%の容量だけ充電することを示す。
【0080】
5.3.60℃サイクル特性の評価
前記「5.2.内部直流抵抗値(DC−IR)の評価」の評価後、60℃に設定した恒温槽に同じセルを配置し、定電流(2.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(2.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして100回充放電を繰り返し、100サイクル目の放電容量を算出した。このようにして測定した100サイクル目の放電容量を、1サイクル目の放電容量で割った値を100サイクル放電維持率(%)とした。100サイクル目の放電容量維持率が40%以上である場合、良好と判断できる。
【0081】
5.4.抵抗変化率の評価
前記「5.3.60℃サイクル特性の評価」の評価後に、「5.2.サイクル特性評価前の内部直流抵抗値(DC−IR)の評価」に記載の方法と同様な手法でサイクル特性評価後の放電時の内部直流抵抗値(DC−IR)を測定した。
サイクル特性評価前の内部直流抵抗値(DC−IR)に対する、本項で測定したサイクル特性評価後の内部直流抵抗値の割合を抵抗変化率と定義し、この数値が低いものほど、抵抗劣化が小さいと判断することができる。なお、抵抗変化率が10以下である場合、良好と判断できる。
【0082】
5.5.電極用バインダー組成物の調製
5.5.1.実施例1
攪拌機を備えた温度調節可能なオートクレーブ中に、水200部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、過硫酸カリウム1.0部、重亜硫酸ナトリウム0.5部、α−メチルスチレンダイマー0.2部、ドデシルメルカプタン0.2部、および表1に示した1段目重合成分を一括して仕込み、70℃に昇温し2時間重合反応させた。重合添加率が80%以上であることを確認した後、反応温度を70℃に維持したまま、表1に示す2段目重合成分を6時間かけて添加した。2段目重合成分添加開始から3時間経過した時点で、α−メチルスチレンダイマー1.0部およびドデシルメルカプタン0.3部を添加した。2段目重合成分添加終了後、温度を80℃に昇温し、さらに2時間反応させた。重合反応終了後、ラテックスのpHを7.5に調節し、トリポリリン酸ナトリウム5部(固形分換算)を添加した。その後、残留モノマーを水蒸気蒸留で処理し、減圧下で固形分50%まで濃縮することで、電極用バインダー組成物を得た。
【0083】
得られた電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子の数平均粒子径を、動的光散乱法を測定原理とする測定装置により測定したところ、90nmであった。この測定装置には、22mWのHe−Neレーザー(λ=632.8nm)を光源とする光散乱測定装置(ALV社製、商品名「ALV5000」)を使用した。
【0084】
得られた電極用バインダー組成物のpHを、pHメーター(東亜ティーディーケー株式会社製、「HM−7J」)を用いて測定したところ、7.2であった。
【0085】
得られた電極用バインダー組成物を使用して、前述のリチウムイオン二次電池負極の作製方法で各電極を作製し、それぞれの各種物性値を測定した。リチウムイオン二次電池負極のピール強度は32mN/2cm、サイクル特性は52%、抵抗変化率は8であった。
【0086】
5.5.2.実施例2〜16、比較例1〜8
表1〜表3に示す組成とした以外は実施例1と同様にして電極用バインダー組成物を得た。得られた電極用バインダー組成物を使用して、数平均粒子径およびpHを測定し、また前述のリチウムイオン二次電池負極を作製して各種物性値を測定した。さらに、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を組立て、サイクル特性および抵抗変化率の測定を行った。測定結果を表1〜表3に併せて示す。
【0090】
表1〜表3に示すように、実施例1〜16の電極用バインダー組成物は、比較例1〜8の電極用組成物と比較して、リチウムイオン二次電池での集電体と電極層との結着性、サイクル特性、および抵抗変化率の諸特性において優れているという結果であった。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。